少し前から #1日1文庫 のハッシュタグで読んだ本の中から1日1作品紹介するようにしていますが、このまま流して終わりなのもあれなので、ここから10日ごとにまとめていこうと思います。Twitterの紹介は140文字に収まるようあっさりめですが、こちらはもう少し長めの紹介です。
【#1日1文庫81日目】
日本酒BAR「四季」春夏冬中(メディアワークス文庫)
日本酒BAR「四季」春夏冬中 さくら薫る折々の酒
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つるみ 犬丸 KADOKAWA 2016年04月23日頃
新潟の酒蔵で親と衝突し、東京に出てきたものの行き倒れになりかけていた冴蔵が、恵比寿の片隅で「四季-Shiki-」を営む楓さんに救われ二人で日本酒BARを再開する物語。その出会いは日本酒に詳しい夫が亡くなってから実質的に料理屋状態だった楓にとっても、衝突し家を出てきた冴蔵にとっても転機で、二人が力を合わせて訪れる人達ときちんと向き合って信頼関係を育んでいったことで、それぞれが抱えていたものを乗り越える支えとなる展開はとても良かったですね。スッキリとまとまった結末でしたが、続編あるならまた読んでみたいですね。2巻まで刊行。
【#1日1文庫82日目】
血と霧(ハヤカワ文庫JA)
血の価値を決める階級制度に支配された巻き貝状の都市国家ライコス。その最下層にある唯一の酒場『霧笛』で探索業を営むロイスのもとに、少年ルークの捜索依頼が持ち込まれる物語。いかにもいわくありげなルークの素性と依頼者たち。自身も複雑な過去を抱え、何だかんだ言いながらもルークのために奔走するロイス。下層特有のハードボイルドっぽい雰囲気ながらロイスを取り巻く人間関係はわりとウエットで、明らかになってゆく複雑な背後関係が面倒と分かっていても関わってゆくロイスの不器用さがとても好みでした。2巻まで刊行。
【#1日1文庫83日目】
繰り巫女あやかし夜噺(マイナビ出版ファン文庫)
繰り巫女あやかし夜噺〜お憑かれさんです、ごくろうさま〜
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日向夏/六七質 マイナビ出版 2016年11月22日頃
古都にある玉繭神社の分社で布を織りつつ、大学の非常勤講師として機織りを教える絹子。そんな彼女が教え子たちとの交流から事件に巻き込まれゆく謎解き噺。田舎の辺鄙な村から出てきて社務所を管理する大家や美味しい料理を作ってくれるクロやシロと住んでいる、特殊体質でやたらと食いしん坊な絹子。彼女の周囲で連鎖的に発生するホラーめいた事件や、徐々に明らかになってゆく田舎での彼女の過去には強いインパクトがあって、複雑な因縁を背景に抱えている大家と絹子の関係も今後が気になるところですね。2巻まで刊行。
【#1日1文庫84日目】
要・調査事項です!(集英社オレンジ文庫)
要・調査事項です! ななほし銀行監査部コトリ班の困惑
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きりしま 志帆/鉄雄 集英社 2018年10月19日頃
顧客をクレーマー化させてしまったことを気に病み、辞職を考えていた入行一年目の小林髙。そんな彼が二年目の年度初めに支店から本部の監査部の個人取引担当―通称コトリ班へ異動するお仕事小説。外貨の偽札や通帳のトラブルといった要調査案件に、上司の矢岳に見守られつつ、きれいだが愛想のない多岐川千咲とコンビを組んで調査する構図で、関係なさそうだった事件が繋がっていって、高の着目や人間関係が事件解決のヒントになったり、少しずつ距離感も変わってきた多岐川千咲とのコンビがこれから面白くなりそうですね。2巻まで刊行。
【#1日1文庫85日目】
消えない夏に僕らはいる(新潮文庫nex)
5年前に田舎町を訪れた都会の小学5年生4人と肝試しをしたことをきっかけに、人生が変わってしまった響。そんな彼女が高校で事件にそれぞれ思いを抱える4人と再会することで再び動き出す物語。一度つまづくとなかなか取り戻せない狭い世界で、独善的な主張や過去の暴露から急速にクラスの雰因気が悪化していくのに、担任が適当に対処しようとする状況はかなりもやもやしましたが、諦めかけていた響が4人と向き合い、その助力も得て前に目を向けられるようになって良かったです。彼女らの今後に期待したくなるような、そんな読後感の物語でした。2巻まで刊行。
【#1日1文庫86日目】
真実は間取り図の中に (角川文庫)
真実は間取り図の中に 半間建築社の欠陥ファイル
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皆藤 黒助 KADOKAWA 2018年09月22日頃
亡き父と同じ大工になった環奈がようやく就職した半間建築社。けれど建物に関する謎ばかりが持ち込まれ、建築士の半間とともに建物にまつわる謎を解き明かす建築ミステリ。謎の増改築を繰り返す老婦人、巨人の幽霊が出る旅館、古い公衆トイレを彼氏と言い張る女子高生、恩師の新居に込められた想いなど、欠陥案件というより建物絡みの謎といった印象で、最後で明らかになってゆく環奈父の過去と建築社設立の経緯を知って怠惰なだけに見えていた半間の印象は少し変わったものの、普段のぐうたら生活自体はこれからもあまり変わらなそうですね(苦笑)
【#1日1文庫87日目】
国土交通省国土政策局幽冥推進課(集英社文庫)
お迎えに上がりました。 国土交通省国土政策局幽冥推進課
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竹林 七草 集英社 2017年08月22日頃
入社式当日に会社が倒産し路頭に迷った朝霧夕霞。失意の中で公園の掲示板にあった国交省臨時職員募集の貼紙を見つけ、特殊能力を買われて採用されるあやかしお仕事小説。夕霞が不可思議な採用試験を乗り越え採用された、国土開発の妨げになる地縛霊などを立ち退かせるのが仕事で実質的に「人」が夕霞しかいない謎の部署「幽冥推進課」。自殺したアイドルや事故死で家に帰れなくなった会社員、百五十年も橋を守り続けてきた少女など、真っ向から向き合い体当たりでその心残りを解消してゆく夕霞の奮闘ぶりはなかなか良かったです。5巻まで刊行。
【#1日1文庫88日目】
螺旋時空のラビリンス(集英社オレンジ文庫)
時間遡行機が開発された近未来。過去の美術品を盗み出す泥棒のルフが、至宝とともに19世紀のパリに逃亡した幼馴染のフォースを連れ戻すために過去へ跳ぶ物語。取り戻すまでは簡単に未来に戻れないと知ったルフがループを繰り返す覚悟を決めて試行錯誤していくうちに、不治の病に侵されながらも気丈に振舞う彼女と献身的に向き合うようになっていく姿が印象的でした。彼女が秘めていた想い、そして膨大な時間を乗り越えた二人だからこそ、あのラストシーンを迎えられて良かったです。
【#1日1文庫89日目】
桜のような僕の恋人(集英社文庫)
恋した美容師の美咲の叱咤激励もあって、諦めかけていたカメラマンになる夢を再び追いかけるようになった晴人。ようやく幸せを見出しかけた状況で美咲が人の何十倍もの早さで年老いる難病を発症してしまう物語。これからというところでの悲劇に、これは女性には残酷だな...と思いながら読んでいましたが、彼を思うがゆえの決別があまりにも切なくて、そんな彼女に変わらないものを教えてくれた彼の写真に込めた想いがあって、会いたいけど彼に姿は見せられない彼女の複雑な心境を象徴するかのような結末には、胸が締め付けられる思いがしました。
【#1日1文庫90日目】
天使は奇跡を希う(文春文庫)
今治の高校に通う良史のクラスに転校してきた本物の天使・優花。彼女の正体を知った良史が再び天国に帰れるよう協力することになり、幼馴染の成美と健吾も加わって絆を深めていく物語。一緒に行動してゆく過程で天使に良史が惹かれてゆくお話なのかと思いながら読んでいましたが、中盤で物語が反転したことで明らかになっていく一つの嘘と、知られざる悲壮な決意が秘められたもう一つのストーリー。再び辿ってゆく行動の一つ一つが持っていた意味に切なくなりましたが、それを最後の最後で悲劇で終わらせなかった仲間の絆には救われる思いでした。