今回は22年1月から3月にかけて刊行された文庫の新作で、個人的にこれはおすすめしたいと思った20作品を紹介します。気になる作品があったらぜひ読んでみて下さい。
同ライトノベル新作おすすめはこちら↓
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1.流浪の月 (創元文芸文庫)
凪良 ゆう 東京創元社 2022年02月26日頃
奔放に育ててくれた両親を失い、引き取られた伯母の家で追い詰められてゆく更紗。そんな行き場のなかった彼女を受け入れた文が抱えていた苦悩。真実を知られることがないまま否定された二人の関係。確かに難しいテーマで、どんなに真摯な想いがあろうと世間一般の常識では容認し難いものがあるのは分からなくもないですが、けれど辛い過去からうまく生きられない不器用な登場人物たちがいて、たくさん傷つきながらも育んできた揺るぎない真っすぐな想いがあって、せめてただともにありたいというささやかな願いくらいは叶う未来であって欲しいです。
2.電気じかけのクジラは歌う (講談社文庫)
電気じかけのクジラは歌う
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逸木 裕 講談社 2022年01月14日
人工知能が作曲をするアプリ「Jing」が普及し、作曲家の仕事が激減した近未来。「Jing」専属検査員になった元作曲家・岡部の元に、自殺した現役作曲家で親友の名塚から未完の新曲と指紋が送られてくる近未来ミステリ。名塚から託されたものの意味と、事故で右手が不自由になった名塚の従妹・梨紗の苦悩、そして「Jing」を作り出した霜野の野望。「Jing」で気軽に音楽を作れてしまう中、あえて自分の手で音楽を作り出す意味に葛藤しながらも、秘められた名塚の想いに気づいてゆく展開は著者さんらしさがよく出ていて面白かったです。
3.水無月家の許嫁 十六歳の誕生日、本家の当主が迎えに来ました。 (講談社タイガ)
水無月家の許嫁 十六歳の誕生日、本家の当主が迎えに来ました。
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友麻 碧 講談社 2022年03月15日
最愛の父が死の間際に残したひと言によって、生きる理由を見失った高校一年生の水無月六花。彼女の十六歳の誕生日、本家当主と名乗る青年・文也が現れ、許嫁の六花を迎えに来たと告げる物語。文也が語る父の実家で天女の末裔・水無月家を巡る事情。分家との複雑な関係はなかなか不穏ではありますけど、本家には文也の個性的で優しい弟妹もいて、ようやく自分の居場所を得られたと感じられた六花と、クールに見えてわりと抜けているところもあっても、彼女をしっかり守る文也の血の因縁を超えた恋の始まりに期待せずにはいられない新シリーズですね。
4.恋になるまで、あと1センチ (宝島社文庫)
恋になるまで、あと1センチ
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六つ花 えいこ 宝島社 2022年03月04日
階段から天使のように落ちてきた篠先輩を助けた高校1年生の楢崎颯太。それからなぜか颯太は篠先輩に懐かれるようになり、彼女に振り回されながら心惹かれていく青春小説。助けてもらったことをきっかけに、ぐいぐいアプローチしてくる篠先輩。いつの間にか心の距離が近づき、互いが想い合うようになってゆく二人の関係が丁寧に描かれていて、さりげなく外堀を埋めてゆく抜け目なさはあるのに、どこか危なっかしい篠先輩がとても可愛くて、そんな彼女が気になって放っておけない颯太とのもどかしくてとても甘い関係にはぐっと来るものがありました。
5.ムゲンのi (双葉文庫)
知念実希人 双葉社 2022年02月09日頃
眠りから醒めない謎の病気・イレスという難病の患者を3人も同時に抱える女医・識名愛衣。霊能力者である祖母の助言により、患者を目醒めさせるために魂の救済〈マブイグミ〉に挑むミステリ。父と一緒に乗った飛行機で視力を失いパイロットの夢を絶たれた娘、無実と信じて無罪を勝ち取った被告が殺人を犯した現実を突き付けられた弁護士を夢幻の中で救ってゆく展開で、珍しいファンタジーっぽい要素がある展開でしたけど、解決するたびに新たな謎が増えてゆく中でこの物語をどうまとめあげるのか、現実世界とのリンクも気になるところではあります。
知念実希人 双葉社 2022年02月09日頃
次々とマブイグミを成功させた識名愛衣。次第に患者のトラウマが都内西部で頻発する猟奇殺人と関係があり、しかも23年前の少年Xによる通り魔殺人とも繋がっていたことに気付き難事件の真相究明に立ち向かう下巻。イレスの繋がりが見えてきた中で救急搬送されてきた虐待された形跡のある少年、そして愛衣自身が記憶から消していた現実。繋がってゆく様々な出来事や事実の中で、ようやく置かれた現状を理解した愛衣も辛かったとは思いますが、そんな過去を乗り越えて大切な人たちの温かい想いに見守られていたことを知る結末がとても印象的でした。
6.卒業タイムリミット (双葉文庫)
辻堂ゆめ 双葉社 2022年03月10日頃
欅台高校の女教師・水口理紗子が突如監禁され、犯人が72時間後に始末するとネット動画で予告。卒業間近の3年生・黒川のもとに犯人から挑戦状が届き、同じ挑戦状が届いた同級生たち三人と事件解決に挑むタイムリミットミステリ。監禁された水口の人間関係を探るうちに浮上する三人の教師たち。挿入される生徒たちの意味深な告白や散りばめられた伏線が意外なところで繋がっていて、思っていた以上に根が深いと感じた事件の真相はやや意外でしたが、最後の三日間の挑戦を乗り越え一回り成長した彼らが迎えた卒業式にはぐっと来るものがありました。
7.穢れの森の魔女 赤の王女の初恋 (集英社オレンジ文庫)
穢れの森の魔女 赤の王女の初恋
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山本 瑤/佐々米 集英社 2022年02月18日
レイトリン王国の王女として生まれながら、理由あって森で育てられた赤毛の少女・ミア。16歳の誕生日を目前に母である「氷の女王」カイラに呼び出され運命が動き出すファンタジー。自らが助けた幼馴染の少年キリアンとともに、王城とは縁のない自然児のような生活をしていたミアを待ち受ける残酷な運命と、隣国の王子・エドワードとの初めての恋。誕生日に祝福と呪いを贈られたミアが過酷で数奇な運命に振り回され、激しい試練に灼かれながらそれでも諦めない激動の展開でしたけど、ここからどういう運命が待ち受けるのか期待の新シリーズですね。
8.聖女失格 (集英社オレンジ文庫)
永瀬 さらさ/神澤 葉 集英社 2022年02月18日
百年に一度、滅びの未来を回避するために行われる皇帝選。初代聖女の末裔ながら何の能力も持たず、家族や領民にも虐げられるシルヴィアが、密かに家を飛び出して謎めいたルルカと運命の出会いを果たすファンタジー。ルルカとその従魔スレヴィに鍛えられ自分の力を見出してゆくシルヴィア。シリアスベースなのにどこかコミカルで、ルルカと誓約して参加した皇帝選で出会うロゼやマリアンヌもいい感じに効いていて、何より再会した実妹の天才聖女プリメラと元婚約者のジャスワント皇子もなかなかあれでしたが、皇帝選やルルカとの関係も楽しみですね。
9.竜の国の魔導書 (集英社オレンジ文庫)
森 りん/庄屋 集英社 2022年02月18日
突然婚約者に裏切られて家にも帰れず、人目を忍んで王立図書館でひっそりと働いていた名門貴族の娘エリカ。ある日図書館で本を探すミルチャと出会い、いわくつきの古い本に呪われてしまうファンタジー。彼が探す魔導書「オルネア手稿」絡みの「竜化の呪い」にかかってしまったエリカ。意外にたくましい行動派の彼女が、呪いを解くためにミルチャと共にオルネア手稿探しと犯人捜しをする展開で、因縁の元婚約者との再会や様々なことが繋がってゆく中で育まれるミルチャとの絆、そして二人で窮地を乗り越えてみせたその結末はなかなか良かったですね。
10.同潤会代官山アパートメント (新潮文庫)
同潤会代官山アパートメント
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三上 延 新潮社 2022年01月28日頃
関東大震災で最愛の妹を喪った八重は、妹の婚約者だった竹井と結婚。昭和と共に誕生してその終焉と共に解体された同潤会代官山アパートを舞台に繰り広げられてゆく家族の物語。最初は最新式の住居にも新しい夫にも上手く馴染めなかった八重と夫・竹井、娘・恵子とその夫・俊平、孫の浩太と進、浩太の娘・千夏と、世代を超えて綴られてゆく物語には、それぞれが積み重ねてきた年月があって、物語に登場する人たちも時代も確実に変わってゆく様子が描かれている一方で、それでも変わらない大切なものがあるんだなと改めて実感させてくれた物語でした。
11.放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密 (集英社文庫)
放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密
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友井 羊 集英社 2022年02月18日
猪突猛進でトラブルを起こしがちで、高二になって調理部へ転部した夏希。同じ時期に入部してきた内気なクラスメイトの結と周囲で起きる謎を解き明かす連作短編ミステリ。前作の先輩に憧れるあがり症の結と夏希を軸とした展開で、パンが上手く焼けなかった理由、さくらんぼが足りなかった理由、固まらなかった寒天、アップルパイを食べられなかった理由など、発達障害なども絡めた事件の真相はなかなかビターではありましたけど、原因を究明する中でお互いに助け合って、秘密を打ち明けるような信頼関係が育まれていく二人がなかなか良かったですね。
12.早朝始発の殺風景 (集英社文庫)
不器用な高校生たちの関係が小さな謎と会話を積み重ねることで少しずつ変わってゆく、ワンシチュエーション&リアルタイムで進行する五つの連作短編集。普段あまり話さない女子と始発電車で遭遇し互いに早起きの理由を探り始める二人、クラスTシャツのデザイン案で自分の出した選ばれなかった理由、部活の引退日に先輩と観覧車に乗り込んだ後輩の目的、捨て猫と兄妹喧嘩、卒業式を欠席したクラスメイトと、なかなか珍しい名字もあったりしましたけど、それらをまとめる最後の後日談が効いていて、ほろ苦く甘酸っぱい青春を感じられる群像劇でした。
13.金木犀とメテオラ (集英社文庫)
母を亡くした東京生まれの秀才・佳乃と、家族に問題を抱える美少女・叶の邂逅。北海道に新設されたばかりの中高一貫の女子校を舞台に、やりきれない思春期の焦燥や少女たちの成長を描く青春小説。2歳の頃から英才教育を受けてきたピアノも苛烈な受験勉強も奪われて北海道にやってきた宮田佳乃と、母親に振り回される人生から脱却しようとあがく奥沢叶。何かと比較されてライバル視するようになってゆく二人が、残酷な現実を突きつけられて焦燥を募らせてゆく中、ライバルの意外な素顔を知ったことで垣間見える希望にはぐっと来るものがありました。
14.永遠についての証明 (角川文庫)
岩井 圭也 KADOKAWA 2022年01月21日
特別推薦生として協和大学の数学科にやってきた瞭司と熊沢、そして佐那。眩いばかりの数学的才能で周囲の人生を変えていった瞭司の運命の出会いと失意、彼の遺した研究ノートから熊沢がその想いに再び向き合う物語。仲間と得た成果に希望を見出す瞭司と、突出した成果がそれぞれが別の道を選ぶきっかけとなってしまう皮肉。瞭司と仲間たちのすれ違いは残念でしたが、彼が遺した研究ノートに見出した可能性が、形は変わっても失われていなかったそれぞれの想いを再び繋げていって、それが新たな希望を紡いでゆく展開にはぐっと来るものがありました。
15.非接触の恋愛事情 (集英社文庫)
「コロナ禍で変わる新しい恋愛」をテーマに、気鋭の作家たちが想像の限りを尽くして描く新時代の7つの恋愛短編アンソロジー。いじめを受けてきた高校生の一変した世界や、休校中にチャットアプリ上に作られた仮想の教室からの広がり、変わらない幼馴染関係に対するお節介、コロナ渦で密かに進行してゆく家庭内DVや、進まない結婚式の準備、しずるさんの短編や幼馴染の非接触同棲など、この時代だからこそいかにもありそうだと思えるエピソードもあったりで、著者さんそれぞれの着眼点から書き起こされた短編はどれもなかなか興味深く読めました。
16.無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます (メディアワークス文庫)
無駄に幸せになるのをやめて、こたつでアイス食べます
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コイル KADOKAWA 2022年01月25日
仕事ばかりで生活も恋も後回しにしてきた映像プロデューサー莉恵子。旦那から一方的に離婚を切り出された専業主婦の芽依。二人が誓いを交わして同居生活を始める物語。一緒に住み始めた二人の現在地とショックを受けた出来事。莉恵子家の想像以上のカオスっぷりがヤバくて苦笑いでしたけど、芽依に支えられた莉恵子は長らく停滞していた関係を変える一歩を踏み出して、芽依もまた自分が進みたいと思う道を見出して、そのきっかけとなった二人の気のおけない距離感がとても素敵だと思いました。そんな彼女たちの物語をいつかまた読んでみたいですね。
17.彼女は二度、殺される (宝島社文庫)
彼女は二度、殺される
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秋尾 秋 宝島社 2022年02月18日頃
死者を一時的にゾンビにする能力をもつ傀々裡が存在する現代日本。その傀々裡を管理する福音協会から派遣された黒緒と白夜が、何者かに殺害された娘・真珠を蘇らせるべく周防家を訪ねるミステリ。周防家を尋ねると傀々裡が不可能なほどに損壊していた真珠の遺体。真珠殺害犯と死体損壊の犯人を探すことになった二人が遭遇する新たな殺人があって、事件の真相はなかなか凄惨な展開でしたけど、探偵役の黒緒と白夜のコンビの関係性もいい感じに効いていて、面白い作品だなと思いながら読んでいたら、最後の最後でものの見事に驚かされてしまいました。
18.密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック(宝島社文庫)
密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック
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鴨崎 暖炉 宝島社 2022年02月04日
判例により現場が密室である限りは無罪であることが担保され、密室殺人事件が激増した日本。そんななか著名なミステリー作家が遺したホテル「雪白館」で、密室殺人が次々と起きるミステリ。館に通じる唯一の橋が落とされ、孤立した状況で繰り返される凶行。現場はいずれも密室で死体の傍らに残された奇妙なトランプの意味。ライトな作風はやや好みが分かれそうですが、密室にこだわりを感じる事件が立て続けに起きながら、それが次々と解決されるテンポの良い展開は登場人物たちのキャラも立っていて、個人的にはなかなか読みやすく面白かったです。
19.王と后 (小学館文庫キャラブン!)
神話に由来する八つの家が支配する国「千和」。突然都を去った天羽家から王の后と巫女を兼ねた女子を迎えて祭祀に関わらせる慣例で、新王・一嶺鳴矢の后に天羽淡雪が選ばれる和風ファンタジー。関係が悪化して都に送り込まれる天羽の娘は人質同然に後宮で軟禁されることが多い中、覚悟を決めてやってきた淡雪に優しく、ちゃんとした夫婦になりたいという鳴矢。快く思わないもの様々なしがらみもありそうですけど、淡雪との秘めやかで温かい交流があって、危機に颯爽と現れて救う鳴矢もなかなかカッコよくて、これは今後に期待せずにはいられません。
20.神去り国秘抄 贄の花嫁と流浪の咎人 (富士見L文庫)
神去り国秘抄 贄の花嫁と流浪の咎人
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水守 糸子/凪 かすみ KADOKAWA 2022年02月15日頃
十年前に日輪が消えた国・照日原。日照不足で不作続きの郷を救うため、狐神の花嫁に選ばれた辺境の郷の姫・かさねが金目の青年・イチに助けられる和風ファンタジー。狐神の元に向かった先で差し出された花嫁の真相を知ってしまうかさね。助けてくれたイチが見返りとして要求した日輪を司る日神に会うためへの協力。イチにもまた訳ありの複雑な過去があって、かさねもまた自らに託された運命を知って、過酷な選択に直面しながらも逃げずにしっかり向き合い、新たな使命を見出した彼女たちがこれからどこに向かうのか今後が楽しみな新シリーズですね。