今週末は三連休の方もいらっしゃると思いますが、状況的に何というかどこかにお出かけという雰囲気でもなく、どうやって過ごすのか考えないといけない週末になりそうです。そこで突発的ではありますが連休中に特に読む本がない、という方のために1冊完結のおすすめミニ企画を作ろうと思いました。とりあえず今回は一般文庫・キャラ文芸あたりから10作品選んでいます。ライトノベルの方はまだ何もイメージないですが、とりあえず明日にでも作る方向で考えたいと思います。
1.禁じられたジュリエット (講談社文庫)
ミステリ小説が退廃文学として禁書扱いな世界観の日本で、それに触れてしまった女子高生6人が囚人として収監され、看守役2名を加えた8名で更正プログラムに参加させられる本格ミステリ。プログラムを早く切り上げられるよう協力するはずだった友人8人。役割に徹するうちに急速に対立を深めてゆく描写はあまりにも過酷で、二転三転してゆく展開には驚かされ、追い詰められた参加者たちの叫びは痛切で心に響くものがありましたが、終わってみるとなぜか清々しさすら感じてしまったその読後感に著者さんの深い本格ミステリ愛を見る思いがしました。
2.あの日、恋に落ちなかった君と結婚を (メゾン文庫)
結婚を考えていた恋人に振られ、将来に不安を抱く持田麻衣。地元に帰ることを決めた麻衣が偶然高校のときのクラスメイト今井優人に再会、「恋のない結婚」を現実的に考えはじめる物語。高校時代の30歳になってもお互い独身だったら結婚しようという今井との冗談めいた約束。かつてお互いの恋を協力する関係だった二人の共同生活はしっくり来る部分もイライラする部分もあったりで、そんな二人が一つ一つ乗り越えて迎えたラストにはじんわり来るものがあって、積み重ねていったエピソードが見事に繋がってゆくとても素敵な物語だったと思いました。
3.妻を殺してもバレない確率 (宝島社文庫)
未来に起こる確率を調べる技術が確立した世界。自らが抱える苦しい思いをどうにかしたくて、確率をつい確認し続けてしまう人たちの物語を描く連作短編集。政略結婚や大怪我、路面電車での出会い、届かぬ思いや父と娘の関係、忘れられない運命の出会いなど、停滞する状況を抱える登場人物たち。それでも人との関わりの積み重ねから事態や心境も少しずつ変化して、それに向き合ったり素直になったり次に向けた一歩を踏み出してゆく7つのエピソードは、表題作でもあるタイトルイメージをいい意味で裏切る思いのほか爽やかな読後感の素敵な物語でした。
4.咲見庵三姉妹の失恋 (新潮文庫)
父を亡くし、川越の和カフェを営む高咲三姉妹の家に居候することになった高校生・薫。不本意ながら三姉妹と暮らすことになった傷心な薫の変化と、姉妹たちの切ない恋愛模様、そして成長の物語。咲見庵を営む長女・花緒、ボーイッシュで夢見がちな次女・六花、そして二人とは母親の違う十六歳の三女・若葉。三姉妹それぞれの複雑で繊細な恋模様とその失恋は切なかったですが、それは彼女たちの停滞した状況からの前進でもあって、三姉妹とかけがえのない日々を過ごした薫もまた成長して新たな一歩を踏み出してゆく、とても優しくて温かい物語でした。
5.四月になれば彼女は (文春文庫)
恋人・弥生と1年後に結婚式をすることを決めた精神科医の藤代。そんな彼のもとに初めての恋人・ハルから手紙が届く、失った恋に翻弄される12ヶ月の物語。醒めた同棲生活を送る藤代の元に届いた、大学時代の恋人・ハルからの手紙。永遠に続くものだと信じていたかつての恋があったからこそ、つい今の穏やかな想いと対比して不安を生じさせてしまうわけですが、不器用な登場人物たちがそれぞれのやり方で、心残りだった苦い過去にしっかりと決着をつけて今の自らの想いに真摯に向き合い、葛藤を乗り越えようとする姿は心に響くものがありました。
6.きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間 (富士見L文庫)
きみに、にゃあと鳴いてやる。 わたしが猫になった67日間
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村田 天/丹地 陽子 KADOKAWA 2020年07月15日頃
ある日吉祥寺で金色の瞳の猫と出会い、一匹の猫となってしまった仕事に疲れたOL・舞原留里。そんな彼女が猫にだけ優しい偏屈な高校時代の元同級生・岸田頼朝と出会う物語。猫に好かれる特異体質を持つ岸田にお持ち帰られて、彼の家で一緒に過ごした67日間。共同生活で岸田の意外な一面がたくさん垣間見えて、共に過ごすうちに留里の中にも育まれてゆく想いがあって、改めて留里が人として対してみると岸田はほんとめんどいやつだなーと苦笑いでしたけど、それにめげずにしっかり向き合った留里と頼朝のお似合いな感じがとても素敵な物語でした。
7.少女手帖 (集英社オレンジ文庫)
周囲に迎合しグループ内で平穏に生きていくことに全力を傾けてきた女子高生の小野ひなた。ある日、憧れの同級生結城さんに誘われグループの約束をドタキャンしたことで周囲から孤立してしまう青春小説。これまで無難に生きることに心を砕いてきたはずが、偶然結城の秘密を知り興味を抱いたことで結果的に失った自分の居場所。息苦しい狭い世界でどう生きるのかというお話でしたけど、焦燥を募らせていた彼女が姉や師匠、結城さんなど、たくさんの人と話し合い悩みながらもこれまでの自分を省みて、大切なことを見出してゆく姿はとても印象的でした。
8.時給三〇〇円の死神 (双葉文庫)
同級生・花森雪希から突然「死神」のアルバイトに誘われた高校生の佐倉真司。成仏できずにこの世に残る「死者」の未練をはらす「死神」の仕事を通じて、自身の思いやありようもまた少しずつ変化してゆく物語。半信半疑のまま始めた死神のアルバイトで様々な死者に花森とともに向き合う日々。もっとできることはなかったのかたびたび後悔に直面する一方で、このアルバイトで共に過ごした時間があったからこそ気づけたことや乗り越えられたこともまたたくさんあって、著者さんらしい泣き笑いの切ない想いがたくさんつまった、とても素敵な物語でした。
9.雨あがりの印刷所 (メディアワークス文庫)
仕事で大きな失敗をして逃げるように故郷の岐阜に戻ってきた元印刷会社勤務の青年・光。就職活動をしながら兄の営む喫茶店で時間を潰す毎日だった彼が、印刷絡みの話に再び関わるようになってゆく物語。妻の誕生日にもう一度贈りたい自費出版の詩集、和菓子屋を救う伝統技法を使った手紙、世界に一冊だけの写真集。依頼された人の様々な思いを汲み、昔ながらの活版印刷などを使ったり、知人の印刷屋やデザイナーの力も借りて印刷物を作ってゆくうちに、少しずつ大切だった思いを取り戻し、見える世界もまた変わってゆく展開はなかなか良かったです。
10.銀行ガール 人口六千人の田舎町で、毎日営業やってます (メゾン文庫)
都会に行ってモデルになることを夢見ながら、地方銀行の営業として働く五十嵐吟子、24歳の奮闘が描かれるお仕事小説。渉外として顧客を訪れる吟子の元に次々と舞い込む厄介な相談。戦前から続く雨漏り食堂の修繕費用融資から、リサイクルショップ立ち退き交渉、振り込め詐欺犯逮捕、町おこしに離婚して生き別れた父の過去が絡んできたり、かつての想い人との久しぶりの再会もあって、困っている人たちのために周囲の助けも借りながらアイデアをひねり出し、奔走するうちに自分の目指すところを見出してゆく吟子の姿には心に響くものがありました。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。