今月はキャラ文芸でもなかなか面白い新作が刊行されていて、いい感じにストックも溜まってきたので、ここで最近読んだ本の中から再びキャラ文芸紹介企画を作りたいと思います。個人的にこれはと思った本はできるだけ押さえたいと思ってはいるんですが、どうしてもキャラ文芸は手が回りきらなくてわりと後追い気味になっているシリーズや作品も多いです。でも刊行点数とか読みたい本の冊数考えると、その辺は仕方ないですね...(苦笑)
1.水神様がお呼びです あやかし異類婚姻譚 (角川文庫)
美形だがマイペースな1つ上の幼馴染天也と、平和な毎日を送るお人好しの高校生・美月。しかし突然、不可解な現象に立て続けに襲われ、それが水神様からのプロポーズであることを知る異類求婚ファンタジー。綺麗な緑色の石の雨が降り注ぎ、解読不能な手紙が届く神様の暴走には苦笑いでしたけど、天也や兄の公太を頼りながら求婚を断ろうと奮闘する中で、天也への想いを自覚していく美月がいて、明かされるご先祖様と水神の因縁、そして天屋たちの秘密があって、懸命に向き合って本当に大切な想いを見出す優しい結末にはぐっと来るものがありました。
2.17歳のラリー (角川文庫)
十七歳の春。突如明かされた三年生のエース川木の渡米が平凡な都立高校テニス部に引き起こした波紋。絶対的な才能を持つ彼に対し、なかなか言い出せなかった仲間達の様々な想いが明らかになってゆく青春群像劇。突如明かされた途中で退学も厭わない決意表明に、ダブルスの相棒、女子部のエース、ゆるい部員、幼馴染のマネージャー、部長たちそれぞれの視点から彼への複雑な想いが綴られてゆく展開でしたが、関わってきた川木にもまたいろいろ思うところがあって、そんな連鎖的に明らかになってゆく等身大の熱い想いがなかなかぐっと来る物語でした。
京都烏丸のいつもの焼き菓子 母に贈る酒粕フィナンシェ
posted with ヨメレバ
古池 ねじ/イナコ KADOKAWA 2020年09月15日頃
無愛想でしゅっとした菓子職人と可愛い店員さんが営む和の食材を使った京都の小さな焼き菓子屋「初」。丁寧に作られた心が満たされるお菓子を愛する人々の物語。自分らしく生きたいデザイナー、常連のドイツ人大学教員とその教え子、お店のお菓子に魅せられて京都にやってきた就活生、そして店長と店員さんと両親のこと。食べたくなるようなお菓子の描写も素敵ですが、誰もが素直になれない一面を抱えていて、そんな不器用な登場人物たちのはっとするような繊細な想いを巧みな視点で浮き彫りにして、導かれてゆく結末がとても印象に残る物語でした。
4.嘘つきな魔女と素直になれないわたしの物語 (集英社オレンジ文庫)
父親の浮気発覚による突然の両親の離婚。充実していた人生から一変した董子が、母親の地元である田舎で魔女を自称する金髪碧眼の少年・ハルと出会う青春小説。ご近所のほとんどが親類縁者で、携帯電話の電波もろくに入らない田舎への引っ越し。そこで出会った少年・ハルと解き明かす盗まれた卵、なくなったクッキー、赤い服の幽霊の謎。謎めいたハルとトーコが忘れてしまっていた八年前の真相。密かに村に危機が迫っていて、けれどそんな窮地を力を合わせて乗り越えて、二人で未来を切り開いてゆく姿がどこか微笑ましい、ひと夏の素敵な物語でした。
5.愛に殺された僕たちは (メディアワークス文庫)
恋人に貢ぐため義母から保険金殺人の標的にされる高校生・灰村瑞貴。父親の身勝手な愛情により虐待され、殺されるのをただ待つだけの逢崎愛世。そんな歪んだ愛に苦しむ二人が出会ってしまう青春小説。お互い夢も希望もないからこそ気づいてしまうそれぞれの絶望。二人が見つけた連続殺人の予定が記された絵日記から始まった共犯関係。お互いにどんどん追い詰められてゆく容赦ない展開の連続で、二人で思い描いてしまったちっぽけな希望が切なくて、相手のためにという選択をどう受け止めるのか、その意味をいろいろと考えさてしまう結末でした。
6.死者と言葉を交わすなかれ (講談社タイガ)
不狼煙さくらは探偵・箒山との浮気調査中に、調査対象の突然死に遭遇。病死とされたものの仕掛けた盗聴器からは死者との会話が流れ出して、真相を追う二人は予想だにしない悪意に出会うミステリ。調査対象が突然死する直前に話していた、話し声が聞こえない相手は誰だったのか。不狼煙と箒山のダブル女子探偵を中心に、調査対象の妻や実家、贔屓のバーなどで聞き込みした中で見出す些細なヒント、そこから導き出されてゆく真相には唸らされましたが、だからこそ事件解決の裏に隠されていた驚愕の事実に、これまでの全てを覆された気分になりました。
7.九重家献立暦 (講談社タイガ)
就職活動がうまく行かず、とある事情で故郷に戻った九重茜。旧家の実家で昔と変わらぬ頑迷な祖母、居候として住み着いていた母の駆け落ち相手の息子・仁木一と同居する家族の物語。祖母に厳しく育てられ、嫌でも母を意識せざるをえなかった茜。彼女と祖母の複雑な距離感、そして九重家の年中行事を調査すべく同居する仁木という構図は、三者三様の深い悔恨を抱えていて、その元凶となった茜の母・景子の業の深さを改めて痛感する展開でしたけど、本音でぶつかり合ってようやく向き合えた不器用な彼女たちの変わりつつある関係が印象的な物語でした。
8.京都岡崎、月白さんとこ 人嫌いの絵師とふたりぼっちの姉妹 (集英社オレンジ文庫)
優しかった父が死んで身よりを失った女子高生の茜と妹のすみれ。親戚の家で肩身の狭い思いをしていた彼女たちを、親戚筋で京都岡崎にある「月白邸」に住む青年・青藍が引き取られる家族の物語。酒浸りの破綻した生活を送る人間嫌いで変人という噂の青藍と、入り浸る明るい絵具商の青年・陽時。最初ぎこちなかった関係も茜の餌付けやすみれのあどけなさに少しずつ変わっていって、陽時の特別な人のエピソードは切なかったですけど、家の事情に振り回され続けた彼らが、その不器用な関係に大切な絆を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありました。
9.僕の目に映るきみと謎は (角川文庫)
異常な世界が日常に視えてしまう女子高生・祀奇恋子。彼女と幼馴染・真守が、親友から怪しい人形を渡された女子生徒の相談を受け、「除霊推理」で恋子と真守のコンビが怪異を暴くオカルトミステリ。5W1Hを駆使して真相に迫り除霊する恋子と異界に繋がる扉を閉じることが出来る真守。当たり前のように怪異が視えてしまう日常で、怖がりのくせに逃げない幼馴染を守る二人の関係がなかなか絶妙で、相手を呪い殺す「トモビキ人形」を巡る真相とその結末もまたなかなか壮絶なものがありましたけど、そんな二人の物語をまた読んでみたいと思いました。
10.花村遠野の恋と故意 (幻冬舎文庫)
九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が続いて、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びながら事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いまいましたね。そんな彼らのこれからが楽しみなシリーズ。現在2巻まで刊行。
11.未だ青い僕たちは (スターツ出版文庫)
雑誌の読モをしている高校生・野乃花が隣の席になったアニメオタクの原田。実はSNSでアニメ界のカリスマだった原田と正体を隠して交流するうちに、だんだん心境が変わってゆく青春小説。窮屈な現実世界では一切交わりがないのに、ネットではいろいろと話すようになって、お互い必要不可欠になってゆく二人。不器用な野乃花が踏み出した一歩を受け止められない原田の劣等感がまたじわじわ来ましたけど、様々な出来事を通してかけがえのない存在として自覚してゆく二人と、けれどそう簡単には変われないもどかしい距離感がなかなか良かったですね。
12.吉原水上遊郭 まやかし婚姻譚 (ポプラ文庫ピュアフル)
明治44年に起きた吉原大火ののち、東亰・隅田川に返り咲いた水上遊郭。大火で両親を亡くし客を送迎する番人見習いの船頭になった利壱が、長春楼楼主に頼まれ娼妓見習いのツバキを切見世へと連れていく時代小説。吉原大火の結果として再構築された水上遊郭を舞台に、想いを通わせてゆくツバキと吉原で生まれ育った絵師の許されない恋。しかしツバキに目をかけていた廣川は水上吉原を牛耳る老獪な存在で、絶望的な状況で仕掛けられた謀略の行方にはドキドキしましたけど、そこからの急展開と思ってもみなかった結末にはぐっと来るものがありました。
13.星と脚光 新人俳優のマネジメントレポート (講談社タイガ)
苦い過去を乗り越えて弱小芸能事務所に転職したまゆりが、オーディションで天真爛漫な新人俳優マコトに目を付け、その破天荒な行動に振り回されながら二人三脚で頑張るお仕事青春小説。ショッキングな過去を引きずり引きこもっていたまゆりが見出した、いろいろド素人だけれど光るものを持ったマコト。弱小事務所のド素人同然の新人俳優ゆえに思わぬ暴走があったり、大手事務所の妨害もあって、舞台デビューもいろいろ波乱含みでしたけど、苦しい過去を乗り越えて盛り上がってゆく終盤にはグッと来るものがありましたね。続巻あったら読みたいです。
承和の変の謀反から二年。いまだ権力争いの残り火に翻弄される後宮で、言霊をあやつる異才の陰陽師・小野小町が難事も怪異も解き明かす物語。陰陽師・小野篁の孫として後宮の女たちの相談を受ける小町が直面する、袖にした貴族の悪夢や恋煩いの相手探し、そして承和の変を巡る事件。時の権力者・藤原良房なども登場して、かの有名な色男・在原業平などの協力も得ながら、あやかしが絡むの事件の背景を探り、言霊を使って人知れず影から解決してゆく業深き女陰陽師・小町という構図はなかなか面白かったですね。続刊がまた出るなら読んでみたいです。
千駄木ねこ茶房の文豪ごはん 二人でつくる幸せのシュガートースト(1)
posted with ヨメレバ
山本 風碧/花邑まい KADOKAWA 2020年09月15日頃
社畜生活に疲れ果て会社を休職中の亜紀。そんな彼女が倒れた祖母に「店を守ってくれ」と頼まれ、店の前に行き倒れていた見知らぬ美男子・寒月と、漱石の生まれ変わりを名乗る喋る不思議な黒猫と出会う物語。料理はできそうだけれど、カフェ経営の知識ゼロの未経験者なのに見切り発車する亜紀には勇気あるなあと思いましたけど、猫の漱石と的確な指示を出す寒月さんのサポートもあって、自身の忘れていた幼い頃の夢も思い出しつつ、ワケアリな寒月との関係も何とか乗り越えて、試行錯誤の末にらしいお店を見出していく展開はなかなか良かったですね。以上です。
気になる本があったら、是非手にとって読んでみて下さい。