読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2019年12月に読んだ新作おすすめ本

2019年12月に読んだ新作おすすめ本です。

 

ラノベはやはりミステリテイストの三田さんらしい作「天才少女Aと告白するノベルゲーム」ですか。あとガガガ文庫のベタな感じが逆にいい「塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い」、もう熟年夫婦みたいな阿吽の呼吸な「最強カップルのイチャイチャVRMMOライフ」、インパクトはさすがな「娘じゃなくて私が好きなの!?」など注目の作品が刊行されています。

 

ライト文芸は久しぶりに松村涼哉さんの「僕が僕をやめる日」を読みましたけど、ライト文芸向きの作家さんなのかもしれないですね。そういう意味では「終わった恋、はじめました」の小川晴央さんも久しぶりでしたけどなかなか良かったです。「執筆中につき後宮ではお静かに」の田井ノエルさんは初めて読みましたけど、今後の展開次第では大きく伸びそうなポテンシャルの高さを感じる作品でした。「青い灯の百物語」もなかなか興味深い作品です。

 

単行本では知念実希人さんの「ムゲンのi」は流石の一言。「スワン」は何となく積んでいるうちに直木賞候補作になっていましたが、なかなかインパクトがある作品でした。コミュ障大学生を主人公とした似鳥鶏さんの探偵ミステリ「目を見て話せない」も著者さんらしい作品で、コミュ障あるあるが楽しめる興味深い一冊です。

 

天才少女Aと告白するノベルゲーム (ファミ通文庫)

天才少女Aと告白するノベルゲーム (ファミ通文庫)

 

大好きなフリーゲーム制作者Aに会うため、桜山学園ゲーム制作部に入った水谷湊。しかしAと思しき部長の菖蒲は不登校で、彼女が学校に来るよう部員たちから託される青春小説。仲が良さげなゲーム部員が抱える苦い過去、そして湊のもとに送られてきたひとつのノベルゲームが示唆する過去。部員それぞれの事情が明らかになってゆくたびに彼らの印象も変化して、構図が二転三転した末の決着は新たな違和感に繋がって、確執が残る母とも向き合いつつバットエンドに隠されていた真相を見出して、大切な笑顔を取り戻してみせた結末がとても印象的でした。

塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い (ガガガ文庫)

塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い (ガガガ文庫)

 

高嶺の花で誰に対しても塩対応な佐藤こはると、誰に対しても優しい押尾颯太。初々しくてもどかしい高校生二人の初恋物語。告白されても話しかけられても実はコミュ障で塩対応のこはる。そんな不器用な彼女が想い人に近づきたい一心で頑張って颯太だけに見せる様々な可愛い表情があって、彼女をフォローしようと頑張る颯太もいちいちカッコ良くて、そんなじれじれ初恋両片想いな二人の破壊力がスゴイですね。勘違いからすれ違いかけたり大きな壁が立ちはだかったりしても、勇気を出して前に一歩踏み出した二人の今後がとても楽しみな新シリーズです。

孤高のゲーマー・古霧坂里央。学校一の完璧美少女、真理峰桜。現実世界では何の関わりもない2人が、VRゲーム「MEO」で最強コンビとして名を馳せる物語。妹の同級生以外は何の接点もない、学校では違う意味で有名人の2人。そんな2人がVRMMOのゲームの中では同棲して、お化け屋敷気分の廃墟探索や混浴イベント、他プレイヤーと協力して超大型ボスと阿吽の呼吸で戦いながら周囲も呆れるいちゃいちゃっぷりで、だけどこの二人付き合ってないんですよ…?(苦笑)こういう関係は邪魔者が出現してこそさらに燃え上がりそうなので次巻に期待。

魔女の花嫁 seasons beside a witch (LINE文庫エッジ)

魔女の花嫁 seasons beside a witch (LINE文庫エッジ)

  • 作者:空伏空人
  • 出版社/メーカー: LINE
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: 文庫
 

不治の病に罹った少年・桑折冬至が、迷い込んだはずれの森に住む変わり者の魔女・ミーズに出会い、願いを叶える代わりにその弟子となる物語。ハルと名付けられた死にたくないと願うシニカルな少年と、陽気で構いたがりでどこか子供っぽい一面も見せる魔女のミーズ。そんな二人の微笑ましいやりとりは良かったですけど時折ハルが知らないミーズの過去があって。巻き込まれた事件を通して明かされるミーズの真意がまた衝撃的でしたけど、二人で過ごした日々もまた偽りではなかったんですよね。彼らがどうなってゆくのかその後の話を読んでみたいです。

娘じゃなくて私が好きなの!? (電撃文庫)

娘じゃなくて私が好きなの!? (電撃文庫)

  • 作者:望 公太
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/12/10
  • メディア: 文庫
 

就職したばかりなのに両親を亡くした幼馴染を引き取って育ててくれた綾子さん。そこから十年...幼馴染同士の恋を応援していた彼女が、大学生になった男の子・左沢巧にまさかの告白をされる恋愛ラブコメ。思ってもみなかった告白に動揺する綾子さんが可愛くて、障害だったはずの諸々もあっさりクリアされて外堀が埋まってゆく展開には苦笑いでしたが、何より十年間頑張ってきた一途な巧の想いが眩しかったですね。あとは自分次第という急展開についていけず、迷走したり暴走してしまう微笑ましい彼女と二人の恋を生温かく見守りたいと思いました。

帝剣のパラベラム (ダッシュエックス文庫)

帝剣のパラベラム (ダッシュエックス文庫)

  • 作者:川口 士
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/12/20
  • メディア: 文庫
 

己の力で名声を得るため、仲間たちとともに遊歴の騎士として旅をする皇帝の妾腹の子・アルヴェールが、帝国を滅ぼそうと企む陰謀に巻き込まれてゆくファンタジー。神敵には大鎌を振るい隙あらば夜這いをかけてくるシルファ、大食いで名言好きなセイランと旅を続けていたアルが抱く皇帝への複雑な想い。けれど巨大な魔物「地底樹」出現を放っておけない彼が、シルファも絡んだ因縁のエルフとその魔物に挑む展開は熱かったですし、その過程で挟まれるアルの過去エピソードが、仲間に慕われる彼のこれまでの成長を物語っていてなかなか効いていました。

地獄に祈れ。天に堕ちろ。 (電撃文庫)

地獄に祈れ。天に堕ちろ。 (電撃文庫)

  • 作者:九岡 望
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/11/09
  • メディア: 文庫
 

世界規模の幽界現象と呼ばれる大災厄によって、死者が現世に戻ってきてしまうようになった末世・東凶。聖職者が大嫌いな亡者の死神ミソギと、死者が嫌いな聖職者アッシュが縁あって手を組み立ち向かうダークヒーローアクション。相性最悪な二人の邂逅と、そんな彼らに振り回されるシスターのフィリス。魅力的なキャラたちそれぞれの複雑な事情を絡めながら、東凶中を巻き込んだ麻薬騒動から始まる世界崩壊の危機を吹っ切れたシスコン二人が大暴れして解決に導く展開は痛快でした。いい感じにオチもついた結末でしたけど続巻に期待できそうですね。

父の頼みで疎遠だったギャルJKの従妹・奏音を預かることになった独身サラリーマン・駒村。そんな帰りに痴漢から助けた家出JK・ひまりも転がり込んでくる同居物語。母親が失踪して行き場をなくした奏音と、夢を諦めたくない一心で家出したひまり。タイプの違う二人にもそれぞれ抱く複雑な想いがあって、それを戸惑いながらも同居を始めた駒村が真摯に支えたいと思う姿がいいですよね。そんな状況で現れた駒村の幼馴染という強力な伏兵出現は物語の重要なポイントになりそうですけど、ここからどう展開していくのか今後が楽しみなシリーズです。

 

僕が僕をやめる日 (メディアワークス文庫)

僕が僕をやめる日 (メディアワークス文庫)

 

困窮し生きることに絶望した立井潤貴。そんな彼を救った高木健介の代わりに大学に通うようになった二年後、高木が突如失踪するミステリ。作家でもある高木との充実した共同生活、そして失踪から始まる突然の暗転。残された数少ない手掛かりと作品をもとに高木の過去を知る人に会い、その行方を追う立井が知ってゆく意外な繋がりと高木の壮絶な過去。彼らが置かれた環境の過酷さと、何度も絶望感を突き付けられる彼らの生々しい感情描写はインパクトがあって、繋がってゆく複雑な因縁とその結末に至るまでを描く著者の熱い想いで読ませる物語でした。

本を愛した彼女と、彼女の本の物語 (メディアワークス文庫)

本を愛した彼女と、彼女の本の物語 (メディアワークス文庫)

  • 作者:上野 遊
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/09/25
  • メディア: 文庫
 

生まれた時から意識があった文庫本『ホテル・カロン』。なかなか売れなかった文庫本と、ある一人の少女が出会い、ともに過ごしたかけがえのない日々の物語。病弱な女の子・銀河に勇気をもたらした『ホテル・カロン』との出会い。そんな密かに彼が見守る銀河の成長と、親友・睦月との邂逅、運命の相手・輝星とのと出会い。見守ることしかできない本の視点というのがもどかしくて、けれどそんな想いはかけがえのない彼女にもしっかり伝わってたんでしょうね...最後まで寄り添い続けた姿がとても印象的で、受け継がれてゆく想いを感じる物語でした。

終わった恋、はじめました (講談社タイガ)

終わった恋、はじめました (講談社タイガ)

 

意地を通して退職した拓斗にかかってきた妹・莉音からの一年ぶりの電話。妹と一緒に心残りだった高校時代の恋人・小夜の足跡を辿る旅に出る物語。妹に指摘されて未練が残る過去の恋に決着をつけることを決意した拓斗。遭遇する謎を気が利く賢い妹にフォローされつつ解きながら、小夜に繋がる手がかりを追ってゆく展開でしたけど、それは一方で妹もまた思い悩む自身の過去に向き合う過程に繋がっていて、これまで積み重ねてきた状況からつい小夜のその後を想像してしまいましたが、そんな結末をいい意味で見事裏切ってくれたとても素敵な物語でした。

突然終わった結婚生活。バツイチか―と嘆く余裕もないまま娘の美空とともに実家に戻った涼子に、妻と娘を亡くした作家相手の住み込み家政婦の仕事が舞い込む再生の物語。嘆くばかりだった涼子が実家で直面する現実はなかなか厳しいなと感じましたけど、家族を亡くてから作品を書けなくなっていた山丘と出会い、彼の家で家事に取り組むようになり、元夫にビシッと言えるまで自信を取り戻してゆく展開はなかなか良かったです。山丘の存在も大きかったですけど、娘の美空や要所でフォローする山丘の元に通う編集・川谷もいい感じに効いていましたね。

社長が失踪し会社は倒産、アパートは火事で焼失。全てを失ったカナが、紹介されたシェアハウスの大家・前園に巻き込まれ洋服知識ゼロなのに個人経営の小さなアパレルブランドで働きはじめる物語。騙して実質タダ働きさせるとかブラックだなあと苦笑いしましたが、カナを長年無自覚に貶める存在だった男友達と決別できたのは良かったですし、コスパキング前園や引きこもりデザイナー・アリス、ワケありモデルのミキなどと関わるうちに、自ら積極的に関わるようになったり、互いにいい影響を及ぼすようになってゆく姿にはぐっと来るものがありました。

自室に引きこもれるという理由で後宮入りし、日々執筆にいそしむ娘・青楓。謎の襲撃者たちに襲われたところを皇帝に救われ、愛憎渦巻く後宮の陰謀に巻き込まれてゆく中華風ファンタジー。皇帝から後宮の不審死事件の真相を掴むべく協力を命じられた青楓は意外と才色兼備なのに価値観がズレていて、自分を雑に扱う彼女を新鮮に感じる皇帝との距離感はこれからな感じでしたけど、個性的な上級妃嬪たちにも振り回され、複雑な想いを抱えながら事件を解決に導く青楓のありようがなかなか印象的で面白かったです。これは続巻を読んでみたいと思いました。

君が今夜もごはんを食べますように (集英社オレンジ文庫)

君が今夜もごはんを食べますように (集英社オレンジ文庫)

  • 作者:山本 瑤
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 文庫
 

金沢にある家具工房「ときわ」の職人・楡崎の作るテーブルに一目惚れをし、飛び込みで弟子入り修行に励んでいた倉木相馬と純平の「エプロン男子」の前日譚的物語。今回のエピソードで明らかになっていったかつての相馬や純平の境遇でしたけど、当時相馬が付き合っていた恋人・沙希との何とも複雑な関係や、その後のエデン設立にいたるきっかけとなった出来事など、登場人物たちのままならないほろ苦さが残る結末の中で垣間見える優しさに著者さんらしさを感じました。小梅のその後は気になるので、またどこかで登場してくれるといいなと思いました。

青い灯の百物語 (集英社オレンジ文庫)

青い灯の百物語 (集英社オレンジ文庫)

 

昔から続く怪異と関わる真魚寺の家に生まれた千歳。幼い頃に青行灯と契約を交わした彼女が、家業を継いだ兄や彼女を守る青行灯とともに様々な家の怪異にまつわる事件を解決してゆく物語。持ち主の元に帰りたかった本、残されたゲドと小さな子との絆、悩める同級生の決断や、神隠しにあった娘といった悲喜こもごものエピソードを重ねていった先に浮き彫りになる、千歳と青行灯の何とも複雑で特殊な関係があって、育んできた絆を大切に思う(けれどなかなか素直になれない)二人の関係が、もうしばらく続けばいいなと願わずにはいられませんでした。

一乗寺探偵事務所の広辞くんと千世子さん (メゾン文庫)

一乗寺探偵事務所の広辞くんと千世子さん (メゾン文庫)

  • 作者:山咲 黒
  • 出版社/メーカー: 一迅社
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 文庫
 

浮気調査に人捜し、その他どんな不思議な依頼でも承り中の一乗寺探偵事務所。所長不在の中でも、依頼解決のために仲良し夫婦が奮闘する日常ミステリ。広辞苑仕込みの知識を披露する広辞くんと、食いしん坊の千世子さんが調査する浮気調査の真相、いなくなった金魚、そして二人の出会いと後輩の父親探しの顛末。時系列やところどころでうん?と思うような何か少し違和感があると思ったら意外な事実が明らかになって、そこからの真相に言われてみればと思い当たりましたけど、強い絆と注意深い観察がもたらした優しく幸せな結末に救われる思いでした。

 

 

トラットリア代官山 (ハルキ文庫)

トラットリア代官山 (ハルキ文庫)

 

亡き父から受け継いだ店を気丈に守り続ける男装の女支配人・大須薫と天涯孤独の年下敏腕シェフ・安東怜が、訪れたお客の問題を解決に導くグルメ小説。結婚して代官山で暮らす友人に抱く独身アラサー女子の複雑な思い、転落事故で記憶を失った父親と愛犬の失踪の真相、若きネイリストが抱いた彼への疑念の顛末といった事件をお客様と一緒に解決する展開で、そんな積み重ねが最後に繋がりましたね。美味しそうな料理との描写も合わせて著者さんらしい物語でした。薫と怜の関係も気になるところですけど、そのあたりも続刊で読めることを期待してます。

科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました (文春文庫)

科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました (文春文庫)

 

自社の非科学的な商品にダメ出しをしたばかりに、最も行きたくなかった商品企画部に島流しになった大手電器メーカーに勤める科学マニア羽嶋賢児。その真っすぐすぎる科学愛が騒動を巻き起こすお仕事小説。苦い経験をさせられたり振り回された過去から、似非科学を否定し空気を読まずに正論を言って衝突する賢児。正しければいいというものでもないという現実と、科学好きを拗らせてしまう要因となった複雑な事情…こんな人が周囲にいたら疲れそうですが、科学研究を巡る厳しい事情も語られていたりで、理想と現実のバランスを取るのは難しいですね。

本と踊れば恋をする (角川文庫)

本と踊れば恋をする (角川文庫)

 

母子家庭で高校がバイト禁止ため、父の遺した蔵書で「セドリ」を始めた十屋龍之介。多摩川沿いの古書店を訪ねた彼が、朝香が作製した贋作本探しを手伝うことになるビブリオ・ミステリ。店主。朝香の依頼で本の探偵・吟子とともに贋作本探しを始めた龍之介が遭遇する、彼の父親がいない理由、ネットで出品された贋作本の真相、謎の句読点の落書き。この手の本にしてはあっさりとした読みやすさがやや意外でしたが、残された本を通じて見えてくる何とも複雑な心情と、抱えているものがありそうな登場人物たちのその後をまた読んでみたいと思いました。

 

ムゲンのi(上)

ムゲンのi(上)

  • 作者:知念 実希人
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2019/09/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

眠りから醒めない謎の病気・イレスという難病の患者を3人も同時に抱える女医・識名愛衣。霊能力者である祖母の助言により、患者を目醒めさせるために魂の救済〈マブイグミ〉に挑むミステリ。父と一緒に乗った飛行機で視力を失いパイロットの夢を絶たれた娘、無実と信じて無罪を勝ち取った被告が殺人を犯した現実を突き付けられた弁護士を夢幻の中で救ってゆく展開で、珍しいファンタジーっぽい要素がある展開でしたけど、解決するたびに新たな謎が増えてゆく中でこの物語をどうまとめあがるのか、現実世界とのリンクも気になるところではあります。

ムゲンのi(下)

ムゲンのi(下)

  • 作者:知念 実希人
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2019/09/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

次々とマブイグミを成功させた識名愛衣。次第に患者のトラウマが都内西部で頻発する猟奇殺人と関係があり、しかも23年前の少年Xによる通り魔殺人とも繋がっていたことに気付き難事件の真相究明に立ち向かう下巻。イレスの繋がりが見えてきた中で救急搬送されてきた虐待された形跡のある少年、そして愛衣自身が記憶から消していた現実。繋がってゆく様々な出来事や事実の中で、ようやく置かれた現状を理解した愛衣も辛かったとは思いますが、そんな過去を乗り越えて大切な人たちの温かい想いに見守られていたことを知る結末がとても印象的でした。

スワン

スワン

  • 作者:呉 勝浩
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/10/31
  • メディア: 単行本
 

巨大ショッピングモール「スワン」で起きた前代未聞のテロ事件。生き残った五人の関係者に招待状が届き、事件の中の一つの死の真相を明らかにするために集まるミステリ。自暴自棄なテロリストによる襲撃という極限状況において、それぞれがどんな行動を取ったのか。同じ被害者でも各々が置かれた立場は違って、思惑を秘めて参加したお茶会で暴かれる当日の行動。その場で最善を取るのは容易ではなくて、終わってからもどうすればという後悔は消えなくて、そんな中でどんなに追い詰められても大切なものを手放さなかったいずみの決意が印象的でした。

目を見て話せない

目を見て話せない

  • 作者:似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/10/31
  • メディア: 単行本
 

入学早々友達づくりに乗り遅れて愕然とする房総大学の新入生・藤村京。教室に残された高級な傘に気づき持ち主を推理するコミュ障探偵ミステリ。傘を忘れた人は誰か、服屋で消えた同級生の謎、カラオケで酒を飲ませた犯人、祭りの中での盗難事件、元喫煙室で起きた冤罪事件の真相。いろいろ考え過ぎて話せなくなる/動けなくなる藤村だからこそ、その推理力には眼を見張るものがあって、少しずつ増えてゆくかけがえのない友人たちを助けるため、遭遇した謎を推理してゆく彼のありようはとても好ましかったです。続巻あるならまた読んでみたいですね。

卒業タイムリミット

卒業タイムリミット

  • 作者:辻堂 ゆめ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

欅台高校の女教師・水口理紗子が突如監禁され、犯人が72時間後に始末するとネット動画で予告。卒業間近の3年生・黒川のもとに犯人から挑戦状が届き、同じ挑戦状が届いた同級生三人と事件解決に挑むタイムリミットミステリ。監禁された水口の人間関係を探るうちに浮上する三人の教師たち。挿入される生徒たちの意味深な告白や散りばめられた伏線が意外なところで繋がっていて、思っていた以上に根が深いと感じた事件の真相はやや意外でしたが、最後の三日間の挑戦を乗り越え一回り成長した彼らが迎えた卒業式にはぐっと来るものがありました。

彼方のゴールド

彼方のゴールド

 

出版社の営業にようやく慣れた頃、野球もサッカーも知らない明日香がスポーツ雑誌「Gold」に配属され、体当たりでぶつかってゆく出版社お仕事小説。昔とは役割も様変わりした野球のリリーフ投手へのインタビューに始まり、子供の頃のスイミングスクールと幼馴染との思い出、スキャンダルと密告の真相、社内カメラマンの思わぬ再会、サッカーコーチと15年前の因縁、そして再会したもうひとりの幼馴染。雑誌編集として分からないなりに一生懸命調べて考え、真摯に相手に向き合おうとする明日香の成長とその結末にはぐっと来るものがありました。

ひとり旅日和

ひとり旅日和

 

人見知りで要領の悪く、紹介されて就職した先でも叱られてばかりの日和。そんな時に社長から気晴らしに旅に出ることを勧められ、旅好きの同僚に後押しされ一人旅を始める物語。初めて日帰りで行った熱海を皮切りに、千葉の水郷佐原、仙台、金沢、福岡と、時には失敗しながら遠くへ足を延ばしてゆく日和の気ままなひとり旅は楽しそうでしたね。それをきっかけにいろいろ変化の兆しが見えはじめて、状況が好転してゆく展開は良かったですけど、意外なところで繋がっていた縁がこれからどうなるのか、彼女の様子をもう少し見守ってみたいと思いました。

二丁目のガンスミス

二丁目のガンスミス

 

一緒に立てこもり事件に巻き込まれて偶然京介が知ってしまった美夜の秘密。一見地味な黒縁眼鏡なのに超人的な射撃能力を持つガンスミスな彼女との同居物語。偽装する絵本店「ひまわり堂」にやってくる訳ありの客たち。結婚式を偽装した救出劇、山の民と火縄銃、VRで再現される悲劇、遺品からなくなった銃。ガンマニアな解説や依頼の中で美夜の複雑な過去も明らかになっていきましたけど、表情乏しい塩対応から始まった二人の関係が、ともにありたい京介の餌付けや秘密特訓といった努力で変化の兆しを見せ始めて、面白くなるのはこれからですかね。