今回は3月の富士見ファンタジア文庫・HJノベルス新刊感想まとめです。内訳は富士見ファンタジア文庫が新作4点、続巻3点、HJノベルスが1作品上下巻2点の計9点になります。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
君と笑顔が見たいだけ (富士見ファンタジア文庫)
【第36回ファンタジア大賞＜金賞＞受賞作】
笑わない同級生・瀬音しずくをどうにか笑わせるため日々試行錯誤する高校生・市井晴比古。彼が美人だが奇行を繰り返す校内一の奇人先輩・中屋敷結羅と漫才コンビを組む青春小説。しずく笑わせるために頑張っている晴比古の姿にツッコミの可能性を見出した、美人なのに言動が全てを台無しにしている結羅先輩。そんな二人が漫才コンビを組んで日々練習を重ねる中で、ストイックにお笑いに取り組む結羅の知られざる一面を知り、失敗も経験しながら育まれてゆく絆があって、そこにしずくが笑えない理由も明らかになる中、彼女の心を揺さぶって笑わせるために奮闘する熱い想いや、変化してゆくそれぞれの繊細な心境や三人の関係性もなかなか良かったですし、そんな彼らの行く末をまた読んでみたくなりました。
血眼回収紀行 (富士見ファンタジア文庫)
【第36回ファンタジア大賞＜銀賞＞受賞作】
稀代の天才義眼職人である師匠が作った人知を超えた魔法義眼を回収するため、両義眼の少女イルミナが用心棒で元軍人の魔法使いヴィンセントと一緒に旅を続けるバディ冒険記譚。先代イルミナが作り、世に解き放たれた〈天窓の八義眼〉と呼ばれる禁忌の魔法義眼を回収するため、賭場を襲撃したり詐欺セミナーを破壊して他者を操る目の情報を得た二人が、八義眼が関わる大きな陰謀に巻き込まれてゆく展開で、ヴィンセントの帰りを待っていた幼馴染エレクトラとの再会や過去の呪縛に囚われた人々の想いも絡めながら、苦しい状況でも最後まで諦めず、それにしっかりと向き合ってみせたバディの熱い奮闘はなかなか良かったですし、残る〈天窓の八義眼〉を探す二人の旅の物語にも期待しています。
平民出身の帝国将官、無能な貴族上官を蹂躙して成り上がる (富士見ファンタジア文庫)
【第8回カクヨムWeb小説コンテスト・カクヨムプロ作家部門＜特別賞＞受賞作】
花音 小坂/くろぎり KADOKAWA 2024年03月19日
平民出身を理由に辺境の最前線に左遷された新任帝国将官ヘーゼン。前世で培った最強魔法使いの経験と圧倒的実力を武器に悪徳上官も部下も蹂躙する転生成り上がりファンタジー。着任早々暗殺を画策する性悪部下を軍法に則って斬殺し、立場を利用して部下の功績を掠め取ろうとする上官を完全論破。一方で待遇を見直して部下を徹底的に鍛え上げたり、天才少女ヤンを見出して長年対立するクミン族と停戦協定を実現したりと、無視できない実績を着実に積み上げていく展開で、必然的に無能を突きつけられ激昂する上官たちを敵に回しながら、一方で有能な味方を着実に増やして、リスクを恐れず自分自身も結果を積み重ねる彼がどこまで成り上がれるのか、こんな部下いたら大変だな…と苦笑いでしたけど続きが楽しみです。
男爵無双 貴族嫌いの青年が田舎貴族に転生した件 (富士見ファンタジア文庫)
水底 草原/Noy KADOKAWA 2024年03月19日
旧華族の落ちこぼれで父から失望された主人公がある日現実世界から消え去り、目覚めたら田舎貴族ドラグオン男爵のルシウスとして生きることになる転生ファンタジー。貴族として正しい在り方を貫く両親に愛情を注がれて育ち、魔力測定を行う鑑定の儀で史上初の魔核を四つ備えた膨大な魔力を誇る規格外の存在であることが判明して、前世の苦い思い出からの貴族嫌いを乗り越えて、期待に応えるべく立派な貴族になることを志して、努力するようになっていくルシウス。才能を自覚して王位を目指すシュトラウス侯爵家の娘オリビアからはライバル視されていましたけど、焦りから先走った窮地を救った彼女とはお互い刺激しあえるいい関係になりそうで、二人でこれからどんな物語を紡いでいくのか続巻が楽しみです。
これが魔法使いの切り札 2.竜の少女 (富士見ファンタジア文庫)
シノの付きっ切りの指導もむなしく壊滅的な成績を叩き出し至極真っ当な理由で退学危機に瀕するリクス。そこに傭兵時代の妹分トランがリクスを連れ戻そうと学院にやってくる第2弾。退学を回避するためには成績改善だけでなく実績も必要となり、仲間とともに部活見学を始めるリクス。古竜の生まれ変わりでリクスと中途半端に召喚獣契約で繋がるトランの暴走もあり即刻退学の危機に陥ってしまう一方で、利用価値のあるトランを狙う治安維持執行部の暗躍に巻き込まれてゆく展開で、身体能力で魔法を蹂躙してしまう部活巡りには笑いましたが、トランを取り戻すための熱い戦いとその結末も効いていて、いろいろ過去の因縁も明らかになってゆく中、果たしてリクスは一体何者なのかも改めて気になるところではあります。
経験済みなキミと、 経験ゼロなオレが、 お付き合いする話。短編集 青春回想録 (富士見ファンタジア文庫)
長岡 マキ子/magako KADOKAWA 2024年03月19日
いつもとは少し違うけれど、いつも通りな青春ラブコメが繰り広げられる「女の園の龍」ほか、青春エピソードを詰め込んだ短編集。ある朝目覚めたら女子校の教師になっていた龍斗が、学年一の美少女ギャル・月愛を筆頭に笑琉、朱璃といったクセのある女子生徒たちに振り回される日々。月愛との水族館デートといつメンで海釣りチャレンジや、コスプレハロウィンパーティー、なかなか素直になれない伊地知＆谷北の文化祭エピ。いつもと違うシチュエーションがなかなか面白かった教師＆教え子編の組み合わせはう少し読みたかった感がありましたけど、残りのエピソードも時にはもどかしさも感じながら、それぞれキャラのらしさがよく出ていて良かったですね。
妹が女騎士学園に入学したらなぜか救国の英雄になりました。ぼくが。5 (富士見ファンタジア文庫)
ラマンおいどん/なたーしゃ KADOKAWA 2024年03月19日
成人の儀式のため実家に帰ったユズリハ。スズハ兄はお世話になったお礼をすべく、贈り物として密かに最高の食材を用意しようとダンジョン探索に挑む第5弾。ユズリハ不在の隙にスズハ兄を狙うトーコの恐るべき戦略で、妹やメイドたちも連れてダンジョン近くの温泉街を訪れることになった一行。道中で助けたハイエルフから伝説の『裏ダンジョン』の存在を聞き、挑もうとしたところでユズリハも合流するお約束の展開で、思わぬ形で民を救っていたり、ハイエルフやドワーフが出てきてもゆるいほのぼの展開や、周囲と自己評価のギャップが大きいのは相変わらずで、不在の間に着々と領地が大変貌を遂げつつある展開には苦笑いでしたけど、どこまで突き抜けてくれるのか続巻に期待しています。
シャーロット 上・下 ～とある侍女の城仕え物語～ (HJ NOVELS)
優しい両親と森でひっそり暮らしていた娘シャーロット。しかし外出した両親が予定を過ぎても帰って来ないことから、言われていた通りに森を出て王都での生活を決意する物語。王城の下級侍女の仕事を紹介されて、森暮らしの知識や両親から教わった針仕事＆狩猟技能により、様々な場面で才覚を発揮して、その美貌も相まって王城内でも注目を集めてゆくシャーロット。そんな彼女が騎士シモンと朝の剣稽古を通じて親交を深めていく一方、不穏な男の影も見え隠れしたりで、彼女の出自が明らかになったり、行方不明だった父も記憶喪失状態で再会して、終盤は物語としても大きく展開が動き始める中、シャーロットがこれからどうなっていくのか続きが気になる上巻になっていました。
各所で有能ぶりが認められ、下級侍女の身から一足飛びで出世するシャーロット。国王夫妻の庇護も受け上級侍女となり、王子・王女たちの世話係に任命される下巻。無事に再会した父から出生の秘密を聞かされ、王城ではオレリアン王子の立太子式の準備が進む中、王女たちの世話をしながら充実した日々を送る一方、来賓としてやってきて求婚してくる野生的な王子や、彼女の出自に関係する人物たちに遭遇して、否応なしに激動の展開に巻き込まれてゆくシャーロット。けれどこれまで真摯に仕事に向き合って信頼を積み重ねてきた彼女だからこそ、いざという時に力になってくれる多くの人たちがいて、その真っ直ぐな生き方で周囲に影響を及ぼしながら、自らの幸せを見出してゆくその結末が印象的な物語でした。
