今回は7月ガガガ文庫・富士見ファンタジア文庫・集英社オレンジ文庫・集英社文庫の新刊感想まとめです。ガガガ文庫が新作4点、続刊3点、富士見ファンタジア文庫が新作5点、続刊1点、集英社オレンジ文庫の新作3点、集英社文庫の新作1点の計17点になります。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
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【第17回小学館ライトノベル大賞＜審査員特別賞＞】
かくて謀反の冬は去り (ガガガ文庫)
軍の式典で帝国の献上品の女奴隷・荒良女と運命的な出会いを果たした王弟・奇智彦。生まれつき身体が不自由で王室の忌み子、足曲がりと揶揄される彼が、激動の展開に巻き込まれてゆく宮廷陰謀劇。熊の巫女であり美しき獣を体現する荒良女を庇護民とし、自由奔放な彼女に振り回される日々を送っていた奇智彦が直面する想定していなかった事態。決め手を欠き様々な思惑が入り乱れる中、決して盤石ではない自らがいかに立ち回るべきか。一筋縄ではいかない魅力的なヒロインたちも上手く動かしながら、二転三転する流れの中で覚悟を決めて目指していた結末を巧みに手繰り寄せて、最後まで油断せずに徹底的にやり抜いてみせたその悪辣さが際立っていました。
【第17回小学館ライトノベル大賞＜優秀賞＞】
いつか憧れたキャラクターは現在使われておりません。 (ガガガ文庫)
専門学校生・七曲成央の前に突然現れた、かつての相棒・明澄俐乃のために設定を考えたVRキャラ響來。鮮明に蘇るかつての憧れと葛藤の欠片たちが、今の自分に突き刺さる青春ファンタジー。響來の願いで4年ぶりに再会した、芸能人としてブレイク中の俐乃。響來に今演じているキャラを奪われ、らしさを取り戻そうとする俐乃の試行錯誤に付き合う成央。響來は果たして何のために現れたのか。甘酸っぱい過去だけでなく、19歳の現在地も否応なしに突きつける読んでいて痛い展開でしたけど、現実逃避するのではなく、見失いかけていた自分は本当にしたかったことに向き合い、二人で一緒にぶつかることで新たな可能性を見出してみせたその結末には確かな希望があったと思いました。
魔王都市: -空白の玉座と七柱の偽王- (ガガガ文庫)
七柱の魔族の王が治める人類と魔族の共存特区『ニルガ・タイド』で一柱の王が殺され、事態を重く見た人類側から勇者の娘アルサリサが派遣される異世界クライムサスペンス。均衡が崩れて緊張状態に陥る中、法の下に正義を執行しようとする勇者の娘と、違法を厭わず仁義を貫こうとする不良捜査官という文字通り正反対のコンビが、殺気立つ魔族たちの懐に飛び込み、たびたび衝突しながらも互いの力量を認め、共闘してこの状況を引き起こした真相に迫る熱い展開で、キードが所属する四課のメンバーたちもいい感じに存在感を見せてくれましたし、いかにもな事情を密かに抱える二人のコンビはまだまだ続きそうで、これからの展開がとても楽しみな新シリーズですね。
氷結令嬢さまをフォローしたら、メチャメチャ溺愛されてしまった件 (ガガガ文庫)
愛坂 タカト/Bcoca 小学館 2023年07月19日
人を人とも思わない厳しい言動から、「氷結令嬢」と呼ばれている公爵令嬢アリシア。そんな彼女の言動を完全に理解する専属使用人グレイの異世界ラブコメディ。本当はただ素直になれないだけのアリシアをフォローし、状況を好転させるグレイに、唯一心を許して常にフルパワーで甘えるようになってゆくアリシア。公爵令嬢と平民という普通なら許されない構図で、公爵が連れてきた婚約者相手も認めさせるグレイに盛り上がってしまうアリシアには苦笑いでしたけど、父親が具体的な打開策も提示しないまま二人の関係を認めてしまったのは意外でしたし、依然として対外的には公然の秘密とせざるをえない二人の関係が、これからどうなってゆくのか気になるところではあります。
変人のサラダボウル5 (ガガガ文庫)
ある朝、目を覚ますと隣に全裸の弁護士ブレンダが寝ていることに気づく惣助。一方、サラは相変わらず中学生活を満喫し、演劇祭で主役を務める第五弾。閨直伝のコーディーネートで惣助を落としに掛かるブレンダ。彼女が惣助を狙っていると知らないまま、抜け目なく惣助に誕生日プレゼントを渡しに行く閨。そして半グレ組織のリーダー・ミコトと出逢い、ますます裏社会との関わりを深めるリヴィア。ブレンダと閨の惣助を巡る三角関係も何だかややこしいことになっていて、リヴィアは波乱万丈っぷりもとんでもないことになっていますが、赴くままにこちらの世界を満喫しているサラもそのうち天下を取りそうですね（苦笑）さらに訳分からなっていくのに面白い不思議な作品です…。
星美くんのプロデュースvol.2 ギャルが似合わない服を着てもいいですか？ (ガガガ文庫)
夏休み直前、ショッピングに夢中になりすぎて通り縋りの女性の六十万円バッグを汚してしまうジル(星美)と心寧。せめてのお詫びに女性の経営するカフェでバイトを始める第二弾。バイト先のキッチンでは折戸がいて、彼に正体を気づかれないようにバイトをこなす必要も出てきた星美。さらには伊武から折戸の好きな人を探るように頼まれ、彼女のプロデュースも請け負った星美。混迷の度合いを深めてゆく中、バイトでは全然役に立たないのに妙に一言多い心寧には苦笑いでしたけど、折戸の背景が掘り下げられたことで、いろいろと変わっていきそうな予感がある中、最後の急展開が何をもたらすのか今後の展開が楽しみです。
ソレオレノ 2 (ガガガ文庫)
エン王の遺児センとともに、かつて自分を裏切った3人の仲間のひとりユーロを破ったリョウ。そんな彼の前に新たな強敵、雀蜂型マシン「ベニシダレ」を操るディナールが立ちはだかる第二弾。かつてリョウと同じ町に育ち、心を通わせて同じ夢を見ながら袂を分かったディナール。彼女が庇護するドゥンヤの巫女リヤルから、ディナールが不穏な計画を建てていることを知らされるリョウ。すれ違ったまま妥協点を見いだせず、激突するしかなかった二人の死闘の結末には切なくなりましたけど、物語としてもこれから終盤に向かう中で、因縁の決着をどのような形で果たすのか、今後の展開が気になるところではあります。
ラノベも俺も好きなギャル (富士見ファンタジア文庫)
ラノベを愛する男子高校生・夜田涼介が、「ねずまよ」としてSNSでつながったラノベ読み「みなちょ」と出会ったらクラスの美人ギャル・妻川澪奈だった？平凡な青春が、ラノベがつなぐ関係で色づいていく青春ラブコメ。クラスメイトなのに気づかれず、いきなり距離感がバグっていてやたらと近い澪奈からのいきなりの告白を女性不信からお断りする夜田。いいと思う部分はあっても異質な存在をなかなか受け入れられない彼は、どこまでも面倒くさい典型的なオタクで、それでもめげない彼女の粘り強いアプローチに徐々に夜田も少しずつ心揺さぶられてゆく、著者さんらしいお互いに少しずつ変わってゆく二人の距離感がなかなか良かったですし、澪奈が気持ちを自覚したことでこれからどうなるのか今後の展開が楽しみです。
迷子の女の子を家まで届けたら、玄関から出て来たのは学年一の美少女でした (富士見ファンタジア文庫)
楠木 のある/古弥月 KADOKAWA 2023年07月20日
何事も普通の陰キャ男子・黒田雄星が、家に届けた迷子の女の子。彼女の姉で学校一の美少女・白河綾乃がお礼をしたいと明るく無邪気に迫ってくる青春ラブコメ。妹を連れてきてくれたお礼に彼女の家で手料理を振る舞ってもらったり、逆に部屋にやってきた彼女に掃除してもらったり、ぐいぐい押してくる彼女の影響で、否応なしにその自堕落な生活も少しずつ変わってゆく雄星。抜け目ない彼のバイト先の後輩・生田友梨奈やオタ友達の今川メイコも絡めた構図は、妹も交えて一緒に綾乃と楽しんだ夏祭りデートが今回のハイライトでしたね。いろいろ頑張る彼女に影響されて、雄星もまた向き合おうと勇気を出し始めた二人の今後に期待です。
ブラコンの姉に実は最強魔法士だとバレた。もう学園で実力を隠せない (富士見ファンタジア文庫)
楓原 こうた/福きつね KADOKAWA 2023年07月20日
自堕落に生きるために実力を隠し、無能のフリをしてきたアルヴィン。しかし溺愛する義姉セシルにうっかり実力を知られた状態で学園に入学する学園ファンタジー。これまで公爵家の面汚しと言われていたのに、姉が弟を自慢しまくるせいで噂は一瞬で広まり、騎士団の入団試験で噂を信じず挑んできた生徒を瞬殺、彼のことを最強魔法士として扱う騎士団長の王女リーゼ。そんな彼らが神隠し事件の捜査に駆り出される中で実力者のはずのセシルが突然行方不明となると、途端に冷静ではいられなくなるアルヴィンもまた彼女のことが大切なんですよね。結果としてどうなったのかは言うまでもありませんが（苦笑）そんな二人の関係がどこまで突き抜けていくのか、今後の展開が楽しみなシリーズですね。
最強ランキングがある異世界に生徒たちと集団転移した高校教師の俺、モブから剣聖へと成り上がる (富士見ファンタジア文庫)
逆霧/東西 KADOKAWA 2023年07月20日
【最強ランキング】により人々の序列が決まる異世界。生徒と転移した高校教師・楠木重人が剣一本で異世界を無双し剣聖へ至る異世界ファンタジー。生徒達がチート能力を得る一方で、年上のために貧弱な能力の重人は順位も遥か下位。それでも魔物群がる生還不能の遺跡へ転移してしまった教え子・君島のため、彼女を追って死地へ赴く重人。規格外の力を秘める転移前から鍛えていた剣術を武器に、君島と助け合いながらの逃避行で育まれる想いがあって、危機的状況からのギリギリの戦いを切り抜けた結果として、思わぬ下剋上により状況が激変しそうですけど、重人たちにはこれからどんな展開が待っているのか今後に期待のシリーズですね。
冴えない社会人、家出ギャルにモテる。 ちょっと距離近すぎませんか? (富士見ファンタジア文庫)
浅岡 旭/Shakkiy KADOKAWA 2023年07月20日
くたびれた社会人・菱田が出会ったのは、家出女子高生・星蘭。家に帰れない事情があって声を掛けてきた行く当てのない彼女を保護するため、なし崩し的に始まる同居生活ラブコメ。布団の中に潜り込んできたり、お風呂上がりに鉢合わせしたり…。自由すぎるけれど、実は意外とピュアなギャルとの日常はドキドキの連続で、いつの間にかそんな日常が当たり前になっていく一方で、職場の同僚にバレそうになって慌てたりする場面もあったりで、様々な出来事を積み重ねていくことでかけがえのない存在になっていった二人だけに、家出したままで捜索願も出されている今の状態をこれからどうするのか、今後の展開が気になるところではあります。
転生王女と天才令嬢の魔法革命7 (富士見ファンタジア文庫)
ヴァンパイアとの決戦を経てドラゴンの力を取り込んだアニス。そんな彼女にユフィリアが魔学のさらなる発展のため、新都市を造り騎士団長就任を要請する第七弾。魔導具普及には実践できる場が必要と考えるユフィリアがアニスに託した願い。それを受け入れて新設した騎士団や仲間を引き連れて新天地に向かうアリス。自分の思いにあまりにも正直なプリシラには笑ってしまいましたが、仲間たちと話し合いながら進める様々な試みや新たな発見もあって、それぞれが自らの目標に向かって試行錯誤したり邁進したり、やはり彼女もお忍びでやってきたりで、これからどういう展開が待っているのか今後の展開が楽しみです。
冥府の花嫁 地獄の沙汰も嫁次第 (集英社オレンジ文庫)
角や霊力を持たないものは差別される冥途十州。ツノナシの翠が奉公先の鬼から折檻されていたところを閻魔庁の冥官・天鴦に助けられる冥界ファンタジー。過重労働の改善や、音信不通となってしまった弟を探すため、閻魔庁へ向かおうとする翠に天鴦が渡した特別な許可証。実は閻魔王だった天鴦の計らいで、仮の花嫁候補扱いとして遇されることになった翠。ここでもやはりツノナシゆえに妬まれたり、陥れられそうにもなることもありましたけど、真っ直ぐな彼女は持っていた不思議な力で危機的な状況を救い、秘されていた出自も明らかになったことで風向きも変わりましたね。弟は果たして見つかるのか、天鴦との関係がこれからどうなるのか今後の展開が楽しみです。
養生おむすび「&」 初めましての具材は、シャモロックの梅しぐれ煮 (集英社オレンジ文庫)
髙森 美由紀/つじこ 集英社 2023年07月20日
青森の長閑で美しい景色の中で営業するキッチンカー「＆」の不愛想な店主の柴田。悩める客一人ひとりのために選んだ具材で、できたてのおむすびをそっと差しだす短編集。再会した相変わらず少食で忙しい小学校時代の同級生・市川に寄り添ってくれた美味しいおむすび。魅せられた彼女も手伝うようになって店の様子も変わっていく中で、お店を訪れてくれる老夫婦だったり、ワカサギ釣りにやってきた先輩とのかけがえの出会いもある一方、ライバルの妨害もありましたけど、お互いに刺激しあって内心認め合うようになっていっても、口ではなかなか素直になれない二人の距離感がなかなか良かったですね。
映画みたいな、この恋を (集英社オレンジ文庫)
のどかな田舎の三ヶ日町の高校に通う、自他ともに認める普通の高校生の実緒。そんなある日、地元が映画のロケ地に決定して、町の誰もが一気に浮き立つ青春小説。俳優を目指している親友の果菜や、動画配信で町おこしをしようと試行錯誤する幼馴染の翔太と、平凡だけど楽しい毎日を送っていた実緒が、裏方でサポートするつもりだったのに、気づけば自身がエキストラとして映画に出演することになってしまう展開で、多くの人の様々な思惑に振り回されながら、意識していなかった気持ちにも気づいて、様々な経験を通じて引っ込み思案だった彼女が自ら意思表示したり、これからのことも少しずつ考えるようにもなってゆく、とても眩しい青春小説でした。
映画化決定 (集英社文庫)
過去に描いたマンガをなかなか超えられず苦悩していた高校生のナオト。そんな彼のもとに学生向けの映画で受賞している同級生の天才女子高生監督ハルから映画化オファーが舞い込む青春小説。最初は小学生の頃に描いたマンガの映画化に乗り気でなかったナオト。しかし映画製作の過程で改めて作品の本質に向き合うことになり、一方で大きな秘密をひた隠しにするハルとぶつかりあいながら絆を深めてゆく展開で、葛藤と情熱が入り交じる形で進行する物語の構図は一見とてもわかりやすくて、だからこそ意外に思えたその結末がじわりと効いてきて上手いなと唸らされました。
