恒例の2022年上半期注目のオススメ新作企画、ライトノベルは絞りきれなくて「青春小説編」「ファンタジー編」で作ることにしました（すいません）その第二弾「ファンタジー編」です。1点だけ12月下旬のものが入っていますが、発売月的には1月発売扱いなのでご容赦いただければと。青春小説編はこちら↓
今回も残り「ライト文芸」「文芸単行本」「一般文庫」を作成予定です。合間を見つけて作っていこうと思いますので、よろしくお願いします。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
1.竜殺しのブリュンヒルド (電撃文庫)
第28回電撃小説大賞＜銀賞＞受賞
東崎 惟子/あおあそ KADOKAWA 2022年06月10日
伝説の島エデンに取り残され、竜の血を浴びながら生きのびた竜殺しの英雄シギベルトの娘ブリュンヒルド。島を守る竜に育てられ愛された娘が、竜を殺したシギベルトへの復讐を誓うファンタジー。竜に娘として育てられ、愛し愛されるようになった十三年後、シギベルトにより遂に竜の命は奪われ、帝国に保護されて軍属となったブリュンヒルド。シギベルトの友人のザックスや兄シグルスとの交流で少しずつ変わってゆくブリュンヒルドが、愛した竜と交わした正しさと赦しを望んだ約束と、その愛ゆえに滾り続ける復讐の想いに葛藤しながら、果たしてその最後で後悔しない選択ができたのか…その何とも深い結末がとても印象に残る物語でした。
2.姫騎士様のヒモ (電撃文庫)
第28回電撃小説大賞
白金 透/マシマ サキ KADOKAWA 2022年02月10日
数多のモンスターと財宝を孕むダンジョンに冒険者たちが挑む灰と混沌の迷宮都市『灰色の隣人』を舞台に、クズな元冒険者でヒモのマシューと、その飼い主で亡国の再興を目指す姫騎士アルウィンの生き様を描くファンタジー。仕事もせず喧嘩も弱い腰抜けで、小遣いを酒と博打で浪費するマシューと、掃き溜めに咲く汚れなき深紅の花で彼を大切な命綱と考える亡国の王女・アルウィン。彼らが巻き込まれるトラブルの中で徐々に明らかになってゆく、それぞれが抱える事情や二人の関係、二人を繋ぐかけがえのない絆。絶望に直面して迷い、葛藤しながらも、大切なもののために生きることを諦めない二人の矜持がなかなか印象的でしたけど、このクソッタレな世界で足掻き続ける二人がこの先いつか希望を見出せるのか、今後の展開が楽しみな新シリーズですね。
3.俺の召喚獣、死んでる (ファンタジア文庫)
第６回カクヨムWeb小説コンテスト異世界ファンタジー部門〈特別賞〉受賞
楽山/深遊 KADOKAWA 2022年02月19日
召喚術師養成学校の苦学生フェイルが喚び出した伝説の召喚獣パンドラは死んでいて、学院トップの王女サーシャに勝つため、チームメイトと共に全く動かない死体を動かす方法を模索するファンタジー。召喚獣なしで仲間たちとともに戦いながら、召喚獣を何とか動かすために試行錯誤を繰り返すフェイル、ふとしたきっかけから彼と交流を持ったサーシャが垣間見せる意外な素顔。フェイルには困った人を放っておけない優しさがあって、何とか召喚獣の活用に希望を見出す中で直面した危機的状況に最後まで諦めず奮闘する熱い展開にはぐっと来るものがありました。これは続巻に期待の新シリーズですね。
4.魔導書学園の禁書少女 少年、共に禁忌を紡ごうか (角川スニーカー文庫)
綾里 けいし/みきさい KADOKAWA 2022年04月01日
魔術師が己の中に本と本棚を持ち、そこに記された≪物語≫を魔術に変えて行使する世界。禁書の主に魅入られた最底辺魔術師の少年レンと禁書を巡る学園ファンタジー。世界で唯一白紙の本を持つロクな魔術が使えない落ちこぼれで、『無限図書館』に歴代最低得点で入学した少年レン。その戦い方に興味を持った訳あり少女のアンネたちと行動を共にするようになって学園で起きる事件に挑む展開で、この世界観の中心となる魔術の位置づけも興味深くて、またそれぞれが何やら事情も抱えていそうなキャラたちもよく動くストーリーはなかなか面白かったです。著者さんらしさもこれからもっと出てきそうな今後に期待の新シリーズですね。
5.コロウの空戦日記 (GA文庫)
第13回GA文庫大賞＜銀賞＞
有能だった独裁者の後継たる息子が無能で、泥沼の戦争から抜け出せないコクト国。とある事情から死ぬために戦闘機乗りになった少女・コロウが、カノーが率いる国内随一の精鋭部隊に配属される空戦ファンタジー。初戦から危険を顧みない飛び方を続けるコロウに気づいて、彼女を安易に死なせないよう監視する仲間たち。圧倒的な戦力差と無謀な命令から戦況が苦しくなる中、来襲する敵爆撃機を迎え撃つ中で明らかになってゆく彼女が抱える事情。コロウの性格や日記形式もあってやや淡々としている印象もありましたが、絶望的な苦境に陥りながらも優しく頼もしい仲間たちと力を併せて、苦しても最後まで諦めなかった彼女たちの熱い戦いとその結末はなかなか良かったですね。
6.純白令嬢の諜報員 改編1.侯爵家変革期 (ファンタジア文庫)
第34回ファンタジア大賞＜金賞＞
あらゆる任務を成功させてきた某国の最高峰諜報員ラプター。そんな彼が唯一心震わせてその結末に絶望した小説『薄幸のロザリンド』の世界に転生してしまう謀略ファンタジー。物語の主人公で最も愛した令嬢ロザリンドが凄惨な末路を辿ることを知っている彼が、大切な従者ニシャを従えて彼女のために奔走する展開で、クズな家族に虐げられているロザリンドへの愛でラプターが時々ヤバい感じもありましたけど、一方で信頼関係を積み重ねながら着々と手を打って逆転の機会を窺う中で垣間見せる彼のしたたかさ、機を逃さずに本懐を成し遂げてみせた結末にはぐっと来るものがありました。
7.悪逆大戦 地獄の王位簒奪者は罪人と踊る (MF文庫J)
綾里 けいし/ろるあ KADOKAWA 2022年03月25日
罪もなく死に地獄で奈落の底まで堕とされてしまった少女・桜花。その行方を追い魂を救済するため、かつて地上へと逃げ出した俊が地獄へ舞い戻ることを決意するダークファンタジー。地獄の王の無力な百八番目の子だった俊が、命がけで七番目の子、美しき怠惰の姫・ネロのもとにたどり着いて助力を乞い、伝説の名だたる悪人を駒として絶望の王位継承戦を戦う展開で、召喚されて俊の代わりに戦うエリザベートや夜長姫、モランたちが見せる矜持とその壮絶な戦いぶりがあって、その間に挿入される桜花とのエピソードから積み重ねられてゆく俊の想いにはぐっと来るものがありました。
8.ラブコメ・イン・ザ・ダーク (MF文庫J)
鈴木 大輔/tatsuki KADOKAWA 2022年05月25日
人生に不満を抱えて、ある日突然夜に見る夢を自由に操る力を手にした少年ジロー。そんな彼の夢に現れた世界のお医者さんを名乗る謎の人物との出会いにより、予期せぬ運命へと導かれる暗黒恋愛譚。夢の中での約束を踏まえて現実の世界で学園に転校してきて、突然恋人宣言した自由奔放な謎の美少女・天神ユミリ。そんな彼女からジローに課された意外なミッションに訝しみながら取り組む中で、彼の置かれている状況がその意味合いをガラリと変えていって、波乱万丈が日常の未だ謎も多い彼女の目指すところはどこにあるのか、二人の関係はこれからどうなるのか、いろいろと続きが気になる新シリーズですね。
9.イレギュラー・ハウンド いずれ×××になるだろう (角川スニーカー文庫)
しめさば/はくり KADOKAWA 2022年04月28日
他人の感情を痛みに感じる能力に嫌気が差して線路に飛び出した安土桃也を止めた謎の少女ハチ。彼女に警視庁特殊捜査班ダイハチに誘われる現代異能クライムサスペンス。表立って動けない事件を秘密裏に捜査する機関で、傲慢で尊大で不思議と魅力的なハチの指示を受け捜査に関わる桃也。彼が新宿で出会うクラスメイトだったはずの、けれど名前も忘れて何もかもを諦めた少女エッチを、身の危険も顧みず何とか救い出そうとするハチの葛藤があって、絶望しか感じられない状況から微かに見えた希望を見事掴み取ってみせたその結末がなかなか印象的な物語でした。もし続巻があるならまた読んでみたいです。
10.明日の罪人と無人島の教室 (電撃文庫)
周藤 蓮/かやはら KADOKAWA 2022年06月10日
機械による未来測定が義務化された世界。将来的に罪を犯す存在「明日の罪人」と判定された少年・湯治夕日が、隔離更生プログラムに集められた同じ境遇の少年少女たちと出会う学園クライムアンサンブル。無人島『鉄窓島』での一年間の共同生活で、将来の潔白証明を課された12人の少年少女たち。未来の予測には未確定要素も多い集団生活の中で起きる事件、その中で浮き彫りにされてゆく参加者の異常性。流石に12人もいると特徴的なキャラを動かすにも流石にやや散漫な印象は否めませんでしたが、物語としてのゴールは提示されているものの、その異常性ゆえに孤独だった彼らが、ある意味無法地帯ともいえる環境でどういった関係性を構築してゆくのか、物語をどんな方向に導いてゆくのか今後の展開に期待です。
11.戦鬼と戦姫の聖災戦争 (MF文庫J)
鏡 遊/我美蘭 KADOKAWA 2022年03月25日
鬼と鬼討。平安時代から千年に亘る宿敵で、現代でも激しい闘争を続ける世界。鬼の始祖の末裔・童貴と伝説の鬼討ライコウの子孫・朱璃が戦いを繰り広げる中でお互いに想い募らせてゆく和風ファンタジー。童貴が転入生として潜入した鬼討の養成機関・学院で目の当たりにする、鬼討の中で突出した戦績を誇りながら、鬼との内通を疑われて鎖で拘束されている朱璃の姿。拗らせた二人の複雑な想いも絡めながら、明らかになってゆく鬼討側の事情、そして彼女を救う手段を考えながら、直面する鬼討失踪事件の真相を探ってゆく展開はギミックも効いていてなかなか面白かったです。朱璃にも謎めいた事情がありそうで、今後に期待の新シリーズですね。
12.聖女に嘘は通じない (アリアンローズ)
日向 夏/しんいし 智歩 フロンティアワークス 2022年05月12日頃
辺境の教会で神官見習いとして働くクロエが、教会を訪れた成金聖騎士エラルドから能力を見込まれ、二年前に起きた神子候補殺人事件の調査に協力するファンタジーミステリ。夜は酒場のカード賭博で荒稼ぎしていた洞察力と記憶力を見込まれ、事件の真相を探るため多額の報酬に釣られて神子候補として潜入するクロエ 。他の候補の事情も探りつつ、時には危険に脅かされながらも、その捜査の過程で明らかにされてゆく二年前の背景。そこから思わぬ盲点もありましたけど、隠されていた真相を見抜いてみせた、たくましくて優しい彼女が迎えるその結末はなかなか良かったですね。
13.暗殺者は黄昏に笑う 1 (オーバーラップ文庫)
第8回オーバーラップ文庫大賞＜金賞＞
メグリくくる/岩崎美奈子 オーバーラップ 2022年01月25日頃
妹を救うために医者となった荻野知聡。異世界転生時に「暗殺者」の天職を授けられ、助手の少女ミルと遺体検視を行うかたわら、『復讐屋』として犯人へ復讐を果たすファンタジーサスペンス。前世での悔いを抱えたまま、望まぬ「暗殺者」の天職を得た知聡が助手のミルと営む『復讐屋』。彼らのもとに持ち込まれる子供の変死体、墓荒らし、魔物に殺された仲間の復讐、腐死者退治、娼婦への伝言、幸運のお守り騒動。知聡の過去やミルとの邂逅も描かれながら、彼らが見届けるほろ苦い事件が何かに導かれるように繋がって、思ってもみなかったその結末にはしばし呆然としましたけど、大切なもののためには微塵も迷わない知聡のありようがとても印象に残る物語でした。
14.マーディスト ―死刑囚・風見多鶴 (角川スニーカー文庫)
半田 畔/灰染 せんり KADOKAWA 2021年12月24日
89人を殺害した死刑囚・風見多鶴。犯行現場の美しさから『マーディスト』と呼ばれ、模倣犯が続く社会問題となるなか、彼女から情報を引き出す交渉役として平凡な大学生・夕木音人が指名されるサイコサスペンス。彼女との水平思考ゲームによって明かされる模倣犯たちの素性、行方不明となっている音人の姉の情報、そして音人を特別視する多鶴の真意。掴みどころのない多鶴が一体何を考えているのか、何かありそうな音人姉の行方含め未だ謎も多いですけど、多鶴の死刑執行が半年後に迫る中、この先どんな結末が用意されているのか続きが楽しみです。
半田 畔/灰染 せんり KADOKAWA 2022年02月01日
『マーディスト』風見多鶴と対話を繰り返す夕木音人が彼女の正体として立てていた一つの仮説。そんな疑念を見透かすように多鶴から新たな提案がされる第二弾。音人につきまとう男と多鶴の遺産を使う者たち、多鶴から整理される遺品整理と自衛隊の介入、多鶴が使った毒物と音人の提案、技術者との邂逅と熱線銃、そして獄中にいる風見多鶴が夕木音人を対話の相手として選んだ理由。散りばめられた伏線を回収するたびに物語はガラリとその構図を変えていって、けれどそこに確かな愛があって、思いもしなかった形で迎えた結末がまた印象的な物語でした。
15.地球外少年少女:前編~地球外からの使者~（ガガガ文庫）
カミツキレイニー/磯 光雄 小学館 2022年02月18日
インターネットも、コンビニもある2045年の宇宙。日本の商業ステーション「あんしん」で出会った少年少女たちが、大きな災害に見舞われるオリジナルアニメのノベライズ。大人とはぐれ、ネットや酸素供給が途絶した「あんしん」に閉じ込められた状態から、自力での脱出を目指す子供たち。仲間たちが自分の得意な知識や経験を活かして、時にはAIの力も借りながら生き延びるための方法を探してゆく展開で、いがみあっていた彼らの中に育まれてゆく絆、そして期せずして史上最高知能AIが語った恐るべき予言の「真意」に迫ってゆく展開はなかなか面白かったです。
カミツキレイニー/磯 光雄 小学館 2022年02月18日
ようやく大人たちと合流を試みる子供たち。しかし商業彗星が破片を撒き散らしながら地球や「あんしん」に衝突しようとしていることを知り、それを何とか阻止しようとする後編。殺処分されたはずのAI・セブン復活を恐れるUN2.1からも攻撃目標と定められながら、大人たちと協力して彗星と接続を試みる子供たちの前に立ちはだかった意外な人物、そしてインプラントの寿命が迫る心葉。ギリギリの局面で何を選択することが最善なのか、運命を受け入れるしかないのか、難しい対応を迫られる展開でしたけど、普通なら諦めてしまうような状況でどこまでも諦めない強い思いが引き寄せた結末、そんな経験から成長してゆく少年少女のその後にはぐっと来るものがありましたね。
16.創成魔法の再現者 1 無才の少年と空の魔女 上 (オーバーラップ文庫)
みわもひ/花ヶ田 オーバーラップ 2022年02月25日頃
価値の優劣を「血統魔法」で決める世界。膨大な魔力を持って生まれた名門貴族の神童エルメスが、代々継承する「血統魔法」を受け継いでいないことから追放されるファンタジー。失意の底で死の淵に立っていた彼の才能を見抜いた伝説の魔女ローズに救われて弟子となり、成長して五年ぶりに王都に帰還したエルメス。再会した幼馴染カティアの窮地を救ってその従者となり、圧倒的な力を背景に横暴でやりたい放題の第二王子やかつての実家と対峙する展開で、全ての魔法を再現する彼の創成魔法が見せるその可能性、そして彼の存在が周囲にも影響を与えて世界が変わり始める展開はなかなか面白かったですね。
17.魔女学園最強のボクが、実は男だと思うまい (電撃文庫)
男だけが騎士になれて、女だけが魔女になれる世界。騎士と魔女が対立する状況で、騎士ユートは騎士団長の兄から、女装して魔女学園に潜入するミッションを与えられてしまう学園ファンタジー。兄の無茶ぶりを断ることができずに男子禁制の魔女学園に転入したユートが出会う、ルームメイトで学級委員長のメイファ、大商会令嬢フラウ、ユートに敵意むき出しのシリカたち。今回過去が明らかになったメイファを始め、ヒロインたちはそれぞれ訳ありそうで、学園には世界を変える魔法の謎があって、それ以外にもまだまだ明らかになっていない設定がいろいろありそうですね。それを彼女たちと一緒に向き合って乗り越える展開には、これからもっと面白くなりそうな期待感がありました。続巻が楽しみな期待の新シリーズです。
18.奇世界トラバース ~救助屋ユーリの迷界手帳 (GA文庫)
紺野千昭/大熊まい SBクリエイティブ 2022年01月15日頃
門の向こうにある未知の世界「迷界」。その迷界で生存困難になった者を救うスペシャリスト「救助屋」ユーリの元に、少女アウラが迷界に向かった親友を救ってほしいと依頼する冒険譚。迷界の深部『ロゴスニア』への危険に満ちた旅路に同行を希望するアウラ。二人が向かった先で遭遇する数々の危険、明らかになってゆくアウラの事情、そして彼女を狙う追跡者の存在。わりとギリギリの展開もあったりしましたけど、独特な生態系の世界観や、倒すだけでなく上手く活用するアイデアだったり、なかなか面白かったですね。
19.紅蓮戦記1 天才魔術指揮官は逃げ出したい (MF文庫J)
芝村 裕吏/エナミ カツミ KADOKAWA 2022年06月24日
魔法戦争で14歳ながら王国史上最高の戦果と功績を挙げた魔術指揮官マクアディ。しかしその連戦連勝をもってしても全体の敗北は止めようがない状況で生き残りを賭ける魔法戦争ファンタジー。祖国は滅亡寸前に追い込まれて、部隊と共に華々しく命を散らし、「悲劇の英雄」として歴史の教科書に載る覚悟を決めたマクアディのもとに託される王女二人。そこからマクアディを意識するヒロインたちの動きも絡めながら、ノリのいい相棒の先任軍曹と協力して生存を模索する展開で、敵には悪魔と呼ばれる辛辣さを見せる一方、非戦闘員や弱者には優しい一面もあるマクアディの悪あがきっぷりが痛快でした。彼がこれからどんな運命を辿るのか、軍事面ではとてつもなく優秀なのに、恋愛ではなぜか鈍いマクアディ相手に、ヒロインたちの想いは報われるのか、またこの物語の続きを読んでみたいと思いました。
20.破滅の魔術師は、人形姫に終焉の恋を捧ぐ (電撃の新文芸)
染井 由乃/睦月 ムンク KADOKAWA 2022年03月17日頃
王国を守る生贄「人形姫」とされた王女コーデリア。しかし慕っている専属朗読師レイヴェルによって国が滅ぼされたと知った彼女が、女神の力によって一年前に戻されるやり直しの物語。悲劇の運命を書き換えるために、心の支えになってくれていたレイヴェルを止めようと決意するコーデリア。彼女に献身的なレイヴェルにもまた複雑な生い立ちがあって、王家と人形姫を巡る秘密も明らかになっていきましたけど、それでも変わらないお互いを慕う気持ちと、どこまでも愚直で使命を果たそうとする真っ直ぐな二人の決意の先にもたらされた意外な結末にはぐっと来るものがありましたね。
21.火群大戦 (ファンタジア文庫)
第34回ファンタジア大賞＜金賞＞
忌み嫌われる火の精霊を宿す少女フィスカ。自らの同胞を殺した仇を探す彼女が、同じ火の精霊の加護を持つ人々の殺し合いを見世物にする共和国最大の祭典<帳>に参加するファンタジー。仇を探すために<帳>に参加するフィスカが出会う、決勝トーナメント出場を決めた曲者揃いで個性豊かな8人の参加者たち。様々な思惑が入り乱れる熱いバトルと、参加者たちに探りを入れながらの仇の相手探しは、思ってもみなかった意外な展開へと繋がりましたけど、四精霊の力を使ってのバトルを絡めながら、明らかになってゆく陰謀に立ち向かう展開とその決着はなかなか良かったです。
22.エンド・オブ・アルカディア (電撃文庫)
第28回電撃小説大賞＜金賞＞
蒼井 祐人/GreeN KADOKAWA 2022年03月10日
戦場で死しては復活する生命再生システム《アルカディア》が生み出され、二大大国が覇権争う戦いの最中、合衆国軍エース秋人と、連邦軍のエリート少女フィリアが地中深く孤立するファンタジー。戦績不振から機密情報の回収任務を命じられた秋人が、因縁の宿敵・フィリアと複体再生不能な地下深くで再会。性格もスキルも正反対で相性最悪な二人が協力して地上への帰還を目指す展開で、その過程で知ってゆくお互いのこと、そして育まれてゆく絆と心境の変化があって、知ってしまう世界の真実、それを打破した彼らのこれからが楽しみな新シリーズですね。
23.幾億もの剣戟が黎明を告げる 1 無敗の剣士と夜を斬る少女 (オーバーラップ文庫)
第8回オーバーラップ文庫大賞＜銀賞＞
御鷹穂積/野崎つばた オーバーラップ 2022年01月25日頃
魔族に支配された闇夜の世界。都市外で魔族と戦い10年生き延びたトオミネ兄妹が、領域守護者ミヤビに才能を見いだされ、守護者養成学校に入学する学園ファンタジー。兄ヤクモは最低クラスの魔力しかない剣士で、血の繋がらない妹アサヒは魔法を持たない欠陥武器。自分たちを育ててくれた人たちを守るため、周囲から無能と蔑まれながらも、訓練生の序列を決める戦いで頂点を目指す展開で、やや愛の重いアサヒが周囲のヒロインに嫉妬する姿はほのぼのとしましたけど、そんな二人が互いを信じて限界を乗り越えて、阿吽の呼吸で学内上位の実力者を撃破し、周囲もまた彼らに少しずつ感化されてゆく展開は面白かったです。二人でどこまで駆け上がっていけるのか、続巻が楽しみな新シリーズです。
24.かつて人だった貴方へ 1.最果ての魔女と葬送士 (オーバーラップ文庫)
紙木織々/かやはら オーバーラップ 2022年04月22日
死した人間が魔物となるエリクシア王国の地下ダンジョン。パーティから戦力外通告を受けた冒険者シオンが、ダンジョンで葬送士の少女アリスレインと出会う覚悟と祈りの物語。魔物となった人の魂を解き放つ唯一の手段「葬送」。全ての魂を救いたいと願う彼女と二人で仲間を集めてパーティを組んだシオン。時にはぶつかり合いながら個性的な仲間たちとの絆を深めていく、そんな彼らが直面する現実はなかなか過酷で、けれど託された思いを胸に見事それを成し遂げたその結末がなかなか印象に残る物語でした。ここからどんな展開を見せてくれるのかこの続きが気になるシリーズです。
25.ソレオレノ（ガガガ文庫）
仲間の裏切りに遭い、牢獄に幽閉されていた冒険者リョウ。絶望的な状況で王の娘センに救われ、古代遺物の『虫樹』を操って奪われた物を取り戻すマシンアクションファンタジー。王の志に共鳴して困難の末に見つけた伝説の古代遺物。それを手に入れた彼を裏切ったかつての仲間たち。裏切り者を呪い続けた十年の月日の後、王の娘・センの手助けで脱獄を果たす展開で、変わり果てた相棒や自分の衰えにショックを受けながら、大切なものを守るため、取り戻すため、因縁の強敵相手に最後まで諦めずに戦いを繰り広げる熱い展開はなかなか面白かったです。これは今後が楽しみな期待の新シリーズですね。
26.私の推しが今日も最高に尊いので、全力で幸せにする! (アイリスNEO)
飴月/Tsubasa.v 一迅社 2022年02月02日頃
前世が限界オタクだった調薬師リゼ。ある日、最推しキャラの公爵家子息メアが道で倒れているのを発見し、自分が大好きだった乙女ゲームの世界だったと気づく推し活ラブコメディ。本来のストーリーを踏まえて問題ないと判断して自分の家にメアを保護し、期間限定のつもりで推しのメアとの同居生活をなりゆきで始めるリゼ。実態は彼女が全力で推しの尊さに心震えているだけの日々だったりもするわけですが、その優しさがだんだんメアの心を揺さぶるようになっていく展開で、迎えた転機にあまり当事者感がなかったリゼをしっかりと囲い込もうとするメアと、環境が変化したことで遅まきながらも心境の変化を自覚してゆくリゼの関係が微笑ましかったですね。
27.100日後に死ぬ悪役令嬢は毎日がとても楽しい。 (GAノベル)
ゆいレギナ SBクリエイティブ 2022年04月15日頃
100日後に死ぬ天啓を神様から受けた公爵令嬢ルルーシェ。その運命は変えることができないと知った彼女が、死に様が美しければ、褒美を欲しいと神様に賭けを申し出るファンタジー。悔いのない優美な最期を迎えるため覚悟を決めた彼女が、恋敵のはずのレミーエに様々な王妃教育を施したり、婚約者の弟・ザフィルドに剣を習ったり、家族の支援を準備したりといろいろ突っ走る展開で、けれど一方で別の視点から語られる真相は全く別の様相を見せていって、婚約者のサザンジールの残念さ加減にはいろいろ突っ込みたくもなりましたが、ここからルルーシェが残り30日をどう生きるのかその生き様に期待。
28.神さま学校の落ちこぼれ (星海社FICTIONS)
神さまがいる世界の現代日本。高校進学を控えたナギのもとに、ある日突然「神さま学校」の合格通知が届く和風学園ファンタジー。自身は入試も受けていないのに、見知らぬ神さまからの推薦枠で合格したらしいナギ。今回は目立った神通力を持たない彼女が、何となく集まった仲間たちと一緒にこの学校らしいオリエンテーションに挑む展開で、仲間たちのそれぞれ事情が見えてきて、実家で引きこもりだったはずの双子の片割れ・たけるの秘密も明らかになって、彼女を気にかける神さま・月読命もいたりと、今後の展開がいろいろ気になる新シリーズですね。
ある日突然、正面入口が異世界に繋がってしまった「異世界居酒屋のぶ」公式式スピンアウトマンガ『異世界居酒屋げん』のノベライズ。ある日突然、正面入口が異世界に繋がってしまった居酒屋げん。一時は店を閉めようとしていたものの、娘のひなたとその恋人である榊原正太郎と共に、異世界で店を開くことを決意する店主の葦村草平。悩み事があったり、美味しいものを食べたくて訪れる客に対して振る舞われる料理はなかなか美味しそうで、草平たちが生み出す料理がみんなを幸せにしてくれる、本当に大切なものは何かを思い出させてくれる、そんな素敵な物語でしたね。
30.双黒銃士と銀狼姫 (講談社ラノベ文庫)
倖月 一嘉/竹花 ノート 講談社 2022年05月02日頃
古の大戦で世界は荒み、人狼に人類が脅かされる時代を二人で生きてきた人狼ハンター《双黒銃士》の双子兄妹コウガとライカ。そんな二人の隠れ家が大量の人狼に急襲されるガンアクションファンタジー。コウガに裏切りを疑われて銃口を向けられたライカを救い、護衛を依頼する人狼王家の銀狼姫と名乗る少女サーリャ。人狼王家の中にある人類共存派と反対派の抗争、人類と人狼の複雑な関係の中で明らかになってゆく双子兄妹の正体。けれど自分の立場を知っても何よりも絆を求めてしまうライカの強い想い、罠と知っていても大切な存在を救うため恐れずに立ち向かう勇気があって、激闘の末に見事引き寄せてみせたその結末はなかなか良かったですね。
