毎年恒例の「このライトノベルがすごい」、今年も9月に投票を開始すると思いますが、それに向けて例年通り投票対象期間中に発表された新作ライトノベルのうち、自分が読んでオススメしたいと思った作品を紹介することにしました。今回はファンタジー編ということ30作品を紹介しています。
今回は掲載の便宜上、枠組みを「青春小説」「ファンタジー」の2つにざっくり分けただけなので周辺ジャンル的な作品もそれぞれ収めています。予めご了承下さい。
青春小説編はこちら↓
投票や新規開拓の参考になれば幸いです。
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
1.王様のプロポーズ 極彩の魔女 (ファンタジア文庫)
三○○時間に一度、滅亡の危機を迎える世界を救ってきた最強の魔女で魔術師が通う学園の長・久遠崎彩禍。殺された初恋の少女を救うため、玖珂無色が学園に編入するファンタジー。死に間際の彩禍に一目惚れして、彼女の身体と力を引き継いだ無色。彼女の従者・黒衣の指示で彩禍として誰にもバレないよう学園に通うことを指示され魔術を学ぶ展開でしたけど、一体化した彩禍への想い至上主義の無色と黒衣のやりとりが楽しくて、妹ちゃんは兄が大好きなツンデレで、明らかになってゆく世界の構図もなかなか面白くて、これは続巻に期待しかありませんね。現在2巻まで刊行。
2.変人のサラダボウル (ガガガ文庫)
異世界で追い詰められて転移してきた魔術を操る皇女サラと、尾行中に出会った貧乏探偵・鏑矢惣助。なし崩し的に惣助の事務所兼住居で同居生活を始めたサラが、彼の仕事に興味を覚えて探偵業を手伝い始める物語。あっという間に現代日本に馴染んでゆくサラと、サラを追いかけて転移してきて、まさかのホームレス生活を送る女騎士リヴィア。幼女風鬼畜弁護士だったり、別れさせ工作員など、惣助の周囲には油断ならない関係者がいる一方で、順応性の高い異世界人二人が思わぬ形で波紋を投げかけてゆく展開はなかなか楽しかったですね。現段階ではややとりとめのない群像劇といった印象で、物語の方向性としては現時点でカオスですが、ポテンシャルの高い続巻に期待したくなる新シリーズです。現在3巻まで刊行。
3.竜殺しのブリュンヒルド (電撃文庫)
第28回電撃小説大賞＜銀賞＞受賞
東崎 惟子/あおあそ KADOKAWA 2022年06月10日
伝説の島エデンに取り残され、竜の血を浴びながら生きのびた竜殺しの英雄シギベルトの娘ブリュンヒルド。島を守る竜に育てられ愛された娘が、竜を殺したシギベルトへの復讐を誓うファンタジー。竜に娘として育てられ、愛し愛されるようになった十三年後、シギベルトにより遂に竜の命は奪われ、帝国に保護されて軍属となったブリュンヒルド。シギベルトの友人のザックスや兄シグルスとの交流で少しずつ変わってゆくブリュンヒルドが、愛した竜と交わした正しさと赦しを望んだ約束と、その愛ゆえに滾り続ける復讐の想いに葛藤しながら、果たしてその最後で後悔しない選択ができたのか…その何とも深い結末がとても印象に残る物語でした。
4.姫騎士様のヒモ (電撃文庫)
第28回電撃小説大賞
白金 透/マシマ サキ KADOKAWA 2022年02月10日
数多のモンスターと財宝を孕むダンジョンに冒険者たちが挑む灰と混沌の迷宮都市『灰色の隣人』を舞台に、クズな元冒険者でヒモのマシューと、その飼い主で亡国の再興を目指す姫騎士アルウィンの生き様を描くファンタジー。仕事もせず喧嘩も弱い腰抜けで、小遣いを酒と博打で浪費するマシューと、掃き溜めに咲く汚れなき深紅の花で彼を大切な命綱と考える亡国の王女・アルウィン。彼らが巻き込まれるトラブルの中で徐々に明らかになってゆく、それぞれが抱える事情や二人の関係、二人を繋ぐかけがえのない絆。絶望に直面して迷い、葛藤しながらも、大切なもののために生きることを諦めない二人の矜持がなかなか印象的でしたけど、このクソッタレな世界で足掻き続ける二人がこの先いつか希望を見出せるのか、今後の展開が楽しみな新シリーズですね。現在2巻まで刊行。
5.チルドレン・オブ・リヴァイアサン 怪物が生まれた日 (電撃文庫)
新 八角/白井 鋭利 KADOKAWA 2022年08月10日
環太平洋沖に突如現れ、多くの人命を奪い海域を支配した謎の巨大生物レヴ。通常兵器では歯が立たないレヴを相手に、死骸から生み出す《ギデオン》に乗る子供たちが戦うファンタジー。地方の民間ギデオンとして働く高校生・善波アシトと幼馴染の宮園エリン。そして戦闘指導官として出向してきた国連軍のエリート風織ユアとの邂逅。初めは衝突しすれ違う中で育まれてゆく確かな信頼関係や、大人の事情に憤る彼らの葛藤や決意があって、まだまだ謎も多いレヴを相手に制約も少なくない中でギリギリの状況で戦い続けるアシト、そして決して諦めない彼女たちの物語がこれからどうなるのかまた読んでみたいと思いました。
6.ルーン帝国中興記(GA文庫)
あわむら赤光/Noy SBクリエイティブ 2021年12月15日頃
お忍びの一つの酒席で運命の出会いを果たした斜陽の帝国に不満を抱える皇帝、将軍、商人。その場の売り言葉に買い言葉で帝室秘伝の魔法を使い、立場を入れ替えて適材適所に響き合うシャッフル戦記ファンタジー。商人セイは皇帝となって民のための善政を目指し、皇帝ユーリは将軍として膠着する北部戦線の打開、戦場に飽いた将軍グレンは平穏な日々を求めて一年間その立場を替える展開でしたけど、それぞれがままならない状況に直面しながらも、三者三様の才幹で局面を打破してみせるストーリーはなかなか痛快で、それぞれの持ち味が存分に発揮されてとても魅力的に描かれていました。激動の展開はまだまだ続きそうで、ここからどんな展開が待っているのか続巻に期待の新シリーズですね。現在2巻まで刊行。
7.創成魔法の再現者 (オーバーラップ文庫)
みわもひ/花ヶ田 オーバーラップ 2022年02月25日頃
価値の優劣を「血統魔法」で決める世界。膨大な魔力を持って生まれた名門貴族の神童エルメスが、代々継承する「血統魔法」を受け継いでいないことから追放されるファンタジー。失意の底で死の淵に立っていた彼の才能を見抜いた伝説の魔女ローズに救われて弟子となり、成長して五年ぶりに王都に帰還したエルメス。再会した幼馴染カティアの窮地を救ってその従者となり、圧倒的な力を背景に横暴でやりたい放題の第二王子やかつての実家と対峙する展開で、全ての魔法を再現する彼の創成魔法が見せるその可能性、そして彼の存在が周囲にも影響を与えて世界が変わり始める展開はなかなか面白かったですね。現在3巻まで刊行。
8.ラブコメ・イン・ザ・ダーク (MF文庫J)
鈴木 大輔/tatsuki KADOKAWA 2022年05月25日
人生に不満を抱えて、ある日突然夜に見る夢を自由に操る力を手にした少年ジロー。そんな彼の夢に現れた世界のお医者さんを名乗る謎の人物との出会いにより、予期せぬ運命へと導かれる暗黒恋愛譚。夢の中での約束を踏まえて現実の世界で学園に転校してきて、突然恋人宣言した自由奔放な謎の美少女・天神ユミリ。そんな彼女からジローに課された意外なミッションに訝しみながら取り組む中で、彼の置かれている状況がその意味合いをガラリと変えていって、波乱万丈が日常の未だ謎も多い彼女の目指すところはどこにあるのか、二人の関係はこれからどうなるのか、いろいろと続きが気になる新シリーズですね。現在2巻まで刊行。
9.英雄と魔女の転生ラブコメ（講談社ラノベ文庫）
前世で人類を救った『英雄』の記憶を持つ平凡な高校生・白石護道。しかし同じ転生者で、かつて異世界を災厄に陥れた『魔女』だった少女・椎名麻衣の転入によって平凡な日々が一変する青春ラブコメディ。一見大人しい美少女に見えて、実際にはコミュ障でポンコツな一面を見せる麻衣が語る二人が転生した理由。どこか孤独な彼女を護道は放っておけなくて、けれどそんな護道のありようを危惧する麻衣がいて、そんな不器用な二人の関係を後押してくれる幼馴染ヒロインがいい感じに効いてましたね。こじらせた魔女に真っ向からぶつかって、運命共同体とも言える存在になった二人がこれからどうなるのか、解決方法は見つけられるのか続きが気になりますね。全2巻。
10.俺の召喚獣、死んでる (ファンタジア文庫)
第６回カクヨムWeb小説コンテスト異世界ファンタジー部門〈特別賞〉受賞
楽山/深遊 KADOKAWA 2022年02月19日
召喚術師養成学校の苦学生フェイルが喚び出した伝説の召喚獣パンドラは死んでいて、学院トップの王女サーシャに勝つため、チームメイトと共に全く動かない死体を動かす方法を模索するファンタジー。召喚獣なしで仲間たちとともに戦いながら、召喚獣を何とか動かすために試行錯誤を繰り返すフェイル、ふとしたきっかけから彼と交流を持ったサーシャが垣間見せる意外な素顔。フェイルには困った人を放っておけない優しさがあって、何とか召喚獣の活用に希望を見出す中で直面した危機的状況に最後まで諦めず奮闘する熱い展開にはぐっと来るものがありました。これは続巻に期待の新シリーズですね。
11.コロウの空戦日記 (GA文庫)
第13回GA文庫大賞＜銀賞＞
有能だった独裁者の後継たる息子が無能で、泥沼の戦争から抜け出せないコクト国。とある事情から死ぬために戦闘機乗りになった少女・コロウが、カノーが率いる国内随一の精鋭部隊に配属される空戦ファンタジー。初戦から危険を顧みない飛び方を続けるコロウに気づいて、彼女を安易に死なせないよう監視する仲間たち。圧倒的な戦力差と無謀な命令から戦況が苦しくなる中、来襲する敵爆撃機を迎え撃つ中で明らかになってゆく彼女が抱える事情。コロウの性格や日記形式もあってやや淡々としている印象もありましたが、絶望的な苦境に陥りながらも優しく頼もしい仲間たちと力を併せて、苦しても最後まで諦めなかった彼女たちの熱い戦いとその結末はなかなか良かったですね。
12.霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない（ガガガ文庫）
幽世のものに触れる異能をもつ藤咲藤花が、かつて従者だった青年・藤咲朔とともにもたらされた事件解決に挑む物語。「かみさま」になり損なった結果ニートと化して霊能探偵の看板を掲げる藤花と、彼女に寄り添いお世話する朔。そんな二人が挑む内蔵落下連続殺人事件、誰かが殺されると予告する少女の真意、見えない友達の真実、人魚姫の自殺の悲しい真相、元「かみさま」候補たちが次々と殺される理由。二人のゆるいやりとりとシリアスな事件のギャップがなかなかいいアクセントとして効いていましたけど、過去に向き合って乗り越えてみせた二人の絆がとても印象的な物語でした。現在2巻まで刊行。
13.魔導書学園の禁書少女 少年、共に禁忌を紡ごうか (角川スニーカー文庫)
綾里 けいし/みきさい KADOKAWA 2022年04月01日
魔術師が己の中に本と本棚を持ち、そこに記された≪物語≫を魔術に変えて行使する世界。禁書の主に魅入られた最底辺魔術師の少年レンと禁書を巡る学園ファンタジー。世界で唯一白紙の本を持つロクな魔術が使えない落ちこぼれで、『無限図書館』に歴代最低得点で入学した少年レン。その戦い方に興味を持った訳あり少女のアンネたちと行動を共にするようになって学園で起きる事件に挑む展開で、この世界観の中心となる魔術の位置づけも興味深くて、またそれぞれが何やら事情も抱えていそうなキャラたちもよく動くストーリーはなかなか面白かったです。著者さんらしさもこれからもっと出てきそうな今後に期待の新シリーズですね。22年10月に2巻目刊行予定。
14.想いの重なる楽園の戦場。そしてふたりは、武器をとった (ファンタジア文庫)
鴉 ぴえろ/みきさい KADOKAWA 2022年08月20日
お互いを認めつつ、それぞれの目的をもって千年都市の象徴である巫子を目指すレーネとセスカ。努力家と天才型の少女たちがそれぞれの夢と理想を追い求めるファンタジー。お節介だけど明るい努力家のレーネと孤高を貫くクールな天才のセスカ。普段は同じ部屋で暮らす二人による巫子を決める熱い最終決戦の決着。巫女になったからこそ知るショッキングな事実があって、レーネを思うセスカとのすれ違いもありましたけど、それでも諦められない思いをぶつけ合って、ルルナやジョゼットとも協力しながら、行き詰まった状況を変えていこうとする彼女たちの物語をまた読んでみたいと思いました。
15.純白令嬢の諜報員 (ファンタジア文庫)
第34回ファンタジア大賞＜金賞＞
あらゆる任務を成功させてきた某国の最高峰諜報員ラプター。そんな彼が唯一心震わせてその結末に絶望した小説『薄幸のロザリンド』の世界に転生してしまう謀略ファンタジー。物語の主人公で最も愛した令嬢ロザリンドが凄惨な末路を辿ることを知っている彼が、大切な従者ニシャを従えて彼女のために奔走する展開で、クズな家族に虐げられているロザリンドへの愛でラプターが時々ヤバい感じもありましたけど、一方で信頼関係を積み重ねながら着々と手を打って逆転の機会を窺う中で垣間見せる彼のしたたかさ、機を逃さずに本懐を成し遂げてみせた結末にはぐっと来るものがありました。現在2巻まで刊行。
16.戦鬼と戦姫の聖災戦争 (MF文庫J)
鏡 遊/我美蘭 KADOKAWA 2022年03月25日
鬼と鬼討。平安時代から千年に亘る宿敵で、現代でも激しい闘争を続ける世界。鬼の始祖の末裔・童貴と伝説の鬼討ライコウの子孫・朱璃が戦いを繰り広げる中でお互いに想い募らせてゆく和風ファンタジー。童貴が転入生として潜入した鬼討の養成機関・学院で目の当たりにする、鬼討の中で突出した戦績を誇りながら、鬼との内通を疑われて鎖で拘束されている朱璃の姿。拗らせた二人の複雑な想いも絡めながら、明らかになってゆく鬼討側の事情、そして彼女を救う手段を考えながら、直面する鬼討失踪事件の真相を探ってゆく展開はギミックも効いていてなかなか面白かったです。朱璃にも謎めいた事情がありそうで、今後に期待の新シリーズですね
17.双翼無双の飛竜騎士 (GA文庫)
飛竜騎士学校に通う少年フェリドが出会った、小さな天竜と契約する少女ウィンディ。落ちこぼれの烙印を押されて、処分寸前の相棒を守りたいと願う彼女に、最強の騎士に育て上げることを約束するファンタジー。かつて自分を救ってくれた竜騎士に憧れて目標としながら、戦えない最弱の地竜と契約しているフェリド。自らの持つポテンシャルの高さでウィンディを教えながら、学園最強のカレンと因縁の相手・ドラン姉弟との模擬戦、さらには危機的状況に直面する展開で、フェリドとウィンディの距離感もなかなか微笑ましかったですが、苦しい戦いでも二人で育んできたその絆をお互い信じて決して諦めない、そんな真っ直ぐで熱い想いが引き寄せた結末にはぐっと来るものがありました。
18.ある魔女が死ぬまで－終わりの言葉と始まりの涙－(電撃の新文芸)
坂/コレフジ KADOKAWA 2021年12月17日頃
十七歳の誕生日。師匠から呪いで一年の余命宣告を受けた見習い魔女メグ。呪いを解く方法は人の嬉し涙を千粒集めて『命の種』を生み出すことだけ。メグは閉じていた自分の世界を広げ、たくさんの人と関わっていく物語。親友フィーネの大切な時計、死神に魅入られてしまったおばあちゃん、メグにかけがえのないものを感じてくれた英知の魔女や祝福の魔女との出会い、そして嬉し涙を集めようとするあまりに忘れかけていた大切なこと。ポジティブで優しくて、時には迷いながらもそれでも人のために頑張ってしまう、だからこそ周囲の人たちに愛されているメグが、これからどんな人たちと出会って成長してゆくのか、彼女が頑張る温かい物語をまた読んでみたいと思いました。
19.悪逆大戦 地獄の王位簒奪者は罪人と踊る (MF文庫J)
綾里 けいし/ろるあ KADOKAWA 2022年03月25日
罪もなく死に地獄で奈落の底まで堕とされてしまった少女・桜花。その行方を追い魂を救済するため、かつて地上へと逃げ出した俊が地獄へ舞い戻ることを決意するダークファンタジー。地獄の王の無力な百八番目の子だった俊が、命がけで七番目の子、美しき怠惰の姫・ネロのもとにたどり着いて助力を乞い、伝説の名だたる悪人を駒として絶望の王位継承戦を戦う展開で、召喚されて俊の代わりに戦うエリザベートや夜長姫、モランたちが見せる矜持とその壮絶な戦いぶりがあって、その間に挿入される桜花とのエピソードから積み重ねられてゆく俊の想いにはぐっと来るものがありました。
20.手札が多めのビクトリア (MFブックス)
守雨/藤実 なんな KADOKAWA 2022年07月25日頃
ハグル王国の凄腕元工作員だったクロエが、信頼していた上司の裏切りをきっかけに組織から姿を消して、隣国アシュベリー王国の一般市民ビクトリアとして普通の幸せを目指す人生修復物語。入国初日に邂逅する母親に捨てられたノンナ、そして彼女の身元引受人となってくれたジェフリーの存在。ノンナを育てながら研究の助手や語学の家庭教師などで周囲の信頼を得てゆくヴィクトリアの有能っぷりが際立っていて、自らを危険に晒すことも厭わずに窮地に陥った人たちを助けずにはいられない真っ直ぐで毅然としていた彼女が、そのありようから多くの人に慕われているのも分かるような気がしました。新天地での活躍にも期待しています。
21.破滅の魔術師は、人形姫に終焉の恋を捧ぐ (電撃の新文芸)
染井 由乃/睦月 ムンク KADOKAWA 2022年03月17日頃
王国を守る生贄「人形姫」とされた王女コーデリア。しかし慕っている専属朗読師レイヴェルによって国が滅ぼされたと知った彼女が、女神の力によって一年前に戻されるやり直しの物語。悲劇の運命を書き換えるために、心の支えになってくれていたレイヴェルを止めようと決意するコーデリア。彼女に献身的なレイヴェルにもまた複雑な生い立ちがあって、王家と人形姫を巡る秘密も明らかになっていきましたけど、それでも変わらないお互いを慕う気持ちと、どこまでも愚直で使命を果たそうとする真っ直ぐな二人の決意の先にもたらされた意外な結末にはぐっと来るものがありましたね。
22.マーディスト ―死刑囚・風見多鶴 (角川スニーカー文庫)
半田 畔/灰染 せんり KADOKAWA 2021年12月24日
89人を殺害した死刑囚・風見多鶴。犯行現場の美しさから『マーディスト』と呼ばれ、模倣犯が続く社会問題となるなか、彼女から情報を引き出す交渉役として平凡な大学生・夕木音人が指名されるサイコサスペンス。彼女との水平思考ゲームによって明かされる模倣犯たちの素性、行方不明となっている音人の姉の情報、そして音人を特別視する多鶴の真意。掴みどころのない多鶴が一体何を考えているのか、何かありそうな音人姉の行方含め未だ謎も多いですけど、多鶴の死刑執行が半年後に迫る中、この先どんな結末が用意されているのか続きが楽しみです。
半田 畔/灰染 せんり KADOKAWA 2022年02月01日
『マーディスト』風見多鶴と対話を繰り返す夕木音人が彼女の正体として立てていた一つの仮説。そんな疑念を見透かすように多鶴から新たな提案がされる第二弾。音人につきまとう男と多鶴の遺産を使う者たち、多鶴から整理される遺品整理と自衛隊の介入、多鶴が使った毒物と音人の提案、技術者との邂逅と熱線銃、そして獄中にいる風見多鶴が夕木音人を対話の相手として選んだ理由。散りばめられた伏線を回収するたびに物語はガラリとその構図を変えていって、けれどそこに確かな愛があって、思いもしなかった形で迎えた結末がまた印象的な物語でした。
23.イレギュラー・ハウンド いずれ×××になるだろう (角川スニーカー文庫)
しめさば/はくり KADOKAWA 2022年04月28日
他人の感情を痛みに感じる能力に嫌気が差して線路に飛び出した安土桃也を止めた謎の少女ハチ。彼女に警視庁特殊捜査班ダイハチに誘われる現代異能クライムサスペンス。表立って動けない事件を秘密裏に捜査する機関で、傲慢で尊大で不思議と魅力的なハチの指示を受け捜査に関わる桃也。彼が新宿で出会うクラスメイトだったはずの、けれど名前も忘れて何もかもを諦めた少女エッチを、身の危険も顧みず何とか救い出そうとするハチの葛藤があって、絶望しか感じられない状況から微かに見えた希望を見事掴み取ってみせたその結末がなかなか印象的な物語でした。もし続巻があるならまた読んでみたいです。
24.明日の罪人と無人島の教室 (電撃文庫)
周藤 蓮/かやはら KADOKAWA 2022年06月10日
機械による未来測定が義務化された世界。将来的に罪を犯す存在「明日の罪人」と判定された少年・湯治夕日が、隔離更生プログラムに集められた同じ境遇の少年少女たちと出会う学園クライムアンサンブル。無人島『鉄窓島』での一年間の共同生活で、将来の潔白証明を課された12人の少年少女たち。未来の予測には未確定要素も多い集団生活の中で起きる事件、その中で浮き彫りにされてゆく参加者の異常性。流石に12人もいると特徴的なキャラを動かすにも流石にやや散漫な印象は否めませんでしたが、物語としてのゴールは提示されているものの、その異常性ゆえに孤独だった彼らが、ある意味無法地帯ともいえる環境でどういった関係性を構築してゆくのか、物語をどんな方向に導いてゆくのか今後の展開に期待です。22年10月に2巻目刊行予定。
25.ネームレス・レコード (MF文庫J)
涼暮 皐/GreeN KADOKAWA 2022年07月23日
進化し過ぎた機械生命群に人類が滅亡の危機にあるとある惑星。教会の「予言の英雄」に選ばれなかった青年レリンが、謎の機械少女ウルと運命的な出会いを果たす未来ファンタジー。誰もが認める優秀な圏外探索者ながら、突出したものがない器用貧乏で英雄には指名されなかったレリン。彼が圏外で出会ったウルから聞かされる人類滅亡の未来、そこから彼女と挑む人知れず世界を救うためのミッション。ウルはなぜ現れたのか、謎や制約も多いまま想像を絶する困難が待ち構える展開で、それでも決して諦めないレリンの奮闘があって、覚悟を決めた彼がウルとともにどんな未来を打破していくのか続巻がとても楽しみな期待の新シリーズです。
26.ブロークン 落陽騎士は偽り姫に凱旋を捧ぐ (ファンタジア文庫)
柳実 冬貴/岩本 ゼロゴ KADOKAWA 2022年08月20日
太陽の消失と救世の英雄の暴走という悲劇の連鎖で闇に包まれた世界。民無き国を守り続ける最後の騎士イグルーと、偽りの王女を演じるイオリアが運命の出会いを果たすダークファンタジー。闇に呑まれた城跡で主君の帰還を待ちわびていたイグルーに自らが王女フレイリアだと偽り、とある悲願を胸に秘めて祖国復興のために英雄討伐を命じるイオリア。集まってきた一癖ある存在ばかりの常軌を逸した個人たちを使って、かつての英雄を討伐しようとする女帝セレスの思惑とイオリアとの因縁、そして情け容赦のない激闘の末に苦い過去に決着をつけて、自らの過去とも決別したイオリアの覚悟の先に何があるのか期待の新シリーズですね。
27.アマルガム・ハウンド 捜査局刑事部特捜班 (電撃文庫)
駒居 未鳥/尾崎 ドミノ KADOKAWA 2022年07月08日
自律型魔導兵器アマルガムが大陸戦争を支えた近未来。捜査官の青年テオが、人型アマルガムの少女イレブンとバディを組んでテロリストたちとの戦いに挑む近未来バトルアクション。戦争終結後に逃亡したアマルガムを見つけるため、テオの特別捜査チームに所属することになった人型兵器の少女。因縁からアマルガムへ複雑な思いを抱き、彼の猟犬たらんとするイレブンのありように戸惑いながら敵を追うテオ。最初はどこか噛み合わなかった二人が、認識を摺り合せながら一緒に危機を乗り越えて、背中を預けられるバディに最適化させてゆく不器用な絆とその理由にはぐっと来るものがありました。これは今後に期待の新シリーズです。22年9月に2巻目刊行予定。
28.SICK: -私のための怪物- (ガガガ文庫)
第16回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞
精神世界〈ゾーン〉に侵入する異能を持ち、概念生命体フォビアを殺す少女・叶音。その探偵事務所に視線恐怖症を患った少女が助けを求めにやってくるダーク・サイコアクション。少女の〈ゾーン〉に潜った叶音が遭遇する、物語によって恐怖を育てる謎の奇術師の存在。その激しい戦いの中で精神を摩り減らし、奇術師によって暴かれてしまう彼女がひた隠しにしていた過去の真実。絶望と恐怖にまみれた混沌の中で、もうひとつの過去と執着も明らかになっていって、希望を信じ続けることができなかった、その心の弱さが招いた結末は何とも厳しいものでしたけど、それでも戦い続けることを選んだ彼女たちの決意がなかなか印象的な物語でした。
29.暗殺者は黄昏に笑う (オーバーラップ文庫)
第8回オーバーラップ文庫大賞＜金賞＞
メグリくくる/岩崎美奈子 オーバーラップ 2022年01月25日頃
妹を救うために医者となった荻野知聡。異世界転生時に「暗殺者」の天職を授けられ、助手の少女ミルと遺体検視を行うかたわら、『復讐屋』として犯人へ復讐を果たすファンタジーサスペンス。前世での悔いを抱えたまま、望まぬ「暗殺者」の天職を得た知聡が助手のミルと営む『復讐屋』。彼らのもとに持ち込まれる子供の変死体、墓荒らし、魔物に殺された仲間の復讐、腐死者退治、娼婦への伝言、幸運のお守り騒動。知聡の過去やミルとの邂逅も描かれながら、彼らが見届けるほろ苦い事件が何かに導かれるように繋がって、思ってもみなかったその結末にはしばし呆然としましたけど、大切なもののためには微塵も迷わない知聡のありようがとても印象に残る物語でした。現在2巻まで刊行。
30.幾億もの剣戟が黎明を告げる (オーバーラップ文庫)
第8回オーバーラップ文庫大賞＜銀賞＞
御鷹穂積/野崎つばた オーバーラップ 2022年01月25日頃
魔族に支配された闇夜の世界。都市外で魔族と戦い10年生き延びたトオミネ兄妹が、領域守護者ミヤビに才能を見いだされ、守護者養成学校に入学する学園ファンタジー。兄ヤクモは最低クラスの魔力しかない剣士で、血の繋がらない妹アサヒは魔法を持たない欠陥武器。自分たちを育ててくれた人たちを守るため、周囲から無能と蔑まれながらも、訓練生の序列を決める戦いで頂点を目指す展開で、やや愛の重いアサヒが周囲のヒロインに嫉妬する姿はほのぼのとしましたけど、そんな二人が互いを信じて限界を乗り越えて、阿吽の呼吸で学内上位の実力者を撃破し、周囲もまた彼らに少しずつ感化されてゆく展開は面白かったです。二人でどこまで駆け上がっていけるのか、続巻が楽しみな新シリーズです。現在2巻まで刊行。
