何か企画を作ろうと思い立って、そういえばこれまでライトノベルの単巻ものの年度企画は作ったことがなかったなと思い、試しに作ってみようと思いました。
しかし実際に作ってみると実感するのですが、読んでいる中で作ろうとすると思ったよりも母数自体が少ないですね。1冊できれいにまとまっている面白い本はたくさんあったんですが、いつの間にか次々と続刊予定が決まっていたりと、つくづく今のライトノベルはシリーズもの中心なんだな…というのを実感しています。もっと単巻もの出してもいいと思うんですけどね。
そんな事情もあってとりあえず今回は10作品をセレクトしています。流石にこれくらいの点数で企画を作るとだいたいどれ読んでもクオリティが高いです(苦笑)
1.君を失いたくない僕と、僕の幸せを願う君 (電撃文庫)
高校一年の夏。晴丘蒼がようやく自覚した恋心を告げた日、最愛の幼馴染・天ヶ瀬一陽が告げた返事。運命を変えるため、彼女を取り戻すためにタイムリープを繰り返す青春小説。小さい頃から一緒にいるのが当たり前だった幼馴染・一陽との関係。そんな彼女が友人になった涼夜蛍と蒼をくっつけようとしたり、らしさを失っていった理由。彼女の切なすぎる覚悟と、それでも諦めない蒼のループの繰り返しには壮絶なものがありましたけど、二人の確かな絆が厳しい試練を乗り越えさせましたかね。背景にあったもうひとつのエピソードもなかなか良かったです。
2.きのうの春で、君を待つ (ガガガ文庫)
引っ越した先の東京でうまく行かず、かつて住んでいた離島・袖島に家出してきた船見カナエが、幼馴染だった保科あかりと再会。時間を遡る現象「ロールバック」に巻き込まれる青春小説。カナエが巻き込まれた飛ばされた四日後から夕方6時になると一日ずつ遡るロールバック現象。遡る中で明らかになってゆくあかりの兄・彰二の死とあかりの恋心と兄への複雑な思い。ひたむきに頑張ってきたからこそ、失われたものの喪失感も大きくて、けれど何とかしようと懸命だったカナエの奔走が、未来への希望を引き寄せる展開にはぐっと来るものがありました。
3.世界一かわいい俺の幼馴染が、今日も可愛い (ファンタジア文庫)
幼馴染・浅倉凛に片想いしながらも、なかなか告白できずにいる高校生・米倉透。ネットから小説家を目指す彼が、SNSに思いを発信したひとつの想いから、クールな彼女態度が変わりはじめる青春ラブコメディ。お弁当を作ってくれるようになったり、映画を見に行ったり少しずつ変わる二人の関係。少しずつ積み上げてきた想いに応えたいがゆえの透の焦燥。かつて透にたびたび救われきた凛という過去が、頑張ろうとして空回りする彼を凛が見守って支える構図に繋がっていて、支え合って成長してきた二人が迎える結末にはぐっと来るものがありましたね。
4.星降る夜になったら (MF文庫J)
省エネで適当な日々を過ごす花菱准汰。彼が卒業に必要な補習のために向かった美術室で、ただひとりの美術部員・渡良瀬佳乃と運命の出会いを果たす青春小説。准汰が目をそらせなかった絵に真っすぐに向き合う佳乃の姿。不器用な佳乃がずっと抱いてきた悔恨とずっと忘れなかった幼き日の約束があって、一見正反対な二人が育んでゆく不器用な想いは何とも儚くて、彼女を大切に想う人たちの優しい願いはひとつの未来を垣間見せてくれましたけど、何よりも大切な人のために祈ってしまう人たちのがもたらした結末が、何とも切なくて印象に残る物語でした。
5.サンタクロースを殺した。そして、キスをした。 (ガガガ文庫)
聖夜を間近に控えて街も浮き立つ12月初旬。先輩にフラれて絶望していた大学生の僕が、クリスマスをなくせるという高校生らしい一人の少女と出会う青春小説。少女が持つ『望まない願いのみを叶える』ノートの存在。ノートの力で消すためにはクリスマスを好きになる必要があり、少女と疑似恋人になった僕。共に過ごすうちに変わってゆく心境があって、それぞれが心残りを解消していった先で明らかになってゆくもう一つの物語があって、思ってもみなかったクリスマスの真相とその結末、そしてそんな二人が見出したかすかな希望が印象的な物語でした。
6.このぬくもりを君と呼ぶんだ (ガガガ文庫)
オゾン層が破壊され人々が地下に住むようになった世界。地下都市に住む十六歳の少女・レニーが、サボリ魔の不良少女・トーカと出会う近未来青春小説。周りに溢れるフェイクを嫌ってリアルを探しているレニーと、他の友人とは違うトーカと過ごすようになる日々、空から降ってきた謎の球体「太陽の欠片」。閉鎖的な空間に生きる人々の意識と、不器用ゆえにすれ違ってゆく二人、そして不安を抱えるレニーと太陽の欠片の行方がどこに行き着くのかドキドキしながら読みましたが、しっかりと向き合い希望ある未来に繋がってゆく優しくて素敵な物語でした。
7.雪の名前はカレンシリーズ (講談社ラノベ文庫)
冬時間から転生生物が襲来するオリガ戦没記念都市。過去に失敗し底辺を彷徨う四季オリガミが、心を代償にして迎撃する人工天使の赤朽葉カレンと運命的な出会う終末ファンタジー。心を取り戻したいカレンと付き合うことになったオリガミと、カレンと同じく人工天使としていずれ死ぬ定めにある幼馴染や義妹たちとの関係。彼女たちの想いと覚悟が垣間見えるからこそ、ネガティブなオリガミには共感するのが難しかったですが、絶望な状況でも希望を見出そうとした彼女たちの奮闘がもたらしたもうひとつの結末には、どこか救われた気持ちになりましたね。
8.ネクラとヒリアが出会う時 (ファンタジア文庫)
学校イチのイケメンと評判の佐倉と天使の生まれ変わりと名高い美少女・西園寺。見た目とは裏腹に人見知りな性格の二人が、息抜きに行った図書室で、お互いの顔を知らないまま交流を始める青春小説。イケメンだけど中身はコミュ障の佐倉と、家柄良い美少女ゆえ噂先行で遠巻きにされ友達がいない実は庶民派の西園寺ゆりえ。そんな二人が第二図書室でネクラくん・ヒリアちゃんを名乗ってのかけがえのない交流と密かに募らせる想い、うっかり正体を知ってしまった戸惑いと葛藤を乗り越えて自分たちらしい関係を築いてゆく展開はなかなか良かったですね。
9.いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら (MF文庫J)
いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら(1)
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永菜 葉一/なび KADOKAWA 2020年08月25日頃
可愛い妹と暴力的な父。アンバランスな家庭を守るためアルバイトに明け暮れ、将来のことなんて考えられなかった柊海人。そんな海人が小説の世界の素晴らしさを説く神楽坂朱音と運命の出会いを果たす青春小説。人生を変えるきっかけとなった朱音との出会い。何もかもが対照的なライバル・天谷浩太。歪な想いに囚われた朱音を巡る三角関係も絡めつつ、彼らの創作活動を軸として展開してゆくストーリーで、絶望的な状況に陥って小説を書くことを諦めかけた時も叱咤してくれる仲間がいて、大切な気持ちを胸に戦うことを選んだ彼らの姿が印象的でしたね。
10.それでも、好きだと言えない (講談社ラノベ文庫)
夏の終わりに事故に遭いかけた有馬悠人を救ってくれた記憶喪失の幽霊の少女・レイナ。彼女に取り憑かれた悠人が、成仏させるために記憶を取り戻す手助けをする青春小説。人付き合いが苦手な悠人が手がかりを探す過程で得た憧れの白浜美波との繋がり。レイナに支えられながら少しずつ自分を出せるようなって、周囲との関わりも変わってゆく悠人。意外なところから明らかになった過去でしたけど、レイナのために奔走する悠人の言葉にできない、彼女と積み重ねてきた想いが切なくて、残してくれた大切なものを胸に生きる悠人の姿が印象的な物語でした。
...とここまで作ってライトノベルの単行本の存在をすっかり忘れていたのに気づいたので、ここから1冊削るのも忍びなく、おまけで1冊紹介しておきます。
ボクは再生数、ボクは死
しがない会社員の狩野忍は世界最大のVR空間サブライム・スフィアで世界最高の美少女シノとなり、VR世界で恋をした高級娼婦ツユソラに会うため、過激で残酷な動画配信で再生数と金を稼ぐことを決意する近未来小説。会社の先輩・斉木みやびと組んで過激な動画配信で注目を集める彼らの舞台裏は何ともシュールで、イメージと現実とのギャップには苦笑いでしたけど、殺伐とした世界観の中で刹那的な恋のために生きるシノが、仲間たちとともにのし上がってゆく過程で見出してゆく確かな絆と、そんな彼らが迎えた結末にはぐっと来るものがありました。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。