読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2018年10月に読んだ新作おすすめ本

10月に読んだ新作おすすめ本です。先ほどのエントリーに続刊シリーズ中心とか書いていましたが、新作もわりと読んでましたね(あれ)ラノベ以外はわりと周回遅れな感でどんどん積み上がっているのが自分の首を締めている感もありますが、これだというものを厳選しているつもりなので頑張って読むしかないですね(苦笑)

 

今月の注目としては、これからの展開に期待できそうなスニーカー文庫「毒舌少女のために帰宅部辞めました」、単行本サイズの「女衒屋グエン」「遊牧少女を花嫁に」、阿部暁子さんの「どこよりも遠い場所にいる君へ」の姉妹作品「また君と出会う未来のために」、メディアワークス文庫「アオハル・ポイント」、瀬川コウさんの新シリーズ「君と放課後リスタート」単行本から「青少年のための小説入門」と「永遠についての証明」あたりですかね。気になる本があったら是非読んでみて下さい。

毒舌少女のために帰宅部辞めました (角川スニーカー文庫)

毒舌少女のために帰宅部辞めました (角川スニーカー文庫)

 

 帰宅部生活を謳歌していた高校生・榊木彗が、美人教師の赤草先生から問題児・日羽アリナの毒舌を更生しろと命じられて放課後一緒に過ごす日々が始まる青春小説。毒舌で周囲を寄せ付けないアリナとそれをさらっと受け流す彗が、放課後に二人で一緒に彼女のコミュ力向上のため部活動や生徒会を手伝う日々。第一印象は最悪だった二人のやりとりが少しずつ変わってゆく中、アリナが密かに抱えている事情が明らかになる転機もあったりで、まだまだこれからな彼らの距離感がこれからどう変わってゆくのか、これは続巻に期待したくなる新シリーズですね。

 辺境の貧乏領地を治める若き領主アルトが偶然召還した刻の精霊クロノ。彼女と半強制的に契約を結び未来を書きかえることのできる歴史書を手に入れたアルトが、楽に暮らしたいという夢を叶えるため動き出す歴史ファンタジー。歴史書には書いても実現不可能なことは消えてしまう制約がある中、思いとは裏腹に様々な試行錯誤が必要な状況で着実な手を打てる才幹がアルトにあって、緊張感のある展開に幼馴染エレナや王女といったヒロインを絡めてゆくストーリーは面白かったです。ここからどこまで盛り上げていけるか今後に期待大の新シリーズですね。

どらごんコンチェルト! 1 (オーバーラップ文庫)

どらごんコンチェルト! 1 (オーバーラップ文庫)

 

 コンクールで前代未聞の失敗を犯してしまい、失意の底で意識を失い異世界で目覚めた遊佐響也。そんな響也を助けたトランペットの演奏者の少女フィリーネのために、竜楽師試験に合格するために手助けをする異世界音楽ファンタジー。18世紀の神聖ローマ帝国っぽい、でもいろいろ細かいところが違う異世界。教会の妨害を受けながらも、才能に溢れるフィリーネとの出会いでお互い刺激し合い、支えてくれる少女たちもいたりで危機を乗り越え、自分らしさを取り戻してゆく展開はなかなか良かったですね。著者さんらしさ溢れる作品で続刊にも期待ですね。

俺はアリスを救わないことに決めた (講談社ラノベ文庫)

俺はアリスを救わないことに決めた (講談社ラノベ文庫)

 

 かつて孤独の淵で悪魔的魅力を持つ少女・有栖に救われ、遊び飽きたおもちゃのように捨てられた立川誠が、忘れられない彼女への複雑な想いに壊れてゆく物語。奔放で誠をいいように振り回し一方的に主導権を握る有栖との関係。彼女を憎み復讐を誓う一方で手に入らない彼女を渇望して壊れてゆく誠、そんな彼が出会った良くも悪くも正直で誠を諦めない少女・りる。どちらのヒロインもベクトルが違うだけで振り回されそうな予感しかしませんが、基本的にその三角関係が軸になりそうな展開の中、抗いがたい有栖との関係にどう決着をつけるのか続巻に期待。

理想の彼女と不健全なつきあい方 (ファミ通文庫)

理想の彼女と不健全なつきあい方 (ファミ通文庫)

 

 大学一年の春、幼馴染の春菜に誘われ郷土史研究会のコンパに参加した陸生。そこで出会った海音寺美優がネットで話題のコスプレイヤー「μ」であることに気付き、二人で秘密の契約を結ぶラブコメディ。趣味をひた隠す美優のためにサークル旅行中のイベント参加を陰ながらサポートしたり、活動に反対する彼女の姉を説得するべく奔走する中で育まれてゆく二人の信頼関係がいいですね。そんな二人の距離感にやきもきする春菜を絡めたラブコメ模様はメインではなかったのか、これからなのか気になるところですが、この続きをまた読みたいと思いました。 

女衒屋グエン (星海社FICTIONS)

女衒屋グエン (星海社FICTIONS)

 

 とある花街のとある一角。妓館『太白楼』を舞台に春をひさいで生きている妓女たちそれぞれの人生と、都から届いた一通の文が妓館の運命を揺るがしていく物語。ワケありの冴えない女買いの男・虞淵と下働きの醜い少女・翡を物語の軸に据えて、旦那に売られた女や、兄が科挙を受ける学費のために売られた少女たちのこれまでの人生と葛藤が描かれていて、たくましく生きてきた矜持を失わない彼女たちのありようと、これまでの流れを踏まえて虞淵と複雑な過去に繋がってゆく最後の展開にはぐっと来るものがありますね。一琳のその後の話も印象的でした。

遊牧少女を花嫁に (PASH! ブックス)

遊牧少女を花嫁に (PASH! ブックス)

 

 借金代わりに叔父に売られそうになっていた羊飼いの少女・アユを救った調停者一族ユルドゥスの青年・リュザール。ワケありな彼女を見かねて一族の遊牧地に連れ帰って始まる二人の新婚物語。故郷で虐げられ何もかも失い希望を見出せなかったアユと、周囲の勘違いをきっかけに彼女を意識するようになってゆくリュザール。風習の違う環境で気遣ってくれる彼や家族に彼女も美味しい料理を振る舞って、お互い少しずつ絆を育んで想いを積み重ね大切な存在へと変わってゆく展開がとてもいいですね。二人がこれからどんな夫婦になってゆくのか続巻にも期待。

 

また君と出会う未来のために (集英社オレンジ文庫)

また君と出会う未来のために (集英社オレンジ文庫)

 

 小学校三年生の頃、遠い未来に時間を超えたことがある仙台の大学生・支倉爽太。未来で出会った年上の五鈴を忘れられずアルバイトに明け暮れる爽太が、過去から来た人にあったことがあるという八宮和希と出会うもうひとつの物語。前作から数年後の世界で、忘れられない人との再会を渇望する爽太と和希の出会いあって、彼と向かった采岐島で再会した面々が懐かしくて。ふとしたきっかけからたどり着いた意外な真実に、それでも覚悟を決めて向き合う爽太のひたむきな想いには心打たれるものがあって、諦めなかった彼らの今後を応援したくなりました。 

アオハル・ポイント (メディアワークス文庫)

アオハル・ポイント (メディアワークス文庫)

 

 頭を殴られてその人を評価するポイントが頭上に見えるようになってしまった高校生・青木。それをひた隠して無難に生きてきた彼が、クラスで浮いている少女・春日と出会って変わってゆく青春小説。憧れの成瀬との関係に自信を持てずにいる一方で、好きな人と釣り合う存在になるべく変わってゆく春日に対する認識が少しずつ確実に変わってゆく青木。不安で空回りしてしまう彼らの行動は痛々しくて、それでも理不尽な目に遭う大切な人のために一生懸命で、遠回りしながらも素直に向き合えるようになった等身大な彼らのありようはとても心に響きました。

前略、初恋の彼女が生き返りました。 (メディアワークス文庫)

前略、初恋の彼女が生き返りました。 (メディアワークス文庫)

 

大学三年生になった自分の前に突然現れた、高校生のときに交通事故で死んだはずの片思いの少女・皇カノン。やり残したことがあるという彼女とともに過ごす数日の同棲生活を描く青春小説。ようやく死を受け入れたばかりのタイミングで現れた片思いだった彼女と再会し、共に過ごすうちに変わってゆく心境。藤二とカノンの二人に宏が加わって、三人で一緒に過ごすようになった高校時代、少しずつ変わっていったその関係。甘酸っぱくほろ苦い彼らの繊細な三角関係が巧みな構図で描かれていて、彼女の想いが未来へと繋げてゆくほんのり切ない物語でした。

威風堂々惡女 (集英社オレンジ文庫)

威風堂々惡女 (集英社オレンジ文庫)

 

 その出自から瑞燕国で虐げられる尹族の少女・玉瑛。皇帝が発した「尹族国外追放」の勅命により屋敷を追われ命を失った彼女が、謀反を起こして虐げられる原因となった皇帝の愛妾・柳雪媛として目覚める中華幻想復讐譚。未来を変えるため柳雪媛として過去をやり直すことになった玉瑛と、その護衛役に任命された生真面目な若き武人・王青嘉の因縁の出会い。お互いの真意を知らずに反発し合っていたはずの二人がいつの間にか奇妙な縁で紡がれていって、二人だけにしか分からない何とも複雑な感情を育んでゆくこの主従の絆に期待したい新シリーズですね。

京都伏見は水神さまのいたはるところ (集英社オレンジ文庫)

京都伏見は水神さまのいたはるところ (集英社オレンジ文庫)

 

東京のめまぐるしい生活に馴染めず祖母の暮らす京都・伏見の蓮見神社に引っ越してきた女子高生のひろ。幼馴染で造り酒屋の息子・拓己にも再会した彼女に不思議な声が届くあやかし物語。拓己や以前彼女と約束を交わした白蛇「シロ」に見守られながら、少しずつ新しい生活に馴染んでゆくひろ。「水神の加護」「小野小町の恋」「桃亭の恋模様」「雷神の子」と様々なあやかし絡みの事件に関わってゆく展開に、それにひろと拓己の繊細な距離感だったり、ひろを気にかけるシロの存在もいい感じに絡んでいて、続刊あるようなら是非また読んでみたいですね。

とっておきのおやつ。: 5つのおやつアンソロジー (集英社オレンジ文庫)

とっておきのおやつ。: 5つのおやつアンソロジー (集英社オレンジ文庫)

 

青木祐子「レンタルフレンド」、阿部暁子「たぬきとキツネと恋のたい焼き」、久賀理世「明日のおもひでフレンチトースト」、小湊悠貴「悪友と誓いのアラモード」、椹野道流「おじさんと俺」とおやつをテーマに5人の著者が綴る短編集。いずれも最近の著作は追いかけている作家さんたちですが、読んでみるとそれぞれの著者さんらしさがあって、でも久賀理世さんの現代ものは読んだのもしかして初めてでしたかね?父がいきなり脱サラしてたいやき屋を始めてしまった娘の悲哀と出会いを描いた「たぬきとキツネと恋のたい焼き」が個人的には好きでした。

農村ガール! (メディアワークス文庫)

農村ガール! (メディアワークス文庫)

 

営業として月見食品に就職した華の勤務先は秋田の山奥にある営業所。赴任初日に熊に襲われた華が偶然職場の上司に救われ、仕事では思ってもみなかった獣害駆除を任されるお仕事小説。農村ガールというより契約農家のお仕事もお手伝いしつつ害獣駆除をお仕事とする展開はちょっと新鮮でしたけど、実際に猟銃を撃つとなると実際に従事するまでの手続きはいろいろ煩雑なんですね。最悪の出会いから始まった上司との関係の変化や、体育会系思考の都会人・華が手痛い失敗をしながらもそれを乗り越えて成長してゆく姿が描かれていてなかなか良かったです。

猫と狸と恋する歌舞伎町(新潮文庫)

猫と狸と恋する歌舞伎町(新潮文庫)

 

男子大学生のふりをして気ままに生きるオスの三毛猫・谷中千歳は恋に落ちた。ドーナツ屋さんの女の子・愛宕椿に正体を明かせず悩む千歳が、実は彼女が歌舞伎町の任侠団体の組長の娘であることを知る青春小説。娘と別れさせた組長に衝撃的な事実を知らされて、嫌々ながらも仕事の依頼を引き受けた千歳が直面する何とも世知辛い現実。けれど複雑な思いを抱く千歳とは対照的に、椿は思っていたよりもずっと自分の幸せを追求することに貪欲でしたたかで、巻き込まれたけれどこれはこれで悪くないのかな?と思わなくもない結末に少し救われました(苦笑)

鍵のかかった部屋 5つの密室 (新潮文庫nex)

鍵のかかった部屋 5つの密室 (新潮文庫nex)

 

本来ネタバレ厳禁の作中トリックを先に公開してミステリを書くという難題に、5人の犯人が鍵をかけて隠した5つの「秘密」を解き明かす競作アンソロジー似鳥鶏、友井羊、彩瀬まる、芦沢央、島田荘司が同じお題で特色あるミステリを展開してゆく連作短編集で、ミステリ研に提示された密室盗難、大叔母が遺した密室の謎、突然別れを告げた春の正体、薄着の女の密室トリック、サンタクロースの密室トリックと、著者さんたちの遊び心が感じられたり、解明された過去の思い出や真摯な想いにぐっと来たりする作品ばかりで十分に楽しむことができました。

 

 

君と放課後リスタート (文春文庫)

君と放課後リスタート (文春文庫)

 

とある高校の「理想の三組」と呼ばれたクラスで、全員突然記憶喪失となる事態が発生。そんな状態で発生する謎に叉桜澄と九瀬永一の学級委員コンビが挑み解き明かしてゆく学園ミステリ。完全にリセットされた状態からスマホに残された情報などをもとに再構築されていく人間関係の機微があって、空気が読めない真っ直ぐな叉桜と彼女を危ういと感じつつも目が離せない九瀬の背景もまた複雑で、様々な人間模様を目の当たりにしてゆく二人の関係がどう変わってゆくか、そして未だ記憶喪失の原因も判明していなかったりで続刊が楽しみな新シリーズですね。

プリンセス刑事 (文春文庫)

プリンセス刑事 (文春文庫)

 

女王が国を統べる日本というパラレルワールドを舞台に、王位継承権を持つキャリアとして着任した王女・日奈子が新人刑事とコンビを組んで「ヴァンパイア」の連続殺人事件に挑む警察小説。最初は一般人としての感覚や刑事としての経験に乏しい日奈子とコンビを組むことになって振り回されていた所轄の若手刑事・直斗が、彼女の事件解決に対する強い意志に感化されて協力するようになってゆく展開で、日奈子の強い信念と彼女を応援する多くの人に支えられながらの事件解決でしたけど、このコンビが活躍する物語の続きをまた読んでみたいと思いました。

王とサーカス (創元推理文庫)

王とサーカス (創元推理文庫)

 

新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智が、編集者から海外旅行特集の協力を頼まれて事前調査のためネパールに向かい、そこで国王をはじめとする王族殺害事件が勃発し巻き込まれてゆく物語。今回は取材先のネパールで非常事態に巻き込まれる状況で、混乱のさなかで関係者の死体に直面する万智。わりとスケールの大きな話になるのかと思ったら、同時期に起きた死を取り上げるか否か、というジャーナリズムの本質を迷える彼女自身が問われる展開で、ほろ苦い真実に対して自分なりに真摯に向き合おうとする彼女らしい決断がとても印象に残った結末でした。 

僕は僕の書いた小説を知らない (双葉文庫)

僕は僕の書いた小説を知らない (双葉文庫)

 

交通事故で一日ごとに記憶がリセットされ、新しいことを覚えられないという症状を抱えている小説家の岸本アキラ。そんな状況で不安と戦い葛藤しながら小説を書き進めるアキラの物語。毎朝自分が書いた引き継ぎを読みながら、試行錯誤して小説を書き続けるアキラとカフェで働く翼との出会い。サッパリした彼女とのやりとりが刺激になり書き上げていく小説に込められていった思い。まさかの急展開にはもどかしくなりましたけど、それでも諦めなかったアキラの挑戦と、失われていた間の出来事が次第に明らかになってゆく結末はとても良かったですね。

君の思い出が消えたとしても (宝島社文庫)

君の思い出が消えたとしても (宝島社文庫)

 

理解されづらい持病を抱え、仕事もうまく行かず自暴自棄になりかけていた遠藤が出会う思い出コーディネーターの月尾。彼女と過ごす一ヶ月間が描かれる物語。月尾から指摘されるあと一ヶ月の寿命と、思い出を寿命に変えられるという話。そんな遠藤が彼女と共に過去の思い出の悔いを解消していったり、楽しい日々を過ごしていゆくなかでの心境の変化。だからこそ分かりやすい存在に思わせて、意外と謎めいた部分も多い彼女の正体や、抱える秘密が焦点になってゆく展開でしたが、思わぬ真実にもあくまで可能性を信じた二人が迎えた結末は印象的でした。

三度目の少女 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

三度目の少女 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

 

 原因不明のトラウマによって他者を否定できない大学生・関口藍が、ゼミの担当教授に前世の記憶を持つ中学一年生の伊藤杏寿を紹介され、彼女の記憶を巡る謎を追うミステリ。前世・前々世の記憶を持つ杏寿が、教授の紹介で藍と前世の木綿子の生家を訪れて直面した当主・昌一の毒殺事件。運命に導かれるように出会った彼らが疑問を解消しつつ真相に迫る展開は、昔殺された木綿子の事件の真相も追う関係上消去法寄りのアプローチになりましたが、意外な急展開によって過去から解き放たれて、事件を解き明かしてゆく杏寿らの推理はなかなか良かったです。

外資のオキテ (角川文庫)

外資のオキテ (角川文庫)

 

英語を使う仕事に憧れて一念発起して会社を辞め、語学留学を決行した貴美子。帰国後直面する現実と、悪戦苦闘の転職活動の末に何とか決まった米系企業で外資での一歩を歩み始めるリアルお仕事成長物語。帰国してみれば外資系企業では語学留学は留学と認められない現実。キャリアアップを目指し派遣社員として外資系企業で働き始めた貴美子が経験してゆく様々な仕事には充実感も翻弄されることもあって、外資系に対する周囲のイメージとのギャップもあったりで、外資系企業の勤務が長い著者の経験を活かしたリアルな描写がとても印象的な一冊でした。

真実は間取り図の中に 半間建築社の欠陥ファイル (角川文庫)

真実は間取り図の中に 半間建築社の欠陥ファイル (角川文庫)

 

 亡き父と同じ大工になった環奈がようやく就職した半間建築社。けれど建物に関する謎ばかりが持ち込まれ、建築士の半間とともに建物にまつわる謎を解き明かす建築ミステリ。謎の増改築を繰り返す老婦人、巨人の幽霊が出る旅館、古い公衆トイレを彼氏と言い張る女子高生、恩師の新居に込められた想いなど、欠陥案件というより建物絡みの謎といった印象で、最後で明らかになってゆく環奈父の過去と建築社設立の経緯を知って怠惰なだけに見えていた半間の印象は少し変わったものの、普段のぐうたら生活自体はこれからもあまり変わらなそうですね(苦笑)

ビストロ三軒亭の謎めく晩餐 (角川文庫)

ビストロ三軒亭の謎めく晩餐 (角川文庫)

 

セミプロの舞台役者だった神坂隆一が、姉・京子の紹介で来る人の望みを叶える魔法のような店『ビストロ三軒亭』でギャルソンとして働くことになるグルメミステリ。奇妙な客の荷物と残した料理の謎、仲違いを解決した七面鳥の栗詰め、チーズたっぷりな試食会にやってきた三人の大食い魔女の事情、シェフが作れないキッシュに隠された秘密。若きオーナーシェフ・伊勢が作る料理はとても美味しそうで、隆一をサポートしながら悩めるお客様に真摯に寄り添う個性豊かな先輩ギャルソンたちがいて、隆一の成長も最後の話のその後もまた読んでみたいですね。

マイ・フーリッシュ・ハート (河出文庫)
 

 パワハラ&激務のせいで仕事中に倒れた広告代理店で働く25歳の井川優子。超変わり者の精神科医・小畑に振り回されたりと散々な彼女が、日本人初のメジャーリーガー・マッシー村上を巡る摩訶不思議なエピソードと出会う物語。周囲からこれでいいのかという状況を押し付けられるストレスに苦しめられていた優子。人生のどん底と思えるような最悪の状況から、マッシー村上のエピソードを知るうちにその心境も変わっていって、前向きに一歩を踏み出してゆく展開はなかなか良かったですね。巻末の村上雅則氏のインタビューもなかなか興味深かったです。

マダラ: 死を呼ぶ悪魔のアプリ (集英社文庫)

マダラ: 死を呼ぶ悪魔のアプリ (集英社文庫)

 

三人の大学生が互いに殺し合う不可解な事件から始まり、世界中に急速に拡散してゆく不可解な殺人事件や自殺の数々。その原因となった殺人アプリ「マダラ」が作られた経緯と、それを追う人々のことを綴る近未来サスペンス。人を殺さずにはいられなくなるアプリを開いてしまった人たちが引き起こす凄惨な事件と、アプリの存在に気付き対策を講じようとする人たちの奮闘と悲劇が描かれる物語でしたが、そう簡単には止められないアプリによって世界がすっかり変容しても、少しずつでも希望を見いだせる可能性を提示した結末には救われる思いがしました。

 

青少年のための小説入門 (単行本)

青少年のための小説入門 (単行本)

 

中学2年だった一真が万引きを強要された現場でヤンキーの登と出会い、幼い頃から自由に読み書きができなかった彼と共に小説家を目指す青春小説。文字を読むのには苦労する登が一真に小説の朗読をしてもらって、彼が頭の中に湧き出すストーリーを一真が小説にする日々。そして一真が出会った少女・かすみとのほのかな恋。二人で多くの印象的な作品を読みながらコンビで小説家を目指すべく試行錯誤を続ける二人が、作家になってから少しずつ歯車が狂ってゆく展開はもどかしくて、けれどそんな彼らのままならない青春にはぐっと来るものがありました。

永遠についての証明

永遠についての証明

 

 特別推薦生として協和大学の数学科にやってきた瞭司と熊沢、そして佐那。眩いばかりの数学的才能で周囲の人生を変えていった瞭司の運命の出会いと失意、彼の遺した研究ノートから熊沢がその想いに再び向き合う物語。仲間と得た成果に希望を見出す瞭司と、突出した成果がそれぞれが別の道を選ぶきっかけとなってしまう皮肉。瞭司と仲間たちのすれ違いは残念でしたが、彼が遺した研究ノートに見出した可能性が、形は変わっても失われていなかったそれぞれの想いを再び繋げていって、それが新たな希望を紡いでゆく展開にはぐっと来るものがありました。

友情だねって感動してよ

友情だねって感動してよ

 

 願いを叶えてくれる青木神社を軸に据えて三人の男女が紡ぐ崩壊と再生の軌跡を描く6つの連作短編集。三人の幼馴染の複雑な距離感、幼馴染の女の子が同級生をいじめる理由、巫女のバイトをする女子高生と友人を巡る三角関係、彼の言いなりだった彼女が惹かれた男、留年大学生と別れた彼女への思い、彼女と付き合い始めた彼が気になる同級生と、三角関係の優越感と卑屈な思いが入り交じる不安定な距離感が描かれていて、大切な存在を失いたくないという想いが生々しくて、切なくほろ苦いけれどそれだけでは終わらない読後感はなかなか良かったですね。

ペットシッターちいさなあしあと

ペットシッターちいさなあしあと

 

ペットの死の瞬間を正確に予知し、最期を看取る不思議なペットシッター「ちいさなあしあと」。岩手県盛岡市にあるこの特異な会社の社長・陽太の視点で描かれる「みとりし」のもうひとつの物語。動物の言葉が分かる薫と同様に、同じ事故に遭遇してにおいで生き物の死期が分かるようになってしまった陽太の難儀な人生。それはもう淡々としてしまうのも無理はないなと思いましたけど、そんな彼が天職を見出して、そこで薫と再会できたことでお互い救われる部分もいろいろあったんだろうなと感じられて、二人のその後がまた読んでみたいと思いました。