読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2018年12月に読んだ新作おすすめ本

12月に読んだ本にはなかなか興味深い新刊が目白押しでした。オーバーラップ文庫久しぶりの青春小説「虐殺スペック赤三月さんと低スペック九木野瀬くん」やMF文庫Jの「聖語の皇弟と魔剣の騎士姫」は今後に期待の新シリーズで、「かぐや様は告らせたい」「憂国のモリアーティ」のノベライズも良かったですし、三田千恵さんの「あの日、恋に落ちなかった君と結婚を」(メゾン文庫)やオレンジ文庫新潮文庫nexの挙げた作品も期待していいと思います(というかライト文芸レーベルの掲載作品はみんな良かったです)。新レーベル一二三文庫の「隣の席の佐藤さん」も注目の一冊で、ポプラ文庫ピュアフルから「アンドロイドの恋なんて、おとぎ話みたいってあなたは笑う?」、角川文庫から「准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき」あたりも読んで欲しい一冊です。全体的に読んで良かったなと思える作品が多かった一ヶ月でした。

 

虐殺スペック赤三月さんと低スペック九木野瀬くん plan.1 (オーバーラップ文庫)

虐殺スペック赤三月さんと低スペック九木野瀬くん plan.1 (オーバーラップ文庫)

 

たまたま虐殺スペックな女子高生・赤三月朝火の自殺を阻止した低スペックの九木野瀬伊吹。翌朝、朝火から脅迫されて『人生の攻略本作り』を手伝わされる青春小説。容姿端麗の人気者で多才な朝火の素の性格はわりとあれで、低スペックと言われる九木野瀬は屈折した現実主義の努力家。まずは周囲に妬まれて孤立する下級生・黒花(彼女もいい性格w)が直面する困難の克服に協力する展開でしたが、何だかんだでわりといいコンビっぷりを見せた二人はそれぞれ事情を抱えているようで、その関係が今後どう変わってゆくのか続巻に期待大の新シリーズです。

キミのこと黒歴史もまとめて……ぜーんぶ大好きだよ (角川スニーカー文庫)

キミのこと黒歴史もまとめて……ぜーんぶ大好きだよ (角川スニーカー文庫)

 

意外と可愛い館崎栞奈のネット上での黒歴史をうっかり知ってしまった直後に告白された先名櫂。先名もまた黒歴史を彼女に知られていて、忘れたい過去を知る者同士の恥ずかしい青春ラブコメネゲットを嫌って告白を速攻で断った館崎の変わりたいという思いを、内心無理だとは思いつつ応援する先名。試行錯誤する中で意外な趣味から友人もできた館崎が直面する突然の暗転と、そのままにできなかった先名に突きつけられた皮肉な真相もまたほろ苦い青春だったりで、遠回りはしたけれどいろいろ向き合えるようになってゆく結末はなかなか良かったですね。

黒獅子城奇譚 (ダッシュエックス文庫)

黒獅子城奇譚 (ダッシュエックス文庫)

 

旅の途中で雷雨に襲われ、黒獅子城と呼ばれる古い砦に逃げ込んだ放浪の騎士グレンと神官を装う魔術師のリュー。そこで同じく雨宿りする先客たちと出会い、陰謀に巻き込まれてゆく物語。視察を終えた騎士たち三人と義眼の老騎士、商人一家、吟遊詩人、町娘との一夜限りだったはずの出会い。老騎士殺害から続く惨劇と、不穏な雰囲気の中で明らかになってゆく複雑に絡み合ったそれぞれの関係。大人な関係にあるワケありな二人が事件を解決に導いてゆく展開は著者さんの新境地ですかね。目的があって旅を続ける二人のその後をまた読んでみたい作品です。

聖語の皇弟と魔剣の騎士姫 ~蒼雪のクロニクル~ I (MF文庫J)

聖語の皇弟と魔剣の騎士姫 ~蒼雪のクロニクル~ I (MF文庫J)

 

「聖語」と呼ばれる言語体系が魔法の如く物理世界を書き換える時代。史上最強の聖語騎士たった姉の教えを受けた少年・カレンとその幼馴染・雪音に、とある事件の真相を探るよう極秘任務が下される魔法学園ファンタジー。複雑な立ち位置ゆえに目立たたぬよう過ごすカレンと、彼に寄り添う学年首席の雪音、そして彼を慕う留学生・カロリーナ。そんな三角関係が軸かと思った矢先の急展開、疑心暗鬼にもなりかねない状況の中で、ギリギリの戦いを切り抜けた先にあった結末がまた業が深そうで、どういう物語になってゆくのか今後に期待の新シリーズです。 

第六皇女殿下は黒騎士様の花嫁様 1 (ヒーロー文庫)

第六皇女殿下は黒騎士様の花嫁様 1 (ヒーロー文庫)

 

隣国との戦争が近づく中で第七師団師団長アレクシスに留学先から救出されたリーデルシュタイン帝国の第六皇女ヴィクトリア。見た目幼女な彼女が年上で強面の黒騎士アレクシスに降嫁するファンタジー。印象的な出会いと降って湧いたヴィクトリアの結婚話。実は相当なポテンシャルを秘めたヴィクトリアの迷いなき決断に、怖がられて女性に縁がなかったアレクシスも最初戸惑い気味でしたけど、やりとりを重ねていく中で育まれていった信頼する君主に絶対の忠誠を誓う騎士のごとき関係がここからどう変わるのか、二人で行う辺境伯領経営も楽しみです。 

 

かぐや様は告らせたい 小説版 ~秀知院学園七不思議~ (JUMP  jBOOKS)
 

体育祭前の知られざる物語が明らかになる、相手から告白させようと日常の全てで権謀術数の限りを尽くす物語の小説版。生徒会室に届いた一通の脅迫状らしき手紙を発端として勃発した頭脳戦、藤原がGMを務めるTRPGでの攻防、七不思議に呪われる石上、謎めいたかぐやの宣言から始まった学園内での指輪探し。マンガと活字の違いのせいかマンガほど勢いは感じなかったですが雰囲気は十分にあって、緻密に積み上げてゆく頭脳戦の数々はこういう形でも面白かったです。柏木さんと二人だけの世界を作ってしまう彼氏、名前覚えられてないですね(苦笑)

憂国のモリアーティ: “緋色”の研究 (JUMP  jBOOKS)

憂国のモリアーティ: “緋色”の研究 (JUMP jBOOKS)

 

憂国のモリアーティ』本編では描かれなかったオリジナルエピソードを収録した小説版連作短編集。酒場での賭けポーカーでモランのイカサマを見抜いた男に興味を持つウィリアム、任務で飼育することになった熱帯魚に熱を上げるルイス、アルバートとモランのワインの飲み比べ対決、ジョンがシャーロックの変わりに探偵となって奔走したりと、シリアスな展開が続く本編ではなかなか描かれる機会のないサイドストーリー的なエピソードがあって、原作の雰囲気を失わないようなテイストで登場人物たちの奥行きをうまく作り出していて興味深く読めました。

 

 

あの日、恋に落ちなかった君と結婚を (メゾン文庫)

あの日、恋に落ちなかった君と結婚を (メゾン文庫)

 

結婚を考えていた恋人に振られ、将来に不安を抱く持田麻衣。地元に帰ることを決めた麻衣が偶然高校のときのクラスメイト今井優人に再会、「恋のない結婚」を現実的に考えはじめる物語。高校時代の30歳になってもお互い独身だったら結婚しようという今井との冗談めいた約束。かつてお互いの恋を協力する関係だった二人の共同生活はしっくり来る部分もイライラする部分もあったりで、そんな二人が一つ一つ乗り越えて迎えたラストにはじんわり来るものがあって、積み重ねていったエピソードが見事に繋がってゆくとても素敵な物語だったと思いました。

拝啓 彼方からあなたへ (集英社オレンジ文庫)

拝啓 彼方からあなたへ (集英社オレンジ文庫)

 

「自分が死んだらこの手紙を投函してほしい」と中学時代の親友・響子に託されていた手紙雑貨店「おたより庵」店主・詩穂。人づてに彼女の死を知った詩穂が手紙を開封し、その過去にまつわる事件を解き明かしてゆく物語。響子に託された手紙の違和感と周囲で起きる怪文書事件、苦手に感じていた常連客の城山に対する心境の変化と再会した元カレの執着。大人しく見える印象から周囲に振り回されがちだった詩穂でしたけど、それでも彼女には譲れないものや大切にしているものがあって、誠実に向き合う彼女らしさが導いた結末はなかなか良かったですね。

容姿端麗で成績優秀、非の打ちどころがないのに人と距離を置く月島桜子。苦悩から奇怪な秘密を抱えた彼女が原因を知る転校生・水瀬和葉と出会う青春幻怪鬼譚。桜子と同様に密かに抱える苦悩から鏡に写った自分にツノが生えはじめた、成績上位の美少年・周防紫生、クラス女子の一軍グループでいることに必死な土田知香、ムードメーカー的存在の門倉翔平。彼女たちが和葉と協力して元凶たる鬼を探す展開で、狭い世界で逃げ場もなく追い詰められてゆく彼らには仲間がいて、葛藤を抱えながらも支え合い絶望を乗り越える姿はぐっと来るものがありました。

誰にも言えない (集英社オレンジ文庫)

誰にも言えない (集英社オレンジ文庫)

 

旧財閥で日本有数のセレブ一族の家に生まれた女子大生の葵。大好きな3人の女友達を誘い避暑地に遊びに来ていた彼女たちが、「誰にも打ち明けていない秘密の話」を順番に打ち明けてゆくサイコホラー。招待した葵の友人でモデルの結衣、美人小説家の莉子、有望なアスリートのひまりという目を引く美女たちが明かしてゆく、誰も知らなかった彼女たちの秘密。それぞれの打ち明け話の中で垣間見える彼女たちの生々しい悪意と、真相を明かしながらも平然としている彼女たちには戦慄しましたが、その先にあった思わぬ展開と迎えた結末には驚かされました。

花嫁レンタル、いかがですか?: よろず派遣株式会社 (集英社オレンジ文庫)

花嫁レンタル、いかがですか?: よろず派遣株式会社 (集英社オレンジ文庫)

 

早世した有名女優の娘として目立たぬようひっそり生きようとした鵜崎真尋25歳。セクハラに遭い会社を辞めた真尋が少し変わった人材派遣会社の社長杉埜と出会い、挙式直前に逃げた花嫁の身代わりを依頼される物語。自己評価は低いけどお節介でメイクで地味にも美人にもなれる真尋が、同僚の灰谷とも関わり合いつつこなしてゆく花嫁の身代わり、女子会のために見栄を張るOLの後輩役、亡くなった娘の代わりに両親と食べ歩きなど、登場人物たちのエピソードも交えながら進んでいく展開はなかなか良かったです。続編あるならまた読んでみたいですね。

レトロゲームファクトリー (新潮文庫nex)

レトロゲームファクトリー (新潮文庫nex)

 

過去のゲームを移植するレトロゲームファクトリー社長・灰江田とプログラマー・コギーの元に伝説のUGOコレクション復活依頼が持ち込まれ、横取りを狙う大手企業を抑え封印ゲーム復活に奔走するお仕事小説。古巣の橘に騙されたコギーを救った灰江田。懐かしいレトロゲームを取り上げながら、手段を選ばない橘の様々な揺さぶりに振り回されつつ開発者の過去の因縁を探りながら、ゲーム愛と家族愛のために動く灰江田の想いが周囲を動かし、力を合わせて開発者の真意を見出しゲームに愛がない橘の企みを乗り越えてみせる展開はなかなか熱かったです。

昭和少女探偵團 (新潮文庫)

昭和少女探偵團 (新潮文庫)

 

和洋折衷文化が花開く昭和6年。帝都の女学校に通う花村茜と級友たちに怪文書が届き。疑われた親友を庇う茜が謎めいた才女・夏我目潮や謎めいた才女・夏我目潮とともに少女探偵團を結成するレトロ青春ミステリ。怪文書の正体、ドッペルベンゲル遭遇の真相、そして級友の元婚約者が失踪した事情。のんびりとした茜の呼びかけで結成された少女探偵團が周囲で起きる事件を解決してゆく展開で、たびたびの視点変更が読んでいて多少混乱に繋がった感はありますが、登場人物たちもキャラが立っていて、のんびりとしたレトロな雰囲気を楽しめた一冊でした。

朝比奈うさぎの謎解き錬愛術 (新潮文庫)

朝比奈うさぎの謎解き錬愛術 (新潮文庫)

 

父の跡を継いだもののぱっとしない探偵の迅人。彼のことが好き過ぎるストーカー美少女・朝比奈うさぎが、事件に巻き込まれがちな迅人を救うため謎を解いてゆく連作短編集。行く先々で殺人事件に巻き込まれて、なぜか容疑者扱いされてしまう迅人と、愛を証明しながら事件を解決してしまううさぎ。迅人のことしか考えていないうさぎがなぜ論理的に解決できるのか謎ですが、うさぎの重過ぎる愛を戸惑いながらも何だかんだで受け入れつつある迅人はいいコンビで、二人を見守る姉を交えたやりとりも面白かったです。続巻あるならまた読んでみたいですね。

長年勤めた小さな会社を退職した千束。実家からの電話で慌てて北陸の実家に戻った彼女が、名刹・成巌寺と実家の三百年以上続く精進料理屋「せんねん食堂」を巡る騒動に巻き込まれ、イケメン僧侶の幼馴染・清道&隆道兄弟と再会する物語。妥当な提案をろくに話すら聞かずにこじらせてゆく展開は田舎あるある話ですが、実家に居場所がなくなったと感じていた千束と、地域を盛り上げるために手を尽くす深謀遠慮な幼馴染・隆道もまたいろいろ複雑にこじらせていて、地域再興を二人で盛り上げていけるのか、二人の関係もどうなるのか続刊に期待ですね。 

終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)

終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)

 

あらゆる感覚を五感に再現する端末・サードアイを手に入れたことで装いを変えた世界。そのきっかけとなりながらも二年前から眠り続ける幼馴染・結日を救うため、日々原周が仲間とともに立ち上がるひと夏の物語。サードアイの開発者で鍵を握る結日の姉・沙月の存在と、計画に手を貸す同級生・先崎との邂逅。打開する方法を模索するうちに見出したひとつの真相。立ち位置が変わっても何かを引き起こす彼女と、そんな彼女のために奔走する周という二人の関係は変わらなくて、可能性を信じて諦めず何度でもチャレンジし続ける周を応援したくなりました。

図書室の神様たち (小学館文庫キャラブン!)

図書室の神様たち (小学館文庫キャラブン!)

 

とある本を探す女子高生の爽風が、学校の裏庭に建つ古い図書室で同じ学年らしいが全く顔を知らない生徒・笹木誠と出会い、様々なことが少しずつ変わってゆく青春小説。不仲の両親が頻繁に喧嘩し帰りたくない居心地の悪い家、無視されたままのクラスメイト、孤立するのに爽風と一線を引く親友、そして図書室でたびたび出会い重ねてゆく謎めいた誠とのやりとり。そこから見て見ぬふりを止め一歩を踏み出した爽風には逆風もありましたけど、それでも諦めずに手を伸ばして向き合おうとする彼女の頑張りが引き寄せた結末にはぐっと来るものがありました。

隣の席の佐藤さん (一二三文庫)

隣の席の佐藤さん (一二三文庫)

 

地味でパッとしない佐藤さんと隣の席になった山口くん。隣の席で交流を積み重ねながら、二人の心境が少しずつ変化してゆく青春小説。始めは鈍くさいけど素直な佐藤さんに調子が狂いイライラしていたのに、いつの間にか彼女が気になってゆく山口くん。だからといってすんなり上手くいくわけでもなくて、ままならない状況でどう接するのがいいのか懸命に考える山口くんが微笑ましいですね。いろいろ遅れがちな彼女を気にかけて寄り添う山口くんの姿勢はカッコよくて、周囲にもバレバレで生温かく見守る二人のその後がまた読んでみたいと思いました。

自意識過剰探偵の事件簿 (一二三文庫)

自意識過剰探偵の事件簿 (一二三文庫)

 

自称探偵の女子高生・雲雀野八雲の暴走に振り回されながらも、押し付けられた助手役をこなす幼馴染の明義。そんな彼女の尻拭いに明け暮れる中、体育倉庫で事件が発生する青春ミステリ。陸上部の部長候補二人が一晩閉じ込められた体育倉庫監禁事件と明義に届いた恋文発覚事件。事件を愛し過ぎて暴走する探偵に振り回される体を装いながら、ミスリードした隠れ敏腕助手が暗躍する構図をどう評価するか難しいですね(苦笑)登場人物の名字が難読ばかりなのは話の流れを阻害していて閉口しましたが、拗らせてしまっている二人の今後に期待ということで。

 

義肢のリハビリ専門病院で事務スタッフとして働く、実はある研究機関から送り込まれたアンドロイドの佐藤真白。そんな彼女が事故で左腕を失い、義肢のリハビリのため病院へやってきていた青年・響に出会い処理しきれない感情が生まれてゆく物語。自分の中でうまく処理しきれない感情を持て余す真白と、ぎこちない彼女にしっかりと向き合ってくれる響。そんなアンドロイドには本来ないはずの「エラー」に心揺れる彼女が真実を知ってからの思わぬ展開は切なくて、いつかこんな日が来るんだろうかとつい思ってしまうピュアで甘酸っぱい恋の物語でした。

准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき (角川文庫)

准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき (角川文庫)

 

幼い頃に遭遇した怪異によって人の嘘がわかる耳を持ち、それゆえに孤独になってしまった大学生・深町尚哉。そんな彼が怪異に目がないイケメン准教授・高槻と出会い、常識担当の助手として様々な事件に遭遇するミステリ。いないはずの隣の空き部屋から聞こえる奇妙な音の正体、ふと気がつくと周囲にいつも針が落ちている呪い、肝試しに出かけて神隠しに遭った少女。高槻を理解する周囲の人々もなかなか印象的で、孤独な尚哉を分け隔てなく受け入れてくれる彼らの優しさが染みますね。幼い頃に奇妙な体験をした二人の今後に期待したい新シリーズです。

科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

それぞれ思うところがあって科学警察研究所・本郷分室にやってきた、北上・伊達・岡安の三人の研修生たち。科警研の仕事に興味を示さない室長・土屋に困惑しつつ、事件解決に挑む警察ミステリ。容疑者が黙秘を続ける理由、司法解剖でも特定できなかった死因、監視カメラに映った双生児、連続辻切り事件の犯人。三人の研修生がそれぞれ持ち味を生かして試行錯誤しながらアプローチしていくあたりには成長が感じられましたけど、それでもここぞという時に冴える土屋の視点は流石でしたね。研修期間が延長された彼らのその後の捜査も読んでみたいです。

大学生の凜香が蔵書整理アルバイトをする研究室に所属している変人揃いの哲学科でも有名な若き准教授・塩見﨑。常識外れで機械音痴、知を愛する若き哲学者が言葉を疑い真理を読み解く哲学ミステリ。消えたレポートに芸ができなくなってしまった大学に住む猫、不可解な怪文書、凜香が喧嘩別れしていた友人との過去。哲学の命題を使って事件を解決してゆく塩見﨑には凜香や周囲も振り回され気味で、どこをどう見ても残念な変人の類なんですが、それでも彼が導き出してゆく解決にはどこか優しさが感じられて、もし続巻があるならまた読んでみたいです。

九十九書店の地下には秘密のバーがある (ハルキ文庫)

九十九書店の地下には秘密のバーがある (ハルキ文庫)

 

仕事についていけず入社二年で会社を辞め、自信喪失していた長原佑。ある日訪れた九十九書店で、謎めいた女性店主トワコさんから書店の地下を改装した秘密のバーに誘われる物語。昼は小さな書店で仕事する話のメインは夜のバーを訪れる悩める人たちの問題解決。トワコさんに幼馴染のことだったり、男をペットとして飼う女性、不倫をする女性、そしてトワコさん自身のことなど、時にはやや無茶ぶりっぽい仕事を振られましたが、常連客と協力して向き合い選択してゆく中で過去を乗り越え、再び前に進むきっかけを得てゆく展開はなかなか良かったです。

休みの日〜その夢と、さよならの向こう側には〜 (スターツ出版文庫)
 

高校時代の後輩・奏との失恋を引きずっていた大学生の滝本悠。ある日、印象的な出会いを果たした美大生の多岐川梓を通じて同じく美大生になっていた奏と偶然再会する青春小説。素直で不器用な多岐川梓のありように少しずつ惹かれてゆく繊細な距離感があって、一方で縁はあるのにどうにも巡り合わせの良くない奏との関係が切ない展開でしたけど、どんどん追い詰められて余裕がなくなると、かけがえのない存在でもすれ違いから上手くいかなくなることありますよね。だからこそ不器用な決着しか知らなかった彼らに希望が垣間見えた結末で良かったです。

 

白の王

白の王

 

廃墟の塔が林立する「塔の森」で塔に棲む魔鳥が盗んできたものを集めて暮らしていた孤児のひとりアイシャが、胸に嵌ってしまった宝石を取り除くため、魔鳥に盗まれた宝石を取り戻すためやってきたタスランと共に旅に出る物語。前作「青の王」より少し後の時代で、赤いサソリ号も代々その気風を引き継がれながら登場しましたね。時代を超えた数奇な運命に振り回される二人でしたけど、ちょっと変わった仲間たちと出会い、時には喧嘩しながらも一緒に力を合わせて運命を切り開いていく展開はなかなか良かったですね。赤の王の続刊も期待しています。

ひとつむぎの手

ひとつむぎの手

 

心臓外科医を目指し大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介が、医局の最高権力者・赤石教授に見返りの代わりに三人の研修医の指導を指示され、さらに医局内の権力争いに巻き込まれてゆく物語。最初は無難に指導しようとした平良が直面する研修医たちの不信感、そして赤石が論文データを捏造したと告発する怪文書事件。けれど平良の患者と真摯に向き合う姿勢は変わらなくて、多くの人たちの命を救ってきたんですよね。ほろ苦い現実にも直面しましたが、見る人はよく見ていて正しく評価されていたことが分かる結末にはグッと来るものがありました。

はつ恋

はつ恋

 

千葉の海の近くの日本家屋に愛猫と暮らす小説家のハナ。二度の離婚を経て、喪失も手放すことも知ったから辿り着いた、古くて新しい恋人との日々を描く物語。二度の離婚を経験しても何だかんだで恋愛体質なハナの新しい恋人は弟同然に育った幼馴染。お互い老いた親を抱えての千葉と大阪の遠距離恋愛が描かれていましたが、穏やかな日々の描写の端々にこれまで長年積み重ねてきた容易には手放せない、変われないものを感じつつも、それでも最終的に結ばれた幼馴染との自然体で揺るぎない想いや、この人がいる安心感みたいなものはいいなと思えました。

この恋は世界でいちばん美しい雨 (単行本)

この恋は世界でいちばん美しい雨 (単行本)

 

鎌倉の海辺の街で愛にあふれた同棲生活を送る駆け出しの建築家・誠とカフェで働く日菜。ある雨の日にバイク事故で瀕死の重傷を負ってしまった二人が、二人合わせて二十年の余命を授かり、お互いの命を奪い合う苛酷で切ない日々の物語。幸せを感じたら相手の命を奪ってしまい、悲しむと命を与えてしまう生活に、余裕を失い険悪になってゆく二人。あまりにも過酷な奇跡でしたけど、それでも根底には相手に幸せになって欲しい真摯な気持ちがあって、それぞれの決断には切なさを感じつつも、そんな中でも精一杯生きた二人らしい結末だったと思いました。