読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2016年7月に読んだおすすめ本

7月はシリーズものも素晴らしいのが多くて、一方新作もなかなかおもしろい本がたくさんありました。特に真っ直ぐな青春小説「その10文字を、僕は忘れない」や、活版印刷と人を繋ぐ優しい物語「活版印刷日月堂」、風見夜子のキャラがじわじわくる「風見夜子の死体見聞」、4巻目で完結した「北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし」あたりをおすすめしたいですね。

その10文字を、僕は忘れない (ダッシュエックス文庫)

その10文字を、僕は忘れない (ダッシュエックス文庫)

 

 無気力で学校をサボりがちな高校生・島崎蒼が雨よけに寄った公園で、理由があって声が出ない同級生・宮崎菫と出会い、スケッチブックで会話をする彼女と交流を深めてゆく青春小説。菫と出会ったことで変わってゆく蒼と、彼と密かに公園で出会いを重ねてゆくことで本来の明るさを取り戻し、蒼やその親友二人と楽しい日々を過ごすようになった菫に訪れた重要な転機。些細なことからすれ違ってゆく二人の姿はとても辛かったですが、それでも大切な存在だと改めて痛感し、きちんと想いを交わし合った二人の今後を応援したくなるとても素敵な物語でした。

我が驍勇にふるえよ天地 ~アレクシス帝国興隆記~ (GA文庫)

我が驍勇にふるえよ天地 ~アレクシス帝国興隆記~ (GA文庫)

 

 防衛戦の最中に味方の裏切りに遭い、師とも仰ぐ叔母と故郷とも言える領地を失ってしまった吸血皇子・レオナートが、仲間を集め再び立ち上がるファンタジー戦記。貴族たちが権力争いに明け暮れて内憂外患を抱える斜陽の帝国、その中で失ったものを取り戻すために地道に準備していたレオナートと仲間たちがついに迎えた転機。レオナートと彼を支えるシェーラを始めとする群像劇ならではの登場人物たちはそれぞれ存在感があって、今回の因縁にきっちりと決着を付け、裏で暗躍する存在も明らかにしてゆく展開は良かったです。今後の展開が楽しみですね。

獅子皇と異端の戦巫女 (ファミ通文庫)

獅子皇と異端の戦巫女 (ファミ通文庫)

 

 「災禍の翠蛇」復活の兆候がある中、対抗できる力を持った凪姫たちが消息を絶ったことが明らかになり、彼女たちを率いる獅子皇・ウィズが唯一残る凪姫・メロフィーユと共に凪姫たちを探す旅に出る物語。消息を絶ったことが明らかになった五人の凪姫。彼らが旅先で出会った異世界から強制召喚された魔王・デミシア、災禍の翠蛇復活のためには手段を選ばない黎明衆の存在。メロフィーユにはヒロインたちの軸になる存在感がありますが、戦友の凪姫たちもまた様々な事情を抱えていそうですし、面白くなりそうな雰囲気は十分感じられたので続巻に期待。

アストレア戦記 ブリキカンドウォー (講談社ラノベ文庫)

アストレア戦記 ブリキカンドウォー (講談社ラノベ文庫)

 

 青機甲が暮らしに根ざす世界。父の形見の青機甲戦機と旅する機械技師の少年・ロウが、軍師を名乗る少女・エルに拾われ、半ば強制的に従者にされてしまう物語。世界を守りたいと語りかける謎の軍師の少女。とある目的のため意味なく戦うことを厭い、これまでは逃げまわるだけだった少年。そんな二人が抱える大切なものを失ってしまった過去の苦い記憶。真実を告げられたロウが一度は心折れかけながらも、葛藤を乗り越えて因縁の強敵に挑む熱い展開はとても良かったです。すっきりとまとまった結末ではありましたけど、是非続巻が出て欲しい作品です。

 長らく空き家だった川越の片隅に佇む印刷所・三日月堂。そこにかつて亡くなった店主の孫娘・弓子が住むことになり、昔ながらの活版印刷で人との繋がりを解きほぐしてゆく物語。近しい人との関係に迷いを抱える登場人物たちが、身近な人の繋がりから知る営業を再開した三日月堂の存在。物静かで真摯な弓子さんと一緒に印刷するものを考えてゆくうちに、悩みにもきちんと向き合えるようになってゆく展開は、失われた活版印刷の良さを思い出させてくれるだけでなく、作られた印刷物も悩める人の想いに寄り添っていて、とても素敵な物語だと思いました。

 進学で金沢から京都へ引っ越してきた双子の兄妹・直史とまどかが、あやかしと人間との間を取り持つ神・ククリ姫と出会い、あやかしを語って命を与える「語り手」になるよう依頼される物語。幼い頃にあった出会いと約束。物語を綴る直史と美味しいものに目がなくて絵心もあるまどか。二人が訪れてくるあやかしたちのことを知り、その想いを汲んで綴られてゆく物語はとても優しくて、お礼としてあやかしたちと食べるおばんざいはみんな美味しそうで、うさぎになってしまうククリ姫も可愛かったです(苦笑)とても素敵なお話だったので是非続編を期待。

 小さなピアノの調律事務所に就職した幹太が、天才調律師・時子と二人でピアノと音に隠された謎を解き明かしてゆく物語。ピアニストの道を断念し、調律師としても師に遠く及ばないと常にストイックな時子と、経験不足ながらも人懐っこさと優れた耳の良さを持つ幹太が、調律だけでなく依頼人の悩みも共に解決してゆくストーリーで、ピアノや依頼人に真摯に向き合う姿勢や、仕事を通じて成長したり、コンビとして信頼関係を築いてゆく展開はとても良かったですね。いい感じにまとまりましたけど、二人の関係が今後どうなるのかちょっと気になりました。

カスミとオボロ 大正百鬼夜行物語 (集英社オレンジ文庫)

カスミとオボロ 大正百鬼夜行物語 (集英社オレンジ文庫)

 

 大正時代。退屈な日常にうんざりしていた坂之上伯爵家の令嬢・香澄が、代々祀ってきた悪路王に朧という名を与えて主従関係を結んでしまい、二人で集に起こるあやかしがらみの事件を解決する物語。いいところの令嬢なはずの香澄がなかなかいい性格をしていて、そんな彼女と極悪な鬼であるはずの朧が主従関係を組むと、わりとまともに見えてしまう不思議(苦笑)確かに華族の人々を舞台にするといかにも作中の如く魑魅魍魎がうようよしてそうな感じではあります。香澄と朧の二人の関係にも複雑な因縁あるようで、雰囲気も好きですしシリーズ化に期待。

風見夜子の死体見聞 (富士見L文庫)

風見夜子の死体見聞 (富士見L文庫)

 

 事故や事件の現場に必ず居合わせることで「死神」とあだ名される女子高生・風見夜子。数年来絶縁状態だった夜子に死ぬところを救われた幼馴染の凪野陽太が、過剰な人助けに巻き込まれてゆく青春ミステリ。死ぬ予定の死体が見えてしまう力を持ち「あなた死ぬわよ」と強引にでも回避しようとする夜子。傍若無人な彼女に恩に着せられ脅され人助けを手伝うようになる凪野とのテンポの良い応酬が楽しくてじわじわ来ますね(苦笑)素直じゃない不器用な彼女の理解者が少しずつ増えてゆく一方で宿敵の存在も明らかになり、是非続編を期待したい作品ですね。

 幼馴染ながら今は微妙な関係の写真部・有我遼平と占い女子・鉢町あかね。たびたび事件に遭遇する遼平を、推理を伝える謎の「壁越し探偵」となって救う青春ミステリー。あかねが密かに営む占い師の依頼者と事件がリンクしていたりで、距離を置きながらも意識する遼平を正体を明かさないままたびたび救う展開。凄まじい洞察力を発揮するのに、不器用過ぎて遼平に気づいてもらえないこじれ具合が切なかったですが、それでも二人のすれ違いのきっかけとなった過去の事件と今がようやく繋がって、これからの変化を期待させるラストはとても良かったです。

 山深い町の女子高生・三葉が夢で見た、東京の男子高校生・瀧。夢を通じて繋がりが生まれてゆく二人のボーイミーツガール。運命のいたずらで突然お互いの身体が入れ替わり、それぞれ新鮮な体験をすることになる二人。他の誰とも共有できない関わりによって育まれてゆく強い絆を感じていたからこそ、直面した過酷な運命やすれ違いがあまりにも厳しくて、それを覆そうとしてそれぞれ懸命に奔走する三葉と瀧の頑張りが、どうか報われることをひたすら祈りながら読んでました。これからの未来を予感させる結末には、素直に読んで良かったなと思えました。

北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし 4 そして愛しき日々

北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし 4 そして愛しき日々

 

 新婚旅行を兼ねたジークリンデの里帰り&結婚式を終え、息子アルノーと共に辺境の地へ帰郷。リツハルドの両親も帰郷し彼も新たな挑戦を始める第四弾。愛を確かめ合った幸せな夫婦に息子が生まれたことをきっかけに、わだかまりを抱えていた家族たちと温かい交流を取り戻したり、新しい挑戦をするリツを家族で支えたり、周囲の人たちもそれぞれ幸せを見出し、そして読んでいて食べたくなるおいしそうな料理も満載のまるまる一冊本当に良かったなと思える幸せなエピローグでした。最後には表紙にいる二人の印象も大分変わりましたね。次回作にも期待。