読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2017年8月に読んだ新作おすすめ本

8月に読んだ新作オススメ本はラノベが3点、ライト文芸・一般文庫が10点、単行本9点の計22点です。ラノベは読みたいシリーズの続巻が多過ぎて新作にあまり手を出せなかったですが、ライト文芸・一般文庫はいろいろ発見のあった月でした。単行本の方も興味深い作品があったので、気になる本は是非手にとってみて下さい。

 

 小学校時代の多重人格ごっこという二人だけの秘密を共有する一色華の実と高校で再会した、三人の人格を抱えて生きる市川櫻介。秘密を唯一知る彼女との再会が二人を変えてゆく青春小説。別人のように人気者になっていた彼女から再び持ちかけられた多重人格ごっこ。急速に距離を縮めていく二人のやりとりがとても甘酸っぱくて幸せそうなのに、時折垣間見えてしまう彼女の想い。再会した彼女が乗り越えてきたこれまでとその宿命には切なくなりましたが、だからこそ櫻介と彼女が幸せになってゆくこれからを読みたいと思いました。続巻期待しています。 

 高校入学から数ヶ月。長らく片思いをしていた幼馴染の杉崎小春に告白して見事玉砕した大貫悟郎。両思いなのに付き合えない、一途過ぎる少年と本当は彼のことが大好きな少女の青春大暴走ラブコメ。自宅に帰るといつもいて、一緒に過ごす時間も長いのになぜか告白を断り、あまつさえ彼女を作れとまで無茶振りする小春。いい感じにしか思えないのに付き合えない二人が再会した、もう一人の幼馴染という転機。大好きであるがゆえにすれ違ってしまった二人の想いが切な過ぎて、これはもう最後まで見届けるしかないじゃないですか。早めの続刊待ってます。

赫光の護法枢機卿 (ファミ通文庫)

赫光の護法枢機卿 (ファミ通文庫)

 

 マラークに抗う唯一の武器・プレロマを突如授けられ、思わぬ形で護法枢機卿となったアルゾラ。初陣を何とか切り抜けた彼女が、仲間と輿入れの最中に行方不明となった法王の妹君救出の密命を受けるファンタジーアクション。訓練も不十分で覚悟も定まらないままに戦場へ放り込まれたアルゾラが出会った、黒の巡礼者と呼ばれ戦うことしか知らない最強の枢機卿キュリアロス。いきなりギリギリの状況が続く中で各人の思惑がせめぎ合う展開でしたが、緻密な世界観とキャラたちの掛け合いには著者さんらしさがよく出ていて、今後に期待の新シリーズですね。

 

 

 大学を留年しネット小銭を稼ぐ生活を送る葉山理久央が、新曲の作詞を依頼してきた破天荒な天才作曲家・蓮見律子と出会い、いろいろと巻き込まれてゆく音楽ミステリ。気まぐれな律子に振り回される葉山が大学の授業で出会った美沙、そして弟で若き音楽家本城湊人との邂逅。複雑な関係の姉弟との交流からの予想もしなかった急展開は物語の雰囲気をガラリと変えて、探偵役として律子が葉山と解き明かしてみせた謎と事件の真相、ほろ苦く切ないだけでは終わらない結末には著者さんらしさがよく出ていると思いました。シリーズ化を是非期待したいですね。

 大学に入学した新入生・秋太郎が選んだサークルは、人嫌いの来見行が専有する謎の仮面応用研究会。入部を願い出るも断固拒否された秋太郎が、直後にサークル棟で墜落死体を発見する物語。お互いが深刻な事情を抱える秋太郎とコウの邂逅。やや過剰に心配症で正義感が強い秋太郎に寄り添う彼女・ハゴロモ。そして謎めいたコウの兄・ショウの存在。オカルトめいた事件に心理学や哲学を絡めたストーリー、登場人物たちのテンポのよいやりとりは久しぶりに著者らしさを楽しめました。謎を提示するショウが今後もポイントになりそうですね。続巻も期待。

夏の祈りは (新潮文庫)

夏の祈りは (新潮文庫)

 

 県立北園高校を舞台に長年の悲願である甲子園出場に向けて、先輩から後輩へ託されてきた夢と、それぞれの熱い夏が描かれる青春小説。過去の伝統の呪縛に苛まれ力を発揮しきれなかったチーム、二人のエースで戦った夏、女子マネたちの存在が光った世代、そして谷間として期待されていなかったハズレ世代の奮闘。それぞれが精一杯戦って最初は否定的だった引き継がれる思いの意味を知り、それをまた後の世代に伝えてゆく。戦ったメンバーたちが卒業後も様々な形でチームを支えて、積み重ねてきた重みの先にあった結末にはぐっと来るものがありました。

天盆 (中公文庫)

天盆 (中公文庫)

 

 小国「蓋」を動かすのは、国民的盤戯「天盆」を勝ち抜いた者。 貧しい13人兄弟の末っ子・凡天は10歳ながらも天盆にのめり込んでいき、異様な強さで難敵を倒していくファンタジー。将棋のような天盆が軸に据えられた世界観で、のめり込んでいく凡天が行く先々で引き起こす事件と、権力者に睨まれて少しずつ追い詰められてゆくその家族。困難に際しての様々な葛藤はあっても血の繋がらない父母や兄弟たちとの揺るぎない絆は確かにあって、頂点を目指す天盆を巡る戦いはどんどん熱くなっていって、劣勢を覆し上り詰めてゆく戦いぶりは痛快でした。

きみのために青く光る (角川文庫)

きみのために青く光る (角川文庫)

 

 心の不安に根ざして発症し、力が発動すると身体が青く光って様々な異能力が発現する病「青藍病」。それに振り回される4人の男女が織りなす切なく愛おしい連作短編集。青藍病によって動物から攻撃されたり、念じるだけで生き物を殺せたり、人の年収や死期を知ってしまったり。青藍病によって引き起こされる異能に戸惑うことも多くて、それによって様々な事件に巻き込まれたりもしますが、困難に直面した恋する相手のために何とかしようと奔走したり、終わってみれば何となくいい感じにまとまってゆく展開は著者さんらしくてとても素敵な物語でした。

初恋は坂道の先へ (角川文庫)

初恋は坂道の先へ (角川文庫)

 

 結婚に対して煮え切らない教師・研介の恋人品子が、謎の男から届いた一冊の本をきっかけに失踪し連絡不通に。並行して中学生しなこと海人出会いが描かれるふたつの物語。彼女とのやりとりを思い出したり、告白された同僚の問題に巻き込まれながら、改めて品子への想いを自覚してゆく研介。一方でしなこと海人の初々しいやりとりや、品子の運命の出会いという言葉に不安を煽られますが、失いたくない大切なものにはやっぱり行動起こさないとですよね。意外な展開にやられたなと思いましたが、爽やかな読後感の物語でした。巻末の短編も良かったです。

恋を積分すると愛 (角川文庫)

恋を積分すると愛 (角川文庫)

 

 鳥人間コンテストに挑む青春小説『トリガール! (角川文庫)』のサイドエピソードや後日談、スピンオフ短編、「映画公開記念 中村航×土屋太鳳 特別対談」などをまとめた文庫オリジナルの短編集。坂場センパイからゆきなへのインパクトあり過ぎる告白エピソードを軸に、和美やペラ夫さんのほのかな想いやマイメロを巡る男たちの哀しい(?)エピソードなど、気になっていた後日談が読めてとても良かったです。あの三人の関係はこれからどうなっていくのかな。木戸の恋愛相談はそれなりにでしたけど、はぐれホタルは東京ホタルの方も読んでみたいと思いました。

思い出の品、売ります買います 九十九古物商店 (角川文庫)

思い出の品、売ります買います 九十九古物商店 (角川文庫)

 

 子どもの頃神隠しにあった際に得た不思議な力を密かに使い、百貨店でセールを伸ばしていた縁之介。ふとしたきっかけで不思議な九十九古物商店と浮世離れした店主・小町と出会ってその思いを変えてゆく物語。お客様が望むとおりに商品を勧めてきた縁之介が出会った付喪神たちと小町の関係。そして店を訪れるお客たちとのやり取りや思いに徐々に感化されていった縁之介の決断。一緒にいて変わってゆくのは彼だけではなくて、なのに素直になれない姿に切なくもなりましたが、何とか乗り越えた二人のこれからをいろいろ想像したくなる素敵な物語でした。

 母を癌で亡くした大学生の白木恭介は、遺言に従い母が30年前に佐伯義春という友人から貰った宝石を返すため北海道を訪れ、集落の因縁に巻き込まれてゆくひと夏の物語。秘境駅羽帯を訪れた恭介が知る三十年前に東羽帯の集落で起こった凄惨な事件。同時期に訪れた鉄道マニア吉井が知る根室本線に眠る裏金の噂。調べてゆくうちにふとした縁で出会った二人が集落の過去を知って因縁に巻き込まてゆく展開でしたが、情緒溢れる秘境駅近辺の描写を交えながら過去が丁寧に語られ、精算されてゆく結末は読み終わってみるとなかなか趣深いものがありました。

図書館は、いつも静かに騒がしい (SKYHIGH文庫)

図書館は、いつも静かに騒がしい (SKYHIGH文庫)

 

 就職活動で挫折し半年間ひきこもっていた23歳の菅原麻衣が偶然見つけた区立詩島図書館の求人に応募し、契約社員として働くうちに楽しみを見出していくお仕事小説。勤務先の図書館が業務委託されて館長以外は委託先所属、職員構成的に若いスタッフが多いあたりがちょっと今風で、未経験の初心者が勤務したらこんな感じなんだろうなと思いつつ、いろいろ関わって仕事のやりがい感じていくのは確かに嬉しいですよね。文章は読みやすくてよくも悪くもさらっとした感じですが、返却された館の所蔵となる所在館方式は見たことなくてちょっと新鮮でした。

 

 

病弱探偵 謎は彼女の特効薬

病弱探偵 謎は彼女の特効薬

 

 超病弱で学校は欠席続きの高校生・貫地谷マイ。幼馴染の同級生・山名井ゲンキがマイのために、学校で起こった不思議な事件を送り届ける寝台探偵ミステリ。消えた万引や持ち去られた短冊、着替えられた浴衣といった身近な謎をマイが寝台探偵よろしく謎解きする構図で、あまり学校に行けず友達も少ないがゆえにその推理には限界があるものの、いがみ合いながらもお互いをフォローして解決してゆく展開は良かったですね。甘え下手なマイの悪戯に毎回騙される学習しないゲンキには苦笑いでしたが、随分遠回りした二人の結末はなかなか素敵なものでした。

月夜に溺れる

月夜に溺れる

 

 バツ2で二児の母親でありながら、横浜、川崎の歓楽街で起こる色と欲にまみれた犯罪者を取り締まる神奈川県警生活安全部のエース・真下霧生。捜査能力と推理力(と美貌)を駆使し真犯人を追いつめる推理警察小説。神奈川県警本部の将来を担う二人の警察官が前夫、それぞれの子供がいて扱いに困る存在という魅力的で異色の主人公でしたけど、脇が甘く惚れた相手が被疑者になったり「またお前か!」と首を突っ込んだ案件が大きな事件に繋がってゆく中、その冷静で鋭い着眼点と人情味溢れる熱い想いで事件を解決してゆく展開はなかなか面白かったです。

悪女の品格 (ミステリ・フロンティア)

悪女の品格 (ミステリ・フロンティア)

 

 幼い頃からヒエラルキーの頂点に君臨し、今もかつての同級生三人と同時に付き合い貢がせている光岡めぐみ。しかし小学生時代の同級生への仕打ちをなぞるかのように次々と襲われ、婚活パーティーで知り合った大学教授の山本と犯人を絞り込んでゆくミステリ。共に犯人を追いかける中で暴かれ、明らかになってゆく周囲の人物たちの本当の思い。これまでやりたいように生きてきたことを思えば、因果応報とも思える結末でしたけど、そんな彼女が提示された二回目の人生をこれからどう生きるのか少しだけ気になる、決して悪いばかりではない読後感でした。

嘘をつく器 死の曜変天目(ようへんてんもく)

嘘をつく器 死の曜変天目(ようへんてんもく)

 

 次期人間国宝候補の陶芸家・西村世外の弟子として働く早瀬町子。その心を大きく揺さぶった焼き物を見た翌日に世外が殺され、大学で保存科学の研究をする先輩の馬酔木と共に不思議な器の謎と犯人を追うミステリ。後を継ぎたいが折り合いが良くない息子の久作、訳ありの過去があり長く仕える源田、あまり想いが見えない妻・静江という背景。そして世外が生み出した曜変天目の謎。今回も著者さんらしい陶芸界隈事情の解説は流石で、ミステリとして見ると紆余曲折の先にある結末はわりと平凡な構図でしたが、それを補って余りある読み応えがありました。

南風(みなみ)吹く

南風(みなみ)吹く

 

 廃校寸前の瀬戸内海の五木島分校。怪我で最後の大会に出場できないまま引退した航太がクラスメイトの日向子に巻き込まれ、仲間を集めて最初で最後の俳句甲子園出場を目指す青春小説。強引でまっすぐな日向子や事情を抱えた後輩の京、豊富な人脈のある和彦や親友の恵一といった仲間たちに触発され、俳句にのめり込んでゆく航太。それぞれが抱える複雑な事情や人が減っていく島の厳しい現実があって、それでも彼らが迷いながらも向き合い、進むべき道を見出してゆく姿は心に響きました。藤女子高の話ともしっかり繋がっていて今後の展開が楽しみです。

たとえあなたが骨になっても (JUMP j BOOKS単行本)

たとえあなたが骨になっても (JUMP j BOOKS単行本)

 

 警察も手を焼く難事件を解決していた敬愛する美貌の凛々花先輩。何者かに殺害され白骨化した彼女と話ができる高校生の朝戸雄一が因縁の事件を解き明かすホラーミステリ。死んでも謎への執着と推理力は失わない頭蓋骨の凛々花先輩と助手として忠実な雄一。二人と犯人しか知らない秘密を抱えつつ、持ち込まれた事件を解決する過程で明らかになってゆく周辺事情。ロジカルに謎を解き明かすのに裁かれない展開はやや好みが分かれそうですが、一連の事件を繋ぐ鍵は思わぬところにあって、補完されることで見えてくる二人のありようがとても印象的でした。

少女は夜を綴らない

少女は夜を綴らない

 

 小学6年生の時の同級生・加奈子の死から加害恐怖症に囚われる中学生山根理子。ある秘密を握っていた加奈子の弟・悠人に脅され、悠人の父親を殺す計画を手伝うことになる物語。リハビリの一環で書いた秘密の日記通りに起きるホームレス殺人。クラスでも微妙な立ち位置で挙動不審な兄や殺人計画もあり追い詰められてゆく理子。生々しく描かれる疑心暗鬼に陥った逃げ場がない状況であがく理子でしたけど、中学生ができる事には限界がありますよね。だからこそ手を差し伸べてくれる存在や偶然もあったりで何とか落ち着いた結末には救われる思いでした。

パドルの子

パドルの子

 

 唯一の親友・三輪の転校にうまく別れられず、昼休みを一人で屋上下の階段で過ごす中学生・水野。そんな彼が屋上の大きな水たまりとそこで泳ぐ隣のクラスの少女・水原に気づき巻き込まれてゆく青春SF小説。その水たまりに潜って強く願うと世界をひとつだけ変えられる「パドル」。夏休みまでの8日間、とある願いのためにパドルを繰り返す水原に付き合うようになる水野。過ごした日々で少しずつ積もってゆく想いの先に知った水原の理由と真相は切なくほろ苦かったですが、それでも水野が彼女のために最後に作り出した結末は清々しい読後感でした。 

お隣さんは小さな魔法使い

お隣さんは小さな魔法使い

 

 無気力な生活を続ける大学生・優一の隣室に引っ越してきた、魔法使い見習いの少女・シャルロット。そんな彼女が魔法使いになるための試練を手伝うことになる物語。困っている人の手助けをすることで3つの銀色のリボンを集める試練。おばあちゃんの庭の手入れ、先輩が気になる同級生の手助けや主を失った猫など、気ままな彼女の言動に振り回される中で少しずつ変化してゆく優一のありようと、明らかになってゆく彼が無気力だった理由。背中を押してくれた魔法使いのこれまでの積み重ねはきちんと効いていて、少し不思議で心温まる素敵な物語でした。