2021年ももうすぐ終わりです。今年は例年に比べてもだいぶコンスタントに読めた年で、いろいろなブログ記事も作ることができたわりと充実した一年だったと思います。最終的に年間で読んだ冊数は、(登録していないコミックを除いた)記録している冊数としては960冊くらいになりそうですが、ここで年間ベストを作ってもただの上半期/下半期の合算になりそうな気がしたので、ランキングとは別に個人的に印象に残った15作品を紹介したいと思います。
なお、末尾に今年のはてなブックマーク人気記事トップ5と、「ライトノベル」「ライト文芸」「文庫」「文芸単行本」の上半期/下半期新作おすすめ30選も置いています。こちらも併せて参考にしてもらえればと思います。
今年も一年ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
1.恋は双子で割り切れない (電撃文庫)
お隣に住む双子美人姉妹と家族同然で育ってきた幼馴染・白崎純。初恋をこじらせる純に姉の琉実が発した一言が、彼らを複雑な三角関係へと導いていく初恋双子こじらせ系青春ラブコメ。まずびっくりしたのが双子の妹・那織と純の間で繰り広げられるガツンと熱くて濃いヲタトーク。今どきのラノベでスタートレックネタが出てくるとは思いませんでした(苦笑)ある意味ディープ過ぎて読む人を選んでしまうんじゃないかと心配になるレベルですが、双子がお互い意識し過ぎててどっちも面倒くさい感じに拗らせているので、著者さんがどんな展開を考えているのか今後に期待しているシリーズです。
2.義妹生活 (MF文庫J)
親同士の再婚をきっかけに、同級生の美少女・綾瀬沙季と兄妹として同居することになった高校生の浅村悠太。男女関係に慎重な価値観を持つ二人が、適度な距離感を試行錯誤する家族小説。不器用で孤独に努力を重ねて他人に甘える術を知らない沙季と、その言動に戸惑いながらも真摯に向き合おうとする悠太の距離感が絶妙で、これを読んでいて「あ、自分って義妹もののこういう距離感が好きなのかも」と改めて再認識した作品でした。新作の中では一年で4冊とコンスタントに刊行されていて、読者の期待を裏切らないここぞという展開に持ってゆく毎回続巻が楽しみなシリーズになっています。
3.幼なじみが妹だった景山北斗の、哀と愛。 (ガガガ文庫)
相思相愛の幼馴染・三ツ泉春がいるのに、美人で変わり者の上級生佐伯冴音子とつきあい始めた高校生の景山北斗。それでもなかなか諦めきれない様子の春に、冴音子が相羽遥平を紹介する青春小説。小学生の頃出会いかけがえのない時間を一緒に重ねてきた幼馴染が、実の妹だったという事実を隠したまま、気持ちを押し殺して春を遠ざけようとする北斗のままならない感じが絶妙で、個人的に実妹ものは未来が見えなくてスルーしがちなんですが、これに関しては遠回りしてでも貫き通した結末がお見事でした。野村美月さん人外ものもあったりで、これハッピーエンドになるのかな…と感じる作品も最近多いんですけど、こういう覚悟を決める結末だったら全然ありです。
4.王様のプロポーズ 極彩の魔女 (ファンタジア文庫)
三○○時間に一度、滅亡の危機を迎える世界を救ってきた最強の魔女で魔術師が通う学園の長・久遠崎彩禍。殺された初恋の少女を救うため、玖珂無色が学園に編入するファンタジー。死に間際の彩禍に一目惚れして、彼女の身体と力を引き継いだ無色。彼女の従者・黒衣の指示で彩禍として誰にもバレないよう学園に通うことを指示され魔術を学ぶ展開で、やや特殊なケースながらも一途でブレない無色の想いがいいですよね。著者さんの「デート・ア・ライブ」も好きだったんですけど、読者の求めてることがよく分かってるなと感じます。
5.僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない (星海社FICTIONS)
瞬時に犯人を突き止めるものの無意識下で推理を行い、真実に至った論理を説明できない生徒相談室の引きこもり少女・明神凛音。そんな彼女を教室に復帰させるため、伊呂波透矢が「彼女の推理」を推理してゆく青春ミステリ。ミステリとしては凛音が推理に至る論理を透矢が解き明かしてゆくやや特殊な設定ではありますが、彼女の思考に寄り添うことで育まれてゆく二人の距離感がなかなかいい感じで、これくらいの感じが自分の好みなことを再認識させてくれた作品です。2巻目はまたミステリの趣向も少し変えてきていて、今後はミステリとしても楽しめそうです。
6.青の女公 (集英社オレンジ文庫)
北方領主の父を冤罪で亡くし、絶望に心が壊れた家族を人質にとられ下級女官として王宮で働くリディエ。婚姻関係が破綻しているスキュイラ王女と婿ヴァシルの仲を取り持ち世継ぎ誕生の後押しを命じられるファンタジー。個人的に推している喜咲冬子さんの作品で最近多かった中華風ファンタジーから大きく舵を切った作品でしたけど、スキュイラ王女と婿ヴァシルを絡めた三人の因縁と巻き込まれてゆく激動の展開に、複雑な葛藤を抱えながらも自分のなすべきことを見失わず、しっかりと向き合って決着をつけてみせたリディエの覚悟は見事で、結末はこの手の作品から考えるとやや意外と感じる方もいそうですけど、これこそが著者さんらしさなのかなと思っています。
7.女王オフィーリアよ、己の死の謎を解け (富士見L文庫)
何者かに殺されてしまい、妖精王リアの「古の約束」により十日間だけ生き返った女王オフィーリア。自らを殺した犯人を探すため、思い残しをやり遂げるため女王が覚悟を決める王宮ミステリ。彼女を使って権力を握ろうとした夫、周囲に流されがちで頼りない弟、気持ち悪い恋心を寄せてくる近衛騎士…数え上げればキリがない犯人候補たち。開き直って女王のあるべき姿を見せ、生前の雪辱を晴らす罵詈雑言、強烈な平手打ちを次々と炸裂させる展開が痛快で、著者さんはこういう作品も書けるんだな…とちょっと意外な思いで読んでいましたけど、とても楽しく読めた一冊でした。
8.六花城の嘘つきな客人 (集英社オレンジ文庫)
いくつもの浮名を流し王都一の色男と噂されるシリル。子爵家の三男で居場所のなくなった彼が、一人娘の結婚相手を選ぶため貴公子たちを招待している北の大領主ネージュ家の六花城に誘われて同行する物語。借金をして父親に実家を追い出され居場所がなくなったシリルと、男装して男として振る舞うブランシュの運命の出会い。真摯に向き合おうとして誤解からすれ違う皮肉な展開は切なかったですけど、この作品に見たかつてのコバルト文庫などからするとよりビターで、けれど最後はしっかりと間違わない王道展開に、コバルト文庫の系譜を引き継いだオレンジ文庫のファンタジー作品への期待を新たにしました。
9.聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語 (角川文庫)
聖女ヴィクトリアの考察 アウレスタ神殿物語
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春間 タツキ KADOKAWA 2021年08月24日
平和を司るアウレスタ神殿の聖女のひとりで霊が視える少女ヴィクトリア。その能力を疑われ追放を言い渡された彼女が、辺境の騎士アドラスに依頼され、出生の謎を解き明かす謎解きファンタジー。アドラスと共に彼の故郷へ向かい、出生の秘密を調べ始めるヴィクトリア。彼女が巻き込まれてゆく思惑が絡み合う帝位継承争い。真実はどこにあるのか、陥れられた窮地をいかに乗り越えるのか。腹を括った彼女の優れた観察力・洞察力で事態を打開して、思ってもみなかった真実へと導いてゆく展開の一方で、人の機微には疎いギャップがヴィクトリアの魅力を際立たせていて、続巻がまた読みたくなる作品ですね。
10.ホラー作家八街七瀬の、伝奇小説事件簿 (集英社文庫)
美人売れっ子ホラー小説家で高校時代の同級生・八街七瀬の担当編集者として、彼女に振り回される日々を送る大和。七瀬のもとに節分祭に関する不思議な体験談が書かれたファンレターが届き、二人で現地取材向かう伝奇ミステリ。二人が巻き込まれる…ではなく七瀬がぐいぐい踏み込んで大和が振り回される中での集落のおぞましい因習もなかなかインパクトありましたけど、ヘタレ過ぎる大和のせいで七瀬も拗らせてしまった二人の関係の行く末もついつい気になってしまう続編に期待の作品です。
11.ゴーストリイ・サークル ――呪われた先輩と半端な僕 (二見ホラー×ミステリ文庫)
ゴーストリイ・サークル --呪われた先輩と半端な僕
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栗原 ちひろ/LOWRISE 二見書房 2021年09月21日頃
芸大進学で引っ越したアパートで美しい先輩瀬凪ほのかに一目惚れした浅井行。アパートで異変に遭遇した行に彼女が、上手くやり過ごすことを提案する青春ホラーミステリ。アパートに掛かってくる不穏な電話、顔が浮かぶ壁、姿なきピアニスト、そして呪われたほのかの過去。事件を通じてエセ関西人の友人・蘭堂や仲間たちを増やしながら霊をやり過ごす術を覚えて、明らかになってゆくほのかの過去の因縁に挑む展開でしたけど、大好きな女の子の危機に身体を張って立ち向かってみせた行とほのかが迎えた結末は控えめにいって最高で、ぐっと来るものがありましたね。何となく手にとった一冊でしたが、自分の好みにどストライクでした。
12.総務課の播上君のお弁当 ひとくちもらえますか? (宝島社文庫)
札幌の企業に就職し新生活をスタートさせた料理男子・播上。料理好きで毎日弁当を持参する播上が、ある日弁当袋を手に暗い顔の同期の清水に気づく物語。仕事が上手く行かず落ち込んでいた清水に、播上がお弁当を少しおすそ分けしたことから始まった二人のメシ友関係。その距離感を同僚や先輩に勘ぐられながら、波乱の会社員生活の中で積み重ねてゆく、お互いに励まし合い癒やされる関係がとてもいい感じで、想いを自覚するまでに時間が掛かり過ぎな感もありましたけど、長らく友情を育んできた先にあった二人の結末にはぐっと来るものがありました。見落としていたのですが、これと対になる「総務課の渋澤君のお弁当 ひとくち召し上がれ」という作品があるらしくて、近いうちに読んでみたいと思います。
13.霊獣紀 獲麟の書(講談社文庫)
中国・五胡十六国時代。戦乱の世で人界に囚われた霊獣・一角麒と出会い、奴隷から盗賊に身を転じたベイラの冒険と戦いを壮大なスケールで描いた中華ファンタジー。匈奴の少数部族・羯族の小胡部を統率する小帥の息子として生まれたベイラが、一角と出会ったことで転機を迎えて、一度は奴隷に落とされたりする中で、どうすればいいのかを常に見極めながら、徐々に取り立てられ立身してゆく展開は何が起こるのか分からないこの時代の雰囲気を感じますね。奥さんも出てきてそのロマンスも期待できるのかなと思いながら読んでいたんですけど、あくまでこの作品は史実寄りの歴史ファンタジーで、その辺りが他の著者さん文庫作品とは一線を画している感はありますね。
14.詩剣女侠 (集英社オレンジ文庫)
明の時代。剣筆の名門・斐家の令嬢・天芯に仕える侍女・春燕。当主の死後、妹夫婦に家を乗っ取られた主の斐家再興の意志を継ぎ、有名な老剣筆家と会うために訪れた杭州の地で、弟子だった二人の青年と出会う中華浪漫活劇。舞いながら岩紙に詩句を刻む剣筆。七天光筆の弟子・陸興破と韓九秋に教わりながら剣筆の腕を磨いて、仇を討つために大会出場を目指す春燕。何度も執拗な妨害に遭い、心折られかけながらも、その真っ直ぐな姿勢は多くの人を惹き付けて、諦めずにもう一度立ち向かってゆく彼女たちの姿とその結末にはぐっと来るものがありますね。ライト文芸ではなかなかないテイストの作品で、この続巻もまた読んでみたいです。
15.赤と青とエスキース
メルボルンの若手画家が描いた一枚の絵画(エスキース)。日本へ渡って三十数年、その絵画が「ふたり」の間に奇跡を紡いでいく連作短編集。メルボルン留学中の女子大生と現地在住日系人の恋、日本の額職人とかつてメルボルンで出会った作家の絵、大賞を受賞したマンガ家が師と出会った場所、パニック障害を発症した茜と元恋人の再会、そしてちょっと長めのエピローグ。今回も丁寧に紡がれるひとつひとつのエピソードが繋がってゆく著者さんお得意の連作短編集だったんですが、繋がりが垣間見えるそれらがひとつに繋がった時に気付かされる、壮大な物語とその結末にはやられたと思いました。
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