読書する日々と備忘録

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夏のイチオシ文庫15選 ライトノベル編

 来月あたり各社恒例の夏の文庫フェアの季節だな…と思い出し、ふと自分で夏の文庫を作ったらと思い、ライトノベル編と一般文庫/ライト文芸編を考えてみようと思いつきました。ただ、ここ最近やたらと企画を乱発しすぎたために、そのあたりと被らない作品を...と考えて、読んだ本の中から選んでみようとしたらかなり苦戦しました。

 

新作も最近紹介した本ばかりなので選ぶのを諦めて、前述のように最近の企画で紹介してない本をと削ってと縛りを増やしていったため、今回夏の文庫とは銘打っていますが、夏らしさはあんまり出せてません(苦笑)数巻くらいのシリーズもの入れるとセレクトもう少し楽だったのかも(その辺の反省は次回に活かしたいと思います)。とりあえず第一弾ということでライトノベル編15選を紹介します。

 

1.かりゆしブルー・ブルー 空と神様の八月 (角川スニーカー文庫)

いなり寿司しか食べられない呪いを祓うため神々の住む島・白結木島を訪れた高校生春秋。そんな彼が神様との縁を切ることで怪異を祓う花人の後継者の少女・空と出会い、怪異解決に挑む沖縄青春ファンタジー。天真爛漫でどこまでもフリーダムだけれど島想いな空たちに翻弄されながら、徐々に変わってゆく春秋の心境。師匠を亡くし未熟を自覚しつつも、事情を知って春秋のために呪いを解こうとする空の決意。のびやかな舞台で繰り広げられる物語の結末はちょっぴり切なくて、けれどそれを乗り越える爽快な読後感は著者さんらしい魅力に溢れていました。

 

2.とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)

 

空に生き甲斐を見出す傭兵飛空士シャルルが、次期皇妃ファナを送り届けるため、単機敵制空権内を翔破することを命じられる物語。秘密作戦のはずなのに皇子の迂闊な連絡で敵に作戦が筒抜けという状況下、二人が協力して切り抜けていくうちに、命じられたことに従うだけだったファナも本来の自分を取り戻し、お互い想いを育んでいきながら、でも叶わないと知っているその思いに葛藤する展開は切なくて美しく、何度も心を揺さぶられました。もし読んだことがなければぜひ読んでみて欲しい一冊。

 

3.1/2―デュアル― 死にすら値しない紅 (角川スニーカー文庫)

殺されヒトとしての一部分を失い、引き替えに特殊能力を得て生き返る偽生者。偽生者を殺し直すために生きる限夏が、不老不死な偽生者の少女・伴を相棒とする近未来SF。ぎこちない距離感から始まった二人が挑む、偽生者による国家統一を掲げたテロ事件発生と、首謀者と伴を巡る凄惨な因縁。そんな彼女に限夏がいかにして並び立つ存在になりうるのかが問われる展開でしたけど、絶妙のタイミングで複雑な過去や葛藤も絡めつつ、絶望する彼女が直面する最悪の状況にも最後まで諦めずに挑み、見事に伴の相棒たることを証明してみせた結末は見事でした。

 

4.地獄に祈れ。天に堕ちろ。 (電撃文庫)

地獄に祈れ。天に堕ちろ。 (電撃文庫)

地獄に祈れ。天に堕ちろ。 (電撃文庫)

  • 作者:九岡 望
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/11/09
  • メディア: 文庫
 

世界規模の幽界現象と呼ばれる大災厄によって、死者が現世に戻ってきてしまうようになった末世・東凶。聖職者が大嫌いな亡者の死神ミソギと、死者が嫌いな聖職者アッシュが縁あって手を組み立ち向かうダークヒーローアクション。相性最悪な二人の邂逅と、そんな彼らに振り回されるシスターのフィリス。魅力的なキャラたちそれぞれの複雑な事情を絡めながら、東凶中を巻き込んだ麻薬騒動から始まる世界崩壊の危機を吹っ切れたシスコン二人が大暴れして解決に導く展開は痛快でした。いい感じにオチもついた結末でしたけど続巻に期待できそうですね。20年7月に2巻目刊行。

 

5.ディエゴの巨神 (電撃文庫)

ディエゴの巨神 (電撃文庫)

ディエゴの巨神 (電撃文庫)

 

新大陸発見に沸き立つ変革の時代。密かに陰陽術の研究に励む海洋国家スピネイア王国の青年ディエゴが、腐れ縁の友人アルバロと共に新大陸遠征軍の船に乗り込む物語。遠征軍を撃退する森を守る巨神の存在と欺かれた原住民たちの不信、そしてディエゴの悔恨と彼を取り巻く複雑な因縁。理想を持つがゆえに現実に思い至らない面もあったディエゴでしたけど、レラやローゼンといった原住民たちと交流するうちに自分のなすべきことを見出してゆく展開は、新大陸と旧大陸の間で新たに時代を切り開こうとする熱い想いがぶつかりあってとても面白かったです。

 

6.夜明けのヴィラン 聖邪たちの行進 (ダッシュエックス文庫)

ヒーローと悪人であるヴィランの存在が科学的に証明された世界。最凶最悪のヴィランの息子として生まれた高校生のユウマが、Dr.デブリードマンが巻き起こしたヒーロとヴィランの境を超えた壮大な戦いに巻き込まれてゆく物語。分かりやすいヒーローとヴィランの構図がどこかアメコミっぽい雰囲気でしたが、ヒーローを次々と殺しテロを仕掛けるDr.デブリードマンと超人協会の因縁もあり、立ち位置の難しい主人公や正義とは何かというテーマをテンポの良い読みやすい文章で上手く描いていたと思いました。

 

7.MONUMENT あるいは自分自身の怪物 (ダッシュエックス文庫)

人類が火を熾すよりも先に、発火の魔術に目覚めた世界。旧ソ連出身の工作員ボリスが、『賢者』の資質を持った魔術師千種トウコの護衛依頼を受け、学院のあるピラミス島を訪れる物語。クールで目的のためには手段を選ばないボリスが、トウコやその妹ナナコたちと一緒にその依頼の裏にある真の目的に近づいていくストーリーで、やや冗長な文章が物語を必要以上に難解なものにしてしまった感もありましたが、SF的な要素を含むミステリアスな物語には独特の雰囲気がありました。

 

8.裏方キャラの青木くんがラブコメを制すまで。 (角川スニーカー文庫) 

担当がついたもののなかなかデビューできない高校生作家の青木。そんな彼を恋愛マスターと勘違いした演劇部所属の憧れの綾瀬マイから、劇の脚本執筆を依頼される青春ラブコメディ。魅力的な彼女にどんどん惹かれてゆくのに、自信がなくて一歩を踏み出せずドツボにハマってゆくジレンマ。理解者の親友や彼女にお似合いのイケメン主人公キャラ、二人を振り回す女友達を配する王道な展開でしたけど、行き詰まっていた状況を打破する疾走感には勢いがあって、なのに何となく締まらない残念な結末に主人公らしさを感じてしまうなかなか面白い一冊でした。

 

9.魔女の花嫁 seasons beside a witch (LINE文庫エッジ) 

魔女の花嫁 seasons beside a witch (LINE文庫エッジ)

魔女の花嫁 seasons beside a witch (LINE文庫エッジ)

  • 作者:空伏空人
  • 発売日: 2019/12/05
  • メディア: 文庫
 

不治の病に罹った少年・桑折冬至が、迷い込んだはずれの森に住む変わり者の魔女・ミーズに出会い、願いを叶える代わりにその弟子となる物語。ハルと名付けられた死にたくないと願うシニカルな少年と、陽気で構いたがりでどこか子供っぽい一面も見せる魔女のミーズ。そんな二人の微笑ましいやりとりは良かったですけど時折ハルが知らないミーズの過去があって。巻き込まれた事件を通して明かされるミーズの真意がまた衝撃的でしたけど、二人で過ごした日々もまた偽りではなかったんですよね。彼らがどうなってゆくのかその後の話を読んでみたくなる一冊でした。

 

10.黒猫のおうて! (ファンタジア文庫)

黒猫のおうて! (ファンタジア文庫)

黒猫のおうて! (ファンタジア文庫)

 

奨励会三段リーグを全勝しながら突如理由も告げずに将棋界を去った天才棋士長門成海。そんな彼のもとに強くなりたい一心でゴスロリ猫耳姿で女流棋士三河美弦が弟子入りを志願する将棋小説。服装にインパクトはありますが、ストーリーとしては将棋から距離を置いていた成海が、将棋で強くなるために真っ直ぐにぶつかってくる美弦の熱い想いに心揺さぶられてゆく展開で、美弦の姉で女流棋士の美夏や初心者の大家の娘・茜も絡めつつ、真摯な想いを胸に秘めた美弦が因縁のプロ棋士加賀薫七段に挑む戦いとその結末には強く心に響くものがありました。

 

11.二周目の僕は君と恋をする (ファミ通文庫)

高三の夏に突如消失した片想いの相手・茉莉。辛い現実を受け止められないまま二十歳の誕生日を迎えた崇希が、消失を回避すべく二人が出会った二年前の春からやり直すタイムリープ青春小説。近くで眺めるだけだった過去を反省し、積極的に茉莉と距離を縮め真相に近づこうとする崇希。幸せな日々に時折訪れる不安な兆候の一方で、明らかになってゆく意外な過去。不安に揺れる二人の初々しい距離感はもどかしくて、容易には覆らない未来に難しさも感じましたけど、再会して絆を育んでいった今の二人ならきっとそれを乗り越えてくれると信じたいですね。

 

12.ストレンジガールは甘い手のひらの上で踊る (MF文庫J)

 クラスメイトの浦上彰人に恋する、地下鉄好きなちょっと変わった女の子一色佐奈。そんな彼女が彼と幼馴染万里花が共有する秘密に引き込まれ、関わるうちに親密になっていく物語。とある事件をきっかけに再構築されて、一見変わらないように見えて決定的に変わってしまった三人の関係。新事実が判明するたびにその構図が変化していきますが、閉塞感を打開しようとあがいた結果、近くて遠い存在になってしまった彼らの関係に、勇気を持って踏み出した一歩と、その原因も絡めて再出発の兆しを見出すあたりが著者さんらしくて、わりと好みの物語でした。

 

13.彼方なる君の笑顔は鏡の向こう (講談社ラノベ文庫)

彼方なる君の笑顔は鏡の向こう (講談社ラノベ文庫)

彼方なる君の笑顔は鏡の向こう (講談社ラノベ文庫)

 

 幼馴染の詩歌だけにはダメな一面も見せる美少女の彼方。そんな彼女が神社での事故から3人の付喪神の女の子を生み出してしまい、その3人と一人暮らしの詩歌が同居生活を始める物語。「詩歌への想い」「記憶」「食欲」の強い想いを失い、どこかよそよそしくなってしまった彼方。欲望に忠実な3人に振り回される詩歌。以前の駄彼方に戻って欲しいと思う一方で、彼方も加えて共に過ごし家族のような関係と感じるようになってゆく彼らは難しい決断を迫られましたが、彼らの強い絆を信じて応援したくなったちょっぴり切ない幼馴染たちの恋の物語でした。

 

14.嫌われエースの数奇な恋路 (電撃文庫)

嫌われエースの数奇な恋路 (電撃文庫)

嫌われエースの数奇な恋路 (電撃文庫)

 

 前年甲子園予選決勝まで残った結果、爆発的に増加した女子マネ志望者。決勝戦敗北のA級戦犯で今は男子マネとなった「嫌われエース」押井数奇と門前払いされる中で一人だけ残った強者・蓮尾凜が織りなす青春小説。難しい状況であえて男子マネとして部に残った数奇と、彼に因縁があるらしく何かと張り合う凜。少しずつ変わってゆく状況と諦めない不器用な数奇の頑張りがあるからこそ、ままならない現実にはもどかしい気持ちにもなりましたが、そこからの彼の頑張りと葛藤もまた青春の1ページで、これはこれで良かったのかなと思えた結末でした。

 

15.自殺するには向かない季節 (講談社ラノベ文庫)

自殺するには向かない季節 (講談社ラノベ文庫)

自殺するには向かない季節 (講談社ラノベ文庫)

 

 ある朝、同級生の雨宮翼が列車へ飛び込み自殺を図るのに関与してしまった永瀬。その自殺が忘れられない彼が友人の深井から過去に戻れるカプセルを手渡され、やり直すために過去へ遡る物語。最初は彼女に関わらないと決意したはずなのに、逆に雨宮に関わる機会が増えてしまう永瀬。そんな彼に改めて突きつけられる「蝶は羽ばたかない」という事実。それでも当事者の変えようとする意志によって変わることもあって、多くの人にとってはさほど変わらない、けれど確実に変わったその結末に、一抹のほろ苦さを感じながらもどこか救われる思いがしました。

 

以上です。気になる本があったら是非手にとって読んでみて下さい。