読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2020年2月に読んだ新作おすすめ本

2月はどうにか時間などもやりくりしつつ、できる範囲で新作には手を出すようにはしてました。

 

ラノベではあわむら赤光さんの「俺の女友達が最高に可愛い。」 (GA文庫)が思っていた以上に良かったです。あとは電撃文庫の高校生声優二人の育まれる絆を描く「声優ラジオのウラオモテ」、社会人ラブコメとしてLINE文庫エッジ「小鳥遊さんはラブコメ勉強中!」もいいですね。GA文庫スニーカー文庫の刊行ラインナップを見ていると、やや多すぎかな感は否めないですがラブコメの勢いを感じます。

 

ライト文芸では新潮文庫nexの「青ノ果テ」が青春小説として出色の一冊。「今夜、世界からこの恋が消えても」もメディアワークス文庫らしさが良く出ている作品です。最近コンスタントに本を出すようになった藤丸さんの「午前3時33分、魔法道具店ポラリス営業中」や、辻堂ゆめさんの「ヒマワリ高校初恋部!」も個性的な女子高生たちの青春を描いた注目の一冊ですね。

 

一般文庫では角川文庫から「雲神様の箱」と「天涯の楽土」の古代和風ファンタジーが二冊。また青春小説として「それでも僕らは、屋上で誰かを想っていた」 (宝島社文庫)、「あの冬、なくした恋を探して」 (ポプラ文庫ピュアフル)も秀逸な一冊です。単行本はあまり手を出してなかったですが、彩瀬まるさんの「さいはての家」も著者さんらしさがよく出ていた一冊でした。

 

俺の女友達が最高に可愛い。 (GA文庫)

俺の女友達が最高に可愛い。 (GA文庫)

 

高校入学時に知り合った趣味ピッタリ相性バッチリな中村カイと学年一の美少女・御屋川ジュン。ゲームに漫画トーク、アニソンカラオケ、楽しすぎていくらでも一緒に遊んでいられる二人の関係を描くピュアフレンド・ラブコメ。放課後はカイの家に入り浸って多趣味を全力で楽しむとか、傍から見たらイチャイチャしてるようにしか見えなくても、堂々と友達宣言しちゃう二人の強固な関係には誰も入り込めなくて、けれど何かあるとお互い真っ赤になってしまう二人の関係は一体何なのか?(苦笑)そんな盤石な二人に波紋を投げかけそうな最後の展開に期待。

高校のクラス内では相性最悪なギャルと根暗地味子。そんな二人が実は声優で、同じ高校に通う仲良し声優コンビとしてほんわかラジオ番組をスタートさせる青春小説。声以外の仕事は苦手でも意識は高い千佳と、なかなか芽が出ない境遇に自信喪失気味の由美子。お互い正体を知らないままコンビを組んだ、ないものねだりの複雑な二人の関係や距離感が絶妙で、けれど真摯に仕事に向き合う姿を知るからこそ、相手の逆境に奔走できるんですよね...熱い想いで危機的な炎上を乗り切ったからこそ、そんな彼女たちのこれからをまた読んでみたいと思いました。

小鳥遊さんはラブコメ勉強中! (LINE文庫エッジ)

小鳥遊さんはラブコメ勉強中! (LINE文庫エッジ)

  • 作者:高橋徹
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫
 

普段は仕事ができるクールな小鳥遊璃子に意外な場所で出会った同期の鞘野直春が、流れで擬似恋人として一緒に恋愛を学ぶラブコメ。女子校育ちで実は恋愛に興味津々、天然で小動物っぽい可愛さ全開な璃子との彼氏彼女ごっこで繰り広げられる、名前呼びや猫カフェデート、大人の恋愛小説解説、手を繋ぐ、ハグ、看病...といったイベントの数々。着実に甘えんぼになってゆく璃子と直春の甘い距離感の破壊力には凄まじいものがありましたね。なのに分かり切った答えにいったん距離を置かないと気づかない彼女にはツッコミを入れたくなりました(苦笑)

満員電車で疎遠になっていた幼馴染の伏見姫奈を助けた高校二年生の高森諒。それをきっかけに学校ではすっかり人気者になっていた彼女と、少しずつ幼馴染としての関係を取り戻してゆく青春小説。ずっと同じクラスだったけど中高では疎遠になっていた二人の距離感。それがきっかけを得て、今までとはまた変わってゆくことに戸惑いを感じながらも、二人が絆を再び育んでいく展開はなかなか良かったですね。鳥越さんの存在も物語の構図として効いてましたけど、どこか詰めが甘い二人の関係がこれからどうなってゆくのか、今後が楽しみな新シリーズです。

友人もおらず一人で勉学に励む大学三年生・佐々木健斗。そんな彼の隣の席に突然伊藤奈月が居座るようになり、彼女の存在により健斗の日々が変わってゆく青春小説。意外とぐいぐい来る奈月に女性に不慣れな健斗は押されっぱなしで、勉強を助け合ったり愚痴を言い合いながら、ゆっくりと確実に縮まってゆく二人の関係。不器用だけれど何だかんだで優しい健斗を見ていたからこそ、不安を抱える彼女も彼に歩み寄れたんでしょうね。もう少し時間が必要そうな二人を見守りたい展開ですが、もう一人のヒロイン神崎さんの存在が気になるところではあります。

父の作った膨大な額の借金、さらに祖父と先代侯爵の遺した『子供達を結婚させ一族となろう!』という誓約。そんな事情からスタートしたツンデレ侯爵令嬢エミリアと借金専属執事兼許嫁となったジャックのお屋敷同居生活。仕方ない風を装いつつも一緒にいられるのが嬉しいエミリアが典型的なツンデレキャラだったのは苦笑いでしたが、学園で知り合ったネイ&ムギのカップルや、屋敷でもメイド長やエミリアの双子の妹たちがいい感じに絡んできて、素直になれないエミリアとジャックとの関係がこれからどう変わるのか今後が楽しみな新シリーズですね。

誰が見てもとびきり美少女だけど、怠け者で甘え上手な、筋金入りの引きこもりな幼馴染・如月唯花。高校生の三上奏太が放課後になると引きこもりな幼馴染の部屋を訪れる日々を過ごす青春小説。引きこもりの幼馴染を甘やかし過ぎなのでは…?とも思わなくもなかったですが、大好きな幼馴染のために日参する奏太と、大好きだけど引きこもりゆえ一線を引く唯花は二人の距離感にお互い敏感で、なのに唯花が時には無防備な姿を晒し、時にはギリギリまで攻めてくる中、理性を保って耐え続ける奏太がこれからどうするのか、今後に期待したいシリーズですね。

そうだな、確かに可愛いな (MF文庫J)

そうだな、確かに可愛いな (MF文庫J)

 

二年間の眠りから目覚めたワケありの先輩は異世界帰りだった?!そんな彼を慕う後輩・桑折那乃が、少しズレた先輩の無自覚デレに赤面しまくるラブコメディ。目が覚めた先輩が語る真相が斜め上でしたが、いきなり魔法を使おうとしたり、冗談に真顔で本音をぶつけてくる無自覚な先輩がなかなかツボで、正面から打ち返してくる彼にあたふたしつつ、赤面する桑折がなかなか可愛いかったですね。異世界で彼が出会ったヒロインたちも気になるところですが、物語をうまくまとめてみせた分、ここからの展開をどうするのか著者さんの手腕に期待したいですね。

成戸悠己が席替えで隣になったのは、隣になった男子は告白して玉砕してしまうと噂される「隣の席キラー」鷹月唯李。しかし悠己のつれない対応に、むしろ唯李の方が気になりだす青春ラブコメディ。噂を信じて彼女に騙されないぞという態度を崩さない悠己と、いつもと勝手の違う展開で空回りするうちに実は不器用なその本性がどんどん露わになってゆく唯李に、やたらとテンションが高い悠己の妹たちも絡めて、勘違いやすれ違いが積み重なってドツボにはまるカオスな展開でしたけど、ここからどうやって軌道修正するのか、著者さんの手腕に期待です。

 

 

 東京からの転校生・深澤がやってきてから、壮多も幼馴染の七夏もおかしくなった。彼女が姿を消す前に託された約束を胸に、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る巡検の旅に出る青春小説。将来の展望もないまま鹿踊りにのめり込んでいた壮多が、転校生・深澤と七夏の急接近で突き付けられた焦燥と動揺。彼女不在で複雑な想いを抱えたまま臨んだ男三人の旅で、それぞれの抱く想いに触れて、宮沢賢治ゆかりの地やそのゆたかな情景に魅せられて、過去に向き合い乗り越えようとする彼らの成長とその結末にはぐっと来るものがありましたね。

無色透明な人生を送っていた高校生の透が、何となく流されるまま日野真織に嘘の告白をしたことで始まった偽りの恋と愛の物語。真織が提示した彼女になるための三つの条件。彼女の友人・綿矢も交えつつ共に過ごす中で変わってゆく真織への想い、そして真織が告げる彼女が隠していた秘密。一日一日大切に積み重ねてゆく日々は彼らにとってかけがえのないもので、真織への透の提案は変化のきっかけとなって、思いもよらない急展開でしたけど、彼女を精いっぱい愛し続けた透と、そんな想いに真摯に向き合おうとする真織の姿がとても印象的な物語でした。

午前3時33分、魔法道具店ポラリス営業中 (PHP文芸文庫)
 

夜ごと枕元に現れる鍵束と、繰り返し見る悪夢に悩まされていた大学生の遠野晴貴。不思議現象を解決してくれるという噂を聞いて訪れた噂の骨董店で、同級生の無愛想美人女子大生・月城環と出会う現代ファンタジー。自分の置かれた状態を解決してもらうべく彼女に依頼した晴貴が、バイトとして一緒に体験してゆく魔法絡みの現象。コミュニケーション不全なポンコツ美女・環と、そんな彼女に呆れながらも何だかんだで付き合いのいい晴貴の不器用でもどかしい関係がツボで、彼らが導いた切なく優しい結末には、また続きを読みたくなるものがありました。

ヒマワリ高校初恋部! (LINE文庫)

ヒマワリ高校初恋部! (LINE文庫)

  • 作者:辻堂ゆめ
  • 発売日: 2020/01/08
  • メディア: 文庫
 

今年から生徒全員が部活動に入らなければいけなくなった私立向日葵高校。帰宅部だった高2のハルが苦し紛れに設立した「初恋部」にまさかの入部希望者が三人も現れ、初恋の経験さえない女子高生四人が、恋をしようと作戦を練って奮闘する青春小説。個性的で恋をしたことがないゆえにどこか迷走しがちな彼女たちでしたけど、告白された相手が分からない男の子、文化祭での幽霊の正体、差出人不明のラブレター、絵を褒めてくれた人の正体といった遭遇する数々の謎にみんなで挑み、周囲の恋を叶えてゆく展開はなかなか良かったです。続巻ありますかね?

愛を綴る (集英社オレンジ文庫)

愛を綴る (集英社オレンジ文庫)

  • 作者:森 りん
  • 発売日: 2020/01/17
  • メディア: 文庫
 

父親がおらず厳しく貧しい苦境にありながら、明るく清らかに生きてきた天涯孤独な少女フェイス。ファーナム侯爵のメイドとして働き始めた彼女が森で迷い、情熱的な青年ルークと運命の出会いを果たす物語。字を読むことも書くこともできなかったフェイスが、文字の手ほどきを受けながらルークとやり取りを交わす日々と、明らかになってゆくルークの正体、身分違いの二人が直面する悲劇。暗転してからの二転三転する展開は勢いがあって、生い立ちや身分が違うがゆえの温度差も感じましたが、最後まで愛を貫いた先にあった結末はなかなか良かったです。

きみは友だちなんかじゃない (集英社オレンジ文庫)
 

高校入学直後、カフェでバイトに打ち込む小森凛。憧れのバイトの先輩に告白しようとした彼女が、不良と噂される隣のクラスの強面男子で先輩の従弟・岩倉大悟に間違って告白してしまう青春小説。噛み合わないメッセージのやりとりが始まり、どうにか間違うを正そうとする彼女が徐々に気づいてゆく強面の下に隠された思いがけない素顔。朴訥ながらも地味に斜め上な感覚の彼がなかなかツボでしたけど、彼女との出会いが大悟のありようを少しずつ変えていって、そんな凛もまた不器用な女の子で、二人が誤解を乗り越えてゆく結末はなかなか良かったです。

ひきこもりを家から出す方法 (集英社オレンジ文庫)
 

中学時代のつまずきが原因で自室から一歩も出られなくなり、ゆるやかな絶望の日々を送っていた影山俊治。十年が過ぎたある日、「ひきこもりを家から出す」プロ集団から、敏腕メイド・エリーが派遣されてくる切なくも優しい再生の物語。両親と協力しながら地道に俊治へアプローチを図るクリス。乗り越えるのは簡単なことではなかったでしょうけど、何度か挫折しかけながらも周囲の支えられながら、過去に決着をつけて前に進もうとする俊治の頑張り、そして乗り越えるきっかけを得た彼がまた周囲の人たちを支えてゆく結末は心に響くものがありました。

詐欺師は天使の顔をして (講談社タイガ)

詐欺師は天使の顔をして (講談社タイガ)

 

一世を風靡したカリスマ霊能力者・子規冴昼の突然の失踪。懸命に捜索するも失踪から三年…彼の霊能詐欺を陰で支えていた要に突然連絡が入る異世界転移ミステリ。突然転移した先で久しぶりに再会した冴昼と、超能力者しかいない街で殺人の罪を着せられている状況。これまでの常識が通用しない状況で無実を証明しなければならない構図は、やや雑な容疑だなと苦笑いもしましたけど、もうひとつの死者が蘇る世界で出会ったもう一組の訪問者たちの関係とも対比させつつ、不思議な世界観と詐欺師らしいやり方で事件解決する展開はなかなか面白かったです。

絶対小説 (講談社タイガ)

絶対小説 (講談社タイガ)

  • 作者:芹沢 政信
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: 文庫
 

手にした者に比類なき文才を与える伝説の文豪が遺した「絶対小説」。新人作家・兎谷三為にその存在を教えた先輩は忽然と姿を消し、兄と原稿の行方を探すまことに誘われた兎谷は、秘密結社に狙われ常識はずれの冒険に巻き込まれてゆく物語。謎めいたまことと一緒になって姿を消した作家・金輪際と原稿を探す兎谷が直面してゆく荒唐無稽な展開の連続。作家としてのありようを突き詰めていった先にあった結末はほろ苦くて、物語としてはやや冗長な感はありましたけど、大切なものを取り戻すため不器用に物語に向き合ってゆくその姿は印象に残りました。

超絶的資産家にして皇室と英国王室の血筋をひく公爵令嬢で、警察庁監察特殊事案対策官の西有栖宮綾子警視正。警察組織の不祥事を彼女が金と権力にものを言わせて解決してゆく警察ミステリ。この作品もまた箱崎長官を上司に据えた一連の世界観の中にある物語で、捜査権奪取を狙う検察の裏組織「一捜会」の隠謀によって引き起こされる警察署から消えた8572万円、署内不倫署長の全裸死体、県警本部集団薬物汚染といった不祥事を解決すべく投入された綾子主従の捜査はぶっ飛んでいて、既存の価値観をぶち壊す解決方法にはもはや笑うしかないですね。

 

雲神様の箱 (角川文庫)

雲神様の箱 (角川文庫)

  • 作者:円堂 豆子
  • 発売日: 2020/01/23
  • メディア: 文庫
 

霊山を移り住む古の民・土雲の一族。長の家に生まれながら不吉な双子の妹ゆえ虐げられていた少女・セイレンが、本来求められた姉媛の身代わりに雄日子の守り人となる古代和風ファンタジー。類い稀な技を持ちながら孤独と怒りから里を飛び出した真っすぐな気性のセイレンと、大王への叛逆を目論む雄日子の邂逅。姉媛との因縁も絡めつつ、自分の居場所を提供してくれた雄日子への複雑な想いを抱えるセイレンが、その野心や彼のありようにどう向き合ってゆくのか、多くの人との関わってゆくなかでどう成長してゆくのか今後に期待したいシリーズですね。

天涯の楽土 (角川文庫)

天涯の楽土 (角川文庫)

  • 作者:篠原 悠希
  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 文庫
 

弥生時代後期。久慈島と呼ばれる九州北部の里で平和に暮らしていた少年隼人。津櫛邦の急襲により里を燃やされて家族と引き離され奴隷にされた彼が、敵方の剣奴の少年・鷹士に命を救われる和風古代ファンタジー。過酷な奴隷生活にたびたび反発し、周囲から痛めつけられる隼人を救ってくれる鷹士。次第に距離を縮めてゆく彼らが久慈の十二神宝を巡る諸邦の争いに巻き込まる中、隼人は生い立ちの秘密を知り仲間たちと島の平和を取り戻すため、失われた神宝の探索に向かう展開はなかなか壮大で良かったです。続きが出るようならまた読んでみたいですね。

穏やかで笑みを崩さない蒼汰、蒼汰の幼馴染・小毬、教師から不良扱いされる漣、優等生の生徒会長・智朗、クールで大人びた由宇。タイプの異なる五人が過ごす屋上の大切な関係が、ひとつの告白をきっかけに変わり始める青春小説。いつまでも大切にしたいと思っていた関係が、自身は些細なことだと思っていたひとつの決断から崩壊し始める皮肉。それぞれの視点から語られるエピソードは何とも痛々しくて、何とかしようとすればするほどズレてしまう展開はもどかしかったですけど、そんな不器用な彼らが迎えるほろ苦さ交じりの結末がまた印象的でした。

高校時代、最愛の恋人と衝撃的悲劇で別れて以来10年、仕事一筋で生きてきた玲菜。そんな彼女が親友に無理やりつれていかれた婚活パーティーで、玲菜は容姿端麗な青年・ハルと出会ったことで人生が変わり始める物語。「君は性格がブスだ」と突きつけたハルから、玲菜の性格を変えるためと手渡されたAI機能付きのクロネコのぬいぐるみ。遠慮のないぬいぐるみとのやりとりから少しずつ変わってゆく玲菜の世界と、だからこそ改めて気づく自らの想いがあって、彼女の周囲には優しい人たちがいて、彼女が迎えた結末には本当に良かったなと思えました。

七里ヶ浜の姉妹 (ハルキ文庫 な)

七里ヶ浜の姉妹 (ハルキ文庫 な)

 

愛する妻を若くし病気で失った幹彦と、母が恋しくてたまらない幼い姉妹・梢と若葉。鎌倉七里ヶ浜に居を構え、新生活を始めた姉妹の成長と父のもとを巣立つまでを見守る優しい物語。寂しい想いを乗り越えて七里ヶ浜で成長してゆく姉妹と彼女たちと出会う人々。そんな彼女たちが岐路に立つたびに寄り添い、効果的なアドバイスをくれるマキちゃんと白猫ジョンの存在。彼女たちが出会った人々とは形を変えながらも関係が続いていて、彼女たちを支えてくれる人たちがいて、そんな優しく温かい物語のエピローグがまたとても印象的で良かったと思いました。

 

さいはての家

さいはての家

  • 作者:彩瀬 まる
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 単行本
 

居づらくなったり罪を犯したり、何かに反発したり所属していた場所を捨て他の土地へ向かう人たち。行き詰まった人々が、ひととき住み着く「家」を巡る連作短編集。家族を捨てて逃げてきた不倫カップル、逃亡中のヒットマンと、事情を知らない元同級生、新興宗教の元教祖だった老婦人、親の決めた結婚から逃げてきた女と別れた彼に追われる妹、子育てに戸惑い仕事を言い訳に家から逃げた男など、逃亡のはてにたどり着く住処に住まう人々の繊細な心情描写がとても著者さんらしいと思いましたが、「ままごと」と「かざあな」がなかなか印象的でした。