読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2019年に文庫化されたおススメ15作品

最近は単行本が刊行されても伸び悩み、密かに文庫化されずに終わる作品も少なくありませんが、一方でメディアミックスやいろいろ工夫をこらしながら文庫化され、人気を集める作品も少なくありません。昨年は単行本時代に読んだ本も含めていろいろ注目の作品も多数文庫化されました。その中で個人的におススメの15作品を紹介したいと思います。

 

1.騙し絵の牙 (角川文庫)

騙し絵の牙 (角川文庫)

騙し絵の牙 (角川文庫)

 

大手出版社で雑誌編集長を務める速水。上司の相沢から自身の雑誌の廃刊を匂わされたことをきっかけに、組織の思惑に翻弄されながらも懸命に抗う物語。作中では出版業界の厳しい状況が端的に描かれていて、部下や上司に振り回され大規模リストラや社内他誌の廃刊に直面したり、さらには家庭不和まで顕在化して、どんどん追い詰められてゆく速水。一方で出版界の新たな可能性の模索もあって、絶望しか見えなかった先にあった思わぬ展開には驚かされましたが、一見輝ける未来を手にしたかに見えた彼が直面する何とも皮肉な結末がとても効いていました。

2.屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

屍人荘の殺人 (創元推理文庫)

 

神紅大学ミステリ愛好会会長の探偵・明智恭介と助手・葉村譲が、もう一人の探偵・剣崎比留子と共に紫湛荘を訪れ、予想もしなかった事態で荘内に籠城を余儀される中、次々と連続殺人事件が起きるミステリ。過去に因縁あるペンションでの夏合宿で、思わぬ形で閉じ込められた参加者たち。外部からの脅威による惨劇と、次々と起きる因縁じみた殺人事件の組み合わせが奇抜で事態をより難しいものにしていましたけど、その特殊な状況下で起きた事件の真相は切なくて、そんな事件を見事解決に導いてみせた探偵たちのその後をまた読んでみたいと思いました。

3.わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

  • 作者:朱野 帰子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/27
  • メディア: 文庫
 

苦い過去の経験から定時で帰ることをモットーにウェブ会社で働く東山結衣。ブラック上司に曲者揃いの同僚相手に定時で帰る?仕事する気あるの?という空気の中奮闘するお仕事小説。働き方も婚約者もやや極端から極端に走りがちな感もあった結衣でしたが、無理を精神論で通そうとする天敵の勘違い上司や、同僚や取引先に振り回され続ける展開には共感めいたものを覚えてしまいますね(苦笑)それでも何とかしてみせた結衣の奮闘っぷりは流石で、婚約者は正直どっちもどっちだけれど、とりあえず巧は止めておいて正解だった気がしました。あれはない。

4.木曜日にはココアを (宝島社文庫)

木曜日にはココアを (宝島社文庫)

木曜日にはココアを (宝島社文庫)

  • 作者:青山 美智子
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/08/06
  • メディア: 文庫
 

川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる...小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる些細な出来事の積み重ねが、最後に繋がってゆく連作短編集。登場人物たちがどこかでさり気なく繋がっている連作短編集で、行き詰まっていた登場人物たちが新たな出会いや今まで気づかなかった優しさに触れて、見える世界を少しだけ変えていって、連鎖反応的に繋がってゆく物語がもたらした勇気と、それがもたらした結末がとても素敵な物語でした。最初のエピソードが最後にこういう形で結実するのもいいですね。

5.虹を待つ彼女 (角川文庫)

虹を待つ彼女 (角川文庫)

虹を待つ彼女 (角川文庫)

  • 作者:逸木 裕
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/05/24
  • メディア: 文庫
 

優秀で予想できてしまう限界に虚しさを覚えていた研究者・工藤が、死者を人工知能化するプロジェクトに参加して、衝撃的な自殺でカルト的な人気のゲームクリエイター・水科晴を知る物語。過去の事件や水科晴のことを調べてゆくうちに、彼女に共鳴し惹かれてゆく工藤。重要なキーパーソン「雨」の存在と調査中止を警告する謎の脅迫。我が身が危険に晒されながらも諦めず、晴を人工知能で再現することに妄執する工藤の姿には鬼気迫るものがありましたが、真相を知った彼のほろ苦くも粋な決断は少なからず心に響くものがありました。次回作にも期待。

 

6.明るい夜に出かけて (新潮文庫)

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

  • 作者:佐藤 多佳子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/04/26
  • メディア: 文庫
 

あるトラブルがきっかけで大学を休学し、実家を離れて期間限定の自立を始めた富山。人に言えない葛藤や臆病な自分に自信喪失気味だった彼が、バイトするコンビニで印象的な人たちと出会う青春小説。バイトリーダーの鹿沢や同級生の氷川、同じラジオ番組のヘビーリスナーの女子高生・佐古田たちと出会い、繋がっていくことで少しずつ変わってゆくその心境。誰しも不器用な一面があって、上手くいくことばかりでもなくて、けれどそんな彼らとの関わりから生まれる様々な出来事が、前へ進むきっかけに繋がってゆく展開にはぐっと来るものがありました。

7.ひよっこ社労士のヒナコ (文春文庫)

ひよっこ社労士のヒナコ (文春文庫)

ひよっこ社労士のヒナコ (文春文庫)

 

派遣社員から一念発起し社会保険労務士になった二十六歳のヒナコが、得意先で相談に乗りながら事件を解決し成長していくお仕事小説。解雇、ブラックバイト、産休育休、パワハラ、残業代、裁量労働制、労災といったよくある事例をテーマに取り組んでいく新米社労士の仕事はなかなかハードで、社内トラブルに巻き込まれかけたり、上手く利用されそうになったりもありましたけど、それでも試行錯誤しながら真摯に取り組んでいく雛子の頑張る姿には素直に応援したくなるものがありました。いろいろ勉強にもなって続刊あるようならまた読んでみたいです。

 

8.農ガール、農ライフ (祥伝社文庫)

農ガール、農ライフ (祥伝社文庫)

農ガール、農ライフ (祥伝社文庫)

 

派遣切りに遭い、同棲相手からも突然別れを告げられ失意のどん底の水沢久美子、三十二歳の春。TV番組の「農業女子特集」を見て運命を感じ、一念発起田舎に引っ越し農業大学へ入学することを決意する物語。頼れる実家もない状況で同棲相手と別れると、こんな不安定な境遇になってしまうのかと痛感させられる展開でしたが、やはり地縁のないところで女ひとり就農するのも言うほど簡単ではないですよね…。知り合った友人たちのしたたかな行動力が印象的でしたけど、周囲の助けもあって久美子にもどうにか希望が見えてくる展開に救われる思いでした。

9.タスキメシ (小学館文庫)

タスキメシ (小学館文庫)

タスキメシ (小学館文庫)

  • 作者:額賀 澪
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2019/11/06
  • メディア: 文庫
 

長距離選手として将来を期待されながら大怪我を負った高校三年生の眞家早馬。そんな彼が料理研究部に入り浸るようになる中、それぞれの熱い思いが交錯する駅伝大会が始まる青春小説。料理研究部の井坂都との出会いと、複雑な想いを抱える早馬が新たに見出した夢。そんな彼を諦められない同級生の助川や弟・春馬。都への想いも絡めた早馬の真意はどこにあるのか、彼に抱く周囲の複雑な想いが何とももどかしかったですが、仲間たちが突きつける熱い想いが早馬の心を強く揺さぶる結末はなかなか良かったですね。都との関係はどうなったのか気になる…。

10.君はレフティ (小学館文庫)

君はレフティ (小学館文庫)

君はレフティ (小学館文庫)

  • 作者:額賀 澪
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2019/08/06
  • メディア: 文庫
 

夏休み中、交通事故に遭った高校生・古谷野真樹。後遺症で過去の記憶を失いつつも夏休み明けの日常を取り戻しつつあった古谷野が謎の落書き「7.6」にあちこちで遭遇する青春ミステリ。自分へのメッセージと直感で感じて、同じクラスで写真部の生駒桂佑や春日まどかと一緒にその謎に挑む古谷野。謎を追ううちに明らかになってゆく親友の秘密と事件の真相。事実を知るたびに過去にあった情景が変化して、正直な心境は時に残酷で、失われたものの大きさを痛感しましたが、それでもまっすぐに向き合った彼らの真摯な想いがとても印象的な物語でした。

11.イダジョ! 医大女子 (ハルキ文庫)

イダジョ! 医大女子 (ハルキ文庫 と 8-1)

イダジョ! 医大女子 (ハルキ文庫 と 8-1)

 

私立医科大に入学することになった普通のサラリーマンの娘・安月美南。周囲とのギャップや現実に振り回されつつ逆境に立ち向かってゆく医大女子小説。入学早々直面するボンボン医大生との差、実習・勉強での実力不足、そして身近な人の死を目の当たりにして問われる医者になる覚悟。読んでいて医大生の勉強の大変さや、忙し過ぎて恋愛にかまけてる余裕なさそうとか、何より高額な学費払い続ける親御さんの大変さとか一歩間違えばの危うさに身につまされましたが、周囲と衝突したり助けられつつ人としても成長していく展開はなかなか良かったですね。
続巻:「イダジョ!研修医編(ハルキ文庫 と)

12.病弱探偵 謎は彼女の特効薬 (講談社文庫)

病弱探偵 謎は彼女の特効薬 (講談社文庫)

病弱探偵 謎は彼女の特効薬 (講談社文庫)

 

超病弱で学校は欠席続きの高校生・貫地谷マイ。幼馴染の同級生・山名井ゲンキがマイのために、学校で起こった不思議な事件を送り届ける寝台探偵ミステリ。消えた万引や持ち去られた短冊、着替えられた浴衣といった身近な謎をマイが寝台探偵よろしく謎解きする構図で、あまり学校に行けず友達も少ないがゆえにその推理には限界があるものの、いがみ合いながらもお互いをフォローして解決してゆく展開は良かったですね。甘え下手なマイの悪戯に毎回騙される学習しないゲンキには苦笑いでしたが、随分遠回りした二人の結末はなかなか素敵なものでした。

 

13.石黒くんに春は来ない (幻冬舎文庫)

石黒くんに春は来ない (幻冬舎文庫)

石黒くんに春は来ない (幻冬舎文庫)

 

典型的なスクールカーストが形成されたクラスで起こった、スキー教室における石黒君の遭難事件。平穏なようでいて歪な日常を取り戻した生徒たちに突然、意識不明の重体だった石黒君からメッセージが届く学園サスペンス。気ままに君臨するグループに事なかれの主義の教師、それによって生じる不登校や少しずつ溜まってゆく不満。それを巧みに扇動するものが現れることでガラリと様相が変わる狭い社会における群集心理の怖さが生々しかったです。途中から傍観者だった主人公恵美でしたけど、一度作られてしまった流れをどうにかするのは難しいですね。

14.少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

少女は鳥籠で眠らない (講談社文庫)

 

法律事務所に務める新米弁護士木村と有能な先輩・高塚のコンビが挑む連作リーガル・ミステリ。15歳の少女に手を出したとして逮捕された元家庭教師、中退した元同期の覚悟、浮気され離婚を望む男が親権を望んだ理由、そして高名な芸術家と娘の関係の4話からなる構成で、最初は一見よくあるありふれた事件に思えますが、それが性格の違う弁護士コンビによる別視点からのアプローチによって、もうひとつの構図を浮かび上がらせてゆく構成となっていて、事件決着後に木村が垣間見るほろ苦くもなかなか味わいのある結末がとても印象的な物語でした。

15.科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました (文春文庫)

科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました (文春文庫)

科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました (文春文庫)

 

自社の非科学的な商品にダメ出しをしたばかりに、最も行きたくなかった商品企画部に島流しになった大手電器メーカーに勤める科学マニア羽嶋賢児。その真っすぐすぎる科学愛が騒動を巻き起こすお仕事小説。苦い経験をさせられたり振り回された過去から、似非科学を否定し空気を読まずに正論を言って衝突する賢児。正しければいいというものでもないという現実と、科学好きを拗らせてしまう要因となった複雑な事情…こんな人が周囲にいたら疲れそうですが、科学研究を巡る厳しい事情も語られていたりで、理想と現実のバランスを取るのは難しいですね。

 

以上です。気になる本があったらぜひ手に取って読んでみてください。