読書する日々と備忘録

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一冊で読める印象的な一般文庫の青春小説14選

一冊で読める青春小説作品を紹介する企画。少し間が空いてしまいましたが、ライトノベル編・ライト文芸編に続く第三弾として一般文庫編を選んでみました。選んでいて感じたのは、ライトノベルライト文芸との境界が曖昧になってきていること、面白い作品は巻数重ねていて自分で作った縛りに頭を抱えたりもしましたが、とりあえず部活小説まで含めると結構なボリュームになりそうなので別途紹介予定です。

 

1.「わたしの恋人」「ぼくの嘘」「ふたりの文化祭 」(角川文庫)

 ※三作品は登場人物や世界観が同じ作品です(単体でも読めます)

わたしの恋人 (角川文庫)

わたしの恋人 (角川文庫)

 

彼女いない歴=年齢の高校1年生・龍樹が、保健室で出会った女の子・森せつなのくしゃみに恋をする。恋を知らなかった龍樹が、一目惚れから不器用な映画デートへの誘い、そして告白。自らの抱く思いに戸惑ったり不安に感じながらも、まっすぐな龍樹の想いに触れて、頑なだったせつなの気持ちも変わっていく繊細な描写がとても良かったです。せつながずっと抱いていた不安も、龍樹に話せば何とかなってしまいそうな無敵感、そういうのありますね(苦笑)素直なストーリー展開でしたが、二人の初々しいやりとりが見ていてくすぐったくなる物語でした。

ぼくの嘘 (角川文庫)

ぼくの嘘 (角川文庫)

 

親友龍樹の恋人森さんに恋心を抱いてしまった笹川勇太。そんな気持ちを学内一の美少女あおいに知られてしまって、彼女の企みに協力させられることになる物語。「わたしの恋人」から続くお話で、勇太の想いにはやはりと納得しましたが、そんな勇太を振り回しながら物語をぐいぐい引っ張っていく存在感があったあおいの恋の顛末。気持ちは分かるけれど、やっちゃいけないことってあるんですよね...。なかなか気持ちを切り替えられないあおいをずっと待っていた、勇太の粘り強さには脱帽。ほんと良かったなあと思えるラストで爽やかな読後感でした。

ふたりの文化祭 (角川文庫)

ふたりの文化祭 (角川文庫)

 

夏休みが明け、文化祭準備で浮き足立つ神丘高校。盛り上がりに欠けるクラスでお化け屋敷をやることになった人気者の潤と、内気な図書委員あやのそれぞれの視点から綴られてゆく青春小説。「わたしの恋人」「ぼくの嘘」と世界観や登場人物を同じくする物語で、結城さんに惹かれてゆく潤と、彼が気になるかつて幼馴染だったあやの。恋心とはまた少し違う二人の距離感と、その温度差がある心情の変化が繊細に綴られていて、あやが踏み出した勇気に潤が触発され逆境に立ち向かう展開には、彼らの間で失われていた共感と絆が確かにあったと思いました。

2.僕は小説が書けない (角川文庫)

僕は小説が書けない (角川文庫)

僕は小説が書けない (角川文庫)

 

不幸体質や家族関係に悩む高校1年生の光太郎。先輩・七瀬の強引な勧誘で廃部寸前の文芸部に入部した彼が、部の存続をかけて部誌に小説を書くことになる青春小説。物語を書けなくなっていた光太郎が出会った七瀬先輩の容赦ない批評。プレッシャーが掛かる部誌作成という状況で、振り回すOBふたりの存在と自覚してゆく七瀬先輩への想い。知りたくもない現実を突きつけられてきた光太郎が、それでも苦悩を乗り越えてきちんと向き合ったからこそ見えた光明があって、相変わらず不器用な彼のこれからを予感させるエピローグがとても素敵な物語でした。

3.私を知らないで (集英社文庫)

私を知らないで (集英社文庫)

私を知らないで (集英社文庫)

 

転校を繰り返して無難に生きることを覚えてしまった慎平と、クラスで孤立していたキヨコ、そんな彼女を救おうとしながらも、引きこもりになってしまった高野の物語。頭では冷静に計算しつつもキヨコが気になって仕方ない慎平は、彼女を知るたびに惹かれていって、でもおじさんがキヨコを訪ねてきたことでどこか予感できた結末。苦境に陥ったキヨコを救うには中学生はあまりにも無力で、ただ「普通になりたい」という彼女の思いを叶えるために、もっと上手く立ちまわることもできたのに、そうしなかった慎平の決断には、泣きたくなってしまいました。

4.夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)

 

再婚の父に新しい母と弟。私だけが家族になりきれていない女子高生の美咲。そんな彼女が熱中する作家・三島加深のミステリツアーに招待され、家を出て三日間のツアーに飛び込むひと夏のクローズドサークル。「謎を解けば加深の未発表作を贈る」と誘われて集まり、不可解な消失や死体でお互い疑心暗鬼になってゆく参加者たち。解き明かされてゆく謎は未発表作に込められた真意にも繋がっていて、彼らと共に過ごしたとても印象的なひと夏の体験が、きちんと今の自分と向き合ってそれぞれの新しい一歩を踏み出す勇気へと繋がってゆく素敵な物語でした。

5.鉢町あかねは壁がある カメラ小僧と暗室探偵 (角川文庫)

幼馴染ながら今は微妙な関係の写真部・有我遼平と占い女子・鉢町あかね。たびたび事件に遭遇する遼平を、推理を伝える謎の「壁越し探偵」となって救う青春ミステリー。あかねが密かに営む占い師の依頼者と事件がリンクしていたりで、距離を置きながらも意識する遼平を正体を明かさないままたびたび救う展開。凄まじい洞察力を発揮するのに、不器用過ぎて遼平に気づいてもらえないこじれ具合が切なかったですが、それでも二人のすれ違いのきっかけとなった過去の事件と今がようやく繋がって、これからの変化を期待させるラストはとても良かったです。

6.ヒトリコ (小学館文庫)

ヒトリコ (小学館文庫)

ヒトリコ (小学館文庫)

 

小学5年生の時、金魚を殺した濡れ衣を着せられ、みんなには加わらない「ヒトリコ」として生きていく決心をした深作日都子。すっかり変わってしまった彼女の高校に、その事件のきっかけを作った冬希が入学してくる青春小説。好きだった日都子の変貌ぶりに心痛める明仁、そんな二人を見ていろいろ拗らせてゆく大都の関係。当事者たちにはどうにもならなくなっていたところで帰ってきた冬希の存在が少しずつ彼らの関係を変えてゆく展開は、これまで抱えてきたほろ苦い思いは容易には変わらなくても、乗り越えた先の未来を予感させる素敵な物語でした。

7.隣の席の佐藤さん (一二三文庫)

隣の席の佐藤さん (一二三文庫)

隣の席の佐藤さん (一二三文庫)

 

地味でパッとしない佐藤さんと隣の席になった山口くん。隣の席で交流を積み重ねながら、二人の心境が少しずつ変化してゆく青春小説。始めは鈍くさいけど素直な佐藤さんに調子が狂いイライラしていたのに、いつの間にか彼女が気になってゆく山口くん。だからといってすんなり上手くいくわけでもなくて、ままならない状況でどう接するのがいいのか懸命に考える山口くんが微笑ましいですね。いろいろ遅れがちな彼女を気にかけて寄り添う山口くんの姿勢はカッコよくて、周囲にもバレバレで生温かく見守る二人のその後がまた読んでみたいと思いました。

8.「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。 (ポプラ文庫ピュアフル)

クラスでも目立たず友達のいない男子高校生・駒田に、となりの席のクールな美少女・水品さんが提案した「15分で1万円のバイト」。苦しんだ過去を持つ二人が出会い、次第に立ち直っていく優しい青春小説。水品さんが提案した不思議なバイトを通じて知ってゆく彼女の特殊な事情と、少しずつ変わってゆく駒田と水品さんの不器用な距離感。過去を乗り越えるための悲壮な決意から無意識の悪意にさらされる水品さんに、自らも苦い過去があるからこそ寄り添える駒田の心意気がカッコよかったですね。そんな二人の今後を応援したくなる素敵な物語でした。

9.少女ノイズ (光文社文庫)

少女ノイズ (光文社文庫)

少女ノイズ (光文社文庫)

 

殺人現場を撮影することが趣味の大学生スカと、両親を繋ぎ止めるために理想的な優等生を演じつづける孤独な女子高生瞑が、身の回りで起こる事件を解決していく過程で描かれる、不器用な二人の恋愛模様。解説で有川浩がミステリの皮を被ったキャラ小説だと指摘してたけど、予備校での出会いから始まる、微妙な二人の距離感でのやりとりがこの話のツボ。ツンデレが正義の自分は、なかなか素直になれない瞑の言動にニヤニヤしてしまいました(笑)

10.あしたはれたら死のう (文春文庫)

あしたはれたら死のう (文春文庫)

あしたはれたら死のう (文春文庫)

 

自殺未遂の結果、数年分の記憶と感情の一部を失ってしまった女子高生遠子。しかしなぜ死んでしまった同級生の志信と一緒に自殺を図ったのか、理由が分からずその原因を探るべく動き出す青春小説。以前とは明らかに変わった遠子の言動に戸惑う周囲の人たち。SNSに残されていた手がかりをもとに追う志信との関係や自殺の理由。志信と出会ってからの変化や彼のことを知ってゆくと、自殺を図った真相に切ないものを感じてしまいましたが、閉塞感のあった状況にも目をそらさずに真摯に向き合うようになった今の遠子のこれからを応援したくなりました。

11.僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

 

友達を作らないと決めていた僕に唐突に話しかけてきた、数学が好きで天才で孤独な少女・秋山明日菜。不本意ながら始まった彼女との交流が僕を変えてゆく青春小説。心臓移植の影響で前向性健忘症となり一ヶ月しか記憶を保てない明日菜。彼女の日記を頼りに二人の思い出を積み重ねてゆく僕と、少しずつ変わってゆく明日菜との関係。そして僕の暗い過去と意外な形で繋がる彼女の秘密。あれほど望んでいたはずの治癒がもたらした皮肉な転機でしたが、ゼロではない可能性を信じ続けた二人の真摯な想いが引き寄せた結末にはぐっと来るものがありました。

12.君を一人にしないための歌 (だいわ文庫)

君を一人にしないための歌 (だいわ文庫 I)

君を一人にしないための歌 (だいわ文庫 I)

 

中3の夏、吹奏楽コンクールの大失敗をきっかけにドラムをやめたモリソンが、高校入学後七海に強引に誘われ凛も加わりバンドを結成する青春ミステリ。ドラムはもうやらないはずがいつの間にか巻き込まれたモリソン。ただ最後のメンバーとして募集したギタリストが訳ありだらけで、なかなか演奏までいかずにもどかしかったですが、普段はおどおどしがちなモリソンが見せる意外な鋭さのギャップ、一方で過去に苦しい出来事があったのは彼だけでなく、彼女たちのヒミツが明らかになるたびに印象も変わり、絆が育まれてゆく展開は上手いなと思いました。

13.君の嘘と、やさしい死神 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[あ]8-4)君の嘘と、やさしい死神 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[あ]8-4)君の嘘と、やさしい死神 (ポプラ文庫ピュアフル)

 

幼少期のトラウマで嫌だと言えず周囲にいいように使われていたモモこと百瀬太郎と同級生・美園玲の運命的な出会い。百瀬は強引に文化祭の準備を手伝わされる羽目になり、彼女の計画を実行するため一緒に奔走する青春小説。強情でやりたいことに向けひたすら突き進む不器用な美園の秘めた想い。そんな彼女を手伝ううちに少しずつつ変わってゆくモモのありよう。甘酸っぱい距離感が育まれつつあった二人の過酷な展開には切なくなりましたけど、向き合い続けた二人の思い出は記録に残さなかったからこそ鮮明で、その読後感は心に響くものがありました。

14.僕と君の365日 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ゆ]1-1)僕と君の365日 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ゆ]1-1)僕と君の365日 (ポプラ文庫ピュアフル)

 

色彩が失われて1年で死に至る無彩病だと知らされ、自暴自棄になりかけた高校生・新藤蒼也。そんな彼が進学クラスから自ら希望して落ちてきた美少女・立波緋奈と契約のような365日間の恋を始める物語。周囲に知らせず最後まで普通の日常を送りたいと願う蒼也と、その秘密を唯一知る緋奈の少しずつ変わってゆく関係と、幼馴染たちを絡めたかけがえのない日々。大切な存在だと思うようになればなるほど、失う辛さを感じさせて切なかったですが、最後まで精一杯向き合い続けた二人の想いと、エピローグで明らかになるもう一つの真実が印象的でした。