読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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一冊で読める印象的な単行本の青春小説16選

 一冊で読める青春小説シリーズをこれまで三企画続けてきましたが、今回は第四弾ということで単行本編です。今回は自分がこれまで読んだ単行本の中から16冊選びました。このブログの企画では主にキャラ文芸やライト文芸ライトノベルくらいを読んでいる人、興味がある人ならわりと読めそうな本を中心に紹介しています。境界が曖昧になっているということもありますが、手に取ったことのないレーベルだから、単行本だからということで読む機会がなかった方も、読んでみたら良かった、面白かったはあるはずです。気になる本があったら一度是非手にとって読んでみて下さい。

 

1.探偵は教室にいない

探偵は教室にいない

探偵は教室にいない

 

 北海道の中学校に通う14歳の海砂真史を主人公に、英奈、総士、京介ら同級生たちとの日々の中で生まれるちょっとした謎を、真史のちょっと変わった幼馴染・鳥飼歩が解き明かしてゆく連作短編集。差出人不明のラブレター、ピアノに対する京介の複雑な想い、総士が隠していた真相、そして真史の家出と四つの物語が収録されていて、登場人物たちの周囲に対して素直になれない繊細な心情を巧みに描きつつ、相談された謎を解き明かしてゆく一見無頓着な探偵役・歩が見せる細やかな心遣いがなかなか効いていました。この作品の続編をまた読みたいです。

2.名探偵誕生

名探偵誕生

名探偵誕生

 

小学生の頃から様々な冒険をしていたみーくんに不穏の影が差した時、いつも助けてくれた名探偵のお姉ちゃん。そんな千歳お姉ちゃんとの初恋とみーくんの成長を描くミステリ青春小説。ずっとみーくんに寄り添い見守ってくれていた千歳お姉ちゃんへの想いは募ってゆくのに、なかなか姉妹のような関係から抜け出せないもどかしさについ共感してしまいましたが、次々と事件を解決してきた生粋の探偵である彼女を救うため、ほろ苦い複雑な想いを乗り越えて自ら立ち上がるみーくんがとても格好良かったです。どこでまた彼らのその後を読めるといいですね。

3.青少年のための小説入門

青少年のための小説入門

青少年のための小説入門

 

 中学2年だった一真が万引きを強要された現場でヤンキーの登と出会い、幼い頃から自由に読み書きができなかった彼と共に小説家を目指す青春小説。文字を読むのには苦労する登が一真に小説の朗読をしてもらって、彼が頭の中に湧き出すストーリーを一真が小説にする日々。そして一真が出会った少女・かすみとのほのかな恋。二人で多くの印象的な作品を読みながらコンビで小説家を目指すべく試行錯誤を続ける二人が、作家になってから少しずつ歯車が狂ってゆく展開はもどかしくて、けれどそんな彼らのままならない青春にはぐっと来るものがありました。

4.君を描けば嘘になる

君を描けば嘘になる

君を描けば嘘になる

 

寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。

5.彼女の色に届くまで

彼女の色に届くまで

彼女の色に届くまで

 

画廊の息子で幼い頃から才能を過信し画家を目指している緑川礼。しかしいつの間にか冴えない高校生活を送っていた礼が、無口で謎めいた同学年の美少女・千坂桜と出会うアートミステリ。礼が衝撃を受けた原石のような彼女の絵の才能。その推理で礼の窮地を救ってみせる桜の意外な一面と、共に過ごすようになってゆく日々。圧倒的な才能を前に平凡な自分を突きつけられる葛藤と少しの打算、生活力皆無な桜が気になって飼育係として世話を焼いてしまう礼の複雑な想いが悩ましいですが、それでも不器用な二人らしい結末はとても素敵なものに思えました。

6.他に好きな人がいるから

他に好きな人がいるから

他に好きな人がいるから

 

寂れてゆく造船の田舎町。目立たないように鬱屈を抱えながら生きている高校生・坂井が、夜のマンション屋上で危険な自撮りを投稿し続ける白兎のマスクを被った少女と出会う青春恋愛ミステリ。苦い過去に縛られる少年と兎人間の秘密の共犯関係。クラスで浮いている少女・峰に巻き込まれてゆく学校生活と、彼女が意識する優等生の少女・鈴木。どこか危うさを感じさせる日々が続いた末に起きた事件とその真相は衝撃的で、いつまでも忘れられない坂井がこれからどうするのか、読み終わるとタイトルの意味がじわじわと効いてくる印象的な物語でした。

7.風に恋う

風に恋う

風に恋う

 

かつての栄光は見る影もなくなってしまっていた名門高校吹奏楽部。そこへ黄金時代の部長だった不破瑛太郎がコーチとして戻ってきて、入部したばかりの一年生の基を部長に任命する青春小説。幼馴染の部長・玲於奈の誘いにも入部に乗り気でなかった基を変えた瑛太郎の存在。部長としてひとりの演奏者として苦悩しながらもひたむきな想いでのめり込んでいく基。複雑な想いが入り交じる部員それぞれの葛藤に、自身もまた悩みを抱える瑛太郎も迷いながらもしっかり向き合って、全国大会目指して一丸となってゆく展開にはぐっと来るものがありました。

8.完パケ!

完パケ!

完パケ!

 

経営難で閉校が噂される武蔵映像大学。卒業制作のドラマ映画を撮れるのはたった一人。コンペでガチンコ勝負した親友で監督志望の安原と北川が監督とプロデューサーとして映画製作に挑む青春小説。自らの抱える事情に苦しみながらも妥協しない不器用な監督・安原と、そのフォローをそつなくこなす一方で自分にないものに葛藤する北川の複雑な関係。そして映画に関わる制作側・役者たちにもそれぞれの葛藤があって、ぶつかりあいながら少しずつお互いを理解していって、完パケに向けてひとつにまとまってゆく熱い展開にはぐっと来るものがありました。

9.映画化決定

映画化決定

映画化決定

 

過去に描いたマンガ『春に君を想う』を超えられず苦悩していた高二男子のナオトに、学生向けの映画で受賞している天才監督・ハルからの『春に君を想う』映画化オファー。最初は乗り気でなかった彼が少しずつ映画製作にのめり込んでいく青春小説。映画製作の過程でぶつかりあいながらも絆を深めてゆく二人。病をひた隠しにするハルと、映画制作を通じて『春に君を想う』の本質に向き合うことになってゆくナオト。葛藤と情熱が入り交じる形で進行していく物語の構図はわかりやすくて、だからこそ意外に思えたその結末には上手いなあと思わされました。

10.教室が、ひとりになるまで

教室が、ひとりになるまで

教室が、ひとりになるまで

 

北楓高校で起きた三人の生徒連続自殺事件。クラス内でも地味な存在の垣内友弘が、最高のクラスで起きた一連の不審死の謎を追う青春ミステリ。生徒に代々引き継がれてきた4つの特殊能力。不登校の白瀬美月から三人を殺した死神の存在を知らされた垣内が、突如引き継いだ特殊能力で他の能力者や犯人の正体を探ってゆく展開で、スクールカーストの力関係や伏線を巧妙に絡めながら、地味な特殊能力を駆使した殺人の結末へと導いていく展開はお見事。突きつけられた現実への失望があるからこそ、そんな彼にもたらされる一筋の光にぐっと来る物語でした。

11.青春のジョーカー

青春のジョーカー

青春のジョーカー

 

スクールカースト最底辺に所属し、上位女子グループの咲が気になっていた中三の基哉。閉塞感の漂う毎日を送っていた彼が、兄を通じて知り合った年上の二葉との出会いからジョーカーを得て少しずつ変わってゆく青春小説。いじられる存在で好きな子との会話すらままならない基哉の窮屈な生活と、ちょっとしたことで景色が全く違って見えたり、些細な噂で置かれる状況が一変することへの戸惑い。狭い世界の中での優越感やつまらない意地で失って大切な存在を自覚したり、甘酸っぱくほろ苦い青春と不器用な彼らの成長にはぐっと来るものがありました。

12.青い春を数えて

青い春を数えて

青い春を数えて

 

数えても数えきれない複雑な思い。葛藤を抱える少女たちの逡巡とそれを乗り越えてゆく姿が描かれる5つの連作短編集。親友に対する複雑な想い、ズルイと思われたくないでも損したくない心境、天真爛漫な姉に対する器用貧乏な妹のコンプレックス、メガネにこだわる少女の心境を言い当てた電車の中での出会い、そして優等生が噂の不良少女に振り回されて気づいたこと。登場人物たちがゆるく繋がるひとつの世界観の物語で、繊細で複雑な想いをずっと抱えていた少女たちがきっかけを得てそれを乗り越え、新たな一歩を踏み出す姿はとても心に響きました。

13.いまは、空しか見えない

いまは、空しか見えない

いまは、空しか見えない

 

抑圧する父親に反発して日帰り旅行を決行したホラー映画好きの優等生・智佳。偶然長距離バスで乗り合わせた同級生のギャル・優亜と出会い、人生が変わってゆく連作短編集。父親に縛られていた智佳、祖母の呪縛を看取った母、辛い過去に苦しめられる優亜、そして彼女の背中を押してくれた翔馬との出会い。外の世界を知って飛び出してもそうそう現実は甘くなくて、それでも多くの人と出会い、過去は断ち切れなくてもきちんと向き合えるようになってゆく結末には心に響くものがありましたね。デビュー作ということで次回作にも期待したい作家さんです。

14.金木犀と彼女の時間 (ミステリ・フロンティア)

同じ一時間を五回繰り返すタイムリープを過去に経験し、無難に生きることを選択した女子高生の菜月。そんな彼女が文化祭で同級生の拓未に告白され、繰り返すはずのループで墜死した拓未を目撃してしまう学園青春ミステリ。無難に周囲に合わせてきた高校生活のいきなりの暗転。拓未の墜死に動揺しやり直しで何とか救おうとするものの、毎回違う形で失敗し死なせてしまう絶望。親友とのすれ違いが周囲との人間関係も少しずつ変化して、誰も彼も疑わしく見える中で自分から勇気を出して一歩を踏み出し流れを変えてゆく展開はなかなか良かったですね。

15.ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

 

将来NASAのエンジニアを目指し風船宇宙撮影に取り組む小学六年生の佐倉ハル。意地っ張りでクラスでは孤立し、家に帰っても両親とぎくしゃくする彼が、金髪の転校生の女の子・イリスと出会い少しずつ変わってゆく青春小説。夢を追い真剣に取り組むハルの姿に共感し、自らは宇宙飛行士を目指そうとするイリス。そんな彼女の想いを突っぱねてしまうハルは複雑な事情を抱えていて、終盤明かされるひとつの真実には驚かされましたが、すれ違ったままで終わらせないために葛藤を乗り越えて頑張った二人のこれからを応援したくなる素敵な物語でした。

16.これは花子による花子の為の花物語

これは花子による花子の為の花物語

これは花子による花子の為の花物語

 

高校時代の人間関係のトラウマをきっかけに、家から出られなくなり引きこもっていた花子。唯一の外との繋がりだったゲームアプリを通じてフリーターのレンと運命的な出会いを果たす恋の物語。積み重ねた二人の交流によって育まれてゆく想いと会う約束。緊張のあまり気を失う花子と、会っていないはずなのにいつのまにか増えていくレンとの思い出。お互い自信がなくて不安を隠せない二人を密かに支えてくれた存在があって、二人を繋ぐ運命的な繋がりもあって、過去を乗り越えた二人が勇気を持って一歩踏み出して未来に繋がってゆく素敵な物語でした。

 

 以上です。部活小説・お仕事小説企画は別途今後の構想にありますけど、とりあえず今回の一連の青春小説企画としてはこれで完結になります...のつもりでしたが、選んでいる過程で見かけた巻数少ない面白いシリーズを紹介できないままなのはあまりにも悔しいので、番外編としてもう一回だけ「一冊で読めないけど印象的な青春小説文庫(仮)」を作ります。もう少しだけお付き合いください。