今回は3月ガガガ文庫・電撃の新文芸・集英社オレンジ文庫の新刊感想まとめです。内訳はガガガ文庫の新作1点、続巻2点、電撃の新文芸の続巻1点、集英社オレンジ文庫の新作5点、続巻2点の計11点の紹介になります。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
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愛が灯る (ガガガ文庫)
「明日がくるのがこわい」そんな不安を抱いていた中学生の栞里が、同じ想いを抱えた同級生の鈴真と出会う青春ファンタジー小説。電話や教室、公園でお互いの「こわいもの」について語り合い、いくつもの不安な夜を一緒に乗り越えてゆく二人。けれど繊細過ぎるがゆえに卒業間近の冬に突然終わりを告げた、何より大切だったはずの鈴真との時間。高校での不安に押し物されそうになっていた栞里を、思ってもみなかった交流が支え続けてくれた一方で、本当に大切なものに気づいていった彼女が臆する気持ちを乗り越え、勇気ある一歩を踏み出したことで取り戻した変わらない思いと、2人のかけがえのない関係がとても素敵な物語でしたね。
嫉妬探偵の蛇谷さん2 (ガガガ文庫)
黙っていれば怖ろしいほどの美人で、嫉妬の権化のような蛇谷先輩。彼女と一緒に様々な謎や犯人、そして思い出したくもない苦い思い出に向かい合う第2弾。後輩たちと消えたノートの謎、夏祭りに生じた開かずの扉の謎、合宿の海辺で突きつけられた野水の過去に関する謎。幼馴染やかつてのパートナーだった彼女との再会。惨めな人、馬鹿な人、自分より下な人、嫌われ者といった悪者のいる謎を暴く先輩は、一方で「野水のことを知る」を夏のテーマに掲げて、彼が学校を休むと反応があるまでメッセージや自撮りまで送ったり、浴衣姿を披露したりといろいろと可愛い一面を垣間見せてくれて、嫉妬深さを炸裂させて悪意や謎に立ち向かう姿だけでなく、野水に対する隠しきれない独占欲も効いていました。
天使の胸に、さよならの花束をII 余命マイナスなわたしが死ぬまでにしたい1つのこと (ガガガ文庫)
優しくて泣き虫な天使の少女アイと、ひねくれものの相棒で悪魔のディア。彼女たちと一緒に死んでも忘れられなかったあの日の大切な約束を果たしにいく第2弾。自信がなかった自分に恋を教えてくれた男の子に渡しにいったプレゼント。相棒に託した二人の夢。祖母が残した家を守り続けた人との再会、親友たちと最後に思いっきり遊び、愛した人と見上げた空に広がる生涯忘れられないであろう美しい光景。残されたのはたった1日でも、それでも大好きだった人やかけがえのない親友、大切な家族たちとのかけがえのない大切な約束にできるだけ後悔を残さないように、そして残された人たちが前を向くことができるように、想いにそっと寄り添う2人あり方が今回もなかなか良かったですね。
ある魔女が死ぬまで3 -はてしない物語の幕が上がる- (電撃の新文芸)
坂/コレフジ KADOKAWA 2025年03月17日頃
メグがファウストから告げられた余命は残り半年。嬉し涙を集めることができるのか焦りを感じるなか、『災厄の魔女』エルドラがラピスの街を訪れる第3弾。未熟な魔女に師のもとから旅立つ決意をさせたエルドラとの知られざる因縁、明かされるメグの過去。感情魔法を身につけるために己のルーツを探し、魔力の汚染が進む世界を巡って出会いと別れを繰り返し、己の無力さに打ちのめされ、助けた人に裏切られ、悲しみの感情を何度も目の当たりにする果てしない旅は、彼女自身にとってもなかなか過酷なものでしたけど、それでも諦めず周囲を巻き込んで変わるきっかけを作り出していくメグのポジティブな気持ちが引き寄せた新たな希望はなかなか良かったですね。
恋せぬマリアは18で死ぬ (集英社オレンジ文庫)
少子化が加速して、恋をしない若者が増え始めた2044年の日本。一度も誰かに恋をしないままだと18歳で死ぬらしいという噂が広がり始め、恋をしたことがない高校生・四堂蓮人が、同級生の宇野麻莉亜に告白する青春小説。女性が苦手なのに麻莉亜に告白して、取引で付き合うことになった蓮人が死ねない理由と、自分は恋をすることができないと自覚する麻莉亜が気に掛ける恩人・青羽泰親の存在。蓮人が麻莉亜との関係に慣れていって、麻莉亜もまた安らぎを覚えていく中、泰親の諦観をどうにかしたい麻莉亜に協力する蓮人。自分が死ぬことになっても相手の幸せを願わずにはいられない、優しい彼らが迎えるそれぞれのタイムリミットは切なくて、果たして最後はどういう結末を迎えることになるのか、ドキドキしながら迎えたエピローグがとても印象に残る物語でした。
ホワイトチャペル連続殺人 代筆屋アビゲイル・オルコットの事件記録 (集英社オレンジ文庫)
仲村 つばき/藤ヶ咲 集英社 2025年03月18日頃
19世紀末、英国。ロンドンの下町で代筆屋を営む変わり者の貴族令嬢アビゲイル。客の1人が惨殺死体で見つかり、独自捜査に乗り出すラブロマンスヴィクトリアン・ミステリ。娼婦の惨殺が通称『切り裂きジャック』の5人目の被害者と目したアビゲイルが、ジャックを捕まえれば代筆屋の良い宣伝になると、事情があって彼女に近づいた社交界で有名な苦労人御曹司エドマンドとともに独自捜査に乗り出していく展開で、アビゲイルがエドマンドを振り回して逮捕されかけたり、共に行動しているところを誤解されて婚約報道されたりと、いろいろ騒動に巻き込まれながら、事件の真相に迫る2人の関係がなかなか微笑ましかったですね。どこかズレている彼女への想いがいつか報われる日は来るんでしょうか…。
後宮の迷い姫 消えた寵姫と謎の幽鬼 (集英社オレンジ文庫)
後宮で姿を消したひとりの寵姫。17年前の内乱で迷呪持ちの孤児となった凛舲が、偶然出会った高官・明真にその力を見込まれ、下級妃として後宮入りをする中華風後宮ファンタジー。苛烈な搜索でも手がかりが見つからない状況で、異様な設計の後宮に送り込まれた凛舲。道に迷いながらも自分に酷似していると言われる寵姫の行方を探る状況で謎の幽鬼と出会い、探し続ければ命はないと脅される中、明らかにされていく寵姫の過去や、禁書とされている予言書の存在も絡めていきながら、過去の因縁の決着に巻き込まれていく展開でしたが、そこには隠されていた真相とかけがえのない繋がりがあって、彼女を守るために奔走した明真と、それに報いるような粋な計らいがいい感じに効いていました。
探偵貴族は亡霊と踊る (集英社オレンジ文庫)
18世紀半ばヴィーン。大きな秘密を抱える若き男爵シュテファンが、敬愛していた先代男爵を殺した者を探し出そうとする愛憎渦巻く陰謀劇。親友の青年伯爵ハインリヒにも言えない秘密を抱え、故人の従妹であるルイーゼが既に亡くなった本物のシュテファンを装う綱渡りの日々。そこに先代男爵の友人で、政府の要職を務めるウーリヒ伯爵のもとに脅迫状が届き、窮地の恩人を助けようとハインリヒと一緒に事件の解決に動き出す展開で、調べていくうちに一歩間違えば取り返しのつかないギリギリの状況もあった一方で、明らかになっていく先代男爵の死の真相はあまりにも皮肉だったものの、様々な思惑が絡み合う中で確かめあった揺るぎない2人の絆はなかなか良かったですね。
シュガーレス・キッチン -みなと荘101号室の食卓- (集英社オレンジ文庫)
樹 れん/わみず 集英社 2025年03月18日頃
甘味だけを感じられない味覚障害の大学生・茜。そんな茜が住むアパート「みなと荘」に、料理上手の男子高校生・千裕が引っ越してくる物語。彼がいつも振る舞ってくれる美味しいおすそ分けを食べるうちに、少しずつ苦手だった食事にも楽しみを見いだしていく茜。優しくて健気な千裕の背中を見ていると、どうしても昔の愛犬ちーちゃんの姿が重なってしまう一方、少しずつアパートの住人や大学内の人たちに慣れて交流が広がってゆく展開で、苦手なものがあると人付き合いも疎遠になりがちですけど、彼との食卓が二人の過去を繋ぐだけでなく、彼女自身の新たな一歩にも繋がってゆく、ぬくもりと癒しに満ちた優しい物語でしたね。
若旦那さんの「をかし」な甘味手帖 2 北鎌倉ことりや茶話 (集英社オレンジ文庫)
小湊 悠貴/moko 集英社 2025年03月18日頃
家事代行サービスで働く秋月都が、若き和菓子職人・羽鳥一成の屋敷に通うようになってはや1年。都に触発されて一成も少しずつ変わっていく第2弾。空き家のはずの向かいに戻ってきて、都を奥さんと勘違いした「ことりや茶房」の初めての常連客で、一成や恭史郎とも交流があった詩子さん。茶房の接客担当・瑠花の不在に都がピンチヒッターを買って出たり、一成と恭史郎の初めて出会いや、コンプレックスを抱えたとある女性のエピソード、そして職人としての一成に訪れた試練もあって、都と出会ったことで少しずつ変わってきた彼だからこそ、しっかり向き合えたのかなとしみじみと感じましたね。ゆきうさぎの2人も登場する短編もなかなか良かったです。
銀の海 金の大地 3 (集英社オレンジ文庫)
大王の使者として息長を訪れた佐保彦から「滅びの子」と詰られ昏倒した真秀。血塗られた過去であり、母・御影の優しく悲しい初夏の記憶を神夢に見る第3弾。真秀が神夢に見た若き日の日子坐がなした恐るべき陰謀、日子坐と母・御影の出会い。そして目覚めた彼女の前に現れた保彦の伴人・速穂児によって、佐保の人々が自分だけでなく御影や兄・真澄も疎んじていることを思い知らされる真秀。果てしない憎しみに囚われている佐保彦には激しい憎悪を浴びせられ、彼女を助けた真若王の行動もまた優しさからではなく、真澄に窮地を救われたものの、真秀が置かれている状況は依然として厳しいですね…。彼女が持っている鈴がどういう意味を持ってくるのかも気になるところではあります。