今回は12月MF文庫J・オーバーラップ文庫・ダッシュエックス文庫・MFブックス・新潮文庫nexの新刊感想まとめです。内訳はMF文庫Jの新作3点、オーバーラップ文庫の続巻8点、ダッシュX文庫新作2点、続巻1点、MFブックス新作1点、新潮文庫nex新作1点の計16点になります。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
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エンバーミング・マジック 魔法を殺す魔法 (MF文庫J)
【第20回MF文庫Jライトノベル新人賞＜最優秀賞＞】
目の前で女の子が車に撥ねられ、初めて禁忌と知りながら家入ナギに魔法を使ってしまった斬桐シズキ。「破壊」魔法以外は下手で助けたナギを猫にしてしまう退廃的青春ファンタジー。『魔法憑き』になってしまったら、十八歳までに魔法を使えるようにならないと魔物化けしてしまうというタイムリミットがある中、師匠の千歌にも力を借りて一緒に魔法を使う特訓を始めるものの、彼女の魔法はなかなか発動せず、何かを隠している様子の師匠と、そしてどこかちぐはぐな様子を見せるナギ。そこから明らかにされてゆくナギの意外な過去は、斬桐シズキ自身が抱える記憶の空白にも繋がっていて、そこから目をそらさずに過去に向き合って乗り越えてみせた2人のやり取りが、とてもこの物語らしい結末に思えました。
巡る冬の果てで、君の名前を呼び続けた (MF文庫J)
【第20回MF文庫Jライトノベル新人賞＜優秀賞＞】
鹿毛 おどり/chooco KADOKAWA 2024年12月25日
勇者により魔王は討ち倒されたはずが、決戦時の強大な魔力の余波が滅びをもたらしてしまった世界。勇者一行の一人だった魔法師エルメがアンデッドの少年と旅に出る物語。魔王討伐に向かった勇者一行で唯一の生き残りで、何とか復命したものの今の状況に陥ったのはお前たちのせいだと糾弾されて、大切な人も失い自らの死期もそう遠くないことを悟ったエルメ。孤独となり自身の存在意義と未来を見失った死にゆく彼女と出会った、生き続けるアンデッドの少年ディート。2人の旅がかけがえのないものだったからこそ、自分にできることを求めての果てしない旅はなかなか胸に来るものがありましたけど、何度も歴史を繰り返す定めの中で、長い旅路の果てにようやく引き寄せたその結末には救われる思いでした。
妹は呪われし人形姫 人間を恐れる兄は、妹の呪いを解くため立ち上がる (MF文庫J)
【第20回MF文庫Jライトノベル新人賞＜佳作＞】
雨谷 夏木/にもし KADOKAWA 2024年12月25日
人形には悪魔や呪いが潜むと忌避される世界。両親を殺されてから人間に対し壁を作っていた少年ジンが、人形に封じられていた悪魔と契約し『両親の蘇生』を試みるファンタジー。自分のせいで両親が死んだと思い込み、妹のためにと焦る想いが空回りして、悪魔に妹アインの体を半分人形に作り変えられてしまったジン。彼女の身体を元に戻すべく悪魔を追う展開で、少し変わった解体師ゲルドリオたちにも出会って協力関係を結び、時には兄思いな妹のフォローにも助けられながら、最初は独りよがりな一面も垣間見せたジンが、悪魔が振りまいた呪いに振り回される人々と出会う中で、その想いに懸命に向き合おうとしてゆく姿には彼の確かな成長が感じられて、兄妹のかけがえのない絆もなかなか良かったですね。
これが「恋」だと言うのなら、誰か「好き」の定義を教えてくれ。2 (オーバーラップ文庫)
北条連理/サコ オーバーラップ 2024年12月20日
互いの孤独を埋めあい、光莉の隣に温かな居場所を見つけつつあった悠。これからを考えるため光莉と初めて出会った公園へ向かった悠が、思ってもみなかった再会を果たす第2弾。高校時代にたくさんの後悔を抱えながら別れ、アパレル関係に就職する夢を叶えて上京してきた元恋人・白澤春佳との再会。そして偶然春佳と知り合いになって仲良くなった末に、彼女が悠の元恋人の「はるか」だったと知ってしまう光莉。精算しきれていない過去が何とも重くのしかかる面倒な状況で、悠が光莉に貸した漫画の印象的な言葉も悪い意味でじわじわと効いていて、しっかりと向き合いきれない何とももどかしくなる展開でしたけど、遠回りしたもののようやく覚悟を決めた悠の頑張りに期待したいですね。
ギャルの自転車を直したら懐かれた 2 (オーバーラップ文庫)
自転車の修理をキッカケに始まったクラスカーストトップの美少女ギャル、溝口星架さんとの交流。純情ヨワツヨギャル星架がマイペース陰キャ男子・康生の過去を知る第2弾。かつて2人が幼馴染だった過去も共有して、星架のポジティブな性格や行動力に触発されて、色々と振り回されながら自らの世界を広げて次第に変わり始める康生。部屋で一緒にテスト勉強をしたり、私服でモールデートしたり、クラスのギャルと一緒にイベントを開催したりと楽しく過ごす時間が増えて、絆を深めていく中で明らかになる康生の過去。すっかり恋する乙女の星架がなかなか可愛かったですけど、康生にとってどうするのが一番いいのかを一生懸命考えて、彼のために怒り、寄り添ってくれる彼女がほんといい子だなとしみじみ思いました。
クラス転移したけど性格がクズ過ぎて追放されました 2 (オーバーラップ文庫)
フーツラ/ウラシマ オーバーラップ 2024年12月20日
勇者召喚と時を同じくして選定されるはずの聖女が、なかなか表舞台に現れないことに不審に思った番藤たちが、聖女を探すためにアルマ神国へと赴く第2弾。なんとかアルマ神国の中央神殿に忍び込んだ番藤たちが目の当たりにする石化した聖女。そのまま聖女を攫いリザーズが聖女を手に入れたと宣言する番藤たち。褒美として帝国の初代皇帝の死体をもらいうけていいように使役するリリナナや、石化が解けてみたら彼らに思わぬ本音をぶちまける聖女に対して、勝手に名前を使われて虚名ばかりがどんどん膨れ上がって困惑するコルウィルはあれでしたけど、注目を集める中まさかあんな世紀の茶番がまかり通るとは思いませんでしたね（苦笑）出し抜いてやりきってみせた番藤たちの今後の新展開に期待。
最強の剣聖、美少女メイドに転生し箒で無双する 3 (オーバーラップ文庫)
三日月猫/azuタロウ オーバーラップ 2024年12月20日
剣聖を目指す主人ロザレナと共に聖騎士養成学校に入学した元剣聖が転生した現美少女メイドのアネット。寮長オリヴィアから縁談阻止に協力してほしいと相談される第3弾。黒狼クラスがルナティエに勝利した影響で変わりつつある中、毒蛇王クラスとの学級対抗戦への準備を始める一方、オリヴィアから相談を受けて男装姿で向かったバルトシュタイン家で、期せずしてアネット自身の出自や親の仇、過去の因縁といった様々なことが明らかになってゆく展開でしたけど、物語としてもこれから大きく動いて、それに巻き込まれそうな予感がある中で、皮肉にも前世の剣聖時代は全然モテなかったのに、美少女メイドになった今はヒロンたちにモテモテで、ロザレナをヤキモキさせる構図が微笑ましかったです。
攻撃力ゼロから始める剣聖譚 4 (オーバーラップ文庫)
大崎アイル/kodamazon オーバーラップ 2024年12月20日
故郷である帝国の危機を救ったユージン。無事に帰省を終えると、迷宮都市はすっかり学園祭ムード一色の中、武術大会の優勝者と対戦することが決まってしまう第4弾。一〇〇層突破の恩恵の神器を受け取ってさらなる上層階攻略に向けて修行に励む一方、恋人であるスミレやサラに誘われて屋台を巡ったりと学園祭を楽しむユージン。しかし現行の天頂の塔に納得がいかず大規模な魔物暴走を発生させた迷宮主が、さらに新たな神の試練まで発動させてしまう展開で、今回は現状を省みずに自分の思うようにしようとする新たな迷宮主の理屈がわりとメチャクチャな感はありましたけど、そんな絶望的な状況でも諦めず、助けてくれるヒロインたちの力も借りながら打開していく熱い展開がなかなか良かったですね。
百合の間に挟まれたわたしが、勢いで二股してしまった話 その5 (オーバーラップ文庫)
としぞう/椎名くろ オーバーラップ 2024年12月20日
文化祭のライブステージに向け練習する恋人の由那と凜花、幼馴染の真希奈を陰ながら応援する間四葉の前に、真希奈と同じアイドルグループの来馬ミオが現れる第5弾。真希奈を連れ戻したいミオの真意を知って、彼女とある賭けをすることになった四葉。しかもそのためにミオを文化祭に潜入させるとかいう、いかにも波乱が起きそうな予感しかしない展開で、真希奈がステージで由那と凜花との勝負を意識する一方で、いつの間にかミオと仲良くなる四葉とかいう、またか！と突っ込まずにはいられないいつもの構図になりかけましたけど、油断するとどこまでも拡大していきかねない四葉の天然人たらしっぷりをよく知る由那と凜花の対処がだんだん上手くなってきているのを改めて実感しました（苦笑）
創成魔法の再現者8 (オーバーラップ文庫)
みわもひ/花ヶ田 オーバーラップ 2024年12月20日
思わぬ裏切りに動揺を隠せぬまま『組織』と正面衝突する窮地を、エルメスの師匠『空の魔女』ローズの介入で凌いだエルメスたち。そこからなんとか立て直し、王都に向かう中で在り得てはならない魔物が立ち塞がる第8弾。ローズを陣営に加え、第二王女ライラの貴族を動かす才能にも助けられて『組織』が世界を滅ぼすための最終準備を進める王都に向かうエルメスたち。その道中でまさにエルメスの天敵とも言える力を持つ未知の魔物と遭遇する展開で、創成魔法を操るエルメスでも相性次第では強者ではなくなるあたりに今回の戦いの厳しさを改めて実感させられましたが、そんな天才たちでも容易には突破できない局面を打開するきっかけになった、諦めずに挑み続ける意外な存在の覚悟がなかなか印象的でした。
現実主義勇者の王国再建記ⅩⅩ (オーバーラップ文庫)
英雄フウガの築いた時代は終焉を迎え、国王ソーマが中心となって再分割された南の世界。南半球で平和を謳歌し、北の世界で刺激的な冒険を楽しむ新時代のその後が描かれる第20弾。パルナム城にて敢行されたプロポーズ大作戦と最後に描かれたその結末。ソーマの隠し子騒動やゴリラ航空の開業、レムス国王夫婦の滞在記や平和になった時代の新規産業、統一されたガーラン精霊王国の様子やユリウスたちのラスタニア王国の再建記、ユーフォリア王国とハーン大虎王国の関係、ソーマの八人目の妃の話など、それぞれのその後の様子や、ソーマが引退してからの偉大な先達の存在感に思い悩む次世代たちの様子もひとつひとつ丁寧に追っていく内容になっていて、ちょっと長めのエピローグとして大満足の完結巻でした。
小柳さんと。 (ダッシュエックス文庫)
社内恋愛で3年付き合った年上の彼女に素っ気なくフラれ、傷心独り身となった幸大。行ったこともないバーで長身の彼より遥かに小さくて、元気いっぱいな年上の小柳さんと出会う社会人ラブコメ。聞けば同棲していた彼氏に浮気された挙句、フラれたのだという小柳さん。振られたもの同士すっかり意気投合して、うっかり一夜の関係を持って始まった2人の関係。それぞれ元カレ・元カノの様子も描かれる一方で、思いの外相性が良くて一緒にいるのが居心地が良い関係なんだなと思える2人でしたけど、だからこそ突然の急展開は青天の霹靂で、それでも簡単には諦めない幸大の頑張りが光りましたね。意外な繋がりも明らかになる中で、直面する苦難に迷わずしっかりと寄り添い、一緒に乗り越えてみせた2人の結末がなかなか素敵でした。
お嫁さん魔王と僕の奇妙で最強な日々 (ダッシュエックス文庫)
アルバイト先の先輩の肝試しに付き合うことになった高校1年生の琴夜彼方。夜の峠道に一人置いていかれてしまい、途方に暮れたういちに自称魔王の美少女アリスと出会うファンタジーラブコメ。異世界から追放されたと主張する自称・魔王アリス。その力が封印されていた首輪をあっさり解いたことですっかり認められ、婿扱いされてアリスと同居を始めた彼方。そんな感じでいきなり始まった彼女の生活は、彼女と魔眼を覚醒させてオカルト体験をしたり、無防備アリスとイチャイチャしたりする中で、いつの間にか一緒にいるのが自然な距離感になっていって、オカルトな職場体験では彼方が意外な才能の片鱗を見せたりもありましたけど、訳あり同士これからもいろいろありそうな2人の今後が楽しみですね。
迷子になっていた幼女を助けたら、お隣に住む美少女留学生が家に遊びに来るようになった件について 7 (ダッシュエックス文庫)
ネコクロ/緑川 葉 集英社 2024年12月25日頃
身も心も親密になり、仲睦まじい関係を築いていく明人とシャーロット。いよいよシャーロットの誕生日を迎え、花音や華凜、有紗たちを招いて新居でお祝いする第7弾。各々が用意してくれたプレゼントに感激するシャーロットに、サプライズでリヴィまで現れ、賑やかに進んでいく誕生会。しばらく日本に滞在するリヴィと年末年始をリヴィと過ごすことに決める展開で、岡山城などご当地ネタも出てきたり、艶やかな振袖や初日の出などをいろいろと一緒に楽しむ中で、リヴィも少しは明人のことを認めてくれましたかね…。より親密になったからこそ逆にいろいろ重いシャーロットには苦笑いでしたけど、これからますます賑やかになりそうです。
王都の行き止まりカフェ『隠れ家』 1 (MFブックス)
守雨/染平 かつ KADOKAWA 2024年12月25日頃
病気により人生を終える直前、祖母から魔法の知識と魔力を与えられ、異世界へと送り出されたマイ。異世界での暮らしに慣れた彼女が王都の行き止まりにカフェ『隠れ家』を開く物語。魔法が使えるために生活にそれほどでも切実というほどでもなく、のんびりマイペースで開店しているマイのお店に、美味しい料理や彼女の人柄にすっかり魅せられて、連日通うようになってゆくお城勤めの筆頭文官ヘンリー。ふとしたきっかけからヘンリーの秘密を共有するようになってゆく一方で、マイの祖母もかつて異世界に住んでいたことも明らかになって、著者さんらしい落ち着いた雰囲気の物語が、現時点では想いを自覚していくヘンリーに対して慎重なマイという構図がこれからどう変わっていくのか、これからの展開が楽しみですね。
黒雪姫と七人の怪物 最愛の人を殺されたので黒衣の悪女になって復讐を誓います (新潮文庫nex)
太田 紫織 新潮社 2024年12月24日
冤罪で処刑された最愛の人のため、悪女と化してでも徹底的な復讐に燃える若き元伯爵夫人アナベルが、故郷を追われた訳あり元従僕シロと出会う復讐劇。次期女王の死を悲しむ陛下を慰めるため、色鮮やかな服を着るよう定められた北の公国で唯一黒衣を身にまとう、美しくもどこか普通ではないアナベルと、優しい気質を持ちながらその特異体質ゆえに居場所を失った元従僕のシロが出会い、彼女のもとで働くようになる過程で少しずつ知ってゆくその背景。彼女が調べていた結社の所業はおぞましいものがあって、アナベルとシロの意意外な繋がりも気になるところですけど、何より外では「聖処女」と褒めそやされる第二皇女が垣間見せるその本性もなかなか衝撃的でした…。
