今回は9月ガガガ文庫・電撃の新文芸・集英社オレンジ文庫の新刊感想まとめです。内訳はガガガ文庫が新作2点、続巻2点、電撃の新文芸の新作1点、集英社オレンジ文庫の続巻3点、新作1点の計9点になります。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
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嫉妬探偵の蛇谷さん(ガガガ文庫)
園芸部に所属する嫉妬まみれの女子高生・蛇谷カンナ。小森先生に引き合わされて園芸部に所属する後輩・野水が彼女に振り回される青春ミステリ。嫉妬深くて攻撃的すぎるがために、他人の嘘や悪意を見抜いてしまう蛇谷と、そんな彼女に巻き込まれがちな嘘がつけなくて本音が顔に出てしまう野水のコンビが謎の匂いと校舎裏で倒れていた女子高生、盗まれてボロボロのポーチ、突如原因不明の出火をした鞄といった2人の周囲に起きる謎に挑む展開で、偏狭で不器用ゆえになかなか面倒くさい蛇谷先輩には苦笑いでしたけど、人当たりが厳しい割には寂しがりやな一面が垣間見えていて、素直な野水や物怖じしない幼馴染の青山先輩の存在に救われている構図がなかなか効いていました。
雨のちギャル、ときどき恋。(ガガガ文庫)
仕事に追われる毎日を送る広告代理店勤務の南雲晃。一人暮らしの部屋の前にずぶ濡れで待っていた、疎遠だった血の繋がらない姪・美雨と再会する曖昧同棲ストーリー。姉の夫の連れ子で、姉夫婦が突然の交通事故死を迎えてからはは大学生になった今に至るまで親戚をたらい回しにされていた美雨の複雑な境遇。幼い頃慕ってくれていた彼女を放っておけずに、叔父として一緒に住むことを提案する晃。それで安心するわけでもなくどこか遠慮して無理を重ねる美雨の態度に、彼女のこれまでの境遇をつい考えずにいられませんでしたけど、思い詰めていく彼女としっかり向き合って、寄り添う覚悟を見せた2人の関係がこれからどう変わるのか、現時点ではまだこれからの感もありますが今後が楽しみな物語です。
帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中 3 疾駆せよ移動図書館アーキエーア (ガガガ文庫)
帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中 3 疾駆せよ移動図書館アーキエーア
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佐伯 庸介/きんし 小学館 2024年09月18日頃
帝国第11前線基地魔導図書館司書カリアの元に届いた移動図書館車『アーキエーア』。たその新たな風は、戦争そのものを終わらせる切り札になる第3弾。連合国首脳の信任を手にした皇女クレオ、人類の最強存在たる勇者アリオスと各部隊へ本を届ける任務を果たしながら秘密裏に秘密裏に向かうエリューズへの旅。そこで待ち受けていた魔王の太子カールヴォス。前に進もうとする強い意志と、変われない不器用な強者がぶつかり合う最後の激闘の結末があって、決断を迫られる状況で迷わず見せた覚悟には言葉もありませんでした…これはずるい。でもそのお陰で少しずつ変わり始めている世界で、それぞれのらしいその後が垣間見える結末もなかなか良かったですね。
獄門撫子此処ニ在リ: 修羅の巷で宴する3(ガガガ文庫)
春待つ京都で次々と「鬼」に関わる怪異と出会う撫子とアマナ。全ての裏で糸を引くもう一人の獄門の娘・芍奈、その母・獄門牡丹と激突する第3弾。同じように獄門家に生まれ、異なる花の名を冠することになった2人。撫子と芍奈を否応なしに対決へと導いていく世代を越えて連綿と繋がる獄門家の因縁。新たに登場した母親のエグさだったり、なかなか素直になれない芍奈に対して、一見不真面目そうに見えるものの彼女を気遣う気持ちが垣間見える相棒・菊理塚みまかとのもう一つの不器用な主従関係にはいろいろと考えてしまいましたが、だからこそアマナと様々な甘い記憶を積み重ねていきながら共に戦う2人の揺るぎない絆が際立っていて、最後のプレゼントもまた効いていました。
悪の皇女はもう誰も殺さない(電撃の新文芸)
皇帝である父親ヴァロンタンに愛されるため、気に入らないものを全て排除してきた残虐非道な皇女キャンディス。突如現れた異母妹ルイーズに全てを奪われ処刑された彼女のやり直しファンタジー。絶望の牢獄生活を経て処刑された自分が、周囲から怯えられ嫌われ始めていた五歳の自分に戻ったことに気づき、処刑される運命を回避するため前世と行動を真逆にする真逆作戦を実行するキャンディス。すぐにクビにしていた侍女に優しくして、蔑んでいた兄弟たちへの態度を変えていくうちに、侍女たちや兄弟たちとの関係が変わることで状況も好転していく展開で、傍から見ると皇帝の分かりづらい態度も問題だったのでは…と思わなくもないですが、だいぶいい感じになってきた境遇がこれからどうなるのか続巻が楽しみです。
宝石商リチャード氏の謎鑑定 再開のインコンパラブル (集英社オレンジ文庫)
正義とリチャード、そしてみのるが暮らす横浜のマンションに逃げてきたヨアキム。具体的な事情を話さないヨアキムとの奇妙な共同生活が始まる第14弾。英語のみで日本語を話さない人物との突然の同居にみのるは緊張するものの、また彼の世界を彩り豊かなものにしてくれるヨアキムと過ごす日々。思わぬ誤解もありましたけど、将来が自分とうまく結びつかないみのる、正義へ思いを寄せる真鈴、いつも変わらず明るい良太、自分の夢を見受けた林くんたちに正義の旧友・下村晴良たちも交えながら、子供扱いするのではなくしっかりと話に耳を傾けて、対等な存在として真摯に向き合っていた彼らの姿が目を引きましたね。そんな日々の最後にジェフリーが見せてくれた覚悟もなかなか良かったです。
ホテルクラシカル猫番館 横浜山手のパン職人 8 (集英社オレンジ文庫)
ホテル猫番館専属パン職人・紗良と、コンシェルジュの要が付き合い始めて四ヵ月。静かに仲を深めていた2人の交際が、紗良の祖父・勇雄に知られてしまう第6弾。2人がブライダルフェアのリサーチのために結婚式場を訪れた姿をたまたま勇雄の運転手に見られたことから、紗良の父や叔父の誠を呼びつけて状況を探り始める勇雄。一方で大学卒業後の進路に悩むスタッフだったり、マリッジブルーのお客様を励ましたりする中で、思わぬ事態にも遭遇する展開でしたが、だかんだで要も紗良のことを大切にしているのが垣間見える2人の関係が微笑ましかったですし、周囲も2人の交際を認めて温かく見守ってくれているのが感じられる結末は良かったですね。猫のマダムたちも要所で存在感がありました(苦笑)
掌侍・大江荇子の宮中事件簿 六 (集英社オレンジ文庫)
竜胆宮立坊目前でもたらされた弘徽殿女御懐妊の報に、激震が走った宮中。醜聞と思惑が飛び交う宮中を、帝の信任厚い内裏女房の荇子が奔走する第6弾。降って湧いたような急展開に舞い上がりすぎて、立坊式の延期を進言したり、安産祈願のための法会を立坊式の日程と重ねたりとついつい目に余る振る舞いをしてしまう左大臣。にわかに左大臣につくか東宮に擁立される竜胆宮につくか揺れたという状況が生まれつつあった騒動の思ってもみなかった結末。けれど荇子はそこで感情的にならず状況を見極めてどうすべきかを判断して、しかもさりげなく懸案だった事柄への配慮を交換条件を持ちかけたりするわけなんですが、それでも自分の献策の結果にはちゃんと筋を通そうとあたりが荇子が信頼される所以なんですよね。
駒月小毬は困ってる 転生者問題対策室《天紋堂》の残業 (集英社オレンジ文庫)
これまでずっと不運続きだった駒月小毬の人生。ところがある時不運の原因が、現代日本に転生してきた異世界人のしわ寄せのせいだったことを知ってしまう物語。異様とも思える不運続きでも「自分の不幸を他人のせいにしない」とこれまで無理矢理納得してきた小毬。彼女が実は現代日本に転生してきた異世界人が急増している影響で、一部の人が割を食っているという状況を知らされ、異世界人対策をしているバイト先の常連客だった若旦那に協力する形で、バイト先の同僚や悪徳業者に騙された転生者、3人のアマチュアバンドといった転生者を相手に、あの手この手を使って説得して異世界人にお帰りを願う活動に適性を見せてしまったことで、ますますドツボにハマって振り回されてゆく小毬の姿がなかなか微笑ましかったです。