というわけで2016年10月に読んだ新作おすすめ本です。最近続巻ベースだけでも買う本多いのに、読みたい本が多過ぎて新作にあんまり手を出せてません(苦笑)なので思ったほど点数なかったなと感じた今月でしたが、とりあえず今回は良かったなと思った10点を紹介します。
とある事情から廃墟と化したデパートの屋上遊園地に向かった久佐薙卓馬が、そこで古びた傷だらけのカメラで写真を撮り続ける同級生の少女・尾木花詩希と出逢う物語。「観覧車の花子さん」に逢わねばならない理由がある卓馬と、自身の失ってしまった彩りを取り戻すため写真を撮り続ける詩希。ぎこちない交流を続けるうちに少しずつ変わってゆく詩希がとても可愛くて、悪意に巻き込まれてお互いを大切に想う気持ちが空回りした二人でしたけど、真相に近づいてゆく中で大切な人にきちんと想いが伝わった結末は本当に良かったです。これは次回作も期待。
超大国アルキランに突如侵攻されたイアンマッド王国。和議と引き替えに人質として赴くことになった国王の長男王子ルスタットと、残されて次々と危機に見舞われる弟王子レオームの二人の王子の物語。神話的な超越した力と、人が技術を覚え始めた端境期の世界観で、周囲で引き起こされる危機的状況に否応もなく巻き込まれてゆく弟レオームと、アルキランの先進的技術に触れつつ伝説の存在となってゆく兄ルスタットの数奇な運命はとても興味深いですが、それぞれの道を歩み始めた二人がどのような形で再会することになるのか今後がとても楽しみですね。
インスタント・ビジョン 3分間の未来視宣告 (角川スニーカー文庫)
- 作者: 永菜葉一,まごまご
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2016/11/01
- メディア: 文庫
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未来に3分間だけ自分の意識が飛ばされる奇病「夢現譜症候群」のパンデミックで大混乱に陥りがちな世界。殺人鬼になる未来視を見たレオが相棒の少女・ティアと出会う物語。未来視を知られているがゆえに難しい立場にあるレオと謎めいた立ち位置のティア。パンデミックを発生させる犯人を追う中で異能を用いた熱く勢いのあるバトルと、それぞれの立ち位置での正義が対立するシリアスな世界観はなかなか面白くて、そんな中で揺れる相棒・ティアとの信頼関係を再構築してゆく過程が著者さんの真骨頂なのかなと(苦笑)続巻期待したい新シリーズですね。
- 作者: 海道左近,タイキ
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2016/10/29
- メディア: 文庫
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画期的で一大ムーブメントとなったダイブ型VRMMO。大学受験で周回遅れになってしまったものの、兄に誘われて大学生・玲二がゲームに参加する物語。プレイスタイルによって独自に進化する<エンブリオ>を相棒に戦う世界。様々な思惑で事態が再び動き始めた状況で参加した玲二が、癖のある能力の活かし方を試行錯誤しつつ、面白い仲間も加えていく展開はテンポも良くてキャラもよく動き、クマキグルミ姿の兄が解説・サポート役として配置される安心設計。1巻目としては十分な可能性を提示してくれましたし、ここからどう動かすのか次巻に期待。
夜会で出会った美しき伯爵令嬢アニエスにあまりいい印象がなかった貧乏騎士ベルナールが、突然家が没落した彼女を意趣返しに使用人として雇う物語。勢いで雇ったものの知れば知るほど印象と実際の彼女にギャップを感じる実はいい人ベルナール。その悪評の原因を知って誤解が解けたり、窮地に婚約者役を引き受けてもらったりで少しずつ距離を縮めてゆく二人でしたけど、彼女は健気な頑張り屋で周囲も応援するのに、肝心のベルナールがあまりにも無自覚でじれったくなりました(苦笑)そんな彼が自覚したら一体どうなるのか、今から続刊が楽しみです。
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優秀で予想できてしまう限界に虚しさを覚えていた研究者・工藤が、死者を人工知能化するプロジェクトに参加して、衝撃的な自殺でカルト的な人気のゲームクリエイター・水科晴を知る物語。過去の事件や水科晴のことを調べてゆくうちに、彼女に共鳴し惹かれてゆく工藤。重要なキーパーソン「雨」の存在と調査中止を警告する謎の脅迫。我が身が危険に晒されながらも諦めず、晴を人工知能で再現することに妄執する工藤の姿には鬼気迫るものがありましたが、真相を知った彼のほろ苦くも粋な決断は少なからず心に響くものがありました。
※こちらは期間限定で160p程度のおためし版があるようです。
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勤め先の大病院の不祥事隠蔽を批判し、犬吠の地方病院に飛ばされた父。それに半ば反抗心でついて行った息子とついていかなかった母・そして娘。それぞれの心情が綴られてゆくひとつの家族の物語。不安を抱えながら引っ越した息子から始まり、明らかになってゆく家族それぞれの想い。最初は冷たいと感じた母にも複雑な過去があったりで、読み進めてゆくうちにそれぞれの印象も大分違う印象に上書きされていきますね。あるべき姿に落ち着いてゆく結末には少し寂しい気持ちもありましたが、これはこれで絆を感じる家族のひとつの形なのだと思えました。
「2.43」で清陰高校のライバル校として登場する福蜂工業のバレー部、柔道部、釣り部や、どこか繋がりがある他校の部活動を通じて揺れ動く高校生たちの青春が描かれる連作短編集。努力を惜しまない登場人物たちの届かないがゆえの悔しい思いだったり、不器用な人間関係や恋心だったりと甘酸っぱい青春してるなあと思いましたけど、それが後できちんと成長したり変わった関係がフォローされていて嬉しいですね。ひとつひとつの繊細なエピソードが様々なところで繋がってひとつの世界を形成していて、なるほどなと唸らされた心地よい読後感でした。
同僚の天野ゆいかを誘いランチ合コンに出会いを期待する経理部OLの阿久津麗子。しかし持ち込まれる話題は犯人探しや暗号解読ばかりで、そんな怪事件に安楽椅子探偵・天野ゆいかが挑むミステリ。美人なのに訳ありの男とばかり出会ってしまう麗子と、謎解きを期待するミステリマニア・ゆいかのランチ合コンは謎の事件続きで、美味しいご飯とゆいかの謎解き欲は満たされても、肝心の出会い的には他の人が幸せになるばかりでうまく機能していなかったですね(苦笑)そんな二人の今後のランチ合コン探偵はわりと面白かったので、続編も期待しています。
京都の路地に佇む町屋長屋で営まれる男子限定の料理教室。そこに集う恋に奥手な建築家の卵に性別不詳の大学生、昔気質の職人など、事情を抱えた生徒たちの想いが綴られる連作短編集。司書さんに恋をした智久の話はもう少しその過程を書いて欲しかったかなとも思いましたけど、職人の佐伯さんとその奥さんの話はお互い思うところが上手く伝わらなかったがゆえの勘違いで、少しばかりホロリとした気持ちにさせられましたね。それぞれ生まれた時代や環境も違う登場人物たちが料理教室に集まった縁で生まれた、不器用ながらもとても優しい物語でした。