読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2018年上半期注目のオススメ新作単行本23選

 上半期注目のオススメ新作企画の最後は単行本編です。今回は23点をチョイスしました。単行本はなかなか厳しい状況が続いているとは聞きますが、そんな単行本にも印象的な本は数多く出ています。自分が読めるもの、紹介できるものはそんな中のごく一部ですが、気になる本があったらぜひ手にとって見てください。

君を描けば嘘になる

君を描けば嘘になる

 

 寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。

名探偵誕生

名探偵誕生

 

 小学生の頃から様々な冒険をしていたみーくんに不穏の影が差した時、いつも助けてくれた名探偵のお姉ちゃん。そんな千歳お姉ちゃんとの初恋とみーくんの成長を描くミステリ青春小説。ずっとみーくんに寄り添い見守ってくれていた千歳お姉ちゃんへの想いは募ってゆくのに、なかなか姉妹のような関係から抜け出せないもどかしさについ共感してしまいましたが、次々と事件を解決してきた生粋の探偵である彼女を救うため、ほろ苦い複雑な想いを乗り越えて自ら立ち上がるみーくんがとても格好良かったです。どこでまた彼らのその後を読めるといいですね。

祈りのカルテ

祈りのカルテ

 

 初期臨床研修で様々な科を回る研修医・諏訪野良太が、行く先々で持ち前の観察力で患者たちが抱える秘密に迫り、その解き明かしてゆく医療ミステリ。大量服薬を繰り返し装う女性、自らの身体にメスを入れさせた老人、自ら火傷を負う女性、薬を棄てていた少女、そして世間を欺いて多くの患者を救おうとした女性。奇異な行動をする患者たちにはそうするだけ理由があって、思い悩む彼らの真意に気づいて寄り添いながらその最適解を提示する一方、思い悩んでいた自らの進路にも答えを出してゆく主人公のありようがとても良かったですね。シリーズ化期待。

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

 

 売れない若手カメラマンの仁が偶然撮影した窓辺に立つ美しい少女・陽。難病で家から出られない彼女との出会いが二人の人生を奇跡のように変えてゆく物語。同級生の活躍に屈折した想いを抱いてしまっていた仁が、偶然出会った陽の依頼で様々な景色を撮って届けることになる運命の転機。それをきっかけに仁が活躍の場を広げてゆく一方で、難しい病に絶望を感じていた陽の逡巡にきちんと向き合おうとする育んできた二人の想いがあって。大変だった彼女の家族を思うとやや複雑な心情も残りますが、二人の出会いがもたらした奇跡には救われる思いでした。

僕と彼女の左手 (単行本)

僕と彼女の左手 (単行本)

 

 幼い頃遭遇した事故のトラウマで、医者になる夢を前に壁にぶつかった医学生の習。そんな彼が左手一本でピアノを引く不思議な女性・さやこに出会い、共に時間を過ごすようになってゆくミステリ。教師を目指すさやこのために家庭教師として共に過ごすようになる二人。彼女にどんどん惹かれてゆき付き合うことになった習が、勉強よりもピアノに意識が向きがちな彼女のありように少しずつ感じるようになってゆく違和感。積み重ねられてゆく不安の先にあった真実は真摯な想いと共にあって、二人が出会えて本当に良かったと思えるとても素敵な物語でした。

春待ち雑貨店 ぷらんたん

春待ち雑貨店 ぷらんたん

 

 京都のハンドメイドアクセサリーショップ『ぷらんたん』。悩みを抱えたお店を訪れる客の悩みに店主の北川巴瑠が一つ一つ寄り添い、優しく解きほぐしていく連作ミステリ。自身も密かに生まれながらの深刻な悩みを抱えつつも、恋人との関係の変化やお店を訪れるお客が抱える悩み、立て続けに起きるトラブルを一緒に解決していく展開で、簡単ではない問いに迷いながらも真摯に向き合う誠実で一本芯が通っている巴瑠のありようや、そんな彼女の影響を受けて大切な人といい関係を築こうと努力するようになっていく登場人物たちの姿がとても印象的でした。

額を紡ぐひと

額を紡ぐひと

 

事故で婚約者を喪った額装師・奥野夏樹。少し変わった依頼でも真摯に向き合う夏樹が、彼女の作品の持つ雰囲気に惹かれた表具額縁店の次男坊・久遠純と出会う物語。時には依頼人の想いを暴いてしまう一方で、婚約者との過去にどう向き合うべきか悩む不器用な夏樹と、掴みどころのない純との微妙な距離感。そして二人の重要な過去に繋がる池端の存在。明らかになっていったそれぞれの過去に向き合うことにはほろ苦さも伴いましたけど、そんな自分に寄り添ってくれる存在がいて、新たな一歩を踏み出す姿が描かれる結末にはぐっと来るものがありました。

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

 

 「演劇を扱った中編。登場人物は三、四人程度」「回想、場面変更、一行アキ一切なしのワンシチュエーション・ミステリ。登場人物は三人で」「会話文のみで書かれた作品」「三人の女性たちによる独白リレー」など編集者の繰り出す無茶ぶりに著者が苦しみながら書き上げた連作短編集。わりと難しい設定で果たしてどうなのかと思いましたけど、それでもシチュエーションの遵守だけで終わらずに、きちんとそれぞれに捻りが効いた工夫が盛り込まれていてなかなか楽しめました。巻末のあとがきにあった楽しそうな編集者と挑んだ作者の本音も良かったです。

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

 

 九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が発生し、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びつつ事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いましたね。そんな彼らの今後をまた読んでみたいです。

完パケ!

完パケ!

 

 経営難で閉校が噂される武蔵映像大学。卒業制作のドラマ映画を撮れるのはたった一人。コンペでガチンコ勝負した親友で監督志望の安原と北川が監督とプロデューサーとして映画製作に挑む青春小説。自らの抱える事情に苦しみながらも妥協しない不器用な監督・安原と、そのフォローをそつなくこなす一方で自分にないものに葛藤する北川の複雑な関係。そして映画に関わる制作側・役者たちにもそれぞれの葛藤があって、ぶつかりあいながら少しずつお互いを理解していって、完パケに向けてひとつにまとまってゆく熱い展開にはぐっと来るものがありました。

映画化決定

映画化決定

 

 過去に描いたマンガ『春に君を想う』を超えられず苦悩していた高二男子のナオトに、学生向けの映画で受賞している天才監督・ハルからの『春に君を想う』映画化オファー。最初は乗り気でなかった彼が少しずつ映画製作にのめり込んでいく青春小説。映画製作の過程でぶつかりあいながらも絆を深めてゆく二人。病をひた隠しにするハルと、映画制作を通じて『春に君を想う』の本質に向き合うことになってゆくナオト。葛藤と情熱が入り交じる形で進行していく物語の構図はわかりやすくて、だからこそ意外に思えたその結末には上手いなあと思わされました。

青春のジョーカー

青春のジョーカー

 

 スクールカースト最底辺に所属し、上位女子グループの咲が気になっていた中三の基哉。閉塞感の漂う毎日を送っていた彼が、兄を通じて知り合った年上の二葉との出会いからジョーカーを得て少しずつ変わってゆく青春小説。いじられる存在で好きな子との会話すらままならない基哉の窮屈な生活と、ちょっとしたことで景色が全く違って見えたり、些細な噂で置かれる状況が一変することへの戸惑い。狭い世界の中での優越感やつまらない意地で失って大切な存在を自覚したり、甘酸っぱくほろ苦い青春と不器用な彼らの成長にはぐっと来るものがありました。

青くて痛くて脆い

青くて痛くて脆い

 

 大学1年の春に秋好寿乃に出会い、二人で秘密結社「モアイ」を結成した楓。将来の夢を語り合った秋好はいなくなり、すっかり変わってしまったモアイを取り戻すべく楓が動き出す青春小説。周囲から浮いていて誰よりも純粋だった秋吉と、彼女の理想と情熱に感化されつつ徐々にすれ違うようになった楓。明らかになってゆく楓のモアイへの複雑な思いと不穏な構図、そしてやりきれない結末には流石に頭を抱えたくなりました。どこかで軌道修正できなかったのかいろいろ考えてしまいましたが、こういう自己陶酔的な青臭さや痛さもまた青春なんですよね…。

いまは、空しか見えない

いまは、空しか見えない

 

 抑圧する父親に反発して日帰り旅行を決行したホラー映画好きの優等生・智佳。偶然長距離バスで乗り合わせた同級生のギャル・優亜と出会い、人生が変わってゆく連作短編集。父親に縛られていた智佳、祖母の呪縛を看取った母、辛い過去に苦しめられる優亜、そして彼女の背中を押してくれた翔馬との出会い。外の世界を知って飛び出してもそうそう現実は甘くなくて、それでも多くの人と出会い、過去は断ち切れなくてもきちんと向き合えるようになってゆく結末には心に響くものがありましたね。デビュー作ということで次回作にも期待したい作家さんです。

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

 

 将来NASAのエンジニアを目指し風船宇宙撮影に取り組む小学六年生の佐倉ハル。意地っ張りでクラスでは孤立し、家に帰っても両親とぎくしゃくする彼が、金髪の転校生の女の子・イリスと出会い少しずつ変わってゆく青春小説。夢を追い真剣に取り組むハルの姿に共感し、自らは宇宙飛行士を目指そうとするイリス。そんな彼女の想いを突っぱねてしまうハルは複雑な事情を抱えていて、終盤明かされるひとつの真実には驚かされましたが、すれ違ったままで終わらせないために葛藤を乗り越えて頑張った二人のこれからを応援したくなる素敵な物語でした。

青の誓約 市条高校サッカー部

青の誓約 市条高校サッカー部

 

 稀代の名将と、絶対的エースの貴希に導かれ、全国の舞台に青の軌跡を描いた青森市高校サッカー部。当時の部員たちそれぞれのその後を絡めて描かれる青春群像劇。冒頭でいきなり異世界転生モノ展開になったのには驚きましたが、全体としては貴重な体験を共有した部員たちの複雑で繊細な心境が描かれてゆく連作短編集で、誰とも真摯に向き合って皆に好かれているのに、報われない片想いを続けていた真樹那に希望が見えた結末には救われた気分になりました。それにしても聖夏の話はその後がありそうな雰囲気で、機会があるならまた読んでみたいです。

放課後ひとり同盟

放課後ひとり同盟

 

 不幸だらけの状況に空から降ってくる不幸を蹴り続ける少女、気になる人を意識する高校生のままならない思い、再婚して違和感だらけになった家族と新たに加わった飼い犬、ストーカー気味な片想いの真実、少年が気づいた救ってくれた友人の真相。ままならない少年少女の不雑な心情を描いた青春連作短編集。登場人物たちはそれぞれゆるく繋がっている関係で、自分の努力では容易に解決しない問題を抱えていて、それゆえに辛い出来事にも遭遇しますが、ふとした転機からだいぶ救われた心境になってゆく、少しほろ苦いけれど悪くない読後感の物語でした。

愛と勇気を、分けてくれないか

愛と勇気を、分けてくれないか

 

 80年代後半、広島市民球場やデビューしたばかりのユニコーンが確かに息づいていたあの日。親が転勤族で広島にやってきた転校生・桃郎が美少女・小麦に一目惚れし、その憧れの人・由木野と出会う青春小説。地元愛に溢れる小麦に振り回されるようになってゆく桃郎が直面する、ままならならない片想いや、愛する街に対する熱くて複雑な想い、そして突然の暗転と思ってもみなかった終焉。今とはまた違う当時の雰囲気がよく出ていて、そんな切ない思い出が紆余曲折を経て今に繋がっているその結末には、いろいろ思い出したり感じるところがありました。

駒子さんは出世なんてしたくなかった

駒子さんは出世なんてしたくなかった

 

 公平な姿勢が評価され出版社の管理課課長を何とかこなす水上駒子に突然降って湧いた新規事業部署での次長昇進辞令。激変した環境に戸惑う駒子に家庭トラブルまで起きるお仕事小説。平穏な毎日を望んでいたはずなのに、セクハラの尻拭いや次長昇進から発生した問題の数々に加えて、家庭でも生じる専業主夫として支えてくれていた夫の仕事復帰や、息子の不登校問題。何を大切にすべきなのか優先すべきなのか、ままならない悩ましい状況が生々しく描かれていましたが、それでも試行錯誤して前向きに取り組む駒子が迎えた結末には救われる思いでした。

仕事は2番

仕事は2番

 

 吉丸事務機を舞台に、仕事や職場の人間関係、家庭に悩みを抱える登場人物たちが、悩みながらも次への一歩を踏み出すお仕事連作短編集。総務課の人間関係に向き合い奔走する優紀、職場でも家庭でも居場所がない中年課長・内野、仕事では優秀だが家庭は崩壊した岸、周囲の仕事のやり方に納得いかない沙也、小さい頃から輪になじめず仕事も休職したかおり、引きこもりだった栄太と向き合う幸雄。頑張っているのに上手くいかない彼らの姿にはどこか共感するものがあって、相手を理解しようとした彼らに光明がもたらされる結末はなかなか良かったですね。

若旦那のひざまくら

若旦那のひざまくら

 

 百貨店で働くアラフォーバリバリキャリアウーマン・長谷川芹が、一回り近く歳下の西陣の老舗織物屋の若旦那・充と出会い結婚を意識するも、京都での考え方の違いや反対する両親、美しい充の幼馴染など次々と障害が立ちはだかる物語。仕事を辞めて京都に乗り込んだ芹が選んだ問題解決方法が、西陣界隈の業界立て直しだったりするあたりがらしいなと苦笑いでしたけど、苦難にもめげず奔走する姿だったり、そんな彼女を支えてくれる存在もいたりで、きちんと向き合って状況をいい方向に変えようとする物語が迎えた結末にはぐっと来るものがありました。

みとりし

みとりし

 

 派遣切りで職を失った薫が、幼い頃に一緒に事故に遭った陽太と偶然再会し、彼が社長を務めるペットの看取りをするペットシッターに再就職する物語。幼くして両親を失い伯母夫婦に育てられ、いい子を演じ続けるうちに自分が分からなくなってしまっていた薫。なかなか難しい人生を送ってきたことで、なかなか自分からアクションを起こせない不器用な彼女が、仕事を通じて飼い主やペット、そして関係者と関わっていくうちに様々な思いに触れ、陽太たちにも支えられながらきっかけを積み重ね、少しずつ変わってゆく展開はなかなか良かったと思いました。

さよなら、わるい夢たち

さよなら、わるい夢たち

 

学生時代の友人・麻衣亜の夫のSNSによって彼女が幼い息子を連れて失踪したことを知ったジャーナリストの長月菜摘が、行方不明の麻衣亜の行方と失踪に駆り立てた要因を探るミステリ。彼女が失踪した理由を知らないという夫や両親・同僚たちの話から徐々に明らかになっていく、追い詰められていった麻衣亜の悲惨な境遇。悪い夢を見ているような状況を突きつけられた彼女の絶望を思うと暗澹たる気持ちになりましたが、腹を括った麻衣亜の覚悟と周到に準備され暴かれてゆく事実によって、これまでの構図が激変してゆく意外な結末には驚かされました。

 

 

 

2018年上半期注目のオススメ新作一般文庫36選

 今回は上半期注目のオススメ新作企画第四弾、一般文庫編です。最近はライト文芸っぽいものとの境界線が曖昧になってきていますが、とりあえずレーベルでざっくりと区切っています。読んだタイミングの問題で一部12月のものも混じっていますが、印象的な本だったので何冊か加えましたので、その点はよろしくお願いします。

羊と鋼の森 (文春文庫)

羊と鋼の森 (文春文庫)

 

 高校生の時、偶然ピアノ調律師板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられた外村。ピアノを愛する双子の姉妹や先輩たちとの交流を通じて調律師として成長していく物語。生まれもあってか朴訥でひたむきに調律に臨む外村のありようがとても印象的で、いい刺激になる先輩たちに囲まれて繊細で答えのない作業に時には思い悩みながら、それでも淡々と着実に積み上げてゆく彼の強さや、そんな彼が双子のピアノを気にかけるようになっていったり、ピアニストになると決意した和音の変化に影響を受けたり、そんな描写の積み重ねがとても心に響く物語でした。

さよならクリームソーダ (文春文庫)

さよならクリームソーダ (文春文庫)

 

 再婚した両親から逃げるように美大入学で一人暮らしを始めた友親。知り合った先輩の若菜と親交を深めるうちに、その過去と秘密を知ってゆく青春小説。両親に向き合えない後ろめたさを抱える友親と義姉・涼の複雑な関係。友親の前に現れた若菜を気にかける少女・恭子と、明らかになってゆく若菜が抱える絶望と秘密。登場人物たちのどうにもならない葛藤と生々しい感情のぶつかり合いが繊細に描かれていて、絶望に直面し何かが確実に壊れてしまった彼らが、それでも何とか生きていこうとする姿にはほろ苦くも未来があって、心に響くものがありました。

ずっとあなたが好きでした (文春文庫)
 

 バイト先の女子高生との淡い恋、転校してきた美少女へのときめき、年上劇団員との溺れるような日々、集団自殺の一歩手前で抱いた恋心、そして人生の夕暮れ時の穏やかな想いが綴られてゆく恋愛小説集。年齢や状況もバラバラな恋の行方と意外な結末。最初は普通の恋愛小説ではあまりない展開で新鮮だなあと思いつつ読んでましたが、途中から読んでいてうん?となって、だんだんその違和感に気づいて、最後でやられた!となりました。一気読みするには分厚いですが、その分手応えを感じた一冊で巻末の解説も必見。それにしても懲りてないな~(苦笑)

京洛の森のアリス (文春文庫)

京洛の森のアリス (文春文庫)

 

 幼い頃に両親を亡くし、引き取られた叔母の家でも身の置きどころのなかった少女・ありすが、遠く離れた京都で舞妓修業を決意し、老紳士に連れられて不思議な京洛の森に迷い込む物語。彼女に寄り添うカエルのハチスやウサギのナツメと共に京洛の森で生きていくことを決意したありすと、彼女が幼い頃に交わした少年・蓮との約束。物語の構図としてはとても分かりやすくて、それでいて散りばめられていた伏線が後々効いてくる展開で、おとぎ話風の雰囲気の中にも著者さんらしさがよく出ていた素敵な物語でした。その後のお話にも是非期待したいですね。

咲見庵三姉妹の失恋 (新潮文庫)

咲見庵三姉妹の失恋 (新潮文庫)

 

 父を亡くし、川越の和カフェを営む高咲三姉妹の家に居候することになった高校生・薫。不本意ながら三姉妹と暮らすことになった傷心な薫の変化と、姉妹たちの切ない恋愛模様、そして成長の物語。咲見庵を営む長女・花緒、ボーイッシュで夢見がちな次女・六花、そして二人とは母親の違う十六歳の三女・若葉。三姉妹それぞれの複雑で繊細な恋模様とその失恋は切なかったですが、それは彼女たちの停滞した状況からの前進でもあって、三姉妹とかけがえのない日々を過ごした薫もまた成長して新たな一歩を踏み出してゆく、とても優しくて温かい物語でした。

ポスドク! (新潮文庫)

ポスドク! (新潮文庫)

 

 指導教官の不祥事で出世の道を閉ざされ、姉が育児放棄した甥・誉を養ってもいる月収10万円の私大非常勤講師・瓶子貴宣。正規雇用を諦めない貴宣の前に千載一遇のチャンスが現れる物語。他人の出世を羨み、極貧にあえぐ貴宣に権力者から提示されたリスクの高い尻拭い。負け戦を必死に戦い抜くその奮闘ぶりや、周囲との何とも複雑な心情が入り交じるやりとりは尻上がりに面白くなっていって、誉を取り戻すために乗り込んでいく貴宣はカッコ良かったですね。ただ愚直なだけでなく、したたかに逆襲の方法を考えるその性格の悪さも良かったです(苦笑)

年下のセンセイ (幻冬舎文庫)

年下のセンセイ (幻冬舎文庫)

 

 予備校に勤める28歳の本山みのり。後輩に誘われ生け花教室に通い始め、助手を務める8歳下の透と出会う彼女が、元カレの結婚式の帰りにバーでバイトをする透に再会する恋愛小説。変化のない日々をこれでいいのかという思いと、変化を恐れる気持ちで揺れるみのりが出会った年下の透。惹かれるけれど臆病になってしまうみのりと、進学で地元を離れるのに真っ直ぐに思いをぶつけてくる透のやりとりがドキドキして、もやもやしたりどうしようもなく恋しくなったり、二人を繋いだ生け花を効果的に使いながら綴ってゆく、可愛くて甘い素敵な物語でした。

片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)

片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)

 

 好きになった推しの対象を徹底的に調べ上げて見守るストーキング体質な女子高生・追掛日菜子。しかしなぜか好きになった相手は次々と事件に巻き込まれ、彼女が事件解決の糸口を見つけ出すミステリ。舞台俳優、若手力士、天才子役、覆面漫画家から総理大臣まで、惚れっぽく法律ギリギリアウトな手法で見守る日菜子が推しのために奔走する探偵劇。彼女の好意が事件を引き寄せてるのでは?と思わなくもないですが、コミカルでテンポのいい展開は楽しくて、振り回されるお兄ちゃんは大変でしたが、それでも懲りない彼女の活躍をまた読んでみたいです。

アンティーク弁天堂の内緒話 (幻冬舎文庫)

アンティーク弁天堂の内緒話 (幻冬舎文庫)

 

 進学のため京都・下鴨神社近くの寮で暮らすことになった女子高生・紫乃。琵琶湖の弁財天から哲学の道にある骨董店・弁天堂へ行くよう促され、そこで不思議な力を持つ店長・洸介と出会う物語。弁天堂でアルバイトをすることになった紫乃が遭遇する清水焼の茶碗や茶の木人形、チャームブレスレットといった不思議な謎と、おばあちゃん譲りの力でそれを解くのんびりした風なのにわりと抜け目ない店長の洸介。謎を解き明かして込められた大切な思いを知り、意外に積極的な店長に対する想いも少しずつ変わってゆく紫乃の今後が楽しみですね。続巻に期待。

 異様に運の悪い大学生・柏原玲二が元カノの部屋へ大切な物を取りに行き、そこに住む見知らぬ女子・磯貝久美子に不審者扱いされる最悪の出会いを果たすもう一つの物語。玲二の後輩・奈央矢と幼馴染で偶然の出会いを果たした久美子。期せずして久美子を取り巻く恋愛模様に巻き込まれてゆく玲二。誤解から始まって結果的に他人の恋の邪魔をしてしまう間の悪さが、巡り巡って容易には変わらないはずの気持ちを少しずつ動かしてゆく展開が面白いですね。久美子が自分らしさを出せる相手は誰なのか、前作とも繋がるもう一つの物語を十分に堪能できました。

 内定を取り消され将来の不安に苛まれる大学生・行成と、引っ越してきたばかりで周りに馴染めずにいる小学生・マサキ。それぞれ悩みを抱える二人が歳の離れた友人として徐々に親交を深めてゆく物語。行成が「可愛らしい男の子」だとばかり思い込んでいた真咲。誤解が解く機会がないまま共に過ごし積み重ねてゆく二人の思い出と、それを転機に新たに築かれてゆくそれぞれの人間関係。マサキが女の子だと微塵も気づかない行成と、自らの想いを自覚してゆく真咲という危うくて繊細な距離感がそのままでいられるはずもなくて、何とも切ない展開ですね…。

 自分が女の子だということを言えないまま、近所の大学生・行成との友情を育むマサキ。そんなマサキに中学受験という現実と、就職する行成との別離の日が近づいてくる下巻。友人関係や母親との関係に悩みながら進むべき道を模索するマサキと、彼女の窮地を救いながらもその秘密を知り動揺してしまう行成。丁寧に綴られる周辺事情なども交えながら思わぬ展開もあったりで、そのまま二人の淡い思い出として昇華させてゆくのかなと思わせつつ、それでも二人のためにかすかな希望をきちんと提示してくれるあたりに、著者さんの優しさを感じたりしました。

僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

 

 友達を作らないと決めていた僕に唐突に話しかけてきた、数学が好きで天才で孤独な少女・秋山明日菜。不本意ながら始まった彼女との交流が僕を変えてゆく青春小説。心臓移植の影響で前向性健忘症となり一ヶ月しか記憶を保てない明日菜。彼女の日記を頼りに二人の思い出を積み重ねてゆく僕と、少しずつ変わってゆく明日菜との関係。そして僕の暗い過去と意外な形で繋がる彼女の秘密。あれほど望んでいたはずの治癒がもたらした皮肉な転機でしたが、ゼロではない可能性を信じ続けた二人の真摯な想いが引き寄せた結末にはぐっと来るものがありました。

天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和 (宝島社文庫)

天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和 (宝島社文庫)

 

 かつて天才詐欺師として名を馳せた夏目。突然目の前に現れた自分の娘だという小春から依頼を受け、仲間とともに依頼者たちを救う父と娘の連作短編ミステリ。小春が生まれ育った修道院の危機、YouTuberと大人気ゲーム機の不正抽選の謎、結婚詐欺師へ仕掛けるペテンや老人を狙った霊感詐欺と、辛い思いをした依頼人たちのため仲間と仕掛ける夏目の用意周到な解決策は、相手を心理的に追い詰めていく過程が秀逸でその結末も効いていました。小春との親子関係の今後や因縁の橋爪との決着も残っていますし、続巻あったらまた読んでみたいですね。

皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王 (宝島社文庫)

皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王 (宝島社文庫)

 

 中華平原に名を馳せる強国・禍国。十八年前、「覇王」の宿星を持って生まれた皇子・戰と、人扱いされず書庫に引き篭もる少年・真が出会ったことで運命が変わってゆく中華ファンタジー。兵部尚書である父の側室腹として生まれたがゆえに戸籍を持たなかった真が、皇子・戰と出会ったことで得た転機。生い立ちが影響してか多くを望まず怠惰になりがちな真が、それでも戰のため、訳ありの幼き妻・薔姫のために智謀を活かして自らの奔走し窮地を打開していく展開は、登場人物たちもよく動いてテンポも良くなかなか面白かったです。続巻も期待しています。

次回作にご期待下さい (角川文庫)

次回作にご期待下さい (角川文庫)

 

 仕事に追われる月刊漫画誌の若き編集長で苦労人の眞坂崇とトンデモ天才漫画編集者・蒔田が、漫画バカの編集者たちや漫画に命をかける漫画家たちとともに日常のお仕事に潜む謎を解き明かしてゆくお仕事小説。落とし物をきっかけに出会ったビルの夜間警備員・夏目の謎、打ち切りに悩む漫画家とのやりとりやヘッドハンティング、そして盗作疑惑の真相など、漫画雑誌はほんと大変な仕事なんだなと実感させる一方で、それでも登場人物たちが面白い漫画を作りたいという想いからぶつかり合うなかなか熱い作品でした。これは次回作も期待できますね(苦笑)

星降プラネタリウム (角川文庫)

星降プラネタリウム (角川文庫)

 

 観光地化された星空が素敵な島を捨てた渡久地昴が就職先で配属されたのはプラネタリウム事業課。複雑な思いを抱える彼が魔法使いのようにプラネタリウムの解説をする望月と出会う物語。観客を魅了する望月の手腕や、変わり者の同僚たちにも触発されて仕事に前向きになってゆく昴と、幼き日に約束を交わした天音の再会。いくつもの人間関係と星空への思いのバランスをうまく取りつつ描かれてゆくエピソードでしたが、様々な出会いから心境も少しずつ変わってゆく中、昴が担当することになった故郷の島での星空解説にはぐっと来るものがありました。

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

 

 わけあって借金を抱えネットカフェを泊まり歩く放浪生活を送る青年・遠野青児。罪人が化け物に見える彼が迷い込んだ洋館で、白牡丹の着物をまとった謎の美少年・西條皓に住みこみの助手として屋敷で働くよう誘われる物語。鬼の代わりに罪人を地獄に届ける「地獄代行業」を営む皓を訪れる顧客たちが抱える事情とおぞましい真実、そして彼らにふさわしい結末。騙されて何度も怖い目に遭わされるのに、皓に確実に手なづけられてゆく青児の小市民っぷりが物語のいいアクセントになっていて、ライバル探偵・凜堂棘も登場したりな今後の展開が楽しみです。

銀塩写真探偵 一九八五年の光 (角川文庫)

銀塩写真探偵 一九八五年の光 (角川文庫)

 

 写真部の部室整理で偶然見つけた銀塩写真に魅せられ、撮影した写真家の弘一に師事することになった陽太郎。そんな彼が偶然師の銀塩写真探偵という秘密を知ってしまう物語。ネガに写る過去に入りこんで弘一が探していた亡き友の大切な思い。弘一の姪・杏奈とともに彼を助けて過去を探る過程で明らかになってゆく意外な繋がりと、ようやく見つけ出した真実。苦い過去は変えられなくても踏み込んだことで気づけたこともたくさんあって、弘一から銀塩写真探偵を引き継ぐ二人がこれからどんな物語を紡いでいくのか、是非続きが読んでみたいと思いました。

明日、君が花と散っても (角川文庫)

明日、君が花と散っても (角川文庫)

 

 戦争末期にばらまかれたウイルスのせいで、ほとんどの人類が死に絶えた世界。とある集落に拾われ育てられた少年・マサキが「死花症候群」により散ってゆく大切な仲間たちを救うため「この世界」の調査を始める物語。どこか違和感を感じる気のいい仲間たちとの集落での自給自足生活と、幼馴染で大切な少女・カエデの存在。集落の人々が少しずつ減ってゆく終わりの予感に何とか抗おうとするマサキ。この世界の真実と大切な人が失われてゆく喪失感には胸が締め付けられましたが、それでも最後まで向き合い続けた二人の結末は儚くも美しいと思えました。 

プランナーズ! あなたのお悩み解決します (角川文庫)

プランナーズ! あなたのお悩み解決します (角川文庫)

 

 聴覚過敏症に起因する苦い過去を抱え、就職活動に苦戦していた雛子。ようやく受かった何でもありのマーケティング会社「プランナーズ」で依頼を成功させるべく奮闘するお仕事小説。不運も重なった苦い過去の失敗からすっかり自信喪失していた雛子。けれど蔵元の立て直しに奔走したり、息子の代わりに旅行に連れて行ったり、なかなかうまく行かなくても諦めずに真摯に向き合う気持ちだったり、そんな彼女を支えてくれる先輩たちの協力で乗り越えてゆく展開は良かったですね。気になる関係もいくつかあったりで、続きがあるならまた読んでみたいです。

ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

 

 大学卒業後もダイビング以外は興味を持てず、就職も決まらない蒼衣。そんな彼がドルフィントレーナー採用試験でイルカやトレーナーの凪たちと出会いのめり込んでゆくお仕事小説。そこそこ器用だけれどプライドが高い蒼衣が魅せられ、仲良くなった相棒イルカ・ビビと共に目指すショーデビュー。熱くなるとつい周りが見えなくなって失敗するその性格は、一方でまっすぐでひたむきな一面もあって、イルカには致命的な異変が見つかったビビやイルカを愛する仲間とともに、その危機を乗り越えるべく奮闘し成長してゆく姿にはぐっとくるものがありました。

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

 

 会いに来る新世代のアイドルを描いた「最後にして最初のアイドル」ガチャに取り憑かれたフレンズたちが宇宙創世の真理へ驀進する「エヴォリューションがーるず」異能の声優たちが銀河を大暴れする「暗黒声優」の三編が収録された作品集。何か凄いらしい…とは聞いてましたが、オタクの心を掴むキーワードのはずが全く別の何かに成り果てていて、一方でSFとしては壮大なスケールの物語だったりで、そんなギャップがこの本を読む前提としてあるために、その強烈なインパクトをどう評価すればいいのかちょっとよく分からなくなった一冊でした(苦笑)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

 

 有機素子コンピュータによる会話プログラムの共同研究者を失い何も手につかなくなった南雲助教と、列車に轢かれて亡くなった元恋人の会話を再現しようとする学部生の佐伯衣理奈。そんな前に進めない二人が巡り合う連作短編集。会話プログラムとのやりとりを交えつつ繰り広げられる、共同研究者、契約社員、元恋人、そして南雲と衣理奈のエピソード。概念自体はやや難解でしたが、理系らしい合理思考と割り切れない情念のせめぎ合いの中で変化してゆく不器用な人間模様はとても優しくて、そんな彼らが迎えた結末はなかなか心に響くものがありました。

誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)

誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)

 

 自殺、他殺、事故死など寿命以外の死が見える志緒と屋上で出会った佐藤。彼女が悲しまぬよう死を回避させる協力をするようになってゆく君とぼくの物語。親の所業によって居場所をなくしていたミステリ好きの佐藤が、志緒が気づいた死の予兆を誰も死なないミステリに変えるべく頭を働かせる展開で、やろうとしていることの宿命でミステリとしてはやや締まらない感もありましたが、解き明かされる墜死事件の謎と回収されてゆく伏線によってひとつの物語として再構成されて、悔やんでいたひとたちの救いに繋がってゆくとても優しい素敵な結末でした。

星を墜とすボクに降る、ましろの雨 (ハヤカワ文庫JA)
 

 人造の眼球と巨砲トニトゥルスで、地球圏に迫る星々を軌道庭園から撃ち墜とす子どもたちの一人である霧原。寡黙な担当整備工の神条の傍らにいることに満足していた彼女が、自らの無慈悲な宿命に直面する小さな恋の物語。突然現れた神条の元妻を名乗るハヤトの存在、そして空前の規模の流星群が飛来する中でようやく不器用な想いを自覚し、自分がどうあるべきか戸惑ってしまう霧原。最期までスナイパーであるべきか、気付いてしまった想いに向き合うべきか、心揺れた先にあった衝撃の結末でしたけど、これもまたひとつの愛の形なのかもしれませんね。

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)
 

 表題作のほか高校生の心中事件「恋累心中」や「正義漢」、「名を刻む死」や「綱渡りの成功例」など、記者・太刀洗万智が遭遇する事件に隠された謎を解き明かしてゆく連作短編集。一見わかりやすい事件に見出した違和感から、鋭い着眼点と積み上げた取材で事件の核心に迫ってゆく万智。その真相にはやりきれないことも多かったですけど、それがそのまま読後感に繋がらなかったのは、真相を知ること向き合うことを恐れずに真摯にアプローチしていく万智の誠実さによるところが大きかったのかもしれないですね。「王とサーカス」の文庫化も楽しみです。

 公園を舞台にした五つの転機が綴られる連作短編集。港が見える丘公園でのおじいさんとの出会い、ムーミンをきっかけに出会った二人の別離とそれぞれの再出発、石神井公園を舞台にした憧れの人との再会、航空公園を舞台とした中学三年生の冬に別れた同級生の恋人を忘れられずにいた瑞希の決意と、文庫収録の彼の視点短編。いずれも自分が行ったことがある公園で、うまくいかない状況を抱えた登場人物たちが、そこでの出会いをきっかけに新たな一歩を踏み出す展開には心に響くものがある素敵な物語でした。最後の話の後どうなったのか気になりますね。

魔女 (創元推理文庫)

魔女 (創元推理文庫)

 

 なりたいものもなく大学卒業後、知人の手伝いをする日々を送る広也。報道記者の姉の依頼で元カノの焼死事件を探ることになり、事件や周辺を調べることになるミステリ。職場の友人、大学時代の友人、不倫相手、祖母、そして異父妹と取材を進める度に変わってゆく元カノ・千秋の印象。破滅した不倫相手の溺死と、気づいてしまった千秋の悲しい過去、一度は決着したかに見えた事件の真相。淡々としていて気持ちが見えなかった広也が事件を解決して、大切に思えるものがあることが示唆される結末までぐいぐい読ませてくれる、なかなか面白い作品でした。

蕃東国年代記 (創元推理文庫)

蕃東国年代記 (創元推理文庫)

 

 唐と倭国の間に浮かぶ麗しき小国・蕃東。その知識や儀礼を司る貴族の家に生まれた青年・宇内と彼の従者・藍佐が出会った驚異や神秘を描く空想世界の御伽草子。中華と和風が入り混じったような世界観のどこかの怪異や不思議な話をまとめたような連作短編の構成で、雨竜を見物する話や舟に乗り合わせた4人を幻惑するあやかし、酒を酌み交わしながら不思議な物語を披露する話、美しい中将を愛した二人の物語など、淡々と綴られていくその雰囲気が良かったですね。個人的には一番最後の成り行きで求婚し幻の珠を探しに行く話の切ない結末が好きでした。

マレ・サカチのたったひとつの贈物 (中公文庫)

マレ・サカチのたったひとつの贈物 (中公文庫)

 

 世にも不思議な病「量子病」に冒され、世界中を跳躍し続ける人生を生きることになった坂知稀。人生を“積み重ね"られない彼女がこれからの「幸せ」の意味を問う物語。資本主義が行き詰まった近未来を舞台に、一瞬後の居場所すら予測できず、行き先も滞在期間も不明な彼女にもたらされた、様々な立ち位置や思いを抱いた人たちとの出会いと別れ。繰り返される跳躍から始まる数多くのエピソードはやや断片的な印象もありましたが、そんな彼女に提示される未来の可能性とそれに対する回答は、積み重ねていった末に見出されたひとつの真理に思えました。

死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

 

 特殊清掃員として働くうちに死者の放つ香りを他の匂いに変換する特殊体質になってしまった桜庭潤平。そんな彼が分析フェチの准教授・風間の助手にスカウトされ、死の香りで殺人事件を解決するミステリ。美少女と見紛うような主人公の風貌とイケメン准教授という組み合わせや特異体質をうまく利用される関係と、わりとキャラクターを前面に押し出した雰囲気もあって、匂いで事件解決に繋げてゆく展開はミステリとして見るとやや弱い感もありましたけど、読みやすくなかなか面白かったとは思いました。シリーズ化したら大変そうな体質ですね(苦笑)

逆境ハイライト - へこたれずに生きています。 (中公文庫)
 

 商社で着実に出世街道に乗り彼女もいた朋文。それなりに順調な人生だったはずが、身に覚えのない罪状でいきなり逮捕され、さらに潰れかけた実家の老舗和菓子屋では父親の突然の失踪してしまう物語。朋文が直面する突然の逮捕から始まる運命の急転と、踏んだり蹴ったりなトラブルの連続。順調だった仕事も結婚を視野に入れていた彼女も、誤認逮捕で失ったものはもう取り戻せない容赦のない現実に読んでいる方も愕然としてしまいますが、それでも何とか乗り越えようと覚悟を決めた朋文が直面する新展開がどう繋がってゆくのか続巻に期待したいですね。

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

 

 南北朝時代南朝帝の妹宮・透子が北朝に帰順した楠木正儀を連れ戻すべく、乳母と二人きり吉野から京へと乗り込む過程で、若き日の宿敵・足利義満観阿弥世阿弥親子と出会う時代小説。跳ねっ返りだった世間知らずな透子の無謀な行動の顛末と意外な出会い。周囲の言うことを鵜呑みにしていた透子が様々な人と出会い、真摯に語らうことで知ってゆく複雑な世界のありよう。自らの無力を痛感しつつも、無用な争いを回避するために奔走する彼女の成長があって、魅力的に描かれた実在の登場人物たちを絡めたテンポの良い展開はなかなか良かったですね。

 幼馴染の史郎を一方的に恋慕い、彼との結婚を夢見る会社員の咲希。そんな彼女が妹の紹介で結婚資金を稼ぐために副業で結婚式の「サクラ」のバイトとして働く物語。同じサクラの百合香とともに臨む憧れの結婚式場で次々と起こる略奪婚、歳の差婚、毒親といったワケアリ結婚式の数々。長年の片想いでずっと近くにいるのに、なかなか見えてこない史郎ことシロの本音。これでもかとばかりに結婚の現実が突きつけられて、頻発するトラブルからひとつの構図が見えてきて、それでも結婚に憧れる咲希の真っ直ぐな想いとその結末は心に響くものがありました。

瑕疵借り (講談社文庫)

瑕疵借り (講談社文庫)

 

原発関連死、賃借人失踪、謎の自殺、家族の不審死…瑕疵物件とされたワケあり物件に住み込む藤崎が、関係者とともにその真実を突き止めてゆく連作短編集。住人の死だったり行方不明だったりでワケありとされた物件に住み込む瑕疵借りの藤崎。心情的には大家や不動産屋寄りというより、賃借人に対して未練を残す関係者の思いに寄り添うようにその真実に迫り、結果的にその事故物件扱いも解消してゆく展開で、もう一度やり直すことはできない残された人たちへの切なるメッセージの数々は心に響くものがありました。続編あるならまた読んでみたいです。

 

 


 

2018年上半期注目のオススメ新作ライト文芸29選

というわけで上半期注目のオススメ新作企画第三弾ライト文芸編です。最近はライト文芸レーベルでもいろいろ話題作が出てきて、けれど刊行点数もわりと多かったりする状況で、自分もどれを読むべきなのか悩むことがよくありますが、そんな自分がおすすめする上半期新作29点を紹介します。参考にしていただければ幸いです。

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

 

 後宮奥深くにいる夜伽をしない不思議な力を持つ特別な妃「烏妃」。翡翠の耳飾りに取り憑いた女の幽霊の正体を探るべく訪れた皇帝・高峻が、その不思議な力を目の当たりにする中華風ファンタジー。辛い過去を抱え烏妃として孤独に生きようとする寿雪と、少年時代に生母を皇太后に殺され辛酸を舐めた高峻。後宮で起きる幽鬼絡みの事件を解き明かす過程で二人が関わる機会は増えていって、不器用な彼らの距離感や周囲との関係の変化はとても微笑ましくて、秘密を共有した二人がこれからどう変わってゆくのか、この続きを是非読んでみたいと思いました。

鍵屋の隣の和菓子屋さん つつじ和菓子本舗のつれづれ (集英社オレンジ文庫)

鍵屋の隣の和菓子屋さん つつじ和菓子本舗のつれづれ (集英社オレンジ文庫)

 

 高校を卒業し「つつじ和菓子本舗」へ住み込み、専門学校へ通いつつ和菓子職人の修業をスタートさせた淀川多喜次。恋する男子の和菓子な日々が描かれる『鍵屋甘味処改』スピンオフ小説。看板娘・祐雨子にプロポーズするも保留され、修行でも和菓子作りに携われない多喜次のもどかしい日々。お隣のその後の様子も垣間見えたり、一歩先ゆく同年代・柴倉の出現に危機感を募らせながら、周囲で起きる和菓子絡みの事件に体当たりで挑む多喜次の頑張りを祐雨子さんも見てくれていますね。柴倉もいいライバル関係になりそうで、この続きをまた読みたいです

マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年 (集英社オレンジ文庫)

マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年 (集英社オレンジ文庫)

 

 人工海上都市『キヴィタス』のアンドロイド管理局に勤める若きエリート技師エルが、仕事からの帰り道で登録情報のない野良アンドロイドの少年・ワンと出会い不思議な共同生活を始める物語。アンドロイドが貴重な労働力になっている世界で、不器用だけれどアンドロイドには真摯に向き合うエルに、訳ありなアンドロイドのワンは何だかんだ言いながらも振り回されっぱなしで、エルの事情も明らかになってゆく中、二人の関係性がワンの過去を巡る騒動と絡めつつとてもいい感じに描かれていたと思いました。もし続巻あるようならまた読んでみたいですね。

雪があたたかいなんていままで知らなかった (オレンジ文庫)

雪があたたかいなんていままで知らなかった (オレンジ文庫)

 

 地元の名士の生まれながら、幽霊が見えることで周囲から孤立する澤村千尋の前に現れた赤いマフラーの幽霊少女。協力してくれたクラスメイトの岩木君やリンたちと共に、記憶を失っている彼女の過去を探し始める青春ミステリー。過去のトラウマから逡巡しながらも始まった身元捜索。それぞれ苦い過去が明らかになってゆく岩木とリン、そして本家の魔王的存在・従兄の義孝。その過程で少しずつ広がって変わってゆく周囲との関係と、いろいろ過去や事実が少しずつ繋がってゆく構成はとても上手くて、切ないけれどぐっと来るものがある素敵な物語でした。

あなたの人生、交換します The Life Trade (集英社オレンジ文庫)

あなたの人生、交換します The Life Trade (集英社オレンジ文庫)

 

 自分の人生を交換するパーティーの招待状。その招待状を受け取った就職活動や婚活に失敗し続け、病気の母に苦労する山田尚子が、憧れていた国際的美人ピアニスト・桜庭響と人生を交換する物語。今の人生を生きる自分が不幸だと感じていた二人が、お試し期間の二週間付きの入れ替わりができると知って決断し、それぞれ経験してゆくもうひとつの人生。これまでと正反対の新鮮な生き方に刺激を受けたからこそ、見切りをつけようとしていたこれまでの人生で本当に大切だと感じていたことを自覚し、向き合っていこうとする展開はなかなか良かったですね。

今夜、2つのテレフォンの前。 (集英社オレンジ文庫)

今夜、2つのテレフォンの前。 (集英社オレンジ文庫)

 

 幼馴染・想史に思いを寄せる女子高校生・志奈子と、初恋の女性の結婚が決まったと聞き動揺する高校教師の直江。不思議な縁で電話をするようになった二人が毎晩相談の電話を積み重ねてゆく物語。いつの間にか上手く行かなかった自分と幼馴染の関係を重ね合わせて、別の高校に通うようになって口を聞いてくれない想史と志奈子の恋を応援する直江。そんな繋がりをもたらしたきっかけには苦笑いでしたけど、きちんと向き合った志奈子だけでなく、自身もまた想いを燻らせていた直江が大切な人に想いを伝えようと奔走する姿には心に響くものがありました。

君が死ぬ未来がくるなら、何度でも (集英社オレンジ文庫)

君が死ぬ未来がくるなら、何度でも (集英社オレンジ文庫)

 

 とある日の朝、幼馴染の高遠原櫂から急に呼び出され、おメダイを渡された時計紡。櫂の妹で親友でもある暖の死を目の当たりにした紡が、その死を回避すべく運命の朝を繰り返してゆく物語。繰り返し条件を変えていってもなかなか回避できない友人たちの死。回避の鍵を握る幼馴染の櫂と暖を巡る複雑な三角関係と、運命線を分岐させる死亡フラグと恋愛フラグの存在。大切な人たちを誰も失いたくない一心で葛藤し続けた紡の悲壮な決意には切なくなりましたが、遠回りこそしたものの彼らがたどり着いたその結末には、本当に良かったと胸が熱くなりました。

 何か縁を切りたいものがあることが入居条件のシェアハウスえのき荘。その管理人に雇われた芽衣が、訳ありなシェアメイトと交友を深めてその卒業を見届ける物語。過剰なダイエットをするOLの理由、アニオタを隠すホスト、医者家系の期待を背負った4浪中の浪人生、そして口は悪いけれど優しい二代目大家。住人たちのエピソードから掘り下げられてゆくそれぞれの事情と大家とともに見届ける結末、そして管理人である彼女自身もまた実家の悪縁に縛られていて、彼らの心地よい距離感と優しさが心に沁みる物語でした。続刊あるならまた読みたいですね。

きみを忘れないための5つの思い出 (集英社オレンジ文庫)

きみを忘れないための5つの思い出 (集英社オレンジ文庫)

 

 他人の記憶に極端に残りにくい体質の少女、自分に恋する人の視力が下がってしまう少女、教室から出られなくなってしまった少女、事故で意識不明の恋人とメールでやり取りできるようになった少女と、少し変わった性質を持った少女たちと彼女に恋した少年たちの物語を描いた連作短編集。人と違う自分を意識することで周囲と距離を置いていた少女たち。そんな頑なになっていた彼女たちが築いた壁に挑む男の子たち、乗り越えようとしたヒロインには苦難や葛藤が伴いましたけど、それでも諦めずに乗り越え人生が変わってゆく展開はなかなか良かったです。

あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)

あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)

 

 バイオリニストの夢破れ、楽器販売店での仕事もクビになった惠理が、衝動のまま夜行バスで向かった先の仙台で「あやしバイオリン工房」の店主・大地と伝説のバイオリンの精・弦城に出会う物語。自信を喪失したまま店で働き始めた惠理と、誰が弾いても音が出ないぶっきらぼうなバイオリンの精・弦城。最初はぎこちない距離感だった二人でお店を訪れる客からもたらされるバイオリンを巡る不思議な謎を解いていく展開でしたが、迷える惠理の想いと複雑な弦城の過去がひとつに繋がっていって、一緒に乗り越えてゆく結末はなかなか良かったと思いました。

魔女の魔法雑貨店 黒猫屋 猫が導く迷い客の一週間 (集英社オレンジ文庫)

魔女の魔法雑貨店 黒猫屋 猫が導く迷い客の一週間 (集英社オレンジ文庫)

 

 困りごと、迷い客の目の前にふと現れる「魔女の魔法雑貨店 黒猫屋」街で噂の魔女で黒猫屋の店主でもある淑子さんが迷い込んできたお客にささやかな奇跡を起こす連作短編集。おばあちゃんが庭で育てていた命の花の正体、コスメカウンターの新米魔女が悩んでいた勘違い、花屋の後輩に贈られた花の本当の意味、亡くなった兄から家族へのメッセージ。常連たちと不定期に魔女のお茶会を開く淑子さんが、最初は魔女の魔法に懐疑的だった彼女たちの誤解を解きほぐしつつ、肩の荷をそっと下ろしてあげる優しさがじんわり温かく感じられた素敵な物語でした。

恋するアクアリウム。 (富士見L文庫)

恋するアクアリウム。 (富士見L文庫)

 

 会社にも地元にも居場所がなくなり上京した浅見桐子。しかし落ち着き先を火事で失い、仕方なく歳下の幼馴染・佐倉井真也の元に転がり込んで同居生活が始まる「おいしいベランダ。」のスピンオフ小説。魚マニアだった弟分を甲斐甲斐しく世話したり振り回したりで、その日常を確実に塗り替えてゆく桐姉の存在感。なのに転職先が決まってあっさり終わった同居生活と、思わぬところから明らかになる彼女の上京理由。お人好しで面倒見の良いところが裏目に出ていた桐姉でしたけど、彼女をよく知る真也の真摯な想いが心にじんわりと来る素敵な物語でした。

完璧主義男に迫られています (富士見L文庫)

完璧主義男に迫られています (富士見L文庫)

 

 イベント会社でバリバリ働く卯月陽菜に告白したのは、営業の堅物なイケメン完璧主義男・長谷川薫。キッパリ断った陽菜が、諦めない長谷川の誠実かつ隙のないアプローチに迫られてゆくラブコメディ。好きになったものの、理想からかけ離れている陽菜を自分好みの女性にしようとする長谷川。小言は多いけれどぞっこんで誠実な長谷川の積極性に、いろいろトラブルもフォローしてくて、きちんと向き合うようになってゆく陽菜の関係がいいですね。長谷川の独占欲も可愛くて、いつの間にか甘々なカップルになっていてごちそうさまという感じでした(苦笑)

木崎夫婦ものがたり 旦那さんのつくる毎日ご飯とお祝いのご馳走 (富士見L文庫)
 

 著名な作家を父に持つ文筆家の島田ゆすらと、偶然出会った木崎修吾の電撃結婚。父の残した家で共同生活を始めた新米夫婦の日々が綴られてゆく物語。不安定だったゆすらと優しい木崎の美味しいものを食べたり、のんびりと寄り添うような夫婦生活。一方で作家としての自分のありように苦悩するゆすらのこと、作家だった父やふらりと家を出た弟の存在だったり、複雑な想いを抱く幼馴染・崇の存在もあったり、もしかしたらの可能性に切なくなりつつも、夫婦として作家として生きてゆくことにきちんと前向きになれた結末にはぐっとくるものがありました。 

西陣あんてぃく着物取引帖 (富士見L文庫)

西陣あんてぃく着物取引帖 (富士見L文庫)

 

 母親の羽織を持って京都・西陣のアンティークショップを訪れた薬剤師の純花が、金髪碧眼の店主・アレックスと出会い、因縁の羽織の真相究明のため二人で出処を調べることになる物語。アレックスの祖母と同じ柄の着物、そして男を作って家を出た純花の母を巡る因縁。紳士的で着物に対する造詣が深いアレックスと会い様々なことを知るうちに、少しずつ変わってゆく純花の心境。着物に関する興味深いエピソードや意外な繋がりもあったりで、今回の謎は明らかになりましたけど、アレックスたちとの今後も気になるのでもう少し続きを読んでみたいですね。

八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく (富士見L文庫)

八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく (富士見L文庫)

 

 対立を続けてきた公家との和睦を目指すため、武士最強の娘・雲雀に持ち上がった縁談。しかしそれは時間稼ぎでしかなくて、父に騙されて十も年下の一年限りのお飾り東宮・鈴鳴に嫁がされてしまう物語。このままでは終われない彼女が鈴鳴と組んで逆転を目指す展開で、そんな彼女たちの前に立ちはだかる親王・暮明と妻・鎬雨、そして暗躍する陰陽師・雅親。だいぶ分の悪い状況からのスタートでしたが、暮明に引け目を感じながらも姉さん女房・雲雀の期待に応えるべく鈴鳴がかなり頑張ったりで、ここからどう逆転していくのか面白くなっていきそうです。

契約結婚ってありですか 利害一致から始まる恋? (富士見L文庫)

契約結婚ってありですか 利害一致から始まる恋? (富士見L文庫)

 

 美容師を辞めて福岡に戻ってこいという両親を振り切るため、結婚相談所に駆け込んだ西依咲。切実な状況を訴えた目の前の相談員・成嶋玲司から利害一致の契約結婚を提案される新婚生活物語。良くも悪くもざっくばらんで素直な性格の咲と、人の機微に疎く神経質だという自覚はある玲司がルールを決めながら、職場の人招待だったり、義妹や幼馴染・両親の突然の襲来だったり、二人で生活していく中で一緒にいろんなことをこなしていくうちに、それぞれ心境だったり距離感も変わってゆく展開は良かったですね。続きがあるようならまた読んでみたいです。

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

 

 自死を遂げたはずの芥川龍之介羅生門の下で見せられたのは、未来の地獄絵の如き事件とある女性の死。「羅生門現象」と呼ばれる事件を食い止めるため、時代錯誤な文豪探偵・龍之介が現代の東京に蘇る物語。いきなり現代に転生してそのギャップに戸惑いながらも、芥川オタクで教師を辞めた弥生を家政婦として雇いつつ、彼女を救うべく問題解決の方法を模索する時代錯誤な龍之介。正直事件の解決そのものよりも、平野レミ先生の番組で料理を習ったり現代文明に感化されてゆく姿や、何だかんだで惹かれ合う弥生との不器用なやりとりが楽しかったです。

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

 

 現世に未練を残した人間の前に現われる閻魔大王の娘・沙羅。彼女がそんな彼らに願いに応じてある持ちかける生と死を賭けた霊界推理ゲーム。登場人物たちが直面する突然の暗転と、沙羅によって提示される究極の選択。読みやすいテンポよく進む展開の中にヒントを織り交ぜつつ提示されてゆく謎解き。被害者たちに容赦のない現実を突きつけながら解決する可能性も提示して、彼らにしっかり考えさせてそれぞれのエピソードを良かったなと思える結末に導いてゆく沙羅の不思議な魅力が効いていましたね。続刊も決まっているようなので楽しみにしています。現在二巻まで刊行。

そして僕らはいなくなる (講談社タイガ)

そして僕らはいなくなる (講談社タイガ)

 

 優等生の「着ぐるみ」をかぶって生活する高校生・宗也。帰宅の遅い幼馴染を捜しに出かけ事故に遭った宗也は断片的な幻覚に襲われるようになり、クラスで孤立する志緒と謎を追う青春ミステリ。不可思議な幻覚を共有した志緒と関わり、事件の真相を追ううちに少しずつ変わってゆく宗也の日常や心境。誰もが複雑な思いを抱える登場人物たちの心理描写は繊細で、幻覚を頼りに迫った事件の意外な真相は明示されないまま推測するに留まりましたが、それでもぐいぐい読ませる緊張感のある展開と、彼らが迎えた悪くない結末には充実した読後感がありました。

 就職活動に失敗した夏芽勇作が出会った呪いを招く特殊文化財を専門とする、神祇鑑定人・九鬼隗一郎。相棒となった二人が奇怪な謎を解いてゆく物語。魔術に傾倒した詩人・イェイツの日本刀、キプロスの死の女神像、豊臣秀吉が愛した月の小面。多くを語らない謎めいた九鬼によって明かされてゆく勇作が隠していた秘密と、勇作の力を上手く使って問題を解決してゆく九鬼。魔術や曰くある骨董品を絡めたオカルティックな内容で、登場人物たちもまたミステリアスで存在感がありましたし、彼らの関係がどう変わってゆくのか、続巻に期待のシリーズですね。

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

 

 連続殺人の現場には謎の紐と鏡。逃亡中の容疑者は橘終の双子の妹・乙黒アザミ。大切な彼女を密かに匿いつつ、常識では測れない彼女の想いを理解するため、他の異常犯罪を調べ始めるミステリ。近くで立て続けに起こる連続殺人・吸血事件・児童誘拐といった異常犯罪に巻き込まれてゆく終と、信じたいと思いながらも拭えないアザミへの疑惑。ホラーテイストのぞわりと来るような雰囲気の物語で、「向こう側」の人たちを引き寄せずにはいられない二人を取り巻く特異性と、最初は対極に思えた終とアザミに共通するどこか歪んだ愛情がとても印象的でした。

七月のテロメアが尽きるまで (メディアワークス文庫)

七月のテロメアが尽きるまで (メディアワークス文庫)

 

 人付き合いを避け生きてきた高校生の内村秀。ある日クラスメイト飯山直佳が落としたUSBメモリを拾い、中身の遺書を見てしまったことから奇妙な交流が始まる青春小説。彼女が進行性の記憶障害を患って自殺したがっていると知り、関わりたくなかったのに気になって仕方ないと自覚した秀が交わしたひとつの約束。秘密と約束を共有するようになった二人に訪れた転機と、やがて明らかになってゆく秀の苦い過去があって、その全てが繋がってゆく急展開には驚かされもしましたが、決着をつけた二人のその後のありようにはしっくり来るものがありました。

 疲れ果てたアラサーOL香実の会社にやってきた新人は、彼女の初恋の相手で当時のまま姿が変わらない不思議な青年・樹々。十三年ぶりに訪れた奇跡の再会から彼女が転機を迎えてゆく物語。唯一の肉親・祖母が亡くなった上に会社も業績不振で、尊敬する先輩が去り自身も契約社員に降格されたりと散々な状況で再会した樹々。その存在に癒やされ惹かれてゆく一方で、突きつけられる樹々が何者なのかという疑問。それでもかけがえのない存在だからこそ向き合い、真実を知っても自分なりのやり方を模索し共にあろうとする姿は心に響くものがありました。

笑う書店員の多忙な日々 (メディアワークス文庫)

笑う書店員の多忙な日々 (メディアワークス文庫)

 

 東京の小さな書店で新人バイトの紗和が直面する現実。そんな彼女に仕事を教える文庫文芸担当の楠奈津が、某出版社から持ち込まれた新人デビュー作のゲラに衝撃を受けて全店フェアを提案するお仕事小説。都内の書店でもこれくらい過酷な職場環境なのかと感じつつ読みましたが、書店が大好きで仕事に取り組む書店員たちがいきいきと描かれていて、初心者の紗和と経験を積んだ奈津の両視点から書店を描こうとして視点の切り替わりが多かったのはやや気になったものの、周囲も巻き込んで一丸となって本を売りに行く展開にはぐっと来るものがありました。

浅草和裁工房 花色衣: 着物の問題承ります (小学館文庫キャラブン!)

浅草和裁工房 花色衣: 着物の問題承ります (小学館文庫キャラブン!)

 

 ファッション雑誌から着物専門誌の編集部へ突然異動になった体力だけが自慢の新米編集者・陽菜子が、さっそく取材を任されて向かった浅草で美形の和裁士・八月一日桐彦に出会う浅草着物ミステリー。飄々とした態度で陽菜子をからかってくる八月一日と、そんな彼に素直になれない陽菜子という組み合わせでしたけど、仕事には真摯に取り組む陽菜子の姿勢だったり、友人の結婚相手の問題や陽菜子の祖母と母の着物を巡る長年の確執をうまくフォローしてくれる八月一日に、不器用なりに少しずつ惹かれていく様子がとても可愛くてなかなか良かったですね。

さくら花店: 毒物図鑑 (小学館文庫 み 7-1 キャラブン!)

さくら花店: 毒物図鑑 (小学館文庫 み 7-1 キャラブン!)

 

 植物の声を聞くことができる雪乃が店主の「さくら花店」を訪れるのは心に深い悩みを抱える客ばかり。そんな彼女を支える樹木医の夫・将吾郎との夫婦の日々と植物にまつわる事件を描く物語。不穏な雰囲気の男と不思議な色をつける紫陽花、雪乃と同じ植物の声が聞こえる少年・ヒロ、一見仲よさげな母娘が抱える苦悩。歪んだ家族の切ないエピソードは必ずしも残念な結末ばかりでもなくて、雪乃と将吾郎の率直で不器用なお互いの存在が不可欠に思える夫婦関係と、そこに居場所を見出したヒロたちが今後どうなってゆくのかまた読んでみたいと思いました。

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

 

密室で謎の死を遂げた人工知能研究者の父。その死に疑問を持った高校生の息子・輔が、探偵AI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人AI・以相を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知るミステリ。対となる存在の探偵と犯人という双子AI。明らかになる人工知能による世界統治を目指すオタクコアの存在。分かりやすい解説を加えながら語られる発展途上の存在から深層学習で成長する人工知能たちを軸とする展開は、やや強引かなと感じられる部分もありましたがなかなか興味深くて楽しめました。シリーズ化に期待ですね。

時は止まったふりをして(新潮文庫)

時は止まったふりをして(新潮文庫)

 

※書籍版がうまく表示できないためKindle版を選択しています。 

小牧が高校時代に付き合っていた凌馬。同窓会で再会した彼のもとに十二年の歳月を経て届くはずのないフイルムが届いて、そこから忘れていた過去と感情が蘇ってゆく青春恋愛ミステリ。十年前友人だった小牧や知葉たちの視点で描かれる甘酸っぱくてほろ苦い青春の日々と、三十路を前にした社会人としてのそれぞれの現在地。当時は明かされなかった密かないくつもの想いがあって、一方で今大切にしたいと思っている関係があって。清算されてゆく心残りだった過去が現在に繋がって、迷える背中をそっと押してくれる展開にはぐっとくるものがありました。

 

 

 

好きなラノベを投票しよう 2018年上半期投票10作品

2018年上半期企画実施中ですが、好きラノ2018年上期の投票絶賛受付中とのことで先にこちらの投票10作品を投稿したいと思います。

投票対象: 2018年1月~6月に発売されたライトノベル
投票期間: 7月1日(日)20時~7月15日(日)24時
結果発表: 7月16日(月)20時(予定)

 

ラノベ人気投票『好きラノ』 -2018年上期ライトノベルリスト

好きラノ2018年上期の対象リストざっと確認してみましたが、今回は全掲載1233アイテム。うち現時点での読了は247点でした。だいたい20%ということですね。5冊に1冊くらいは読んでる計算です。ただ正直なところ相当数掲載されているライト文芸レーベルそこで稼いでいて、純粋なライトノベルレーベルのみだともう少し比率が下がりそうです。今回もライトノベルレーベルの中から新作を選びました。以下の10作品です(一応オススメ順のつもり)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

 

 過去の苦い経験から「偽りの自分」を演じてしまう高校生・矢野四季が、印象的な出会いを果たした物静かな転校生・水瀬秋玻に惹かれ、彼女ともうひとりの人格・春珂を支えるようになってゆく不思議な恋物語。しっかりものの秋玻と対照的な危なっかしい印象の春珂。状況的に春珂をフォローすることが多い四季と二人を見つめる秋玻の繊細な距離感がまた絶妙で、大切な存在なのにすれ違ってしまうやるせなさだったり、ごまかさずにきちんと想いをぶつけてゆく彼らの青春がとても良かったですね。終盤は挿絵の使い方も効いていて続巻が今から楽しみです。
【18上期ラノベ投票/9784048938297】 

 古の魔王が再臨する絶望の未来を変えるため「アレンヘムの聖女」セシリアと婚約し、傭兵団「狂嗤の団」団長となる道を選んだカレル。聖女の加護を受け死の未来を回避する英雄として奮闘するファンタジー戦記。二年後の魔王再臨を限られた人しか知らない中で、代替わりした王国や戦争を仕掛けてきた自治領相手にどう立ち回るのか。腕が立って商才があり現実的な手段を積み重ねるカレルだけでなく、ヒロインのセシリアや仲間たち、王国の登場人物たちもまた魅力的なキャラが多くて、ここから物語がどう動くのか続巻がとても楽しみな新シリーズですね。 
【18上期ラノベ投票/9784040726991】

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 (角川スニーカー文庫)

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 (角川スニーカー文庫)

 

5年片想いした上司の後藤さんにバッサリ振られたサラリーマンの吉田。ヤケ酒の帰り道に路上で家出女子高生・沙優を発見し、なし崩し的に同居生活が始まる日常ラブコメディ。自分を大切にしないことを叱る吉田の優しさに戸惑う沙優と、彼女の存在が自分の中で少しずつ大きくなってゆくことを自覚する吉田。そんな何事にも真摯に向き合う彼の変化が気になる後藤さんと後輩の三島柚葉。周囲に振り回されてはいても根幹はブレない、相手を大切にしようとする吉田のありようが素敵で、何とも複雑な関係ですが今後の展開がとても楽しみなシリーズですね。現在二巻まで刊行。
【18上期ラノベ投票/9784041064757】 

ピンポンラバー (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (ガガガ文庫)

 

 【第12回小学館ライトノベル大賞<優秀賞>】 

日本全国から集まった卓球エリートがひしめく私立卓越学園。そこにかつて天才卓球少年と呼ばれた飛鳥翔星が入学し、完敗した一年生最強の女子・白鳳院瑠璃と組んで、その姉で自らの因縁の相手でもある学園最強の女子・紅亜に挑む青春小説。膝の重症を乗り越えかつて対戦した少女を探していた翔星と、紅亜を負かすことに執念を燃やす瑠璃の共闘関係。衝突しつつも勝ちたい一心でのめり込んでいく、身を焦がすほどに卓球を愛する二人が挑む熱い勝負はこれまで積み重ねてきた想いもカタルシスに繋がっていて、そんな物語の結末もまた効いていました。
【18上期ラノベ投票/9784094517347】

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈上〉 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈上〉 (電撃文庫)

 

 滅びの危機に瀕する花の街スラガヤ。奇蹟の操り手「大獣」に仕えることが定められた奴隷の一人・クロアと、郊外の廃墟に居を構える美しき大獣「貪食の君」が一つ屋根の下でぎこちない愛を育んでいく物語。奴隷市場で売れ残ったクロアと、彼女の成長を人の姿で見守ってきた「貪食の君」。慕われていた人の姿を隠したまま同居を始めた二人の何とも不器用な距離感や大切な人たちとの関係がもどかしくも心に響くものがあって、今に幸せを感じながらも街を守るため立ち上がるクロアたちの奮闘と二人の結末から目を離せない物語です。上下巻。
【18上期ラノベ投票/9784048935715】

 病床の国王に代わり摂政として弱小国家を背負うことになった若き王子ウェイン。文武に秀で臣下からの信頼も厚い彼が、絶望的な状況から密かに売国を志す弱小国家運営譚。状況を正しく認識して先を見通せるからこそ絶望を感じるウェイン。上手く終わらせるための手を打つのに、それがなぜか効果的な一手に繋がる皮肉な状況の変化や展開の連続でしたけど、ウェインが彼なりに最善へ真摯に取り組んだ結果だからこそ納得感がありました。補佐官のニニムに対する想いも気になる彼にいつか心境の変化はあるのか、どこまでやれるのか続巻が楽しみですね。
【18上期ラノベ投票/9784797397031】

常敗将軍、また敗れる (HJ文庫)

常敗将軍、また敗れる (HJ文庫)

 

 大国ザルツボルクの侵攻を受けたヘイミナル王国が存亡の危機を救う切り札として起用された傭兵・『常敗将軍』のドゥ・ダーカス。王弟や王の娘など様々な思惑が入り乱れる中、圧倒的不利な状況に立ち向かうファンタジー戦記。全幅の信頼を得られず思うように動けない中、要所要所の危機で最悪の状況を回避すべく動くダーカスの奮闘ぶりと、彼が見出そうとした決着の落とし所とその結末。テンポ良い展開に彼を見極めようとするティナや姫将軍・シャルナといった魅力的なキャラクターたちもよく動いて、これは続巻が楽しみな期待大の新シリーズです。
【18上期ラノベ投票/9784798616926】

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

 

 同級生の八坂幸喜真に触発された女装男子の天野翔が、彼のプロデュースで女装に目覚めたメアリーと共に女装アイドルを目指す青春小説。病院にいる「あの子」のために女装アイドルを目指すことになった天野翔視点と、丸井宴花との出会いから人生が変わってゆく広瀬怜視点の二つの物語が交錯する展開はぐいぐい読ませるだけの勢いがあって、物語を牽引する目をそらせない八坂の圧倒的な存在感と、「あの子」への献身的で不器用な熱い思いがその心を揺さぶって、伏線を回収して収束してゆく物語が見せてくれたその結末にはぐっと来るものがありました。
【18上期ラノベ投票/9784048938280】

 【第30回ファンタジア大賞<審査員特別賞>】 

桜の木から落ちてきた宮村花恋と運命的な出会いを果たした野田進。なのにそんな幸せを実感できない彼の前に、エキセントリックな孤高の天才児・西條理々が現れる青春小説。進を青春不感症と指摘し、楽園追放計画に誘う西條との恋心とは呼べない背徳的な関係。一方で真っ直ぐないい子だとは思うものの、なぜか心動かない花恋との関係。不器用にしか生きられない彼らの最低の選択が皮肉にもその心境に変化をもたらしたりで、これから三人の関係がどのように変わってゆくのか、読む人を選びそうな作品ですが自分はその結末を読んでみたいと思いました。
【18上期ラノベ投票/9784040728032】

優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)

優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)

 

 怪我でサッカーを辞めて灰色の高校生活を送る隼人と、歌姫として学校で注目される瑠子。近寄り難い存在だったはずなのに、ふとした繋がりからお互い意識するようになってゆくボーイミーツガール。周囲に上手く溶け込めない瑠子をさりげなくフォローする隼人と、そんな彼への評価が変わってゆく瑠子。お互い消化しきれない葛藤を抱えていて、強気なのに不器用で繊細な瑠子との出会いから隼人も少しずつ変化して、もがきながらも一緒に乗り越えようとする二人の関係と、強く心に訴えかけてくる熱い想いはとても真っ直ぐでぐっと来るものがありました。
【18上期ラノベ投票/9784048936705】

 

以上10作品です。気になる作品があったらぜひ読んでみてください。

2018年上半期注目のオススメ新作ライトノベル恋愛・青春小説26選

というわけで上半期企画第二弾、オススメ新作ライトノベル恋愛・青春小説編です。なお並びはレーベルごとに固めています。自分がよく読むジャンルとしてざっくりと2つにまとめているので、厳密にはそれちょっと違うんじゃないの?はあるかもしれません。ただそんなカテゴリーに収まらないからという理由で外すのもあれなので、だいたいそんなものくらいの認識で見てもらえれば幸いです。

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

 

 過去の苦い経験から「偽りの自分」を演じてしまう高校生・矢野四季が、印象的な出会いを果たした物静かな転校生・水瀬秋玻に惹かれ、彼女ともうひとりの人格・春珂を支えるようになってゆく不思議な恋物語。しっかりものの秋玻と対照的な危なっかしい印象の春珂。状況的に春珂をフォローすることが多い四季と二人を見つめる秋玻の繊細な距離感がまた絶妙で、大切な存在なのにすれ違ってしまうやるせなさだったり、ごまかさずにきちんと想いをぶつけてゆく彼らの青春がとても良かったですね。終盤は挿絵の使い方も効いていて続巻が今から楽しみです。

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

スカートのなかのひみつ。 (電撃文庫)

 

 同級生の八坂幸喜真に触発された女装男子の天野翔が、彼のプロデュースで女装に目覚めたメアリーと共に女装アイドルを目指す青春小説。病院にいる「あの子」のために女装アイドルを目指すことになった天野翔視点と、丸井宴花との出会いから人生が変わってゆく広瀬怜視点の二つの物語が交錯する展開はぐいぐい読ませるだけの勢いがあって、物語を牽引する目をそらせない八坂の圧倒的な存在感と、「あの子」への献身的で不器用な熱い思いがその心を揺さぶって、伏線を回収して収束してゆく物語が見せてくれたその結末にはぐっと来るものがありました。

優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)

優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)

 

 怪我でサッカーを辞めて灰色の高校生活を送る隼人と、歌姫として学校で注目される瑠子。近寄り難い存在だったはずなのに、ふとした繋がりからお互い意識するようになってゆくボーイミーツガール。周囲に上手く溶け込めない瑠子をさりげなくフォローする隼人と、そんな彼への評価が変わってゆく瑠子。お互い消化しきれない葛藤を抱えていて、強気なのに不器用で繊細な瑠子との出会いから隼人も少しずつ変化して、もがきながらも一緒に乗り越えようとする二人の関係と、強く心に訴えかけてくる熱い想いはとても真っ直ぐでぐっと来るものがありました。

 バイト代を全てスマホゲーに突っ込んでしまうガチャだけが生き甲斐の留年寸前大学生・遠野が、旧華族出身のガチお嬢様で廃課金ゲーマーの薗村紗雪と邂逅する廃課金ラブコメ。拗らせ過ぎて言動がキモい遠野と、そこまで突き抜けてないだけで負けず嫌いの廃課金ゲーマーな紗雪。一見まともに見える友人の樋沢も違う意味で残念なお人で、ラブコメよりもひたすらスマホゲーとガチャに突っ走る彼らの呆れ果てたやり取りには苦笑いでしたけど、だからこそ覚悟した遠野が見せた矜持とそのブレない熱い想いは良かったです。現在二巻まで刊行。

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 (角川スニーカー文庫)

ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 (角川スニーカー文庫)

 

 5年片想いした上司の後藤さんにバッサリ振られたサラリーマンの吉田。ヤケ酒の帰り道に路上で家出女子高生・沙優を発見し、なし崩し的に同居生活が始まる日常ラブコメディ。自分を大切にしないことを叱る吉田の優しさに戸惑う沙優と、彼女の存在が自分の中で少しずつ大きくなってゆくことを自覚する吉田。そんな何事にも真摯に向き合う彼の変化が気になる後藤さんと後輩の三島柚葉。周囲に振り回されてはいても根幹はブレない、相手を大切にしようとする吉田のありようが素敵で、何とも複雑な関係ですが今後の展開がとても楽しみなシリーズですね。現在二巻まで刊行。

 「異能兵器」が趨勢を左右する世界。転校した初恋の女の子・市ヶ谷すずに再会した辰巳千樫が、引っ込み思案な夢見る彼女が抱える秘密に巻き込まれてゆくラブコメディ。テロに襲われすずの圧倒的な力を知る一方、瀕死の重傷から助けてもらった代償に交換条件を突きつけられた千樫。それでも中国やロシアの驚異的な異能兵器相手だろうが、すずは彼にとって守りたい女の子で、どこまでも献身的な奔走の先にあった噛みしめるような幕切れはあまりにも切なかったです。でもこれで終わりじゃないですよね?諦めない千樫たちの物語を最後まで読みたいです。

 担当がついたもののなかなかデビューできない高校生作家の青木。そんな彼を恋愛マスターと勘違いした演劇部所属の憧れの綾瀬マイから、劇の脚本執筆を依頼される青春ラブコメディ。魅力的な彼女にどんどん惹かれてゆくのに、自信がなくて一歩を踏み出せずドツボにハマってゆくジレンマ。理解者の親友や彼女にお似合いのイケメン主人公キャラ、二人を振り回す女友達を配する王道な展開でしたけど、行き詰まっていた状況を打破する疾走感には勢いがあって、なのに何となく締まらない残念な結末に主人公らしさを感じてしまうなかなか面白い一冊でした。

 妹・映のラノベを理解したいという相談を受けて、文芸部に所属する兄の荒巻天太がちょっと変わった彼女・帆影歩たちと一緒にラノベを考えてゆくラブコメディ。なんだか二人の恋人らしくない雰囲気に本当に付き合っているのか疑問に思うブラコン気味の映と、ラノベの話をしているはずなのになぜか斜め上の生物学的小ネタをぶっこんでくる不思議少女・歩。噛み合っていなくても自分なりに頑張ろうとする歩はどこか可愛くて、そんな真意が見えてこなかった彼女がエピローグで淡々と語った天太への想いにはついニヤニヤしてしまいました。続巻に期待。

如月さんカミングアウト (角川スニーカー文庫)

如月さんカミングアウト (角川スニーカー文庫)

 

 「絶対零度の女帝」として君臨する生徒会長・如月キサキ。偶然彼女が隠れオタクだったことを知った日向和也が副会長として生徒会に引き込まれ、秘密のオタ友として一緒にオタク生活を満喫する青春小説。厳しい家の事情で放課後をオタクライフに費やす意外と積極的なキサキとの楽しい日々。訳あって集まった曲者揃いな生徒会メンバーの思惑は、なぜか(?)ことごとくキサキとの甘いハプニングに繋がっていて、つまるところ何もかもがキサキと和也のラブコメへ集約されてゆく展開にあまり意外性はなかったですが、これはこれで楽しめた一冊でした。

【第30回ファンタジア大賞<金賞>】 

街を守っている魔光少女が隣の席の庄川さんであることを知ってしまった平地くん。熱烈ファンの彼が超絶うっかりさんの彼女の正体がバレないよう奮闘することを決意するラブコメ。不器用なコミュ障な二人がお互い勘違いしたことから、なぜか始まってしまった二人のお付き合い(?)周囲も勘違いをこじらせながら二人のラブコメ展開を加速させていて、純情一途な庄川さんをフォローすべく奔走する平地くんの奮闘ぶりはカッコ良かったですが、劇的なのに決定的に噛み合っていない二人の関係がどうやって本物になっていくのか期待のシリーズです。現在二巻まで刊行。

【第30回ファンタジア大賞<審査員特別賞>】 

桜の木から落ちてきた宮村花恋と運命的な出会いを果たした野田進。なのにそんな幸せを実感できない彼の前に、エキセントリックな孤高の天才児・西條理々が現れる青春小説。進を青春不感症と指摘し、楽園追放計画に誘う西條との恋心とは呼べない背徳的な関係。一方で真っ直ぐないい子だとは思うものの、なぜか心動かない花恋との関係。不器用にしか生きられない彼らの最低の選択が皮肉にもその心境に変化をもたらしたりで、これから三人の関係がどのように変わってゆくのか、読む人を選びそうな作品ですが自分はその結末を読んでみたいと思いました。

 本当に助けを求める依頼者だけがたどり着けると噂の探偵事務所・忘却社。社長代行を名乗る記憶を殺す探偵・岬翼と、友人のストーカー被害の調査依頼するため迷い込んだ女子高生・三倉咲夜が出会う物語。相手の固有世界に入り込んで特定の人物の記憶を消し去れる翼と、同じように固有世界に入り込める咲夜が出会うエピソード。序盤は人間関係がやや把握しづらかったですが、明かされてゆく翼の過去にはいくつもの因縁が複雑に絡み合っていて、危険な状況に巻き込まれても彼に関わっていこうとする咲夜とどんな物語を紡ぐのか続巻に期待ということで。

ピンポンラバー (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (ガガガ文庫)

 

【第12回小学館ライトノベル大賞<優秀賞>】 

日本全国から集まった卓球エリートがひしめく私立卓越学園。そこにかつて天才卓球少年と呼ばれた飛鳥翔星が入学し、完敗した一年生最強の女子・白鳳院瑠璃と組んで、その姉で自らの因縁の相手でもある学園最強の女子・紅亜に挑む青春小説。膝の重症を乗り越えかつて対戦した少女を探していた翔星と、紅亜を負かすことに執念を燃やす瑠璃の共闘関係。衝突しつつも勝ちたい一心でのめり込んでいく、身を焦がすほどに卓球を愛する二人が挑む熱い勝負はこれまで積み重ねてきた想いもカタルシスに繋がっていて、そんな物語の結末もまた効いていました。

《このラブコメがすごい!!》堂々の三位! (ガガガ文庫)

《このラブコメがすごい!!》堂々の三位! (ガガガ文庫)

 

【第12回小学館ライトノベル大賞<ガガガ賞>】 

大手ラノベまとめサイト管理人の高校生・姫宮新。高校では浮いた存在の彼が、とある記事作りから《このラブコメがすごい!!》三位の作者が意中のクラスメイト・京月陽文だと知ってしまう青春ラブコメディ。マーケティングに精通し面白いことは重要ではないとすら考える新と、彼にラブコメの書き方を教わろうとする陽文。陽文への想いを自覚する不器用な新の困惑と迷走には頭を抱えましたが、そんな閉塞しかけた状況を見事ぶち壊してみせた陽文の真っ直ぐな想いが眩しくて、二人が取り戻した彼ららしいかけがえのない日常が印象に残る物語でした。

君死にたもう流星群 (MF文庫J)

君死にたもう流星群 (MF文庫J)

 

 ほぼ全ての人工衛星が落下した大流星群から三年。たった一人の犠牲者・天野河星乃を救うため、全てを諦めかけていた平野大地が希望を見出し運命に抗う物語。宇宙飛行士だった両親の夢を追いかけていた星乃。コスパ重視だった人生も彼女を失いやる気をなくしていた大地。希望を見出すものの思うようにうまく行かなくて、それでも大切なものを取り戻すという熱い決意を胸に、危機になりふり構わず奔走して、醒めていた大地自身もまた変わってゆく展開はテンポも良くて、変化したことがこれからどう影響していくのか、非常に楽しみな新シリーズですね。

俺もおまえもちょろすぎないか (MF文庫J)

俺もおまえもちょろすぎないか (MF文庫J)

 

 少しでもいいと思ったらすぐに告白してしまう高校生星井出功成。そんな彼がどんなことでも真正面から受け止めてしまう真面目な中学生初鹿野つぶらと出会い、お付き合いすることになるラブコメ。いちいちきちんと向き合ってくれるつぶらにどんどん惚れてゆく功成と、彼の想いに戸惑いながらも応えようとするつぶら。それぞれの行動原理には理由があって、惹かれてゆくがゆえに向き合わざるをえない本質的な問題もあって、少し引っかかるところもありましたが、誠実に向き合う不器用な二人の甘い物語として見るとなかなかぐっと来るものがありました。

15歳でも俺の嫁! 交際0日結婚から始める書店戦争 (MF文庫J)

15歳でも俺の嫁! 交際0日結婚から始める書店戦争 (MF文庫J)

 

 突然初対面の少女・君坂アリサに求婚され、うっかり承諾した大手出版取次に勤める火野坂賢一。実は中学生だったアリサとその実家を巡る騒動に巻き込まれてゆくラブコメディ。物語としてはやや構図を単純化し過ぎた感はありましたが、彼女と実家の書店をものにするためには手段を選ばない大手通販のゲスと対峙し、嫌がらせや中学生との婚約暴露という逆風に悩みながらも、これまで頑張ってきた仲間たちともに彼女や彼女が好きな書店を守ろうと奮闘し、愛の共同作戦wで劣勢を見事ひっくり返してみせた逆転劇はスカッとさせてくれるものがありました。

 電車で痴漢に遭っていた女子高生・織原姫を助け、そんな彼女に惹かれてゆく男子高校生・桃田薫。しかし好きになったJKの正体はアラサーのOLだったという年の差ラブコメディ。高校生と一回り近く年上のアラサーという組み合わせはいろいろ考えてしまいますが、懐かしいあるあるネタでたびたび世代間ギャップに凹みながらも、天然で素の反応が可愛くて破壊力抜群の姫と、その魅力にドキドキしながら真摯に向き合おうとする不器用なモモの距離感がとても良かったですね。いろいろ前途多難な二人がどうなってゆくのか、続巻に期待したいと思います。 

可愛い女の子に攻略されるのは好きですか? (GA文庫)

可愛い女の子に攻略されるのは好きですか? (GA文庫)

 

 日本の裏社会を牛耳る南条家の娘・姫沙の罠に嵌り、弱みを握られた日本の将来を担う政治家の卵・北御門帝が、姫沙から相手を好きになったと認めたら負けの「惚れさせゲーム」を提案される恋愛ゲームラブコメ。お互いの将来を賭けたゲームで、ポンコツツンデレな姫沙の策略に振り回され続ける帝。内心デレデレな姫沙の無茶なアプローチに理性崩壊寸前の帝という分かりやすい構図には苦笑いでしたけど、帝が気になる姫沙妹や親が決めた帝の婚約者も絡めた展開は安心して読めました。諦めの悪いライバルたちがどんな手を打ってくるのか期待のシリーズですね。現在二巻まで刊行。

死神少女と最期の初恋 (ファミ通文庫)

死神少女と最期の初恋 (ファミ通文庫)

 

 死神を名乗る美しい少女・供花に七日後通り魔に刺されて死ぬと予告された大学生の波多野景。それまで生きる意味も目標もなかった彼が、彼女との出会いから徐々に変わってゆく物語。後輩からの告白にも心動かされず、思い残すこともあまりない景が供花に抱いた、最期を迎えるまで共に過ごして欲しいというささやかな願い。そして感情に乏しかった供花が景と共に過ごしていくうちに少しずつ積み重ねてゆく想いと心境の変化。運命が二人の出会いによって大きく変わる中、難しい立ち位置にあった彼ら二人に提示される落とし所は絶妙だったと思いました。

オミサワさんは次元がちがう (ファミ通文庫)

オミサワさんは次元がちがう (ファミ通文庫)

 

 無表情・無感情で人と関わろうとせず、そこかしこに絵を書き散らす芸術科の天才・小海澤有紗。変人扱いの彼女を気にかける雪斗が関わってゆくうちに、彼女が抱える秘密に巻き込まれてゆく青春小説。コミュ障なオミサワさんと些細なやり取りを重ね交流を深めてゆく地道な努力が微笑ましくて、文字通り次元が違う秘密を知っても彼女を理解し共にあろうとする雪斗。大切だからこそ苦悩するオミサワさんでしたけど、彼女の想いを垣間見た雪斗と相変わらず難しい境遇でも確実に変わりつつある彼女が迎えた素敵な結末には、ついニヤニヤしてしまいました。

銀月の夜、さよならを言う (ファミ通文庫)

銀月の夜、さよならを言う (ファミ通文庫)

 

 交通事故に遭うところを「高木茜」と名乗る女性に助けられた水原透流。七年前に思いを伝えられないまま亡くなった女の子とよく似た茜に、どうしようもないほど惹かれてゆく青春小説。意気投合し交際を積み重ねていきながらも、相変わらず謎の多い茜相手に距離を詰めきれない透流。そして少しずつ明らかになってゆく茜の複雑な想いとその真実。幼さゆえのほんの少しのすれ違いから変わってしまった世界と、気づいていなかった過去の思いがあって。停滞していた二人がこの出会いで新たな一歩を踏み出すその結末は切なくもぐっと来るものがありました。

廻る学園と、先輩と僕 Simple Life (ファミ通文庫)

廻る学園と、先輩と僕 Simple Life (ファミ通文庫)

 

 学園一の美少女と噂される片瀬先輩。そんな彼女をとある事件から救った歳下の千秋那智が急接近してゆく学園ラブコメディ。真っ直ぐで可愛くて女の子たちから人気があるのに自覚がない年下の那智と、そんな彼の言動が気になって何とも複雑な気持ちになってゆく人気者・片瀬先輩の繊細でもどかしい距離感。彼らを取り巻くキャラたちもよく動いて二人にちょっかいを出したり応援しながら、少しずつ二人が自分の気持ちを自覚して向き合うようになってゆく展開で、先輩はちょっと気が早いかなとも感じましたけど(苦笑)、とても素敵な結末に思えました。

春は冬の夢を見る (ファミ通文庫)

春は冬の夢を見る (ファミ通文庫)

 

 一日先を夢で体験できる能力を持ち、危機を回避しながら一人で生きてきた春先孝太郎。そんな彼が同級生・冬芽木実につきまとわれるようになり、回避できない彼女との距離がどんんどん縮まってゆく青春小説。頑なだった孝太郎の傍にいるのが当たり前になっていった木実と共有された秘密。それから不穏な状況に巻き込まれてゆく二人と明らかになってゆく過去の因縁、見えてくる悪意。大切な人と共にあるため、過去の呪縛を解消するために決然と立ち向かう姿はカッコ良かったのに、肝心なところでどこか締まらない二人の関係がとても素敵な物語でした。

→ぱすてるぴんく。 (講談社ラノベ文庫)

→ぱすてるぴんく。 (講談社ラノベ文庫)

 

【第7回講談社ラノベ文庫新人賞<佳作>】 

他人との関わりを避け、ぼっち高校生活を送っていた軒嶺緋色のネット恋愛の恋人スモモ。引きこもりだったはずの彼女が突如緋色の高校に入学してきて、リアルの彼女になってしまう青春小説。緋色の高校生活を一変させたスモモの存在と思い描くほど上手くいかないリアルな日常、そしてふとしたきっかけから対応を誤り炎上してしまう二人の関係。不用意な面もあったとはいえコミュ障には厳しい展開でしたが、ここで黒歴史だったはずの元カノの存在がなかなか効いてます。現在二巻まで刊行。

星空の下、君の声だけを抱きしめる (講談社ラノベ文庫)

星空の下、君の声だけを抱きしめる (講談社ラノベ文庫)

 

 小説が書けない文芸部員・シュウのスマホに、詠名という少女から届いた謎のメッセージ。絶望を感じていた詠名と交流を重ね、親しくなっていった彼女が実は五年前を生きる人だったという衝撃の事実に直面する恋愛小説。閉塞感しかない環境にいる詠名が書き上げた脚本で、文芸部を目の敵にする生徒会長と一緒に劇を演じることになったシュウ。ややボリューム不足な感はあって物語の構図自体はとてもわかりやすかったですが、交わらないはずの五年の歳月を乗り越える彼らのやりとりはぐっと来るものもあって、危機的状況でも諦めなかった彼らが引き寄せた結末に救われる思いでした。

 

 ↓オススメ企画第一弾はこちら。


 

2018年上半期注目のオススメ新作ライトノベルファンタジー15選

 上半期も終わって毎回更新しているオススメ企画の時期になりました。とりあえず今回もラノベファンタジー、恋愛・青春小説、ライト文芸、一般文庫・単行本編の5回に分け、更新の予定です。今回は第一弾ということで新作ライトノベルファンタジーを紹介します。

 

 古の魔王が再臨する絶望の未来を変えるため「アレンヘムの聖女」セシリアと婚約し、傭兵団「狂嗤の団」団長となる道を選んだカレル。聖女の加護を受け死の未来を回避する英雄として奮闘するファンタジー戦記。二年後の魔王再臨を限られた人しか知らない中で、代替わりした王国や戦争を仕掛けてきた自治領相手にどう立ち回るのか。腕が立って商才があり現実的な手段を積み重ねるカレルだけでなく、ヒロインのセシリアや仲間たち、王国の登場人物たちもまた魅力的なキャラが多くて、ここから物語がどう動くのか続巻がとても楽しみな新シリーズですね。 

常敗将軍、また敗れる (HJ文庫)

常敗将軍、また敗れる (HJ文庫)

 

 大国ザルツボルクの侵攻を受けたヘイミナル王国が存亡の危機を救う切り札として起用された傭兵・『常敗将軍』のドゥ・ダーカス。王弟や王の娘など様々な思惑が入り乱れる中、圧倒的不利な状況に立ち向かうファンタジー戦記。全幅の信頼を得られず思うように動けない中、要所要所の危機で最悪の状況を回避すべく動くダーカスの奮闘ぶりと、彼が見出そうとした決着の落とし所とその結末。テンポ良い展開に彼を見極めようとするティナや姫将軍・シャルナといった魅力的なキャラクターたちもよく動いて、これは続巻が楽しみな期待大の新シリーズです。

 病床の国王に代わり摂政として弱小国家を背負うことになった若き王子ウェイン。文武に秀で臣下からの信頼も厚い彼が、絶望的な状況から密かに売国を志す弱小国家運営譚。状況を正しく認識して先を見通せるからこそ絶望を感じるウェイン。上手く終わらせるための手を打つのに、それがなぜか効果的な一手に繋がる皮肉な状況の変化や展開の連続でしたけど、ウェインが彼なりに最善へ真摯に取り組んだ結果だからこそ納得感がありました。補佐官のニニムに対する想いも気になる彼にいつか心境の変化はあるのか、どこまでやれるのか続巻が楽しみですね。

僕は何度も生まれ変わる (角川スニーカー文庫)

僕は何度も生まれ変わる (角川スニーカー文庫)

 

 29歳で死んだ社畜が生まれ変わるたびに、18歳で漆黒の髪・赤い眼の帝国皇女に殺される運命。5回目の人生で傭兵暮らしをしていたロワが魔王の隠し子とされ、急転する運命に巻き込まれてゆく物語。容赦なく蹂躙し続ける帝国への対抗で送り込まれた先での王女との結婚と母国滅亡。またもや対峙することになるあの女に、醒めていたロワが大切の人たちを守るため泥臭く奔走するようになり、キーマンとなっていったロワと負けられない皇女・リンゼンカが再び対峙する濃厚な展開とその結末は著者さんらしさに溢れていて、ぐっと来るものがありました。

君と僕との世界再変 (角川スニーカー文庫)

君と僕との世界再変 (角川スニーカー文庫)

 

 人の価値が数値化された2184年のディストピア的な世界。働かずとも衣食住が保障された「庭国」で私掠官として働く数値が0の少年・アオが、負傷していた謎の少女・モアと出会い日常が激変していく近未来SF。数値化された価値が全ての世界で特殊な立ち位置にいるアオと、庭国崩壊阻止のために20年後の未来からやってきたモア。二人が出会い共闘することで加速していく展開の中、始まってしまう庭国崩壊とその鍵を握るアオの秘密。自称恋人のレイを加えた三角関係もあったりで、ここからどうなるのか楽しみな続巻に期待の新シリーズですね。

復讐の聖女 (角川スニーカー文庫)

復讐の聖女 (角川スニーカー文庫)

 

 自分を陥れた者たちに復讐するため蘇ったジャンヌ・ダルク。そんな彼女に【真実を語らせる力】を見込まれた書記官のギョームが一緒に敗北へ導いた裏切り者を探す旅に出るダークファンタジー。不死身な一方でどこか抜けている食いしん坊なジャンヌと、従者オーヴィエットを交えた三人で旅する中で彼女を見極めようとするギョーム、明らかになってゆく復讐を誓うジャンヌの真の目的。恩人へ冷徹になりきれず苦境に陥る展開に彼女の複雑な心情が垣間見えますが、彼女を導いたものの正体も気になりますし、この旅の行方を最後まで読みたいと思いました。

拝啓、最果ての勇者様へ ~竜王の姫とめぐる旅~ (角川スニーカー文庫)

拝啓、最果ての勇者様へ ~竜王の姫とめぐる旅~ (角川スニーカー文庫)

 

 人と魔族の戦争が終結し四年。勇者になりそこなったポストマンのアルノスと人里で傷ついた竜王の娘エリヤが出会い、共に旅するトラベルファンタジー。くすぶった想いを抱えている最期の勇者候補と平和を夢見る魔族の少女。配達の旅で出会う魔族の孤児院を営む元勇者、エルフの騎士とオークの恋路といった様々な出会いと、絆を深めてお互いの存在が大きくなってゆく二人。人の魔族の融和という理想にすぐには変わらない現実がある一方で、これからの変化を信じたいと思う希望もあって、誰かのために奔走する二人の結末が印象に残る素敵な物語でした。

百神百年大戦 (GA文庫)

百神百年大戦 (GA文庫)

 

 数多の神々が互いの覇を争い《龍脈》を巡って果てなき大戦を続ける世界・タイクーン。そんな中自堕落に暮らしていた最古の剣神・リクドーが雌伏の時に別れを告げるバトルファンジー。龍脈の力を引き出すのに必要な巫女に去られ、代わりの巫女として王女・ミリアに白羽の矢を立てたリクドー。最初は自堕落なリクドーに否定的だったミリアが目にしてゆくリクドーの真摯な一面。突きつけられた容赦のない現実に、真の力と想いを秘めるリクドーとツンデレなミリアが立ち向かう展開は流石の安定感で、覚悟を決めた二人の今後が楽しみなシリーズですね。

魔人の少女を救うもの Goodbye to Fate (GA文庫)

魔人の少女を救うもの Goodbye to Fate (GA文庫)

 

 英雄に選ばれなかった少年・ウィズと運命に振り回される少女・アローン。そんな二人が出会いアローンの護衛役として遠い彼女の故郷を目指すファンタジー。神から英雄として選ばれた幼馴染に力不足でついていけず離脱せざるをえなかったウィズと、秘密を抱え家族のもとに帰ろうとするアローン。お互いへの共感と自分が一緒にいることへのためらいでせめぎ合う不器用な二人が、それぞれ過酷な運命に直面しつつも逃げずに懸命に向き合う姿にはぐっと来るものがありました。覚悟を決めた英雄の裏で二人がどういう物語が紡いでゆくのか期待ですね。現在二巻まで刊行。 

ハル遠カラジ (ガガガ文庫)

ハル遠カラジ (ガガガ文庫)

 

 人がほとんどいなくなってしまった近未来。人工知能の機能障害を発症した軍事用ロボットのテスタと、彼女の障害を治すために共に旅する少女・ハルの旅先での様々な出会いを描く機械と人と命の物語。医工師を探し求める旅で出会ったイリアたち、少しずつ変わってゆくハルとの関係をどうすべきか葛藤し続けるテスタと、目的地で明かされる障害の真実。ハルを拾って試行錯誤しながら育ててきた二人の関係と、彼女たちを支えたロボットたちの存在があって、二人がこれまで育んできた絆に向き合い危機を乗り越える展開にはぐっと来るものがありました。

滅びの季節に《花》と《獣》は  〈上〉 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈上〉 (電撃文庫)

 

 滅びの危機に瀕する花の街スラガヤ。奇蹟の操り手「大獣」に仕えることが定められた奴隷の一人・クロアと、郊外の廃墟に居を構える美しき大獣「貪食の君」が一つ屋根の下でぎこちない愛を育んでいく物語。奴隷市場で売れ残ったクロアと、彼女の成長を人の姿で見守ってきた「貪食の君」。慕われていた人の姿を隠したまま同居を始めた二人の何とも不器用な距離感や大切な人たちとの関係がもどかしくも心に響くものがあって、今に幸せを感じながらも街を守るため立ち上がるクロアたちの奮闘と二人の結末から目を離せない物語です。上下巻。

錆喰いビスコ (電撃文庫)

錆喰いビスコ (電撃文庫)

 

【第24回電撃小説大賞<金賞>】

全てを錆つかせる「錆び風」人類を死の脅威に陥れる世界。師匠を救うため霊薬キノコ「錆喰い」を求め旅をする「キノコ守り」赤星ビスコが少年医師・ミロを相棒に、波乱の冒険へ飛び出す冒険ファンタジー。最初世界観に馴染むのに少し時間が必要でしたが、ミロを相棒に旅に出る少年マンガっぽい展開にはワクワクさせるものがあって、黒革という分かりやすい悪役の存在だったり、師匠のジャビや、パウー、チロルといったキャラたちもよく効いていて、王道の最後まで諦めない痛快な物語は読んでいて楽しかったです。続巻出るようなので期待しています。

悪魔の孤独と水銀糖の少女 (電撃文庫)

悪魔の孤独と水銀糖の少女 (電撃文庫)

 

 黒い海を越え呪われた悪魔の島にやってきた死霊術師の孫・シュガーリア。そんな彼女が大罪人の男・ヨクサルと出会う愛など知らない男と愛しか知らない少女の物語。可愛がってくれた大切な人たちを失い復讐を志すシュガーリアと、無数の罪をその身に刻み『孤独を力にかえる』悪魔を背負うヨクサル。最初は滅びの運命に囚われ絶望しかなかった二人が、不器用なやり取りを積み重ねていくうちに育んでいった想い、そして相手の危機に命を賭けて飛び込んでいく勇気がもたらした結末には確かな救いがあって、著者さんらしい世界観を存分に堪能できました。

ゼロの戦術師 (電撃文庫)

ゼロの戦術師 (電撃文庫)

 

 突然人類に発現した刻印によって才能の優劣が決まる世界。特級戦術師の父の血を引きながら刻印を持たない軍学校の落ちこぼれ・エルヴィンが優秀な幼馴染・アーデルハイトと共に極秘任務に就くファンタジー。輝く白い髪の不思議な力を持つ少女ネージュとの運命的な出会いと、同じく彼女を求めるヴァルハラ帝国の思惑。様々な出会いと想いが交錯する中、追跡から逃れようとする三人の逃避行でエルヴィンの計略が冴え渡って、王都を守るため三人がそれぞれの形で奮闘する展開とその結末はなかなか良かったです。新展開になりそうな続巻にも期待ですね。

司書と王女の世界大戦 アイリス王国再興記 (Novel 0)

司書と王女の世界大戦 アイリス王国再興記 (Novel 0)

 

 かつて神器を操る七人の英雄が、大陸全土を支配せんとした巨大帝国征伐に多大な貢献をした「英雄戦争」。その裏で存在を消され全てを失った八人目の英雄・セナが、その智謀で歴史を塗り替えるファンタジー。小国の王女メアが拾ってきたぐうたら司書セナに振り回され、なぜか異例の出世を果たしてゆくメアの護衛女騎士クローネ。隣国・グイネットの侵攻から始まった全てを取り戻すための逆襲劇にはスピード感があって、ようやくスタートラインに立ったここからどう展開していくのか、ヒロインたちとの今後を含めて続巻に期待したい新シリーズです。

 

だいたいのセレクト自体は終わっているので、準備が出来次第ほかも順次更新いこうと思います。よろしくお願いします。


 

2018年6月に読んだ新作おすすめ本

 というわけで6月に読んだ新作おすすめです。6月で上半期も終わりということで、まとめ企画も意識しながら対象期間に該当する未読・積読の注目作品も消化していったため、いつもよりやや多めになっています(いつも多いと言えば多いのですがw)。十文字青さんの新作とスニーカー大賞の「君と僕との世界再変」、小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作の「ピンポンラバー」、ほかには今回読んだ中では富士見L文庫がわりと粒ぞろいな印象でした。これをもとに上半期のおすすめ企画エントリなどをいくつか作成予定ですが、気になる本があったら是非読んでみてください。

※一部書籍版の書誌データがエラーのためKindle版を選択しています。

僕は何度も生まれ変わる (角川スニーカー文庫)

僕は何度も生まれ変わる (角川スニーカー文庫)

 

 29歳で死んだ社畜が生まれ変わるたびに、18歳で漆黒の髪・赤い眼の帝国皇女に殺される運命。5回目の人生で傭兵暮らしをしていたロワが魔王の隠し子とされ、急転する運命に巻き込まれてゆく物語。容赦なく蹂躙し続ける帝国への対抗で送り込まれた先での王女との結婚と母国滅亡。またもや対峙することになるあの女に、醒めていたロワが大切の人たちを守るため泥臭く奔走するようになり、キーマンとなっていったロワと負けられない皇女・リンゼンカが再び対峙する濃厚な展開とその結末は著者さんらしさに溢れていて、ぐっと来るものがありました。

君と僕との世界再変 (角川スニーカー文庫)

君と僕との世界再変 (角川スニーカー文庫)

 

 人の価値が数値化された2184年のディストピア的な世界。働かずとも衣食住が保障された「庭国」で私掠官として働く数値が0の少年・アオが、負傷していた謎の少女・モアと出会い日常が激変していく近未来SF。数値化された価値が全ての世界で特殊な立ち位置にいるアオと、庭国崩壊阻止のために20年後の未来からやってきたモア。二人が出会い共闘することで加速していく展開の中、始まってしまう庭国崩壊とその鍵を握るアオの秘密。自称恋人のレイを加えた三角関係もあったりで、ここからどうなるのか楽しみな続巻に期待の新シリーズですね。

百神百年大戦 (GA文庫)

百神百年大戦 (GA文庫)

 

 数多の神々が互いの覇を争い《龍脈》を巡って果てなき大戦を続ける世界・タイクーン。そんな中自堕落に暮らしていた最古の剣神・リクドーが雌伏の時に別れを告げるバトルファンジー。龍脈の力を引き出すのに必要な巫女に去られ、代わりの巫女として王女・ミリアに白羽の矢を立てたリクドー。最初は自堕落なリクドーに否定的だったミリアが目にしてゆくリクドーの真摯な一面。突きつけられた容赦のない現実に、真の力と想いを秘めるリクドーとツンデレなミリアが立ち向かう展開は流石の安定感で、覚悟を決めた二人の今後が楽しみなシリーズですね。

ピンポンラバー (ガガガ文庫)

ピンポンラバー (ガガガ文庫)

 

 日本全国から集まった卓球エリートがひしめく私立卓越学園。そこにかつて天才卓球少年と呼ばれた飛鳥翔星が入学し、完敗した一年生最強の女子・白鳳院瑠璃と組んで、その姉で自らの因縁の相手でもある学園最強の女子・紅亜に挑む青春小説。膝の重症を乗り越えかつて対戦した少女を探していた翔星と、紅亜を負かすことに執念を燃やす瑠璃の共闘関係。衝突しつつも勝ちたい一心でのめり込んでいく、身を焦がすほどに卓球を愛する二人が挑む熱い勝負はこれまで積み重ねてきた想いもカタルシスに繋がっていて、そんな物語の結末もまた効いていました。

ハル遠カラジ (ガガガ文庫)

ハル遠カラジ (ガガガ文庫)

 

 人がほとんどいなくなってしまった近未来。人工知能の機能障害を発症した軍事用ロボットのテスタと、彼女の障害を治すために共に旅する少女・ハルの旅先での様々な出会いを描く機械と人と命の物語。医工師を探し求める旅で出会ったイリアたち、少しずつ変わってゆくハルとの関係をどうすべきか葛藤し続けるテスタと、目的地で明かされる障害の真実。ハルを拾って試行錯誤しながら育ててきた二人の関係と、彼女たちを支えたロボットたちの存在があって、二人がこれまで育んできた絆に向き合い危機を乗り越える展開にはぐっと来るものがありました。

錆喰いビスコ (電撃文庫)

錆喰いビスコ (電撃文庫)

 

 全てを錆つかせる「錆び風」人類を死の脅威に陥れる世界。師匠を救うため霊薬キノコ「錆喰い」を求め旅をする「キノコ守り」赤星ビスコが少年医師・ミロを相棒に、波乱の冒険へ飛び出す冒険ファンタジー。最初世界観に馴染むのに少し時間が必要でしたが、ミロを相棒に旅に出る少年マンガっぽい展開にはワクワクさせるものがあって、黒革という分かりやすい悪役の存在だったり、師匠のジャビや、パウー、チロルといったキャラたちもよく効いていて、王道の最後まで諦めない痛快な物語は読んでいて楽しかったです。続巻出るようなので期待しています。

 電車で痴漢に遭っていた女子高生・織原姫を助け、そんな彼女に惹かれてゆく男子高校生・桃田薫。しかし好きになったJKの正体はアラサーのOLだったという年の差ラブコメディ。高校生と一回り近く年上のアラサーという組み合わせはいろいろ考えてしまいますが、懐かしいあるあるネタでたびたび世代間ギャップに凹みながらも、天然で素の反応が可愛くて破壊力抜群の姫と、その魅力にドキドキしながら真摯に向き合おうとする不器用なモモの距離感がとても良かったですね。いろいろ前途多難な二人がどうなってゆくのか、続巻に期待したいと思います。 

 交通事故に遭うところを「高木茜」と名乗る女性に助けられた水原透流。七年前に思いを伝えられないまま亡くなった女の子とよく似た茜に、どうしようもないほど惹かれてゆく青春小説。意気投合し交際を積み重ねていきながらも、相変わらず謎の多い茜相手に距離を詰めきれない透流。そして少しずつ明らかになってゆく茜の複雑な想いとその真実。幼さゆえのほんの少しのすれ違いから変わってしまった世界と、気づいていなかった過去の思いがあって。停滞していた二人がこの出会いで新たな一歩を踏み出すその結末は切なくもぐっと来るものがありました。

星空の下、君の声だけを抱きしめる (講談社ラノベ文庫)

星空の下、君の声だけを抱きしめる (講談社ラノベ文庫)

 

 小説が書けない文芸部員・シュウのスマホに、詠名という少女から届いた謎のメッセージ。絶望を感じていた詠名と交流を重ね、親しくなっていった彼女が実は五年前を生きる人だったという衝撃の事実に直面する恋愛小説。閉塞感しかない環境にいる詠名が書き上げた脚本で、文芸部を目の敵にする生徒会長と一緒に劇を演じることになったシュウ。物語の構図自体はとてもわかりやすかったですが、交わらないはずの五年の歳月を乗り越える彼らのやりとりはぐっと来るものもあって、危機的状況でも諦めなかった彼らが引き寄せた結末に救われる思いでした。

 本当に助けを求める依頼者だけがたどり着けると噂の探偵事務所・忘却社。社長代行を名乗る記憶を殺す探偵・岬翼と、友人のストーカー被害の調査依頼するため迷い込んだ女子高生・三倉咲夜が出会う物語。相手の固有世界に入り込んで特定の人物の記憶を消し去れる翼と、同じように固有世界に入り込める咲夜が出会うエピソード。序盤は人間関係がやや把握しづらかったですが、明かされてゆく翼の過去にはいくつもの因縁が複雑に絡み合っていて、危険な状況に巻き込まれても彼に関わっていこうとする咲夜とどんな物語を紡ぐのか続巻に期待ということで。

  

時は止まったふりをして(新潮文庫)

時は止まったふりをして(新潮文庫)

 

 小牧が高校時代に付き合っていた凌馬。同窓会で再会した彼のもとに十二年の歳月を経て届くはずのないフイルムが届いて、そこから忘れていた過去と感情が蘇ってゆく青春恋愛ミステリ。十年前友人だった小牧や知葉たちの視点で描かれる甘酸っぱくてほろ苦い青春の日々と、三十路を前にした社会人としてのそれぞれの現在地。当時は明かされなかった密かないくつもの想いがあって、一方で今大切にしたいと思っている関係があって。清算されてゆく心残りだった過去が現在に繋がって、迷える背中をそっと押してくれる展開にはぐっとくるものがありました。

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

 

 密室で謎の死を遂げた人工知能研究者の父。その死に疑問を持った高校生の息子・輔が、探偵AI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人AI・以相を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知るミステリ。対となる存在の探偵と犯人という双子AI。明らかになる人工知能による世界統治を目指すオタクコアの存在。分かりやすい解説を加えながら語られる発展途上の存在から深層学習で成長する人工知能たちを軸とする展開は、やや強引かなと感じられる部分もありましたがなかなか興味深くて楽しめました。シリーズ化に期待ですね。

 疲れ果てたアラサーOL香実の会社にやってきた新人は、彼女の初恋の相手で当時のまま姿が変わらない不思議な青年・樹々。十三年ぶりに訪れた奇跡の再会から彼女が転機を迎えてゆく物語。唯一の肉親・祖母が亡くなった上に会社も業績不振で、尊敬する先輩が去り自身も契約社員に降格されたりと散々な状況で再会した樹々。その存在に癒やされ惹かれてゆく一方で、突きつけられる樹々が何者なのかという疑問。それでもかけがえのない存在だからこそ向き合い、真実を知っても自分なりのやり方を模索し共にあろうとする姿は心に響くものがありました。

笑う書店員の多忙な日々 (メディアワークス文庫)

笑う書店員の多忙な日々 (メディアワークス文庫)

 

 東京の小さな書店で新人バイトの紗和が直面する現実。そんな彼女に仕事を教える文庫文芸担当の楠奈津が、某出版社から持ち込まれた新人デビュー作のゲラに衝撃を受けて全店フェアを提案するお仕事小説。都内の書店でもこれくらい過酷な職場環境なのかと感じつつ読みましたが、書店が大好きで仕事に取り組む書店員たちがいきいきと描かれていて、初心者の紗和と経験を積んだ奈津の両視点から書店を描こうとして視点の切り替わりが多かったのはやや気になったものの、周囲も巻き込んで一丸となって本を売りに行く展開にはぐっと来るものがありました。

 司書の仕事を探していた結衣が見つけた求人は、豪邸の書庫を活用したあやかしのための図書館の仕事。躊躇しながらも昔出会ったあやかしの少年ナギのことを思い出し、思い切って働くことを決意する物語。様々な理由で本を探しに来るあやかしたちのために、オーナーの宗司やあやかしの風花に助けられながら司書として奮闘する結衣。主人公にあまり恋愛要素を絡めなかったり、登場するのも人間好きなあやかしが多かったりで、物語としてはわりと読みやすい方でしたが、気になる結末は少しばかり消化不良気味な感もあったので続編出ることを期待します。

君が死ぬ未来がくるなら、何度でも (集英社オレンジ文庫)

君が死ぬ未来がくるなら、何度でも (集英社オレンジ文庫)

 

 とある日の朝、幼馴染の高遠原櫂から急に呼び出され、おメダイを渡された時計紡。櫂の妹で親友でもある暖の死を目の当たりにした紡が、その死を回避すべく運命の朝を繰り返してゆく物語。繰り返し条件を変えていってもなかなか回避できない友人たちの死。回避の鍵を握る幼馴染の櫂と暖を巡る複雑な三角関係と、運命線を分岐させる死亡フラグと恋愛フラグの存在。大切な人たちを誰も失いたくない一心で葛藤し続けた紡の悲壮な決意には切なくなりましたが、遠回りこそしたものの彼らがたどり着いたその結末には、本当に良かったと胸が熱くなりました。

 大ざっぱな性格で失敗ばかりの新米刑事・新明寺克平が、複雑な事情で図書館に引きこもる小学生・結愛と出会い、彼女の助けを得て事件解決に繋げてゆく物語。一度見たものや耳にしたことは絶対に忘れないために周囲とうまく付き合えなかった結愛。たまたま出会った二人でしたけど、結愛の記憶が行き詰まった事件のヒントや、悲しい過去だった克平の妹の事件解決に繋がったり、一方で克平の存在が結愛に新しい世界へ一歩を踏み出す勇気をくれたりと、交流を深めてゆくうちに案外いいコンビになっていった二人の続編があるならまた読んでみたいですね。

八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく (富士見L文庫)

八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく (富士見L文庫)

 

 対立を続けてきた公家との和睦を目指すため、武士最強の娘・雲雀に持ち上がった縁談。しかしそれは時間稼ぎでしかなくて、父に騙されて十も年下の一年限りのお飾り東宮・鈴鳴に嫁がされてしまう物語。このままでは終われない彼女が鈴鳴と組んで逆転を目指す展開で、そんな彼女たちの前に立ちはだかる親王・暮明と妻・鎬雨、そして暗躍する陰陽師・雅親。だいぶ分の悪い状況からのスタートでしたが、暮明に引け目を感じながらも姉さん女房・雲雀の期待に応えるべく鈴鳴がかなり頑張ったりで、ここからどう逆転していくのか面白くなっていきそうです。

契約結婚ってありですか 利害一致から始まる恋? (富士見L文庫)

契約結婚ってありですか 利害一致から始まる恋? (富士見L文庫)

 

 美容師を辞めて福岡に戻ってこいという両親を振り切るため、結婚相談所に駆け込んだ西依咲。切実な状況を訴えた目の前の相談員・成嶋玲司から利害一致の契約結婚を提案される新婚生活物語。良くも悪くもざっくばらんで素直な性格の咲と、人の機微に疎く神経質だという自覚はある玲司がルールを決めながら、職場の人招待だったり、義妹や幼馴染・両親の突然の襲来だったり、二人で生活していく中で一緒にいろんなことをこなしていくうちに、それぞれ心境だったり距離感も変わってゆく展開は良かったですね。続きがあるようならまた読んでみたいです。

木崎夫婦ものがたり 旦那さんのつくる毎日ご飯とお祝いのご馳走 (富士見L文庫)
 

 著名な作家を父に持つ文筆家の島田ゆすらと、偶然出会った木崎修吾の電撃結婚。父の残した家で共同生活を始めた新米夫婦の日々が綴られてゆく物語。不安定だったゆすらと優しい木崎の美味しいものを食べたり、のんびりと寄り添うような夫婦生活。一方で作家としての自分のありように苦悩するゆすらのこと、作家だった父やふらりと家を出た弟の存在だったり、複雑な想いを抱く幼馴染・崇の存在もあったり、もしかしたらの可能性に切なくなりつつも、夫婦として作家として生きてゆくことにきちんと前向きになれた結末にはぐっとくるものがありました。 

西陣あんてぃく着物取引帖 (富士見L文庫)

西陣あんてぃく着物取引帖 (富士見L文庫)

 

 母親の羽織を持って京都・西陣のアンティークショップを訪れた薬剤師の純花が、金髪碧眼の店主・アレックスと出会い、因縁の羽織の真相究明のため二人で出処を調べることになる物語。アレックスの祖母と同じ柄の着物、そして男を作って家を出た純花の母を巡る因縁。紳士的で着物に対する造詣が深いアレックスと会い様々なことを知るうちに、少しずつ変わってゆく純花の心境。着物に関する興味深いエピソードや意外な繋がりもあったりで、今回の謎は明らかになりましたけど、アレックスたちとの今後も気になるのでもう少し続きを読んでみたいですね。

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

 

 自死を遂げたはずの芥川龍之介羅生門の下で見せられたのは、未来の地獄絵の如き事件とある女性の死。「羅生門現象」と呼ばれる事件を食い止めるため、時代錯誤な文豪探偵・龍之介が現代の東京に蘇る物語。いきなり現代に転生してそのギャップに戸惑いながらも、芥川オタクで教師を辞めた弥生を家政婦として雇いつつ、彼女を救うべく問題解決の方法を模索する時代錯誤な龍之介。正直事件の解決そのものよりも、平野レミ先生の番組で料理を習ったり現代文明に感化されてゆく姿や、何だかんだで惹かれ合う弥生との不器用なやりとりが楽しかったです。

浅草和裁工房 花色衣: 着物の問題承ります (小学館文庫キャラブン!)

浅草和裁工房 花色衣: 着物の問題承ります (小学館文庫キャラブン!)

 

 ファッション雑誌から着物専門誌の編集部へ突然異動になった体力だけが自慢の新米編集者・陽菜子が、さっそく取材を任されて向かった浅草で美形の和裁士・八月一日桐彦に出会う浅草着物ミステリー。飄々とした態度で陽菜子をからかってくる八月一日と、そんな彼に素直になれない陽菜子という組み合わせでしたけど、仕事には真摯に取り組む陽菜子の姿勢だったり、友人の結婚相手の問題や陽菜子の祖母と母の着物を巡る長年の確執をうまくフォローしてくれる八月一日に、不器用なりに少しずつ惹かれていく様子がとても可愛くてなかなか良かったですね。

さくら花店: 毒物図鑑 (小学館文庫 み 7-1 キャラブン!)

さくら花店: 毒物図鑑 (小学館文庫 み 7-1 キャラブン!)

 

 植物の声を聞くことができる雪乃が店主の「さくら花店」を訪れるのは心に深い悩みを抱える客ばかり。そんな彼女を支える樹木医の夫・将吾郎との夫婦の日々と植物にまつわる事件を描く物語。不穏な雰囲気の男と不思議な色をつける紫陽花、雪乃と同じ植物の声が聞こえる少年・ヒロ、一見仲よさげな母娘が抱える苦悩。歪んだ家族の切ないエピソードは必ずしも残念な結末ばかりでもなくて、雪乃と将吾郎の率直で不器用なお互いの存在が不可欠に思える夫婦関係と、そこに居場所を見出したヒロたちが今後どうなってゆくのかまた読んでみたいと思いました。

 

 内定を取り消され将来の不安に苛まれる大学生・行成と、引っ越してきたばかりで周りに馴染めずにいる小学生・マサキ。それぞれ悩みを抱える二人が歳の離れた友人として徐々に親交を深めてゆく物語。行成が「可愛らしい男の子」だとばかり思い込んでいた真咲。誤解が解く機会がないまま共に過ごし積み重ねてゆく二人の思い出と、それを転機に新たに築かれてゆくそれぞれの人間関係。マサキが女の子だと微塵も気づかない行成と、自らの想いを自覚してゆく真咲という危うくて繊細な距離感がそのままでいられるはずもなくて、何とも切ない展開ですね…。

 自分が女の子だということを言えないまま、近所の大学生・行成との友情を育むマサキ。そんなマサキに中学受験という現実と、就職する行成との別離の日が近づいてくる下巻。友人関係や母親との関係に悩みながら進むべき道を模索するマサキと、彼女の窮地を救いながらもその秘密を知り動揺してしまう行成。丁寧に綴られる周辺事情なども交えながら思わぬ展開もあったりで、そのまま二人の淡い思い出として昇華させてゆくのかなと思わせつつ、それでも二人のためにかすかな希望をきちんと提示してくれるあたりに、著者さんの優しさを感じたりしました。

片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)

片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)

 

 好きになった推しの対象を徹底的に調べ上げて見守るストーキング体質な女子高生・追掛日菜子。しかしなぜか好きになった相手は次々と事件に巻き込まれ、彼女が事件解決の糸口を見つけ出すミステリ。舞台俳優、若手力士、天才子役、覆面漫画家から総理大臣まで、惚れっぽく法律ギリギリアウトな手法で見守る日菜子が推しのために奔走する探偵劇。彼女の好意が事件を引き寄せてるのでは?と思わなくもないですが、コミカルでテンポのいい展開は楽しくて、振り回されるお兄ちゃんは大変でしたが、それでも懲りない彼女の活躍をまた読んでみたいです。

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

 

 わけあって借金を抱えネットカフェを泊まり歩く放浪生活を送る青年・遠野青児。罪人が化け物に見える彼が迷い込んだ洋館で、白牡丹の着物をまとった謎の美少年・西條皓に住みこみの助手として屋敷で働くよう誘われる物語。鬼の代わりに罪人を地獄に届ける「地獄代行業」を営む皓を訪れる顧客たちが抱える事情とおぞましい真実、そして彼らにふさわしい結末。騙されて何度も怖い目に遭わされるのに、皓に確実に手なづけられてゆく青児の小市民っぷりが物語のいいアクセントになっていて、ライバル探偵・凜堂棘も登場したりな今後の展開が楽しみです。

明日、君が花と散っても (角川文庫)

明日、君が花と散っても (角川文庫)

 

 戦争末期にばらまかれたウイルスのせいで、ほとんどの人類が死に絶えた世界。とある集落に拾われ育てられた少年・マサキが「死花症候群」により散ってゆく大切な仲間たちを救うため「この世界」の調査を始める物語。どこか違和感を感じる気のいい仲間たちとの集落での自給自足生活と、幼馴染で大切な少女・カエデの存在。集落の人々が少しずつ減ってゆく終わりの予感に何とか抗おうとするマサキ。この世界の真実と大切な人が失われてゆく喪失感には胸が締め付けられましたが、それでも最後まで向き合い続けた二人の結末は儚くも美しいと思えました。 

咲見庵三姉妹の失恋 (新潮文庫)

咲見庵三姉妹の失恋 (新潮文庫)

 

 父を亡くし、川越の和カフェを営む高咲三姉妹の家に居候することになった高校生・薫。不本意ながら三姉妹と暮らすことになった傷心な薫の変化と、姉妹たちの切ない恋愛模様、そして成長の物語。咲見庵を営む長女・花緒、ボーイッシュで夢見がちな次女・六花、そして二人とは母親の違う十六歳の三女・若葉。三姉妹それぞれの複雑で繊細な恋模様とその失恋は切なかったですが、それは彼女たちの停滞した状況からの前進でもあって、三姉妹とかけがえのない日々を過ごした薫もまた成長して新たな一歩を踏み出してゆく、とても優しくて温かい物語でした。

瑕疵借り (講談社文庫)

瑕疵借り (講談社文庫)

 

 原発関連死、賃借人失踪、謎の自殺、家族の不審死…瑕疵物件とされたワケあり物件に住み込む藤崎が、関係者とともにその真実を突き止めてゆく連作短編集。住人の死だったり行方不明だったりでワケありとされた物件に住み込む瑕疵借りの藤崎。心情的には大家や不動産屋寄りというより、賃借人に対して未練を残す関係者の思いに寄り添うようにその真実に迫り、結果的にその事故物件扱いも解消してゆく展開で、もう一度やり直すことはできない残された人たちへの切なるメッセージの数々は心に響くものがありました。続編あるならまた読んでみたいです。

さよならクリームソーダ (文春文庫)

さよならクリームソーダ (文春文庫)

 

 再婚した両親から逃げるように美大入学で一人暮らしを始めた友親。知り合った先輩の若菜と親交を深めるうちに、その過去と秘密を知ってゆく青春小説。両親に向き合えない後ろめたさを抱える友親と義姉・涼の複雑な関係。友親の前に現れた若菜を気にかける少女・恭子と、明らかになってゆく若菜が抱える絶望と秘密。登場人物たちのどうにもならない葛藤と生々しい感情のぶつかり合いが繊細に描かれていて、絶望に直面し何かが確実に壊れてしまった彼らが、それでも何とか生きていこうとする姿にはほろ苦くも未来があって、心に響くものがありました。

 

 

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

 

 将来NASAのエンジニアを目指し風船宇宙撮影に取り組む小学六年生の佐倉ハル。意地っ張りでクラスでは孤立し、家に帰っても両親とぎくしゃくする彼が、金髪の転校生の女の子・イリスと出会い少しずつ変わってゆく青春小説。夢を追い真剣に取り組むハルの姿に共感し、自らは宇宙飛行士を目指そうとするイリス。そんな彼女の想いを突っぱねてしまうハルは複雑な事情を抱えていて、終盤明かされるひとつの真実には驚かされましたが、すれ違ったままで終わらせないために葛藤を乗り越えて頑張った二人のこれからを応援したくなる素敵な物語でした。

若旦那のひざまくら

若旦那のひざまくら

 

 百貨店で働くアラフォーバリバリキャリアウーマン・長谷川芹が、一回り近く歳下の西陣の老舗織物屋の若旦那・充と出会い結婚を意識するも、京都での考え方の違いや反対する両親、美しい充の幼馴染など次々と障害が立ちはだかる物語。仕事を辞めて京都に乗り込んだ芹が選んだ問題解決方法が、西陣界隈の業界立て直しだったりするあたりがらしいなと苦笑いでしたけど、苦難にもめげず奔走する姿だったり、そんな彼女を支えてくれる存在もいたりで、きちんと向き合って状況をいい方向に変えようとする物語が迎えた結末にはぐっと来るものがありました。

青の誓約 市条高校サッカー部

青の誓約 市条高校サッカー部

 

 稀代の名将と、絶対的エースの貴希に導かれ、全国の舞台に青の軌跡を描いた青森市高校サッカー部。当時の部員たちそれぞれのその後を絡めて描かれる青春群像劇。冒頭でいきなり異世界転生モノ展開になったのには驚きましたが、全体としては貴重な体験を共有した部員たちの複雑で繊細な心境が描かれてゆく連作短編集で、誰とも真摯に向き合って皆に好かれているのに、報われない片想いを続けていた真樹那に希望が見えた結末には救われた気分になりました。それにしても聖夏の話はその後がありそうな雰囲気で、機会があるならまた読んでみたいです。

いまは、空しか見えない

いまは、空しか見えない

 

 抑圧する父親に反発して日帰り旅行を決行したホラー映画好きの優等生・智佳。偶然長距離バスで乗り合わせた同級生のギャル・優亜と出会い、人生が変わってゆく連作短編集。父親に縛られていた智佳、祖母の呪縛を看取った母、辛い過去に苦しめられる優亜、そして彼女の背中を押してくれた翔馬との出会い。外の世界を知って飛び出してもそうそう現実は甘くなくて、それでも多くの人と出会い、過去は断ち切れなくてもきちんと向き合えるようになってゆく結末には心に響くものがありましたね。デビュー作ということで次回作にも期待したい作家さんです。

仕事は2番

仕事は2番

 

 吉丸事務機を舞台に、仕事や職場の人間関係、家庭に悩みを抱える登場人物たちが、悩みながらも次への一歩を踏み出すお仕事連作短編集。総務課の人間関係に向き合い奔走する優紀、職場でも家庭でも居場所がない中年課長・内野、仕事では優秀だが家庭は崩壊した岸、周囲の仕事のやり方に納得いかない沙也、小さい頃から輪になじめず仕事も休職したかおり、引きこもりだった栄太と向き合う幸雄。頑張っているのに上手くいかない彼らの姿にはどこか共感するものがあって、相手を理解しようとした彼らに光明がもたらされる結末はなかなか良かったですね。