読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2018年7月に読んだ新作おすすめ本

 というわけで7月に読んだ新作おすすめ本です。例によってラノベ以外は周回遅れが常態化していますが、今回29点を紹介します。注目としてはガガガ文庫「空飛ぶ卵の右舷砲」メディアワークス文庫の「逆転ホームランの数式」、光文社文庫「帝国の女」、似鳥鶏さんの「名探偵誕生」あたりですかね。今回単行本はわりといい感じのが多かったです。好みもあると思いますし、気になる本があったら是非手にとって読んでみて下さい。

空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫)

空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫)

 

 人造豊穣神の大崩壊で跋扈するようになった異形の怪物により人類が地上から追放された世界。小型ヘリ<静かなる女王号>を操り樹竜を狩るモズと相棒ヤブサメが、その腕を買われ旧都市新宿での大規模探索作戦に参加する近未来ファンタジー。豪快なモズと彼女に振り回されながちなヤブサメのコンビを中心に、立場の違う空団の面々と時にはいがみ合いながらも、強大な敵を相手にギリギリの戦いを繰り広げてゆく中で認め合うようになってゆく熱い展開に、その物語を締めくくる意外なオチもまた効いていました。続編あるようならまた読んでみたいですね。

 来るべき世界危機を救うため真なるアーサー王を決める「アーサー王継承戦」完璧チート高校生・真神凜太朗が、暇つぶしのためあえて最弱と呼ばれる残念少女・瑠奈に協力する現代異能ファンタジー。金のために聖剣を売り払ってしまったり、召喚した「騎士」ケイ卿にコスプレさせて利用する瑠奈。あざとい生徒会長選の票稼ぎやデートさせられたり彼女のわがままに振り回されつつも、垣間見えるその真っ直ぐな想いに王の資質を見出して、曲者ぞろいの強敵を相手に共に戦い絆を育んでいく王道展開は面白かったです。これは今後に期待の新シリーズですね。

 最前線での戦いについていけなくなり、仲間の賢者により勇者のパーティーから追い出されたレッド。心機一転、辺境の地で薬草屋を開業しようとした彼のもとに、突如かつての仲間だった王女・リットが転がり込む辺境スローライフ。元ツンデレで不器用だったリットとはお互いがいい感じに補い合える存在で、そんな二人が初々しくも甘い関係を築いていく展開はなかなか良かったです。しかし調整役を放逐した勇者パーティーは案の定破綻していて、兄成分必須な妹勇者の状況も考えると、再び彼が必要とされそうな今後の展開も気になるところではあります。

陰キャラな俺とイチャつきたいってマジかよ…… (ファンタジア文庫)

陰キャラな俺とイチャつきたいってマジかよ…… (ファンタジア文庫)

 

 特別進路相談部「特進部」に強引に加入させられた典型的陰キャラ九条静紀。学校一の陽キャラ春日陽奈が告白され、丁重に断った静紀が食い下がる彼女に根負けして陰キャ生活を教える青春小説。夢のために邁進する他の部員や図書館で交流を育んできた咲夜の背景に比べると、陽奈が好きになった理由がやや弱いと感じてしまいましたが、ぐいぐい攻めてくる懲りない陽奈に、いちいち違いを言及していたはずの静紀も徐々に感化され、お互いの立ち位置の違いを痛感しながらも、それを乗り越えて二人でバカップルと化してゆく展開はなかなか面白かったです。

隠れオタな彼女と、史上最高のラブコメをさがしませんか? (ファミ通文庫)

隠れオタな彼女と、史上最高のラブコメをさがしませんか? (ファミ通文庫)

 

 燻ったままの過去を解消するため『ゲーム制作部』を立ち上げた結城雪崇。そこに頭脳明晰な生徒会長・倉嶋千愛、綺麗なイラストを描くフェリス、感受性豊かな小説を書く遥が入部し一緒にノベルゲー制作に取り組む青春ラブコメ。才能豊かで魅力的なヒロインたちに振り回されつつ協力して制作を進めたり絆を深める展開で、ままならないお嬢様・千愛の家庭事情に巻き込まれてゆくストーリーはベタではありましたが、千愛のゲーム制作に賭ける思いと仲間たちが持てるものを駆使して彼女のために奔走する姿にはぐっと来るものがありました。続巻も期待。 

クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間 First Step (ファミ通文庫)

クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間 First Step (ファミ通文庫)

 

 無気力な日々を送るフリーター克樹が出会った、首から「拾ってください」と書かれた札を提げ佇む家出少女・麻友。犯罪を危惧した克樹が一週間限定で自宅アパートでの寝泊まりを許可する同棲ラブコメ。家出の経緯を語らない麻友と、面倒だと感じつつも同居をいつの間にか受け入れていく克樹。動き出してから関係が変わるまでの転げ落ちるような展開の早さには驚きましたが、むしろそこからの不器用な克樹の葛藤がポイントで、明らかになってゆく麻友の家庭事情を踏まえどうあるべきか、素直になれない二人の繊細な距離感が良かったです。続巻も期待。

インスタント・メサイアI (オーバーラップノベルス)

インスタント・メサイアI (オーバーラップノベルス)

 

 愛する家族や隣人を魔族に殺されたナイン。村が全滅する中で一人生き延びた彼が、十年の時を経て家族の仇であるはずの魔族の王に配下たることを跪いて乞い願い、密かに復讐の機会を伺うダークファンタジー。歪な笑顔で一部には危険視されながらも、因縁ある魔王クリステラやその妹、そして警戒する配下たちの関心を引きながら少しずつ籠絡し取り込んでいく展開は、一見卑屈で人として無害な存在と思わせつつ、実はかなり壊れていて狂気の愛に溢れるナインの存在感が光っていました。この先にあるのは愛か破滅か、続巻に期待したいシリーズですね。

 

 仕事にのめり込んで家族に愛想を尽かされた元エリート社員の八雲。野球少年の息子と元妻に再び認めてもらうため、野球経験なしの身から初戦敗退の秋上高校野球部の監督に就任し、転落の元エリートと弱小野球部が奇跡を起こす物語。最初は気持ちも分からず最悪だった部員たちとの出会い。そこから彼らと向き合いながら進めていった、データに基づく合理的な練習と意識改革。興味深い練習に八雲や部員たちの葛藤やそれぞれの想いもあったりで、八雲の息子もいる横道学院との練習試合で果たしたひとつの決着にはなかなかぐっと来るものがありました。 

放課後、君は優しい嘘をつく。 (メディアワークス文庫)

放課後、君は優しい嘘をつく。 (メディアワークス文庫)

 

 3年前の飛行機事故により両親を亡くし、足も不自由になったことで引きこもりになった少年・古賀春一。彼を連れ出すべくクラス委員を名乗る同級生の彩楓が通い、彼を支える二人と交流を深めてゆく青春小説。春一を引っ張り出すために週2日は古賀家を訪れ、ツルさん・藤野さんとも馴染んでお茶会をするようになった彩楓と彼女を拒む春一。それでも粘り強く通いながら春一の意識を少しずつ変えていった彼女が抱える秘密。春一が知った事故での真実は彼女との運命を感じさせて、きちんと向き合えた二人を祝福したくなる微笑ましくも素敵な物語でした。

 上京しながらも仕事に挫折して、生まれ育ってきた長崎へ戻ってきた結真。身も心もまだ疲れたままの彼女を心配した母が、『古か物にまつわる問題ば解決してくれる』骨董店・一古堂を紹介し、店主の司と出会う物語。叔母の形見・顔のないマリア観音の問題を解決してくれたことをきっかけに一古堂で働くようになった結真。長崎らしさを随所に描きつついろいろ事件に巻き込まれたりもしましたが、司と協力して解決したりもして、自分を認めてくれる仲間がいて、きちんと居場所があるというのはやはり大きいですよね。続巻あるならまた読んでみたいです。

折紙堂来客帖 折り紙の思ひ出、紐解きます。 (富士見L文庫)

折紙堂来客帖 折り紙の思ひ出、紐解きます。 (富士見L文庫)

 

 祖父と2人暮らしの高校生・漱也はあやかしの世との狭間「茜辺原」に迷い込んで青い瞳の少女・蒼生と出会い、彼女が店主としてあやかしと人の問題を解決する「折紙堂」で働き始める現代和風ファンタジー。先生が恩を感じる女性、入院していた少女に折紙を教えてくれた女性、おばあちゃんが持っていた鍵、そして迎えに来た漱也の母親の想い。お人好しな漱也が知人のために蒼生の力も借りて、折紙絡みの謎を解いていく展開はなかなか良かったですね。少しずつ漱也の過去も明らかになりましたが、蒼生はまだ謎も多くて続巻あるなら読んでみたいです。 

死神医師 (講談社タイガ)

死神医師 (講談社タイガ)

 

 一年前に恋人の成海麻里を謎の自殺で失い、死神に魂を売ってしまった「神の手」を持つ心臓外科医の桐尾。安楽死を秘密裏に扱う医師の存在が噂されて、警視庁捜査一課の刑事で麻里の妹・沙耶は「死神医師」の正体が桐尾ではないかと不審を抱きはじめる医療ミステリ。麻里の死の原因となった仕組まれた事件の関係者に近づき次々と追い詰めてゆく桐尾と、その過程で明らかになってゆく事件の真相とひとつの決着。物語の構図としては分かりやすかったですが、少しばかり展開が拙速でしたかね。黒幕がこれからどうするのか、ちょっと気になる結末でした。

猫河原家の人びと: 一家全員、名探偵 (新潮文庫nex)

猫河原家の人びと: 一家全員、名探偵 (新潮文庫nex)

 

 家族全員、殺人事件をめぐって夕食前に迷推理を披露する謎と事件好きの猫河原家。「推理せざる者、食うべからず」の家訓にげんなりで末っ子・友紀が事件を解決するミステリ。事件に遭遇すると嬉々として迷推理を始める両親兄弟たち。そんな家を出るべくバイトを始める友紀。けれど彼女がいつの間にか事件に巻き込まれるのは相変わらずで、まともな推理が出てくるのは家族の中で友紀だけとかなったら、それはもう逃れられないのも仕方ないですよね。嫌な家族だけど愛されてるのは分かるだけに、まあ大変だけど頑張ってねと思ってしまいました(苦笑)

死神憑きの浮世堂 (小学館文庫キャラブン!)

死神憑きの浮世堂 (小学館文庫キャラブン!)

 

 死神に殺された幼い弟を忘れられずにいる人形修理工房「浮世堂」を営む城戸利市。ある日、死神が顔見知りの少女を襲う現場に遭遇したことで、再び運命が動き出す物語。周囲が理不尽に死んだ弟の存在を忘れてゆく中でただ一人覚えていた利市。彼が運命に導かれたように大正時代に殺人を犯した華族のお嬢様や、死後に望まぬ形で生き返った死神の一族の少女との出会い。彼女たちが抱える過去も明らかになっていって、複雑な絡み合う状況にどう決着をつけるべきか、最後まで葛藤し続けた利市が迎えたいかにも彼らしい結末には救われるものがありました。

海と月の喫茶店 (小学館文庫キャラブン!)

海と月の喫茶店 (小学館文庫キャラブン!)

 

 祖母の死を機に田舎から街に引っ越して、父親と弟との三人暮らしを始めた女子高生の香月。しかし学校でも家でもうまく行かず居場所を見つけられない彼女が、偶然隣の席の男の子・立海がケーキ好きなことを知り、ケーキ作りを教えてもらう青春小説。不器用だけど周囲に頼りたくない。そんな頑固な香月が祖母のデザートに挑戦するも挫折する日々。上手くいかない状況続きで、手を差し伸べてくれる周囲を拒絶する彼女の頑なさにはやや頑固過ぎるかなあと苦笑いでしたけど、少しずつでも変わっていける兆しが見えてきた結末にはちょっとほっとしました。

 

帝国の女 (光文社文庫 み 35-3)

帝国の女 (光文社文庫 み 35-3)

 

 世間の認識とは裏腹に華やかさから程遠い、帝国テレビジョンで働く女たちの日々。好きな仕事だけれどままならないことばかりの五人の女性たちが描かれる連作短編集。過労寸前まで奮闘する宣伝部・松国、仕事以外はまるでダメなプロデューサー・脇坂、年下の夫との倦怠に沈む脚本家・大島、訳ありマネージャー・片倉、憧れの人と出会う日を夢見るテレビ誌記者・山浦。それぞれの仕事に取り組む真摯な姿と、一方でプライベートは思うようにいかない苦悩はとても印象的で、ページ数以上に濃密なストーリーと彼女たちの切なる叫びが心に響く物語でした。

 ミドリムシの変異体・エルグレナが生態環境を支配し、海面上昇により地表の大半を水に覆われた25世紀の地球。その調査に宇宙コロニーからやってきた研究者ケンガセンが、島嶼部で暮らす巫女ヨルと出逢う近未来SF。彼女と出会い数奇な運命に巻き込まれてゆくケンガセン。SF的な設定や立ち位置でガラリと変わる倫理観や考え方なども興味深かったですが、研究バカだった彼が価値観の違いに戸惑いながら交渉したり政治に振り回されたりしながら、人類が迎える新たな局面と、そんな中で育まれてきた二人の絆を感じる結末はなかなか良かったですね。

 優秀な管制官だった叔母の真紀子に憧れ、日夜奮闘する新米航空管制官の藤宮つばさ。同期の情報官・戸神大地とともに、空港で発生する様々なトラブルや謎を解決していくお仕事ミステリ。鳥が原因のエンジントラブルや、不定期に鳴り響く発信源不明の遭難信号、外国要人専用機の離陸失敗事故など、トラブルに巻き込まれるつばさを少し変わった同期の大地や職場の同僚・上司の協力で解決してゆく展開で、お仕事小説としてもなかなか興味深かったですが、探していた叔母の「管制官に一番必要なもの」を見出してゆく結末にもぐっと来るものがありました。

時間遡行で学生時代に戻った僕は、妻の恋を成就させたい (宝島社文庫)

時間遡行で学生時代に戻った僕は、妻の恋を成就させたい (宝島社文庫)

 

 複雑な事情で上手くいかなくなった妻から離婚を提示された綾人。放心状態で交通事故に遭った彼が、突然10年前の大学時代からやり直す機会を得る青春小説。妻・帆乃里の幸せを願う綾人が親友・駿稀との恋を成就させるべく奔走し、複雑な想いを知って協力する彼女の友人・美妃。不器用で真摯な綾人がやり直す過程で改めて気づいたことの積み重ねが、以前は思いもよらなかったもう一つの構図を徐々に浮かび上がらせていって、始まりからすれば何とも皮肉な結末でしたけど、やり直した末の結果として考えるとこれは必然だったのかもしれないですね。 

綺羅の皇女(1) (講談社文庫)

綺羅の皇女(1) (講談社文庫)

 

 真秀皇国の皇帝・凰輝の従姉ながら両親の愛を知らずに修道尼院で育った皇女・咲耶。密かに皇帝しか見るはずのない予知夢を見る彼女が、隣国に嫁ぐため渡海する和風ファンタジー。距離を感じる両親に複雑な立ち位置の境遇で決まった隣国への結婚。嫁いだ先でも複雑な境遇の中で予知夢として見る故国の危機。和風っぽいテイストの中でいくつかやや違和感を感じる部分もありましたが、何とか故国の危機を回避すべく奔走する想いは真摯で、複雑な立ち位置の理由が明らかになったことでこれからどう生きていくのか、読ませるものはあるだけに今後に期待。

 

名探偵誕生

名探偵誕生

 

 小学生の頃から様々な冒険をしていたみーくんに不穏の影が差した時、いつも助けてくれた名探偵のお姉ちゃん。そんな千歳お姉ちゃんとの初恋とみーくんの成長を描くミステリ青春小説。ずっとみーくんに寄り添い見守ってくれていた千歳お姉ちゃんへの想いは募ってゆくのに、なかなか姉妹のような関係から抜け出せないもどかしさについ共感してしまいましたが、次々と事件を解決してきた生粋の探偵である彼女を救うため、ほろ苦い複雑な想いを乗り越えて自ら立ち上がるみーくんがとても格好良かったです。どこでまた彼らのその後を読めるといいですね。

「はじめまして」を3000回

「はじめまして」を3000回

 

 プログラミングに没頭する高校生・北原恭介。夢に見た予知が外れると不幸が訪れるという人気者の同級生・佑那から告白をされ、そんな彼女に振り回されるようになってゆく青春小説。印象的な出会いから「私と付き合わないとずばり死んじゃう」と告げて、予知夢だという内容を恭介と二人で再現してゆく佑那。最初懐疑だった恭介の想いが徐々に変化する中で直面する急展開と、明かされてゆく彼女の秘密と覚悟は切なくて、彼女の想いを噛みしめるようなタイトルでしたが、諦めなかった恭介がもたらした一つの結末に著者さんらしさがよく出ていました。 

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

 

 九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が発生し、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びつつ事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いましたね。そんな彼らの今後をまた読んでみたいです。

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

 

 「演劇を扱った中編。登場人物は三、四人程度」「回想、場面変更、一行アキ一切なしのワンシチュエーション・ミステリ。登場人物は三人で」「会話文のみで書かれた作品」「三人の女性たちによる独白リレー」など編集者の繰り出す無茶ぶりに著者が苦しみながら書き上げた連作短編集。わりと難しい設定で果たしてどうなのかと思いましたけど、それでもシチュエーションの遵守だけで終わらずに、きちんとそれぞれに捻りが効いた工夫が盛り込まれていてなかなか楽しめました。巻末のあとがきにあった楽しそうな編集者と挑んだ作者の本音も良かったです。

星空の16進数

星空の16進数

 

 高校を中退しウェブデザイナーとして働く17歳の藍葉。ある日、謝罪の100万円を渡すよう依頼された私立探偵・みどりが現れ、心当たりが6歳の頃の誘拐事件しかない藍葉がみどりに当時の誘拐犯・朱里の捜索を依頼する青春ミステリ。仕事で燻っていた状況からの転機に直面する藍葉、そしてみどりが追う朱里の行方とその過去。みどりにはみどりの事情があって、過去を追う過程で明らかになる事件の真相には複雑な気持ちでしたが、一方でもたらされた変化は今の藍葉に繋がっていて、色を通じて語られる繊細な藍葉の心境の変化がとても印象的でした。

鵜頭川村事件

鵜頭川村事件

 

 一九七九年夏。亡き妻・節子の田舎である鵜頭川村へ、三年ぶりに墓参りにやってきた岩森明と娘の愛子。突如、山間の村は豪雨に見舞われ閉じ込められる中で一人の若者の死体が発見され、閉塞した状況で蓄積していた鬱屈が狂気に繋がってゆく物語。村の有力者・矢萩家への鬱屈した想いと、外部と遮断された状況でうやむやにされた犯人探し。大人たちに不信を隠せない若者たちに対する扇動が暴走に繋がってゆくまでの描写には、追い詰められた人の危うさが生々しく描かれていて、ギリギリの状況で何とか娘を守ろうと奔走する岩森がとても印象的でした。

17×63 鷹代航は覚えている

17×63 鷹代航は覚えている

 

 反目しあっているごく平凡な高校生・鷹代航と、運悪く会社をリストラされた祖父の章吾。ある夜、自転車置き場で倒れている章吾を偶然航が発見し、大きな衝撃を受けた航と章吾の身体が入れ替わってしまう物語。俗に言う入れ替わりモノで、おせっかいな気質で航の身体でぐいぐい行く章吾の言動がついつい気になってしまう、祖父の身体でままならない航。世代のギャップに戸惑いつつ学校絡みの謎解きや犯人探しに挑んでいく展開で、ままならないドタバタぶりや痛い本音に直面したり、そんな経験を経た二人のその後がとてもいい感じに思えた物語でした。

愛と勇気を、分けてくれないか

愛と勇気を、分けてくれないか

 

 80年代後半、広島市民球場やデビューしたばかりのユニコーンが確かに息づいていたあの日。親が転勤族で広島にやってきた転校生・桃郎が美少女・小麦に一目惚れし、その憧れの人・由木野と出会う青春小説。地元愛に溢れる小麦に振り回されるようになってゆく桃郎が直面する、ままならならない片想いや、愛する街に対する熱くて複雑な想い、そして突然の暗転と思ってもみなかった終焉。今とはまた違う当時の雰囲気がよく出ていて、そんな切ない思い出が紆余曲折を経て今に繋がっているその結末には、いろいろ思い出したり感じるところがありました。

司書のお仕事―お探しの本は何ですか? (ライブラリーぶっくす)

司書のお仕事―お探しの本は何ですか? (ライブラリーぶっくす)

 

 味岡市立図書館に新人司書として採用された稲嶺双葉を主人公に、蔵書目録の作成や本の受け入れ作業、イベント企画と言った司書の仕事とその成長を描くお仕事小説。認定司書さんを監修に正職員と委託職員との関係や、ネット全盛時代の変わりつつあるレファンレンスだったり、イベントの企画立案や高校の学校図書館との現実的な連携だったり、今の司書さんの仕事が昔と比べてどのように変わってきているのか、またどんなことに意識を向けているのか、主人公の立ち位置をうまく使って分かりやすく小説仕立てで説明してくれていると感じた一冊でした。 

 

7月に読んだ本 #読書メーターより

7月は忙しいなりにそれなりに読書時間を確保できて、冊数もそこそこ読めました。今月読んだもののうちシリーズものでは次巻で完結の「やがて恋するヴィヴィ・レイン」や、「リア充にもオタクにもなれない俺の青春」の2巻目、「おいしいベランダ。」「ゆきうさぎのお品書き」「ケーキ王子の名推理」あたりの続巻も良かったですね。容量の問題で今回もコミックを除いたリストになりますが、新作については別途オススメで。

 

7月の読書メーター
読んだ本の数:97冊
読んだページ数:25768
ナイス数:5299

長崎・眼鏡橋の骨董店 店主は古き物たちの声を聞く (集英社オレンジ文庫)長崎・眼鏡橋の骨董店 店主は古き物たちの声を聞く (集英社オレンジ文庫)感想
上京しながらも仕事に挫折して、生まれ育ってきた長崎へ戻ってきた結真。身も心もまだ疲れたままの彼女を心配した母が、『古か物にまつわる問題ば解決してくれる』骨董店・一古堂を紹介し、店主の司と出会う物語。叔母の形見・顔のないマリア観音の問題を解決してくれたことをきっかけに一古堂で働くようになった結真。長崎らしさを随所に描きつついろいろ事件に巻き込まれたりもしましたが、司と協力して解決したりもして、自分を認めてくれる仲間がいて、きちんと居場所があるというのはやはり大きいですよね。続巻あるならまた読んでみたいです。
読了日:07月31日 著者:日高 砂羽
あんたなんかと付き合えるわけないじゃん! ムリ! ムリ! 大好き!  3 (HJ文庫)あんたなんかと付き合えるわけないじゃん! ムリ! ムリ! 大好き! 3 (HJ文庫)感想
自分の意志を貫き通そうとした結果、改めて周りの人たちの優しさや、小春を傷つけていた事実に気がついた悟郎。立ちはだかる現実に苦悩する悟郎に対し小春が提案をする第三弾。覚悟を決めた二人が小春の言葉をきっかけに一緒にやりたいことを精一杯満喫していく日々。そんな彼らのことを受け入れていろいろ協力したり助けれてくれた仲間たち。そんな優しさに支えられながら、お互いのために最善を尽くそうと一途に想い合う二人の結末は何とも切なくて、かなり遠回りこそしましたがきちんと向き合うまでの重みがひしひしと伝わってきた物語でした。 
読了日:07月31日 著者:内堀優一
魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい? 6 (HJ文庫)魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい? 6 (HJ文庫)感想
フォルの強くなりたいという願いで一時的に成長ができる魔術を使用したザガンたち。しかし儀式の暴走でフォルは大きくザガンが小さくなってしまい、 オリアスの助言で大陸種族長老会議に出席する第六弾。小さくなったサガンを愛でるネフィの満更でもない感には苦笑いでしたが、セルフィや黒花の出自や繋がりも明らかになって、今後のポイントになりそうな夜の一族の一人アルシエラの意味深な話もあったりで、子供姿で難局に直面したサガンでしたけど、今は一緒に立ち向かってくれる仲間がいるんですよね。次のデートに燃える二人の今後にも期待。 
読了日:07月30日 著者:手島史詞
星空の16進数星空の16進数感想
高校を中退しウェブデザイナーとして働く17歳の藍葉。ある日、謝罪の100万円を渡すよう依頼された私立探偵・みどりが現れ、心当たりが6歳の頃の誘拐事件しかない藍葉がみどりに当時の誘拐犯・朱里の捜索を依頼する青春ミステリ。仕事で燻っていた状況からの転機に直面する藍葉、そしてみどりが追う朱里の行方とその過去。みどりにはみどりの事情があって、過去を追う過程で明らかになる事件の真相には複雑な気持ちでしたが、一方でもたらされた変化は今の藍葉に繋がっていて、色を通じて語られる繊細な藍葉の心境の変化がとても印象的でした。
読了日:07月30日 著者:逸木 裕
後宮天后物語 ~新たな妃にご用心!?~ (ビーズログ文庫)後宮天后物語 ~新たな妃にご用心!?~ (ビーズログ文庫)感想
帝位を簒奪した志紅の目的を探るべく、後宮脱出計画中の雛花に突如告げられた同衾宣言。志紅が新たに迎える四妃の中の一人に、魔物が擬態していることを知らされる第二弾。ようやく平均年齢が下がった後宮のドタバタぶりに苦笑いしつつ、志紅は相変わらず秘密主義で雛花も自身を大切にしないし、二人とも拗らせ過ぎててあれでしたが、今回でようやく志紅も雛花も一歩前進できたんですかね…とはいえ二人を取り巻く状況は依然として厳しいままで、難局を打開するにはお互いの協力が不可欠でしょうけど、こんなちぐはぐで大丈夫なんでしょうか(苦笑)
読了日:07月29日 著者:夕鷺 かのう
ラノベのデザインラノベのデザイン感想
70作品以上のライトノベルライト文芸作品の事例を掲載し、出版社・レーベルの垣根を越えたライトノベルのカバーデザインを紹介した一冊。作品を「Cute」「POP」「Stylish」「Natural」「Mysterious」に大別し、実際に携わったデザイナーによるアンケートをもとにイラストを活かしてどんなイメージでデザインしたのか、ポイントを押さえたコンセプトの解説はとてもわかりやすくて良かったです。ラノベはイラストに目が向きがちですが、普段あまり意識することのないデザイナーの仕事がとても興味深く読めますね。
読了日:07月29日 著者: 
後宮香妃物語 偽りの花嫁と秘めたる心 (角川ビーンズ文庫)後宮香妃物語 偽りの花嫁と秘めたる心 (角川ビーンズ文庫)感想
湖蘭国にしかない秘宝香の材料入手のため、かの国を訪れる神瑞国皇太子・煌翔に同行した凛莉。しかし彼女の作る香に執着する湖蘭国の皇帝・亜廉が皇太子・聖雷の妻になることを提案する第二弾。鉱山に関する条約締結もあり難しい状況に置かれる中で攫われ、結婚を強要されそうになる凛莉。初恋の人を巡って真相を伝えない煌翔も遠慮してしまう凛莉ももどかしくて、我嵐は我嵐で自らの抱える想いに苦しんでいて、執着する亜廉を香を使って見事翻意させたところは良かったですけど、帰国したら後宮は混乱した挙げ句…次巻は波乱不可避ですね、これ…。
読了日:07月28日 著者:伊藤 たつき
【Amazon.co.jp限定】とりかえ花嫁の冥婚 偽りの公主(特典: オリジナルショートストーリー データ配信) (講談社X文庫)【Amazon.co.jp限定】とりかえ花嫁の冥婚 偽りの公主(特典: オリジナルショートストーリー データ配信) (講談社X文庫)感想
商家の娘・汪黎禾は弟が作った借金を返すため、藩王武州王の息子と「冥婚」することに。その道中に意に反して小間使いの橙莉と入れ替わり、襲われた先で皇太子・隆翔に助けられ行方不明だった妹公主と間違われてしまう中華ファンタジー。男嫌いの気の強い黎禾と女性が信用できない隆翔の二人が、始めて出会えた信じられる人としていい関係を築きつつも、公主でないことを隠していることに葛藤する展開で、反乱に巻き込まれた混乱の中でヒロインたちが見せた強い意志がとても印象的でした。もうひとりのヒロイン・橙莉の物語にも期待しています。 
読了日:07月28日 著者:貴嶋 啓,すがはら 竜
ケーキ王子の名推理3ケーキ王子の名推理3感想
沖縄への修学旅行。ケーキ大好き女子高生・未羽はビーチで関西の高校生パティシエ大広と知り合い、その積極的なお誘いに押されデートを約束。どこか不機嫌な颯人からはコンクールのアシスタントを依頼される第三弾。相変わらずケーキバカな二人ですけど、二回目の未羽家訪問にテンション上がる家族たちとか、いろんな意味での強力なライバル出現とか、これまで積み上げてきたものがきっかけを得てまさかの展開に繋がっていって、コンクールでの勝負もぐっと来るものがありましたね。今回はキュンキュンを存分に堪能させてもらいました。続巻も期待。
読了日:07月27日 著者:七月 隆文
廻る学園と、先輩と僕 Simple Life2 (ファミ通文庫)廻る学園と、先輩と僕 Simple Life2 (ファミ通文庫)感想
那智の停学明け。晴れて恋人同士になった片瀬先輩と放課後デートしたり、屋上で過ごすようになるなか、三年生の風紀委員・飛鳥井明日香から千秋に興味があると告げられる第二弾。晴れて両想いになったのに周囲には公言できなくて、むしろそんな状況で無自覚に女の子たちとの絡みが増えてゆく素直な那智には戦慄しますが、そんな彼にやきもきしたり妄想したりぐいぐい攻めたり、学園一の美少女がポンコツな一面を晒してゆく展開についニヤニヤしてしまいました。一夜とか円先輩もそうですけど、ほんといろんな人に愛されてますね那智は。続巻も期待。
読了日:07月27日 著者:九曜
クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間 First Step (ファミ通文庫)クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間 First Step (ファミ通文庫)感想
無気力な日々を送るフリーター克樹が出会った、首から「拾ってください」と書かれた札を提げ佇む家出少女・麻友。犯罪を危惧した克樹が一週間限定で自宅アパートでの寝泊まりを許可する同棲ラブコメ。家出の経緯を語らない麻友と、面倒だと感じつつも同居をいつの間にか受け入れていく克樹。動き出してから関係が変わるまでの転げ落ちるような展開の早さには驚きましたが、むしろそこからの不器用な克樹の葛藤がポイントで、明らかになってゆく麻友の家庭事情を踏まえどうあるべきか、素直になれない二人の繊細な距離感が良かったです。続巻も期待。
読了日:07月26日 著者:桐刻
隠れオタな彼女と、史上最高のラブコメをさがしませんか? (ファミ通文庫)隠れオタな彼女と、史上最高のラブコメをさがしませんか? (ファミ通文庫)感想
燻ったままの過去を解消するため『ゲーム制作部』を立ち上げた結城雪崇。そこに頭脳明晰な生徒会長・倉嶋千愛、綺麗なイラストを描くフェリス、感受性豊かな小説を書く遥が入部し一緒にノベルゲー制作に取り組む青春ラブコメ。才能豊かで魅力的なヒロインたちに振り回されつつ協力して制作を進めたり絆を深める展開で、ままならないお嬢様・千愛の家庭事情に巻き込まれてゆくストーリーはベタではありましたが、千愛のゲーム制作に賭ける思いと仲間たちが持てるものを駆使して彼女のために奔走する姿にはぐっと来るものがありました。続巻も期待。 
読了日:07月26日 著者:朱月十話
小説 雲のむこう、約束の場所 (角川文庫)小説 雲のむこう、約束の場所 (角川文庫)感想
共産国家群ユニオンがエゾを支配下に置くもうひとつの戦後世界。津軽半島に住む中3の藤沢浩紀と白川拓也は対岸の塔に憧れ一緒に飛行機を作るようになり、サユリと出会う青春小説。二人の関係にいつの間にか入り込んできたサユリの突然の転校。喪失感を抱えたまま東京の高校に進学する浩紀と、外部研究員として参加し塔の研究に関わる拓也。すれ違ってからお互い複雑な想いを隠せない二人が、道を違えても忘れなかったサユリを救うために、再び協力して奔走する展開にはぐっと来ましたが、だからこそそんな彼らが迎えた結末は少しばかり意外でした。
読了日:07月26日 著者:加納 新太
逆転ホームランの数式 転落の元エリートと弱小野球部が起こす奇跡 (メディアワークス文庫)逆転ホームランの数式 転落の元エリートと弱小野球部が起こす奇跡 (メディアワークス文庫)感想
仕事にのめり込んで家族に愛想を尽かされた元エリート社員の八雲。野球少年の息子と元妻に再び認めてもらうため、野球経験なしの身から初戦敗退の秋上高校野球部の監督に就任し、転落の元エリートと弱小野球部が奇跡を起こす物語。最初は気持ちも分からず最悪だった部員たちとの出会い。そこから彼らと向き合いながら進めていった、データに基づく合理的な練習と意識改革。興味深い練習に八雲や部員たちの葛藤やそれぞれの想いもあったりで、八雲の息子もいる横道学院との練習試合で果たしたひとつの決着にはなかなかぐっと来るものがありました。 
読了日:07月26日 著者:つるみ 犬丸
放課後、君は優しい嘘をつく。 (メディアワークス文庫)放課後、君は優しい嘘をつく。 (メディアワークス文庫)感想
3年前の飛行機事故により両親を亡くし、足も不自由になったことで引きこもりになった少年・古賀春一。彼を連れ出すべくクラス委員を名乗る同級生の彩楓が通い、彼を支える二人と交流を深めてゆく青春小説。春一を引っ張り出すために週2日は古賀家を訪れ、ツルさん・藤野さんとも馴染んでお茶会をするようになった彩楓と彼女を拒む春一。それでも粘り強く通いながら春一の意識を少しずつ変えていった彼女が抱える秘密。春一が知った事故での真実は彼女との運命を感じさせて、きちんと向き合えた二人を祝福したくなる微笑ましくも素敵な物語でした。
読了日:07月25日 著者:雨野 マサキ
レッドスワンの星冠 赤羽高校サッカー部 (メディアワークス文庫)レッドスワンの星冠 赤羽高校サッカー部 (メディアワークス文庫)感想
冬の全国選手権への出場が叶えばチームは存続、予選で敗退すれば廃部となることが決まった赤羽高校サッカー部。二強相手に存続を賭けた準決勝・決勝に挑む第二弾。世怜奈から準決勝・偕成学園戦の采配を任された優雅と運命の決勝・美波高戦。後のない状態で任せる監督も凄いですが、大胆な采配を見せた優雅に対して決勝は弱者が相手を研究し尽くして奇策で勝った印象ですかね。それにしても復活なるか気になる優雅がモテモテ過ぎてあれですが、次へ繋がるエピローグで突然挿入される楓のエピソード(苦笑)葉月もらしい話でブレないなと思いました。
読了日:07月25日 著者:綾崎 隼
スーパーカブ3 (角川スニーカー文庫)スーパーカブ3 (角川スニーカー文庫)感想
高校3年生に進級した小熊たち。椎の妹も入学する一方で進路を意識しないといけなくなった小熊が、進学を機にカブのある生活を続けるべきかどうか、選択を迫られる第三弾。新たな友人もできる中で礼子と挑むカブでの富士山登山。進学先の大学寮でバイクが禁止という現実と、迷う小熊の心を折りに来るかのような故障の数々。でも生活に根ざしてしまったもの、当たり前にあるものはそうそう変えられないですよね(苦笑)いやほんと今どき珍しいJKたちだなとも思いましたけど、世界も広がり着実に成長してゆく小熊たちの青春はなかなか良かったです。
読了日:07月24日 著者:トネ・コーケン
猫河原家の人びと: 一家全員、名探偵 (新潮文庫 あ 80-4)猫河原家の人びと: 一家全員、名探偵 (新潮文庫 あ 80-4)感想
家族全員、殺人事件をめぐって夕食前に迷推理を披露する謎と事件好きの猫河原家。「推理せざる者、食うべからず」の家訓にげんなりで末っ子・友紀が事件を解決するミステリ。事件に遭遇すると嬉々として迷推理を始める両親兄弟たち。そんな家を出るべくバイトを始める友紀。けれど彼女がいつの間にか事件に巻き込まれるのは相変わらずで、まともな推理が出てくるのは家族の中で友紀だけとかなったら、それはもう逃れられないのも仕方ないですよね。嫌な家族だけど愛されてるのは分かるだけに、まあ大変だけど頑張ってねと思ってしまいました(苦笑)
読了日:07月24日 著者:青柳 碧人
世界は恋に落ちている (角川ビーンズ文庫)世界は恋に落ちている (角川ビーンズ文庫)感想
吹奏楽部の仲間でクラスメイトの要に片想い中の岬。告白なんてできずに親友のつぼみがよき相談相手。けれどつぼみも要への想いに気づき複雑な関係になってゆく青春小説。男の子が苦手で唯一仲のいい要が気になる岬と、人気者だけれど恋を自覚したことがなかったつぼみ、男女ともにモテるけれどどこか掴みどころのない要。同じ部活の仲良し三人組に生じた勇気を出せない臆病さと恋と友情に複雑に揺れる想い、それでもどんどん強くなってゆく想いを真っ直ぐにぶつけていく甘酸っぱい王道展開で、三人が迎える結末もまたぐっと来るものがありました。 
読了日:07月23日 著者:香坂茉里
なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか?4 神罰の獣 (MF文庫J)なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか?4 神罰の獣 (MF文庫J)感想
六元鏡光との共闘で切除器官を撃破して、世界輪廻を招いた元凶は幻獣族のラースイーエに絞られ、ジャンヌたちは連合軍で幻獣族の支配するシュルツ連邦への進出を決意する第四弾。カイたちが関わったことで多種族との連携も出てきて、最後に幻獣族ラースイーエとの対決という形になったのかと思いきや、ラースイーエによって語る世界の秘密と新展開がもたらされたことで、3人のシドと預言神の存在も絡めてこの世界の構図もまた大きく変わりそうですね。それぞれ持ち味が違うヒロインたちとカイの絡みもいいアクセントになっていて続巻に期待です。 
読了日:07月23日 著者:細音 啓
綺羅の皇女(1) (講談社文庫)綺羅の皇女(1) (講談社文庫)感想
真秀皇国の皇帝・凰輝の従姉ながら両親の愛を知らずに修道尼院で育った皇女・咲耶。密かに皇帝しか見るはずのない予知夢を見る彼女が、隣国に嫁ぐため渡海する和風ファンタジー。距離を感じる両親に複雑な立ち位置の境遇で決まった隣国への結婚。嫁いだ先でも複雑な境遇の中で予知夢として見る故国の危機。和風っぽいテイストの中でいくつかやや違和感を感じる部分もありましたが、何とか故国の危機を回避すべく奔走する想いは真摯で、複雑な立ち位置の理由が明らかになったことでこれからどう生きていくのか、読ませるものはあるだけに今後に期待。
読了日:07月22日 著者:宮乃崎 桜子
「はじめまして」を3000回「はじめまして」を3000回感想
プログラミングに没頭する高校生・北原恭介。夢に見た予知が外れると不幸が訪れるという人気者の同級生・佑那から告白をされ、そんな彼女に振り回されるようになってゆく青春小説。印象的な出会いから「私と付き合わないとずばり死んじゃう」と告げて、予知夢だという内容を恭介と二人で再現してゆく佑那。最初懐疑だった恭介の想いが徐々に変化する中で直面する急展開と、明かされてゆく彼女の秘密と覚悟は切なくて、彼女の想いを噛みしめるようなタイトルでしたが、諦めなかった恭介がもたらした一つの結末に著者さんらしさがよく出ていました。 
読了日:07月21日 著者:喜多 喜久
陰キャラな俺とイチャつきたいってマジかよ…… (ファンタジア文庫)陰キャラな俺とイチャつきたいってマジかよ…… (ファンタジア文庫)感想
特別進路相談部「特進部」に強引に加入させられた典型的陰キャラ九条静紀。学校一の陽キャラ春日陽奈が告白され、丁重に断った静紀が食い下がる彼女に根負けして陰キャ生活を教える青春小説。夢のために邁進する他の部員や図書館で交流を育んできた咲夜の背景に比べると、陽奈が好きになった理由がやや弱いと感じてしまいましたが、ぐいぐい攻めてくる懲りない陽奈に、いちいち違いを言及していたはずの静紀も徐々に感化され、お互いの立ち位置の違いを痛感しながらも、それを乗り越えて二人でバカップルと化してゆく展開はなかなか面白かったです。
読了日:07月21日 著者:佐倉 唄
ラストラウンド・アーサーズ クズアーサーと外道マーリン (ファンタジア文庫)ラストラウンド・アーサーズ クズアーサーと外道マーリン (ファンタジア文庫)感想
来るべき世界危機を救うため真なるアーサー王を決める「アーサー王継承戦」完璧チート高校生・真神凜太朗が、暇つぶしのためあえて最弱と呼ばれる残念少女・瑠奈に協力する現代異能ファンタジー。金のために聖剣を売り払ってしまったり、召喚した「騎士」ケイ卿にコスプレさせて利用する瑠奈。あざとい生徒会長選の票稼ぎやデートさせられたり彼女のわがままに振り回されつつも、垣間見えるその真っ直ぐな想いに王の資質を見出して、曲者ぞろいの強敵を相手に共に戦い絆を育んでいく王道展開は面白かったです。これは今後に期待の新シリーズですね。
読了日:07月20日 著者:羊太郎
ロクでなし魔術講師と禁忌教典12 (ファンタジア文庫)ロクでなし魔術講師と禁忌教典12 (ファンタジア文庫)感想
学院の前学期休み。セリカの強引な誘いによって白猫たちも連れて極寒のスノリア地方へ旅行することになったグレン。銀竜祭へ参加する彼らの前にセリカの過去と因縁が立ちはだかる第十二弾。最初はイヴ再登場に危機感を募らせるルミアたちでしたけど、いろんな意味でインパクトが強過ぎて他のヒロインたちを圧倒するセリカのラスボス的存在感は脅威ですよね…特に白猫はもっと自覚持って頑張れw 物語の核心に絡んでいそうなセリカの過去もそうですが、それを踏まえて物語がこれからどんな方向に向かうのか、少しばかり気になったエピソードでした。
読了日:07月20日 著者:羊太郎
折紙堂来客帖 折り紙の思ひ出、紐解きます。 (富士見L文庫)折紙堂来客帖 折り紙の思ひ出、紐解きます。 (富士見L文庫)感想
祖父と2人暮らしの高校生・漱也はあやかしの世との狭間「茜辺原」に迷い込んで青い瞳の少女・蒼生と出会い、彼女が店主としてあやかしと人の問題を解決する「折紙堂」で働き始める現代和風ファンタジー。先生が恩を感じる女性、入院していた少女に折紙を教えてくれた女性、おばあちゃんが持っていた鍵、そして迎えに来た漱也の母親の想い。お人好しな漱也が知人のために蒼生の力も借りて、折紙絡みの謎を解いていく展開はなかなか良かったですね。少しずつ漱也の過去も明らかになりましたが、蒼生はまだ謎も多くて続巻あるなら読んでみたいです。 
読了日:07月19日 著者:路生 よる
ふたえ (祥伝社文庫)ふたえ (祥伝社文庫)感想
超問題児の転校生・手代木麗華と修学旅行の班を結成することになった、友達のいないドン臭い「ノロ子」とにかく地味な「ジミー」将棋命の「劣化版」影の薄い「美白」不気味な「タロットオタク」の五人。彼らの一生忘れられない修学旅行を描く青春ミステリ。ぼっちだった彼らの大切なもの、譲れないもの。修学旅行をきっかけに動き出すそれぞれの視点で語られるエピソードには少しばかり違和感もあって、積み重ねられてゆく複雑な想いは登場人物たちの印象を少しずつ変えていって、そんな顛末の先にあった何ともほろ苦い結末は強く印象に残りました。
読了日:07月19日 著者:白河三兎
鵜頭川村事件鵜頭川村事件感想
一九七九年夏。亡き妻・節子の田舎である鵜頭川村へ、三年ぶりに墓参りにやってきた岩森明と娘の愛子。突如、山間の村は豪雨に見舞われ閉じ込められる中で一人の若者の死体が発見され、閉塞した状況で蓄積していた鬱屈が狂気に繋がってゆく物語。村の有力者・矢萩家への鬱屈した想いと、外部と遮断された状況でうやむやにされた犯人探し。大人たちに不信を隠せない若者たちに対する扇動が暴走に繋がってゆくまでの描写には、追い詰められた人の危うさが生々しく描かれていて、ギリギリの状況で何とか娘を守ろうと奔走する岩森がとても印象的でした。
読了日:07月18日 著者:櫛木 理宇
空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫 き)空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫 き)感想
人造豊穣神の大崩壊で跋扈するようになった異形の怪物により人類が地上から追放された世界。小型ヘリ<静かなる女王号>を操り樹竜を狩るモズと相棒ヤブサメが、その腕を買われ旧都市新宿での大規模探索作戦に参加する近未来ファンタジー。豪快なモズと彼女に振り回されながちなヤブサメのコンビを中心に、立場の違う空団の面々と時にはいがみ合いながらも、強大な敵を相手にギリギリの戦いを繰り広げてゆく中で認め合うようになってゆく熱い展開に、その物語を締めくくる意外なオチもまた効いていました。続編あるようならまた読んでみたいですね。
読了日:07月18日 著者:喜多川 信
妹さえいればいい。 10 (10) (ガガガ文庫 (10))妹さえいればいい。 10 (10) (ガガガ文庫 (10))感想
ついに伊月たちの知るところとなった千尋の抱える大きな秘密。徐々に受け入れられてゆく日々の一方で、満喫していたように見えた伊月に大きな試練が訪れる第十弾。明かされてゆく二人が家族になった経緯と、千尋が秘密を抱えていた事情。これは大混乱必至と思っていたのに意外とそうでもなくアニメも好評で、蚕と一緒に台湾からサイン会に招待されたりと、伊月の充実した日々が描かれていて少し拍子抜けしましたが、もちろんそのまま終わるわけがなくて、思ってもみなかった変化の予兆と深刻な状況に愕然としました。これはどうなるのか続巻に期待。
読了日:07月17日 著者:平坂 読
やがて恋するヴィヴィ・レイン 6 (6) (ガガガ文庫)やがて恋するヴィヴィ・レイン 6 (6) (ガガガ文庫)感想
ミズキと共に落下したジュデッカで皇帝ヒルガルダと出会うルカ。一方、戦艦バルバロッサに乗り合わせたファニアは尋ねびとに巡り会い、魔女から星の意志を伝え聞き運命が動き始める第六弾。インパクト抜群のヒルガルダから語られる三界の真実。強く想い合うルカとファニアたちが引き寄せる運命の転機。素敵な格好に恥ずかしがったり、やられっぱなしのままでは終わらせないファニア△でしたが、それぞれの天命を悟って再び動き出す四人の物語は次巻最終巻に向けていよいよ盛り上がって来ましたね。ここまで積み上げてきた集大成、期待してます。
読了日:07月17日 著者:犬村 小六
ウェイプスウィード ヨルの惑星 (ハヤカワ文庫 JA セ 2-3)ウェイプスウィード ヨルの惑星 (ハヤカワ文庫 JA セ 2-3)感想
ミドリムシの変異体・エルグレナが生態環境を支配し、海面上昇により地表の大半を水に覆われた25世紀の地球。その調査に宇宙コロニーからやってきた研究者ケンガセンが、島嶼部で暮らす巫女ヨルと出逢う近未来SF。彼女と出会い数奇な運命に巻き込まれてゆくケンガセン。SF的な設定や立ち位置でガラリと変わる倫理観や考え方なども興味深かったですが、研究バカだった彼が価値観の違いに戸惑いながら交渉したり政治に振り回されたりしながら、人類が迎える新たな局面と、そんな中で育まれてきた二人の絆を感じる結末はなかなか良かったですね。
読了日:07月17日 著者:瀬尾 つかさ
真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました (角川スニーカー文庫)真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました (角川スニーカー文庫)感想
最前線での戦いについていけなくなり、仲間の賢者により勇者のパーティーから追い出されたレッド。心機一転、辺境の地で薬草屋を開業しようとした彼のもとに、突如かつての仲間だった王女・リットが転がり込む辺境スローライフ。元ツンデレで不器用だったリットとはお互いがいい感じに補い合える存在で、そんな二人が初々しくも甘い関係を築いていく展開はなかなか良かったです。しかし調整役を放逐した勇者パーティーは案の定破綻していて、兄成分必須な妹勇者の状況も考えると、再び彼が必要とされそうな今後の展開も気になるところではあります。
読了日:07月16日 著者:ざっぽん
中古でも恋がしたい! 12 (GA文庫)中古でも恋がしたい! 12 (GA文庫)感想
3年生に進級した清一たち。そこにかつて清一にトラウマを与えた新入生の結城麻奈が現れ、デジタルゲーム研究会への入部をかけて、古都子と謎の『エロゲ勝負』に挑む第十二弾。清一の理想をめざし、三年間エロゲ道に邁進した麻奈という強力な新キャラ。清一の思わぬ心境の変化によって発生した各ヒロインたちとのデートイベント。彼女たちそれぞれの魅力が引き出された今回でしたけど、エピローグはさすがに予想もしなかった意味深な状況で、しかも次巻で最終巻ですか。真相も気になりますが、清一がどんな結論を出すのか楽しみにしたいと思います。
読了日:07月16日 著者:田尾 典丈
おもてなし時空ホテル: ~桜井千鶴のお客様相談ノート~ (新潮文庫 ほ 21-24)おもてなし時空ホテル: ~桜井千鶴のお客様相談ノート~ (新潮文庫 ほ 21-24)感想
北日本のとある場所でひっそりと営業する「時間旅行者」しか宿泊させない時空ホテル『はなぞのホテル』。面接に来るはずだった友人の代わりになぜか働くことになったチヅが、お騒がせな時間旅行者たちに振り回されてゆく物語。ひ孫のために覚悟を決めた老婆や春日局、父親との関係に頑なな男と作家の覚悟、明の皇帝・朱元璋と仙人の因縁など、ホテルを訪れる時間旅行者たちの騒動に加えて従業員たちのエピソードも絡めた展開で、そのどこかのんびりとしたドタバタ劇は著者さんらしいですね。お見合い相手のその後があるならまた読んでみたいです。 
読了日:07月16日 著者:堀川 アサコ
レッドスワンの絶命 赤羽高校サッカー部 (メディアワークス文庫)レッドスワンの絶命 赤羽高校サッカー部 (メディアワークス文庫)感想
廃部寸前にまで追い込まれたかつての新潟屈指の名門・赤羽高校サッカー部『レッドスワン』。監督も退任してどん底状態にあるチームに新指揮官として舞原世怜奈が就任し、チームを根本から変えてゆく青春サッカー小説。旧弊ばかりが目立っていたチームに、あの手この手を使って新しい風を吹き込んでゆく世怜奈。とはいえ順風満帆でなかったどころか、波乱続きで因縁めいた対決も続く中、チームの基盤づくりを何とか乗り切ってみせた顛末はなかなか面白かったです。かつてのエースだった優雅がこれからどうするのか、その辺も続刊に期待ということで。
読了日:07月14日 著者:綾崎 隼
Re:ゼロから始める異世界生活Ex3 剣鬼恋譚 (MF文庫J)Re:ゼロから始める異世界生活Ex3 剣鬼恋譚 (MF文庫J)感想
剣聖テレシアに勝ち様々な苦難を乗り越え、ついに結ばれたヴィルヘルム。けれどそのための無茶は様々な試練をもたらし、新たなる災禍にも巻き込まれる剣鬼恋歌の甘くほろ苦い後日談。確かに劇的なプロポーズでしたけど。軍から脱走して二年間行方知れずの挙げ句な所業と思えばまあいろいろ出てきますよね。しかも諦めの悪いテレシア父が大人げない(苦笑)とはいえ愛するテレシアのために苦難すら何とかしてしまうのがヴィルヘルムだし、テレシア父もダメなだけの人ではない一面が垣間見えて、不穏の予兆は感じるけれどとてもいいエピソードでした。
読了日:07月14日 著者:長月 達平
おいしいベランダ。 マンション5階のお引っ越しディナー (富士見L文庫)おいしいベランダ。 マンション5階のお引っ越しディナー (富士見L文庫)感想
葉二と出会って2度目の秋。まもり達のマンションに大規模修繕が行われることになってベランダ菜園が危機に。さらにまもりに部屋を貸してくれていた従姉の涼子さんが突然帰国する第五弾。建石さんの菜園イベントを手伝ったりな二人が突然直面するベランダ菜園危機、何か隠し事を抱えるようになった北斗、そして涼子さんの帰国の理由。何ともいろんな意味でお騒がせな涼子さんでしたけど、まさかの急展開からそうなるの?と心配してたら、そんなオチかよ…と突っ込みたくなりましたが、最後の葉二さんにちょっとニヤニヤしちゃいました。続巻も期待。
読了日:07月13日 著者:竹岡 葉月
死神医師 (講談社タイガ)死神医師 (講談社タイガ)感想
一年前に恋人の成海麻里を謎の自殺で失い、死神に魂を売ってしまった「神の手」を持つ心臓外科医の桐尾。安楽死を秘密裏に扱う医師の存在が噂されて、警視庁捜査一課の刑事で麻里の妹・沙耶は「死神医師」の正体が桐尾ではないかと不審を抱きはじめる医療ミステリ。麻里の死の原因となった仕組まれた事件の関係者に近づき次々と追い詰めてゆく桐尾と、その過程で明らかになってゆく事件の真相とひとつの決着。物語の構図としては分かりやすかったですが、少しばかり展開が拙速でしたかね。黒幕がこれからどうするのか、ちょっと気になる結末でした。
読了日:07月13日 著者:七尾 与史
司書のお仕事―お探しの本は何ですか? (ライブラリーぶっくす)司書のお仕事―お探しの本は何ですか? (ライブラリーぶっくす)感想
味岡市立図書館に新人司書として採用された稲嶺双葉を主人公に、蔵書目録の作成や本の受け入れ作業、イベント企画と言った司書の仕事とその成長を描くお仕事小説。認定司書さんを監修に正職員と委託職員との関係や、ネット全盛時代の変わりつつあるレファンレンスだったり、イベントの企画立案や高校の学校図書館との現実的な連携だったり、今の司書さんの仕事が昔と比べてどのように変わってきているのか、またどんなことに意識を向けているのか、主人公の立ち位置をうまく使って分かりやすく小説仕立てで説明してくれていると感じた一冊でした。 
読了日:07月12日 著者:大橋崇行
帝国の女 (光文社文庫 み 35-3)帝国の女 (光文社文庫 み 35-3)感想
世間の認識とは裏腹に華やかさから程遠い、帝国テレビジョンで働く女たちの日々。好きな仕事だけれどままならないことばかりの五人の女性たちが描かれる連作短編集。過労寸前まで奮闘する宣伝部・松国、仕事以外はまるでダメなプロデューサー・脇坂、年下の夫との倦怠に沈む脚本家・大島、訳ありマネージャー・片倉、憧れの人と出会う日を夢見るテレビ誌記者・山浦。それぞれの仕事に取り組む真摯な姿と、一方でプライベートは思うようにいかない苦悩はとても印象的で、ページ数以上に濃密なストーリーと彼女たちの切なる叫びが心に響く物語でした。
読了日:07月12日 著者:宮木 あや子
見習い鑑定士の決意と旅立ち-京都寺町三条のホームズ(10) (双葉文庫)見習い鑑定士の決意と旅立ち-京都寺町三条のホームズ(10) (双葉文庫)感想
大学二年の五月。二十歳の誕生日の記念に清貴と二人で九州へ超豪華寝台列車の旅に行くことになった葵。しかしそこに大麻事件に関わっていた雨宮史郎が目の前に現れる第十弾。きちんと葵のご両親に伝えて旅行に行くあたりが清貴らしいですが、旅行中もたびたび起こる事件やトラブルに少なからず心揺さぶられることも多かった葵の不安を、しっかり払拭してみせる清貴が男前でしたね。周囲も呆れるやや早すぎる感もあった決意表明も、それだけ本気だという思いの現れということで(苦笑)気になる香織のその後も含めて、続巻の展開に期待しています。 
読了日:07月11日 著者:望月 麻衣
インスタント・メサイアI (オーバーラップノベルス)インスタント・メサイアI (オーバーラップノベルス)感想
愛する家族や隣人を魔族に殺されたナイン。村が全滅する中で一人生き延びた彼が、十年の時を経て家族の仇であるはずの魔族の王に配下たることを跪いて乞い願い、密かに復讐の機会を伺うダークファンタジー。歪な笑顔で一部には危険視されながらも、因縁ある魔王クリステラやその妹、そして警戒する配下たちの関心を引きながら少しずつ籠絡し取り込んでいく展開は、一見卑屈で人として無害な存在と思わせつつ、実はかなり壊れていて狂気の愛に溢れるナインの存在感が光っていました。この先にあるのは愛か破滅か、続巻に期待したいシリーズですね。
読了日:07月11日 著者:田山翔太
17×63 鷹代航は覚えている17×63 鷹代航は覚えている感想
反目しあっているごく平凡な高校生・鷹代航と、運悪く会社をリストラされた祖父の章吾。ある夜、自転車置き場で倒れている章吾を偶然航が発見し、大きな衝撃を受けた航と章吾の身体が入れ替わってしまう物語。俗に言う入れ替わりモノで、おせっかいな気質で航の身体でぐいぐい行く章吾の言動がついつい気になってしまう、祖父の身体でままならない航。世代のギャップに戸惑いつつ学校絡みの謎解きや犯人探しに挑んでいく展開で、ままならないドタバタぶりや痛い本音に直面したり、そんな経験を経た二人のその後がとてもいい感じに思えた物語でした。
読了日:07月11日 著者:水生大海
リア充にもオタクにもなれない俺の青春2 (電撃文庫)リア充にもオタクにもなれない俺の青春2 (電撃文庫)感想
リア充女王・マキマキとオタクの姫・オタヒメが真っ向から対立したことで完全にグダグダとなった合唱コンクール。メグを諦められない木ノ本の複雑な想いも絡み、期間限定彼氏のリョータも傍観者ではいられない第二弾。様々な思惑が錯綜する中でうっかり木ノ本とメグだけが知る秘密の過去があることを知ってしまい、メグに対してどこまで踏み込んでいいのか分からなくなってゆくリョータ。けれどリョータを後押しするななこの存在があって、メグに向き合おうと決意した彼の奮闘がもたらしたひとつの結末にはぐっと来るものがありました。続巻も期待。
読了日:07月10日 著者:弘前 龍
魔王学院の不適合者2 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~ (電撃文庫)魔王学院の不適合者2 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~ (電撃文庫)感想
魔王学院デルゾゲードに《錬魔の剣聖》と呼ばれる転校生・レイが現れ、魔族最強剣士を決する《魔剣大会》の開催が近づく中、《不適合者》ながらも選手として推薦されたアノスが統一派と皇道派の争いに巻き込まれてゆく第二弾。実力者レイと剣を交えて意気投合する中で、お互い巻き込まれてゆく派閥争い。アノスを陥れるための策謀も蠢く中で、ファンユニオンのまさかの奮闘には苦笑いでしたけど、熱い友情と両親への想いを胸に苦しい戦いも真正面から打ち勝ってみせたアノスがカッコ良かったです。次はミーシャとサーシャの活躍にも期待しています。
読了日:07月10日 著者:
俺を好きなのはお前だけかよ(9) (電撃文庫)俺を好きなのはお前だけかよ(9) (電撃文庫)感想
因縁ある転校生・ヒイラギとツバキが対決することになった体育祭での屋台勝負。ジョーロは敗色濃厚な残念ヒロイン・ヒイラギ陣営につき、仲間たちも敵味方に分かれて勝負に挑む第九弾。今回は圧倒的優位に立ったツバキ陣営に対して、ポンコツ美少女・ヒイラギを支えるジョーロにパンジーサザンカたちが協力する展開。ヒイラギの弱さから来る劣勢にきちんと向き合い覆してゆくカタルシスと、欲望にまみれたジョーロに一枚上手のパンジーさんがきちんとオチを付けるお約束展開には今回もぐっと来ました。次はどんな展開が待つのか続巻が楽しみです。
読了日:07月10日 著者:駱駝
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭 (電撃文庫)エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭 (電撃文庫)感想
関係が変わって紗霧との甘い日々を過ごすマサムネに、ムラマサの父・麟太郎からの呼び出し。千寿ムラマサのえっちすぎる新作小説が大騒動を巻き起こす第九弾。ムラマサから事情を明かされ「青春の思い出」を作るため、仲間たちとともにムラマサの通う女子校の文化祭に赴いたマサムネたち。そこではこれまで明かされなかった皆に愛されるムラマサの学生生活があって、そんな彼女の一世一代のラブレターがあって。そんな彼女を認めきちんと向き合う素敵な仲間たちも効いていましたけど、この物語をこれからどう進めていくのかが少し気になりますね。 
読了日:07月10日 著者:伏見 つかさ
ゆきうさぎのお品書き あじさい揚げと金平糖 (集英社オレンジ文庫)ゆきうさぎのお品書き あじさい揚げと金平糖 (集英社オレンジ文庫)感想
もうすぐ教育実習が始まる碧といい雰囲気になり損ねた大樹。そんな彼の前に祖母の遺産遺留分を受け取る権利を主張する母方の叔父・零一が数十年ぶりに現れ、まさかの閉店危機に陥ってしまう第六弾。突然の危機的状況に碧とのことどころではなくなってしまった大樹。とはいえ明らかになってゆく零一のやむを得ない事情があって、零一自身も大樹の仕事ぶりを見て思うところがあって。一時はどうなるかと思いましたけど、収まるべきところに収まりそうでほっとしました。大樹と碧の関係も変わりそうで、物語としても終わりに向かいつつあるんですかね。
読了日:07月09日 著者:小湊 悠貴
魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~ (電撃文庫)魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~ (電撃文庫)感想
平和な世の中を夢見て転生した暴虐の魔王アノス。しかし二千年後、転生した彼は平和に慣れて弱くなりすぎた子孫たちと魔法に直面するファンタジー。魔法を使って生後一ヶ月で学院に入学する急展開には苦笑いでしたけど、圧倒的な力の差があるのに周囲がそれを認識できない劣等生評価の中、アノス愛溢れるぶっ飛んだ両親との関係だったり、双子ヒロインの危機を颯爽と救うカッコよさだったり、テンポ良く進んでいく中でコメディとシリアスのバランスも絶妙で、運命を切り開いていく展開は楽しかったです。暗躍する存在も出てきそうで続巻にも期待。 
読了日:07月09日 著者:
宝石商リチャード氏の謎鑑定 紅宝石の女王と裏切りの海 (集英社オレンジ文庫)宝石商リチャード氏の謎鑑定 紅宝石の女王と裏切りの海 (集英社オレンジ文庫)感想
大学卒業後スリランカで宝石商のインターンとして修行中の正義。試行錯誤を続ける彼のもとに「リチャードを助けて」という謎のメールと、正義名義の航空券と豪華客船のチケットが届く新章第一弾。正義だったらリチャードのピンチかもしれないとなったらそれは駆けつけちゃいますよね。かと思ったら自らが盗難の容疑者にされかけて、それでも諦めずに真相解明に奔走する姿は彼らしいというべきか(苦笑)リチャードの香港時代の話や知己も出てきて、また明らかになってゆく過去と因縁がどう今後に繋がってゆくのか、続巻の新展開に期待ということで。
読了日:07月08日 著者:辻村 七子
いとしの印刷ボーイズいとしの印刷ボーイズ感想
元印刷営業マンだった著者がwebで連載していたマンガを書籍化。120以上の印刷用語解説を紹介しつつ、印刷物ができるまでの過程をまとめたというか、印刷過程でよく起こるトラブルや印刷営業マンの生態を生々しく描いた一冊で、実質的にてんやわんやのトラブル劇しか書かれていないので、そのフォローに回る日々がいやほんと大変だなという思いしかありません(苦笑)最近どうしても印刷のトラブルが多いとはよく聞きますが、印刷業の仕事の流れが今どうなっているのか、それに関わっている人たちの苦労を知るにはいい一冊かもしれないですね。
読了日:07月08日 著者:奈良裕己(BOMANGA)
ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った? Lv.17 (電撃文庫)ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った? Lv.17 (電撃文庫)感想
シュヴァイン様こと茜のオタクバレの危機。今更感もあるネトゲ部の面々の微妙な気遣いを余所に、クラスメイトの指摘に瀬川が迷走していく第十七弾。もはや隠れてるんだか怪しくなっている隠れオタ・茜の擬態でしたけど、みんなでLA引退しようとしたり、リア充性活をやってみようとしたり、文化祭のコスプレ展示やミスコン企画でアコやルシアンまで巻き込んだ茜のドタバタ劇は、ルシアンとのデートなんかで見える相棒感やら、アコの変身もあったりでなかなか楽しかったです。ついにマスタも引退ですか…すぐ戻ってきてたけど(苦笑)続巻も期待。 
読了日:07月07日 著者:聴猫 芝居
ガーリー・エアフォースIX (電撃文庫)ガーリー・エアフォースIX (電撃文庫)感想
次なる作戦地、ベトナムで慧とグリペンを待ち受けていたのは、かつて死闘を繰り広げたロシアのアニマ・ジュラーブリクたちとの共闘。それぞれの思いがぶつかりあう第九弾。正直なところ理論的な部分は読んでいてうんわからん的な感じになりつつありますが、かつて敵対していたジュラーブリクたちとの一触即発な雰囲気から、お互いが抱えている思いを知ったことによって、大切なもののために手を取り合い共闘し、苦しい状況を乗り越えてゆく展開はなかなか良かったです。ハイパーゼロとかトウェルブもいい感じに効いてました。続巻も期待しています。
読了日:07月07日 著者:夏海 公司
はたらく魔王さま!SP (電撃文庫)はたらく魔王さま!SP (電撃文庫)感想
魔王と勇者が長野で農業に励む、アニメ特典文庫に書き下ろしを加えた電撃文庫5巻と6巻の間の、夏のひと時を描いた特別編。時系列としては少し遡る形で、農業を営む千穂の実家で夏の繁忙期なのに収穫の人手が足りなくなり、ちょうどバイト先のマグロナルドが改装のため休業中だった魔王たちが農作業の手伝いに行く展開。元農家の娘・恵美のこだわりだったり、茶摘み娘っぽい鈴乃だったり、熊殺しをめぐる顛末や近隣に出没する泥棒退治だったりと、頑張ってるのにどこか締まらない真奥とか、これはこれで久しぶりにこの物語らしさを堪能できました。
読了日:07月06日 著者:和ヶ原 聡司
推理は空から舞い降りる 浪速国際空港へようこそ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)推理は空から舞い降りる 浪速国際空港へようこそ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)感想
優秀な管制官だった叔母の真紀子に憧れ、日夜奮闘する新米航空管制官の藤宮つばさ。同期の情報官・戸神大地とともに、空港で発生する様々なトラブルや謎を解決していくお仕事ミステリ。鳥が原因のエンジントラブルや、不定期に鳴り響く発信源不明の遭難信号、外国要人専用機の離陸失敗事故など、トラブルに巻き込まれるつばさを少し変わった同期の大地や職場の同僚・上司の協力で解決してゆく展開で、お仕事小説としてもなかなか興味深かったですが、探していた叔母の「管制官に一番必要なもの」を見出してゆく結末にもぐっと来るものがありました。
読了日:07月06日 著者:喜多 喜久
時間遡行で学生時代に戻った僕は、妻の恋を成就させたい (宝島社文庫)時間遡行で学生時代に戻った僕は、妻の恋を成就させたい (宝島社文庫)感想
複雑な事情で上手くいかなくなった妻から離婚を提示された綾人。放心状態で交通事故に遭った彼が、突然10年前の大学時代からやり直す機会を得る青春小説。妻・帆乃里の幸せを願う綾人が親友・駿稀との恋を成就させるべく奔走し、複雑な想いを知って協力する彼女の友人・美妃。不器用で真摯な綾人がやり直す過程で改めて気づいたことの積み重ねが、以前は思いもよらなかったもう一つの構図を徐々に浮かび上がらせていって、始まりからすれば何とも皮肉な結末でしたけど、やり直した末の結果として考えるとこれは必然だったのかもしれないですね。 
読了日:07月05日 著者:鹿ノ倉 いるか
後宮天后物語 ~簒奪帝の寵愛はご勘弁!~ (ビーズログ文庫)後宮天后物語 ~簒奪帝の寵愛はご勘弁!~ (ビーズログ文庫)感想
幼馴染の武将軍・志紅に淡い恋心を抱き、彼のために特別な神の力を授かることができる天后を目指す公主の雛花。ところがその志紅が、雛花の異母兄で皇帝の黒煉を弑して帝位を簒奪し雛花を後宮に拘束してしまう物語。志紅のまさかの豹変に戸惑いを隠せない雛花。シリアスな状況ですがマイペースな侍女の存在がうまく中和していて、密かに明かされてゆく志紅の真意を知れば知るほど、思いがすれ違う不器用過ぎる二人の構図がもどかしくなるわけですが、そんな二人がいつか上手くいってくれるといいなと思いつつ、その道程はまだまだ険しそうですね。 
読了日:07月05日 著者:夕鷺 かのう
愛と勇気を、分けてくれないか愛と勇気を、分けてくれないか感想
80年代後半、広島市民球場やデビューしたばかりのユニコーンが確かに息づいていたあの日。親が転勤族で広島にやってきた転校生・桃郎が美少女・小麦に一目惚れし、その憧れの人・由木野と出会う青春小説。地元愛に溢れる小麦に振り回されるようになってゆく桃郎が直面する、ままならならない片想いや、愛する街に対する熱くて複雑な想い、そして突然の暗転と思ってもみなかった終焉。今とはまた違う当時の雰囲気がよく出ていて、そんな切ない思い出が紆余曲折を経て今に繋がっているその結末には、いろいろ思い出したり感じるところがありました。
読了日:07月05日 著者:清水 浩司
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員III」本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員III」感想
貴族院の一年目が終わりに近づき、全領地を集めたお茶会を開催する必要に迫られ、最終学年の領主候補生や側近が卒業式。領地内を巡るあれこれや神殿でも神殿長としての仕事に明け暮れる四部第三弾。印刷事業や領地内のことだったり、あちこちで今後の方針を定めていって、多忙を極める中で指摘されたり決断を迫られたりローゼマインは大変だなと思いましたけど、本好きの友人ができたと思ったら婚約話も出て、ついに来てしまった下町の面々との別れの場面にはうるっとなってしまいましたが、周囲の面々を家具に例える話はなかなか興味深かったです。
読了日:07月04日 著者:香月美夜
死神憑きの浮世堂 (小学館文庫キャラブン!)死神憑きの浮世堂 (小学館文庫キャラブン!)感想
死神に殺された幼い弟を忘れられずにいる人形修理工房「浮世堂」を営む城戸利市。ある日、死神が顔見知りの少女を襲う現場に遭遇したことで、再び運命が動き出す物語。周囲が理不尽に死んだ弟の存在を忘れてゆく中でただ一人覚えていた利市。彼が運命に導かれたように大正時代に殺人を犯した華族のお嬢様や、死後に望まぬ形で生き返った死神の一族の少女との出会い。彼女たちが抱える過去も明らかになっていって、複雑な絡み合う状況にどう決着をつけるべきか、最後まで葛藤し続けた利市が迎えたいかにも彼らしい結末には救われるものがありました。
読了日:07月04日 著者:中村 ふみ
タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)感想
「演劇を扱った中編。登場人物は三、四人程度」「回想、場面変更、一行アキ一切なしのワンシチュエーション・ミステリ。登場人物は三人で」「会話文のみで書かれた作品」「三人の女性たちによる独白リレー」など編集者の繰り出す無茶ぶりに著者が苦しみながら書き上げた連作短編集。わりと難しい設定で果たしてどうなのかと思いましたけど、それでもシチュエーションの遵守だけで終わらずに、きちんとそれぞれに捻りが効いた工夫が盛り込まれていてなかなか楽しめました。巻末のあとがきにあった楽しそうな編集者と挑んだ作者の本音も良かったです。
読了日:07月04日 著者:堀内 公太郎
世界の終わりと始まりの不完全な処遇世界の終わりと始まりの不完全な処遇感想
九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が発生し、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びつつ事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いましたね。そんな彼らの今後をまた読んでみたいです。
読了日:07月03日 著者:織守 きょうや
名探偵誕生名探偵誕生感想
小学生の頃から様々な冒険をしていたみーくんに不穏の影が差した時、いつも助けてくれた名探偵のお姉ちゃん。そんな千歳お姉ちゃんとの初恋とみーくんの成長を描くミステリ青春小説。ずっとみーくんに寄り添い見守ってくれていた千歳お姉ちゃんへの想いは募ってゆくのに、なかなか姉妹のような関係から抜け出せないもどかしさについ共感してしまいましたが、次々と事件を解決してきた生粋の探偵である彼女を救うため、ほろ苦い複雑な想いを乗り越えて自ら立ち上がるみーくんがとても格好良かったです。どこでまた彼らのその後を読めるといいですね。
読了日:07月02日 著者:似鳥 鶏
丸の内で就職したら、幽霊物件担当でした。2 (角川文庫)丸の内で就職したら、幽霊物件担当でした。2 (角川文庫)感想
吉原不動産の「第六」でのドSな上司・長崎次郎と二人、幽霊憑き物件専門の仕事にも慣れてきた新垣澪。そんな事故物件挑む澪たちを助けていた高木に思わぬ災厄が降りかかる第二弾。鏡を壊す仮面を付けた女霊、真夜中に踏み切りの音が聞こえる部屋と、慣れてきたなと思ったところでのありがちな災難。怪しい除霊グッズなども買ってはいましたが、次郎の信頼を得るべく高木を助けるべく奮闘する澪は頑張っていましたね。行方不明だった次郎の兄に関する手がかりだったり、高木と次郎の出会いのエピソードもあったりで、続巻での新展開期待しています。
読了日:07月02日 著者:竹村優希
海と月の喫茶店 (小学館文庫キャラブン!)海と月の喫茶店 (小学館文庫キャラブン!)感想
祖母の死を機に田舎から街に引っ越して、父親と弟との三人暮らしを始めた女子高生の香月。しかし学校でも家でもうまく行かず居場所を見つけられない彼女が、偶然隣の席の男の子・立海がケーキ好きなことを知り、ケーキ作りを教えてもらう青春小説。不器用だけど周囲に頼りたくない。そんな頑固な香月が祖母のデザートに挑戦するも挫折する日々。上手くいかない状況続きで、手を差し伸べてくれる周囲を拒絶する彼女の頑なさにはやや頑固過ぎるかなあと苦笑いでしたけど、少しずつでも変わっていける兆しが見えてきた結末にはちょっとほっとしました。
読了日:07月02日 著者:櫻 いいよ
この素晴らしい世界に祝福を!14 紅魔の試練 (角川スニーカー文庫)この素晴らしい世界に祝福を!14 紅魔の試練 (角川スニーカー文庫)感想
族長の試練に挑むゆんゆんの依頼で紅魔の里へ向かったカズマたち。一方、夜な夜な爆裂魔法を放つお騒がせな輩が現れて、真っ先にめぐみんが疑われる第十四弾。ゆんゆん回なのになのにあまり存在感がなくて苦笑いでしたけど、カズマとめぐみんのどうにも締まらないラブコメやそれに対抗しようとするダクネスだったり、そんならしい展開の中でのカズマとめぐみんの一夜の冒険とか、なかなか素直になれないゆんゆんとめぐみんの友情は良かったですね。しかしカズマを待っていたという女冒険者は案の定ワケありで、ここからの新展開がどうなるかですね。
読了日:07月01日 著者:暁 なつめ

読書メーター

自分の本の探し方・よく見ているサイトを公開します

最近、何度かどうやって本を探しているのかと聞かれる機会があって、どんな方法で読みたい本を探しているのか、どんなサイトを見ているのか、いい機会なので自分なりの方法を一度まとめてみたいと思いました。

 

基本的に自分はわりと積極的に読みたい本を探して、できるだけ読んでいきたいと思うタイプです。仕事でも近刊情報を目にする機会がある方だというのも大きいですが、それ以外にもいろいろなサイトなどを参考にしています。どんなポイントでどんなところを見ているのか、ざっくりと書いていきたいと思います。

 

【自分が読みたい本を選ぶ・読むためのポイント】
1.自分の好みを自覚する
まず基本的に近刊情報というものは判断できる情報が相対的に少ないことが多いです。そのために事前に拾うためにはある程度自分がどんな本・内容・著者に興味を持っているのか、自分の好みを認識していると本の取捨選択がしやすくなります。これは選ぶ幅を狭めるためではなくて、その段階で分かる本は確実に押さえておくということですね。ある程度好みが分かればどこで探せばいいのか、何を探せばいいのかその精度は確実に上がります。

 

2.読みたい本を見つけたらメモする習慣を身につける
よくサイトで見たり話を聞いたりして読んでみたいなと興味を持つことがありますが、実際のところその場でメモっておかないとあやふやになってしまって思い出せないことも多いです。なので読書メーターブクログなどの読書管理サイト、カーリルなどの図書館検索サイトなど、気軽に検索・登録できる自分が使いやすいサイトを見つけて、見つけたら登録する習慣をつけるといいと思います。ひとつ注意点を挙げると読みたい本をどんどん登録しておくと収拾がつかなくなります。読みたい順・発売日順など定期的にメンテをすることで有効なリストとして機能するはずです。

 

3.発売日をもとに読書計画を立てる
自分の場合だと今はGoogleカレンダーに気になる本の発売日を登録して、優先度の高い新刊を軸に読書計画を立てています。その隙間に気になる本をいろいろ読んでいる形ですね。ざっと一ヶ月のスケジュールが見えると予定もやりくりがしやすいものです。ちなみに新刊を積むとその先続巻が出た場合などにどんどん自分の首が締まっていくので、新刊は後回しにしないようにしています(積むとどんどん埋もれていくことも多いです)。ただ予定通りに読書できる時ばかりではないので、その時の状況に応じてできるだけ幅をもたせて緩めの計画で考えています。

 

4.事前情報だけで判断しない
前述のように近刊情報は限定的なので、これは読むと確定している本はいいですが、その場で判断が付かないものは保留して、発売日近くなったら出版社のサイトなどを確認したり、試し読みを読んだり・発売されてから現物を確認したりします。新聞広告で気になる本も多いですし、書店で見てピックアップする本は必ずあるので、毎日どこかしかの書店に寄って棚をぼーっと眺めています。百聞は一見に如かずです。

 

5.本の好みが似ている人を見つける
あくまで補完的な位置づけだと思いますが、自分ひとりで目を配れる範囲は限界があるので、Twitter読書メーターなどで本の好みが似ている人を見つけてフォローしています。特に丸被りというよりは被っている部分もあるくらいの人は自分の読書の幅を広げてくれる可能性がある人なので、積極的に拾っていくと視界は確実に広がると思います。

 

6.試し読みサイトの活用
今は気軽に試し読みができるサイトも増えていますし、自分は気になる本・購入検討している本は基本的に読めるものは全部読んでいます。それを読んで明らかに合わないと思えたものは回避したりできますし、事前にさわりを読めているとスムーズにその物語の世界観に入れたりというメリットもあったりします。

【意外と使える試し読みサイト】
レーベルや出版社によっては試し読みが充実しているところもありますが、それ以外で見に行くことの多いサイトを3つ紹介します。

KADOKAWA直営電子書籍サイトですが、他社のエンタメ系の試し読みなども意外と充実していますね。やや繋がりにくいこともあったりするのが玉にキズですが。

電子書籍ストア。ここもわりと試し読みができます。

ここの電子書籍ストアも一部KADOKAWA商品など、出版社サイトでも公開されていない試し読みがなぜか読めたりします。

 

その他よく使っているサイト・見ているサイトもあわせて紹介します。

【うまく使いたい読書系ツール】

 登録することで本の感想はもとより、読みたい本や積読の管理などができるサイトですが、同じような本を読んでいる人、興味がある刺激的な本を読んでいる人を見つけられると確実に読書の幅が広がります。読書管理以外にも本好きなひとと繋がれたりいろいろと可能性を感じるサイトです。

図書館の蔵書検索ができるサイトです。アカウントを作ると読みたい本の登録のほか、最寄り図書館などを登録して蔵書の確認なども合わせてできます。個人的に気になる本があった時はまずここをメモ代わりに使っていますが、いろいろ使いみちのあるポテンシャルの高いサイトだったりします。

 

 

【定期的にチェックしているサイト】

 書籍取次・日販が運営している人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア。総合サイトとして精力的に様々な記事を発信していて、コミックや文庫の発売一覧なども確認できます。読んでいるだけでも楽しいもっと評価されても良いサイトだと思います。Twitterアカウント:ほんのひきだし (@honhikidashi)

ラノベの杜
ライトノベル少女小説ライト文芸・キャラ文芸などの発売情報を網羅している素晴らしいサイト。このあたりのジャンルはこのサイトと出版社サイト・出版社アカウントを見ているだけで十分事足りそうな気がします。
ラノベの杜更新情報Twitterアカウント:@anobe-mori work

 Web本の雑誌も読み物として面白いですが、個人的に注目しているのがこの「高坂浩一の新刊番台」その日に発売になる注目の新刊を日々紹介しています。

 JPO日本出版インフラセンターが収集・公開している近刊情報サイトで多くの出版社が参加し、Amazonや大手書店などもこの情報を利用しています。わりと網羅性も高く、ジャンル別など体系的に近刊情報を確認したい人向け。

 面白い本が見つかる書評サイト。Twitterアカウント:@honz.jp

 

ダヴィンチのWebサイト。Twitterアカウント:@d_davinci

「次に読む本」を見つけてもらうことをコンセプトとしたウェブメディア。

 書評でつながる読書コミュニティ

 

以上です。

ざっくりと書いてみましたがいかがでしたでしょうか。
少しでも参考になれば幸いです。

8月の購入検討&気になる本ほかピックアップ

 

恒例の8月の購入検討&気になる本ほかピックアップです。8月は中旬に取次休配日があったりでGA文庫富士見L文庫が8/10発売となっていたり、発売日が変則的になっているところもあるので注意が必要ですね。シリーズでは「活版印刷日月堂」「ぬばたまおろち、しらたまおろち」「小説の神様」など注目作品の続巻が出たりで楽しみですね。

 

注目の新作としては宝島社文庫の喜多南さんの新刊、「活版印刷日月堂」と同じ世界観ということで期待のほしおさなえさんのハルキ文庫新刊、発売延期していたファンタジア文庫の「ヒトよ、最弱なる牙を以て世界を灯す剣となれ」、MW文庫の松山剛さんの新作、ファミ通文庫の三田千恵さん「彼女のL」を挙げておきたいと思います。

菓子屋横丁月光荘 歌う家

菓子屋横丁月光荘 歌う家

 
彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~ (ファミ通文庫)

彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~ (ファミ通文庫)

 

ヒーロー文庫(7/31発売)
【新】第六皇女殿下は黒騎士様の花嫁様1 翠川稜/赤井てら

HJ文庫(8/1発売)
あんたなんかと付き合えるわけないじゃん!ムリ!ムリ!大好き!3 内堀優一/希望つばめ
魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?6 手島史詞/COMTA

角川ビーンズ文庫(8/1発売)
アルバート家の令嬢は没落をご所望です4 さき/双葉はづき
花仙国伝 後宮の睡蓮と月の剣 天川栄人/宵マチ

講談社ラノベ文庫(8/2発売)
【新】カラフル ――明日の君は、十二月のひまわり。 椎月アサミ/蜜桃まむ

ポプラ文庫ピュアフル(8/4発売)
流鏑馬ガール! 青森県立一本杉高校、一射必中! 相戸結衣
活版印刷日月堂 雲の日記帳 ほしおさなえ

宝島社文庫(8/4発売)
八月のリピート 僕は何度でもあの曲を弾く 喜多南

X文庫ホワイトハート(8/4発売)
とりかえ花嫁の冥婚 身代わりの伴侶 貴嶋啓/すがはら竜

早川書房単行本(8/7発売)
サマータイムマシン・ブルース 上田誠

ハヤカワ文庫JA(8/9発売)
【文】夏の王国で目覚めない 彩坂美月

ハルキ文庫(8/9発売)
菓子屋横丁月光荘 歌う家 ほしおさなえ

星海社FICTIONS(8/9発売)
大正地獄浪漫1 一田和樹/江口夏実

電撃文庫(8/10発売)
魔法科高校の劣等生 (26) インベージョン編 佐島勤/石田可奈
はたらく魔王さま!SP2 和ヶ原聡司/029
ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン XIV 宇野朴人/竜徹
タタの魔法使い2 うーぱー/佐藤ショウジ
錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ 瘤久保慎司/赤岸K
Hello,Hello and Hello ~piece of mind~ 葉月文/ぶーた
【新】ナイトメア・ゲーム 真坂マサル/あきのそら

GA文庫(8/10発売)
りゅうおうのおしごと!9 白鳥士郎/しらび
我が驍勇にふるえよ天地8 ~アレクシス帝国興隆記~ あわむら赤光/卵の黄身

富士見L文庫(8/10発売)
桜花妃料理帖 二 佐藤三/comet
ぼんくら陰陽師の鬼嫁 四 秋田みやび/しのとうこ
浅草鬼嫁日記 五 あやかし夫婦は眷属たちに愛を歌う。 友麻碧/あやとき

ビーズログ文庫(8/10発売)
にわか姫大夫の宮中事情 ~男装女官のお仕事~ 小田菜摘/三浦ひらく

創元推理文庫(8/10発売)
人魚と十六夜の魔法 ぬばたまおろち、しらたまおろち 白鷺あおい/またよし

ガガガ文庫(8/17発売)
クロハルメイカーズ2 最初のファンとラブコメと友情の作り方 砂義出雲/冬馬来彩
ジャナ研の憂鬱な事件簿4 酒井田寛太郎/白身魚

ファンタジア文庫(8/18発売)
【新】お前ら、おひとり様の俺のこと好きすぎだろ。 凪木エコ/あゆま紗由
【新】ヒトよ、最弱なる牙を以て世界を灯す剣となれ グラファリア叙事詩 上総朋大/細居美恵子
お助けキャラに彼女がいるわけないじゃないですか3 はむばね/sune
キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦5 細音啓/猫鍋蒼
通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?6 井中だちま/飯田ぽち。
アサシンズプライド8 暗殺教師と幻月革命 天城ケイ/ニノモトニノ
デート・ア・ライブ19 澪トゥルーエンド 橘公司/つなこ

オレンジ文庫(8/21発売)
七不思議のつくりかた 長谷川夕/慧子
ガーデン・オブ・フェアリーテイル 造園家と緑を枯らす少女 東堂燦/友風子

早川書房単行本(8/21発売)
忘られのリメメント 三雲岳斗

講談社タイガ(8/22発売)
小説の神様 あなたを読む物語 (上) 相沢沙呼/丹地陽子
閻魔堂沙羅の推理奇譚 業火のワイダニット 木元哉多/望月けい
【新】顔の見えない僕と嘘つきな君の恋 望月拓海

ミステリフロンティア(8/22発売)
ただし、無音に限り 織守きょうや

ダッシュエックス文庫(8/24発売)
貴方がわたしを好きになる自信はありませんが、わたしが貴方を好きになる自信はあります3 鈴木大輔/タイキ

角川文庫(8/24発売)
川越仲人処のおむすびさん 石井颯良
京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄 円居挽

MF文庫J(8/25発売)
【新】僕のカノジョ先生 鏡遊/おりょう

オーバーラップ文庫(8/25発売)
異世界迷宮の最深部を目指そう11 割内タリサ/鵜飼沙樹
異世界魔法は遅れてる! (9) 樋辻臥命/猫鍋蒼
そして黄昏の終末世界2 樋辻臥命/夕薙

メディアワークス文庫(8/25発売)
レッドスワンの奏鳴 赤羽高校サッカー綾崎隼/ワカマツカオリ
恋する死神と、僕が忘れた夏 五十嵐雄策
学校の屋上から君とあの歌を贈ろう 道草よもぎ/popman3580
聞こえない君の歌声を、ぼくだけが知っている。 松山剛

講談社単行本(8/28発売)
青い春を数えて 武田綾乃

新潮文庫nex(8/29発売)
火焔の凶器 ―天久鷹央の事件カルテ― 知念実希人/いとうのいぢ
死神の触れたバラが枯れたとしても。 榎田ユウリ/THORES柴本
R.E.D. 警察庁特殊防犯対策官室 Act III 古野まほろ/清原紘
鍵のかかった部屋 似鳥鶏、友井羊、彩瀬まる

ファミ通文庫(8/30発売)
【新】彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~ 三田千恵/しぐれうい
佐伯さんと、ひとつ屋根の下 I'll have Sherbet! 5 九曜/フライ

創元推理文庫(8/30発売)
【文】王とサーカス 米澤穂信
お節介な放課後 御出学園帰宅部の献身 阿藤玲/456

KADOKAWA単行本(8/30発売)
向日葵のある台所 秋川滝美

東京創元社単行本(8/30発売)
帝都一の下宿屋 三木笙子

2018年上半期注目のオススメ新作単行本23選

 上半期注目のオススメ新作企画の最後は単行本編です。今回は23点をチョイスしました。単行本はなかなか厳しい状況が続いているとは聞きますが、そんな単行本にも印象的な本は数多く出ています。自分が読めるもの、紹介できるものはそんな中のごく一部ですが、気になる本があったらぜひ手にとって見てください。

君を描けば嘘になる

君を描けば嘘になる

 

 寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。

名探偵誕生

名探偵誕生

 

 小学生の頃から様々な冒険をしていたみーくんに不穏の影が差した時、いつも助けてくれた名探偵のお姉ちゃん。そんな千歳お姉ちゃんとの初恋とみーくんの成長を描くミステリ青春小説。ずっとみーくんに寄り添い見守ってくれていた千歳お姉ちゃんへの想いは募ってゆくのに、なかなか姉妹のような関係から抜け出せないもどかしさについ共感してしまいましたが、次々と事件を解決してきた生粋の探偵である彼女を救うため、ほろ苦い複雑な想いを乗り越えて自ら立ち上がるみーくんがとても格好良かったです。どこでまた彼らのその後を読めるといいですね。

祈りのカルテ

祈りのカルテ

 

 初期臨床研修で様々な科を回る研修医・諏訪野良太が、行く先々で持ち前の観察力で患者たちが抱える秘密に迫り、その解き明かしてゆく医療ミステリ。大量服薬を繰り返し装う女性、自らの身体にメスを入れさせた老人、自ら火傷を負う女性、薬を棄てていた少女、そして世間を欺いて多くの患者を救おうとした女性。奇異な行動をする患者たちにはそうするだけ理由があって、思い悩む彼らの真意に気づいて寄り添いながらその最適解を提示する一方、思い悩んでいた自らの進路にも答えを出してゆく主人公のありようがとても良かったですね。シリーズ化期待。

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

 

 売れない若手カメラマンの仁が偶然撮影した窓辺に立つ美しい少女・陽。難病で家から出られない彼女との出会いが二人の人生を奇跡のように変えてゆく物語。同級生の活躍に屈折した想いを抱いてしまっていた仁が、偶然出会った陽の依頼で様々な景色を撮って届けることになる運命の転機。それをきっかけに仁が活躍の場を広げてゆく一方で、難しい病に絶望を感じていた陽の逡巡にきちんと向き合おうとする育んできた二人の想いがあって。大変だった彼女の家族を思うとやや複雑な心情も残りますが、二人の出会いがもたらした奇跡には救われる思いでした。

僕と彼女の左手 (単行本)

僕と彼女の左手 (単行本)

 

 幼い頃遭遇した事故のトラウマで、医者になる夢を前に壁にぶつかった医学生の習。そんな彼が左手一本でピアノを引く不思議な女性・さやこに出会い、共に時間を過ごすようになってゆくミステリ。教師を目指すさやこのために家庭教師として共に過ごすようになる二人。彼女にどんどん惹かれてゆき付き合うことになった習が、勉強よりもピアノに意識が向きがちな彼女のありように少しずつ感じるようになってゆく違和感。積み重ねられてゆく不安の先にあった真実は真摯な想いと共にあって、二人が出会えて本当に良かったと思えるとても素敵な物語でした。

春待ち雑貨店 ぷらんたん

春待ち雑貨店 ぷらんたん

 

 京都のハンドメイドアクセサリーショップ『ぷらんたん』。悩みを抱えたお店を訪れる客の悩みに店主の北川巴瑠が一つ一つ寄り添い、優しく解きほぐしていく連作ミステリ。自身も密かに生まれながらの深刻な悩みを抱えつつも、恋人との関係の変化やお店を訪れるお客が抱える悩み、立て続けに起きるトラブルを一緒に解決していく展開で、簡単ではない問いに迷いながらも真摯に向き合う誠実で一本芯が通っている巴瑠のありようや、そんな彼女の影響を受けて大切な人といい関係を築こうと努力するようになっていく登場人物たちの姿がとても印象的でした。

額を紡ぐひと

額を紡ぐひと

 

事故で婚約者を喪った額装師・奥野夏樹。少し変わった依頼でも真摯に向き合う夏樹が、彼女の作品の持つ雰囲気に惹かれた表具額縁店の次男坊・久遠純と出会う物語。時には依頼人の想いを暴いてしまう一方で、婚約者との過去にどう向き合うべきか悩む不器用な夏樹と、掴みどころのない純との微妙な距離感。そして二人の重要な過去に繋がる池端の存在。明らかになっていったそれぞれの過去に向き合うことにはほろ苦さも伴いましたけど、そんな自分に寄り添ってくれる存在がいて、新たな一歩を踏み出す姿が描かれる結末にはぐっと来るものがありました。

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

 

 「演劇を扱った中編。登場人物は三、四人程度」「回想、場面変更、一行アキ一切なしのワンシチュエーション・ミステリ。登場人物は三人で」「会話文のみで書かれた作品」「三人の女性たちによる独白リレー」など編集者の繰り出す無茶ぶりに著者が苦しみながら書き上げた連作短編集。わりと難しい設定で果たしてどうなのかと思いましたけど、それでもシチュエーションの遵守だけで終わらずに、きちんとそれぞれに捻りが効いた工夫が盛り込まれていてなかなか楽しめました。巻末のあとがきにあった楽しそうな編集者と挑んだ作者の本音も良かったです。

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

 

 九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が発生し、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びつつ事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いましたね。そんな彼らの今後をまた読んでみたいです。

完パケ!

完パケ!

 

 経営難で閉校が噂される武蔵映像大学。卒業制作のドラマ映画を撮れるのはたった一人。コンペでガチンコ勝負した親友で監督志望の安原と北川が監督とプロデューサーとして映画製作に挑む青春小説。自らの抱える事情に苦しみながらも妥協しない不器用な監督・安原と、そのフォローをそつなくこなす一方で自分にないものに葛藤する北川の複雑な関係。そして映画に関わる制作側・役者たちにもそれぞれの葛藤があって、ぶつかりあいながら少しずつお互いを理解していって、完パケに向けてひとつにまとまってゆく熱い展開にはぐっと来るものがありました。

映画化決定

映画化決定

 

 過去に描いたマンガ『春に君を想う』を超えられず苦悩していた高二男子のナオトに、学生向けの映画で受賞している天才監督・ハルからの『春に君を想う』映画化オファー。最初は乗り気でなかった彼が少しずつ映画製作にのめり込んでいく青春小説。映画製作の過程でぶつかりあいながらも絆を深めてゆく二人。病をひた隠しにするハルと、映画制作を通じて『春に君を想う』の本質に向き合うことになってゆくナオト。葛藤と情熱が入り交じる形で進行していく物語の構図はわかりやすくて、だからこそ意外に思えたその結末には上手いなあと思わされました。

青春のジョーカー

青春のジョーカー

 

 スクールカースト最底辺に所属し、上位女子グループの咲が気になっていた中三の基哉。閉塞感の漂う毎日を送っていた彼が、兄を通じて知り合った年上の二葉との出会いからジョーカーを得て少しずつ変わってゆく青春小説。いじられる存在で好きな子との会話すらままならない基哉の窮屈な生活と、ちょっとしたことで景色が全く違って見えたり、些細な噂で置かれる状況が一変することへの戸惑い。狭い世界の中での優越感やつまらない意地で失って大切な存在を自覚したり、甘酸っぱくほろ苦い青春と不器用な彼らの成長にはぐっと来るものがありました。

青くて痛くて脆い

青くて痛くて脆い

 

 大学1年の春に秋好寿乃に出会い、二人で秘密結社「モアイ」を結成した楓。将来の夢を語り合った秋好はいなくなり、すっかり変わってしまったモアイを取り戻すべく楓が動き出す青春小説。周囲から浮いていて誰よりも純粋だった秋吉と、彼女の理想と情熱に感化されつつ徐々にすれ違うようになった楓。明らかになってゆく楓のモアイへの複雑な思いと不穏な構図、そしてやりきれない結末には流石に頭を抱えたくなりました。どこかで軌道修正できなかったのかいろいろ考えてしまいましたが、こういう自己陶酔的な青臭さや痛さもまた青春なんですよね…。

いまは、空しか見えない

いまは、空しか見えない

 

 抑圧する父親に反発して日帰り旅行を決行したホラー映画好きの優等生・智佳。偶然長距離バスで乗り合わせた同級生のギャル・優亜と出会い、人生が変わってゆく連作短編集。父親に縛られていた智佳、祖母の呪縛を看取った母、辛い過去に苦しめられる優亜、そして彼女の背中を押してくれた翔馬との出会い。外の世界を知って飛び出してもそうそう現実は甘くなくて、それでも多くの人と出会い、過去は断ち切れなくてもきちんと向き合えるようになってゆく結末には心に響くものがありましたね。デビュー作ということで次回作にも期待したい作家さんです。

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

 

 将来NASAのエンジニアを目指し風船宇宙撮影に取り組む小学六年生の佐倉ハル。意地っ張りでクラスでは孤立し、家に帰っても両親とぎくしゃくする彼が、金髪の転校生の女の子・イリスと出会い少しずつ変わってゆく青春小説。夢を追い真剣に取り組むハルの姿に共感し、自らは宇宙飛行士を目指そうとするイリス。そんな彼女の想いを突っぱねてしまうハルは複雑な事情を抱えていて、終盤明かされるひとつの真実には驚かされましたが、すれ違ったままで終わらせないために葛藤を乗り越えて頑張った二人のこれからを応援したくなる素敵な物語でした。

青の誓約 市条高校サッカー部

青の誓約 市条高校サッカー部

 

 稀代の名将と、絶対的エースの貴希に導かれ、全国の舞台に青の軌跡を描いた青森市高校サッカー部。当時の部員たちそれぞれのその後を絡めて描かれる青春群像劇。冒頭でいきなり異世界転生モノ展開になったのには驚きましたが、全体としては貴重な体験を共有した部員たちの複雑で繊細な心境が描かれてゆく連作短編集で、誰とも真摯に向き合って皆に好かれているのに、報われない片想いを続けていた真樹那に希望が見えた結末には救われた気分になりました。それにしても聖夏の話はその後がありそうな雰囲気で、機会があるならまた読んでみたいです。

放課後ひとり同盟

放課後ひとり同盟

 

 不幸だらけの状況に空から降ってくる不幸を蹴り続ける少女、気になる人を意識する高校生のままならない思い、再婚して違和感だらけになった家族と新たに加わった飼い犬、ストーカー気味な片想いの真実、少年が気づいた救ってくれた友人の真相。ままならない少年少女の不雑な心情を描いた青春連作短編集。登場人物たちはそれぞれゆるく繋がっている関係で、自分の努力では容易に解決しない問題を抱えていて、それゆえに辛い出来事にも遭遇しますが、ふとした転機からだいぶ救われた心境になってゆく、少しほろ苦いけれど悪くない読後感の物語でした。

愛と勇気を、分けてくれないか

愛と勇気を、分けてくれないか

 

 80年代後半、広島市民球場やデビューしたばかりのユニコーンが確かに息づいていたあの日。親が転勤族で広島にやってきた転校生・桃郎が美少女・小麦に一目惚れし、その憧れの人・由木野と出会う青春小説。地元愛に溢れる小麦に振り回されるようになってゆく桃郎が直面する、ままならならない片想いや、愛する街に対する熱くて複雑な想い、そして突然の暗転と思ってもみなかった終焉。今とはまた違う当時の雰囲気がよく出ていて、そんな切ない思い出が紆余曲折を経て今に繋がっているその結末には、いろいろ思い出したり感じるところがありました。

駒子さんは出世なんてしたくなかった

駒子さんは出世なんてしたくなかった

 

 公平な姿勢が評価され出版社の管理課課長を何とかこなす水上駒子に突然降って湧いた新規事業部署での次長昇進辞令。激変した環境に戸惑う駒子に家庭トラブルまで起きるお仕事小説。平穏な毎日を望んでいたはずなのに、セクハラの尻拭いや次長昇進から発生した問題の数々に加えて、家庭でも生じる専業主夫として支えてくれていた夫の仕事復帰や、息子の不登校問題。何を大切にすべきなのか優先すべきなのか、ままならない悩ましい状況が生々しく描かれていましたが、それでも試行錯誤して前向きに取り組む駒子が迎えた結末には救われる思いでした。

仕事は2番

仕事は2番

 

 吉丸事務機を舞台に、仕事や職場の人間関係、家庭に悩みを抱える登場人物たちが、悩みながらも次への一歩を踏み出すお仕事連作短編集。総務課の人間関係に向き合い奔走する優紀、職場でも家庭でも居場所がない中年課長・内野、仕事では優秀だが家庭は崩壊した岸、周囲の仕事のやり方に納得いかない沙也、小さい頃から輪になじめず仕事も休職したかおり、引きこもりだった栄太と向き合う幸雄。頑張っているのに上手くいかない彼らの姿にはどこか共感するものがあって、相手を理解しようとした彼らに光明がもたらされる結末はなかなか良かったですね。

若旦那のひざまくら

若旦那のひざまくら

 

 百貨店で働くアラフォーバリバリキャリアウーマン・長谷川芹が、一回り近く歳下の西陣の老舗織物屋の若旦那・充と出会い結婚を意識するも、京都での考え方の違いや反対する両親、美しい充の幼馴染など次々と障害が立ちはだかる物語。仕事を辞めて京都に乗り込んだ芹が選んだ問題解決方法が、西陣界隈の業界立て直しだったりするあたりがらしいなと苦笑いでしたけど、苦難にもめげず奔走する姿だったり、そんな彼女を支えてくれる存在もいたりで、きちんと向き合って状況をいい方向に変えようとする物語が迎えた結末にはぐっと来るものがありました。

みとりし

みとりし

 

 派遣切りで職を失った薫が、幼い頃に一緒に事故に遭った陽太と偶然再会し、彼が社長を務めるペットの看取りをするペットシッターに再就職する物語。幼くして両親を失い伯母夫婦に育てられ、いい子を演じ続けるうちに自分が分からなくなってしまっていた薫。なかなか難しい人生を送ってきたことで、なかなか自分からアクションを起こせない不器用な彼女が、仕事を通じて飼い主やペット、そして関係者と関わっていくうちに様々な思いに触れ、陽太たちにも支えられながらきっかけを積み重ね、少しずつ変わってゆく展開はなかなか良かったと思いました。

さよなら、わるい夢たち

さよなら、わるい夢たち

 

学生時代の友人・麻衣亜の夫のSNSによって彼女が幼い息子を連れて失踪したことを知ったジャーナリストの長月菜摘が、行方不明の麻衣亜の行方と失踪に駆り立てた要因を探るミステリ。彼女が失踪した理由を知らないという夫や両親・同僚たちの話から徐々に明らかになっていく、追い詰められていった麻衣亜の悲惨な境遇。悪い夢を見ているような状況を突きつけられた彼女の絶望を思うと暗澹たる気持ちになりましたが、腹を括った麻衣亜の覚悟と周到に準備され暴かれてゆく事実によって、これまでの構図が激変してゆく意外な結末には驚かされました。

 

 

 

2018年上半期注目のオススメ新作一般文庫36選

 今回は上半期注目のオススメ新作企画第四弾、一般文庫編です。最近はライト文芸っぽいものとの境界線が曖昧になってきていますが、とりあえずレーベルでざっくりと区切っています。読んだタイミングの問題で一部12月のものも混じっていますが、印象的な本だったので何冊か加えましたので、その点はよろしくお願いします。

羊と鋼の森 (文春文庫)

羊と鋼の森 (文春文庫)

 

 高校生の時、偶然ピアノ調律師板鳥と出会って以来、調律の世界に魅せられた外村。ピアノを愛する双子の姉妹や先輩たちとの交流を通じて調律師として成長していく物語。生まれもあってか朴訥でひたむきに調律に臨む外村のありようがとても印象的で、いい刺激になる先輩たちに囲まれて繊細で答えのない作業に時には思い悩みながら、それでも淡々と着実に積み上げてゆく彼の強さや、そんな彼が双子のピアノを気にかけるようになっていったり、ピアニストになると決意した和音の変化に影響を受けたり、そんな描写の積み重ねがとても心に響く物語でした。

さよならクリームソーダ (文春文庫)

さよならクリームソーダ (文春文庫)

 

 再婚した両親から逃げるように美大入学で一人暮らしを始めた友親。知り合った先輩の若菜と親交を深めるうちに、その過去と秘密を知ってゆく青春小説。両親に向き合えない後ろめたさを抱える友親と義姉・涼の複雑な関係。友親の前に現れた若菜を気にかける少女・恭子と、明らかになってゆく若菜が抱える絶望と秘密。登場人物たちのどうにもならない葛藤と生々しい感情のぶつかり合いが繊細に描かれていて、絶望に直面し何かが確実に壊れてしまった彼らが、それでも何とか生きていこうとする姿にはほろ苦くも未来があって、心に響くものがありました。

ずっとあなたが好きでした (文春文庫)
 

 バイト先の女子高生との淡い恋、転校してきた美少女へのときめき、年上劇団員との溺れるような日々、集団自殺の一歩手前で抱いた恋心、そして人生の夕暮れ時の穏やかな想いが綴られてゆく恋愛小説集。年齢や状況もバラバラな恋の行方と意外な結末。最初は普通の恋愛小説ではあまりない展開で新鮮だなあと思いつつ読んでましたが、途中から読んでいてうん?となって、だんだんその違和感に気づいて、最後でやられた!となりました。一気読みするには分厚いですが、その分手応えを感じた一冊で巻末の解説も必見。それにしても懲りてないな~(苦笑)

京洛の森のアリス (文春文庫)

京洛の森のアリス (文春文庫)

 

 幼い頃に両親を亡くし、引き取られた叔母の家でも身の置きどころのなかった少女・ありすが、遠く離れた京都で舞妓修業を決意し、老紳士に連れられて不思議な京洛の森に迷い込む物語。彼女に寄り添うカエルのハチスやウサギのナツメと共に京洛の森で生きていくことを決意したありすと、彼女が幼い頃に交わした少年・蓮との約束。物語の構図としてはとても分かりやすくて、それでいて散りばめられていた伏線が後々効いてくる展開で、おとぎ話風の雰囲気の中にも著者さんらしさがよく出ていた素敵な物語でした。その後のお話にも是非期待したいですね。

咲見庵三姉妹の失恋 (新潮文庫)

咲見庵三姉妹の失恋 (新潮文庫)

 

 父を亡くし、川越の和カフェを営む高咲三姉妹の家に居候することになった高校生・薫。不本意ながら三姉妹と暮らすことになった傷心な薫の変化と、姉妹たちの切ない恋愛模様、そして成長の物語。咲見庵を営む長女・花緒、ボーイッシュで夢見がちな次女・六花、そして二人とは母親の違う十六歳の三女・若葉。三姉妹それぞれの複雑で繊細な恋模様とその失恋は切なかったですが、それは彼女たちの停滞した状況からの前進でもあって、三姉妹とかけがえのない日々を過ごした薫もまた成長して新たな一歩を踏み出してゆく、とても優しくて温かい物語でした。

ポスドク! (新潮文庫)

ポスドク! (新潮文庫)

 

 指導教官の不祥事で出世の道を閉ざされ、姉が育児放棄した甥・誉を養ってもいる月収10万円の私大非常勤講師・瓶子貴宣。正規雇用を諦めない貴宣の前に千載一遇のチャンスが現れる物語。他人の出世を羨み、極貧にあえぐ貴宣に権力者から提示されたリスクの高い尻拭い。負け戦を必死に戦い抜くその奮闘ぶりや、周囲との何とも複雑な心情が入り交じるやりとりは尻上がりに面白くなっていって、誉を取り戻すために乗り込んでいく貴宣はカッコ良かったですね。ただ愚直なだけでなく、したたかに逆襲の方法を考えるその性格の悪さも良かったです(苦笑)

年下のセンセイ (幻冬舎文庫)

年下のセンセイ (幻冬舎文庫)

 

 予備校に勤める28歳の本山みのり。後輩に誘われ生け花教室に通い始め、助手を務める8歳下の透と出会う彼女が、元カレの結婚式の帰りにバーでバイトをする透に再会する恋愛小説。変化のない日々をこれでいいのかという思いと、変化を恐れる気持ちで揺れるみのりが出会った年下の透。惹かれるけれど臆病になってしまうみのりと、進学で地元を離れるのに真っ直ぐに思いをぶつけてくる透のやりとりがドキドキして、もやもやしたりどうしようもなく恋しくなったり、二人を繋いだ生け花を効果的に使いながら綴ってゆく、可愛くて甘い素敵な物語でした。

片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)

片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)

 

 好きになった推しの対象を徹底的に調べ上げて見守るストーキング体質な女子高生・追掛日菜子。しかしなぜか好きになった相手は次々と事件に巻き込まれ、彼女が事件解決の糸口を見つけ出すミステリ。舞台俳優、若手力士、天才子役、覆面漫画家から総理大臣まで、惚れっぽく法律ギリギリアウトな手法で見守る日菜子が推しのために奔走する探偵劇。彼女の好意が事件を引き寄せてるのでは?と思わなくもないですが、コミカルでテンポのいい展開は楽しくて、振り回されるお兄ちゃんは大変でしたが、それでも懲りない彼女の活躍をまた読んでみたいです。

アンティーク弁天堂の内緒話 (幻冬舎文庫)

アンティーク弁天堂の内緒話 (幻冬舎文庫)

 

 進学のため京都・下鴨神社近くの寮で暮らすことになった女子高生・紫乃。琵琶湖の弁財天から哲学の道にある骨董店・弁天堂へ行くよう促され、そこで不思議な力を持つ店長・洸介と出会う物語。弁天堂でアルバイトをすることになった紫乃が遭遇する清水焼の茶碗や茶の木人形、チャームブレスレットといった不思議な謎と、おばあちゃん譲りの力でそれを解くのんびりした風なのにわりと抜け目ない店長の洸介。謎を解き明かして込められた大切な思いを知り、意外に積極的な店長に対する想いも少しずつ変わってゆく紫乃の今後が楽しみですね。続巻に期待。

 異様に運の悪い大学生・柏原玲二が元カノの部屋へ大切な物を取りに行き、そこに住む見知らぬ女子・磯貝久美子に不審者扱いされる最悪の出会いを果たすもう一つの物語。玲二の後輩・奈央矢と幼馴染で偶然の出会いを果たした久美子。期せずして久美子を取り巻く恋愛模様に巻き込まれてゆく玲二。誤解から始まって結果的に他人の恋の邪魔をしてしまう間の悪さが、巡り巡って容易には変わらないはずの気持ちを少しずつ動かしてゆく展開が面白いですね。久美子が自分らしさを出せる相手は誰なのか、前作とも繋がるもう一つの物語を十分に堪能できました。

 内定を取り消され将来の不安に苛まれる大学生・行成と、引っ越してきたばかりで周りに馴染めずにいる小学生・マサキ。それぞれ悩みを抱える二人が歳の離れた友人として徐々に親交を深めてゆく物語。行成が「可愛らしい男の子」だとばかり思い込んでいた真咲。誤解が解く機会がないまま共に過ごし積み重ねてゆく二人の思い出と、それを転機に新たに築かれてゆくそれぞれの人間関係。マサキが女の子だと微塵も気づかない行成と、自らの想いを自覚してゆく真咲という危うくて繊細な距離感がそのままでいられるはずもなくて、何とも切ない展開ですね…。

 自分が女の子だということを言えないまま、近所の大学生・行成との友情を育むマサキ。そんなマサキに中学受験という現実と、就職する行成との別離の日が近づいてくる下巻。友人関係や母親との関係に悩みながら進むべき道を模索するマサキと、彼女の窮地を救いながらもその秘密を知り動揺してしまう行成。丁寧に綴られる周辺事情なども交えながら思わぬ展開もあったりで、そのまま二人の淡い思い出として昇華させてゆくのかなと思わせつつ、それでも二人のためにかすかな希望をきちんと提示してくれるあたりに、著者さんの優しさを感じたりしました。

僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

 

 友達を作らないと決めていた僕に唐突に話しかけてきた、数学が好きで天才で孤独な少女・秋山明日菜。不本意ながら始まった彼女との交流が僕を変えてゆく青春小説。心臓移植の影響で前向性健忘症となり一ヶ月しか記憶を保てない明日菜。彼女の日記を頼りに二人の思い出を積み重ねてゆく僕と、少しずつ変わってゆく明日菜との関係。そして僕の暗い過去と意外な形で繋がる彼女の秘密。あれほど望んでいたはずの治癒がもたらした皮肉な転機でしたが、ゼロではない可能性を信じ続けた二人の真摯な想いが引き寄せた結末にはぐっと来るものがありました。

天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和 (宝島社文庫)

天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和 (宝島社文庫)

 

 かつて天才詐欺師として名を馳せた夏目。突然目の前に現れた自分の娘だという小春から依頼を受け、仲間とともに依頼者たちを救う父と娘の連作短編ミステリ。小春が生まれ育った修道院の危機、YouTuberと大人気ゲーム機の不正抽選の謎、結婚詐欺師へ仕掛けるペテンや老人を狙った霊感詐欺と、辛い思いをした依頼人たちのため仲間と仕掛ける夏目の用意周到な解決策は、相手を心理的に追い詰めていく過程が秀逸でその結末も効いていました。小春との親子関係の今後や因縁の橋爪との決着も残っていますし、続巻あったらまた読んでみたいですね。

皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王 (宝島社文庫)

皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王 (宝島社文庫)

 

 中華平原に名を馳せる強国・禍国。十八年前、「覇王」の宿星を持って生まれた皇子・戰と、人扱いされず書庫に引き篭もる少年・真が出会ったことで運命が変わってゆく中華ファンタジー。兵部尚書である父の側室腹として生まれたがゆえに戸籍を持たなかった真が、皇子・戰と出会ったことで得た転機。生い立ちが影響してか多くを望まず怠惰になりがちな真が、それでも戰のため、訳ありの幼き妻・薔姫のために智謀を活かして自らの奔走し窮地を打開していく展開は、登場人物たちもよく動いてテンポも良くなかなか面白かったです。続巻も期待しています。

次回作にご期待下さい (角川文庫)

次回作にご期待下さい (角川文庫)

 

 仕事に追われる月刊漫画誌の若き編集長で苦労人の眞坂崇とトンデモ天才漫画編集者・蒔田が、漫画バカの編集者たちや漫画に命をかける漫画家たちとともに日常のお仕事に潜む謎を解き明かしてゆくお仕事小説。落とし物をきっかけに出会ったビルの夜間警備員・夏目の謎、打ち切りに悩む漫画家とのやりとりやヘッドハンティング、そして盗作疑惑の真相など、漫画雑誌はほんと大変な仕事なんだなと実感させる一方で、それでも登場人物たちが面白い漫画を作りたいという想いからぶつかり合うなかなか熱い作品でした。これは次回作も期待できますね(苦笑)

星降プラネタリウム (角川文庫)

星降プラネタリウム (角川文庫)

 

 観光地化された星空が素敵な島を捨てた渡久地昴が就職先で配属されたのはプラネタリウム事業課。複雑な思いを抱える彼が魔法使いのようにプラネタリウムの解説をする望月と出会う物語。観客を魅了する望月の手腕や、変わり者の同僚たちにも触発されて仕事に前向きになってゆく昴と、幼き日に約束を交わした天音の再会。いくつもの人間関係と星空への思いのバランスをうまく取りつつ描かれてゆくエピソードでしたが、様々な出会いから心境も少しずつ変わってゆく中、昴が担当することになった故郷の島での星空解説にはぐっと来るものがありました。

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

 

 わけあって借金を抱えネットカフェを泊まり歩く放浪生活を送る青年・遠野青児。罪人が化け物に見える彼が迷い込んだ洋館で、白牡丹の着物をまとった謎の美少年・西條皓に住みこみの助手として屋敷で働くよう誘われる物語。鬼の代わりに罪人を地獄に届ける「地獄代行業」を営む皓を訪れる顧客たちが抱える事情とおぞましい真実、そして彼らにふさわしい結末。騙されて何度も怖い目に遭わされるのに、皓に確実に手なづけられてゆく青児の小市民っぷりが物語のいいアクセントになっていて、ライバル探偵・凜堂棘も登場したりな今後の展開が楽しみです。

銀塩写真探偵 一九八五年の光 (角川文庫)

銀塩写真探偵 一九八五年の光 (角川文庫)

 

 写真部の部室整理で偶然見つけた銀塩写真に魅せられ、撮影した写真家の弘一に師事することになった陽太郎。そんな彼が偶然師の銀塩写真探偵という秘密を知ってしまう物語。ネガに写る過去に入りこんで弘一が探していた亡き友の大切な思い。弘一の姪・杏奈とともに彼を助けて過去を探る過程で明らかになってゆく意外な繋がりと、ようやく見つけ出した真実。苦い過去は変えられなくても踏み込んだことで気づけたこともたくさんあって、弘一から銀塩写真探偵を引き継ぐ二人がこれからどんな物語を紡いでいくのか、是非続きが読んでみたいと思いました。

明日、君が花と散っても (角川文庫)

明日、君が花と散っても (角川文庫)

 

 戦争末期にばらまかれたウイルスのせいで、ほとんどの人類が死に絶えた世界。とある集落に拾われ育てられた少年・マサキが「死花症候群」により散ってゆく大切な仲間たちを救うため「この世界」の調査を始める物語。どこか違和感を感じる気のいい仲間たちとの集落での自給自足生活と、幼馴染で大切な少女・カエデの存在。集落の人々が少しずつ減ってゆく終わりの予感に何とか抗おうとするマサキ。この世界の真実と大切な人が失われてゆく喪失感には胸が締め付けられましたが、それでも最後まで向き合い続けた二人の結末は儚くも美しいと思えました。 

プランナーズ! あなたのお悩み解決します (角川文庫)

プランナーズ! あなたのお悩み解決します (角川文庫)

 

 聴覚過敏症に起因する苦い過去を抱え、就職活動に苦戦していた雛子。ようやく受かった何でもありのマーケティング会社「プランナーズ」で依頼を成功させるべく奮闘するお仕事小説。不運も重なった苦い過去の失敗からすっかり自信喪失していた雛子。けれど蔵元の立て直しに奔走したり、息子の代わりに旅行に連れて行ったり、なかなかうまく行かなくても諦めずに真摯に向き合う気持ちだったり、そんな彼女を支えてくれる先輩たちの協力で乗り越えてゆく展開は良かったですね。気になる関係もいくつかあったりで、続きがあるならまた読んでみたいです。

ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

 

 大学卒業後もダイビング以外は興味を持てず、就職も決まらない蒼衣。そんな彼がドルフィントレーナー採用試験でイルカやトレーナーの凪たちと出会いのめり込んでゆくお仕事小説。そこそこ器用だけれどプライドが高い蒼衣が魅せられ、仲良くなった相棒イルカ・ビビと共に目指すショーデビュー。熱くなるとつい周りが見えなくなって失敗するその性格は、一方でまっすぐでひたむきな一面もあって、イルカには致命的な異変が見つかったビビやイルカを愛する仲間とともに、その危機を乗り越えるべく奮闘し成長してゆく姿にはぐっとくるものがありました。

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

 

 会いに来る新世代のアイドルを描いた「最後にして最初のアイドル」ガチャに取り憑かれたフレンズたちが宇宙創世の真理へ驀進する「エヴォリューションがーるず」異能の声優たちが銀河を大暴れする「暗黒声優」の三編が収録された作品集。何か凄いらしい…とは聞いてましたが、オタクの心を掴むキーワードのはずが全く別の何かに成り果てていて、一方でSFとしては壮大なスケールの物語だったりで、そんなギャップがこの本を読む前提としてあるために、その強烈なインパクトをどう評価すればいいのかちょっとよく分からなくなった一冊でした(苦笑)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

 

 有機素子コンピュータによる会話プログラムの共同研究者を失い何も手につかなくなった南雲助教と、列車に轢かれて亡くなった元恋人の会話を再現しようとする学部生の佐伯衣理奈。そんな前に進めない二人が巡り合う連作短編集。会話プログラムとのやりとりを交えつつ繰り広げられる、共同研究者、契約社員、元恋人、そして南雲と衣理奈のエピソード。概念自体はやや難解でしたが、理系らしい合理思考と割り切れない情念のせめぎ合いの中で変化してゆく不器用な人間模様はとても優しくて、そんな彼らが迎えた結末はなかなか心に響くものがありました。

誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)

誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)

 

 自殺、他殺、事故死など寿命以外の死が見える志緒と屋上で出会った佐藤。彼女が悲しまぬよう死を回避させる協力をするようになってゆく君とぼくの物語。親の所業によって居場所をなくしていたミステリ好きの佐藤が、志緒が気づいた死の予兆を誰も死なないミステリに変えるべく頭を働かせる展開で、やろうとしていることの宿命でミステリとしてはやや締まらない感もありましたが、解き明かされる墜死事件の謎と回収されてゆく伏線によってひとつの物語として再構成されて、悔やんでいたひとたちの救いに繋がってゆくとても優しい素敵な結末でした。

星を墜とすボクに降る、ましろの雨 (ハヤカワ文庫JA)
 

 人造の眼球と巨砲トニトゥルスで、地球圏に迫る星々を軌道庭園から撃ち墜とす子どもたちの一人である霧原。寡黙な担当整備工の神条の傍らにいることに満足していた彼女が、自らの無慈悲な宿命に直面する小さな恋の物語。突然現れた神条の元妻を名乗るハヤトの存在、そして空前の規模の流星群が飛来する中でようやく不器用な想いを自覚し、自分がどうあるべきか戸惑ってしまう霧原。最期までスナイパーであるべきか、気付いてしまった想いに向き合うべきか、心揺れた先にあった衝撃の結末でしたけど、これもまたひとつの愛の形なのかもしれませんね。

真実の10メートル手前 (創元推理文庫)
 

 表題作のほか高校生の心中事件「恋累心中」や「正義漢」、「名を刻む死」や「綱渡りの成功例」など、記者・太刀洗万智が遭遇する事件に隠された謎を解き明かしてゆく連作短編集。一見わかりやすい事件に見出した違和感から、鋭い着眼点と積み上げた取材で事件の核心に迫ってゆく万智。その真相にはやりきれないことも多かったですけど、それがそのまま読後感に繋がらなかったのは、真相を知ること向き合うことを恐れずに真摯にアプローチしていく万智の誠実さによるところが大きかったのかもしれないですね。「王とサーカス」の文庫化も楽しみです。

 公園を舞台にした五つの転機が綴られる連作短編集。港が見える丘公園でのおじいさんとの出会い、ムーミンをきっかけに出会った二人の別離とそれぞれの再出発、石神井公園を舞台にした憧れの人との再会、航空公園を舞台とした中学三年生の冬に別れた同級生の恋人を忘れられずにいた瑞希の決意と、文庫収録の彼の視点短編。いずれも自分が行ったことがある公園で、うまくいかない状況を抱えた登場人物たちが、そこでの出会いをきっかけに新たな一歩を踏み出す展開には心に響くものがある素敵な物語でした。最後の話の後どうなったのか気になりますね。

魔女 (創元推理文庫)

魔女 (創元推理文庫)

 

 なりたいものもなく大学卒業後、知人の手伝いをする日々を送る広也。報道記者の姉の依頼で元カノの焼死事件を探ることになり、事件や周辺を調べることになるミステリ。職場の友人、大学時代の友人、不倫相手、祖母、そして異父妹と取材を進める度に変わってゆく元カノ・千秋の印象。破滅した不倫相手の溺死と、気づいてしまった千秋の悲しい過去、一度は決着したかに見えた事件の真相。淡々としていて気持ちが見えなかった広也が事件を解決して、大切に思えるものがあることが示唆される結末までぐいぐい読ませてくれる、なかなか面白い作品でした。

蕃東国年代記 (創元推理文庫)

蕃東国年代記 (創元推理文庫)

 

 唐と倭国の間に浮かぶ麗しき小国・蕃東。その知識や儀礼を司る貴族の家に生まれた青年・宇内と彼の従者・藍佐が出会った驚異や神秘を描く空想世界の御伽草子。中華と和風が入り混じったような世界観のどこかの怪異や不思議な話をまとめたような連作短編の構成で、雨竜を見物する話や舟に乗り合わせた4人を幻惑するあやかし、酒を酌み交わしながら不思議な物語を披露する話、美しい中将を愛した二人の物語など、淡々と綴られていくその雰囲気が良かったですね。個人的には一番最後の成り行きで求婚し幻の珠を探しに行く話の切ない結末が好きでした。

マレ・サカチのたったひとつの贈物 (中公文庫)

マレ・サカチのたったひとつの贈物 (中公文庫)

 

 世にも不思議な病「量子病」に冒され、世界中を跳躍し続ける人生を生きることになった坂知稀。人生を“積み重ね"られない彼女がこれからの「幸せ」の意味を問う物語。資本主義が行き詰まった近未来を舞台に、一瞬後の居場所すら予測できず、行き先も滞在期間も不明な彼女にもたらされた、様々な立ち位置や思いを抱いた人たちとの出会いと別れ。繰り返される跳躍から始まる数多くのエピソードはやや断片的な印象もありましたが、そんな彼女に提示される未来の可能性とそれに対する回答は、積み重ねていった末に見出されたひとつの真理に思えました。

死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

 

 特殊清掃員として働くうちに死者の放つ香りを他の匂いに変換する特殊体質になってしまった桜庭潤平。そんな彼が分析フェチの准教授・風間の助手にスカウトされ、死の香りで殺人事件を解決するミステリ。美少女と見紛うような主人公の風貌とイケメン准教授という組み合わせや特異体質をうまく利用される関係と、わりとキャラクターを前面に押し出した雰囲気もあって、匂いで事件解決に繋げてゆく展開はミステリとして見るとやや弱い感もありましたけど、読みやすくなかなか面白かったとは思いました。シリーズ化したら大変そうな体質ですね(苦笑)

逆境ハイライト - へこたれずに生きています。 (中公文庫)
 

 商社で着実に出世街道に乗り彼女もいた朋文。それなりに順調な人生だったはずが、身に覚えのない罪状でいきなり逮捕され、さらに潰れかけた実家の老舗和菓子屋では父親の突然の失踪してしまう物語。朋文が直面する突然の逮捕から始まる運命の急転と、踏んだり蹴ったりなトラブルの連続。順調だった仕事も結婚を視野に入れていた彼女も、誤認逮捕で失ったものはもう取り戻せない容赦のない現実に読んでいる方も愕然としてしまいますが、それでも何とか乗り越えようと覚悟を決めた朋文が直面する新展開がどう繋がってゆくのか続巻に期待したいですね。

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

 

 南北朝時代南朝帝の妹宮・透子が北朝に帰順した楠木正儀を連れ戻すべく、乳母と二人きり吉野から京へと乗り込む過程で、若き日の宿敵・足利義満観阿弥世阿弥親子と出会う時代小説。跳ねっ返りだった世間知らずな透子の無謀な行動の顛末と意外な出会い。周囲の言うことを鵜呑みにしていた透子が様々な人と出会い、真摯に語らうことで知ってゆく複雑な世界のありよう。自らの無力を痛感しつつも、無用な争いを回避するために奔走する彼女の成長があって、魅力的に描かれた実在の登場人物たちを絡めたテンポの良い展開はなかなか良かったですね。

 幼馴染の史郎を一方的に恋慕い、彼との結婚を夢見る会社員の咲希。そんな彼女が妹の紹介で結婚資金を稼ぐために副業で結婚式の「サクラ」のバイトとして働く物語。同じサクラの百合香とともに臨む憧れの結婚式場で次々と起こる略奪婚、歳の差婚、毒親といったワケアリ結婚式の数々。長年の片想いでずっと近くにいるのに、なかなか見えてこない史郎ことシロの本音。これでもかとばかりに結婚の現実が突きつけられて、頻発するトラブルからひとつの構図が見えてきて、それでも結婚に憧れる咲希の真っ直ぐな想いとその結末は心に響くものがありました。

瑕疵借り (講談社文庫)

瑕疵借り (講談社文庫)

 

原発関連死、賃借人失踪、謎の自殺、家族の不審死…瑕疵物件とされたワケあり物件に住み込む藤崎が、関係者とともにその真実を突き止めてゆく連作短編集。住人の死だったり行方不明だったりでワケありとされた物件に住み込む瑕疵借りの藤崎。心情的には大家や不動産屋寄りというより、賃借人に対して未練を残す関係者の思いに寄り添うようにその真実に迫り、結果的にその事故物件扱いも解消してゆく展開で、もう一度やり直すことはできない残された人たちへの切なるメッセージの数々は心に響くものがありました。続編あるならまた読んでみたいです。

 

 


 

2018年上半期注目のオススメ新作ライト文芸29選

というわけで上半期注目のオススメ新作企画第三弾ライト文芸編です。最近はライト文芸レーベルでもいろいろ話題作が出てきて、けれど刊行点数もわりと多かったりする状況で、自分もどれを読むべきなのか悩むことがよくありますが、そんな自分がおすすめする上半期新作29点を紹介します。参考にしていただければ幸いです。

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

 

 後宮奥深くにいる夜伽をしない不思議な力を持つ特別な妃「烏妃」。翡翠の耳飾りに取り憑いた女の幽霊の正体を探るべく訪れた皇帝・高峻が、その不思議な力を目の当たりにする中華風ファンタジー。辛い過去を抱え烏妃として孤独に生きようとする寿雪と、少年時代に生母を皇太后に殺され辛酸を舐めた高峻。後宮で起きる幽鬼絡みの事件を解き明かす過程で二人が関わる機会は増えていって、不器用な彼らの距離感や周囲との関係の変化はとても微笑ましくて、秘密を共有した二人がこれからどう変わってゆくのか、この続きを是非読んでみたいと思いました。

鍵屋の隣の和菓子屋さん つつじ和菓子本舗のつれづれ (集英社オレンジ文庫)

鍵屋の隣の和菓子屋さん つつじ和菓子本舗のつれづれ (集英社オレンジ文庫)

 

 高校を卒業し「つつじ和菓子本舗」へ住み込み、専門学校へ通いつつ和菓子職人の修業をスタートさせた淀川多喜次。恋する男子の和菓子な日々が描かれる『鍵屋甘味処改』スピンオフ小説。看板娘・祐雨子にプロポーズするも保留され、修行でも和菓子作りに携われない多喜次のもどかしい日々。お隣のその後の様子も垣間見えたり、一歩先ゆく同年代・柴倉の出現に危機感を募らせながら、周囲で起きる和菓子絡みの事件に体当たりで挑む多喜次の頑張りを祐雨子さんも見てくれていますね。柴倉もいいライバル関係になりそうで、この続きをまた読みたいです

マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年 (集英社オレンジ文庫)

マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年 (集英社オレンジ文庫)

 

 人工海上都市『キヴィタス』のアンドロイド管理局に勤める若きエリート技師エルが、仕事からの帰り道で登録情報のない野良アンドロイドの少年・ワンと出会い不思議な共同生活を始める物語。アンドロイドが貴重な労働力になっている世界で、不器用だけれどアンドロイドには真摯に向き合うエルに、訳ありなアンドロイドのワンは何だかんだ言いながらも振り回されっぱなしで、エルの事情も明らかになってゆく中、二人の関係性がワンの過去を巡る騒動と絡めつつとてもいい感じに描かれていたと思いました。もし続巻あるようならまた読んでみたいですね。

雪があたたかいなんていままで知らなかった (オレンジ文庫)

雪があたたかいなんていままで知らなかった (オレンジ文庫)

 

 地元の名士の生まれながら、幽霊が見えることで周囲から孤立する澤村千尋の前に現れた赤いマフラーの幽霊少女。協力してくれたクラスメイトの岩木君やリンたちと共に、記憶を失っている彼女の過去を探し始める青春ミステリー。過去のトラウマから逡巡しながらも始まった身元捜索。それぞれ苦い過去が明らかになってゆく岩木とリン、そして本家の魔王的存在・従兄の義孝。その過程で少しずつ広がって変わってゆく周囲との関係と、いろいろ過去や事実が少しずつ繋がってゆく構成はとても上手くて、切ないけれどぐっと来るものがある素敵な物語でした。

あなたの人生、交換します The Life Trade (集英社オレンジ文庫)

あなたの人生、交換します The Life Trade (集英社オレンジ文庫)

 

 自分の人生を交換するパーティーの招待状。その招待状を受け取った就職活動や婚活に失敗し続け、病気の母に苦労する山田尚子が、憧れていた国際的美人ピアニスト・桜庭響と人生を交換する物語。今の人生を生きる自分が不幸だと感じていた二人が、お試し期間の二週間付きの入れ替わりができると知って決断し、それぞれ経験してゆくもうひとつの人生。これまでと正反対の新鮮な生き方に刺激を受けたからこそ、見切りをつけようとしていたこれまでの人生で本当に大切だと感じていたことを自覚し、向き合っていこうとする展開はなかなか良かったですね。

今夜、2つのテレフォンの前。 (集英社オレンジ文庫)

今夜、2つのテレフォンの前。 (集英社オレンジ文庫)

 

 幼馴染・想史に思いを寄せる女子高校生・志奈子と、初恋の女性の結婚が決まったと聞き動揺する高校教師の直江。不思議な縁で電話をするようになった二人が毎晩相談の電話を積み重ねてゆく物語。いつの間にか上手く行かなかった自分と幼馴染の関係を重ね合わせて、別の高校に通うようになって口を聞いてくれない想史と志奈子の恋を応援する直江。そんな繋がりをもたらしたきっかけには苦笑いでしたけど、きちんと向き合った志奈子だけでなく、自身もまた想いを燻らせていた直江が大切な人に想いを伝えようと奔走する姿には心に響くものがありました。

君が死ぬ未来がくるなら、何度でも (集英社オレンジ文庫)

君が死ぬ未来がくるなら、何度でも (集英社オレンジ文庫)

 

 とある日の朝、幼馴染の高遠原櫂から急に呼び出され、おメダイを渡された時計紡。櫂の妹で親友でもある暖の死を目の当たりにした紡が、その死を回避すべく運命の朝を繰り返してゆく物語。繰り返し条件を変えていってもなかなか回避できない友人たちの死。回避の鍵を握る幼馴染の櫂と暖を巡る複雑な三角関係と、運命線を分岐させる死亡フラグと恋愛フラグの存在。大切な人たちを誰も失いたくない一心で葛藤し続けた紡の悲壮な決意には切なくなりましたが、遠回りこそしたものの彼らがたどり着いたその結末には、本当に良かったと胸が熱くなりました。

 何か縁を切りたいものがあることが入居条件のシェアハウスえのき荘。その管理人に雇われた芽衣が、訳ありなシェアメイトと交友を深めてその卒業を見届ける物語。過剰なダイエットをするOLの理由、アニオタを隠すホスト、医者家系の期待を背負った4浪中の浪人生、そして口は悪いけれど優しい二代目大家。住人たちのエピソードから掘り下げられてゆくそれぞれの事情と大家とともに見届ける結末、そして管理人である彼女自身もまた実家の悪縁に縛られていて、彼らの心地よい距離感と優しさが心に沁みる物語でした。続刊あるならまた読みたいですね。

きみを忘れないための5つの思い出 (集英社オレンジ文庫)

きみを忘れないための5つの思い出 (集英社オレンジ文庫)

 

 他人の記憶に極端に残りにくい体質の少女、自分に恋する人の視力が下がってしまう少女、教室から出られなくなってしまった少女、事故で意識不明の恋人とメールでやり取りできるようになった少女と、少し変わった性質を持った少女たちと彼女に恋した少年たちの物語を描いた連作短編集。人と違う自分を意識することで周囲と距離を置いていた少女たち。そんな頑なになっていた彼女たちが築いた壁に挑む男の子たち、乗り越えようとしたヒロインには苦難や葛藤が伴いましたけど、それでも諦めずに乗り越え人生が変わってゆく展開はなかなか良かったです。

あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)

あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)

 

 バイオリニストの夢破れ、楽器販売店での仕事もクビになった惠理が、衝動のまま夜行バスで向かった先の仙台で「あやしバイオリン工房」の店主・大地と伝説のバイオリンの精・弦城に出会う物語。自信を喪失したまま店で働き始めた惠理と、誰が弾いても音が出ないぶっきらぼうなバイオリンの精・弦城。最初はぎこちない距離感だった二人でお店を訪れる客からもたらされるバイオリンを巡る不思議な謎を解いていく展開でしたが、迷える惠理の想いと複雑な弦城の過去がひとつに繋がっていって、一緒に乗り越えてゆく結末はなかなか良かったと思いました。

魔女の魔法雑貨店 黒猫屋 猫が導く迷い客の一週間 (集英社オレンジ文庫)

魔女の魔法雑貨店 黒猫屋 猫が導く迷い客の一週間 (集英社オレンジ文庫)

 

 困りごと、迷い客の目の前にふと現れる「魔女の魔法雑貨店 黒猫屋」街で噂の魔女で黒猫屋の店主でもある淑子さんが迷い込んできたお客にささやかな奇跡を起こす連作短編集。おばあちゃんが庭で育てていた命の花の正体、コスメカウンターの新米魔女が悩んでいた勘違い、花屋の後輩に贈られた花の本当の意味、亡くなった兄から家族へのメッセージ。常連たちと不定期に魔女のお茶会を開く淑子さんが、最初は魔女の魔法に懐疑的だった彼女たちの誤解を解きほぐしつつ、肩の荷をそっと下ろしてあげる優しさがじんわり温かく感じられた素敵な物語でした。

恋するアクアリウム。 (富士見L文庫)

恋するアクアリウム。 (富士見L文庫)

 

 会社にも地元にも居場所がなくなり上京した浅見桐子。しかし落ち着き先を火事で失い、仕方なく歳下の幼馴染・佐倉井真也の元に転がり込んで同居生活が始まる「おいしいベランダ。」のスピンオフ小説。魚マニアだった弟分を甲斐甲斐しく世話したり振り回したりで、その日常を確実に塗り替えてゆく桐姉の存在感。なのに転職先が決まってあっさり終わった同居生活と、思わぬところから明らかになる彼女の上京理由。お人好しで面倒見の良いところが裏目に出ていた桐姉でしたけど、彼女をよく知る真也の真摯な想いが心にじんわりと来る素敵な物語でした。

完璧主義男に迫られています (富士見L文庫)

完璧主義男に迫られています (富士見L文庫)

 

 イベント会社でバリバリ働く卯月陽菜に告白したのは、営業の堅物なイケメン完璧主義男・長谷川薫。キッパリ断った陽菜が、諦めない長谷川の誠実かつ隙のないアプローチに迫られてゆくラブコメディ。好きになったものの、理想からかけ離れている陽菜を自分好みの女性にしようとする長谷川。小言は多いけれどぞっこんで誠実な長谷川の積極性に、いろいろトラブルもフォローしてくて、きちんと向き合うようになってゆく陽菜の関係がいいですね。長谷川の独占欲も可愛くて、いつの間にか甘々なカップルになっていてごちそうさまという感じでした(苦笑)

木崎夫婦ものがたり 旦那さんのつくる毎日ご飯とお祝いのご馳走 (富士見L文庫)
 

 著名な作家を父に持つ文筆家の島田ゆすらと、偶然出会った木崎修吾の電撃結婚。父の残した家で共同生活を始めた新米夫婦の日々が綴られてゆく物語。不安定だったゆすらと優しい木崎の美味しいものを食べたり、のんびりと寄り添うような夫婦生活。一方で作家としての自分のありように苦悩するゆすらのこと、作家だった父やふらりと家を出た弟の存在だったり、複雑な想いを抱く幼馴染・崇の存在もあったり、もしかしたらの可能性に切なくなりつつも、夫婦として作家として生きてゆくことにきちんと前向きになれた結末にはぐっとくるものがありました。 

西陣あんてぃく着物取引帖 (富士見L文庫)

西陣あんてぃく着物取引帖 (富士見L文庫)

 

 母親の羽織を持って京都・西陣のアンティークショップを訪れた薬剤師の純花が、金髪碧眼の店主・アレックスと出会い、因縁の羽織の真相究明のため二人で出処を調べることになる物語。アレックスの祖母と同じ柄の着物、そして男を作って家を出た純花の母を巡る因縁。紳士的で着物に対する造詣が深いアレックスと会い様々なことを知るうちに、少しずつ変わってゆく純花の心境。着物に関する興味深いエピソードや意外な繋がりもあったりで、今回の謎は明らかになりましたけど、アレックスたちとの今後も気になるのでもう少し続きを読んでみたいですね。

八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく (富士見L文庫)

八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく (富士見L文庫)

 

 対立を続けてきた公家との和睦を目指すため、武士最強の娘・雲雀に持ち上がった縁談。しかしそれは時間稼ぎでしかなくて、父に騙されて十も年下の一年限りのお飾り東宮・鈴鳴に嫁がされてしまう物語。このままでは終われない彼女が鈴鳴と組んで逆転を目指す展開で、そんな彼女たちの前に立ちはだかる親王・暮明と妻・鎬雨、そして暗躍する陰陽師・雅親。だいぶ分の悪い状況からのスタートでしたが、暮明に引け目を感じながらも姉さん女房・雲雀の期待に応えるべく鈴鳴がかなり頑張ったりで、ここからどう逆転していくのか面白くなっていきそうです。

契約結婚ってありですか 利害一致から始まる恋? (富士見L文庫)

契約結婚ってありですか 利害一致から始まる恋? (富士見L文庫)

 

 美容師を辞めて福岡に戻ってこいという両親を振り切るため、結婚相談所に駆け込んだ西依咲。切実な状況を訴えた目の前の相談員・成嶋玲司から利害一致の契約結婚を提案される新婚生活物語。良くも悪くもざっくばらんで素直な性格の咲と、人の機微に疎く神経質だという自覚はある玲司がルールを決めながら、職場の人招待だったり、義妹や幼馴染・両親の突然の襲来だったり、二人で生活していく中で一緒にいろんなことをこなしていくうちに、それぞれ心境だったり距離感も変わってゆく展開は良かったですね。続きがあるようならまた読んでみたいです。

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

 

 自死を遂げたはずの芥川龍之介羅生門の下で見せられたのは、未来の地獄絵の如き事件とある女性の死。「羅生門現象」と呼ばれる事件を食い止めるため、時代錯誤な文豪探偵・龍之介が現代の東京に蘇る物語。いきなり現代に転生してそのギャップに戸惑いながらも、芥川オタクで教師を辞めた弥生を家政婦として雇いつつ、彼女を救うべく問題解決の方法を模索する時代錯誤な龍之介。正直事件の解決そのものよりも、平野レミ先生の番組で料理を習ったり現代文明に感化されてゆく姿や、何だかんだで惹かれ合う弥生との不器用なやりとりが楽しかったです。

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

 

 現世に未練を残した人間の前に現われる閻魔大王の娘・沙羅。彼女がそんな彼らに願いに応じてある持ちかける生と死を賭けた霊界推理ゲーム。登場人物たちが直面する突然の暗転と、沙羅によって提示される究極の選択。読みやすいテンポよく進む展開の中にヒントを織り交ぜつつ提示されてゆく謎解き。被害者たちに容赦のない現実を突きつけながら解決する可能性も提示して、彼らにしっかり考えさせてそれぞれのエピソードを良かったなと思える結末に導いてゆく沙羅の不思議な魅力が効いていましたね。続刊も決まっているようなので楽しみにしています。現在二巻まで刊行。

そして僕らはいなくなる (講談社タイガ)

そして僕らはいなくなる (講談社タイガ)

 

 優等生の「着ぐるみ」をかぶって生活する高校生・宗也。帰宅の遅い幼馴染を捜しに出かけ事故に遭った宗也は断片的な幻覚に襲われるようになり、クラスで孤立する志緒と謎を追う青春ミステリ。不可思議な幻覚を共有した志緒と関わり、事件の真相を追ううちに少しずつ変わってゆく宗也の日常や心境。誰もが複雑な思いを抱える登場人物たちの心理描写は繊細で、幻覚を頼りに迫った事件の意外な真相は明示されないまま推測するに留まりましたが、それでもぐいぐい読ませる緊張感のある展開と、彼らが迎えた悪くない結末には充実した読後感がありました。

 就職活動に失敗した夏芽勇作が出会った呪いを招く特殊文化財を専門とする、神祇鑑定人・九鬼隗一郎。相棒となった二人が奇怪な謎を解いてゆく物語。魔術に傾倒した詩人・イェイツの日本刀、キプロスの死の女神像、豊臣秀吉が愛した月の小面。多くを語らない謎めいた九鬼によって明かされてゆく勇作が隠していた秘密と、勇作の力を上手く使って問題を解決してゆく九鬼。魔術や曰くある骨董品を絡めたオカルティックな内容で、登場人物たちもまたミステリアスで存在感がありましたし、彼らの関係がどう変わってゆくのか、続巻に期待のシリーズですね。

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

 

 連続殺人の現場には謎の紐と鏡。逃亡中の容疑者は橘終の双子の妹・乙黒アザミ。大切な彼女を密かに匿いつつ、常識では測れない彼女の想いを理解するため、他の異常犯罪を調べ始めるミステリ。近くで立て続けに起こる連続殺人・吸血事件・児童誘拐といった異常犯罪に巻き込まれてゆく終と、信じたいと思いながらも拭えないアザミへの疑惑。ホラーテイストのぞわりと来るような雰囲気の物語で、「向こう側」の人たちを引き寄せずにはいられない二人を取り巻く特異性と、最初は対極に思えた終とアザミに共通するどこか歪んだ愛情がとても印象的でした。

七月のテロメアが尽きるまで (メディアワークス文庫)

七月のテロメアが尽きるまで (メディアワークス文庫)

 

 人付き合いを避け生きてきた高校生の内村秀。ある日クラスメイト飯山直佳が落としたUSBメモリを拾い、中身の遺書を見てしまったことから奇妙な交流が始まる青春小説。彼女が進行性の記憶障害を患って自殺したがっていると知り、関わりたくなかったのに気になって仕方ないと自覚した秀が交わしたひとつの約束。秘密と約束を共有するようになった二人に訪れた転機と、やがて明らかになってゆく秀の苦い過去があって、その全てが繋がってゆく急展開には驚かされもしましたが、決着をつけた二人のその後のありようにはしっくり来るものがありました。

 疲れ果てたアラサーOL香実の会社にやってきた新人は、彼女の初恋の相手で当時のまま姿が変わらない不思議な青年・樹々。十三年ぶりに訪れた奇跡の再会から彼女が転機を迎えてゆく物語。唯一の肉親・祖母が亡くなった上に会社も業績不振で、尊敬する先輩が去り自身も契約社員に降格されたりと散々な状況で再会した樹々。その存在に癒やされ惹かれてゆく一方で、突きつけられる樹々が何者なのかという疑問。それでもかけがえのない存在だからこそ向き合い、真実を知っても自分なりのやり方を模索し共にあろうとする姿は心に響くものがありました。

笑う書店員の多忙な日々 (メディアワークス文庫)

笑う書店員の多忙な日々 (メディアワークス文庫)

 

 東京の小さな書店で新人バイトの紗和が直面する現実。そんな彼女に仕事を教える文庫文芸担当の楠奈津が、某出版社から持ち込まれた新人デビュー作のゲラに衝撃を受けて全店フェアを提案するお仕事小説。都内の書店でもこれくらい過酷な職場環境なのかと感じつつ読みましたが、書店が大好きで仕事に取り組む書店員たちがいきいきと描かれていて、初心者の紗和と経験を積んだ奈津の両視点から書店を描こうとして視点の切り替わりが多かったのはやや気になったものの、周囲も巻き込んで一丸となって本を売りに行く展開にはぐっと来るものがありました。

浅草和裁工房 花色衣: 着物の問題承ります (小学館文庫キャラブン!)

浅草和裁工房 花色衣: 着物の問題承ります (小学館文庫キャラブン!)

 

 ファッション雑誌から着物専門誌の編集部へ突然異動になった体力だけが自慢の新米編集者・陽菜子が、さっそく取材を任されて向かった浅草で美形の和裁士・八月一日桐彦に出会う浅草着物ミステリー。飄々とした態度で陽菜子をからかってくる八月一日と、そんな彼に素直になれない陽菜子という組み合わせでしたけど、仕事には真摯に取り組む陽菜子の姿勢だったり、友人の結婚相手の問題や陽菜子の祖母と母の着物を巡る長年の確執をうまくフォローしてくれる八月一日に、不器用なりに少しずつ惹かれていく様子がとても可愛くてなかなか良かったですね。

さくら花店: 毒物図鑑 (小学館文庫 み 7-1 キャラブン!)

さくら花店: 毒物図鑑 (小学館文庫 み 7-1 キャラブン!)

 

 植物の声を聞くことができる雪乃が店主の「さくら花店」を訪れるのは心に深い悩みを抱える客ばかり。そんな彼女を支える樹木医の夫・将吾郎との夫婦の日々と植物にまつわる事件を描く物語。不穏な雰囲気の男と不思議な色をつける紫陽花、雪乃と同じ植物の声が聞こえる少年・ヒロ、一見仲よさげな母娘が抱える苦悩。歪んだ家族の切ないエピソードは必ずしも残念な結末ばかりでもなくて、雪乃と将吾郎の率直で不器用なお互いの存在が不可欠に思える夫婦関係と、そこに居場所を見出したヒロたちが今後どうなってゆくのかまた読んでみたいと思いました。

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

 

密室で謎の死を遂げた人工知能研究者の父。その死に疑問を持った高校生の息子・輔が、探偵AI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人AI・以相を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知るミステリ。対となる存在の探偵と犯人という双子AI。明らかになる人工知能による世界統治を目指すオタクコアの存在。分かりやすい解説を加えながら語られる発展途上の存在から深層学習で成長する人工知能たちを軸とする展開は、やや強引かなと感じられる部分もありましたがなかなか興味深くて楽しめました。シリーズ化に期待ですね。

時は止まったふりをして(新潮文庫)

時は止まったふりをして(新潮文庫)

 

※書籍版がうまく表示できないためKindle版を選択しています。 

小牧が高校時代に付き合っていた凌馬。同窓会で再会した彼のもとに十二年の歳月を経て届くはずのないフイルムが届いて、そこから忘れていた過去と感情が蘇ってゆく青春恋愛ミステリ。十年前友人だった小牧や知葉たちの視点で描かれる甘酸っぱくてほろ苦い青春の日々と、三十路を前にした社会人としてのそれぞれの現在地。当時は明かされなかった密かないくつもの想いがあって、一方で今大切にしたいと思っている関係があって。清算されてゆく心残りだった過去が現在に繋がって、迷える背中をそっと押してくれる展開にはぐっとくるものがありました。