恒例の2025年上半期注目のオススメ新作企画、今回も「ライトノベル青春小説」「ライトノベルファンタジー」「ライト文芸」「一般文庫」「文芸単行本」で作ろうと思います。今回はラノベファンタジー編です。なお青春小説とファンタジー小説の区分は境界が曖昧な作品も多いので、そういうものだと思って見てもらえれば幸いです。気になる作品があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
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青春小説編はこちら↓
1.魔剣少女の星探し 十七【セプテンデキム】 (電撃文庫)
三枝 零一/ごろく KADOKAWA 2025年01月10日
魔剣戦争が終結して一年。剣の天才だった母の願いにより最強の魔剣使いを目指すリットが、魔剣の所持が許される唯一の都市セントラルを訪れ、それぞれ複雑な背景を抱える魔剣少女たちと出会うファンタジー。各国の思惑が絡み合ったはぐれの魔剣を巡る陰謀に巻き込まれ、魔剣『山嶺』の少女クララと決闘をすることになったリット。そしてはぐれの魔剣を取り戻すために密かに動いていたソフィア。3人の少女がそれぞれの事情を語り合い、魔剣を取り戻すために協力して直面する困難に立ち向かっていく展開で、絶望的な相手でも最後まで諦めない少女たちの映えるバトルシーンもさることながら、奥行きのある設定や各国の思惑も垣間見える中、意外な人物もキーマンになっていたりと、これからの展開には期待感しかありません。早めの続巻期待しています。
2.妖精の物理学 ―PHysics PHenomenon PHantom― (電撃文庫)
【第31回電撃小説大賞＜大賞＞受賞作】
電磁幽体/necomi KADOKAWA 2025年05月10日
世界の常識を覆した前代未聞の物理学理論。7年前『現象妖精災害』により一度崩壊し復興した街・神戸を舞台に、妖精の言語を理解する少年カナエが1人の妖精と出会う近未来ボーイミーツガールファンタジー。妖精と話せることを周囲に理解してもらえず、現象妖精レヴィと暮らしていたカナエが、研究区区間で氷に囲まれていた等身大の現象妖精エルウェシィと出会い契約したことで、彼女を狙う企業アズガルドや、殺害を目論むタツミとかさねに追われる展開で、孤独だったゆきと諦めず向き合い心を通わせて、思わぬ黒幕に動揺しながらも乗り越え、力を合わせて収束させてみせたストーリーは、初稿から情報量の多い世界観をもう少し整理できていればとも感じましたが、それ以上に可能性に満ちた物語の続きを読むことができないことがただただ残念です。
3.悪食緋蒼は×××なのか? (講談社ラノベ文庫)
【第16回講談社ラノベ文庫新人賞＜優秀賞＞受賞作】
人に擬態する異形・殺戮魔から人々を護る《探偵》。駆け出しの探偵・冴木探流がある依頼の遂行中に殺戮魔と遭遇し、その中で謎の美少女・悪食緋蒼と出会うファンタジーミステリ。苦戦する探流たちを尻目に、事も無げに殺戮魔を斃して自分の探偵になってほしいと告げる緋蒼。助手志願の来宇や共に行動する聖華たち探偵候補生も絡めながら探偵候補生たちの連続殺人事件に挑む中、緋蒼がなぜ喪わていたはずの探流の《超探偵》発動条件を再現できたのか。条件ゆえに疑惑も深まる中で、二転三転してゆくストーリラインもテンポが良かったですし、上手く張り巡らされた伏線を回収していく推理劇もしっかりしていて、謎めいた緋蒼との関係がこれからどうなっていくのか、どんな結末が待っているのか続刊が楽しみです。
柴猫侍/ミユキ ルリア KADOKAWA 2025年02月28日頃
熱狂的に愛するゲーム『ギルティ・シン』の「偽物勇者」に転生したライアー。死亡ルート確定ヒロイン・アータンを救うために全力を尽くす偽物勇者の冒険譚。持ち前のゲーム知識と一筋縄ではいかない奔放な性格で冒険者として気ままな日々を送っていたライアーが、どのルートでも決して幸せになれない最も愛するヒロイン・アータンに出会う展開で、掴みどころのない態度で彼女をたびたび困惑させながら、その窮地を救って生き別れになっている双子の姉を探す手助けをする2人の関係性が良かったですね。周囲との関わりの中でライアーの立ち位置や実力も浮き彫りにされていく中、屈指の実力者なはずなのに、大好き過ぎるライアーが関わるとキャラが崩壊してしまうセパルの存在も効いていました。
5.あなた様の魔術【トリック】はすでに解けております -裁定魔術師レポフスキー卿とその侍女の事件簿- (電撃文庫)
白金 透/天野 英 KADOKAWA 2025年05月10日
魔術師たちの探偵にして判事にして処刑人の裁定魔術師。レポフスキー家当主として君臨するマンフレッドと、『魔力なし』の侍女リネットが事件を解き明かす連作ミステリファンタジー。レポフスキー家に使い魔として飼われ、先代の養子として力を受け継いだ烏のマンフレッドと、類まれなる観察力でサポートする侍女リネット。奇妙なコンビが密かに罪を犯した死霊術師、召喚術師、人造生命体を作った魔術師たちの前に現れ欺瞞を暴いていく展開で、追い詰められた者たちの反応も様々で、彼らがコンビを組むことになった複雑な理由も改めて浮き彫りになっていきましたけど、分家の少女ダニエラも加えてこれから主従がどんな事件を解決していくのか、絡み合う因縁の先にどんな結末が待っているのか、今後の展開が楽しみです。
6.天嬢天華生徒会プリフェイズ (電撃文庫)
杉井 光/パイレーツキャット KADOKAWA 2025年06月10日
やっとのことで教員資格をとった26歳の「ぼく」が、紹介された半島がまるごとキャンパスの独立学園国家《天涯学園》に新任教師として赴任する学園ラブコメミステリ。着任早々爆破事件に巻き込まれたぼくを救ってくれた生徒会長で学園の《王》天祿院凰華。謎に距離が近い彼女によって生徒会執行部の顧問に据えられ、生徒会の個性的なヒロインたちと知り合い、七つの家を完全に屈服させるという目的、そして学舎に潜むスパイを炙り出すことを依頼される展開で、独特の立ち位置を維持する学園の状況を舞台に、著者さんらしいテンポの良い掛け合いは楽しかったですし、そこから凰華の又従姉妹・珠音と互いを屈服させるための激突の末にたどり着いた思いもしないその結末には驚かされました。
7.新米魔女の異世界お気楽旅 (MFブックス)
三毛猫みゃー/ハレのちハレタ KADOKAWA 2025年03月24日頃
ブラックな制作会社で働き、気がつけば異世界に転移していたエリー。森に住む願いの魔女に拾われて弟子となってから300年が経過し、ついに自らも魔女と認定され師匠の元から旅立つファンタジー。魔女として「ぐうたら魔女」という不名誉な称号を避けるため、使い魔ホクトとともに旅に出たエリー。最初にたどり着いたダーナの街で優しい人たちに出会い、冒険者活動を始めた彼女が、旧知のエルフ・アーヴルと再会したり、初めての可愛い弟子ができる一方、スタンピードの危機にも直面する展開で、懐かしいご飯を振る舞われて堪能する様子は微笑ましかったですが、魔女としての立ち位置を意識しながらも、その優しさで多くの人を救い、かけがえのない交流を積み重ねた街から、再び旅立つことを選択したエリーのこれからの物語が楽しみです。
8.ノブリス・レプリカ ―元“貴族殺し”の傭兵少年、学園都市に嫌々入学させられる― (電撃の新文芸)
アマサカ ナタ/高峰 ナダレ KADOKAWA 2025年06月17日頃
英雄だった父が味方に殺され、復讐して故郷を追放され傭兵となった少年ムジカが、傭兵団長に学園都市セイリオスへ強引に入学させられるロボットファンタジー。人類の傲慢さが生み出した獣メタルに人類は地上を追われ浮島へと逃げ出した時代。過去の経験からノブリスに乗って戦う貴族の傲慢を厭う彼が、学園で様々な貴族たちと出会いながら成長していくストーリーで、妹分のリムやライバル視するアーシャ、生徒会長レティシアといったヒロインを絡めながら、突然現れたメタルの大群によりセイリオスが存亡の危機に陥る中、ムジカが葛藤を乗り越えて専用機で奮闘する熱い展開はなかなかハードでしたが読み応えがあって面白かったです。ムジカを意識するヒロインたちとの関係も今後が楽しみですね。
9.転生程度で胸の穴は埋まらない (電撃文庫)
絶望しかなかった前世から異世界転生したコノエ。教官や神様に見守られながら、永い修行の末に邪神から人類を守護する超越者アデプトとなった彼が、死病に侵された金色の少女テルネリカと出会うファンタジー。希少ゆえにあらゆる権利が与えられるアデプトになりながら、死病と魔物の侵攻に苦しむ街を救うためにやってきたテルネリカの願いに応えたコノエ。死病を癒やし魔物を掃討する過程で、傍らにいてくれる彼女の存在が大きくなっていく中、街を救ってくれた彼との契約を果たすために姿を消したテルネリカ。そこから明らかになっていく様々な背景があって、前世から孤独で人から愛されたり愛することを知らなかったコノエが、ようやく見出したかけがえのない存在を取り戻すために奔走して、傍らにあることを噛みしめる結末がとても素敵な物語でした。
10.悪役令嬢について (ガガガブックスf)
悪逆非道の限りを尽くしたとされ、処刑された傾国の悪役令嬢エイディーア。彼女の最期に強烈な違和感を覚えた死刑執行人見習いのユーニヒトに、身分を明かさないとある人物から悪役令嬢の調査依頼が出されるダークミステリ。普段の罪人たちとは違うものを覚え、会話をした相手が一番強く思い出した記憶を共有できる異能を使い、没落貴族、令嬢の執事、元孤児院長、墓地管理人、養父母などから証言を集めていくユーニヒト。その過程でエイディーアと双子の妹である聖女の背景を浮き彫りにしていって、それを積み重ねていく中で生まれる違和感があって、知ってはならない恐るべき可能性に辿り着いてしまった彼が、最後に出会った人物は果たして誰だったのか。鮮烈な余韻を残すその結末がなかなか印象的な物語になっていました。
11.聖女聖戦 ―大罪勇者と思い出の魔女― (ダッシュエックス文庫)
凄惨な自死の後、勇者として異世界転生させられた倉敷斗真。しかし召喚主の誘いを蹴り、魔女として追われる聖女アデルの手を取るダークファンタジー。13人の聖女が1人になるまで殺し合う『聖女聖戦』が行われる世界で、真の聖女を名乗り一強状態の純白の乙女ミーシア。彼女に対抗するため狩られる側の聖女を集め、神より授けられた「十三人殺し」の異能を使い戦況を大きく揺るがしていく斗真。策謀を巡らせいかに出し抜くか駆け引きを繰り広げて、聖女や彼女たちを支える聖騎士のそれぞれの背景も浮き彫りにしていきながら、明らかにされてゆく壮絶な真相とその結末があって、だからこそ苦難を乗り越えていく中で育まれていく、お互いを支える2人の確かな絆には救われる思いでした。
12.プロジェクト・ニル 灰に呑まれた世界の終わり、或いは少女を救う物語 (GA文庫)
【第16回GA文庫大賞＜銀賞＞】
畑リンタロウ/fixro2n SBクリエイティブ 2025年01月12日頃
三百年前、灰に呑まれた世界。第六都市に住み墜落しかけていた謎の飛行艇を助けた技師マガミが、出会った少女ニルに気に入られ一緒に飛行船に乗り込むSFファンタジー。上陸協定を結んでいない飛行艇を助けたことで、都市からの追放処分を食らったマガミ。そんな彼が半ば強引にニルに誘われて飛行艇の一員として働くことになり、関わりが増えていく中で少しずつ気づいていく、世界を支える古代技術アマデウス機構を動かす存在として戦い続ける彼女の特異性。けれどマガミとの出会いが孤独だったニルを少しずつ変えていって、思いがけない過去も繋がっていって、かけがえのない存在となっていく2人が閉塞した状況を共に切り開いて、未来への希望を感じさせてくれる結末はなかなか良かったです。
13.クズに金貨と花冠を 1 ひとりぼっちの最強少女は自称悪徳商人に拾われ幸せになる (オーバーラップノベルス)
もちもち物質/高嶋しょあ オーバーラップ 2025年04月25日頃
儲け話を企んだ自称悪徳商人の青年ランヴァルドが、雇った護衛に裏切られ魔獣の森で窮地に陥った時、不思議な少女ネールと運命の出会いを果たすハートフル冒険譚。伝説級の魔物を瞬殺したネールに命を救われたランヴァルド。不当に買い叩かれていたネールの稼ぎを是正して協力関係を結んだ彼が、小綺麗になったら見違えるように可愛くなり、素直に慕ってくる彼女を巧みな話術で誘い、自らの金稼ぎの手段と護衛も兼ねて旅のお供とすることを目論む展開で、戦闘では圧倒的な力を見せるネールが、一方で抜け目なくともどこか悪人になりきれないランヴァルドを慕う姿はどこまでも可愛くて、思わぬ展開に巻き込まれたものの、因縁にも決着を付けて絆も深めつつある2人のこれからの旅が楽しみです。
14.メイクアガール/メイクアガール episode 0 (電撃文庫)
池田 明季哉/安田 現象・Xenotoon/安田 現象 KADOKAWA 2025年02月07日
亡き母の遺志を継ぎロボットを開発する天才科学少年・水溜明。研究が行き詰まっている彼が、自身をパワーアップさせるために0号を作り出す映画ノベライズ。友人の大林邦人が彼女のおかげでパワーアップしたという話を聞き、なぜか人間の彼女ではなくロボットの0号を作り出してしまう明。与えられた使命として明の彼女になるために明の友人・茜をストーカーしたり、ファミレスで働いたりと試行錯誤する0号、本質を分かっていない明の迷走とすれ違いがあって、その先で起きた事件の真相もなかなか業が深かったですけど、それ以上に歪だった関係を乗り越えて、お互いのために向き合ったはずの2人がたどり着く戦慄の結末にはじわじわと来るものがありましたね…。
池田 明季哉/安田 現象・Xenotoon/安田 現象 KADOKAWA 2025年02月07日
「万年2位」が定位置の高校生の川ノ瀬初。城北大学の〈次世代高校生プログラム〉でも2位だった彼が、1位の少女・水溜稲葉と運命的な出会いを果たす前日譚。3人一組のチームでコンペティションを勝ち抜くことが求められる状況で、同じく劇的な出会いをした最下位の少女・深森ソナタや稲葉と共にチームを組んで、なぜか共同生活を始めることになった初。天才少女への理解が足りずたびたびすれ違う彼らが、お互いを知ってゆく中で生まれる想いがあって、そこから稲葉が抱えていた秘密、そして完璧であるはずなのにままならない状況に陥ってゆく天才少女の妄執が浮き彫りになるストーリーは、この物語の世界観を掘り下げてその解像度を高めてくれました。
15.勇者は使い捨てられて (富士見ファンタジア文庫)
【第37回ファンタジア大賞《銀賞》受賞作】
異世界征服を企む魔王軍との『魔王戦争』が終結してから5年。勇者を必要としなくなった平和な地球で悩める元勇者たちの葛藤を描いたファンタジー。社会復帰後は周囲に恵まれたものの、元勇者の経歴は何にも役に立たず就活で連敗中の大学生・高砂峰秀。彼がかつての上官・御子柴からテロリスト化した『無貌勇者』を壊滅させる任務に勧誘され、赴いた任地でかつて戦友だった阿知波典華と再会する展開で、忘れられない苦い過去に対する復讐や、かつての貢献が顧みられない社会に対する元勇者たちそれぞれの鬱屈はなかなかリアルで、複雑な想いを揺さぶられ、なかなか報われない現状に葛藤しながらも、それでも前を向いて因縁に決着をつけた高砂の覚悟とその結末がなかなか印象的でした。
16.チェインアーク/インフェルノ ―願いの糸、赤き焔の報い (富士見ファンタジア文庫)
【第37回ファンタジア大賞 〈橘公司特別賞〉受賞作】
八火 照/岩本 ゼロゴ KADOKAWA 2025年06月20日
陸地と海は灼熱の地獄と化し、雲の上から垂らされた鎖をもとにつくられた空中都市カンダタ。その下層に生きるカイナが自由のために反逆の刃を振るうファンタジー。上下層に分かれた格差社会の下層で、かつて裏切られ兄を殺された復讐を胸に生きてきたカイナ。そんな彼が大切な家族やかけがえのない仲間を失い、尊厳を奪われ報われない下層での世界を覆すために立ち上がる展開で、けれど彼を突き動かす本質はどこまでも因縁の相手ジュデッカに対する復讐にあって、再会した彼女から明かされる真相に何とも複雑な想いを抱きながらも、因縁に決着をつけて過去を何とか乗り越えた彼が、相変わらずなように見えて、けれど確実に変わった未来を生きる姿がなかなか印象的な物語でした。
17.天羽ルイナの空想遊戯 彼女の作った鬼畜ゲームを、僕が攻略するまで (富士見ファンタジア文庫)
【第37回ファンタジア大賞＜金賞＞＜羊太郎特別賞＞受賞】
ショーン 田中/輝竜 司 KADOKAWA 2025年03月19日
美少女なのに自己紹介で他者の不幸を好んでいると宣ったバッドエンド至上主義者の天羽ルイナ。彼女が作ったTRPGのゲームシナリオに同級生の高瀬が挑むゲームファンタジー。ずば抜けた力を持つ、不死の存在・英雄ですら救えない、滅ぼされるために存在する絶望の世界バリスノーン。彼女が作り上げた不幸な世界を、物語はハッピーエンドであるべきだと考えて、魔導英雄となって多くの国を滅ぼしてきた夜天竜ヴリガストに挑む高瀬。希望が見えない絶望的な状況ではあるものの、彼女が作り上げたゲームなら必ずどこかに活路があるはずと信じて、第三者的観察者ポジションの友人・有栖川も絡めながら、主義が正反対の2人がお互いの思考を読み合いながら駆け引きを繰り広げていく展開はなかなか面白かったです。
18.時間を止めてデレまくる、最強無敵の黒乃さん (MF文庫J)
滝浪 酒利/うなみや KADOKAWA 2025年01月24日
時間停止能力者で最強無敵の異能エージェント、黒髪クールの超絶美少女高校生、黒乃詩亜。そんな彼女が時間を止めて、片思い中の男子・甲斐にひそかにデレまくるクロノスラブコメ。片思い中の甲斐相手に時間を止めれば誰にも知られないと、初めて好きになったがゆえの溢れそうな想いを、異能を無駄遣いして本人の前で恥ずかしがりながらも熱く語りかける黒乃。しかし実は甲斐は時間停止中の出来事を全て認識していて、気づかずデレまくる黒乃にニヤニヤしてしまう微笑ましい展開で、けれど視点が黒乃から甲斐に変わると、彼と妹分の外道が置かれた過酷な背景も明らかになっていって、不器用な愛を自覚してゆくそれぞれが直面する葛藤と難題を、ぶつかり合いながらも愛の力で乗り越えてみせたその結末はなかなか良かったです。
19.なぜ逃げるんだい? 僕の召喚獣は可愛いよ (富士見ファンタジア文庫)
【第37回ファンタジア大賞＜大賞＞】
夜迎 樹/スコッティ/バリキオス KADOKAWA 2025年01月18日
見るものに不安を抱かせてしまうおぞましい召喚獣ハッピー。彼女を召喚したヘレシーが、庶民ながら貴族が通う召喚師学園に入学する学園ファンタジー。庶民で落ちこぼれな上にその相棒ともいうべき召喚獣が怖すぎて、普通にしているだけなのに貴族令嬢を恐怖で籠絡して懐かれ、勝負を挑んできた貴族の人生を狂わせてしまったり、第二の異形美少女ハイドラを召喚したりと、その行動の数々で召喚師学園に入学して早々に浮いてしまうヘレシー。本人はあまり自覚がないまま、さらに無関係な陰謀の黒幕扱いされたり、邪神を信奉する邪教に勘違いされたりと、どんどんカオスな展開に巻き込まれていく、鮮烈なインパクトを残す異色の作品になっていました。
20.異界掃滅のソルジャーメイド1.死にぞこないの天才と異端の決死兵 (オーバーラップ文庫)
【第11回オーバーラップWeb小説大賞＜金賞＞】
河鍋鹿島/ちひろ綺華 オーバーラップ 2025年01月23日
建物内部が化け物の跋扈する異界と化す超常災害「ハウス」それを解決するソルジャーメイドのシオンが突然新部隊隊長に任命され、新人決死兵アイリスとバディを組む物語。 かつて部隊が自分以外全滅した悔恨を抱えるシオンの隊長任命と、ただ一人配属された内気で頼りない雰囲気のアイリス。なぜ彼女と2人だけの部隊なのか、疑問と不満を抱えながらの任務でハウス内ではまるで別人のアイリスの動きを知り、孤高だったシオンも徐々に相棒としての信頼を寄せていく展開で、良くも悪くも人と違う訳ありのアイリスもこじらせていてなかなか難しい存在でしたけど、窮地に力を合わせて乗り越えてみせた2人が育んでゆくかけがえのない絆がなかなか良かったですし、彼女たちのこれからをまた読んでみたいと思いました。
21.フェアリーメイド 1.傷だらけの妖精職人と壊れかけの人工妖精 (オーバーラップ文庫)
【第11回オーバーラップWeb小説大賞＜金賞＞】
澤松那函/ふわチーズ オーバーラップ 2025年01月23日
かつて人工妖精の暴走事故により両親を失った青年リュウジが、相棒で初恋の人工妖精ティルトアとともに、その暴走に対処する「壊し屋」として奔走する別れと絆の物語。日々の依頼をこなしながら、近頃増加した人工妖精が突如暴走する原因不明の症状アリシア・シンドロームの調査を開始した2人。そこで彼らが出会う人々と不調をきたした人工妖精の様々な関係や思いがあって、そこから彼らの苦い過去の真相と事故の原因に迫る展開で、今の人と人工妖精の関係性からすると何とも皮肉な真相でしたけど、それでもずっと忘れられなかった過去にしっかりと向き合った2人の関係だけでなく、物語の中で描かれたいつか終わりを迎える人と人工妖精のかけがえのない絆がとても印象的な物語でした。
22.侯爵令嬢アリアレインの追放 上 (アース・スター ルナ)
しろうるり/RAHWIA アース・スターエンターテイメント 2025年03月03日頃
王太子の突然の婚約破棄と断罪により、国外追放とされたハーゼン侯爵家の長女アリアレイン。様々な思惑が交錯するなか、前代未聞な逆襲劇が始まるファンタジー。愛はなくとも国のためを思い、お互いに良きパートナーになれると信じて努力を続けてきたアリアレインが、侮られたことを良しとせず覚悟を決め、執行前に得た3日間の猶予を使って逆襲のために着々と手を打っていく展開で、王太子や新たな婚約者クラウディアも決して暗愚というわけではなさそうですが、アリアレインの気質を甘く見ていたことは否めず、何より国政を細部まで知悉する彼女と解像度の差がここまで大きいと、後手に回るのも仕方ないですね…。様々な視点からの描写も興味深いですが、ここからどういう結末を迎えるのか下巻に期待。
23.マリオネット・マギアネッタ (MF文庫J)
八木 羊/Yucomi KADOKAWA 2025年04月25日
高校生で若くして病死した結果、人形劇団の踊り子リリシュカの魔法人形として目覚めたシモン。彼女の相棒として未知の世界を戦い抜いていくファンタジー。飛び級するほど成績優秀な一方で問題児でもあるリリシュカの言動に振り回されながら、珍しい完全自立型の魔法人形として劇団が運営する学校で他の少女らとも交流を深めていくシモン。一方で復讐依頼専門の始末屋組織という劇団の隠された顔や、昼の舞台と夜の依頼の成績で格付けされる少女たちの境遇、リリシュの過去悲劇と復讐の覚悟を知り、状況次第で敵味方も目まぐるしく二転三転していく状況の中で、自らも覚悟を決めていくシモンの心境の変化があって、共に戦いながら育まれていったリリシュカとの絆がなかなか良かったですね。
24.サンバカ!!! (電撃文庫)
【第31回電撃小説大賞＜銀賞＞受賞作】
かつて封印された自らの力を探す旅をしている聖女イグニス。彼女と出会った街のチンピラ・ネモが一緒に面白おかしい旅に出るロードファンタジー。かつて世界を治めながら信者に裏切られ、能力を奪われ不老不死となってしまったイグニス。途中で獣人のガガカも巻き込み、シリアスな展開も交えながら様々な騒動に振り回されていく展開で、ノリで恋人同士になったように見える2人の絆が意外と効いていて、師となる人と出会い変わったように思えても、そう簡単には変わらない本質に葛藤するなかなか重い女イグニスを、過去ごとまるっと彼女の今を受け止めてみせるネモがカッコ良くて、ガガカも交えた道中でこれからどんな物語が待っているのか続刊が楽しみです。
最強の悪魔祓い『聖女』の娘として生まれたメリル・クライン。傲慢で自惚れきった性格の、けれど平凡な力しか持たない彼女が、保身のために必死に謎解きをする勘違い系コメディミステリファンタジー。期待された初任務で悪魔・巨大な白狼と対峙して、どうしようもなく自分の力が不足していることを突きつけられるメリル。絶体絶命のピンチに三下系七光りだけの彼女が、ただ己の保身のため舌先三寸で必死に頭を働かせ、白狼を丸め込んで事件の背景を暴き、誤解して彼女の力を認めた白狼を従魔として、雨喚ぶ大蛇の呪いや、誘いの歌声の真相に迫っていく展開は、結果としてこれまで倒す一方だった悪魔との関係に一石を投じていて良かったですね。娘の実情を知る母の想いもなかなか複雑ですけど、周囲の勘違いが加速していく今後の展開に期待。
26.俺は学園頭脳バトルの演出家！① (オーバーラップ文庫)
【第11回オーバーラップWeb小説大賞＜銀賞＞】
片沼ほとり/香川悠作 オーバーラップ 2025年01月23日
周囲の成功を演出することに喜びを感じるモブの化身・田中叶太が、クズ親のせいでゲームによる決闘で全てが決まる帝王学園に入学する学園頭脳バトル×メタコメディ。入学早々裏社会からやってきた最強の転校生・霧谷透と運命的な出会いを果たした叶太。霧谷の俺TUEEE物語を陰から演出していくことを目標に定めた叶太が、しかしなぜか霧谷の幼馴染でもある学年最強のお嬢様・西園寺に勝ってしまい、その後も連勝してなぜか自分自身が注目を集めてゆく展開で、彼が演出のために磨いてきた多種多様な卓越した技術を力に変えて、勝つことに囚われた霧谷たちを呪縛から解き放つために、西園寺とコンビを組んで霧谷たちに立ち向かい、駆け引きを繰り広げる熱い展開はなかなか面白かったです。
27.モブ司祭だけど、この世界が乙女ゲームだと気づいたのでヒロインを育成します (角川スニーカー文庫)
レオナールD/りいちゅ KADOKAWA 2025年05月30日
乙女ゲーム世界に転生してモブ司祭となったクラエル。田舎町の神殿にやってきたみすぼらしい姿の少女レイナを保護して大切に育成していくハートフルコメディ。後に聖女となる彼女を過酷なゲームシナリオから救うべく、虐待する実家から見習いシスターとして引き取ったクラエル。彼に親代わりとして大切に見守って育てられ、ぬいぐるみに宿った精霊たちに愛されてすくすく成長して聖女としての力を持ったレイナが、恩人のクラエルを慕うのは必然の展開で、彼女が聖女とされて王都に向かうことになっても、彼女を守りその恋を成就させるために聖霊が大活躍する展開は微笑ましかったですね。鈍いクラエルからしっかり言質を取って、一途に自らの恋へと邁進するレイナを応援したくなりました。
28.無双ゲーに転生したと思ったら、どうやらここはハードな鬱ゲーだったらしい 1 (オーバーラップ文庫)
久路途 緑/英エイスト オーバーラップ 2025年05月22日
前世で異常な暴力性と「悪」に対する容赦のなさを持って転生した、7歳の可憐な少女シャロン。レベルカンストのスキルで魔族を蹂躙していくファンタジー。人類を脅かす魔族が勇者を育成する学園を密かに支配する状況で、商人と出会い一緒に旅をしながら魔族や魔獣を狩りつつ、聖剣を得るために学園を目指すシャロン。途上で村を支配する魔族を油断させて蹂躙し聖剣を奪う一方、状況を聞いてやってきた魔族の姉を欺いて学園に入学する展開で、学園ではもう一人の転生者モニカたちとも邂逅して振り回しながら、7歳のあどけない無力な少女の姿で魔族たちを油断させつつ、相手に罠にはめていく狡猾さと圧倒的な戦闘力、容赦のない狂気を突きつけていくその姿がなかなか鮮烈でした。
29.追放された侯爵令嬢と行く冒険者生活 (富士見ファンタジア文庫)
疎まれて「恋人との駆け落ち」という体で国外追放処分となった侯爵令嬢エリカ。貧乏貴族の次男で冒険者でもあるシンがそんな彼女の相手役に立候補するファンタジー。エリカが光の聖女の親友ゆえに理不尽に排除されたことを知り、初恋相手の彼女のために共にある覚悟を決めたシン。最初はシンと同級生だったのにその他大勢の１人という認識しかなかったエリカも、仮初の夫婦役ながら彼女のため剣を振るうシンのことをだんだんと信頼していくようになっていく展開で、最初の彼女が追放されることになった経緯には正直ドン引きでしたが、エリカに配慮しながら信頼できるパートナーであろうとするシンとの関係がなかなかいい感じになりそうな予感があって、これからどう変わっていくのか今から楽しみです。
30.蘭崎六花のスパルタ魔法教育白書 (MF文庫J)
人類と地球外から侵略する機械人形オートマタとの100年にも及ぶ戦争を終わらせるため、若き大魔法使い蘭崎理人が超スパルタ指導で限界突破する努力無双ファンタジー。魔法を一度極め飛び級で魔法学校の教師となり、後進育成にあたっていた理人。しかし今のやり方だけではあまりにも時間がかかりすぎる状況を憂いて、それを打開しようと圧倒的なパワーを身につけるため妹・六花のハードトレーニングで魔改造されていく展開で、同調圧力的な壁を乗り越えて、さらなる成長を促すために実施したライバル面接にやってきた謎の少女エマや、エリート魔法使いを嫌う詩音と出会い、騙され諦めかけていた被害者を最後まで諦めない、理人の熱い想いで心を揺さぶる展開とその結末はなかなか良かったです。
