4月の読了冊数は読書メーターによると最終的に122冊でした。
読んだ本122冊
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こちらでは4月に読んだ文芸単行本の新作13点、一般文庫の新作17点、ライト文芸の新作6点の計36点を紹介しています。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。ライトノベル編はこちら↓
※紹介作品のタイトルリンクは該当書籍のBookWalkerページに飛びます。
県立菅原高校の入学式当日、同じクラスになった平安時代に興味を持っている平尾安以加から声をかけられた牧原栞が、一緒に平安部を立ち上げる青春小説。安以加の熱意にうっかり入部を決めてしまい、一体何をやるのかも明らかにないまま、新部を創設するのに必要な5人の部員を集めるために奔走して、クラスメイトから上級生まで個性的なメンバーで構成された平安部の発足。その話し合いからいろんなアイデアも出てきて、平安部の方向性も見えてくる中で、京都で開催された蹴鞠大会にも出場して京大とも優勝を争う展開は盛り上がりましたし、文化祭に向けて学校の内外でいろいろ関係を作っていきながら、ゼロから部活を作っていく楽しさが感じられるストーリーはなかなか良かったです。
星の教室
いじめから不登校になり、中学中退ゆえに社会でも家庭内でも生きづらい日々を送る潤間さやかが、20歳の春に河堀夜間中学への入学を果たす物語。不信感から中学の卒業証書を受け取りを拒否したことの重さを痛感してゆく彼女が、戦争や貧しさや病など様々な事情で義務教育を終えられなかった大人たちの集う夜間中学に通うことになり、仲間たちに支えられて過ごす日々が、学校や親への不信でかんじがらめだったさやかの心を解きほぐしていく展開で、いろいろ難しいこともありましたけど、八方塞がりだった彼女が人との関わりを通して少しずつでも変わることで、自分がこれからどうしたいのかを考えられるようになっていって、叶えたい夢も芽生え始めたさやかのこれからを応援したくなる物語でした。
そういえば最近
邪気のない噂が邪気混じりの噂を巻き起こしていく。商店街の一角にある風変わりなスナックの急な閉店と、夫婦の蒸発にまつわる噂と真相についての連作短編集。「万事よろしく」と書かれた手紙、妻が町内会のフリーペーパーに綴った自伝、夫が残した未発表原稿の数々から、売れっ子作家・匙小路ルイが友人・谷川夫婦の消息を追い、ついでに夫婦のことを新作の題材にできないかと思案する中、ルイに自分でボツにしたキャラクターが見えるようになってゆく展開で、作中作もあったりとなかなかカオスでしたが、噂ではなく自分が関わっていくことで夫婦の行方と怪奇現象を絡めた状況を解き明かしていく先にたどり着いた結末はいつもの著者さんの作品とはまた違った作風であかなか印象的でしたね。
かつて数々の難事件を解決に導いた学園の名探偵・時夜遊。伝説となった大伯母のお陰で、私立雷辺女学園に入学することができた時夜翔のもとに、学園内で起きた事件解決の依頼が次々と舞い込む学園ミステリ。30年前、学園の悪を裏で操っていた理事長Ｍと対決し、ともに雷辺の滝に落ちてなく亡くなった大伯母・遊。探偵の娘として生まれたこともあり、凡人なのに大伯母のような活躍を期待され、窮地に陥った彼女が雷辺の滝で幽霊と出会い、師匠と崇めて助言を得ながらもたらされた事件を解決していく展開で、自分の無力を正しく認識して師匠に頼る翔の開き直りっぷりはむしろ清々しく、テンポよく読ませる物語の構図としてはある程度予想できましたけど、そう思わせておいて最後に待っていた意外な結末にはものの見事に驚かされました。
パッとしない大学生・金崎恵介の元に突然届いた怪しげなメール。半信半疑で従った結果、彼の日常は急速に好転し始める一方、不可解な事件に巻き込まれてゆくミステリ。ワールドカップの試合の結果を予想したAIが、劇的な結果だけでなく点差まで見事複数試合当ててみせたことをきっかけに、つい返信してしまった恵介。誰にも明かさないことを条件に、言動を具体的にアドバイスされて当初は新たな出会いもあったりと、言う通りに従っていれば上手く行く展開が続く中、だんだん雲行きが怪しくなってきて、そのプロデュースをどこまで信じていいのか、そのまま従うべきか迷う手口はなかなか巧妙でしたけど、そんな彼が知ることになる壮大な真相には唸らされました。
映画にまつわる数々の奇妙な事件を解決してきた「引きこもりの名探偵」嗄井戸高久。その事件簿に刻まれる6つの新たな物語。奈緒崎が持ち込んでくる無くなったサークル活動承認書の謎や、フィルム映画を観に行った2人が遭遇する殺人事件とフィルム交換のアリバイ、大学で起きた落下事故の真相、とある廃墟を撮影するバイトで遭遇する殺人事件、破損した遺言データといった事件を解決していく2人のその後の様子も描かれていて、何とか大学を卒業した奈緒崎がひっそりと旅に出たことで、曖昧だった2人の関係性が再定義される展開は思っていた以上にダイナミックでしたけど、お互いかけがえのない存在なんだなと改めて感じさせてくれた結末はなかなか良かったです。
長時間の連続勤務による極度の疲労で、死と狂気が常に隣り合わせの日々。他人の命のため、自らの命を削る過酷な救命の現場を描く医療小説。感染症の拡大を背景に周囲の病院の救急態勢が急速に崩壊していく中、「誰の命も見捨てない」を院是に患者を受け入れ続ける青年医師・公河が働く病院。医師が慢性的に不足しているために何日も家に帰れず、自分が睡眠や食事をとることもままならないため崩壊しつつある過酷な環境が描かれていて、学友だった産婦人科の女医が激務の末に過労死している姿が発見されるシーンはなかなか衝撃的でしたが、それでも目の前の患者に向き合って自らの身を削りながら手術を続けるどこか狂気じみた彼らの姿がなかなか壮絶でした。
入居者の老博士カーラ・ロデリックに頼まれ彼女を絞殺してしまった介護施設で働くロボットのラブ。無実を証明し己が誇りを取り戻すため逃亡する近未来SF。アンドロイドは人間を殺せないはずなのになぜ事件は起きたのか。しかもラブには事件当時の記憶がないまま。わけがわからないうちに追訴され下される無期懲役の判決、気がついたら看守の油断をついて脱獄していたラブ。官憲や配信者、アンドロイド排斥に血道をあげる者たちの追跡を受けながら、傭兵アイザックに窮地を救われて謎の真相を追う中で、人権問題や安全神話、過去の因縁も絡めた様々な思惑も浮き彫りになっていって、思わぬ方向に向かっていく物語の結末はなかなか面白かったですね。
小学校図書館司書として働くことになったまふみが、引っ越した製本工房が併設されたアパートに暮らす中で、様々な人と出会い製本の世界を知ってゆく物語。非常勤の司書として働きながら司法書士を目指すという目標を断念しつつあるものの、親や周囲にもなかなか言えずなかなか気持ちを切り替えられないまふみ。そんな彼女がアパートの1階にある製本工房と大家で製本職人の瀧子親方と出会い、その素敵な人柄や彼女の製本する様子に惹かれてゆく中で、引きこもり気味な孫・由良子とも出会う展開で、製本する様子もなかなか興味深かったですが、何より図書室にやってくる子どもたちや、製本を学ぶ中で様々な人々と出会い向き合ってゆく彼女が、これからの希望を見出してゆく姿が印象的でした。
【第21回女による女のためのR-18文学賞大賞受賞作】
難病の母を介護しながら高校に通う17歳の沙智。絶望を感じる状況の中でいかに自分の人生を生き抜くかを描いた青春小説。父親は稼げないのに浪費家で母の介護にも協力的でない貧乏な家庭。母の介護をしている状況を担任の先生や同級生に大げさなくらい同情される状況には、沙智自身も眼の前のことをどうするかに精一杯で、自分の未来を信じられなくなるのも仕方ないと感じましたが、ここから幸運にも大学に進学してからも、相変わらず実家に戻って面倒を見てくれるのを当然と考える両親のプレッシャーを感じながら、自分の人生をどう生きるのか。こういった境遇はそう簡単に解消されるものではなく、彼女が抱え続けた葛藤はなかなか壮絶で心に来るものがありました。
大学生の水野真広に届いた「本能寺の変440年を記念して前世の旧交を温めよう」という謎の同窓会案内。参加者たちと前世を推理しながら不穏な同窓会を乗り切るミステリ。織田信長の生まれ変わりも出席する冗談みたいな案内で、京都の高級旅館で旅費は幹事持ち、その幹事も誰かわからない謎の同窓会。明智光秀や豊臣秀吉、浅井長政などが参加しているらしい他の参加者は一体誰が誰なのか。そこに興味本位で参加した真広は、自身の前世が誰なのかも判然としないまま、他の参加者との交流や過去の記憶の回想も絡めつつ、それぞれの行動を基に前世を予測していく展開で、なぜこの同窓会が開かれることになったのか、彼らの口から明かされる本能寺の変の真相はなかなか面白かったです。
高校の漫画研究会に所属してデビューを夢見る葵と由利。歌舞伎町のビルから女子高生が転落した事件をきっかけに、人生の歯車が狂い始める青春ミステリ。これまで葵1人だった漫画研究会に新たに加入してきた由利。努力家の葵と絵の才能を感じさせる由利というタイプの違う2人が様々な出来事を通してお互いに刺激しあえる存在になっていくかけがえのな青春の日々。そこから第二部の夢を叶えたその後の展開と、タイトルがどう結びついていくのか、その繋がりをなかなかイメージできなくて、ずっと気になりながら読んでいましたが、巡り巡ってこういう展開が待っているとは思わなかったです。ものの見事にしてやられました。
バンコクの駐在妻マリ。コロナ禍の国境封鎖で出張先から帰ってこられなくなった夫と別居生活を送る彼女が、タイ人の青年テオと出会う恋愛小説。高級アパートで暮らしてはいるものの、日本にいた母の葬儀にも参加できず、言語も文化も異なる場所で孤独なマリに声を掛け、寄り添い理解しようと向き合ってくれたテオ。法的に働くことも出来ない彼女が、スーパーの若い店員の優しさに触れ心惹かれてゆく展開はありきたりとも言える構図でしたが、濃厚な日本人社会に適応できなければこういうことも起こるんだろうな…と思わせるものがありましたし、一方で様々な形で描かれているあまり触れる機会のないタイの文化についてもなかなか興味深く読みました。
君のクイズ (朝日文庫)
生放送クイズ番組『Q-1グランプリ』の決勝戦に出場したクイズプレーヤー三島玲央。しかし対戦相手にまだ一文字も問題が読まれぬうちに回答され、優勝を逃す不可解な事態に直面するミステリ。一体なぜ対戦相手の本庄絆は問題も聞かずに次々と正解することができたのか。真相を解明しようと彼について調べ始めて、決勝戦を１問ずつ振り返ってゆく三島。振り返った過去には三島と本庄がこれまでクイズプレイヤーとして積み重ねてきたものが垣間見えてきて、相手に対する理解を深めていく過程で共感すら覚えたはずなのに、けれどそこから辿り着いた先に見えてきたものにはどうしても埋められない溝を感じてしまう、何とも皮肉な結末が効いていました。書き下ろしで追加された後日談も良かったです。
リライト〔映画ノベライズ〕 (ハヤカワ文庫JA)
2009年夏。未来から来たという保彦と出会った尾道の高校3年生美雪が、旧校舎崩壊から彼を救うために10年後に跳ぶタイムリープ青春ミステリの映画版ノベライズ。2019年夏。作家となり彼と過ごした夏、時を超える薬、突然の別れという自らの経験をもとに小説を執筆し始めた美雪。しかしタイムリープ当日になっても訪れなかった自分、そして変わらないはずの過去の真相を調べていく中で、ふとしたきっかけから明らかになっていく、思いもしなかった10年前の真相。それぞれの視点で過ごした青春の思い出があって、それが自分だけのものだと思っていたのに…と、知ってしまえば複雑な気分になるのも仕方ないなと思いましたが、甘酸っぱくてほろ苦いその結末もまた効いていました。
ファラオの密室 (宝島社文庫)
紀元前1300年代後半の古代エジプトを舞台に、死んでミイラにされながら、心臓に欠けがあるため冥界の審判を受けることができなかった神官のセティ。欠けた心臓を取り戻すために地上に舞い戻るミステリ。3日間という期限を設けられて地上に舞い戻り自分が死んだ事件の捜査を進める中で、やがて直面するミイラ消失事件というもう一つの大きな謎。異国で捕らえられて奴隷となった少女カリ視点も加えていきながら、唯一神アテン以外の信仰を禁じた先王を巡る企みにも立ち向かう展開になっていましたけど、ストーリーとしては面白かった一方で、いろいろな出来事が起きていく中でやや当初の目的が薄れてしまった感があったのは否めなくて、何より当時のエジプトでは蘇った存在が普通に受け入れられるのか、そこがちょっとだけ気になりました（苦笑）
夜の道標 (中公文庫)
一九九六年、横浜市内で塾経営者が殺害され、早々に浮上した被疑者が忽然と姿を消して二年。それぞれに守りたいものが絡み合い、事態は思いもよらぬ展開を見せていく慟哭のミステリ。事件発生から二年経った今も足取りはつかめていない被疑者の元教え子。夫と離婚して惣菜屋で働く殺人犯を匿う女、窓際に追いやられながらも事件の捜査を続ける刑事など、複数視点で進んでいくストーリーで、父親から虐待を受けて、生活費を稼ぐために当たり屋をさせられる厳しい境遇の少年など徐々に明らかにされてゆく希望の見えない各々の行き詰まった日々の描写と背景には何とも切なくなりましたけど、そんな閉塞感のある全てをぶち壊してみせたその結末はなかなか印象的でした。
愛じゃないならこれは何 (集英社文庫)
ままならない恋に直面した時にどうするのか、それでもどうにかせずにはいられない登場人物たちの葛藤と狂おしいまでの愛を描いた恋愛小説集。地下アイドルだった自分を推してくれていたファンをストーカーするアイドル、エモい物語を一緒に歩んできたビジネスパートナーの突然の結婚報告に動揺する天才デザイナー、高校から続く男2人と女に生じた一方通行の三角関係、新入社員の好青年に一目惚れして生活を犠牲に一生懸命話を合わせる先輩、そして書き下ろしで追加された東グレの短編。客観的に見れば良くないことだと分かっていても、理屈でどうにかなるものでもないから、ついついあがいてしまう…そんな不器用さが印象的でしたが、けれどそれもまたひとつの愛なんですよね。
ロールキャベツ (徳間文庫)
夢も趣味もない大学生の夏川誠と、ただ椅子に座るだけの遊び「チェアリング」の仲間たちとの出会いから、人生が大きく変わってゆく青春起業小説。ミュージシャン志望のパン子、農家レストラン経営を夢見る風香との出会いから始まった、シェアハウスに住む投資家志望のミリオンと、喫茶店のオーナーを目指すマスターも一緒に、椅子を持ち歩いて、好きな場所でくつろぐ「チェアリング」をして過ごす刺激的でかけがえのない日々。彼らはそれぞれにままならない複雑な事情を抱えていて、窮地に陥った仲間のために奔走する彼らが、時にはすれ違いながらもみんなで一生懸命考えていく中で、それぞれの特性を活かした新たな夢を見出してゆくとても素敵な物語でしたね。
学園の魔王様と村人Aの事件簿 (角川文庫)
不穏な噂も多く注目される光嶺学園で「魔王様」とあだ名されている容姿端麗な優等生・御崎秀一。彼と普通の男子高校生・山岸巧が2人で身近に起きる謎を解いてゆく連作青春ミステリ。ふとしたきっかけから友人になり、御崎の類まれなる推理力を知った巧が、彼の助手となって一緒に学校や町で起こる事件解決に挑む展開で、片方の個室だけいたずらされるトイレ、犯人を見ても名乗り出ない目撃者、酔って寮から転落死した先輩、半グレの仲間割れ殺人事件など、些細な違和感を見逃さずに事件を解き明かしていく一方で、友人関係には意外と不器用な御崎が、コンビを組みながら友情を育もうとする姿に、巧もついうっかりキュンとしてしまうチョロさには苦笑いでしたけど、そんな2人の距離感もなかなか良かったですね。
オークションの女神 (双葉文庫)
東京の中堅オークション会社で働く小洗凜太郎が、仕事も外見もエレガントな上司・冬城美紅と社運を賭けたオークションの開催に挑むアートサスペンス。ウォホールやピカソの作品を集結させたオークション。その開催直前に突如舞い込んだ爆破予告は、一体誰が何のためにしたのか。どうしてもウォーホル作品を落札したいご令嬢、借金で妻と冷戦状態のサラリーマンコレクター、経営のため禁じ手を使おうとするギャラリーオーナーなど、様々な人生の縮図や追い詰められていった人々の狂気、それぞれの目的を果たそうと繰り広げられる駆け引きが描かれていて、ちょっかいをかけてくるライバル会社も絡めた構図に挑む2人とその結末はなかなか面白かったです。
祟り神さまの災愛なる花嫁 (角川文庫)
幼い頃に母と死に別れ、不幸続きでも前を向いて人生を送ってきた大学生の未砂。ある日、バイト帰りに藤色の瞳を持つ美しい青年・宝条亜樹と出会う契約結婚物語。この国の経済に大きな影響力を持つ宝条家現当主でもあり、未砂の不幸には原因があることを説明した亜樹から契約結婚を申し込まれ、原因である藤の君を鎮めるまでの期間限定で亜樹と契約結婚する未砂。お互いの複雑な家の事情と過去の因縁が明らかになる一方で、以前から未砂を知る彼との思い出を探り、その境遇を知る中で少しずつ変わってゆく思いがあって、未砂を呪いから解放するために動く亜樹の想いを知った未砂もまた覚悟を決めて、2人で一緒に切り開いてみせた未来がなかなか素敵な物語でした。
纏足探偵 天使は右肩で躍る (集英社文庫)
清・康煕帝時代の北京を舞台に、中央アジア・サマルカンドで生まれた回教徒の少女・瑠瑠が、名家・趙家の纏足令嬢・月華と一緒にもたらされる謎解きに挑む青春中華ミステリ。意にそぐわない結婚を断ってくれた父が殺され、親類を頼り中国へやってきた瑠瑠。そこで出会った外を自由に出歩けない月華に代わって、殺された劇団の頭領、辮髪を切る亡霊、行方不明の猫探しと駆け落ちした若い男女、妖怪屋敷といった事件を調べ、もたらされた情報をもとに安楽椅子探偵よろしく月華が謎を解いていく展開で、卓越した推理力を見せる一方、それが退屈しのぎかのごとく振る舞い、瑠瑠を猫扱いする月華に不満を覚えながらも、一転危機に陥った彼女を救うべく奔走する2人の間には、それまで積み重ねてきた確かな絆が感じられました。
分岐駅まほろし (実業之日本社文庫)
満月の夜だけ現れる過去後悔を抱えた者たちが行き着く不思議な分岐駅まほろし。人生の分岐点へ巻き戻り過去を巡る涙と感動の連作短編集。もしもあの日、あの時、過去の分岐点で違う選択肢の人生を歩んでいたら…もしもあの時、告白をしていたら、もしもあの時第一志望の大学に合格していたら、もしもあの時夢を追わなければ、もしもあの時病院に連れて行っていたら、そしてもう一度会いたい大切な人。その時の選択肢次第では今よりもよりよい可能性があったのではないか。過去は変わらなくとも、もしそうしていたらどうなっていたか、考えずにはいられない人生を追体験してゆくストーリーで、それぞれが過去に向き合うことで本当に大切なものに気づいてゆく素敵な物語でした。
泣きたい午後のご褒美 (ポプラ文庫)
青山 美智子/朱野 帰子/斎藤 千輪/竹岡 葉月/織守 きょうや/小川 糸 ポプラ社 2025年03月05日
どんなときでも「喫茶店」でのひと休みと「物語」が癒してくれる。お茶の時間に交錯する人間ドラマを紡いで、心をやさしく潤す短編集。憧れのカフェでバイトをはじめたばかりの店員に先輩がくれたアドバイス、思い出のルノアールで高校時代の親友と作るプランニングシート、極上のホットケーキとマダムが提供する紅茶占い、女子高生が迷い込んだ神保町のレトロ喫茶の不思議、あらゆる告白をただ受け入れてくれる喫茶店のマスター、こちらとあちらの中間生にあるナカマ茶屋など、全体のページ数もあまりボリュームがあるわけではなく、それぞれのお話もやや短めでしたが、これはこれでそれぞれ著者さんたちのらしさが感じられる作品でしたね。
どうせそろそろ死ぬんだし (宝島社文庫)
【第23回『このミステリーがすごい！』大賞・文庫グランプリ受賞作】
余命宣告された人々が集まる山荘で起きたある突然死。ゲストとして助手の律と共に山奥の別荘に招かれた探偵業を営む七隈が事件の解決に挑む「館」ミステリ。不審死は自然死か殺人か。殺人であれば余命わずかな人間をなぜわざわざ殺したのか。七隈たちは死因の調査を始めていく中で、明らかになっていく思わぬ真相。登場人物も少なくない中で、それぞれれの背景の紹介にページを割いてしまい、物語が動き出すまでがやや冗長に感じられた部分もありましたが、ストーリーとしては手段としてはそこまで難しくはなかった事件の真相よりも、作り上げられていた物語の構図がポイントになっていて、これは流石に予想できなかったですね…。タイトルのオチはそういうことでしたか。
アオハルスタンド ~福島県立桜堂高校野球部の誓い~ (集英社文庫)
識字障害のディスレクシアを抱える高校生・円谷桃李。周囲の助けを得ながら、大好きな野球で甲子園を目指す青春小説。かつて同級生である明日馬の兄・翔の助言に救われ、小学生の頃、東京に転校した幼馴染の明日馬と一緒に桜堂高校野球部に入ると約束していた桃李。しかしその明日馬が同じ福島県内の強豪私立高校入学していることを知ってしまい、複雑な想いを抱えながらも仲間とともに甲子園を目指す展開で、様々な因縁の背景も明らかになっていく中で、勝ち上がって夢への期待を抱かずにはいられない分、思ってもみなかった形で厳しい結末が待っていましたけど、それを何とか乗り越えた彼らの新たな挑戦をまた読んでみたいと思いました。
殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス (角川文庫)
身代わりとなった親友セリヌンティウスを救うため、3日で故郷と首都を往復しなければならないメロスが、次々と巻き込まれていく事件を推理していくミステリ。早く帰りたいメロスが遭遇する妹の婚礼前夜、新郎の父が殺された事件。その後も道のりに立ちふさがる山賊の死体や、荒れ狂う川の溺死体といった事件に次々と巻き込まれていく彼が首都で直面する衝撃の真実。思考回路が単純で、特に賢いわけでもなくフィジカルで何とかするタイプのメロスだけに突拍子もない行動も多く、その推理の多くは的外れだったりして苦笑いでしたが、登場人物の名前もあれだったりでじわじわ来たり、コメディとしても突き抜けていてついミステリであることを忘れてしまいそうになるなかなか楽しい物語でした。
双子探偵 詩愛&心逢 (TO文庫)
手毬坂女子学園に新入生として入学した白雪詩愛と心逢。音楽でも小説でも無双する天才美少女双子姉妹が学園に思わぬ騒動を巻き起こす学園ミステリ。入学式で2人で即興の演奏をかまして、新聞部の取材を受けて号外が出たりと入学早々注目を集める詩愛と心逢。少し調子に乗りすぎたと思いかけたところに、寮の彼女たちの部屋の前に伝説の目安箱が設置されて、入れられていた投書をもとに誰が置いたのか調べ始める2人。鍵を握るギャルな生徒会長やお嬢様新聞部長、母性溢れる寮長といった個性的な三人衆に、彼女の後見人でもある佳乃さんを絡めた展開は、ミステリとして見るとライトな印象でしたけど、いきいきとよく動く双子のテンポの良い掛け合いがなか楽しかったです。
双子探偵 詩愛&心逢 さようなら、私の可愛くない双子たち (TO文庫)
鈴木大輔/深崎暮人 TOブックス 2025年04月25日頃
夏休み。とある田舎の片隅に暮らす双子の中学生・白雪詩愛と心逢の元に届いた謎めいた10枚の絵葉書。2人の高校入学前の出来事が描かれる前日譚。正体不明の依頼人から提示される報酬一億円のリアル謎解きゲーム。怪しみながらもゲームに乗っかる詩愛と心逢が絵葉書が示す場所を辿るうちに浮き彫りになっていく、心の奥底に封じ込めていた記憶と亡くした母の真実。手探りで絵葉書の意味を考える双子と依頼人側の視点も交えながら描かれるややシリアスめのストーリーでしたが、依頼人自身も気づいていなかった絵葉書の意味には、姉妹たちのかけがえのない思い出が詰まっていて、そんな彼女たちがたどり着いた真相と、きっとずっと忘れない鮮烈な結末がなかなか印象的な物語でした。
古典確率では説明できない双子の相関やそれに関わる現象 (メディアワークス文庫)
【第31回電撃小説大賞＜メディアワークス文庫賞＞＆＜川原礫賞＞受賞作】
東堂 杏子 KADOKAWA 2025年04月25日頃
親友に恋人を奪われ荒んだ日々を送る広島の大学生・斉藤勇魚と、北九州の実家で最愛の人に突然捨てられ絶望する双子の妹・真魚。彼らの人生が年の離れた弟の誕生で転機を迎える青春小説。転居した先でお世話するようになった年上のお姉さんに癒やされる勇魚と、絶望の末にずっと寄り添ってくれた幼馴染の存在に気づく真魚。奇しくも隣人との交流に救いを求めた双子の何とも近くて対照的な関係性があって、本音で語りたかっただけなのに建前を崩さない親に対する諦観が描かれる中で、それが彼女なりにどうしても譲れない一線であったのだろうと感じる一方で、双子たちにそれぞれのやり方で寄り添う、大人相手に辛酸を嘗めてきた飯田の達観や、すっと真魚の味方であり続けた市原の存在には救われる思いでした。
夏空と永遠の先で、君と恋の続きを (メディアワークス文庫)
【第31回電撃小説大賞＜メディアワークス文庫賞＞受賞作】
伯父の旅館を手伝う浪人生の入江渚沙。八月三十日を繰り返していることに気づいた彼が、友人と島に遊びにやってきた同じ日を繰り返す大学生・藤壺ひまりと運命の出会いを果たすタイムループ小説。同じ状況、同じセリフを繰り返す中で、ひまりの髪飾りだけが「昨日」と違うことに気づく渚沙。永遠に続く離島の夏を共に過ごす中で、彼ををからかっては困らせるひまりといくつもの思い出を積み重ねて、いつしか恋をして想いを確かめ合った時、彼女に知らされることになるタイムリープの悲しい真実。いつか終わってしまうはずの恋に何とか抗おうとして、大切に綴られた彼のかけがえのない想いを知って、未来で待つ彼のためにこれまでずっと超えられなかった時を乗り越えてみせたその結末がとても素敵な物語でした。
すばらしき新式食 SFごはんアンソロジー (集英社オレンジ文庫)
新井 素子/須賀 しのぶ/椹野 道流/竹岡 葉月/青木 祐子/深緑 野分 集英社
2025年04月17日頃
過去や未来、宇宙の果て。人類にとって不可欠な「食」をテーマにしたSFグルメ食べつくしアンソロジー。とある博士が発明した煮ると栄養満点のスープ(ただし美味しくない)が無限に作れる石、地球に住む祖父に預けられた孫娘が直面するカルチャーショック、女性の脳内に棲み着く肉を愛する寄生種族、新型ウイルス感染者が遭遇する思わぬ事態、見た目はまずそうでも美味しい囚人飯の開発依頼、国民が唯一食べるしあわせのパン、給仕ロボットが離反した世界、飢餓に直面する泡沫移民など、様々な舞台で著者さんたちが趣向をこらしたアプローチで描かれる食へのこだわりや想いが感じられる短編はどれも面白かったです。
ハンティングエリア ~船上の追跡者~ (集英社オレンジ文庫)
【2024年 ノベル大賞受賞作】
意に染まぬ結婚を強いられ、鬱屈した日々を送るマイラ。夫フレイが豪華客船の試験航行を兼ねたクルーズに招待され、思わぬ惨劇に直面するサスペンス小説。遺伝子操作した自分たちはエリートだと思っていた乗客8名。しかし彼らが富豪の罠に落ちて航海の途中目を覚ますとクルーは姿を消し、波間に漂う船に取り残され、そこから正体不明の処刑人により乗客が殺されていく展開で、緊迫した状況下で乗客たちそれぞれの本性も明らかになっていきましたけど、マイラが密かに船倉で発見したた言葉の通じない青年テグとともに誰も信じられない状況を生き延びようとする中で、今の社会に対する疑問を感じるようになっていく一方、自覚していくテグとの確かな絆が印象的な物語でした。
幸せの黄色いポスト それは、十年前から届いた手紙でした (集英社オレンジ文庫)
いぬじゅん/つじこ 集英社 2025年04月17日頃
十年前「幸せを届ける黄色いポスト」に投函された手紙。そこに書かれた大切な人からの言葉が沁みる5つの短編集。差出人不明のラブレターと10年間勘違いしていた片思い、なかなか一歩踏み出せないOLのもとに届いたおばあちゃんからの手紙、出世したものの家族と距離ができていたサラリーマンが娘からの手紙から志す家族復活作戦、幼馴染の死を機に不登校になってしまった中学生と幼馴染3人が交わしていた約束。夫を亡くして一周忌を迎えた妻に届く十年前の夫からの手紙。どうしていいのかわからなくなりかけた時に届く心に沁みる手紙をきっかけに、勇気を出して新たな一歩を踏み出してゆく主人公たちを応援したくなる短編集でした。
君がくれた七日間の余命カレンダー (双葉文庫パステルNOVEL)
幼い頃から片思いをしていた幼馴染の心花が突然不慮の事故で亡くなってしまい、そのことを許容できない高二の創生が、7日前の世界に戻るタイムリープ青春小説。やり直す機会を得た創生が心花の死を何とか回避すべく、その原因を何とか排除しようとするものの、それでもなぜか別の理由で亡くなってしまう心花。彼女を守りきっても別の友人が亡くなったり、なかなかタイムリープする状況を乗り越えられない状況に、友人たちに打ち明けてその知恵も借りながら、その原因を模索していった創生が辿り着いたもう一つの真相はなかなか切なかったですが、これまで話すことのなかったお互いの気持ちを確かめ合い、心花を励ましながら最後まで諦めなかった2人が乗り越えたその結末はなかなか良かったです。
