「Kindle本クリスマスセール」の一環で年末22年12/29まで早川書房の対象商品1000冊以上が最大50%OFFとなっています。そこで対象商品の中からおすすめ作品を30点セレクトしました。気になる本があったらこの機会にぜひ読んでみて下さい。
※各作品タイトルのリンクはBookWalkerページに飛びます。
同志少女よ、敵を撃て
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逢坂 冬馬 早川書房 2021年11月17日
独ソ戦が激化する1942年、突如として日常を奪われたモスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマ。赤軍の女性兵士イリーナに救われた彼女が、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵を目指す物語。母を撃ったドイツ人狙撃手と母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するため、理不尽で過酷な戦争を多くの仲間を喪いながら生き延び、狙撃兵として成長してゆく展開で、何が正しく間違っているのか難しい状況が続く中、時折垣間見える彼女の危うさにはたびたびハラハラさせられましたが、多くの葛藤を抱えながらもその戦争を生き延びて、過去の因縁にも見事決着をつけてみせた彼女の生き様がとても印象的な物語でした。
2.プロジェクト・ヘイル・メアリー(早川書房)
プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
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アンディ・ウィアー/小野田 和子 早川書房 2021年12月16日頃
大ヒット映画「オデッセイ」のアンディ・ウィアー最新作。映画化決定!未知の物質によって太陽に異常が発生、地球が氷河期に突入しつつある世界。謎を解くべく宇宙へ飛び立った男は、ただ一人人類を救うミッションに挑む! 『火星の人』で火星でのサバイバルを描いたウィアーが、地球滅亡の危機を描く極限のエンターテインメント
3.ザリガニの鳴くところ(早川書房)
ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。
4.三体(早川書房)
物理学者の父を文化大革命で惨殺されて、人類に絶望した中国人女性科学者・葉文潔。その数十年後、ある会議に招集されたナノテク素材の研究者・汪淼が、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる中国SF小説。なぜそのような怪現象が起きているのか。父を殺されたその後の葉文潔が描かれて、VRゲーム『三体』が示唆するものは意味深で、明らかになった真相がまた壮大なスケールの物語でしたけど、それでいて要所で人間らしい生々しい感情がポイントになっていたのが印象的でした。
円 劉慈欣短篇集(早川書房)
人間 六度/ろるあ 早川書房 2022年01月19日頃
人類がテレポート能力に目覚めた近未来。不慮の事故がトラウマとなり能力を失った赤川勇虎は、違法テレポートによる麻薬密売組織から逃亡した少女ナクサと運命的な出会いを果たす物語。ふとしたきっかけから出会ったナクサにうっかり関わってしまったことで、その逃亡生活に巻き込まれてゆく勇虎。失われた地に住むロードピープルの助けを借りて、敵の襲撃に対応しながら組織の拠点に向かう展開でしたけど、そこで明らかになってゆく壮大な計画、苦悩しながらも勇虎が立ち向かう展開は粗削りながらもスケールの大きさを感じさせてくれる物語でした。
サーキット・スイッチャー
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安野 貴博 早川書房 2022年01月19日頃
完全自動運転車が急速に普及した2029年の日本。自動運転アルゴリズムを開発する企業の代表・坂本義晴は、仕事場の自動運転車内で襲われ拘束されてしまう近未来小説。「ムカッラフ」を名乗る謎の人物に突如拘束され、とある死亡事故が起きたロジックの説明と開示を要求された坂本。襲撃犯の様子が動画配信で中継される中、首都高封鎖が要求されて封鎖しなければ車内に仕掛けられた爆弾が爆発する緊迫感がある展開で、エンジニアと組んだ刑事が意外なルートからのアプローチで真相に迫ってゆくストーリーはテンポもよくてなかなか面白かったです。
7.氷の致死量
8.転生令嬢と数奇な人生を
9.鈴波アミを待っています
櫛木 理宇 早川書房 2022年05月10日頃
聖ヨアキム学院に赴任した教師の鹿原十和子。そしてまた一人、犠牲者である彼女の生徒の母親を解体する殺人鬼・八木沼武史。十和子と八木沼、二人の運命が交錯するシリアルキラー・サスペンス。自分に似ていたという教師・戸川更紗が14年前、学院で殺害された事件に興味を持つ十和子、更紗に未だ異常な執着を持つ八木沼に、十和子や周囲の様々な親子関係や夫婦夫婦関係、セクシャルな問題など様々なこと問題にも直面しながら、運命ともいうべき絡み合った糸が解き明かされてゆく展開で、視点が変わるととまた新たな構図が見えてゆく先にあった、執着とボタンの掛け違いから起きた悲劇とその結末がなかなか印象的な物語でした。
転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁
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かみはら 早川書房 2021年12月02日頃
ファルクラム王国の中流貴族キルステン家の令嬢に転生したカレン。温かい家族に囲まれて幸せに暮らしていたが、14歳の頃、なぜか兄姉弟の中で自分だけ母親の記憶から忘れ去られてしまった。家を出て平民として暮らすことにして2年が過ぎた16の春。ここでまた転機が。皇帝の愛妾となった美貌の姉に呼び戻され、カレンは結婚をすすめられる。平民に落とされた妹を貴族籍に戻そうという姉心であったが、いわゆる政略結婚だ。婿候補は2人いた。侯爵家の次男で容姿端麗・将来有望な騎士ライナルトと妻に先立たれた地方領主のコンラート老伯爵。果たして、カレンの選択は……?
鈴波アミを待っています
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塗田 一帆 早川書房 2022年03月16日頃
Vtuber鈴波アミがデビュー1周年を迎えた夜。しかし待望の配信は始まらず彼女は突如失踪してしまい、諦めない視聴者たちは推しの復帰を信じ続けるVtuber小説。主人公に偶然見出され、かけがえのない日々を積み重ねて成長してきた鈴波アミ。彼女の原因不明の失踪を、1年分の配信アーカイブを同時視聴しながら推しを待ち続ける主人公たちの思い。拗らせすぎて時には揶揄され炎上する主人公には苦笑いでしたけど、彼女を応援してきた人たちの熱い思いを胸に、再びステージへ向かおうとする彼女を支えながら、それでも自分はあくまで1ファンとして彼女を推すその矜持と結末にはぐっと来るものがありました。
10.AI法廷のハッカー弁護士
AI法廷のハッカー弁護士
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竹田 人造 早川書房 2022年05月24日頃
複雑化する訴訟社会にあって、AI裁判官が導入された日本。あくまで機械として冷徹に分析する不敗弁護士・機島雄弁とこの国の正義をめぐるAI法廷ミステリ連作集。AIの穴をついて勝訴するハッカー弁護士の顔も持つ悪徳漢・機島が助手の軒下と組んで挑む、被告人を裏切りながら勝訴した殺人事件、脳波義足事故を巡る真相、不正データ使用リーク事件の再審請求、そして陥れられた軒下とマスターキー裁判。恩師や親友との因縁も絡めながら、苦い過去の事件の真相やAI裁判官の疑惑も追う展開で、何度も難しい局面に陥りながら、思ってもみなかった方法で盤面をひっくり返してみせる展開は痛快で面白かったです。
11.僕が愛したすべての君へ(ハヤカワ文庫JA)
並行世界間が実証された世界。両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦が、地元の進学校で85番目の世界から移動してきたというクラスメイト・瀧川和音と出会う物語。入学時の因縁をきっかけに運命的な出会いを果たした、暦と和音の一見腐れ縁のようにも思える関係。同時刊行作品の出来事との関連性を織り交ぜつつ、並行世界が実在する世界ならではの問題に悩まされながらも、それを力を合わせて乗り越えてゆく二人はとても幸せだったんだろうなと思わせるものがありました。二つ読んで比べてみるといろいろ思うところが出てきてとても面白かったです。
君を愛したひとりの僕へ(ハヤカワ文庫JA)
並行世界間が実証された世界。両親の離婚を経て父親と暮らす少年・日高暦が、父の勤務する虚質科学研究所で佐藤栞という少女に出会う物語。親同士が離婚した研究者という共通点から、共に過ごすうちにほのかな恋心を育んできた暦と栞。全てを一変させるきっかけとなった親同士の再婚話と二人を襲った悲劇。諦めきれずに彼女を取り戻すために生きることを決意した暦の執念は凄まじいと感じましたが、そんな彼に寄り添うように支え続けた同僚の研究者・和音の献身ぶりにも思うところが多かったです。同時刊行のどちらを先に読むのかは悩ましいですね。
12.なめらかな世界と、その敵 (ハヤカワ文庫JA)
なめらかな世界と、その敵
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伴名 練 早川書房 2022年04月20日頃
いくつもの並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描く表題作ほか、テイストの違う独特な世界観が描かれた6つのSF連作短編集。ゼロ年代SF論、脳科学とインプラントと複雑な想いが交錯する愛憎劇、ソ連とアメリカの超高度人工知能を巡る争い、未曾有の災害で新幹線が陥った低減世界など、それぞれの作品らしい良さが感じられて面白かったです。個人的には「美亜羽へ贈る拳銃」「ひかりより速く、ゆるやかに」が好み。相手を思う真摯な気持ちの中にも複雑な想いが入り混じるからこそ明示されない結末がとても印象的なものに思えました。
13.君の話 (ハヤカワ文庫JA)
記憶改変技術「義憶」が普及した世界。二十歳の夏、天谷千尋が一度も出会ったことのない、存在しないはずの幼馴染・夏凪灯火と再会したことで動き出す物語。何もない過去を消したかったはずが、植え付けられるたった一人の幼馴染の鮮明な記憶。あまりにも運命的な再会から突如目の前に現れた灯花の存在を疑って、どうしようもなく惹かれてゆく千尋。そこにはもうひとつの物語があって、不器用でお互い遠回りせざるをえなかった二人がきちんと向き合って、儚く切ないけれど優しさが感じられる物語の結末に著者さんらしさがよく出ていると思いました。
14.裏世界ピクニック(ハヤカワ文庫JA)
裏側で「くねくね」を目にして死にかけていた時、仁科鳥子と運命的な出会いを果たした女子大生の紙越空魚。危険と隣合わせで謎だらけの裏世界に二人で足を踏み入れる怪異探検サバイバル。研究とお金稼ぎを目的とする空魚と、姿を消した大切な人を探すために非日常へと足を踏み入れる鳥子。始まりと出会いはやや唐突にも思えましたが、成り行きから何となくコンビを組んだ感もあった二人に絆めいたものが生まれて、相手のために奔走する展開は悪くなかったですね。タイトルにあるようなピクニックとはとても言えない怖いテイストでしたが続巻に期待。
15.死刑にいたる病(ハヤカワ文庫JA)
鬱屈した日々を送る大学生・筧井雅也の元に、連続殺人鬼・榛村大和から唯一の冤罪を訴える手紙が届き、彼の生い立ちや事件の再調査を進めていくことを決意する物語。榛村と面会し調査を進めていくうちに、周囲から明るくなった、変わったと言われる一方で、昔をよく知る灯里には違和感を指摘される雅也。調べていくうちに意外なところで繋がっていく過去の負の連鎖と、榛村という恐ろしい存在にいつの間にか魅入られていく恐怖。決別してようやく平穏を取り戻せたかと思われた描写の裏で、まだまだ終わらない連鎖が示唆されるエピローグは秀逸です。
16.死んでもいい(ハヤカワ文庫JA)
同級生が刺殺された事件の取り調べで「ぼくが殺しておけばよかった」と告白した少年の真意、幼稚園で起きたママ友の災厄の真相、数十年ぶりに再会した義姉、夫のストーカーに殺された妻の想い、三十年ぶりに訪れた街で明かされる事件の真相、そしに著者自身が登場人物となって描かれる書下ろしの「タイトル未定」を含めた連作短編集で、うまくやったと思ったら終わらない恐怖にぞっとさせられたり、意外なところで繋がっていたり、著者さんらしい作品が多かったですが、最後の「タイトル未定」はこれまでとはまた違ったアプローチで面白かったです。
17.ダークナンバー(ハヤカワ文庫JA)
監視カメラ情報とプロファイリングで連続放火事件を追う警視庁刑事部分析捜査三係の渡瀬敦子。記者復帰を狙う東都放送報道局・版権デスクの土方玲衣。中学校時代の同級生二人が事件を追う報道×警察小説。消極的理由から警察官僚の道を選んだ敦子。野心を持って成り上がると決めた玲衣。似たような境遇ながら正反対の性格だった二人を掘り下げつつ、時に協力しながら執念で犯人に迫る展開は、情報が多くリーダビリティにやや難はあるものの、明らかになってゆく真実と解決に向けて加速していく面白さがあり、著者さんらしさを十分に堪能できました。
18.文学少女対数学少女(ハヤカワ・ミステリ文庫)
高校2年生の文学少女・陸秋槎が自作の推理小説をきっかけに出会った、孤高の天才数学少女・韓采蘆。ふたりが邂逅する様々な謎とともに新たな作中作が提示されていく連作短編ミステリ。作者の秋槎も予想だにしない真相を導き出してみせた采蘆。人間関係の描写自体はやや硬い印象で各話の物語の締め方がやや独特な感じもありましたけど、実際に起きた事件や作中作の犯人当てを、彼女とともに数学的思考もうまく絡めながら解き明かしてゆく展開で、推理小説の謎を解き明かす思考過程や様々な可能性を提示してみせてくれたなかなか興味深い一冊でした。
19.JKハルは異世界で娼婦になった (ハヤカワ文庫JA)
女子高生・ハルがある日交通事故に遭って男しか冒険者にはなれない異世界に転移し、生活のために酒場兼娼館『夜想の青猫亭』で働くことを決意する物語。生きていくためには他に選択肢がなかった娼婦としての生活。男尊女卑で理不尽なことが日常的にある世界で、それを醒めた目で生きるためと割り切って前向きに生きるハルと多くの出会い。先の見えない前半の展開でしたけど、それも転機をきっかけにガラリと違ったものに見えて、相変わらずな世界で娼婦を続けるハルのありようや、周囲もその刺激を受けて成長してゆく結末がとても効いていました。
短編集:JKハルは異世界で娼婦になったsummer(ハヤカワ文庫JA)
20.読書嫌いのための図書室案内(ハヤカワ文庫JA)
読書嫌いな高校二年生の荒坂浩二は、図書委員会で廃刊久しい図書新聞の再刊を任され、本好き女子の藤生蛍とともに本も絡めた数々の謎に挑む学園ミステリ。本が絡むと人が変わる藤生と一緒に挑む「舞姫」を絡めた留学生との関係、美術部の先輩から託されたタイトル不明の感想文の意味、生物の樋崎先生が広めた生物室の怪談の真相。感想文回収のために不器用な二人が真相に挑む展開でしたが、クールでやる気がないように見えるのにいざという時にはビシッと決める主人公の不思議な秘密への伏線は鮮やかで、彼らの物語をまた読んでみたいと思いました。
21.放課後の嘘つきたち(ハヤカワ文庫JA)
幼馴染で同級生の白瀬麻琴に誘われ、部活連絡会を手伝うことになったボクシング部の寡黙なエース・蔵元修が、周囲で起きるトラブルを解決してゆく連作青春ミステリ。カンニング疑惑のある演劇部、陸上部の幽霊騒動や映画研究会の不可解な作品改竄など、皮肉屋なもうひとりの特待生・御堂慎司も加えて、時には衝突しながらタイプの違う修と御堂の二人をメインに謎解きに挑む展開で、同時に人に言えない苦い過去が、彼らのありようにもそれぞれ暗い影を落としますが、それらを癒やす何とも皮肉な構図がなかなか効いていて、とても印象的な物語でした。
22.夏の王国で目覚めない (ハヤカワ文庫JA)
再婚の父に新しい母と弟。私だけが家族になりきれていない女子高生の美咲。そんな彼女が熱中する作家・三島加深のミステリツアーに招待され、家を出て三日間のツアーに飛び込むひと夏のクローズドサークル。「謎を解けば加深の未発表作を贈る」と誘われて集まり、不可解な消失や死体でお互い疑心暗鬼になってゆく参加者たち。解き明かされてゆく謎は未発表作に込められた真意にも繋がっていて、彼らと共に過ごしたとても印象的なひと夏の体験が、きちんと今の自分と向き合ってそれぞれの新しい一歩を踏み出す勇気へと繋がってゆく素敵な物語でした。
23.錬金術師の密室(ハヤカワ文庫JA)
世界に七人しかいない錬金術師。その一人アスタルト王国のテレサ大佐が、お目付け役エミリア少尉と赴いた蒸気都市トリスメギストスで錬金術師フェルディナント三世の殺人件に遭遇するファンタジーミステリ。フェルディナント三世が成し遂げたという魂の解明。三重密室で起きた殺人事件の容疑を晴らすため、破天荒なテレサと振り回されるエミリアのコンビで事件解決に挑む展開でしたが、事態が二転三転する中で見えた意外な真相と、因縁に導かれるように出会った真逆の似た者同士の結末には唸らされました。【続巻】錬金術師の消失 (ハヤカワ文庫JA)
24.統計外事態 (ハヤカワ文庫JA)
地方の過疎化が進んだ2041年。在宅の統計分析官・数宝数成が静岡の廃村の水道消費量が異常に増えているのを発見したことから、思わぬ事態に巻き込まれてゆく近未来SF。何気にリアルで絶望的な未来でしたけど、現地調査で謎の全裸少女集団に襲われ、国家を揺るがすサイバーテロの犯人にされて、さらには命まで狙われるまさに統計外事態な急展開。工作員・伊藤の協力を得て逃亡しながら、猫と統計狂いの数宝が解き明かしてゆく一連の事件は尻上がりに面白くなっていって、真相の先にあった結末はなかなかいい感じにまとまっていたと思いました。
25.そいねドリーマー(ハヤカワ文庫JA)
不眠症により眠ることができない女子高生・帆影沙耶が出会ったどんな相手でも眠らせられる金春ひつじ。先輩の藍染蘭に適性を見出された沙耶が〈スリープウォーカー〉として人の精神に取り憑く睡獣と戦う添い寝ドリームSFノベル。4人の仲間と睡獣狩りすすめていたはずが、いつの間にか暗雲漂うようになってゆく展開は、夢の中では恋人なのに現実ではぎくしゃくしているひつじとの眠れない/眠らせてしまう二人の不器用な関係性がポイントになっていて、ふわっとした雰囲気の物語はまさにそれを描くために作られたということなんでしょうね(苦笑)
26.言鯨【イサナ】16号(ハヤカワ文庫JA)
全土は砂漠化し、人々は神である「言鯨」の遺骸周辺に鯨骨街を造って暮らす世界。街々を渡る骨摘みとして働く旗魚は、旅の途中で裏の運び屋・鯱と憧れの歴史学者・浅蜊に出会い物語が動き出すファンタジー。内密に十五番鯨骨街へ奇病の調査に行った浅蜊が引き起こした言鯨の覚醒と仲間の消失。もたらされた旗魚の劇的な変化と、鯱や蟲使いの珊瑚との逃亡劇、そして言鯨と世界の核心に迫ってゆく展開で、明らかになってゆくこの世界の哀しい真実と登場人物たちそれぞれの熱い想い、そしてそれらに向き合ってゆく旗魚の姿がとても印象的な物語でした。
27.庶務省総務局KISS室 政策白書 (ハヤカワ文庫JA)
2020年、世界を襲ったSARSインパクトで激変した国際社会。庶務省総務局、経済インテグレート・サステナブル・ソリューション室、通称KISS室の島崎室長と部下の中村君がエレガントな政策提言を手掛けていくショートショート15篇。地球温暖化問題や働き方改革など、他省庁からたらい回しにされてくる近年の重要課題に対して、ぐうたらなダメ上司に丸投げされ地味にハイスペックな中村君が次々と繰り出す政策提言が斜め上だけど鋭くて、二人のぐだぐだな会話のじわじわ来る感じが効いていて、いつもと違う感じでしたけど面白かったです。
28.プラネタリウムの外側(ハヤカワ文庫JA)
有機素子コンピュータによる会話プログラムの共同研究者を失い何も手につかなくなった南雲助教と、列車に轢かれて亡くなった元恋人の会話を再現しようとする学部生の佐伯衣理奈。そんな前に進めない二人が巡り合う連作短編集。会話プログラムとのやりとりを交えつつ繰り広げられる、共同研究者、契約社員、元恋人、そして南雲と衣理奈のエピソード。概念自体はやや難解でしたが、理系らしい合理思考と割り切れない情念のせめぎ合いの中で変化してゆく不器用な人間模様はとても優しくて、そんな彼らが迎えた結末はなかなか心に響くものがありました。
【関連書籍】グリフォンズ・ガーデン (ハヤカワ文庫JA) 前日譚
29.掃除機探偵の推理と冒険 (ハヤカワ文庫JA)
掃除機探偵の推理と冒険
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そえだ 信/宮崎 夏次系 早川書房 2022年05月24日頃
捜査中に事故に遭い気がつくとロボット掃除機になっていた北海道警察の刑事鈴木勢太。愛する姪・朱麗をDVの義父から守るため、できることを駆使して奔走する物語。掃除機になってしまった勢太が目覚めた隣の部屋で発見した死体。壁や段差という物理的な障壁を乗り越えて掃除機が姪のいる小樽へ大冒険する展開で、拾ってくれた母子家庭の危機、老夫婦との出会いなど幾多の困難を乗り越える展開は、掃除機になってしまうとこんなことも障害になるのか…となかなか新鮮な気持ちで読みましたが、その高い洞察力と冷静な判断力でいくつもの事件の真相を見抜いてアシストしたり問題を解決しながら、見事に姪を守ってみせたその活躍と結末はなかなか面白かったです。
レーベル通算1500番到達を記念し、SFマガジン・ミステリマガジン両誌に掲載された総解説企画を書籍化。作家や評論家による作品解説をすべて通し番号順に掲載。全書影を網羅した巻頭カラーページも。『ハヤカワ文庫SF総解説2000』につづく公式ファンブック