少し前から #1日1文庫 のハッシュタグで読んだ本の中から1日1作品紹介するようにしていますが、このまま流して終わりなのもあれなので、ここから10日ごとにまとめていこうと思います。Twitterの紹介は140文字に収まるようあっさりめですが、こちらはもう少し長めの紹介です。
【#1日1文庫31日目】
サラの柔かな香車 (集英社文庫)
プロ棋士の夢破れた瀬尾が金髪碧眼の日系ブラジル人の少女サラに出会い、彼女に将棋の才を見出して将棋を教えるところから始まる物語。将棋のプロになれなかった場合の厳しい現実も描写されていますが、何より波はあるものの時折驚異的な才能の発露を見せ、周囲の人たちの人生に少なからず影響を与えながら、言語能力に乏しくてほとんど会話にならないサラの特異性が際立っていました。澱んだ将棋へのこだわりに縛られた人たちの想いを、将棋の対局を通して変えていくサラが、そして彼女の将棋が今後どうなっていくのか、続きが気になる物語でした。2巻まで刊行。
【#1日1文庫32日目】
ドリームダスト・モンスターズ (幻冬舎文庫)
悪夢に悩まされ、クラスから孤立しつつあった女子高生晶水が、彼女に興味を持つ同級生壱とその祖母の夢見で救われたことをきっかけに、彼らが扱う夢に関する依頼に関わっていくお話。依頼者の悪夢に潜り込んで探り、依頼者自身に原因を気づかせる解決方法はある程度パターン化していましたが、「好き」とストレートにぶつけてくる壱と、いろいろ教えてくれる祖母の組み合わせに、いつの間にか馴染んでしまった晶水は由緒正しきツンデレ。毎回壱の新たな一面を知って、少しずつ縮まっていく二人の距離感が良かったです。3巻まで刊行。
【#1日1文庫33日目】
派遣社員あすみの家計簿 (小学館文庫)
自称飲食店社長の恋人に騙され、正社員として勤めていた会社を寿退社してしまった藤本あすみ、28歳。彼が姿を消し高額なカードの支払いだけが残ったあすみが、親友に説教され、ルーズな生活を立て直すべく奮闘する物語。正社員の当たり前はかけがえのないものだった…買いたいものも買えず、派遣社員としてすらなかなか次が決まらず、日雇いで稼ぐ日々はしんどいものがありますよね。すっかり生き方が変わったように見えた彼女の相変わらずな一面も垣間見えましたけど、そんな憎めないあすみがいつか幸せになれればいいなと応援したくなりました。21年9月に2巻目刊行。
【#1日1文庫34日目】
あやかしとおばんざい ~ふたごの京都妖怪ごはん日記~ (メディアワークス文庫)
あやかしとおばんざい 〜ふたごの京都妖怪ごはん日記〜
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仲町 六絵 KADOKAWA 2016年06月25日頃
進学で金沢から京都へ引っ越してきた双子の兄妹・直史とまどかが、あやかしと人間との間を取り持つ神・ククリ姫と出会い、あやかしを語って命を与える「語り手」になるよう依頼される物語。幼い頃にあった出会いと約束。物語を綴る直史と美味しいものに目がなくて絵心もあるまどか。二人が訪れてくるあやかしたちのことを知り、その想いを汲んで綴られてゆく物語はとても優しくて、お礼としてあやかしたちと食べるおばんざいはみんな美味しそうで、うさぎになってしまうククリ姫も可愛かったです(苦笑)とても素敵なお話だったので是非続編を期待。
【#1日1文庫35日目】
愛を綴る (集英社オレンジ文庫)
父親がおらず厳しく貧しい苦境にありながら、明るく清らかに生きてきた天涯孤独な少女フェイス。ファーナム侯爵のメイドとして働き始めた彼女が森で迷い、情熱的な青年ルークと運命の出会いを果たす物語。字を読むことも書くこともできなかったフェイスが、文字の手ほどきを受けながらルークとやり取りを交わす日々と、明らかになってゆくルークの正体、身分違いの二人が直面する悲劇。暗転してからの二転三転する展開は勢いがあって、生い立ちや身分が違うがゆえの温度差も感じましたが、最後まで愛を貫いた先にあった結末はなかなか良かったです。
【#1日1文庫36日目】
山内くんの呪禁の夏。 (角川ホラー文庫)
生まれもっての災難体質を持つ小学六年生の山内くん。彼の住むアパートが火事で焼け父の実家に戻ったことで、昔彼にお守りをくれた不思議な子・紺と再会する物語。紺によってこの世ならぬものが見える目にされてしまった山内くん。久しぶりに訪れた父の実家がある田舎の特殊な雰囲気と、未解決なままの連続神隠し事件。そして紺や仲間たちと一緒に次々奇妙な事件に遭遇する中で、徐々に明らかになる山内くんを取り巻く因縁。彼らの友情なのか淡い恋心なのかまだ判別がつかない想いは、その因縁とも複雑に絡んでいきそうで続きが楽しみです。全2巻。
【#1日1文庫37日目】
誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)
自殺、他殺、事故死など寿命以外の死が見える志緒と屋上で出会った佐藤。彼女が悲しまぬよう死を回避させる協力をするようになってゆく君とぼくの物語。親の所業によって居場所をなくしていたミステリ好きの佐藤が、志緒が気づいた死の予兆を誰も死なないミステリに変えるべく頭を働かせる展開で、やろうとしていることの宿命でミステリとしてはやや締まらない感もありましたが、解き明かされる墜死事件の謎と回収されてゆく伏線によってひとつの物語として再構成されて、悔やんでいたひとたちの救いに繋がってゆくとても優しい素敵な結末でした。21年9月に3巻目刊行。
【#1日1文庫38日目】
殺人鬼探偵の捏造美学 (講談社タイガ)
新米刑事・百合が殺人鬼マスカレードに殺されたと思われる怪死体に遭遇し、先輩刑事に捜査協力者として精神科医・氷鉋を紹介されて共に事件解決に挑む物語。妹をマスカレードに殺され家庭崩壊し復讐を誓う百合。調べれば調べるほどいくつもの顔が見えてくる謎めいた被害者・妙高麗奈、証言が食い違う父親、婚約者、恋人。二転三転する展開とそれを独特な視点から解き明かしてみせる氷鉋、そして最後に明かされた真相はこれはこれでわりと楽しめました。邂逅した宿敵とも言える二人が今後どんな結末を見せてくれるのか、続巻に期待したいと思います。
【#1日1文庫39日目】
バリ3探偵 圏内ちゃん (新潮文庫nex)
電波がバリ3の状態でしか生きていけない、忌女で引きこもりの主婦「圏内ちゃん」が連続女性殺人事件に挑むミステリー。その並外れた洞察力で忌女板では有名人なのに人付き合いが苦手で、スマホのチャットアプリ越しでないと人と会話できないとかちょっと大変そうですね(苦笑)最初のプロローグにある炎上案件もきちんと事件に組み込まれており、テンポの良く事件と捜査、推理が進展していく展開はとても読みやすくて、楽しめました。正式な刑事の捜査協力要請は断りましたが、著者の他作品とも繋がっている世界観で、続編にも期待できそうですね。3巻まで。
【#1日1文庫40日目】
「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。 (ポプラ文庫ピュアフル)
「私が笑ったら、死にますから」と、水品さんは言ったんだ。
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隙名 こと ポプラ社 2018年09月05日頃
クラスでも目立たず友達のいない男子高校生・駒田に、となりの席のクールな美少女・水品さんが提案した「15分で1万円のバイト」。苦しんだ過去を持つ二人が出会い、次第に立ち直っていく優しい青春小説。水品さんが提案した不思議なバイトを通じて知ってゆく彼女の特殊な事情と、少しずつ変わってゆく駒田と水品さんの不器用な距離感。過去を乗り越えるための悲壮な決意から無意識の悪意にさらされる水品さんに、自らも苦い過去があるからこそ寄り添える駒田の心意気がカッコよかったですね。そんな二人の今後を応援したくなる素敵な物語でした。