GW前に何かオススメ企画を作りたいな…とふと思い、印象的な作品が多いファミ通文庫の単巻&巻数少なめ企画を作ることにしました。一時期は印象的な青春小説をたびたび刊行して存在感がありましたけど、またこういう作品も出してくれるといいなとちょっぴり期待しています。 今回セレクトした作品はどれもおすすめなので、気になる本があったらぜひ手にとって読んでみて下さい。
1.下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。 (ファミ通文庫)
どんな作品も面白いと感じるラノベ新人賞の下読み高校生アルバイト・青と、厳しい祖母との生活や投稿作への酷評から自信をなくしかけていた同級生の美少女・氷ノ宮氷雪。本来出会うはずのない二人が出会い、二人で協力しながら投稿作品を作り上げていく二ヶ月間。周囲とうまく付き合うことのできなかった氷雪と、孤高の彼女に自分は釣り合わないと思う青。お互いに影響を受けて強く惹かれていきながらも、そこからあと一歩を踏み出す勇気を持てないもどかしい二人の迷いや、それを乗り越えようとする真摯な想いが心に響く素敵な青春創作物語でした。
2.ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫)
人と吸血鬼が昼と夜を分け合う世界。ヨリマサと吸血鬼の少女冴原との出会いは、不器用で、でもまっすぐで、容易には越えられない壁を感じながら、それでも惹かれ合う二人の思いにとても切ない気持ちになりました。そんな思い悩む吸血鬼の冴原も、夜の世界では厳しい指導ぶりにバレー部の後輩から「オニハラ」とか呼ばれてしまう存在。ファンタジーな設定が日常に溶け込んでいる、ステキな世界観でした。
3.近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係 (ファミ通文庫)
母と二人で暮らす家で、同い年の遠い親戚の女の子和泉里奈と同居することになった高校生の坂本健一。彼女の出現によって様々な変化がもたらされてゆく物語。兄にコンプレックスを抱き他人との距離に悩む健一と、控えめながら女子校育ちで無防備な里奈。近過ぎるのにどこか遠い彼女を意識し友人たちに知られたくないと感じる健一に気づき、心穏やかではいられない幼馴染・由梨子。最近希少のオーソドックスな構成で、著者らしい繊細な心理描写は今回も健在。終盤にもたらされた波紋で今後どのような展開になってゆくのか気になる作品です。全2巻。
4.彼女のL ~嘘つきたちの攻防戦~ (ファミ通文庫)
彼女のL 〜嘘つきたちの攻防戦〜
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三田 千恵/しぐれうい KADOKAWA 2018年08月30日頃
嘘がわかる特異体質を持つ遠藤正樹。そんな彼が気になる決して嘘をつかない川端小百合と常に振りまく学校のアイドル佐倉成美、死んだ共通の友人を巡る願いと嘘と恋が交錯する青春ミステリ。「彼女は殺された」という川端と「彼女を追い詰めたのは私」とうそぶく佐倉。ともに過ごす時間が増えてゆく中で正樹にだけ見せる彼女たちの素顔と、正樹と父親の関係。新事実が明らかになってゆくたびにガラリと変わってゆく構図。彼女たちがついた嘘は切なくも優しくて、真実に向き合ったからこそ見えたその想いとはっとするような結末はとても印象的でした。
5.リンドウにさよならを (ファミ通文庫)
想いを寄せていた少女・襟仁遥人と共に屋上から落下し死んでしまったらしい神田幸久。二年後地縛霊として目覚めた彼はクラスでいじめに遭う穂積美咲に存在を気づかれ彼女と友達になる青春小説。自分の存在に気づいてくれた少女・美咲の優しい一面を知って現状を変えようとアドバイスをし、美咲が勇気を持って踏み出した一歩から少しずつつ変わってゆくその境遇。繊細な描写を積み重ねて作り上げられた伏線を回収してゆくことで意外な事実も明らかになっていって、爽やかで納得感のある結末まで組み上げたその構成力は今後に期待の作家さんですね。
6.あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね (ファミ通文庫)
あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね(1)
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藍月 要/Aちき KADOKAWA 2020年08月28日頃
描く絵が評価される一方で、人の感情が色で見える特殊能力の持ち主・宮代空也。そんな彼に密かに恋する隣の席の美少女・久城紅の青春ラブコメディ。悩める訳あり主人公の周囲をがっちり固めるパーフェクト幼馴染・翠香、凄腕プログラマの技術を活かし空也のデジタルストーキングにいそしむコミュ障美少女・紅。けれどそこからもう一歩が踏み込めないもどかしい彼女たちの重い所業には強烈なインパクトがあって、二人の彼を想う覚悟や気持ちもまたどこまでも真摯で、ゾクゾクするようなじわじわ効いてくるようなそんな物語の結末がまた印象的でした。
7.天才少女Aと告白するノベルゲーム (ファミ通文庫)
天才少女Aと告白するノベルゲーム
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三田 千恵/しぐれうい KADOKAWA 2019年12月30日頃
大好きなフリーゲーム制作者Aに会うため、桜山学園ゲーム制作部に入った水谷湊。しかしAと思しき部長の菖蒲は不登校で、彼女が学校に来るよう部員たちから託される青春小説。仲が良さげなゲーム部員が抱える苦い過去、そして湊のもとに送られてきたひとつのノベルゲームが示唆する過去。部員それぞれの事情が明らかになってゆくたびに彼らの印象も変化して、構図が二転三転した末の決着は新たな違和感に繋がって、確執が残る母とも向き合いつつバットエンドに隠されていた真相を見出して、大切な笑顔を取り戻してみせた結末がとても印象的でした。
8.放課後の図書室でお淑やかな彼女の譲れないラブコメ (ファミ通文庫)
放課後の図書室でお淑やかな彼女の譲れないラブコメ(1)
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九曜/フライ KADOKAWA 2020年09月30日頃
育ててくれた母を事故で亡くし、一人途方に暮れていた高校生・真壁静流。そんな彼に父親と名乗る人物から一緒に住むことを提案され、彼の娘と三人で住むことになる青春ラブコメディ。突如現れた弟との同居に戸惑いを隠せない異母姉紫苑、図書委員の彼を同類と感じアプローチする泪華、クールで曰くありげな雰囲気の奏多といった彼を振り回す個性的な先輩ヒロインたちの三者三様な距離感が絶妙で、自分が辛くても相手の想いをつい優先してしまう優しく不器用な静流と、彼女たちの関係がこれからどう変わってゆくのか、とても楽しみなシリーズですね。21年4月に2巻目刊行予定。
9.アルジャン・カレール -革命の英雄、或いは女王の菓子職人- 上・下巻 (ファミ通文庫)
革命後の混乱を乗り越えたフロリアの王都パリゼ。そこで出会った劇作家オーギュストと、かつての動乱の英雄で女王の菓子職人アルジャン・カレールの物語。無愛想な菓子職人アルジャンの意外な一面を知ったオーギュストが、見事な菓子に魅せられ彼の店に通うようになり、その対照的な二人が巻き込まれる事件を菓子を通じて解決していくストーリーの数々と、そして何よりアルジャンと国のためを思い立ち上がった王女ロクサーヌの出会いから二人の逃避行、そして菓子職人になるまでの過程がとても良かったです。そんな彼らの今後が気になる上巻でした。
下巻は遠方に嫁ぐ伯爵令嬢ジュゼットと菓子職人アルジャンのささやかな交流、バルトレオン将軍とオーギュストの短編。そして遠征していた将軍の敗戦からの国難に対して、アルジャンの菓子を切り札に外交で渡り合おうとするロクサーヌの奮闘が物語のハイライトでしたね。お互いを想う気持ち、揺るぎない信頼関係があっても、決して本音を伝えることができないロクサーヌとアルジャンの身分を超えた二人の絆がストーリーの大きな軸で、妨害に遭いながらも創り出す菓子の表現力で、見事ロクサーヌの期待に応えてみせたアルジャンの執念は見事でした。
10.ルガルギガム 上・下巻 (ファミ通文庫)
バビロン崩壊後の古代メソポタミアを舞台とした、異世界古代ファンタジー。どうしても説明が多くなるくらいには、あまり例のない舞台があり、主人公の日本人高校生ソーヤだけでなく、様々な時代や国の登場人物が多数存在し、さらに魔術や幻獣、怪異などが混在するお話で、その辺を許容出来るだけのポテンシャルは、世界観として提示できているのかなと感じました。女神ラクエルとの関係性を否定する序盤の主人公の態度には、ややくどさを感じたものの、全体としては下巻に向けて様々なものを提示した巻だったと思うので、続きを楽しみにしています。
思い切ったラクエルの告白を断り、やり残したことがあるような思いを抱えながらも、現代に帰る機会を得ることになったソーヤ。現代に対する隠せない郷愁の思いを持っていても、それでいてこちらの世界にも大切に思っているものがあって、そして何より相手の真摯な思いを知ってしまったら、そんな簡単に帰ることはできないですよね。上巻で構築されていった物語が、下巻で一気に動き出してひとつの結末を紡いでいく流れは素晴らしかったです。ワガママに見えるけど不器用な女神がこれからも笑顔でいられるように、ソーヤには頑張って欲しいですね。
11.やがてはるか空をつなぐ (ファミ通文庫)
高校の物理部でバルーン実験に勤しむロケットオタクの青桐七海、プログラマー山花俊、天真爛漫な後輩・町田佐奈。実験の当日、彼らが近くの高校に通う赤森遙と出会う青春小説。ロケットを打ち上げることに執着する七海が抱える悔恨、遙がロケットを打ち上げたい理由、そして後輩・佐奈や七海の予備校の友人・柊、そして俊のそれぞれの想い。それぞれに悔やみきれない苦い過去があって、ままならない複雑な事情も交錯する狂おしいまでの真摯な想いがあって。それでも彼らが勇気を出してぶつかりあった先にあった結末にはぐっと来るものがありました。
12.オミサワさんは次元がちがう (ファミ通文庫)
オミサワさんは次元がちがう
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桐山 なると/ヤマウチ シズ KADOKAWA 2018年03月30日頃
無表情・無感情で人と関わろうとせず、そこかしこに絵を書き散らす芸術科の天才・小海澤有紗。変人扱いの彼女を気にかける雪斗が関わってゆくうちに、彼女が抱える秘密に巻き込まれてゆく青春小説。コミュ障なオミサワさんと些細なやり取りを重ね交流を深めてゆく地道な努力が微笑ましくて、文字通り次元が違う秘密を知っても彼女を理解し共にあろうとする雪斗。大切だからこそ苦悩するオミサワさんでしたけど、彼女の想いを垣間見た雪斗と相変わらず難しい境遇でも確実に変わりつつある彼女が迎えた素敵な結末には、ついニヤニヤしてしまいました。
13.キミは一人じゃないじゃん、と僕の中の一人が言った (ファミ通文庫)
キミは一人じゃないじゃん、と僕の中の一人が言った
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比嘉智康/はっとり みつる KADOKAWA 2017年08月30日頃
小学校時代の多重人格ごっこという二人だけの秘密を共有する一色華の実と高校で再会した、三人の人格を抱えて生きる市川櫻介。秘密を唯一知る彼女との再会が二人を変えてゆく青春小説。別人のように人気者になっていた彼女から再び持ちかけられた多重人格ごっこ。急速に距離を縮めていく二人のやりとりがとても甘酸っぱくて幸せそうなのに、時折垣間見えてしまう彼女の想い。再会した彼女が乗り越えてきたこれまでとその宿命には切なくなりましたが、だからこそ櫻介と彼女が幸せになってゆくこれからを読みたいと思いました。
14.陸と千星~世界を配る少年と別荘の少女 (ファミ通文庫)
両親の離婚協議のために別荘に送られた千星、男癖が悪くてすぐにいなくなる母親に悩まされる陸。そんな中学生二人のひと夏の初恋。運命的な出会いを果たした二人は、生活費のために毎朝別荘に新聞配達で届けに来る陸を千星が待つ不器用な交流を続けていましたが、お互い中学生という立場だと、本人たちの思いだけではどうにもならないことも多いですね。けれど陸が千星に伝えた約束を見事果たしてみせたことは、新しい生活を始めた千星にとって、大きな心の支えになったのではないでしょうか。いつか成長した二人の物語が読んでみたいと思いました。
15.二周目の僕は君と恋をする (ファミ通文庫)
高三の夏に突如消失した片想いの相手・茉莉。辛い現実を受け止められないまま二十歳の誕生日を迎えた崇希が、消失を回避すべく二人が出会った二年前の春からやり直すタイムリープ青春小説。近くで眺めるだけだった過去を反省し、積極的に茉莉と距離を縮め真相に近づこうとする崇希。幸せな日々に時折訪れる不安な兆候の一方で、明らかになってゆく意外な過去。不安に揺れる二人の初々しい距離感はもどかしくて、容易には覆らない未来に難しさも感じましたけど、再会して絆を育んでいった今の二人ならきっとそれを乗り越えてくれると信じたいですね。
16.銀月の夜、さよならを言う (ファミ通文庫)
交通事故に遭うところを「高木茜」と名乗る女性に助けられた水原透流。七年前に思いを伝えられないまま亡くなった女の子とよく似た茜に、どうしようもないほど惹かれてゆく青春小説。意気投合し交際を積み重ねていきながらも、相変わらず謎の多い茜相手に距離を詰めきれない透流。そして少しずつ明らかになってゆく茜の複雑な想いとその真実。幼さゆえのほんの少しのすれ違いから変わってしまった世界と、気づいていなかった過去の思いがあって。停滞していた二人がこの出会いで新たな一歩を踏み出すその結末は切なくもぐっと来るものがありました。
17.親しい君との見知らぬ記憶 (ファミ通文庫)
見知らぬ少女たちと出会い共に過ごした夢の記憶。ごくありふれた高校生活を送っていた幸成が初めて訪れた場所にふと既視感を覚え、そこで彼と夢の記憶を共有する少女・優羽子と出会う物語。夢で起きた出来事を確かめ合い一緒に出かけるようになってゆく二人。全てが順調に思えていたある日、突然昏睡状況に陥ってしまう優羽子。そこから一つのメールをきっかけに動き出す展開は、二人が共有する夢の記憶の解明にも繋がっていて、二人が出会いの始まりは夢でも、そこから積み上げてきた思い出が再び歩み始めた彼らの力になってゆく素敵な物語でした。
18.死神少女と最期の初恋 (ファミ通文庫)
死神を名乗る美しい少女・供花に七日後通り魔に刺されて死ぬと予告された大学生の波多野景。それまで生きる意味も目標もなかった彼が、彼女との出会いから徐々に変わってゆく物語。後輩からの告白にも心動かされず、思い残すこともあまりない景が供花に抱いた、最期を迎えるまで共に過ごして欲しいというささやかな願い。そして感情に乏しかった供花が景と共に過ごしていくうちに少しずつ積み重ねてゆく想いと心境の変化。運命が二人の出会いによって大きく変わる中、難しい立ち位置にあった彼ら二人に提示される落とし所は絶妙だったと思いました。
19.春は冬の夢を見る (ファミ通文庫)
一日先を夢で体験できる能力を持ち、危機を回避しながら一人で生きてきた春先孝太郎。そんな彼が同級生・冬芽木実につきまとわれるようになり、回避できない彼女との距離がどんんどん縮まってゆく青春小説。頑なだった孝太郎の傍にいるのが当たり前になっていった木実と共有された秘密。それから不穏な状況に巻き込まれてゆく二人と明らかになってゆく過去の因縁、見えてくる悪意。大切な人と共にあるため、過去の呪縛を解消するために決然と立ち向かう姿はカッコ良かったのに、肝心なところでどこか締まらない二人の関係がとても素敵な物語でした。
20.いつかのクリスマスの日、きみは時の果てに消えて (ファミ通文庫)
いつかのクリスマスの日、きみは時の果てに消えて
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瀬尾 つかさ/椎名 優 KADOKAWA 2017年11月30日頃
五年前の大災害をきっかけに、不思議生物ニムエが体内に棲んでいる悠太。同じようにニムエを飼っていた同級生恵と出会い、二人で過去の大災厄回避と亡くなった恵の幼馴染・玖瑠美の救出を目指す物語。ニムエをきっかけに急速に距離を縮める二人の微笑ましい関係。ニムエを使い過去に戻る方法を発見して始まった計画の成果と思ってもみなかった大きな代償。それまでの展開を考えると悠太に突きつけられた運命の選択肢はあまりにも絶望的なものでしたけど、それでも諦めなかった彼らの機転と覚悟で乗り越え再構築されてゆく結末はとても良かったです。