当ブログでは、いつも上半期・下半期で新作まとめを作っているのですが、とりあえず上四半期分でもそこそこ新作は読んでいるので、いったんまとめを作ろうと思った第二弾、文庫編20選です。ライトノベル編はこちら↓
今年はライト文芸よりも一般レーベルの文庫の方を読んでいて(ライト文芸作品を積んでるだけともいう)、文庫化作品もなかなか面白い作品がいろいろ出ています。気になる本があったらぜひ読んでみてください。
1.サクラオト (集英社文庫)
「桜の音が聞こえる人は、魔に魅入られた人なんだって」 五感をテーマに描かれる謎と闇五編とExtra stage「第六感」からなるミステリ連作短編集。朝人が詩織を連れ出した満開の夜桜の下で語られる、少女が起こしたクラスメイトの毒殺、恋人同士の扼殺、中学教師による教え子殺し。母を亡くした姉弟の関係、再会した先輩の死、甘いケーキが食べられない理由、囚われていたもの、そしてそれらの伏線を絡めながら最後に語られるエピソードもまたなかなか興味深くて、振り返ってみると違った意味合いも見えてくるとても印象的な物語でした。
2.コーチ! はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル (講談社文庫)
コーチ! はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル
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青木 祐子 講談社 2021年03月12日
流されるままに25年生きてきたことりの転職先「はげまし屋」。おんぼろマンションの一室にあるオンライン専門の人生相談所での奮闘記。身近には打ち明けられないひそかな悩みを抱える、いいね探しの派遣社員、白雪姫に恋したカサノバさん、小説家志望の実家住まいのアラサー女子、行動力あるちょっと変わったネットビジネス志望など、顧客との距離感が難しそうだなあと思いながら読んでましたけど、偶然見つけたこの仕事にいつの間にかのめり込んで、ひとつひとつに真摯に向き合っていくことりの姿に、読んでる自分も応援されている気がしました。
3.Y田A子に世界は難しい (光文社文庫)
訳アリで自我を宿したAI内蔵人型ロボットとして生まれ、和久井秋彦に救われて彼の家に居候することになった瑛子。そんな彼女が家族の勧めで高校に入学する青春AI家族小説。作った人の趣味もあって見た目は人間らしくても、描かれるティテールに彼女はロボットなんだなと感じさせられましたが、最初友達を作ろうとして空回りする姿がヤバいなと思った瑛子が、アルバイトや部活動に挑戦したり、友人の家族問題に巻き込まれていく中で、大切な友人や家族たちに認めれられ、将来に希望を見出すようになってゆく結末にはぐっと来るものがありました。
4.転生佳人伝 寵姫は二度皇帝と出会う (角川文庫)
暗殺され非業の死を遂げた尤皇帝・陶淵紫。来世で再び巡り会い、護る力を得るため神仙に自らの命を供物として捧げた寵姫・劉昭儀が、二百年後に白花珠として生まれ変わる中華風ファンタジー。淵紫と同じ瞳を持つ若き皇帝・陶紫英の危機を救い、身の回りで不穏な事件が続く彼の警護係として仕える花珠。今回は意外にも脳筋の武官ヒロインが主人公でしたけど、淵紫とはまるで違う紫英に振り回され、事件が続いて真犯人が誰か疑心悪鬼に陥りがちな状況の中、劉昭儀でなく花珠として紫英と向き合うようになってゆく結末にはぐっと来るものがありました。
5.庶務省総務局KISS室 政策白書 (ハヤカワ文庫JA)
2020年、世界を襲ったSARSインパクトで激変した国際社会。庶務省総務局、経済インテグレート・サステナブル・ソリューション室、通称KISS室の島崎室長と部下の中村君がエレガントな政策提言を手掛けていくショートショート15篇。地球温暖化問題や働き方改革など、他省庁からたらい回しにされてくる近年の重要課題に対して、ぐうたらなダメ上司に丸投げされ地味にハイスペックな中村君が次々と繰り出す政策提言が斜め上だけど鋭くて、二人のぐだぐだな会話のじわじわ来る感じが効いていて、いつもと違う感じでしたけど面白かったです。
6.統計外事態 (ハヤカワ文庫)
地方の過疎化が進んだ2041年。在宅の統計分析官・数宝数成が静岡の廃村の水道消費量が異常に増えているのを発見したことから、思わぬ事態に巻き込まれてゆく近未来SF。何気にリアルで絶望的な未来でしたけど、現地調査で謎の全裸少女集団に襲われ、国家を揺るがすサイバーテロの犯人にされて、さらには命まで狙われるまさに統計外事態な急展開。工作員・伊藤の協力を得て逃亡しながら、猫と統計狂いの数宝が解き明かしてゆく一連の事件は尻上がりに面白くなっていって、真相の先にあった結末はなかなかいい感じにまとまっていて面白かったです。
7.赤くない糸で結ばれている (角川文庫)
本屋さんのお姉さんが気になって1冊読み終わるたびに本を買う高校生、ふと父親の不可解な言動が気になりだした友人、ラジオ番組の投稿者が気になる秀才、高校時代の同級生に翻弄される女子大生、同性を崇める女子中学生を描いた連作短編集。最後に舞台裏として明かされてゆく心境がまた何とも複雑で、それぞれの物語は思わぬところにゆるく繋がっていたりもして、なかなかうまく行かない中でのわりとほろ苦い話が多かったりもしますが、けれどその中にもはっとさせられるような救いを見い出してゆく切なく優しい結末がなかなか印象的な物語でした。
8.お電話かわりました名探偵です (角川文庫)
Z県警本部の通信指令室。異様に奇妙な電話を引き寄せてしまうイケボイスの早乙女廉を、隣席の万里眼こと君野いぶきが助け、電話の情報のみで事件を解決に導いていく警察ミステリ。早乙女が次々と引き当てるイエが盗まれた、大根が食べられた、マンションに幽霊がいる、家の壁に落書きがされている、女の人が刺されたといった不審な通報を、電話で話しているだけで真相に辿り着いてしまういぶきの洞察力が凄まじいですが、彼女の指名で隣の席にいるのにたびたび甘酸っぱい距離感を台無しにする鈍感な早乙女のヘタレっぷりがもどかしいですね(苦笑)
9.死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。 (宝島社文庫)
死にたがりな少女の自殺を邪魔して、遊びにつれていく話。
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星火 燎原 宝島社 2021年03月04日
死神と取り引きをし、寿命が3年になる代わりに時間を24時間巻き戻せる時計を手に入れた相葉純。そんな彼が時計の力で自殺願望の強い少女一之瀬月美の自殺を邪魔し続けるうちにその関係が変わってゆく小さな恋の物語。月美の自殺を知るたびに、時間を巻き戻してその自殺を阻止することで始まった二人の奇妙な交流。お互い閉塞した日常と生きづらい日々を共に過ごしていくうちに積み重ねられてゆく想い。自覚してしまえばそう簡単に忘れられるわけもなくて、どこまでも諦めの悪い二人に死神も呆れた苦笑いの結末にはぐっと来るものがありましたね。
10.蒸気と錬金 Stealchemy Fairytale (ハヤカワ文庫JA)
蒸気錬金術で急速な発展を遂げつつある大英帝国。そんな中、ロンドンの売れない小説家の「私」が、編集者から提案されて毒舌幻燈種と共に理法と恩寵の島アヴァロンへの取材旅行に赴く蒸気錬金妖精譚。毒舌なポーシャをパートナーに三文作家の主人公が旅行記を書くためにアヴァロンに向かう展開で、いまいち状況を把握しきれていない主人公の視点で物事が進むため、現段階ではやや全体の構図がぼんやりしていた感もありましたが、軽妙なポーシャとのやりとりやトラブルに次々と巻き込まれがちな展開はわりと面白かったです。続編にも期待しています。
11.僕と彼女の左手 (中公文庫)
幼い頃遭遇した事故のトラウマで、医者になる夢を前に壁にぶつかった医学生の習。そんな彼が左手一本でピアノを引く不思議な女性・さやこに出会い、共に時間を過ごすようになってゆくミステリ。教師を目指すさやこのために家庭教師として共に過ごすようになる二人。彼女にどんどん惹かれてゆき付き合うことになった習が、勉強よりもピアノに意識が向きがちな彼女のありように少しずつ感じるようになってゆく違和感。積み重ねられてゆく不安の先にあった真実は真摯な想いと共にあって、二人が出会えて本当に良かったと思えるとても素敵な物語でした。
12.祈りのカルテ (角川文庫)
親友を殺した犯人が精神鑑定で不起訴になった過去を抱える若き新人医師・弓削凛が、正確な鑑定のためにはあらゆる手を尽くす日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願する物語。歌舞伎町無差別通り魔事件、生後五ヶ月の娘を抱いてマンションから飛び降りた母、姉を刺し逮捕された引きこもり、精神疾患は詐病とした傷害致死犯の思わぬ反撃、過去に犯した殺人事件を多重人格で不起訴となっていた犯人の真意。容疑者たちの真意を些細な手がかりから見抜いていく展開はなかなか面白かったですが、過去の因縁を絡めた最後の事件は業が深かったですね…。
13.春待ち雑貨店 ぷらんたん (新潮文庫)
京都のハンドメイドアクセサリーショップ『ぷらんたん』。悩みを抱えたお店を訪れる客の悩みに店主の北川巴瑠が一つ一つ寄り添い、優しく解きほぐしていく連作ミステリ。自身も密かに生まれながらの深刻な悩みを抱えつつも、恋人との関係の変化やお店を訪れるお客が抱える悩み、立て続けに起きるトラブルを一緒に解決していく展開で、簡単ではない問いに迷いながらも真摯に向き合う誠実で一本芯が通っている巴瑠のありようや、そんな彼女の影響を受けて大切な人といい関係を築こうと努力するようになっていく登場人物たちの姿がとても印象的でした。
14.月夜に溺れる (光文社文庫)
バツ2で二児の母親でありながら、横浜、川崎の歓楽街で起こる色と欲にまみれた犯罪者を取り締まる神奈川県警生活安全部のエース・真下霧生。捜査能力と推理力(と美貌)を駆使し真犯人を追いつめる推理警察小説。神奈川県警本部の将来を担う二人の警察官が前夫、それぞれの子供がいて扱いに困る存在という魅力的で異色の主人公でしたけど、脇が甘く惚れた相手が被疑者になったり「またお前か!」と首を突っ込んだ案件が大きな事件に繋がってゆく中、その冷静で鋭い着眼点と人情味溢れる熱い想いで事件を解決してゆく展開はなかなか面白かったです。
15.教室が、ひとりになるまで(角川文庫)
北楓高校で起きた三人の生徒連続自殺事件。クラス内でも地味な存在の垣内友弘が、最高のクラスで起きた一連の不審死の謎を追う青春ミステリ。生徒に代々引き継がれてきた4つの特殊能力。不登校の白瀬美月から三人を殺した死神の存在を知らされた垣内が、突如引き継いだ特殊能力で他の能力者や犯人の正体を探ってゆく展開で、スクールカーストの力関係や伏線を巧妙に絡めながら、地味な特殊能力を駆使した殺人の結末へと導いていく展開はお見事。突きつけられた現実への失望があるからこそ、そんな彼にもたらされる一筋の光にぐっと来る物語でした。
16.俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない (光文社文庫)
「俺」はいったい誰なんだ?目覚めるたびに別人に成り代わる。そんな状況で目にした「カップル連続惨殺犯」の文字に強い衝撃を受けるミステリ。年齢も性別もバラバラで、脈絡があるのかどうかもわからないまま、別人の視点から体験してゆく様々な出来事。そして不可解な現象が続く中で見えてくる連続惨殺事件との関わり。自分は一体何者なのか、そしてこの状況で何をすべきなのか。試行錯誤を繰り返す中で問い続けた主人公が、見逃してはいけなかった大切なことを見出し、きちんと向き合おうとする姿がとても印象的な物語でしたね。面白かったです。
17.未来職安(双葉文庫)
国民が99%の働かない消費者と、働く1%のエリート生産者に分類された平成よりちょっと先の未来。運悪く県庁勤めを退職しなければならなくなった目黒が、少し変わった大塚を所長とする職安に転職し、仕事を求めて訪れる様々な人々と出会う近未来小説。財源的な部分をどう解決するのかは気になりましたが、仕事が機械に置き換えられてゆく中であえて人がする仕事とは何か?確かにそんな状況になったら消費者と生産者との間の微妙な距離感とか、仕事に対する本末転倒的な発想とか、いかにも起こりそうな興味深いエピソードがなかなか良かったです。
18.麦本三歩の好きなもの(幻冬舎文庫)
大学図書館勤務の20代女子、麦本三歩のなにげなく愛おしい日々を描いた日常小説。優しい先輩や怖い先輩、おかしい先輩などに囲まれながら、気になることを見つけたり、ミスしても懲りずにマイペースな日々を送る三歩。単純で天然だけどだけど何も考えていないわけではなくて、時には苦悩したり誰かのために奔走したり、変わった行動に走って先輩たちをドン引きさせたり、物語としては特に大きな山や谷があるわけではないですが、そんな日々を送るよくも悪くも真っ直ぐでお茶目な彼女が、先輩たちに可愛がられるのも何か分かるような気がしました。
19.二宮ナズナの花嵐な事件簿 京の都で秘密探偵始めました (角川文庫)
二宮ナズナの花嵐な事件簿 京の都で秘密探偵始めました(1)
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望月 麻衣 KADOKAWA 2021年02月25日
海外に向かう父との同行を断って北海道から嵐山の高校に転入した女子高生・二宮ナズナ。京都での新生活に心躍らせる彼女がいろいろと騒動に巻き込まれてゆく学園ミステリ。新天地で雅で平穏な青春を謳歌したいナズナの希望を打ち砕くヤンキーだらけなクラスでの日々。いろいろ巻き込まれがちな彼女が、学園内で厄介事を起こす『昇龍』を調査する訳アリのクラスメイト・一夜に協力する構図でしたけど、彼女が一夜やイケメンの龍と協力し武闘派らしい大活躍をする姿がイキイキと描かれていて、著者さんの最近の作風とはまた違う魅力を感じました。
20.ひまりの一打 (集英社文庫)
クビ寸前の暴走女性プロゴルファー中原ひまりが、酒浸りの元賞金王・三浦真人と運命の再会を果たし、窮地を脱すべく二人三脚で奮闘するゴルフ小説。プロにはなったものの二年目にしてその無謀なプレーで成績不調に陥り、スポンサー契約継続の危機に陥っていたひまり。事故で一線から退いていた真人との思ってもみなかった再会から、真人のアドバイスで気づいたこと、宿命のライバルとの邂逅、そして焦燥からの衝突と、繰り広げられるストーリーはド王道で、だからこそ最後まで諦めない分かりやすくて熱く燃える展開にはぐっと来るものがありました。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。
単行本・ライト文芸編は読むもの読んだら作ります。