オレンジ文庫の2018年にレーベル別企画第一弾としておすすめ企画を作って以来、2019年にも年間企画として20選を作りました。なので2020年版についても同様におすすめ企画を作りたいと思います。
確認したところ、昨年2020年にオレンジ文庫は62点刊行されていて、そのうち52冊を読んでいます。今回はその中から20作をセレクトして紹介したいと思います。なお、各種ネット書店で2/2まで六周年記念セールを開催しているようです。上記と合わせて読みたい本を探す時の参考になれば幸いです。
1.流転の貴妃 或いは塞外の女王 (集英社オレンジ文庫)
商人の娘として生まれ、後宮の貴妃になった柴紅玉。それが勢力を拡大しつつある北方の遊牧民族の盟主へと嫁がされることになり、さらにその途上で嫁ぎ先の敵対部族による襲撃で攫われてしまう中華風浪漫譚。帝の寵愛はなくとも後宮で謳歌していた生活から、二転三転する運命に翻弄され激変する紅玉の人生は大変だなあと思わずにいられませんでしたが、族長の末子アマルの妻となった彼女があるべき姿を見定めて覚悟を決め、遊牧民族の妻としては型破りな、けれど自分らしいやり方でアマルを支えるようになってゆく姿にはぐっと来るものがありました。
2.ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女 (集英社オレンジ文庫)
王族による共同統治が行われる国イルバス。王宮を離れ北方辺境のリルベクで趣味の工業生産に明け暮れる王女ベアトリスが、周辺国の情勢が悪化により政治的決断を迫られる激動のヒストリカルロマン。尊大な兄アルバートと狡猾な弟サミュエルから距離を置くベアトリスが抱える秘密と、彼女を支え続ける側近のギャレット。事態が緊迫する中で駆け引きを続ける兄弟に振り回されるベアトリスでしたけど、不器用な彼女とギャレットの葛藤と繊細な距離感が効いていて、覚悟を決めた彼女たちが向き合った末に取り戻した絆にはぐっと来るものがありましたね。
3.星辰の裔 (集英社オレンジ文庫)
薬師だった父の志を継ぎ、大陸からの先進知識が集まる町を目指して旅する少女アサ。その途中で馬賊と呼ぶ大陸からの侵略者・辰の奴婢狩りに遭い、捕まってしまったアサが皇王の次男・季晨と運命の出会いを果たすファンタジー。宦官と勘違いされ皇女の側で働くアサが巻き込まれてゆく朝児に対する根強い差別と辰の後継者争い。薬師として生きたいと願うアサの願い、それを理解してくれる季晨との出会いと惹かれてゆく想いがあって、数奇な運命が激動の展開に繋がりましたけど、乗り越えた先の信念と想いの末に導き出された結末が印象的な物語でした。
4.有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 (集英社オレンジ文庫)
ヴィクトリア朝の英国を舞台に、社交界で浮名を流し風雅と博物学を愛する有閑貴族エリオットが、オカルト事件に目がない幽霊男爵として美貌の助手コニーを従え、持ち込まれる幽霊絡みの依頼に挑む物語。沈黙の交霊会、ミイラの呪い、天井桟敷の天使といった事件に、周囲を振り回しながら喜々として挑むエリオット主従はなかなか楽しいキャラたちで、けれど向き合った事件の真相にはどこまで真摯で、そんな彼らがあるのも二人に壮絶な過去があったからなんですよね。でもいつかその過去を乗り越えて欲しいですし、また彼らの活躍を読んでみたいです。現在2巻まで刊行。
5.嘘つきな魔女と素直になれないわたしの物語 (集英社オレンジ文庫)
父親の浮気発覚による突然の両親の離婚。充実していた人生から一変した董子が、母親の地元である田舎で魔女を自称する金髪碧眼の少年・ハルと出会う青春小説。ご近所のほとんどが親類縁者で、携帯電話の電波もろくに入らない田舎への引っ越し。そこで出会った少年・ハルと解き明かす盗まれた卵、なくなったクッキー、赤い服の幽霊の謎。謎めいたハルとトーコが忘れてしまっていた八年前の真相。密かに村に危機が迫っていて、けれどそんな窮地を力を合わせて乗り越えて、二人で未来を切り開いてゆく姿がどこか微笑ましい、ひと夏の素敵な物語でした。
6.さようなら、君の贖罪 (集英社オレンジ文庫)
佐久の部屋に突如現れたパジャマ姿の少女とアザラシ。意味が分からないまま目を覚ました少女たちが消えてしまい、そんな彼女・卯月が同じ高校の生徒だと知る青春小説。精神が不安定になるとテレポート能力で勝手に飛んでしまい、いろいろなものを持ってきてしまう卯月と、一度見たら忘れない記憶力を持つ佐久。佐久の友人蓮野との関係も絡めつつ、特別と過ちを抱えた不器用な二人が、一緒に持ってきたものを返してゆく過程で育まれてゆく想いとすれ違い、ぶつかり合って過去を乗り越えた先で再構築されてゆく新たな関係がなかなか素敵な物語でした。
7.神招きの庭 (集英社オレンジ文庫)
豊穣と繁栄を招く反面、ひとたび荒ぶれば恐ろしい災厄を国にもたらす神々を招きもたらす兜坂国の斎庭。親友の謎の死を探るため、地方の郡領の娘・綾芽が上京する和風ファンタジー。偶然、荒ぶる女神を鎮めてみせ、王弟の二藍に斎庭の女官として取り立てられる綾芽。少しずつ育まれてゆく二藍との信頼関係と、明らかになってゆく親友・那緒の死の真相、そして国の存亡を揺るがす危機。誰を信じればいいのかどうすべきか、ギリギリの駆け引きの先にあった関係は何とも複雑でしたけど、あの二人ならきっと乗り越えて幸せを掴んでくれると信じています。21年2月に3巻目刊行予定。
8.愛を綴る (集英社オレンジ文庫)
父親がおらず厳しく貧しい苦境にありながら、明るく清らかに生きてきた天涯孤独な少女フェイス。ファーナム侯爵のメイドとして働き始めた彼女が森で迷い、情熱的な青年ルークと運命の出会いを果たす物語。字を読むことも書くこともできなかったフェイスが、文字の手ほどきを受けながらルークとやり取りを交わす日々と、明らかになってゆくルークの正体、身分違いの二人が直面する悲劇。暗転してからの二転三転する展開は勢いがあって、生い立ちや身分が違うがゆえの温度差も感じましたが、最後まで愛を貫いた先にあった結末はなかなか良かったです。
9.九天に鹿を殺す 煋王朝八皇子奇計 (集英社オレンジ文庫)
中原の覇者・煋王朝で皇帝の崩御とともに、次代の玉座を巡り八人の皇子が争う「九天逐鹿」。審判役・女帝の勅命のもと宮中に現れる蠱鬼を狩り、夭珠を増やす凄惨な戦いの幕が開ける中華謀略ファンタジー。母や家族だったり、妻や姉といった大切な存在のために集った八人の皇子たちが繰り広げる、卑劣な奸計が蠢いて情を断ち切れぬ者から滅びていく壮絶な後継者争い。新皇帝が誕生すれば殺される運命にある女帝・閨水娥。それぞれの想いが垣間見えるからこそ、それぞれの末路もまた印象的で、その先にあった結末にもまたぐっと来るものがありました。
10.後宮染華伝 黒の罪妃と紫の寵妃 (集英社オレンジ文庫)
諍いの絶えない後宮を治めるため、凱帝国皇帝・高隆青の皇貴妃となった共紫蓮。聡明さを買われて入宮した紫蓮が、職務上の信頼関係で結ばれた隆青を巡る妃たちの野心と嫉妬に巻き込まれてゆく中華風ファンタジー。皇太后・李飛燕の後ろ盾の下で蔡貴妃と許麗妃の派閥がぶつかり合う後宮を統率する紫蓮、そしてかつて隆青が寵愛した冷宮にいる元皇貴妃・黛玉の存在。より重厚な雰囲気にシフトする中で対比するように様々な愛が描かれましたが、重責に苦悩する隆青と彼を支える覚悟を決めた紫蓮がぶつかり合いながら育んでいく絆がとても印象的でした。
11.京都岡崎、月白さんとこ 人嫌いの絵師とふたりぼっちの姉妹 (集英社オレンジ文庫)
京都岡崎、月白さんとこ 人嫌いの絵師とふたりぼっちの姉妹
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相川 真/くじょう 集英社 2020年09月18日
優しかった父が死んで身よりを失った女子高生の茜と妹のすみれ。親戚の家で肩身の狭い思いをしていた彼女たちを、親戚筋で京都岡崎にある「月白邸」に住む青年・青藍が引き取られる家族の物語。酒浸りの破綻した生活を送る人間嫌いで変人という噂の青藍と、入り浸る明るい絵具商の青年・陽時。最初ぎこちなかった関係も茜の餌付けやすみれのあどけなさに少しずつ変わっていって、陽時の特別な人のエピソードは切なかったですけど、家の事情に振り回され続けた彼らが、その不器用な関係に大切な絆を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありました。
12.忘れじのK 半吸血鬼は闇を食む (集英社オレンジ文庫)
恩人パオロが倒れたという知らせで故郷フィレンツェに戻ったガブリエーレ。彼が倒れた原因を探るため、秘密にしていた闇の世界にかかわる仕事を追いかけ始める物語。幼い頃から見えていた黒いもやに追いかけられる過程で出会ったパオロの相棒だったダンピール・かっぱ。ともに過ごす中で彼らの関係も明らかになっていって、だいぶ様相も変わっていきましたけど、突きつけられるダンピールの宿命と悲哀がまた切なくて、それを知ったガブリエーレがかっぱとこれからどう向き合っていくのか、とても気になる結末だったのでシリーズ化に期待したいです。
13.君を忘れる朝がくる。 五人の宿泊客と無愛想な支配人 (集英社オレンジ文庫)
君を忘れる朝がくる。 五人の宿泊客と無愛想な支配人
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山口 幸三郎/鈴木 康士 集英社 2020年11月20日
一晩眠ると消し去りたいと願う記憶が消える部屋があるという噂の湖畔のペンション「レテ」。そこに噂を聞きつけた人々がやってくる連作短編集。寡黙なオーナーの遠野愛文としっかりものの少女・多希、常連客で女流ミステリー作家の丸川千歳。離婚した幼馴染、姉に劣等感を抱く妹、ペットの死を悔やむ少女、明らかになってゆく愛文の過去、そして引き継いだ記憶の結末。確かな愛があったからこそ苦しむそれぞれのエピソードは読んでいて切なくなりましたが、けれどその先に再び紡がれてゆく関係には新たな希望が感じられるとても優しい物語でしたね。
14.モノノケ踊りて、絵師が狩る。 ―月下鴨川奇譚― (集英社オレンジ文庫)
モノノケ踊りて、絵師が狩る。 -月下鴨川奇譚ー
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水守 糸子/Minoru 集英社 2020年02月20日
美大の日本画科に通う大学生詩子と、幼い頃から知る青年・七森が、二人で散逸した詩子の先祖で江戸末期の妖怪絵師・月舟の百枚連作の妖怪画を探すファンタジー。本物が封じ込められているという月舟の妖怪画を巡る因縁が描かれる展開で、月舟の絵に執着する画商・九十九の暗躍と、複雑な事情を抱える詩子と七森の関係。憑きもの落としや絵を巡る過去の因縁の清算がメインでしたけど、お互い相手をかけがえのない存在と自覚しながらも、なかなか上手く向き合えない詩子と七森の何とも不器用な距離感にはついもどかしい気持ちになってしまいました。
15.乙女椿と横濱オペラ (集英社オレンジ文庫)
明治末期の横濱。まことの恋に憧れる女学生・紅の周りに怪異が起こり、父親の長屋に住みついている青年絵師・時川草介と事件を解決する怪異譚。男爵屋敷の椿によって神隠しにあった紅の許嫁の真相、さまよう女学生の亡霊、古き狗神の祟り。新聞記者の兄の助けも借りながら、怪異を見ることができる草介と好奇心旺盛な紅の二人で事件の真相を調べる展開で、一見ぐうたらに見える草介が抱える訳ありの過去と、そんな彼をいろいろ言いながらも世話を焼く紅の腐れ縁的な関係がなかなか良かったです。草介はもしかしてあの絵師さんの子供なんですかね…?
16.海月館水葬夜話 (集英社オレンジ文庫)
穏やかな港町の学園で司書として働く遠田湊。そんな彼女と幼馴染・凪が一緒に暮らす小さな洋館・海月館に死んでも忘れることのできなかった後悔を抱えて客人が訪れる葬送ミステリ。湊の先輩司書だった櫻子と図書委員の吉野、「私が朝香を殺した」と告げる二人が抱えていた秘密、妻が殺されてから気づいた夫の後悔、病死した兄と双子の妹の複雑な関係、訪れた死者たちの後悔に向き合い、真相を解き明かしてゆく湊と凪。そんな二人の関係もまた過去に縛られたものに思えましたけど、様々な後悔に向き合ってきた湊の選択がなかなか印象的な物語でした。
17.新米占い師はそこそこ当てる (集英社オレンジ文庫)
英国人占い師を祖母に持ち、幼い頃から占いの才能があった萌香。占いのせいで周囲と上手くいかなくなった過去から占いを封印する彼女が、祖母の帰省中になりゆきから占うことになる物語。追い詰められた依頼人に同情し、チャレンジしてみることになった萌香。過去のトラウマから占いに自信がなかった萌香でしたけど、彼女を気にかけてくれる幼馴染・翼の的確なサポートや、依頼人の薫子さんたち大人がいい人だったこともあって、お友達の難しい依頼や過去にも向き合って何とか乗り越えられましたかね。幼馴染との関係も気になるので続刊に期待です。
18.たとえあなたが骨になっても 死せる探偵と祝福の日 (集英社オレンジ文庫)
たとえあなたが骨になっても 死せる探偵と祝福の日
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菱川 さかく/清原 紘 集英社 2020年10月21日
殺されても謎解きをやめない凛々花先輩。死者の声が聞こえる探偵部の朝戸雄一は彼女の頭蓋骨を密かに抱え、謎に飢えた彼女の好奇心を満たすため、自分だけが聞こえる凛々花の声を頼りに次々起こる事件を追うミステリ。死を呼ぶ先輩と死者の声を聞ける主人公が近くで起きる路上で発見された小指、バレンタインの変死体、奇妙な脅迫状、学校の屋上からの墜落死の真相。その関係には何とも危うさも感じさせますけど、二人で事件を解決してゆく展開はテンポも良くて、彼女の兄の登場で浮上してきた先輩の実家・後光院家との因縁も気になるところですね。
19.ひきこもりを家から出す方法 (集英社オレンジ文庫)
中学時代のつまずきが原因で自室から一歩も出られなくなり、ゆるやかな絶望の日々を送っていた影山俊治。十年が過ぎたある日、「ひきこもりを家から出す」プロ集団から、敏腕メイド・エリーが派遣されてくる切なくも優しい再生の物語。両親と協力しながら地道に俊治へアプローチを図るクリス。乗り越えるのは簡単なことではなかったでしょうけど、何度か挫折しかけながらも周囲の支えられながら、過去に決着をつけて前に進もうとする俊治の頑張り、そして乗り越えるきっかけを得た彼がまた周囲の人たちを支えてゆく結末は心に響くものがありました。
20.赤ちゃんと教授 乳母猫より愛をこめて (集英社オレンジ文庫)
不運なトラブルで住む場所と仕事をいっぺんに失ってしまった有能なベビーシッター・西東鮎子。偶然立ち寄った公園で赤ん坊の養父で大学教授・島津伊織にベビーシッター兼偽婚約者役として雇われるお仕事小説。路頭に迷いかけていた鮎子を雇ってくれた伊織と亡き姉の子が抱える事情。「保育のプロでも子育てのプロではない」鮎子は偽婚約者として伊織の乳兄弟に対応したり、遺産相続争いにも巻き込まれましたけど、彼女の持ち前の機転で切り抜けてゆく展開はなかなか良かったですね。意外とお似合いな二人のその後が読んでみたくなる新シリーズです。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。