非常事態宣言でなかなか難しい状況が続いていますが、そんな中で何か面白い本を読んでみたいと思っている方もいると思います。そんな方向けに既刊本のなかから、おすすめの一冊で読める本を10点ほどセレクトしてみました。各レーベルから1点ずつセレクトしています。
1.妻を殺してもバレない確率 (宝島社文庫)
未来に起こる確率を調べる技術が確立した世界。自らが抱える苦しい思いをどうにかしたくて、確率をつい確認し続けてしまう人たちの物語を描く連作短編集。政略結婚や大怪我、路面電車での出会い、届かぬ思いや父と娘の関係、忘れられない運命の出会いなど、停滞する状況を抱える登場人物たち。それでも人との関わりの積み重ねから事態や心境も少しずつ変化して、それに向き合ったり素直になったり次に向けた一歩を踏み出してゆく7つのエピソードは、表題作でもあるタイトルイメージをいい意味で裏切る思いのほか爽やかな読後感の素敵な物語でした。
2.最後の医者は桜を見上げて君を想う (TO文庫)
「死」を受け入れ、残りの日々を大切に生きる道もあると説き死神と呼ばれる医者・桐子。奇跡を信じ最後まで「生」を諦めない副医院長・福原と対象的な二人が挑む戦いが描かれる医療ドラマ。直面する「死」に対してどう向き合うのか。残された時間を生還の望みが薄い延命治療のために戦うか、後悔なく生きるために使うのかというそれぞれの選択。それは正解のないとても難しい問いですが、それでも患者だけでなく医師や家族たちもそれぞれ精一杯何とかしたいと残り時間に向き合う姿が真摯に描かれていて、切ない物語でしたけどとても心に響きました。
3.雪には雪のなりたい白さがある (創元推理文庫)
公園を舞台にした五つの転機が綴られる連作短編集。港が見える丘公園でのおじいさんとの出会い、ムーミンをきっかけに出会った二人の別離とそれぞれの再出発、石神井公園を舞台にした憧れの人との再会、航空公園を舞台とした中学三年生の冬に別れた同級生の恋人を忘れられずにいた瑞希の決意と、文庫収録の彼の視点短編。いずれも自分が行ったことがある公園で、うまくいかない状況を抱えた登場人物たちが、そこでの出会いをきっかけに新たな一歩を踏み出す展開には心に響くものがある素敵な物語でした。最後の話の後どうなったのか気になりますね。
4.恋する寄生虫 (メディアワークス文庫)
突然見知らぬ男に不登校の女子高生・佐薙ひじりの面倒を見るよう依頼された、失業中の青年・高坂賢吾。リハビリと称して一緒に過ごす時間を作るようになる二人が意外な事実を突きつけられる物語。母の死をきっかけに極度な潔癖症となり生きることに絶望している高坂と、寄生虫に興味を持つ視線恐怖症でヘッドフォンを手放せないひじり。共に時間を過ごす中で孤独で不器用な二人が惹かれ合ってゆく想いを、こういう形でしか証明できないというのは切ないですね。二人が最後まで寄り添える可能性を信じて、その幸せを願わずにはいられませんでした。
5.君が描く空 - 帝都芸大剣道部 (中公文庫)
東京藝術大剣道部に事情があって三年生になってから入部してきた唯。それを指導することになった主将の壮介と、剣道部員たちが織りなす青春群像劇。複雑な家庭の事情を抱えながらも、画廊への契約条件として提示された初段を取ることを承諾した唯。割り切った唯の言動に戸惑い心配する一方で、憧れの部員・綾佳への想いにも揺れる壮介。そろそろ進路を意識せざるをえない部員たちが突きつけられる才能とそれに向き合う覚悟はシビアで、各々が直面する状況もまたほろ苦かったですが、それでも変わらない想いが垣間見える結末はとても心に響きました。
6.きみのために青く光る (角川文庫)
心の不安に根ざして発症し、力が発動すると身体が青く光って様々な異能力が発現する病「青藍病」。それに振り回される4人の男女が織りなす切なく愛おしい連作短編集。青藍病によって動物から攻撃されたり、念じるだけで生き物を殺せたり、人の年収や死期を知ってしまったり。青藍病によって引き起こされる異能に戸惑うことも多くて、それによって様々な事件に巻き込まれたりもしますが、困難に直面した恋する相手のために何とかしようと奔走したり、終わってみれば何となくいい感じにまとまってゆく展開は著者さんらしくてとても素敵な物語でした。
7.アンハッピー・ウエディング 結婚の神様 (PHP文芸文庫)
幼馴染の史郎を一方的に恋慕い、彼との結婚を夢見る会社員の咲希。そんな彼女が妹の紹介で結婚資金を稼ぐために副業で結婚式の「サクラ」のバイトとして働く物語。同じサクラの百合香とともに臨む憧れの結婚式場で次々と起こる略奪婚、歳の差婚、毒親といったワケアリ結婚式の数々。長年の片想いでずっと近くにいるのに、なかなか見えてこない史郎ことシロの本音。これでもかとばかりに結婚の現実が突きつけられて、頻発するトラブルからひとつの構図が見えてきて、それでも結婚に憧れる咲希の真っ直ぐな想いとその結末は心に響くものがありました。
8.誰にも言えない (集英社オレンジ文庫)
旧財閥で日本有数のセレブ一族の家に生まれた女子大生の葵。大好きな3人の女友達を誘い避暑地に遊びに来ていた彼女たちが、「誰にも打ち明けていない秘密の話」を順番に打ち明けてゆくサイコホラー。招待した葵の友人でモデルの結衣、美人小説家の莉子、有望なアスリートのひまりという目を引く美女たちが明かしてゆく、誰も知らなかった彼女たちの秘密。それぞれの打ち明け話の中で垣間見える彼女たちの生々しい悪意と、真相を明かしながらも平然としている彼女たちには戦慄しましたが、その先にあった思わぬ展開と迎えた結末はなかなか衝撃的でした。
9.あした世界が、 (小学館文庫)
音楽会社に勤める吉山朗美と、社長に契約解除され怒り狂う同級生のスーパースター・絹川空哉。十年前の高校時代にタイムスリップした朗美が当時の心残りをやり直す物語。極度のあがり症を抱える冴えない女子高生だった朗美。空哉と蓮に急接近していく一方で、すれ違い続けていた父との関係。無難に生きるしかなかった高校時代の人間関係も十年後の自分には大したことには思えなくて、だからといってままならないこともたくさんあって。それでも逃げずに困難に向き合った朗美の決断が、当時も今も変えてゆく結末は清々しい読後感で面白かったです。
10.流星の下で、君は二度死ぬ (新潮文庫nex)
父を火事で亡くしたトラウマから、亡くなる瞬間の情景が「予知夢」として見える能力を得てしまった女子高生みちる。予知夢に見た従兄の一美を助けようと介入した結果、被害者が変わってしまう学園青春ミステリ。殺された同級生・渡辺と交流があった不登校の穂香、そして人気者のサッカー部員・浜坂との因縁も解き明かしてゆくみちると一美。新事実が明らかになるたびに印象が二転三転して、やりすぎなければ…と思う積み重ねが招いた惨劇の真相はほろ苦かったですが、自分の能力にきちんと向き合うようになってゆくみちるの姿が印象的な物語でした。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみて下さい。