というわけで20年12月に読んだ新作おすすめ本です。
何でこんなに点数あるんだと自分でも思いますが、年内に新作をできるだけ読もうと努力した結果なのでお察し下さい(苦笑)
ラノベではまず「竜歌の巫女と二度目の誓い」(GA文庫)と「古き掟の魔法騎士」 (ファンタジア文庫)のファンタジー二本。それと「隣のクーデレラを甘やかしたら、ウチの合鍵を渡すことになった」(電撃文庫)、「両親の借金を肩代わりしてもらう条件は日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。」(ファンタジア文庫)あたりには今後の展開に期待したいですね。石川博品さんの「ボクは再生数、ボクは死」もなかなかパンチの効いた一冊です。
ライト文芸では「星辰の裔」(集英社オレンジ文庫)、「冬の朝、そっと担任を突き落とす」(新潮文庫nex)、「君が最後に遺した歌」 (メディアワークス文庫)、「君を忘れる朝がくる。」 (集英社オレンジ文庫)に注目ですね。文庫では何と言っても「クローゼット」 (新潮文庫)。インパクトで「文学少女対数学少女」(ハヤカワ・ミステリ文庫)、一般文庫に進出した比嘉さんの「あの夏、僕らに降った雪」 (角川文庫)ですかね。
文芸単行本も面白い本が多かったですが、相沢沙呼さんの「教室に並んだ背表紙」、支倉凍砂さんの「それをAIと呼ぶのは無理がある」、寺地はるなさんの「どうしてわたしはあの子じゃないの」を挙げておきたいと思います。
竜歌の巫女と二度目の誓い (GA文庫)
かつて竜歌の巫女が幼き騎士ギルバートと誓った約束。それは裏切りから呪いへと変わり、世界を呪った少女と英雄となった騎士、かつて誓い合った二人が輪廻を超えて再び巡り合うファンタジー。人々が飢え苦しむ前領主の悪政を覆した革命。苦しい過去の記憶を持ったまま転生してルゼと名乗った少女とギルバートの邂逅。彼女と呪われたギルバートの関係は複雑で、けれど温かい人達との触れ合いが少しずつその想いを変えていって、過去の苦しみはそう簡単に忘れられなくとも、それでも未来に希望を見出そうとする結末にはぐっと来るものがありましたね。
古き掟の魔法騎士I (ファンタジア文庫)
伝説時代最強騎士と謳われ、野蛮人の異名を持つシド。キャルバニアの若き王子・アルヴィンによって復活を遂げた男が、魔法騎士学校の教官として生きるファンタジー。外部では北の魔国が蠢動し、国内は三公爵家の思惑から不安定な状況。そんな中で王位を継承して斜陽の祖国を救うために、復活したシドに師事することを決意するアルヴィンが抱える秘密。過酷な運命を背負う王子にはえてくれる仲間たちがいて、苦境にも負けずに自ら身体を張って立ち向かう姿は心に響くものがありましたね。主従となった彼らのこれからが楽しみな期待の新シリーズです。
隣のクーデレラを甘やかしたら、ウチの合鍵を渡すことになった (電撃文庫)
隣のクーデレラを甘やかしたら、ウチの合鍵を渡すことになった(1)
posted with ヨメレバ
雪仁/かがちさく KADOKAWA 2020年12月10日
一人暮らし二年目の高校生・片桐夏臣の隣室に引っ越してきた黒髪碧眼の美少女・ユイ。学校ではクーデレラでそっけない彼女をふとしたきっかけで助けた夏臣が、彼女を手助けしていくことを決意する青春小説。家に複雑な事情を抱えるイギリスからの留学生で、日本語は堪能でも細かい部分はいろいろ疎いユイ。不器用で不安を抱える彼女をしっかりフォローする彼の優しさに感化されて、少しずつ笑顔を取り戻してゆくユイは可愛くて、いい感じに焦らずしっかり絆を深めてゆく二人の距離感がここからどう変わってゆくのか、とても楽しみな新シリーズです。
〆切前には百合が捗る (GA文庫)
とある事情から従姉妹で編集者の白川京のもとに身を寄せた家出少女の白川愛結。そんな彼女が、京の紹介で人気作家・海老ヒカリの世話係&監視役のバイトをする日常系ガールズラブコメディ。学校という狭い社会から排斥された少女と、容姿才能家柄全てに恵まれながら自堕落に生きる小説家。二人で始めた共同生活はヒカリがいろんな意味で斜め上で、刺激的な毎日が続けは監視も緩むよな…と苦笑いでしたけど、ワケアリな彼女たちが一緒に過ごす中でお互い少しずつかけがえのない存在になってゆく、そんな二人の行く末をまた読んでみたいと思いました。
元スパイ、家政夫に転職する (角川スニーカー文庫)
イケメンすぎて無自覚に敵味方関係なく女性を誑かし、組織崩壊の危機からスパイとして解雇されてしまった野宮クロウが、次の仕事して野宮三姉妹の家政夫になるラブコメディ。これまで散々厳しい面接から、あっさり顔か?と突っ込みたくなる採用でしたけど、偽彼氏周知作戦、友達五人できるかな作戦、一緒に温泉に行くことになったり、三姉妹のために奮闘するクロウはやっぱりどこかズレていて、それでもイケメンで危機に颯爽と駆けつけるから、好感度も上がっちゃうんですよね(苦笑)そんなドタバタっぷりを楽しめる人なら面白い作品で続巻も期待。
両親の借金を肩代わりしてもらう条件は日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。 (ファンタジア文庫)
両親の借金を肩代わりしてもらう条件は日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。(1)
posted with ヨメレバ
雨音 恵/kakao KADOKAWA 2020年12月19日
海外逃亡した両親の借金の返済を迫られた高校生・吉住勇也。そこで同級生の社長令嬢で全国女子高生ミスコンの1位な憧れの女の子・一葉楓に救われ、なぜか同居することになる青春ラブコメディ。最初の流れはやや強引かなとも感じましたけど、一緒に住むことになった楓はずっと勇也を見てきた健気な子で、外堀を埋めてぐぐいぐい来る彼女を天然の素直さで返り討ちにする甘い展開は、友人のバカップルがたじたじになるのも納得です(苦笑)結婚前提で同棲する二人の甘々な関係もますます盛り上がりそうで、ここからの展開が楽しみな新シリーズですね。
恋人代行をはじめた俺、なぜか美少女の指名依頼が入ってくる (角川スニーカー文庫)
高時給アルバイトを探していて友人に話を聞き、「恋人代行」登録した金欠大学生の斯波龍馬。そこで周囲には「恋愛に興味ない」と公言する柏木姫乃とたまたまデートの約束をする青春小説。優しい龍馬と緊張しながら手を繋いだり、恋人のような甘い時間を過ごす姫乃。友達に見つかった時の対応もそうですけど、困ったときにきちんと向き合ってくれたらキュンとしちゃいますけよね(苦笑)もうひとりの愛羅もまたなかなか難しい境遇の子でしたけど、そんな二人の拠り所となるような龍馬との関係がこれからどうなるのか、続巻が楽しみなシリーズですね。
黒鳶の聖者 (オーバーラップ文庫)
黒鳶の聖者 1 〜追放された回復術士は、有り余る魔力で闇魔法を極める〜
posted with ヨメレバ
まさみティー/イコモチ オーバーラップ 2020年11月25日頃
最高クラスの職業・聖者となりながら一人だけレベルが上がらず、お荷物扱いされて幼馴染の勇者にパーティーを追放されたラセル。生まれ故郷に帰った矢先、魔物に襲われていた謎の美女・シビラと出会うファンタジー。ダンジョンや職業に詳しいシビラと出会ってラセルがメキメキと力を付けていく一方で、回復系不在なままの勇者パーティーは不穏な状況。ラセル不在の大きさに気づいて苦悩する幼馴染ヒロインとは今後のやり直しに期待ですけど、ゲスい勇者のパーティーに残されたジャネットは負担も大きいし、残るメンツもあれで大丈夫なんですかね…。
クラスの大嫌いな女子と結婚することになった。 (MF文庫J)
顔を突き合わせれば毎回喧嘩する天敵のような同級生・桜森朱音。かつて恋人同士だった両祖父母の思いつきで結婚し同居する青春ラブコメディ。何事もアバウトだけれど勉強はできる北条才人と、しっかりしていて努力家の桜森朱音。夢を叶えるために結婚した二人でしたけど、勉強でも勝てない朱音が敵視する関係で、ひとつひとつの考え方の違いもあってことごとく衝突する生活。こういうのは折り合い付けるのこと必要ですよね(苦笑)最初はどうなることかと思いましたけど、歩み寄ることを覚えて少しずつ変わり始めた二人の今後に期待のシリーズです。
彼女できたけど、幼馴染みヒロインと同居してます (ファミ通文庫)
修学旅行最終日。告白大会の末に転校生・亀島姫乃の想いに応えた相生夏。しかし家には相変わらず幼馴染みヒロイン真形兎和が同居する青春ラブコメディ。家がお隣→世話焼き姉さん→同居ルートに入っていた幼馴染ヒロインまさかの玉砕。そんな想いが簡単に消えるわけもなく、不器用でコミュ障な姫乃と仲良くなろうとする夏を、結果的に邪魔しまくる何ともウザい幼馴染化していて苦笑いでしたが、夏もまた幼馴染に対する複雑な想いを抱えて、姫乃も意識せざるをえなくて、本音でぶつかり合ったこの三角関係…複雑過ぎて容易に答え出そうにないですね。
『おっぱい揉みたい』って叫んだら、妹の友達と付き合うことになりました。 (角川スニーカー文庫)
『おっぱい揉みたい』って叫んだら、妹の友達と付き合うことになりました。(1)
posted with ヨメレバ
凪木 エコ/白クマシェイク KADOKAWA 2020年12月26日
悪友に遊ばれた高校生・金井夏彦の悔しさからの魂の叫び。そんな想いに応えてくれた妹の友人・神埼未仔と付き合い始める青春ラブコメディ。思ってもみなかった形で始まった二人の交際。未仔は妹の友人であると同時に夏彦の幼馴染で、昔優しくしてくれた彼を思い続けてきた健気な彼女と一緒に思い出エピを回想したり、お弁当を作ってきてくれたり、背伸びをしない初デートだったり、糖分過多な気味な甘い展開では彼女がわりとぐいぐい来る感じでしたけど、要所では夏彦もしっかりといいところを見せたりで、なかなかお似合いの二人だなと思えました。
時間泥棒ちゃんはドキドキさせたい 俺の夏休みをかけた恋愛心理戦 (電撃文庫)
時間泥棒ちゃんはドキドキさせたい 俺の夏休みをかけた恋愛心理戦(1)
posted with ヨメレバ
ミサキナギ/うなさか KADOKAWA 2020年12月10日
一学期最終日。日常に飽きてただ毎日を消化する高校生・加嶋颯。しかしクラスのアイドル・藤ノ宮白雪からまさかの告白をされ、なぜか次の瞬間9月1日へとタイムリープし、夏休みが始まる前に終わってしまうSFラブコメディ。謎の砂時計で相手の時間を奪う時間泥棒・白雪から時間争奪ゲームを持ちかけられる颯。ドキドキした方が時間を奪われるため、ベタな展開からの駆け引きが繰り広げられて、白雪の思わぬ事情が明らかになっていく中でその真意も垣間見えて、彼女に何度も騙されてしまう颯の心境の変化と、二人の今後に期待の新シリーズですね。
ボクは再生数、ボクは死
しがない会社員の狩野忍は世界最大のVR空間サブライム・スフィアで世界最高の美少女シノとなり、VR世界で恋をした高級娼婦ツユソラに会うため、過激で残酷な動画配信で再生数と金を稼ぐことを決意する近未来小説。会社の先輩・斉木みやびと組んで過激な動画配信で注目を集める彼らの舞台裏は何ともシュールで、イメージと現実とのギャップには苦笑いでしたけど、殺伐とした世界観の中で刹那的な恋のために生きるシノが、仲間たちとともにのし上がってゆく過程で見出してゆく確かな絆と、そんな彼らが迎えた結末にはぐっと来るものがありました。
星辰の裔 (集英社オレンジ文庫)
薬師だった父の志を継ぎ、大陸からの先進知識が集まる町を目指して旅する少女アサ。その途中で馬賊と呼ぶ大陸からの侵略者・辰の奴婢狩りに遭い、捕まってしまったアサが皇王の次男・季晨と運命の出会いを果たすファンタジー。宦官と勘違いされ皇女の側で働くアサが巻き込まれてゆく朝児に対する根強い差別と辰の後継者争い。薬師として生きたいと願うアサの願い、それを理解してくれる季晨との出会いと惹かれてゆく想いがあって、数奇な運命が激動の展開に繋がりましたけど、乗り越えた先の信念と想いの末に導き出された結末が印象的な物語でした。
冬の朝、そっと担任を突き落とす(新潮文庫nex)
校舎の窓から飛び降りた担任教師。遺書は残されていなかった。奇妙な平穏が続いた理系特進クラスに転校生・中西美紀がやってきたことで、教室の贖罪が始まる青春ミステリ。学校側が否定する担任の自殺の原因はこのクラス全員が知っている。死の真相を探り始める美紀が、そしてその後を引き継いだ田嶋春が、目をそらしていたクラスメイトたちに投げかけた波紋。すれ違いの連続が悪意なき残酷さを生んで、その積み重ねによって事態の様相もガラリと構図を変えていって、全てが繋がった末に提示されるその結末にゾクリとさせられる印象的な物語でした。
君が最後に遺した歌 (メディアワークス文庫)
田舎町で祖父母と三人暮らしで、詩作を唯一の趣味に平凡な生活を送り、堅実な将来を目指していた水嶋春人。その秘かな趣味を知った同級生・遠坂綾音から一緒に歌を作るように誘われ、その人生が変わり始める青春小説。歌詞が書けない事情を抱える綾音に代わり自分が書く関係。共に時を過ごし想いを積み重ねて彼女が歌う姿に惹かれてゆく春人。綾音の夢を叶えるために背中を押す春人の決意は切なくて、けれど離れ離れになっても変わらない思いがあって、そんな二人が過ごしたかけがえのない日々と、ちょっと粋な結末にはぐっと来るものがありました。
君を忘れる朝がくる。 五人の宿泊客と無愛想な支配人 (集英社オレンジ文庫)
一晩眠ると消し去りたいと願う記憶が消える部屋があるという噂の湖畔のペンション「レテ」。そこに噂を聞きつけた人々がやってくる連作短編集。寡黙なオーナーの遠野愛文としっかりものの少女・多希、常連客で女流ミステリー作家の丸川千歳。離婚した幼馴染、姉に劣等感を抱く妹、ペットの死を悔やむ少女、明らかになってゆく愛文の過去、そして引き継いだ記憶の結末。確かな愛があったからこそ苦しむそれぞれのエピソードは読んでいて切なくなりましたが、けれどその先に再び紡がれてゆく関係には新たな希望が感じられるとても優しい物語でしたね。
ようこそ紅葉坂萬年堂 (小学館文庫キャラブン!)
日々の生活に疲れ、働く意味を見失ってしまった綾瀬葵。ある日、紅葉の美しい坂の途中にある万年筆などのペンを専門に扱う「紅葉坂萬年堂」と出会い、働くことを志願するお仕事小説。無愛想だけれどペンの知識が豊富な宗方が語る万年筆の世界に魅せられた葵。最初は失敗しながらも真摯な宗方の姿勢に感化されて成長していく葵だったり、万年筆のこと以外では残念で不器用な宗方との関係も含めて王道の展開でしたけど、それ以上に万年筆への愛に溢れていて、自分でも万年筆を使ってみたくなる素敵な物語でした。続刊あったらまた読んでみたいですね。
乙女椿と横濱オペラ (集英社オレンジ文庫)
明治末期の横濱。まことの恋に憧れる女学生・紅の周りに怪異が起こり、父親の長屋に住みついている青年絵師・時川草介と事件を解決する怪異譚。男爵屋敷の椿によって神隠しにあった紅の許嫁の真相、さまよう女学生の亡霊、古き狗神の祟り。新聞記者の兄の助けも借りながら、怪異を見ることができる草介と好奇心旺盛な紅の二人で事件の真相を調べる展開で、一見ぐうたらに見える草介が抱える訳ありの過去と、そんな彼をいろいろ言いながらも世話を焼く紅の腐れ縁的な関係がなかなか良かったです。草介はもしかしてあの絵師さんの子供なんですかね…?
失恋の準備をお願いします (講談社タイガ)
告白を断るため、魔法使いだと嘘をついてしまった女子高生。フリたい私とめげない彼。恋と嘘とが絡みあい、やがて大きな渦となってゆく連作短編集。上京間近で告白されて遠距離恋愛を迷う女子高生、モテすぎて困る男子高生、彼の浮気を疑う彼女、ブラック企業のサラリーマンの恋、盗み癖がなおらない女の子と彼女が気になる小学生。やたらと濃い登場人物たちが日の下町で繰り広げてゆく数々の事件は、意外なところで繋がり絡み合ってかなりカオスな展開でしたけど、そこから伏線が繋がっていい感じにまとまっていく結末はなかなかいい感じでしたね。
白澤さんの妖しいお料理処 四千年の想いを秘めた肉じゃが (富士見L文庫)
白澤さんの妖しいお料理処 四千年の想いを秘めた肉じゃが(1)
posted with ヨメレバ
夕鷺 かのう/夢咲 ミル KADOKAWA 2020年10月15日頃
生まれながらの不運体質な女子大生・楠城湊が希望を見出した街・神戸。体調が悪く迷い込むように路地裏の料理処を訪れた彼女が、謎めいた美貌の店主・白澤さんに手料理を押し売られる飯テロ小説。白澤の作った肉じゃがを食べたら妖怪が見えるようになってしまった湊。白澤の作る料理にはいろいろ役立ちそうな知識があって、体質改善のためにバイトで白澤が作る美味しいご飯を食べるようになって、良くも悪くも様々な出会いもありましたけど、物語の構図が明らかになっていく中でなかなか業が深そうな因縁が明かされた二人のこれからが楽しみですね。
クローゼット (新潮文庫)
男なのに女性服が好きというだけで傷つけられた過去を持つ芳と、幼い頃のある事件のせいで男性恐怖症を抱えていた纏子。服飾美術館を舞台に洋服の傷みと心の傷みにそっと寄り添うお仕事小説。芳が働くデパートでの特別展示を機に出会った服飾美術館の洋服補修士・纏子。芳は機会あって訪れた服飾美術館でめくるめく服の奥深い世界に魅せられて、美術館の中で働く人たちの雰囲気もなかなか興味深くて、それぞれの過去が繋がってしっかりと向き合い、服だけでなく心もまた少しずつ補修されて、新たな一歩踏み出す展開にはぐっと来るものがありました。
文学少女対数学少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
高校2年生の文学少女・陸秋槎が自作の推理小説をきっかけに出会った、孤高の天才数学少女・韓采蘆。ふたりが邂逅する様々な謎とともに新たな作中作が提示されていく連作短編ミステリ。作者の秋槎も予想だにしない真相を導き出してみせた采蘆。人間関係の描写自体はやや硬い印象で各話の物語の締め方がやや独特な感じもありましたけど、実際に起きた事件や作中作の犯人当てを、彼女とともに数学的思考もうまく絡めながら解き明かしてゆく展開で、推理小説の謎を解き明かす思考過程や様々な可能性を提示してみせてくれたなかなか興味深い一冊でした。
あの夏、僕らに降った雪 (角川文庫)
高校2年の夏休み。年齢を偽って治験のバイトに潜り込んだ湊が深夜の病棟で出会った、無関心病を患う少女・莉子。そんな彼女とともに過ごしたひと夏の物語。母の影響で「お金は物に使う」スタンスで生きてきた湊と、興味があるものを全力で楽しもうとする余命一ヶ月の莉子が満喫する北海道の夏。彼女の闘病ドキュメンタリーに出演することになったり、突然興味を失う彼女の喪失感に直面したりもしましたけど、その真意に気づいて莉子の複雑な想いにしっかりと向き合い、寄り添って最後まで精一杯過ごした二人の日々がとても印象に残る作品でしたね。
だから僕は君をさらう (双葉文庫)
辛い過去から平穏無事を意識するミュージシャン志望の青年・守生光星。彼がある日、夜の墓地で一人の少女・紫織と運命的な出会いを果たす純愛ミステリ。エアガンで撃たれたハトを助けたことから仲良くなった二人。職を失って怪しい仕事で食いつなぐ守生の忘れられない苦い過去、紫織が抱える複雑な事情と、意外な形で繋がってゆく過去との巡り合わせ。彼らが陥った状況は何とも不運だったようにも感じましたけど、彼女のために覚悟を決める守生の優しく不器用な決断は切なくて、だからこそお互いを理解する二人が迎えた結末には救われる思いでした。
友達以上探偵未満 (角川文庫)
忍者と芭蕉の故郷、三重県伊賀市の高校に通う伊賀ももと上野あおは地元の謎解きイベントで殺人事件に巻き込まれる。 探偵好きの二人はももの直観力とあおの論理力を生かし事件を推理していく青春ミステリ。伊賀の里ミステリツアーでの殺人事件、二人が通う伊賀野高校で起きた殺人事件、ももとあおの出会いと夏合宿で起きた殺人事件。タイプが違う二人を中心に見立て殺人を解き明かしてゆく展開は読みやすいのに意外と本格的で、補い合っていい感じにバランスが取れている二人が出会い、挑戦することになった最初の事件もなかなか効いていましたね。
三途の川のおらんだ書房 迷える亡者と極楽への本棚 (文春文庫)
人生最後で最上の一冊を選んでくれるという三途の川べりの「おらんだ書房」。生前に大きな未練を残す死者たちが最後の一冊を求めて店を訪れる連作短編集。本が大好きで本で圧死した公務員、先に亡くなった夫が最後に読みたかった本を探す妻、小さな子どもが探していたもの、不倫した夫たちを呪いたい妻、最終回を描かずに亡くなった人気漫画家、つまらない本を所望する高校生など、飄々とした着物姿の店主と彼に振り回されるアルバイトのいばらが、お客さんたちが本を求める真意を読み解いて、彼らのために奔走する姿はとても優しくて印象的でした。
教室に並んだ背表紙
中学校の図書室を舞台に、クラスや友人たちとの言動に馴染めない違和感や未来への不安、同級生に対する劣等感など、思春期の少女たちを繊細に描く連作短編集。図書室にやってくる苦手なクラスメイト、新たに赴任した学校司書と見つけた未来への手紙、ゴミ箱に捨てられた課題図書の感想文、変わってしまった友人への複雑な想い、自分を認めてくれた友人、ふとしたきっかけから教室に居場所がなくなる孤独など、教室の中に居場所を見つけられない主人公たちが見出すささやかな繋がりが優しくて、そんな繊細的な描写がとても著者さんらしい物語でした。
それをAIと呼ぶのは無理がある
AIが常に寄り添いサポートする時代。生まれた時からAIに囲まれて育ってきた主人公たちの計算不能な現実の恋や夢を描く近未来青春連作短編。AIに不毛な恋愛相談をする浩太、不登校の幼馴染さくらを心配する裕彦が渡されたもの、かなでが自らのAIを世界一可愛くするために必要だったこと、通学し始めたさくらが痛感するリアル、そして小春に藤次がAI初期化を依頼した理由。AIに対する距離感やリアルな人間関係に自信を持てない戸惑いなど、時代が変わってもその本質は変わらない繊細で瑞々しいエピソードにはぐっと来るものがありました。
どうしてわたしはあの子じゃないの
閉塞的な家や村から逃げだし、身寄りのない街で一人小説を書き続ける三島天。ある日中学時代の友人のミナから連絡をもらい、藤生を含めた幼馴染三人で久しぶりに再会する物語。強権的な両親に押さえつけられて早く家を出たいと思っていた天、そんな彼女を気にかける藤生の複雑な想い、天と一緒にいて自分というものを持っていないことを痛感していたミナ。それぞれが満たされない想いを抱えていて、自分は自分でしかなくて、大人になって変わったこともあるけれど、けれど変わらないものは変わらない三人のそれぞれのありようが印象的な物語でした。
ぼくもだよ。 神楽坂の奇跡の木曜日
「人は食べたものと、読んだものでできている」盲目の書評家のよう子と、路地裏でひとり古書店を営む本間。それぞれが見つけた本が繋ぐ奇跡の物語。神楽坂に盲導犬と住み、出版社の担当・希子と隔週木曜日の打ち合わせが楽しみなよう子。神楽坂の路地裏で古書店を経営し、五歳になる息子のふうちゃんと週に一度会えるのが楽しみなバツイチの本間。点字や本を巡るそれぞれの事情も興味深かったですが、よう子の書いた小説をきっかけに物語の構図がガラリと変わっていって、奇跡のように繋がってゆく過去と未来への期待感がとても印象的な物語でした。
透明な耳。
都立高校に通いダンス部では中心的存在の原田由香。しかし帰宅途中に接触事故に遭い、その外傷が原因で感音性難聴となってしまい、耳が聞こえなくなってしまう葛藤と再生の青春群像劇。絶望し友達や恋人と連絡も取れなくなってふさぎ込み、家族の関係もぎくしゃくしてしまう由香。当たり前だったはずの日常を全て失ってしまう絶望感は半端なかったですが、こういう時必要なのは寄り添ってくれる理解者と、これからの未来に向き合う勇気なんですよね。苦しい状況を乗り越えて夢に向かってチャレンジする由香たちの姿にはぐっと来るものがありました。
もしかして ひょっとして
トラブルやたくらみに巻き込まれて、お人好しが右往左往。助けを求められたなら放っておくことはできない。誤解も悪意も呑み込んでに6つの奇妙な謎を解き明かす短編ミステリ。電車で聞いたおばあちゃんの話から気づいたこと、体育館でバスケ部が険悪になっていた真相、家政婦さんが突如辞めた理由、猫を預けられた同級生を巡る騒動、娘に絵本を読んでいて思い出した昔の同僚、そして伯母からの依頼で遭遇した殺人事件。ふとしたきっかけから気づくそれぞれの真相がなかなか効いていて、個人的な好みでは体育館フォーメーションが一番良かったです。
いつの空にも星が出ていた
物静かな高校の先生が連れて行ってくれたスタジアムの思い出。予備校に通う女子高生と青年の出会い。家業の電気店を継いだ若者の好きなもの。洋食店のシェフの父で応援団長だった祖父と初めて出会う少年野球でピッチャーの息子。ベイスターズを愛する登場人物たちの連作短編集。そのまんま全てホエールズ、ベイスターズを巡るエピソードで綴られる構成で、自分はファンではなかったですけど当時は父親の影響でよく観てましたし、低迷期とか関係なく応援し続ける複雑な気持ちとか、それでも心から好きなんだと思う気持ちが心に響くそんな物語でした。
二人がいた食卓
新婚なのに相手への気遣いが裏目に出る、一番わかってほしい相手に限って自分の努力が伝わらない…そんな迷宮に迷いこんでしまった夫婦の物語。きっかけはまさかの食の好みや食習慣の違い。しっかりと二人の食卓を一緒に作りたい妻・泉と、ほどほどでいいじゃないかと思うアバウトな夫・旺介。育った文化が違えばすり合わせが必要なのに、この想いをなぜ相手は分かってくれないのか?と頑なになっていく二人のすれ違いが切なくて、お互いもう少し歩み寄れれば良かったですけど、もうダメだと思ってしまうとそこからの修復はなかなか難しいですね…。