毎年ライトノベルに関しては「このライトノベルがすごい!」ということで年間のおすすめ企画が宝島社さん主催で開催されていて、自分も協力者として参加していますが、年々レーベルも増え、存在感も増してきているキャラ文芸に関してはそういったものがありません。そもそもこのジャンルのおすすめ記事を作っている人自体があまりいないので、自分の読んだ本の中からの独断と偏見によるセレクトになりますが、キャラ文芸の年間企画をブログ企画として実施します。
対象としては「このライトノベルがすごい!」と同じ2019年9月~2020年8月に刊行された新作を対象30作品をセレクトしました。近年ライト文芸もライトノベル同様刊行点数が急増していて、全体をカバーするのが年々厳しくなっているのを痛感しますが、一方で全体のクオリティも底上げされていますし、それなりの冊数は読んでいるので絞り込むのはなかなか難しかったです。なお、キャラ文芸の定義については、ざっくりとそれっぽいので選んだということで予めご了解下さい。
1.流転の貴妃 或いは塞外の女王 (集英社オレンジ文庫)
商人の娘として生まれ、後宮の貴妃になった柴紅玉。それが勢力を拡大しつつある北方の遊牧民族の盟主へと嫁がされることになり、さらにその途上で嫁ぎ先の敵対部族による襲撃で攫われてしまう中華風浪漫譚。帝の寵愛はなくとも後宮で謳歌していた生活から、二転三転する運命に翻弄され激変する紅玉の人生は大変だなあと思わずにいられませんでしたが、族長の末子アマルの妻となった彼女があるべき姿を見定めて覚悟を決め、遊牧民族の妻としては型破りな、けれど自分らしいやり方でアマルを支えるようになってゆく姿にはぐっと来るものがありました。
2.恋に至る病 (メディアワークス文庫)
善良だったはずの幼馴染の少女がいかにして化物へと姿を変えたのか。150人以上の被害者を出した自殺教唆ゲームを作り上げた誰からも好かれる女子高生・寄河景と宮嶺の複雑な関係が描かれるミステリ。宮嶺への壮絶ないじめをきっかけに始まった景の変貌…自殺教唆ゲームはどんどんエスカレートして、彼女とともにあろうとする宮嶺はどんどん景のことが分からなくなっていって、そんな危うい状況の先にあった結末と、洗脳だったのか歪んだ純愛だったのか最後に気づいてしまう可能性、それでも変わらない彼女への想いが鮮烈で印象に残る物語でした。
3.処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな (新潮文庫nex)
留年して二回目の高校三年生となった佐藤晃に話しかけてきた同級生・白波瀬巳緒。それをきっかけに居場所がないと思っていた学校で周囲に輪ができて、かけがえのないものを取り戻してゆく喪失と再生の青春小説。留年の経緯で明らかになってゆく深い愛には驚かされましたが、あっけらかんとしたギャルの白波瀬巳緒、綺麗な声が耳に残る少女・御堂楓、そしてアニメ好きな和久井と出会い、大切な友人・藤田たちにも支えられながら、みんなで結成したバンドを通して熱い想いをぶつけ合い、未来に希望を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありました。
4.メイデーア転生物語 (富士見L文庫)
幼馴染に片想いしていた前世を時々夢に見る辺境貴族の令嬢マキア。運命的な出会いを果たした少年トールと魔法を学ぶ楽しい日々を過ごしていた彼女が、引き離されたトールと再会するために奮闘する転生ファンタジー。トールが救世主の守護者に選ばれ引き離されてしまう二人。トールと再会するため王都で最高峰の魔法学校を目指すマキア。学校では個性的な仲間もできて、選ばれていた救世主がまた前世でいろいろと因縁のあった存在で、抗いがたい運命に翻弄されるマキアとトールが大切な絆を守っていけるのか、続巻がとても楽しみなシリーズです。20年12月4巻刊行予定。
5.君を描けば嘘になる (角川文庫)
寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。
6.ベアトリス、お前は廃墟の鍵を持つ王女 (集英社オレンジ文庫)
王族による共同統治が行われる国イルバス。王宮を離れ北方辺境のリルベクで趣味の工業生産に明け暮れる王女ベアトリスが、周辺国の情勢が悪化により政治的決断を迫られる激動のヒストリカルロマン。尊大な兄アルバートと狡猾な弟サミュエルから距離を置くベアトリスが抱える秘密と、彼女を支え続ける側近のギャレット。事態が緊迫する中で駆け引きを続ける兄弟に振り回されるベアトリスでしたけど、不器用な彼女とギャレットの葛藤と繊細な距離感が効いていて、覚悟を決めた彼女たちが向き合った末に取り戻した絆にはぐっと来るものがありましたね。
関連シリーズ:【電子オリジナル】廃墟の片隅で春の詩を歌え
7.コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店― (新潮文庫nex)
九州に展開するコンビニ「テンダネス」の門司港こがね村店。勤勉なのに老若男女を意図せず籠絡するフェロモン店長・志波三彦と、彼を慕ってやってくる常連客たちがコンビニを舞台に繰り広げるお仕事小説。バイト野宮が密かに抱えていた後悔、夢と現実の狭間で悩む塾講師・桐山、幼馴染との関係に悩む梓、定年後妻との距離感が分からなくなった夫、パート・光莉の息子・恒星が抱いた疑惑、クリスマスの騒動など、店長や周囲の登場人物たちを絡めたドタバタ劇が楽しくて、その優しさが関わる人たちの心を癒してゆくとてもじんわりと来る優しい物語でした。
8.父親を名乗るおっさん2人と私が暮らした3ヶ月について (メディアワークス文庫)
たった一人の家族だった母親を病気で亡くした高校二年生の新田由奈。葬式の当日、由奈の前に金髪でチンピラ風の竜二と、眼鏡でエリート官僚風の秋生、父親を名乗るおっさん2人が現れる物語。今の家に住み続けたいという由奈に願いに、同じアパートへと引っ越してきた二人。最初はタイプも違う二人にイライラしっぱなしだった由奈も、いい加減にしか思えなかった母の真意を彼らの中に見出すうちに少しずつ変わっていって、状況が二転三転する中で彼らの優しさに気づき、育まれていったかけがえのない絆を見出してゆくとても素敵な家族の物語でした。
9.親王殿下のパティシエール (ハルキ文庫)
華人移民を母に持つフランス生まれのマリー・趙が、革命後の混乱から救ってくれた清王朝・乾隆帝の第十七皇子・永璘お抱えの糕點厨師見習いとして北京で働くことにばる中華ロマン小説。マリーがフランスの菓子職人見習いから清の御膳房に立場を変えて戸惑い苦労する様子はなかなか興味深いものがありましたけど、永璘不在の不安な状況でも試行錯誤しながらの頑張り認められ、自分で居場所を得てゆくマリーの前向きな姿勢がなかなか良かったですね。何かとマリーを気にかけてくれる永璘との関係性が、これからどう変わってゆくのか期待のシリーズ。現在3巻まで刊行。
10.仙文閣の稀書目録 (角川文庫)
そこに干渉した王朝は程なく滅びるという伝説の巨大書庫・仙文閣。帝国春の少女・文杏が、危険思想の持主として粛清された恩師が遺した唯一の書物を届けるべく訪れ、仙文閣の典書・徐麗考と出会う中華ファンタジー。麗考に救われたものの、無事蔵書される心配で住み込むことになった文杏が知る壮大な仙文閣の威容。文杏を持ち込んだ書物を巡って、権力に屈しない図書館めいた仙文閣で必要とされる資質が問われる展開でしたけど、知識云々よりももっと大切なことがあるんですよね。文杏がこれからどう成長してゆくのかまた読んでみたいと思いました
11.青ノ果テ :花巻農芸高校地学部の夏 (新潮文庫nex)
東京からの転校生・深澤がやってきてから、壮多も幼馴染の七夏もおかしくなった。彼女が姿を消す前に託された約束を胸に、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る巡検の旅に出る青春小説。将来の展望もないまま鹿踊りにのめり込んでいた壮多が、転校生・深澤と七夏の急接近で突き付けられた焦燥と動揺。彼女不在で複雑な想いを抱えたまま臨んだ男三人の旅で、それぞれの抱く想いに触れて、宮沢賢治ゆかりの地やそのゆたかな情景に魅せられて、過去に向き合い乗り越えようとする彼らの成長とその結末にはぐっと来るものがありましたね。
12.僕が僕をやめる日 (メディアワークス文庫)
困窮し生きることに絶望した立井潤貴。そんな彼を救った高木健介の代わりに大学に通うようになった二年後、高木が突如失踪するミステリ。作家でもある高木との充実した共同生活、そして失踪から始まる突然の暗転。残された数少ない手掛かりと作品をもとに高木の過去を知る人に会い、その行方を追う立井が知ってゆく意外な繋がりと高木の壮絶な過去。彼らが置かれた環境の過酷さと、何度も絶望感を突き付けられる彼らの生々しい感情描写はインパクトがあって、繋がってゆく複雑な因縁とその結末に至るまでを描く著者の熱い想いで読ませる物語でした。
13.香港シェヘラザード (富士見L文庫)
誘拐された邦人家族から相談を受けた香港赴任中の新人女性外交官・秋穂。黒幕は香港最大の黒道組織・七海幇と判明したものの、証拠が足りず踏み込めない中、幹部の男・立花と出会う絶望と再生のラブサスペンス。商社マン・笹森が一瞬目を離した隙に誘拐された妻・蓮子の絶望。犯人は明らかなのに安易には手を出せないもどかしさと、危険な匂いのする立花との出会いがあって、急展開後も続く過酷な環境でもかすかな希望を諦めない蓮子と彼女を支える女医の梨令、そして秋穂と立花の因縁がどんな結末を迎えるのか、緊迫感のある展開が面白かったです。
同僚の木内たちと協力して、誘拐された蓮子の行方を追う 新人外交官の秋穂。そんななか、七海幇当主の三男である月龍の屋敷が突然襲撃される下巻。捜査過程で蓮子に繋がる手がかりを得たものの、救出を目前にして彼女を保護しそこなってしまう秋穂たち。事態が急展開を迎える中で、秋穂が立花に会いに行く決断をしたことが事件としても物語としても大きな転機に繋がりましたかね。彼女を取り戻せるのか緊迫した状況での劇的な救出劇でしたけど、救われたから万事解決ではないのがまたほろ苦かったですね…。立花と秋穂の関係も気になるところです。
14.有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿 (集英社オレンジ文庫)
ヴィクトリア朝の英国を舞台に、社交界で浮名を流し風雅と博物学を愛する有閑貴族エリオットが、オカルト事件に目がない幽霊男爵として美貌の助手コニーを従え、持ち込まれる幽霊絡みの依頼に挑む物語。沈黙の交霊会、ミイラの呪い、天井桟敷の天使といった事件に、周囲を振り回しながら喜々として挑むエリオット主従はなかなか楽しいキャラたちで、けれど向き合った事件の真相にはどこまで真摯で、そんな彼らがあるのも二人に壮絶な過去があったからなんですよね。でもいつかその過去を乗り越えてくれると期待したくなる物語です。20年12月に2巻目刊行予定。
15.九天に鹿を殺す 煋王朝八皇子奇計 (集英社オレンジ文庫)
中原の覇者・煋王朝で皇帝の崩御とともに、次代の玉座を巡り八人の皇子が争う「九天逐鹿」。審判役・女帝の勅命のもと宮中に現れる蠱鬼を狩り、夭珠を増やす凄惨な戦いの幕が開ける中華謀略ファンタジー。母や家族だったり、妻や姉といった大切な存在のために集った八人の皇子たちが繰り広げる、卑劣な奸計が蠢いて情を断ち切れぬ者から滅びていく壮絶な後継者争い。新皇帝が誕生すれば殺される運命にある女帝・閨水娥。それぞれの想いが垣間見えるからこそ、それぞれの末路もまた印象的で、その先にあった結末にもまたぐっと来るものがありました。
16.廃妃は再び玉座に昇る 耀帝後宮異史 (小学館文庫キャラブン!)
残虐非道な凶后の姪として政変で断罪され、天下万民の怨敵として刑場に引っ立てられた先帝の廃妃・劉美凰。死ねずに幽閉された血染めの廃妃が、十年ぶりに後宮に帰還する中華風ファンタジー。彼女の身に宿る奇しき力を必要とし、皇太后とした現皇帝・天凱。表向きは白き喪服をまとった皇太后として、裏では天凱と一緒に都で猛威をふるう鬼病の原因を突き止めるため、未だ怨憎が煮えたつ禁城に舞い戻った美凰の苦悩がまた壮絶で、二人の愛憎が入り交じる複雑な因縁があまりにも切なくて、そんな二人の行く末がとても気になる注目の新シリーズですね。
17.後宮染華伝 黒の罪妃と紫の寵妃 (集英社オレンジ文庫)
諍いの絶えない後宮を治めるため、凱帝国皇帝・高隆青の皇貴妃となった共紫蓮。聡明さを買われて入宮した紫蓮が、職務上の信頼関係で結ばれた隆青を巡る妃たちの野心と嫉妬に巻き込まれてゆく中華風ファンタジー。皇太后・李飛燕の後ろ盾の下で蔡貴妃と許麗妃の派閥がぶつかり合う後宮を統率する紫蓮、そしてかつて隆青が寵愛した冷宮にいる元皇貴妃・黛玉の存在。より重厚な雰囲気にシフトする中で対比するように様々な愛が描かれましたが、重責に苦悩する隆青と彼を支える覚悟を決めた紫蓮がぶつかり合いながら育んでいく絆がとても印象的でした。
18.さようなら、君の贖罪 (集英社オレンジ文庫)
からないまま目を覚ました少女たちが消えてしまい、そんな彼女・卯月が同じ高校の生徒だと知る青春小説。精神が不安定になるとテレポート能力で勝手に飛んでしまい、いろいろなものを持ってきてしまう卯月と、一度見たら忘れない記憶力を持つ佐久。佐久の友人蓮野との関係も絡めつつ、特別と過ちを抱えた不器用な二人が、一緒に持ってきたものを返してゆく過程で育まれてゆく想いとすれ違い、ぶつかり合って過去を乗り越えた先で再構築されてゆく新たな関係がなかなか素敵な物語でした。
19.三日月邸花図鑑 花の城のアリス (講談社タイガ)
父が亡くなったことで、大名庭園を敷地内に持つ三日月邸を相続し、探偵事務所を開業した八重樫光一。そんな事務所を訪れた不思議な少女・咲に出会い三日月邸を巡る謎に迫る和風ファンタジー。「庭には誰にも立ち入らないこと」という亡父の謎の遺言。咲と踏み入った庭で出会った人々の悔恨と、彼らのためにそれを解消してゆくお人好し探偵・光一。八重樫家とは険悪の仲と聞いていた牧家の兄妹たちとの出会いがあって、明かされる過去や庭園の真相には切ない気持ちになりましたが、光一と不器用な牧兄妹たちのやりとりが妙にツボにハマる物語でした。
20.神招きの庭 (集英社オレンジ文庫)
豊穣と繁栄を招く反面、ひとたび荒ぶれば恐ろしい災厄を国にもたらす神々を招きもたらす兜坂国の斎庭。親友の謎の死を探るため、地方の郡領の娘・綾芽が上京する和風ファンタジー。偶然、荒ぶる女神を鎮めてみせ、王弟の二藍に斎庭の女官として取り立てられる綾芽。少しずつ育まれてゆく二藍との信頼関係と、明らかになってゆく親友・那緒の死の真相、そして国の存亡を揺るがす危機。誰を信じればいいのかどうすべきか、ギリギリの駆け引きの先にあった関係は何とも複雑でしたけど、あの二人ならきっと乗り越えて幸せを掴んでくれると信じています。20年10月に2巻目刊行。
21.王妃ベルタの肖像 (富士見L文庫)
王妃と仲睦まじいと評判の国王のもとに、巡り合わせで第二妃として嫁いだ南部領主の娘ベルタ。王宮で無難に過ごそうと思っていたベルタが予想外の妊娠をしたことで、状況が変わってゆくファンタジー。数年したら実家に帰るつもりで後宮入りしたのに、まさかの懐妊がもたらしたベルタを巡る心境の変化。最初からボタンの掛け違えで始まった国王との関係はお互い掴み切れずにおっかなびっくりで、もっとお互いを知ろうと努力する必要を感じましたけど、ほろ苦い事件を乗り越えた二人が何だかんだでいい夫婦になりそうだなと思えた結末が印象的でした。現在2巻まで刊行。
22.太陽のシズク ~大好きな君との最低で最高の12ヶ月~ (新潮文庫nex)
死に至る「宝石病」を患い海の見える高校に転校してきた理奈。親友や彼氏を作って最高の学園生活を送ろうと決意する理奈と、彼女のために受験を頑張る翔太が過ごした最高の12ヶ月の物語。運命の恋人と出会い、印象的な出会いを果たした美里と様々な出来事を経て大切な親友となってゆく理奈。彼女と自分の夢のために受験勉強する翔太が予備校で出会った仲間たち。違う時を過ごす中で不安やすれ違いもあって、それでも二人で育んできた確かな絆があって。そんな二人のかけがえのない日々を必ず読み返したくなる、とても鮮烈で印象に残る物語でした。
23.かくしごと承ります。 ~筆耕士・相原文緒と六つの秘密~ (メディアワークス文庫)
卒業証書や招待状の宛名などを毛筆で書く筆耕士・相原文緒。憧れの都築先生から請け負った数々の仕事を丁寧にこなしていく中で、文字にまつわる不思議な謎にしばしば遭遇する物語。お品書きに込められた故人の思い、命名書を依頼された家にあったノートに書かれた名前、秘密の暗号に込められた意味、五度目の招待状の理由、誰かのための嘆願書、そしてラブレター。文字に込められた思いを読み解いていく展開も良かったですけど、慎重でなかなか関係が変わらないけれど意識しているのは感じられる、もどかしい二人のその後をまた読んでみたいですね。
24.花村遠野の恋と故意 (幻冬舎文庫)
九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が続いて、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びながら事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いまいましたね。そんな彼らのこれからが楽しみです。現在2巻まで刊行。
25.水曜日が消えた (講談社タイガ)
周期性人格障害を抱え、曜日ごとに人格が切り替わる僕。これまで一週間のうち火曜日しか生きてこなかった七人のうちの一人が、初めて水曜日を経験し世界が広がってゆく物語。いつもは定休日の飲食店、入ったことのない図書館、そして初めて出会った恋。過ごす曜日が違うと世界もまた違って見える感覚がなかなか興味深かったですが、裏を返せば自分が他の曜日を過ごせている理由にも気づいてしまうわけで、迎えた転機に自分がどうあるべきか、自分にとって大切なものは何か、知ってしまったがゆえの葛藤の末に出した結論がなかなか素敵な物語でした。
26.星の降る家のローレン 僕を見つける旅にでる (メディアワークス文庫)
ある日姿を消し、生死不明となっていた少年時代の宏助の恩人で謎多き中年画家・ローレン。年月が過ぎて大学生になっていた宏助のもとに、突然ローレンから「自分の絵を売ってほしい」と手紙が届く物語。何とか個展を開催した宏助が、絵に描かれた友人を探す個展の客・雪子と一緒にローレンの行方を追う展開で、雪子と行方知れずになった親友・杏子のエピソード、そしてローレンの過去に迫ってゆく中で明らかになってゆく過去の真相は切なくて、けれどそれぞれがしっかりと向き合って新たな関係を見出してゆく結末にはぐっと来るものがありましたね。
27.昨夜は殺れたかも (講談社タイガ)
平凡なサラリーマン・藤堂光弘。夫を愛する専業主婦・藤堂咲奈。誰もが羨む幸せな夫婦の二人が、妻の不貞と夫の裏の顔にそれぞれ気づき、互いの殺害計画を練りはじめる物語。夫パートを藤石波矢さんが、妻パートを辻堂ゆめさんが担当し競作する愛と笑いとトリックに満ちた「殺し愛」のストーリーで、勘違いがものの見事にハマってお互い疑心暗鬼になってゆく中、仲良かった相手を殺そうと巧妙な殺人計画を練るようになってゆく二人。そこに至る前に前に気づけなかったのか…とも思いましたけど、そのコメディめいた展開はなかなか楽しかったですね。
28.終わった恋、はじめました (講談社タイガ)
意地を通して退職した拓斗にかかってきた妹・莉音からの一年ぶりの電話。妹と一緒に心残りだった高校時代の恋人・小夜の足跡を辿る旅に出る物語。妹に指摘されて未練が残る過去の恋に決着をつけることを決意した拓斗。遭遇する謎を気が利く賢い妹にフォローされつつ解きながら、小夜に繋がる手がかりを追ってゆく展開でしたけど、それは一方で妹もまた思い悩む自身の過去に向き合う過程に繋がっていて、これまで積み重ねてきた状況からつい小夜のその後を想像してしまいましたが、そんな結末をいい意味で見事裏切ってくれたとても素敵な物語でした。
29.愛を綴る (集英社オレンジ文庫)
父親がおらず厳しく貧しい苦境にありながら、明るく清らかに生きてきた天涯孤独な少女フェイス。ファーナム侯爵のメイドとして働き始めた彼女が森で迷い、情熱的な青年ルークと運命の出会いを果たす物語。字を読むことも書くこともできなかったフェイスが、文字の手ほどきを受けながらルークとやり取りを交わす日々と、明らかになってゆくルークの正体、身分違いの二人が直面する悲劇。暗転してからの二転三転する展開は勢いがあって、生い立ちや身分が違うがゆえの温度差も感じましたが、最後まで愛を貫いた先にあった結末はなかなか良かったです。
30.吉原水上遊郭 まやかし婚姻譚 (ポプラ文庫ピュアフル)
明治44年に起きた吉原大火ののち、東亰・隅田川に返り咲いた水上遊郭。大火で両親を亡くし客を送迎する番人見習いの船頭になった利壱が、長春楼楼主に頼まれ娼妓見習いのツバキを切見世へと連れていく時代小説。吉原大火の結果として再構築された水上遊郭を舞台に、想いを通わせてゆくツバキと吉原で生まれ育った絵師の許されない恋。しかしツバキに目をかけていた廣川は水上吉原を牛耳る老獪な存在で、絶望的な状況で仕掛けられた謀略の行方にはドキドキしましたけど、そこからの急展開と思ってもみなかった結末にはぐっと来るものがありました。
以上です。気になる本があったら是非読んでみて下さい。