ここのところ新作が豊作なこともあってそちら中心の企画が続いていましたが、たまには違う方向の企画を作りたい気持ちもあって、印象的だけど尖っていて逆になかなかピックアップできない作品を紹介したいと思って今回の企画を作りました。作品ありきでセレクトしたので妥当なタイトルがなかなか思いつかず、結局こんな感じになりましたがどれもインパクトのあるおススメの作品です。
1.ずっとあなたが好きでした (文春文庫)
バイト先の女子高生との淡い恋、転校してきた美少女へのときめき、年上劇団員との溺れるような日々、集団自殺の一歩手前で抱いた恋心、そして人生の夕暮れ時の穏やかな想いが綴られてゆく恋愛小説集。年齢や状況もバラバラな恋の行方と意外な結末。最初は普通の恋愛小説ではあまりない展開で新鮮だなあと思いつつ読んでましたが、途中から読んでいてうん?となって、だんだんその違和感に気づいて、最後でやられた!となりました。一気読みするには分厚いですが、その分手応えを感じた一冊で巻末の解説も必見。それにしても懲りてないな~(苦笑)
2.君と時計と嘘の塔 (講談社タイガ)
幼いころに自分のつまらない意地で孤独に追いやった幼馴染・芹愛をいつまでも忘れられない綜士が、唯一の親友の消失した理由を探すうちに、自分が芹愛の死をきっかけにタイムリープしていことに気づく物語。高校に留年し続ける千歳、自らも同様のタイムリープを繰り返していた雛美と共に芹愛を救うべく行動する展開は、改めて芹愛と自分の現在地を直視させるものでもあって、それぞれの思惑も絡む状況の中で遭遇したショッキングな結末と、突きつけられたもう取り戻せない厳しい現実…ここからどんな展開が待っているのか気になるシリーズですね。全四巻。
3.謎好き乙女と奪われた青春 (新潮文庫nex)
謎を引き寄せる体質の高校生矢斗春一に、恋愛や青春に興味がなくミステリを愛する新入生の早伊原樹里が偽装恋人な関係を持ちかけ、二人で一緒に日常の謎を解いていく青春ミステリ。些細な事でいがみ合いながらも、その関係に心地よさを感じていく二人の軽妙なやりとりがわりと好みで、過去が原因で距離を置こうとする春一と、彼の過去を追ううちに結局放っておけなくなる早伊原の微妙な距離感の変化もポイントですね。春一の過去との対決はほろ苦いストーリー展開でしたが、それを乗り越えて落ち着くべきところに落ち着いた二人のその後が気になるシリーズ。全四巻。
4.ひきこもりの弟だった (メディアワークス文庫)
突然見知らぬ女性に三つの質問を問いかけられた雪の日。誰も好いたことがない掛橋啓太が問いかけた大野千草と夫婦になり、平穏な彼女との生活の中で過ぎ去った過去の日々を追憶させてゆく物語。お互いの過去を知らないまま三つの質問という契約によって夫婦になった二人。引きこもりの兄と共依存関係にあった母との辛い過去。徐々に惹かれ合っているのを自覚するがゆえに、じわじわと重くのしかかってゆく三つ目の質問。それぞれが抱える壮絶な過去も二人でなら乗り越えられると思えただけに、淡々と綴られたその不器用な結末には衝撃を受けました。
5.私を知らないで (集英社文庫)
転校を繰り返して無難に生きることを覚えてしまった慎平と、クラスで孤立していたキヨコ、そんな彼女を救おうとしながらも、引きこもりになってしまった高野の物語。頭では冷静に計算しつつもキヨコが気になって仕方ない慎平は、彼女を知るたびに惹かれていって、でもおじさんがキヨコを訪ねてきたことでどこか予感できた結末。苦境に陥ったキヨコを救うには中学生はあまりにも無力で、ただ「普通になりたい」という彼女の思いを叶えるために、もっと上手く立ちまわることもできたのに、そうしなかった慎平の決断には、泣きたくなってしまいました。
6.私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)
突如失踪した人気小説家・遥川悠真。調査を進めるうちに彼の小説を愛した少女・幕居梓の存在が明らかになってゆく物語。追い詰められて絶望していた梓を偶然救ってくれた遥川。奇妙な共生関係を結んだ二人のささやかな癒やしと、小説を書けなくなってゆく遥川。何とかしたいという思い、魔が差した行為が二人の関係を決定的に変えていって、何とかしようとすればするほどすれ違って、垣間見えたいくつもの想い、ありえたかもしれない可能性が何とも切なかったですが、それでも真っ直ぐで不器用で優しかった二人らしい結末だったのかなと思いました。
7.恋に至る病 (メディアワークス文庫)
善良だったはずの幼馴染の少女がいかにして化物へと姿を変えたのか。150人以上の被害者を出した自殺教唆ゲームを作り上げた誰からも好かれる女子高生・寄河景と宮嶺の複雑な関係が描かれるミステリ。宮嶺への壮絶ないじめをきっかけに始まった景の変貌…自殺教唆ゲームはどんどんエスカレートして、彼女とともにあろうとする宮嶺はどんどん景のことが分からなくなっていって、そんな危うい状況の先にあった結末と、洗脳だったのか歪んだ純愛だったのか最後に気づいてしまう可能性、それでも変わらない彼女への想いが鮮烈で印象に残る物語でした。
8.ミウ -skeleton in the closet- (講談社タイガ)
就職を前にした何も変わらない灰色の日々。実家に戻り中学時代の卒業文集を開いた池境千弦が気になる作文を発見し、元同級生のその後を追い始めた数日後、接触してきた別の元同級生が謎の死を遂げるミステリ。元同級生・田中美奈子の自殺の真相を探るうちに起きた転落死事件と、縁が繋がって再会したかつての同級生で作家のミユ。千弦だけが分かるように発信されていたミユからのメッセージ。新米編集者と作家による探偵役コンビが真相に迫るたびに意味合いが変わる構図の変化は鮮烈で、秘密を積み重ねてゆく二人が迎えた結末はとても印象的でした。
9.今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)
連続殺人の現場には謎の紐と鏡。逃亡中の容疑者は橘終の双子の妹・乙黒アザミ。大切な彼女を密かに匿いつつ、常識では測れない彼女の想いを理解するため、他の異常犯罪を調べ始めるミステリ。近くで立て続けに起こる連続殺人・吸血事件・児童誘拐といった異常犯罪に巻き込まれてゆく終と、信じたいと思いながらも拭えないアザミへの疑惑。ホラーテイストのぞわりと来るような雰囲気の物語で、「向こう側」の人たちを引き寄せずにはいられない二人を取り巻く特異性と、最初は対極に思えた終とアザミに共通するどこか歪んだ愛情がとても印象的でした。現在二巻まで刊行。
10.魔女は月曜日に嘘をつく (朝日エアロ文庫)
病気をきっかけに仕事も恋人も失い札幌に逃げてきた犬居が、縁で魔女を自称する感受性の強い少女卯月杠葉の経営するハーブ農園「フクロウの丘」で働くことになる物語。上手くやろうと妥協してしまう犬居と、人付き合いが苦手で嘘が大嫌いな杠葉は、最初お互いをよく分からなくてたくさん衝突しましたが、将来的にはお互いが足りない部分を刺激して、いい方向に導けるコンビになれそうな可能性を感じました。杠葉はまだ謎も多いですし、二人の今後も気になるところですが、まずは農園経営を軌道に乗せるところからですかね(苦笑)全三巻。
11.たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に (祥伝社文庫)
上司のパワハラに悩みながら資格試験の勉強をする冴えない伊東公洋の毎日を一変させた大学生・奈々との出会い。彼女に惹かれてゆく一方で、職場の峰岸からも好意を寄せられ何かが狂い始めてゆくミステリ。真面目で優しい不器用な公洋が、地味な同僚の峰岸にどんどん追い詰められてゆく展開は怖かったですが、そこから第二章以降の視点も変わる急展開にはビックリしました。事件の背景に意外な繋がりが見えてきて、思惑と譲れない意地が入り混じる真相には何とも複雑な気分になりましたし、タイトルに込められた意味をいろいろと考えてしまいますね。
12.向日葵ちゃん追跡する (新潮文庫nex)
ストーカー対策員原向日葵19歳。実は元ストーカーの過去を持つ彼女が、接近禁止を言い渡された元恋人を殺人現場で見かけてしまい、再び運命が動き出すほろ苦青春ミステリー。容疑者とされた彼の無実を何とか証明したいと思うものの、すれ違いの結果として接近禁止になった過去から行動を制限されている向日葵。頭では理解していても強い想いに揺れる彼女の複雑な葛藤が痛いほど伝わってきて、その自らの思考に向き合うことが事件解決の伏線に繋がってゆく皮肉な結末でしたけど、前に進むことを決意した彼女の幸せを願わずにはいられませんでした。
13.たとえば、君という裏切り (祥伝社文庫)
病に冒されたベストセラー作家に最期のインタビューをするしがないライター、アルバイト先の常連の女子大生に恋をする大学生、公園で出会ったお姉さんから遠い国のお話を聞くのを楽しみにする少女の複雑な思い。抱いていた憧憬が複雑に変化してゆく様子が描かれる中編三作品で構成される本作ですが、読んでいくとそれぞれのエピソードには示唆するような発見があって、そこにはいつも誰かを想うその人がいて、真相としてはこんな感じなのかなと思いかけたところに用意された結末で、自分が思ってもみなかった純愛と裏切りの意味に気付かされました。
14.彼女は死んでも治らない (光文社文庫)
いつも殺されがちな最高に可愛い幼馴染の沙紀。普通じゃないレベルで彼女のことが好きな女子高生・神野羊子が得意の推理を巡らせるハイテンションコージーミステリ。沙紀を殺した犯人を羊子が見つけ出すと、犯人を身代わりになぜか彼女が生き返る歪な関係、そんな羊子と一緒にいてサポートする昇の存在。のんびり屋なのに核心を突く乃亜や、正義感あふれる拝み屋女子高生・楓との出会いは羊子たちの関係に変化をもたらして、あの斜め上のカオスな展開から始まったこの物語を、伏線や真相を絡めつつすっきりとまとめ上げてみせた結末はお見事でした。
15.片想い探偵 追掛日菜子 (幻冬舎文庫)
好きになった推しの対象を徹底的に調べ上げて見守るストーキング体質な女子高生・追掛日菜子。しかしなぜか好きになった相手は次々と事件に巻き込まれ、彼女が事件解決の糸口を見つけ出すミステリ。舞台俳優、若手力士、天才子役、覆面漫画家から総理大臣まで、惚れっぽく法律ギリギリアウトな手法で見守る日菜子が推しのために奔走する探偵劇。彼女の好意が事件を引き寄せてるのでは?と思わなくもないですが、コミカルでテンポのいい展開は楽しくて、振り回されるお兄ちゃんは大変でしたが、それでも懲りない彼女の活躍が楽しみなシリーズ。現在二巻まで刊行。
以上です。気になる本があったら是非手に取ってみて下さい。