ついこの間まで暑いくらいだったのにここ数日で急激に冷え込んで、そんなギャップをしみじみと実感している今日この頃です。もうすぐ9月も終わるこの時期ですが、とりあえず食欲の秋ということで美味しいご飯で心温まる小説を20作品セレクトしました。今回はとりあえず文庫15作品+単行本5作品という構成です。美味しそうな描写がたくさんある作品も多いので、気になる本があったら是非読んでみて下さい。
1.ちどり亭にようこそ (メディアワークス文庫)
京都・姉小路通沿いにある仕出し&弁当屋「ちどり亭」。店主の花柚さんと彼女に料理を教わるバイトの大学生・彗が、お弁当を作りながら周囲の人たちと交流してゆく物語。家付き娘で毎週お見合いをして人脈を広げている残念な花柚さんと、同級生に密かに恋する彗の二人で読んでいるだけでも美味しそうな料理を作りながら、お弁当を作る手助けをしたり、一緒に花柚さんの師匠を看取ったり、そして花柚さんの元婚約者との切ない関係だったり、不器用でなかなか素直になれない人たちの一途でくすぐったい気分になる優しい思いに満ちた素敵な物語ですね。全4巻。
2.東京すみっこごはん (光文社文庫)
商店街の脇道に佇む古ぼけた一軒屋で行われる、年齢も職業も異なる人々が集まって手作り料理を共に食べる共同台所「すみっこごはん」を舞台にした連作短編集。クラスで過酷な嫌がらせを受ける女子高生・楓や、アラサーなOL・奈央といった様々な悩みを抱えている登場人物たちが、くじで当番が決まる料理に試行錯誤したり、一緒にご飯を食べてゆく中でのやりとりに助けられたり、癒されて前を向けるようになっていったり、その成立を探るうちに意外な繋がりや想いも判明して、じんわりと温かい気持ちになれる物語だと思いました。現在4巻まで刊行。
3.弁当屋さんのおもてなし (角川文庫)
恋人に二股をかけられ傷心状態のまま北海道・札幌市へ転勤したOL千春。仕事帰りの彼女が路地裏にひっそり佇む『くま弁』を発見し、「魔法のお弁当」の作り手・ユウと出会う物語。悩みを抱えた一人のお客様のためだけに作るユウの裏メニュー。それによって救われてゆく常連客たち。北海道ならではの食材やお客さんの思い出のメニューに寄り添うユウが作り出すひとつだけのお弁当がとても美味しそうで、ユウ自身もまた自らのありようを見定めてゆく暖かな気持ちになれる物語でした。千春とユウの距離感の変化にも期待のシリーズ。現在7巻まで刊行。
4.ゆきうさぎのお品書き (集英社オレンジ文庫)
貧血で倒れた大学生の碧が、小料理屋「ゆきうさぎ」を営む青年大樹に助けられ、バイトとしてとして働くことになる物語。母を亡くして食が細くなっていた碧や大樹が女将から跡を継ぐ前は常連だった父、お向かいの洋菓子店の兄妹やお店の常連客など、周囲の身近な人たちとの相手を思いやるような交流だったり、美味しそうな料理とらしさを取り戻した大食漢・碧の食べっぷりとか、猫の武蔵も存在感があって、特に目新しさはなかったですけど、心温まるような雰囲気が読んでいてとてもいいなと思いました。全10巻。
5.居酒屋ぼったくり (アルファポリス文庫)
東京下町にひっそりとある、居酒屋「ぼったくり」。亡くなった両親の跡を継いだ娘の美音と妹の馨が、旨い酒と美味しい料理を提供しつつ人々とのふれあいも大切にしてゆく連作短編小説。両親の味を守りつつも時には新しいチャレンジをしてたり、客の思いをかなえたり心配事を解消するべくいろいろ試行錯誤してみたり。妹の恋を応援したり拾ってきた子猫のために懸命になる美音のことはお客さんだって応援したくなりますよね。そんな真っ直ぐな美音と印象的な出会いを果たし、常連客になった何やら訳ありっぽい要さんとの今後もちょっと気になりますね。文庫版10巻+番外編。
6.幸腹な百貨店(講談社文庫)
かつて店長をしていた堀内百貨店に事業部長として再び関わることとなった高橋伝治。閉店危機にある百貨店再生のため奔走する物語。最初は部下のやる気のなさを嘆き、昔はこうじゃなかったになりかけましたが、祭りを盛り上げようとする商店街の人たちとの出会いや、若者との繋ぎ役になってくれるかつての部下の存在もあって、偏見を持っていた見る目も変わっていったり、意外な一面を知って若い人を信じて任せたり、再構築された人との繋がりが好循環を産んでゆく取り組みはなかなかいいなと思いました。美味しいこだわりも健在で続巻も楽しみです。現在3巻まで刊行。
7.木崎夫婦ものがたり 旦那さんのつくる毎日ご飯とお祝いのご馳走 (富士見L文庫)
木崎夫婦ものがたり 旦那さんのつくる毎日ご飯とお祝いのご馳走
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古池 ねじ/仲スナ子 KADOKAWA 2018年04月13日頃
著名な作家を父に持つ文筆家の島田ゆすらと、偶然出会った木崎修吾の電撃結婚。父の残した家で共同生活を始めた新米夫婦の日々が綴られてゆく物語。不安定だったゆすらと優しい木崎の美味しいものを食べたり、のんびりと寄り添うような夫婦生活。一方で作家としての自分のありように苦悩するゆすらのこと、作家だった父やふらりと家を出た弟の存在だったり、複雑な想いを抱く幼馴染・崇の存在もあったり、もしかしたらの可能性に切なくなりつつも、夫婦として作家として生きてゆくことにきちんと前向きになれた結末にはぐっとくるものがありました。
8.ホテルクラシカル猫番館 横浜山手のパン職人 (集英社オレンジ文庫)
師匠が倒れ3年間勤めたパン屋さんをやむなく離職したパン職人の紗良。旧家の子女ゆえ祖父からお見合いを勧められるも、きっぱりと断って横浜・山手の「ホテル猫番館」で働き始める物語。紗良に仕事を紹介した叔父の誠、気難しいシェフの隼介や人なつっこいコンシェルジュの要に囲まれ、職場に溶け込んでゆく紗良。働く人たちそれぞれの事情や、彼らの意外な一面も明らかになっていって、師匠にその成長した姿を見せる展開にはぐっと来るものがありました。紗良たちのこれからを温かく見守りたい、続きが読みたいと思わせてくれる素敵な作品でした。現在2巻まで刊行。
9.終電前のちょいごはん: 薬院文月のみかづきレシピ (ポプラ文庫ピュアフル)
福岡の古いビル2階にある小さなお店「文月」。三日月から満月の間だけ営業する店主の文が作る季節のちょいご飯が訪れる人たちの心を癒やす物語。思うような仕事ができないインテリアデザイナー、結婚を焦るアラサー女子、地方出版社の編集、実家の和菓子屋を手伝う男の憂鬱、突然亡くなった友人、人事部の古株女子社員、受付社員の片思い、仕事に生きる百貨店員といった登場人物同士を絡めつつエピソードを構成する中で、のんびりとマイペースな文がまたいい感じに効いていました。巻末レシピも良かったです。現在2巻まで刊行。
10.ビストロ三軒亭の謎めく晩餐 (角川文庫)
セミプロの舞台役者だった神坂隆一が、姉・京子の紹介で来る人の望みを叶える魔法のような店『ビストロ三軒亭』でギャルソンとして働くことになるグルメミステリ。奇妙な客の荷物と残した料理の謎、仲違いを解決した七面鳥の栗詰め、チーズたっぷりな試食会にやってきた三人の大食い魔女の事情、シェフが作れないキッシュに隠された秘密。若きオーナーシェフ・伊勢が作る料理はとても美味しそうで、隆一をサポートしながら悩めるお客様に真摯に寄り添う個性豊かな先輩ギャルソンたちがいて、隆一の成長も最後の話のその後も気になるシリーズ。現在3巻まで刊行。
11.トラットリア代官山 (ハルキ文庫)
亡き父から受け継いだ店を気丈に守り続ける男装の女支配人・大須薫と天涯孤独の年下敏腕シェフ・安東怜が、訪れたお客の問題を解決に導くグルメ小説。結婚して代官山で暮らす友人に抱く独身アラサー女子の複雑な思い、転落事故で記憶を失った父親と愛犬の失踪の真相、若きネイリストが抱いた彼への疑念の顛末といった事件をお客様と一緒に解決する展開で、そんな積み重ねが最後に繋がりましたね。美味しそうな料理との描写も合わせて著者さんらしい物語でした。薫と怜の関係も気になるところですけど、そのあたりも続刊で読めることを期待してます。
12.エプロン男子 (集英社オレンジ文庫)
激務の仕事はうまくいかず、恋人にもフラれたデザイナーの夏芽。心身ともにボロボロの彼女がイケメンシェフが自宅に来て料理を作ってくれる「エデン」を紹介される物語。やって来た海斗の作る食事と優しさに触れ立ち直るきっかけを得た夏芽が、次々と出会うメンバーたち。エデンを立ち上げた相馬と参加する男たちが抱える事情と料理に賭ける想い。それぞれのやり方で求められた人たちのために真摯に向き合う彼らの料理には癒されそうで、でも接触禁止で恋愛禁止な契約という縛りがなかなか興味深かったです。続巻あるならまた読んでみたいですね。全2巻。
13.成巌寺せんねん食堂 おいしい料理と食えないお坊さん (メディアワークス文庫)
長年勤めた小さな会社を退職した千束。実家からの電話で慌てて北陸の実家に戻った彼女が、名刹・成巌寺と実家の三百年以上続く精進料理屋「せんねん食堂」を巡る騒動に巻き込まれ、イケメン僧侶の幼馴染・清道&隆道兄弟と再会する物語。妥当な提案をろくに話すら聞かずにこじらせてゆく展開は田舎あるある話ですが、実家に居場所がなくなったと感じていた千束と、地域を盛り上げるために手を尽くす深謀遠慮な幼馴染・隆道もまたいろいろ複雑にこじらせていて、地域再興を二人で盛り上げていけるのか、二人の関係もどうなるのか続刊に期待ですね。
14.まいごなぼくらの旅ごはん (メディアワークス文庫)
体を壊して仕事をリタイア中の颯太が亡き父が遺した食堂『風来軒』で出会った、大学休学中の食いしん坊女子ひより。人生迷子な二人が食堂存続を目指し、新メニューを探して旅に出る物語。風来軒を継ごうと決心した颯太と閉店で心の拠り所を失ってしまっていたひより。颯太を助けることになったひよりが、二人で父の最後の料理を探したり、岩手や北海道へ旅しておしいものを食べる展開は、とても美味しそうに食べて幸せな気分になる描写があったりで、テンポはいいけれどのんびりとした優しい雰囲気がとても良かったです。全2巻。
15.日本酒BAR「四季」春夏冬中 (メディアワークス文庫)
新潟の酒蔵で親と衝突し、東京に出てきたものの行き倒れになりかけていた冴蔵が、恵比寿の片隅で「四季-Shiki-」を営む楓さんに救われ二人で日本酒BARを再開する物語。その出会いは日本酒に詳しい夫が亡くなってから実質的に料理屋状態だった楓にとっても、衝突し家を出てきた冴蔵にとっても転機で、二人が力を合わせて訪れる人達ときちんと向き合って信頼関係を育んでいったことで、それぞれが抱えていたものを乗り越える支えとなる展開はとても良かったですね。全2巻。
16.マチのお気楽料理教室
ツアーコンダクターとして15年間国内外を旅してきて、義母の介護のために退職した常磐万智。旅先で料理について学んだ経験を生かし、義母の死去後自宅で料理教室を営むお料理小説。「どんどろけ飯」「トンテキ」「冷や汁」「ジンギスカン」「チキン南蛮」など、こじんまりとした料理教室で作られる郷土料理の数々と、参加する生徒たちの家族を絡めたエピソードがなかなか興味深かったですが、同時に物語の中で少しずつ明らかになってゆく常盤家の今に至るまでがなかなか複雑で、それを踏まえて物語を見返すと奥が深いな…と改めて唸らされました。
17.湯けむり食事処 ヒソップ亭
名料亭の料理人をある事情から辞めた章が、幼馴染夫婦の素泊まり温泉旅館「猫柳苑」の食事処「ヒソップ亭」の主人となり、店を訪れるワケありの客たちにこだわりの料理を提供する料理小説。お節介な幼馴染夫婦に誘われ、旅館の元料理人の娘・桃子と始めた食事処。両親が出かける時の妻の表情を気にする中年男性、史跡めぐりの定年退職者のピンバッジ、酒を知るひとり旅の女性のリベンジ、そして桃子の気がかりや、旅館が抱える苦悩にも向き合いつつ、美味しい料理を食べてもらうこと、周囲の人たちを大切にする章の生き方がなかなか良かったですね。
18.縁結びカツサンド
駒込うらら商店街に佇む、昔ながらのパン屋さん「ベーカリー・コテン」。その未来を背負う悩める三代目・和久が人の悩みに寄り添うパンを焼こうと奮闘する連作短編集。挙式に消極的な婚約者に悩む女性、就活に落ち続ける学生、中学受験する小学生の悩み、肉バカな肉屋の息子の恋。シェフから出戻りでパン屋を継いで、迷いを抱えながらも試行錯誤を続ける和久。そんなお店に訪れる悩めるお客さんたちがパンを通じて自分の本当に大切なものに気づき、お店の常連客となってゆく、とても温かくて優しい物語でしたね。賢介さんうまくいくといいな(苦笑)
19.まだ温かい鍋を抱いておやすみ
手伝っている叔父の店を訪れる女性の苦悩、一緒に住むようになった相手が時折頼んでくる悲しい思い出のパン、うっかり不倫してしまった妻の複雑な想い、仕事と家事の日々に疲れた妻と保育園仲間の逃避行、子供に先立たれたのに周囲に気を遣わねばならない友人、娘も構ってくれた趣味仲間の入院など6つの連作短編集でしたが、登場人物たちが辛く苦しい時に寄り添ってくれる人たち、そして物語の中に出てくる料理の存在が彼ら彼女らを優しく温かく癒してくれるものとして効いていて、救いが垣間見えるそれぞれの結末はなかなか印象的な物語でした。
20.めぐり逢いサンドイッチ
大阪の靱公園そばにあるサンドイッチの専門店『ピクニック・バスケット』で働くおっとりした姉笹子としっかり者の笹子の姉妹。店を訪れる人達の迷える人々の心を、絶品サンドイッチが癒やす優しくも愛おしい物語。対照的な姉妹に、子供のころの記憶に苦しむOLや父の再婚に悩む少女、そして常連客の小野寺さんやパン職人の川端さんのエピソードも交えつつ、笹ちゃんが訪れた人たちの想いに寄り添うようなサンドイッチを作り上げてゆく展開で、関わる人たちの様々な想いに触れ、過去エピソードも絡めて絆を深めてゆく姉妹の関係がとても素敵でした。現在二巻まで刊行。