読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2020年上半期注目のオススメ新作文芸単行本30選

20年上半期注目のオススメ新作企画第三弾の文芸単行本編です。毎度のことですが読みたい本が多すぎて後追いになっているという状況もあり、気になる本をギリギリまで読んでの作成が常態化しつつあります。そんな事情もあって最後までどれを入れるのか迷いましたが、今回読んだ一般文芸単行本の中から30作品選んでいます。

 

ちなみにこれまで6月12月刊行の本は極力該当上半期/下半期の中で紹介していましたが、実情として当月のうちに全て読み終わるのが困難なため、これまで上半期下半期どちらにも紹介できない新作が発生してしまっていました。それを解消するため今回から前半期に刊行された本も該当月に読んだ本は含めることにします。その点は予めご了承ください。「わたしの美しい庭」を入れるまではどうも並びがしっくりこなかったのですが、要するにこれを入れろということだったんだと思います。

 

1.わたしの美しい庭

至高のAI『タイタン』のサポートで、人類は仕事から解放され自由を謳歌する未来。心理学を趣味とする内匠成果を世界でほんの一握りの就労者ナレインが訪れ、彼女に仕事を依頼する近未来SF。成果に託される突如として機能不全に陥ったタイタンAIのカウンセリング。仕事という概念がない世界で考察する働くことの意味、仕事しかしたことがないコイオスと共に旅する中で目にする様々なこと、そんな中でコイオスの成長や彼女自身の心境の変化もあって、未来に生きるとはどういうことか、いろいろと可能性を垣間見せてくれる物語は面白かったです。

 

11.銀色の国

手伝っている叔父の店を訪れる女性の苦悩、一緒に住むようになった相手が時折頼んでくる悲しい思い出のパン、うっかり不倫してしまった妻の複雑な想い、仕事と家事の日々に疲れた妻と保育園仲間の逃避行、子供に先立たれたのに周囲に気を遣わねばならない友人、娘も構ってくれた趣味仲間の入院など6つの連作短編集でしたが、登場人物たちが辛く苦しい時に寄り添ってくれる人たち、そして物語の中に出てくる料理の存在が彼ら彼女らを優しく温かく癒してくれるものとして効いていて、救いが垣間見えるそれぞれの結末はなかなか印象的な物語でした。

 

16.さいはての家

三人の少女を繋ぐ町であった殺人事件。夏休み、置き去りにされた謎を追いかける彼女たちに想像もしていなかった危険が迫る青春ミステリ。祖父の農業を手伝い琴子たちと遊んでくれたお兄さんの正体、祥子の想い人・土屋が告げた意外な疑惑、そして新聞部の沙也香が調査する廃ホテルの事情から思わぬ形で繋がってゆく三十年前の事件。彼女たちの捜査はわりと危なっかしくてハラハラすることもありましたけど、エピソードの繋がりを垣間見せながら、パズルのピースを組み合わせてゆくように真相が浮かび上がってくる構図はなかなか上手かったですね。

 

18.湯けむり食事処 ヒソップ

名料亭の料理人をある事情から辞めた章が、幼馴染夫婦の素泊まり温泉旅館「猫柳苑」の食事処「ヒソップ亭」の主人となり、店を訪れるワケありの客たちにこだわりの料理を提供する料理小説。お節介な幼馴染夫婦に誘われ、旅館の元料理人の娘・桃子と始めた食事処。両親が出かける時の妻の表情を気にする中年男性、史跡めぐりの定年退職者のピンバッジ、酒を知るひとり旅の女性のリベンジ、そして桃子の気がかりや、旅館が抱える苦悩にも向き合いつつ、美味しい料理を食べてもらうこと、周囲の人たちを大切にする章の生き方がなかなか良かったですね。

 

19.いきるりすく

十六年前の地震で温泉が涸れ衰退する一方の岐阜県宝幢村。地震で家族を亡くし、伯父夫婦の介護に明け暮れる日々を送る希子が、村で起きた事故死を巡る騒動に巻き込まれてゆくミステリ。典型的な狭い村社会での生き方を当たり前と思う伯父夫婦や村役場の婚約者・竜哉。働き始めた希子が、雇われブロガーの死にから広がる不審点を不気味な隣家長谷川家の長男・耀とともに探る展開でしたけど、真相を掘り起こしてみたらとんでもないものが出てきましたね(苦笑)旧弊に縛られる村と決別し、新たな可能性を見出した彼女たちの姿が印象に残る結末でした。

 

28.永遠の夏をあとに

最近やたら目にする高齢者ドライバーの事故。ふと高齢者の父に不安を覚えた猪狩雅志が、息子の息吹と帰省した夏に父親に運転をやめるよう説得を試みる家族小説。安い給料のやり甲斐ない研究職、高校生になってから元気のない息子に共稼ぎで忙しい妻。高齢者の運転は危険でもかといって現実はなかなか切実で、通販の利用や都会暮らしのトライアルも失敗。途中までは行き詰った閉塞感が半端ない展開でしたけど、後半の急展開はなかなか興味深く読みました。そうそう上手くは行かないでしょうけど、一つの提案としてこういう生き方もありなんですかね。

 

30.運命の人を見つけた、ら