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昨日和風ファンタジーを挙げていく流れがあって、自分も作品をいくつか挙げましたが
明治大正のミステリー縛りでもよっちさんならポロポロと10作くらいなら平気で出してきそう…(でも時代縛りでも面白そうですね)
— みかこ (@amenaraneru) 2020年5月7日
その流れで明治大正時代を舞台とした作品という話題が出て、今ちょうど鬼滅もビックリするくらい売れてますし、明治大正っぽい世界観で描かれている「わたしの幸せな結婚」もかなり好調のようなので、自分が読んだ本の中から明治・大正と少し幅を広げて昭和初期までを舞台とした小説を挙げてみたいと思います。
1.わたしの幸せな結婚 (富士見L文庫)
名家に生まれたものの実母を早くに亡くし、継母と義母妹に虐げられて育った美世。そんな彼女が名門だけれど冷酷無慈悲と噂の若き軍人・清霞への嫁入りを命じられる物語。義妹のように異能も発現せず、使用人のように扱われていた美世に訪れた転機。我儘放題のお嬢様に辟易していた清霞と、自信なさげだった美世が少しずつ心を通わせてゆく積み重ねがとても良かったですね。因縁ある彼女の実家とはとりあえず決着が付きましたけど、彼女の生い立ちにまつわる謎もまだ残っていて二人のその後も見たいですし、是非シリーズ化に期待したい作品です。
2.赤レンガの御庭番 (講談社タイガ)
将軍直属の「御庭番」を務めた家で育った米国帰りの探偵・入江明彦。横濱を舞台に犯罪コンサルタント組織『灯台』と対峙する明治浪漫ミステリ。助手の少年・文弥に世話を焼かれつつ暮らす明彦が出会った訳ありの美青年・ミツ。彼らが遭遇する不老不死の霊薬、皇太子の切手、港の青年の行方、そして灯台の首領の意外な正体。著者さんらしい雰囲気描写に加えて、頭脳明晰で容姿端麗な明彦と有能な文哉、訳ありのミツたちのやりとりも軽妙でなかなか楽しめました。「灯台」を巡る事件は今巻で決着のようですが、続きがあるならまた読んでみたいですね。
3.密偵手嶋眞十郎 幻視ロマネスク
第一次世界大戦後、極秘で設置された保安局六課でスパイとして国内の防諜活動を行っていた手嶋。ある事件をきっかけに目を付けた陸軍の武器密売疑惑の潜入捜査でカフェで働く落ちぶれた華族の令嬢・悠木志枝と出会うスパイアクション・サスペンス。手嶋が追う武器密売疑惑の鍵を握る少女・志枝が持つ特殊な力。そして手嶋の前に立ちはだかる旧知の陸軍士官・高柳。関東大震災直前の二転三転する状況で陰謀の核心がどこにあるのか駆け引きしつつ、その阻止と彼女を救うために奔走する展開はテンポも良く、余韻の残る結末がとても印象的な物語でした。
4.男爵の密偵 帝都宮内省秘録 (朝日文庫)
華族たちのあらゆる醜聞が世間をさわがせていた昭和初期。表向きは料亭給仕で宮内省幹部・御園尾男爵の密偵という裏の顔を持つ藤巻虎弥太が、華族絡みの怪事件に巻き込まれてゆく帝都・昭和ロマンサスペンス。変わり者の蕗伯爵家にもぐりこみ若き次期当主を調べることになった虎弥太。あまり馴染みのない時代背景がわりと新鮮で、中国かぶれだけれど意外に物事がよく見えているひらひら若様と虎弥太の組み合わせは意外と面白く、二人でコンビを組んでも面白いかもと思いました。続編ありそうな感じなので、続きが出るようならまた読んでみたいです。
5.昭和少女探偵團 (新潮文庫)
和洋折衷文化が花開く昭和6年。帝都の女学校に通う花村茜と級友たちに怪文書が届き。疑われた親友を庇う茜が謎めいた才女・夏我目潮や謎めいた才女・夏我目潮とともに少女探偵團を結成するレトロ青春ミステリ。怪文書の正体、ドッペルベンゲル遭遇の真相、そして級友の元婚約者が失踪した事情。のんびりとした茜の呼びかけで結成された少女探偵團が周囲で起きる事件を解決してゆく展開で、たびたびの視点変更が読んでいて多少混乱に繋がった感はありますが、登場人物たちもキャラが立っていて、のんびりとしたレトロな雰囲気を楽しめた一冊でした。現在2巻まで刊行。
6.シトロン坂を登ったら (創元推理文庫)
大正時代を舞台にちょっと変わった横濱女子仏語塾(実は魔女学校)に通う魔女の卵たちが大活躍する物語。薬草学や占い、ダンス(箒で空を飛ぶことを、そう呼ぶ)も学ぶ小春、宮子、透子の三人のあやかし女学生を中心として、新聞記者でもある年上の甥っ子が持ち込んできた奇妙な噂話をきっかけに、巨大なアメリカ豹を巡る騒動に巻き込まれてゆく展開で、思っていたほどには大正浪漫感はなかったですけど、元気で個性的な少女たちが力を合わせてピンチを乗り越えてゆく展開はなかなか楽しかったですね。魔女学校三部作とのことで続巻にも期待です。
7.カスミとオボロ 大正百鬼夜行物語 (集英社オレンジ文庫)
大正時代。退屈な日常にうんざりしていた坂之上伯爵家の令嬢・香澄が、代々祀ってきた悪路王に朧という名を与えて主従関係を結んでしまい、二人で集に起こるあやかしがらみの事件を解決する物語。いいところの令嬢なはずの香澄がなかなかいい性格をしていて、そんな彼女と極悪な鬼であるはずの朧が主従関係を組むと、わりとまともに見えてしまう不思議(苦笑)確かに華族の人々を舞台にするといかにも作中の如く魑魅魍魎がうようよしてそうな感じではあります。香澄と朧の二人の関係にも複雑な因縁あるようで、雰囲気もなかなかいいですね。現在2巻まで刊行。
8.大正箱娘 見習い記者と謎解き姫 (講談社タイガ)
新米新聞記者の英田紺が旧家の蔵で見つかった呪いの箱を始末してほしいという依頼を受け、呪いの解明のため神楽坂の箱屋敷に住む箱娘・うららを訪れる物語。大正という世の中が少しずつ変わりつつある時代を舞台に、自らの経験もあって窮屈な生き方をせねばならない女性たちのために奮闘する紺と、自らもワケありの縛られた境遇にありながらも紺を助ける謎の多い箱娘・うららの関係や、登場した女性たちもまた矜持を持って生きる姿が印象的でした。まだうららの境遇含めて謎も多いですし、姿を変えて奮闘する紺の行く末も気になるシリーズですね。現在2巻まで刊行。
9.明治あやかし新聞 怠惰な記者の裏稼業 (メディアワークス文庫)
明治初期を舞台に書かれた記事が原因で友人が奉公先を追い出されたと新聞社に乗り込んできた少女・香澄が、妖怪にまつわる記事ばかり書く記者・久馬と友人・艶煙と共に人助けをするあやかし謎解き譚。新聞社に乗り込んだ香澄が知る記事が書かれた本当の事情。手伝いをするようになった香澄の心境の変化。普段はぐうたらな久馬がまっすぐなゆえに危なっかしいところもある香澄をきちんと助けたり、だんだんお互いを知ることで少しずつ変わってゆく二人の距離感がなかなか良かったですね。気になるコンビの今後が楽しみなシリーズです。現在3巻まで刊行。
10.鳥籠の家 (創元推理文庫)
豪商天鵺家の跡継ぎ・鷹丸の遊び相手として迎え入れられた少女・茜。そこは謎めいたしきたりの数々、鳥女と呼ばれる守り神がいる奇妙な屋敷で、屋敷の背後の黒い森にいる怨霊と対峙することになる物語。鷹丸と仲良くなっていく茜と、天鵺家に固執する家族たちの奇妙な関係。鷹丸の乳母・静江の思惑と天鵺家の事情に巻き込まれてゆく茜。不気味なものや忌まわしい儀式が当たり前な天鵺家の雰囲気が、物語をダークな色合いの濃いものにしていますが、長らく続く一族を縛る負の鎖を断ち切るために茜と鷹丸が黒い森へ向かう展開はなかなか良かったです。
11.小説家・裏雅の気ままな探偵稼業 (集英社オレンジ文庫)
売れない小説家・裏雅がひそかに観察を続ける、彼を「雅兄様」と慕う春宮伯爵家令嬢茉莉子。彼女の周囲で起こる謎を雅が解決する浪漫ホラーミステリ。幽霊に取り憑かれて自殺した同級生、茉莉子に執着する幼馴染、引きこもってしまった少女が抱える秘密。大正浪漫的な雰囲気を舞台に、感情が欠落した少女と物書き探偵が遭遇する同級生たちの闇を描いた連作短編で、愛するものに対する歪んだ執着がもたらしたそれぞれの悲劇が描かれていきますが、見方を変えれば己の愛を守るために彼らは行動していわけでそんなそれぞれのありようは印象的でした。
12.ななつぼし洋食店の秘密 (集英社オレンジ文庫)
没落華族の令嬢・十和子に新興会社の若社長・桐谷との利害が一致した結婚話が持ち上がり、お見合いの席で十和子は「自分に一切干渉しないこと」を条件に契約を持ちかける物語。関東大震災で行方不明となった縁のある店主・一哉が戻るまで店を守るため下町で洋食店を営む十和子。理由あってそんな条件を飲んだ桐谷も徐々に真っ直ぐな十和子のことを気にかけるようになって、十和子もまた桐谷に素直になれない不器用な二人の関係がもどかしいような微笑ましいような感じで良かったです。
13.洋食屋じゃぽんの料理帖 ソップからはじまるフル・コウス (富士見L文庫)
御一新前から続く老舗料理屋「津ざき」。従兄に乗っ取られた亡き両親の店で見習い料理人として働いていた柚子が、両親の墓前で記憶喪失の男・周を助ける物語。明治の時代に元両親の店で見習い料理人として働く柚子の難しい境遇、名前以外記憶がないまま津ざきで働くことになった周の意外な特技、因縁の従兄や古株の親方との対立。辛い立場の柚子と色々言いながら彼女を支えるワケありの周でしたけど、真摯に料理に取り組む彼女を支える人たちもいて、頑張りながら報われていなかった彼女に転機があって良かったなと思えました。
14.ねんねこ書房謎解き帖 文豪の尋ね人 (実業之日本社文庫)
関東大震災で職を失った石嶺こよりが、神保町裏通りにある小さな古書店で出会った無愛想な店主・根来佐久路。本業の傍ら萬相談を受けている佐久路と人探しの依頼を受ける大正古書店ミステリ。震災直後の神田を舞台に芥川龍之介「羅生門」黒崎涙香「幽霊塔」谷崎潤一郎「秘密」村井呟斎「食道楽」永井荷風「ふらんす物語」など当時の本をヒントに繰り広げられる5つの推理劇。こよりが紹介された本をヒントに推理を試みたりするものの佐久路は基本安楽椅子探偵で、読みやすかったですけど物語の展開的にも続巻に期待したいところですね。
15.なないろ金平糖 いろりの事件帖 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
大正時代。日本橋の金平糖専門店「七ツ堂」の看板娘・いろりが金平糖を食べることで発揮する千里眼を武器に、いろりだけが言葉を解する猫ジロと事件に立ち向かう短編集。食べる金平糖によって人の記憶だったり、過去が視えたりするのは興味深かったですが、特殊能力を持ったことによる辛い過去があるために、周囲と距離を置いたり仲良くしたいと思ったりする優しいいろりに、苦難を共に乗り越えた絹というかけがえのない友人ができて良かったと思いました。いろりとジロのコンビもなかなかいい感じで、続巻あるならまた読んでみたいです。
以上です。気になる本があったらぜひ読んでみていただければ幸いです。ちなみに今回は読んだ本だけで構成していいますが、挙げた著者さんは同じような舞台で描いてる作品が結構あったりします。読んで面白かった作家さんは是非周辺作品も当たってみるといいと思います。