読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2010年代単行本ベスト20作品

2010年代ベストも「ライトノベル青春小説」 「ライトノベルファンタジー」「ライト文芸」「ライト文芸単巻作品編」「一般文庫」と更新してきましたが、この単行本編が最後です。単行本も文庫化する作品や絶版となってしまう作品もあったりで、セレクトしてみたら最近の本が中心になってしまいましたが、印象に残った作品を20冊選びました。

 

1.medium 霊媒探偵城塚翡翠(2019)

medium 霊媒探偵城塚翡翠

medium 霊媒探偵城塚翡翠

 

推理作家として難事件を解決してきた香月史郎が出会った、霊媒として死者の言葉を伝える城塚翡翠。そんな彼女の霊視と論理の力を組み合わせて殺人事件に立ち向かうミステリ。殺された香月の後輩、招待された別荘で殺された先輩作家、女子高生連続の犯人を警察に協力する二人が翡翠の霊視と香月の論理で何とか解決してゆく展開で、けれど最後の連続殺人犯との対峙は、これまで積み重ねて来たものの何が虚で実だったのか分からなくなる急展開に繋がって、その何とも鮮烈で皮肉に満ちていた決着をいろいろと想起させるエピローグが際立たせていました。

2.線は、僕を描く(2019)

線は、僕を描く

線は、僕を描く

  • 作者:砥上 裕將
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生・青山霜介。アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会い、初めての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく青春小説。湖山に気に入られてその場で内弟子にされた霜介と、反発して翌年の「湖山賞」での勝負を宣言する湖山の孫・千瑛。初心者ながらも水墨画にのめり込んでいく霜介に、彼と関わるうちに千瑛もお互いに刺激を受けて変わっていって、才能だけでも技術だけでもない水墨画の世界で、その本質に向き合い続けた二人が迎える結末には新たな未来が垣間見えました。面白かったです。

3.永遠についての証明(2018)

永遠についての証明

永遠についての証明

 

特別推薦生として協和大学の数学科にやってきた瞭司と熊沢、そして佐那。眩いばかりの数学的才能で周囲の人生を変えていった瞭司の運命の出会いと失意、彼の遺した研究ノートから熊沢がその想いに再び向き合う物語。仲間と得た成果に希望を見出す瞭司と、突出した成果がそれぞれが別の道を選ぶきっかけとなってしまう皮肉。瞭司と仲間たちのすれ違いは残念でしたが、彼が遺した研究ノートに見出した可能性が、形は変わっても失われていなかったそれぞれの想いを再び繋げていって、それが新たな希望を紡いでゆく展開にはぐっと来るものがありました。

4.名探偵誕生(2018)

名探偵誕生

名探偵誕生

 

小学生の頃から様々な冒険をしていたみーくんに不穏の影が差した時、いつも助けてくれた名探偵のお姉ちゃん。そんな千歳お姉ちゃんとの初恋とみーくんの成長を描くミステリ青春小説。ずっとみーくんに寄り添い見守ってくれていた千歳お姉ちゃんへの想いは募ってゆくのに、なかなか姉妹のような関係から抜け出せないもどかしさについ共感してしまいましたが、次々と事件を解決してきた生粋の探偵である彼女を救うため、ほろ苦い複雑な想いを乗り越えて自ら立ち上がるみーくんがとても格好良かったです。どこでまた彼らのその後を読めるといいですね。

5.電気じかけのクジラは歌う(2019)

電気じかけのクジラは歌う

電気じかけのクジラは歌う

  • 作者:逸木 裕
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/08/08
  • メディア: 単行本
 

人工知能が作曲をするアプリ「Jing」が普及し、作曲家の仕事が激減した近未来。「Jing」専属検査員になった元作曲家・岡部の元に、自殺した現役作曲家で親友の名塚から未完の新曲と指紋が送られてくる近未来ミステリ。名塚から託されたものの意味と、事故で右手が不自由になった名塚の従妹・梨紗の苦悩、そして「Jing」を作り出した霜野の野望。「Jing」で気軽に音楽を作れてしまう中、あえて自分の手で音楽を作り出す意味に葛藤しながらも、秘められた名塚の想いに気づいてゆく展開は著者さんらしさがよく出ていて面白かったです。

6.禁じられたジュリエット(2017)

禁じられたジュリエット

禁じられたジュリエット

  • 作者:古野 まほろ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

ミステリ小説が退廃文学として禁書扱いな世界観の日本で、それに触れてしまった女子高生6人が囚人として収監され、看守役2名を加えた8名で更正プログラムに参加させられる本格ミステリ。プログラムを早く切り上げられるよう協力するはずだった友人8人。役割に徹するうちに急速に対立を深めてゆく描写はあまりにも過酷で、二転三転してゆく展開には驚かされ、追い詰められた参加者たちの叫びは痛切で心に響くものがありましたが、終わってみるとなぜか清々しさすら感じてしまったその読後感に著者さんの深い本格ミステリ愛を見る思いがしました。

7.友達未遂(2019)

友達未遂

友達未遂

  • 作者:宮西 真冬
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

伝統と格式のある全寮制女子高・星華高等学校。その寮で不審な事件が次々と起き、ルームメイト4人が巻き込まれていく青春小説。家に居場所がなかった茜、学校で伝説となっている母を持つ生徒会長の桜子、美工コースの憧れの先輩・千尋、周囲に迎合しない天才肌の真尋。複雑な家の事情や周囲の評価とのギャップに鬱屈を抱えていたりと、一人ひとり語られてゆくそれぞれの過去。けれど今まで見えていたものが全てではなくて、自分をきちんと見て気にかけてくれる人がいて、少しずつ変わってゆく彼女たちが迎えた結末にはぐっと来るものがありました。

8.彼女の色に届くまで(2017)

彼女の色に届くまで

彼女の色に届くまで

  • 作者:似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/03/29
  • メディア: 単行本
 

画廊の息子で幼い頃から才能を過信し画家を目指している緑川礼。しかしいつの間にか冴えない高校生活を送っていた礼が、無口で謎めいた同学年の美少女・千坂桜と出会うアートミステリ。礼が衝撃を受けた原石のような彼女の絵の才能。その推理で礼の窮地を救ってみせる桜の意外な一面と、共に過ごすようになってゆく日々。圧倒的な才能を前に平凡な自分を突きつけられる葛藤と少しの打算、生活力皆無な桜が気になって飼育係として世話を焼いてしまう礼の複雑な想いが悩ましいですが、それでも不器用な二人らしい結末はとても素敵なものに思えました。

9.君を描けば嘘になる(2018)

君を描けば嘘になる

君を描けば嘘になる

  • 作者:綾崎 隼
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/01/25
  • メディア: 単行本
 

寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。

10.青少年のための小説入門(2018)

青少年のための小説入門

青少年のための小説入門

 

中学2年だった一真が万引きを強要された現場でヤンキーの登と出会い、幼い頃から自由に読み書きができなかった彼と共に小説家を目指す青春小説。文字を読むのには苦労する登が一真に小説の朗読をしてもらって、彼が頭の中に湧き出すストーリーを一真が小説にする日々。そして一真が出会った少女・かすみとのほのかな恋。二人で多くの印象的な作品を読みながらコンビで小説家を目指すべく試行錯誤を続ける二人が、作家になってから少しずつ歯車が狂ってゆく展開はもどかしくて、けれどそんな彼らのままならない青春にはぐっと来るものがありました。

11.探偵は教室にいない(2018)

探偵は教室にいない

探偵は教室にいない

 

北海道の中学校に通う14歳の海砂真史を主人公に、英奈、総士、京介ら同級生たちとの日々の中で生まれるちょっとした謎を、真史のちょっと変わった幼馴染・鳥飼歩が解き明かしてゆく連作短編集。差出人不明のラブレター、ピアノに対する京介の複雑な想い、総士が隠していた真相、そして真史の家出と四つの物語が収録されていて、登場人物たちの周囲に対して素直になれない繊細な心情を巧みに描きつつ、相談された謎を解き明かしてゆく一見無頓着な探偵役・歩が見せる細やかな心遣いがなかなか効いていました。この作品の続編をまた読みたいです。

12.忘られのリメメント(2018)

忘られのリメメント

忘られのリメメント

  • 作者:三雲岳斗
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/08/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

擬憶素子「MEM」を額に張るだけで、他者の記憶を擬憶体験できるようになった近未来。「憶え手」である歌手・宵野深菜が、リギウス社CEOの迫間影巌から脱法MEMの調査を依頼されるSFサスペンス。調べてゆく上で浮かび上がる深菜の生い立ちに深く関わる稀代の殺人鬼・朝来野と模倣犯の存在、そして殺されてしまった同居人・三崎真白。記憶を追体験できるという技術を物語のベースに据え、虚実織り交ぜた体験をしながら朝来野の行方を追ううちに特異だった自らのありようとも向き合い、しっかりと決着をつける展開はなかなか良かったですね。

13.エンド オブ スカイ(2019)

エンド オブ スカイ

エンド オブ スカイ

  • 作者:雪乃 紗衣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

ゲノム編集技術によって老いや病から緩やかに遠ざかりつつある23世紀。謎の突然死「霧の病」を研究する遺伝子工学の権威ヒナコ・神崎博士が海から現れた少年・ハルと出会う近未来SF。ゲノム編集が推奨された香港に現れたオリジナルゲノムを持つハルと、どこか不安定なヒナコの交流の日々。「霧の病」が急速に拡大してゆく中でその原因が見えてきて、何が正常で異常なのかわからなくなる皮肉な展開でしたけど、周囲の人たちに支えられながらハルと向き合ったかけがえのない日々と、いくつもの伏線が回収された先にある結末が印象的な物語でした。

14.君の話(2018)

君の話

君の話

 

記憶改変技術「義憶」が普及した世界。二十歳の夏、天谷千尋が一度も出会ったことのない、存在しないはずの幼馴染・夏凪灯火と再会し動き出す物語。何もない過去を消したかったはずが、植え付けられたたった一人の幼馴染の鮮明な記憶。あまりにも運命的な再会から突如目の前に現れた灯花の存在を疑いながらも、どうしようもなく惹かれてゆく千尋。そこにはもうひとつの物語があって、不器用でお互い遠回りせざるをえなかった二人がきちんと向き合って、儚く切ないけれど優しさが感じられる物語の結末に著者さんらしさがよく出ていると思いました。

15.愛を知らない(2019)

愛を知らない

愛を知らない

 

ヤマオの推薦で合唱コンクールのソロパートを任された高校二年生の橙子。親戚でクラスメイトの涼の視点から彼女の苦悩と決意が描かれる青春小説。気難しくて周囲から浮いていた橙子に期待するヤマオ、一緒に練習することになった伴奏役の涼と委員長で指揮者の青木、共に過ごす中で意外な一面を見せてゆく橙子が抱える苦悩。これまで見えていたものがガラリと反転した世界で、どうにもならないところまで拗れてしまった関係があって、やりきって勝ち取った結果にはぐっと来ましたが、だからこそその先にあったこの物語の結末が胸に突き刺さりました。

16.映画化決定(2018)

映画化決定

映画化決定

 

過去に描いたマンガ『春に君を想う』を超えられず苦悩していた高二男子のナオトに、学生向けの映画で受賞している天才監督・ハルからの『春に君を想う』映画化オファー。最初は乗り気でなかった彼が少しずつ映画製作にのめり込んでいく青春小説。映画製作の過程でぶつかりあいながらも絆を深めてゆく二人。病をひた隠しにするハルと、映画制作を通じて『春に君を想う』の本質に向き合うことになってゆくナオト。葛藤と情熱が入り交じる形で進行していく物語の構図はわかりやすくて、だからこそ意外に思えたその結末には上手いなあと思わされました。

17.他に好きな人がいるから(2017)

他に好きな人がいるから

他に好きな人がいるから

 

寂れてゆく造船の田舎町。目立たないように鬱屈を抱えながら生きている高校生・坂井が、夜のマンション屋上で危険な自撮りを投稿し続ける白兎のマスクを被った少女と出会う青春恋愛ミステリ。苦い過去に縛られる少年と兎人間の秘密の共犯関係。クラスで浮いている少女・峰に巻き込まれてゆく学校生活と、彼女が意識する優等生の少女・鈴木。どこか危うさを感じさせる日々が続いた末に起きた事件とその真相は衝撃的で、いつまでも忘れられない坂井がこれからどうするのか、読み終わるとタイトルの意味がじわじわと効いてくる印象的な物語でした。

18.悪女の品格 (ミステリ・フロンティア 2017)

悪女の品格 (ミステリ・フロンティア)

悪女の品格 (ミステリ・フロンティア)

 

幼い頃からヒエラルキーの頂点に君臨し、今もかつての同級生三人と同時に付き合い貢がせている光岡めぐみ。しかし小学生時代の同級生への仕打ちをなぞるかのように次々と襲われ、婚活パーティーで知り合った大学教授の山本と犯人を絞り込んでゆくミステリ。共に犯人を追いかける中で暴かれ、明らかになってゆく周囲の人物たちの本当の思い。これまでやりたいように生きてきたことを思えば、因果応報とも思える結末でしたけど、そんな彼女が提示された二回目の人生をこれからどう生きるのか少しだけ気になる、決して悪いばかりではない読後感でした。

19.僕と彼女の左手 (2018)

僕と彼女の左手 (単行本)

僕と彼女の左手 (単行本)

 

幼い頃遭遇した事故のトラウマで、医者になる夢を前に壁にぶつかった医学生の習。そんな彼が左手一本でピアノを引く不思議な女性・さやこに出会い、共に時間を過ごすようになってゆくミステリ。教師を目指すさやこのために家庭教師として共に過ごすようになる二人。彼女にどんどん惹かれてゆき付き合うことになった習が、勉強よりもピアノに意識が向きがちな彼女のありように少しずつ感じるようになってゆく違和感。積み重ねられてゆく不安の先にあった真実は真摯な想いと共にあって、二人が出会えて本当に良かったと思えるとても素敵な物語でした。

20.流浪の月(2019)

流浪の月

流浪の月

 

奔放に育ててくれた両親を失い、引き取られた伯母の家で追い詰められてゆく更紗。そんな行き場のなかった彼女を受け入れた文が抱えていた苦悩。真実を知られることがないまま否定された二人の関係。確かに難しいテーマで、どんなに真摯な想いがあろうと世間一般の常識では容認し難いものがあるのは分からなくもないんですけどね。けれど辛い過去からうまく生きられない不器用な登場人物たちがいて、たくさん傷つきながらも育んできた揺るぎない真っすぐな想いがあって、ただともにありたいというささやかな願いくらいは叶う未来であって欲しいです。

 

以上です。勢いつけてではありましたが、思ったより早く終わったのも見ていただいた皆さんのおかげです。今後ともよろしくお願いします。