読書する日々と備忘録

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お仕事小説・青春小説中心の角川文庫・ホラー文庫37選

BookWalkerで11/30(金)からまたすごいキャンペーンがスタートしますね。

角川文庫だと有川浩さんの「図書館戦争」、桜庭一樹さんの「GOSICK」上橋 菜穂子さんの「鹿の王」、太田紫織さんの「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」榎田ユウリさんの「カブキブ!」、桑原水菜さんの「遺跡発掘師は笑わない」初野晴さんの「ハルチカ」荻原規子さんの「RDGレッドデータガール」、望月麻衣さんの「わが家は祇園の拝み屋さん」、ホラー文庫などでも櫛木理宇さんの「ホーンテッド・キャンパス」などたくさんの人気シリーズがありますが、この辺は知名度的に今更ですね(苦笑)

 

今回はおそらくBWの利用者増やシリーズ開拓のきっかけに繋げたい企画なのかな思いましたが、時間が時間なので長い巻数のものはさすがに攻略が厳しいと思います(ラインナップを見ただけではわかりませんが、シリーズは1巻目だけかもしれません)。なので角川文庫・ホラー文庫の中から単巻ものを中心に、シリーズものでも5巻以下のオススメのものをピックアップして37作品セレクトしました。

 

1.金椛国春秋シリーズ (角川文庫)

後宮に星は宿る 金椛国春秋 (角川文庫)

後宮に星は宿る 金椛国春秋 (角川文庫)

 

 金椛帝国の皇帝崩御に伴い、「皇帝に外戚なし」の法のもとに皇后に選ばれた星皇后の一族は全て殉死を命じられ、胡娘の助けにより御曹司の遊圭がひとり生き延びる中華ファンタジー。追われる身だった遊圭が、以前助けた縁で匿ってくれた町娘の明々と一緒に密かに男の身で後宮に出仕するまさかの展開。病弱で世間知らずゆえか義憤に駆られて自らの身を危うくするような状況にはハラハラしましたが、宦官・玄月に正体を疑われながらも知恵を駆使して何とか乗り切った展開はなかなか面白かったです。後宮からの脱出を目指す遊圭たちの今後に期待ですね。現在5巻まで刊行。

2.弁当屋さんのおもてなし (角川文庫)

弁当屋さんのおもてなし ほかほかごはんと北海鮭かま (角川文庫)

弁当屋さんのおもてなし ほかほかごはんと北海鮭かま (角川文庫)

 

恋人に二股をかけられ傷心状態のまま北海道・札幌市へ転勤したOL千春。仕事帰りの彼女が路地裏にひっそり佇む『くま弁』を発見し、「魔法のお弁当」の作り手・ユウと出会う物語。悩みを抱えた一人のお客様のためだけに作るユウの裏メニュー。それによって救われてゆく常連客たち。北海道ならではの食材やお客さんの思い出のメニューに寄り添うユウが作り出すひとつだけのお弁当がとても美味しそうで、ユウ自身もまた自らのありようを見定めてゆく暖かな気持ちになれる物語でした。千春とユウの距離感も変化の兆しがあって続刊に期待したいですね。現在4巻まで刊行。

3.丸の内で就職したら、幽霊物件担当でした。 (角川文庫)

丸の内で就職したら、幽霊物件担当でした。 (角川文庫)

丸の内で就職したら、幽霊物件担当でした。 (角川文庫)

 

本命の一流不動産会社の最終面接で大学生の澪が質問されたのは何と面接官の人数。質問した長崎次郎に霊が視えるその素質を買われ事故物件を扱う「第六物件管理部」で働くことになるオカルト仕事小説。これまで長崎一人だった「第六物件管理部」で働く澪が遭遇する数々の憑いている物件。ホラー展開が怖いわりに解決はわりとあっさりめでしたが、小心なのに暴走気味な澪に無愛想なイケメン・上司次郎、友人で霊障に敏感な爽やかイケメンの高木に霊犬・マメも相棒に加えテンポよく読めるシリーズです。現在3巻まで刊行。

4.宮廷神官物語 (角川文庫)

宮廷神官物語 一 (角川文庫)

宮廷神官物語 一 (角川文庫)

 

聖なる白虎の伝説が残る麗虎国。美貌の宮廷神官・鶏冠が王命を受け、次の大神官を決めるために必要な慧眼を持つ奇蹟の少年・天青と出会う物語。屈強な青年・曹鉄や鶏冠と共に都を目指す過程で育まれてゆく絆といくつかの出会い、山奥育ちだった天青が知る世界の広さの一端と厳しい現実。そして否応なく巻き込まれてゆく次の大神官を巡る争い。物語としてはまだ序盤といった感じですが、やんちゃな天青や意外な一面も見せる美貌の神官の鶏冠など、登場人物たちがよく動いてテンポも良く、ここからどんな展開になってゆくのか今後に期待。現在4巻まで刊行。

5.神酒クリニックで乾杯を (角川文庫)

神酒クリニックで乾杯を (角川文庫)

神酒クリニックで乾杯を (角川文庫)

 

医療事故で働き場所を失った外科医の九十九勝己が恩師の勧めで少し変わった「神酒クリニック」で働くことになり、いろいろな事件に巻き込まれていくメディカルミステリ。変人揃いのクリニックは患者の悩みを取り除くため事件解決にまで乗り出してしまう裏の顔も持っていて、個性的で特殊な能力を持つクリニックの面々に振り回される勝己という構図は、著者さんお得意の展開ですね(苦笑)登場する人物を見ると他作品とその世界観を共有しているようで、犯人のその後を含めて今後の展開が楽しみになりそうなシリーズですね。
【続刊】「神酒クリニックで乾杯を 淡雪の記憶 (角川文庫)

6.ここは神楽坂西洋館 (角川文庫)

ここは神楽坂西洋館 (角川文庫)

ここは神楽坂西洋館 (角川文庫)

 

結婚直前に婚約者に浮気された小寺泉が、何もかも放り出して下宿先の「神楽坂西洋館」で大家の青年・藤江陽介や他の個性的な住人たちとともに住むことになる物語。傷つき疲れ果てた泉が下宿先に受け入れられて、住人や関係者たちとのやりとりや遭遇する出来事に関わってゆくうちに癒やされて、今の自分を見つめ直して新たな一歩を踏み出したり、西洋館の危機に大家の陽介を助けるために他の住人たちと共に奔走するようになったり、ちょっとした幸せを大切にできる生活がとてもいいなと思いました。二人の関係も気になるので続刊に期待。現在2巻まで刊行。

7.トオチカ (角川文庫)

トオチカ (角川文庫)

トオチカ (角川文庫)

 

親友と2人で鎌倉の小さなアクセサリー店「トオチカ」を営む里葎子。手痛い恋愛を乗り越えていたと思っていた彼女がバイヤーの千正と出会い、心揺さぶられてゆく不器用な大人の恋の物語。会えば行動の一つ一つが気になって苛立つ里葎子と、なぜかそんな彼女の地雷を踏みまくる千正。優しくされたり雑貨の趣味が似ていても素直になれず、距離感が分からなくなったり言葉の選択を間違えてしまう不器用な関係が、とあるきっかけから戸惑いながらもいい感じにまとまっていって安心しました。巻末の短編もいい感じに幸せ感を補足していて良かったですね。

8.初恋は坂道の先へ (角川文庫)

初恋は坂道の先へ (角川文庫)

初恋は坂道の先へ (角川文庫)

 

結婚に対して煮え切らない教師・研介の恋人品子が、謎の男から届いた一冊の本をきっかけに失踪し連絡不通に。並行して中学生しなこと海人出会いが描かれるふたつの物語。彼女とのやりとりを思い出したり、告白された同僚の問題に巻き込まれながら、改めて品子への想いを自覚してゆく研介。一方でしなこと海人の初々しいやりとりや、品子の運命の出会いという言葉に不安を煽られますが、失いたくない大切なものにはやっぱり行動起こさないとですよね。意外な展開にやられたなと思いましたが、爽やかな読後感の物語でした。巻末の短編も良かったです。

9.恋虫 (角川文庫)

恋虫 (角川文庫)

恋虫 (角川文庫)

 

政府が結婚相手を決めて、恋をした人は「恋虫」に感染したとして他者の感染を防ぐために駆除される世界。念願の『恋虫駆除隊』に入隊した四ノ宮美季が、救世主と呼ばれる上官・冬野花火と出会う物語。同期の首席で誰よりも恋という病に熟知しているはずの四ノ宮が直面する駆除の現実と苦悩する想い。感染した花火の兄・雪尋と婚約者・千春、二人に関わった花火それぞれのエピソード。こんな時代に美しくも儚い恋に向き合った彼らの真っ直ぐな想いにはじわじわと来るものがあって、諦めない孤独な花火が四ノ宮と巡り会えた幸運に救われる思いでした。

10.憧れの作家は人間じゃありませんでした (角川文庫)

憧れの作家は人間じゃありませんでした (角川文庫)

憧れの作家は人間じゃありませんでした (角川文庫)

 

紆余曲折の末に憧れの作家・御崎禅の担当となった文芸編集者2年目の瀬名あさひ。実は吸血鬼で人外の存在が起こした事件について警察に協力している御崎に原稿を書いてもらうため事件解決にも奮闘する物語。映画好きで意気投合した作家・御崎の意外な正体。最初は困惑するものの映画好きで意気投合しファンでもある御崎の事情を知ることになって、原稿を書いてもらうためにと奮闘するあさひの行動力が物語を引っ張っていた印象。読みやすい語り口でいい感じに物語を引き締めていた刑事の夏樹にも好感。現在3巻まで刊行。

11.地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

地獄くらやみ花もなき (角川文庫)

 

わけあって借金を抱えネットカフェを泊まり歩く放浪生活を送る青年・遠野青児。罪人が化け物に見える彼が迷い込んだ洋館で、白牡丹の着物をまとった謎の美少年・西條皓に住みこみの助手として屋敷で働くよう誘われる物語。鬼の代わりに罪人を地獄に届ける「地獄代行業」を営む皓を訪れる顧客たちが抱える事情とおぞましい真実、そして彼らにふさわしい結末。騙されて何度も怖い目に遭わされるのに、皓に確実に手なづけられてゆく青児の小市民っぷりが物語のいいアクセントになっていて、ライバル探偵・凜堂棘も登場したりな今後の展開が楽しみです。現在2巻まで刊行。

12.昨日の僕が僕を殺す (角川文庫)

昨日の僕が僕を殺す (角川文庫)

昨日の僕が僕を殺す (角川文庫)

 

両親を失い支えてくれた叔母も亡くして小樽で孤独な一人暮らしをする高校生・淡井ルカ。そんな彼の窮地をベーカリーで働く訳ありイケメン店長汐見と人懐っこい青年・榊に救われるホラーミステリ。助けてくれた汐見と榊たちの意外な正体を知り、それと周囲で起こる事件の関連に疑心暗鬼を募らせてゆく展開で、生い立ち故にいろいろ考え過ぎてしまう性格が事態を拗らせていくわけですが、それでも真実を知ろうと目をそらさず向き合うことで、自分を支えてくれている人たちの温かさを知る結末はなかなか良かったです。続巻に期待の新シリーズですね。


13.校閲ガール (角川文庫)

校閲ガール (角川文庫)

校閲ガール (角川文庫)

 

憧れのファッション誌編集を夢見て出版社に入社するも配属されたのは校閲部。そんな入社2年目河野悦子の日常を描いたお仕事小説。編集のように直接作家と関わらない、地道でプロフェッショナルな校閲の仕事を、登場人物との関わりで比較しつつ、テンポよく描かれるストーリーは面白かったです。衣食住の衣にお金をつぎ込む悦子は博覧強記の毒舌でインパクトがありましたが、憧れを持ちながらどこか醒めた現実主義者な彼女も、恋したり何だかんだ言いつつ困った人を見捨てられない部分も同居するところが、何ともいい味を出していると思いました。

【続刊】「校閲ガール ア・ラ・モード」「校閲ガール トルネード

14.次回作にご期待下さい (角川文庫)

次回作にご期待下さい (角川文庫)

次回作にご期待下さい (角川文庫)

 

仕事に追われる月刊漫画誌の若き編集長で苦労人の眞坂崇とトンデモ天才漫画編集者・蒔田が、漫画バカの編集者たちや漫画に命をかける漫画家たちとともに日常のお仕事に潜む謎を解き明かしてゆくお仕事小説。落とし物をきっかけに出会ったビルの夜間警備員・夏目の謎、打ち切りに悩む漫画家とのやりとりやヘッドハンティング、そして盗作疑惑の真相など、漫画雑誌はほんと大変な仕事なんだなと実感させる一方で、それでも登場人物たちが面白い漫画を作りたいという想いからぶつかり合うなかなか熱い物語ですね。現在2巻まで刊行。

15.プランナーズ! あなたのお悩み解決します (角川文庫)

プランナーズ! あなたのお悩み解決します (角川文庫)

プランナーズ! あなたのお悩み解決します (角川文庫)

 

聴覚過敏症に起因する苦い過去を抱え、就職活動に苦戦していた雛子。ようやく受かった何でもありのマーケティング会社「プランナーズ」で依頼を成功させるべく奮闘するお仕事小説。不運も重なった苦い過去の失敗からすっかり自信喪失していた雛子。けれど蔵元の立て直しに奔走したり、息子の代わりに旅行に連れて行ったり、なかなかうまく行かなくても諦めずに真摯に向き合う気持ちだったり、そんな彼女を支えてくれる先輩たちの協力で乗り越えてゆく展開は良かったですね。気になる関係もいくつかあったりで、続きがあるならまた読んでみたいです。

16.ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

ドルフィン・デイズ! (角川文庫)

 

大学卒業後もダイビング以外は興味を持てず、就職も決まらない蒼衣。そんな彼がドルフィントレーナー採用試験でイルカやトレーナーの凪たちと出会いのめり込んでゆくお仕事小説。そこそこ器用だけれどプライドが高い蒼衣が魅せられ、仲良くなった相棒イルカ・ビビと共に目指すショーデビュー。熱くなるとつい周りが見えなくなって失敗するその性格は、一方でまっすぐでひたむきな一面もあって、イルカには致命的な異変が見つかったビビやイルカを愛する仲間とともに、その危機を乗り越えるべく奮闘し成長してゆく姿にはぐっとくるものがありました。

17.星降プラネタリウム (角川文庫)

星降プラネタリウム (角川文庫)

星降プラネタリウム (角川文庫)

 

観光地化された星空が素敵な島を捨てた渡久地昴が就職先で配属されたのはプラネタリウム事業課。複雑な思いを抱える彼が魔法使いのようにプラネタリウムの解説をする望月と出会う物語。観客を魅了する望月の手腕や、変わり者の同僚たちにも触発されて仕事に前向きになってゆく昴と、幼き日に約束を交わした天音の再会。いくつもの人間関係と星空への思いのバランスをうまく取りつつ描かれてゆくエピソードでしたが、様々な出会いから心境も少しずつ変わってゆく中、昴が担当することになった故郷の島での星空解説にはぐっと来るものがありました。

18.知らない記憶を聴かせてあげる。 (角川文庫)

知らない記憶を聴かせてあげる。 (角川文庫)

知らない記憶を聴かせてあげる。 (角川文庫)

 

勤務先で先輩の失敗を押しつけられて辞め、叔父が住んでた家に籠もっていた陽向。彼の元に届けられた叔父のテープを原稿起こししてもらうため、音谷反訳事務所の久呼と出会うお仕事小説。訳ありで個人宛てテープは起こさない信条の久呼に反訳のやり方を教えてもらううちに、テープの真意や反訳の奥深さを知って彼女に師事しその仕事を手伝うようになってゆく陽向。意気込みが空回りすることもありましたけど、自身も抱えているものがある久呼とは足りないところをお互い補い合えるいいコンビになりつつあって、続巻あるならまた読んでみたいです。

19.川越仲人処のおむすびさん (角川文庫)

川越仲人処のおむすびさん (角川文庫)

川越仲人処のおむすびさん (角川文庫)

 

成婚率100%と噂される川越仲人処で働く桐野絲生。くせ者揃いの会員たちに日々翻弄される日々を送る彼女に神様見習いのもふもふ白うさぎ・ユイが託される物語。素直になれない野中や、お互い家を継がなければならない二人の葛藤、離島赴任予定の医者など、彼らの「運命の糸」が抱える問題を解決すべく時折ユイに振り回されながら奔走する絲生。そんな彼女が紡いだ会員たちの想いと、他人のために頑張るばかりだった鈍感な絲生もまた自分でもよく分かっていなかった想いをようやく自覚して、向き合うようになってゆく結末はなかなか良かったです。

20.外資のオキテ (角川文庫)

外資のオキテ (角川文庫)

外資のオキテ (角川文庫)

 

英語を使う仕事に憧れて一念発起して会社を辞め、語学留学を決行した貴美子。帰国後直面する現実と、悪戦苦闘の転職活動の末に何とか決まった米系企業で外資での一歩を歩み始めるリアルお仕事成長物語。帰国してみれば外資系企業では語学留学は留学と認められない現実。キャリアアップを目指し派遣社員として外資系企業で働き始めた貴美子が経験してゆく様々な仕事には充実感も翻弄されることもあって、外資系に対する周囲のイメージとのギャップもあったりで、外資系企業の勤務が長い著者の経験を活かしたリアルな描写がとても印象的な一冊でした。


21.トリガール! (角川文庫)

トリガール! (角川文庫)

トリガール! (角川文庫)

 

大学生活をエンジョイするはずが、なぜか人力飛行機サークルに入部してしまった新入生ゆきなが、仲間の怪我にその想いを受け継ぎ、先輩とコンビを組んで一緒に空を飛ぶべく奮闘する物語。1年に1回しかない大会のために、多くの人が携わって、その情熱を持って作られる2人乗りの人力飛行機、そしてアスリート並みの節制と日々のトレーニング。ふと疑問に感じたり、悩んでもおかしくない、そういった地道な積み重ねを乗り越えた描写があるからこそ、登場人物の想いを乗せた言葉の数々は、読んでいる自分の心にずっしりと響くものがありました。
【関連作品】「恋を積分すると愛

22.僕は小説が書けない (角川文庫)

僕は小説が書けない (角川文庫)

僕は小説が書けない (角川文庫)

 

不幸体質や家族関係に悩む高校1年生の光太郎。先輩・七瀬の強引な勧誘で廃部寸前の文芸部に入部した彼が、部の存続をかけて部誌に小説を書くことになる青春小説。物語を書けなくなっていた光太郎が出会った七瀬先輩の容赦ない批評。プレッシャーが掛かる部誌作成という状況で、振り回すOBふたりの存在と自覚してゆく七瀬先輩への想い。知りたくもない現実を突きつけられてきた光太郎が、それでも苦悩を乗り越えてきちんと向き合ったからこそ見えた光明があって、相変わらず不器用な彼のこれからを予感させるエピローグがとても素敵な物語でした。

23.マツリカ・マジョルカ (角川文庫)

マツリカ・マジョルカ (角川文庫)

マツリカ・マジョルカ (角川文庫)

 

冴えない高校生柴山が雑居ビルで一日中望遠鏡で観察している謎の女子高生マツリカと出会い、徐々に変わっていく物語。マツリカの理不尽な無茶ぶりに振り回されながらも、クールでミステリアスな彼女が気になって仕方ない柴山は、交流を通じて快活な同級生小西さんと絡むようになったり、目を背けていた辛い事実に向きあうようになったり、彼女が不器用なだけで一種のリハビリだったんですよね。上手く話せないのに太腿注視し過ぎとか妙にリアルな描写の好みは分かれそうですが、安楽椅子探偵的な謎解きもなかなか興味深いですね。
【続刊】マツリカ・マハリタ (角川文庫)

24.鉢町あかねは壁がある カメラ小僧と暗室探偵 (角川文庫)

鉢町あかねは壁がある カメラ小僧と暗室探偵 (角川文庫)

鉢町あかねは壁がある カメラ小僧と暗室探偵 (角川文庫)

 

幼馴染ながら今は微妙な関係の写真部・有我遼平と占い女子・鉢町あかね。たびたび事件に遭遇する遼平を、推理を伝える謎の「壁越し探偵」となって救う青春ミステリー。あかねが密かに営む占い師の依頼者と事件がリンクしていたりで、距離を置きながらも意識する遼平を正体を明かさないままたびたび救う展開。凄まじい洞察力を発揮するのに、不器用過ぎて遼平に気づいてもらえないこじれ具合が切なかったですが、それでも二人のすれ違いのきっかけとなった過去の事件と今がようやく繋がって、これからの変化を期待させるラストはとても良かったです。

25.わたしの恋人 (角川文庫)

わたしの恋人 (角川文庫)

わたしの恋人 (角川文庫)

 

彼女いない歴=年齢の高校1年生・龍樹が、保健室で出会った女の子・森せつなのくしゃみに恋をする。恋を知らなかった龍樹が、一目惚れから不器用な映画デートへの誘い、そして告白。自らの抱く思いに戸惑ったり不安に感じながらも、まっすぐな龍樹の想いに触れて、頑なだったせつなの気持ちも変わっていく繊細な描写がとても良かったです。せつながずっと抱いていた不安も、龍樹に話せば何とかなってしまいそうな無敵感、そういうのありますね(苦笑)素直なストーリー展開でしたが、二人の初々しいやりとりが見ていてくすぐったくなる物語でした。

26.ぼくの嘘 (角川文庫)

ぼくの嘘 (角川文庫)

ぼくの嘘 (角川文庫)

 

親友龍樹の恋人森さんに恋心を抱いてしまった笹川勇太。そんな気持ちを学内一の美少女あおいに知られてしまって、彼女の企みに協力させられることになるもうひとつの物語。「わたしの恋人」から続くお話で、勇太の想いにはやはりと納得しましたが、そんな勇太を振り回しながら物語をぐいぐい引っ張っていく存在感があったあおいの恋の顛末。気持ちは分かるけれど、やっちゃいけないことってあるんですよね...。なかなか気持ちを切り替えられないあおいをずっと待っていた、勇太の粘り強さには脱帽。ほんと良かったなあと思えるラストで爽やかな読後感でした。

27.……なんでそんな、ばかなこと聞くの? (角川文庫)

……なんでそんな、ばかなこと聞くの? (角川文庫)

……なんでそんな、ばかなこと聞くの? (角川文庫)

 

郡上踊りが終わるまでの死と生が入り混じる場所。なぜ死んだのかも忘れた高校生大和と、彼を生き返らせようとする幼馴染凛虎の不器用で真っ直ぐで凛としたひと夏の物語。二年前に死んだ凛虎の兄で親友の雪夜と、雪夜と凛虎の師匠である魔女の存在。理由を明かさないまま愚直に大和を生き返らせると告げる凛虎。終わりに向かう夏を二人で過ごす中で明らかになる事情は過去の謎に繋がっていて、譲らない頑固者の二人が散々ぶつかり合って出した諦めの悪い選択には、よくある切ない終わりの物語とはひと味違う彼ららしい後悔のない充足感がありました。

28.樫乃木美大の奇妙な住人(角川文庫)

樫乃木美大の奇妙な住人  長原あざみ、最初の事件 (角川文庫)

樫乃木美大の奇妙な住人 長原あざみ、最初の事件 (角川文庫)

 

引っ込み思案でいつもひとりぼっちな樫乃木美術大学の1年生長原あざみが、疑われていた状況を救ってくれた研究生の梶谷七唯と出会ったことでその世界が変わってゆく物語。よく分からないサークル「カジヤ部」に所属することになり、梶谷と共に謎を解きながら増えてゆく仲間たち。ミステリ要素はやや薄味ですが、人との出会いが卑屈だったあざみのありようを変えてゆき、ついには窮地に陥った梶谷を救うために奔走するまでに成長する過程はなかなかで、あざみの過去の伏線も分かりやすくきちんと回収していて好感でした。現在2巻まで刊行。

29.きみのために青く光る (角川文庫)

きみのために青く光る (角川文庫)

きみのために青く光る (角川文庫)

 

心の不安に根ざして発症し、力が発動すると身体が青く光って様々な異能力が発現する病「青藍病」。それに振り回される4人の男女が織りなす切なく愛おしい連作短編集。青藍病によって動物から攻撃されたり、念じるだけで生き物を殺せたり、人の年収や死期を知ってしまったり。青藍病によって引き起こされる異能に戸惑うことも多くて、それによって様々な事件に巻き込まれたりもしますが、困難に直面した恋する相手のために何とかしようと奔走したり、終わってみれば何となくいい感じにまとまってゆく展開は著者さんらしくてとても素敵な物語でした。

30.つめたい転校生 (角川文庫)

つめたい転校生 (角川文庫)

つめたい転校生 (角川文庫)

 

気になる彼の正体は殺し屋?倉庫から突然消えた転校生、自分の身の回りで起きる不審死など、人でないものとの切ない出会いを描く連作短編集。ミステリ要素も交えつつ、人でないものとの出会いや交流、別れが読みやすいテンポの良い文章で描かれていて、どうしても重くなりがちなテーマで意外な視点を提供したり、ほっこりするようなテイストで描かれた作品もあったのはわりと新鮮でした。ハッキリとした結末を提示するばかりでなく、読者の想像に任せるようなスタンスもまた味わいのある読後感に繋がっていて、これはこれでなかなか良かったですね。

31.吹部! (角川文庫)

吹部! (角川文庫)

吹部! (角川文庫)

 

三年も早期引退してしまい、幽霊部員も多い崩壊寸前の弱小吹奏楽部にやってきた正体不明の顧問・ミタセン。その奇人変人っぷりに振り回されながら、全国コンクールで金賞!を目標に奮闘する青春小説。あの手この手で部員を集めて指導していく変人顧問・ミタセンに、いきなり部長に指名されてしまった沙耶、西大寺ら集められた吹部のメンバーたち。ミタセンのキャラには首を傾げる部分もありましたが、それぞれ抱えている事情や様々な経験を乗り越えて成長しながら、コンクールに向けてひとつにまとまってゆく展開にはさわやかな読後感がありました。

 

32.記憶屋 (角川ホラー文庫)

記憶屋 (角川ホラー文庫)

記憶屋 (角川ホラー文庫)

 

 ただの都市伝説だと思っていた忘れたい記憶を消してくれるという「記憶屋」。しかし身近な先輩がトラウマと共に自分のことも忘れ去ってしまう状況を目の当たりにした大学生の遼一が、記憶屋の行方を追い始める物語。夜道恐怖症の先輩や不治の病で死を覚悟する男、大好きだった幼馴染に拒絶された少女。記憶屋を追う過程で身近な人が記憶を失ってゆくのを見て、記憶を消すことの是非に葛藤する遼一でしたけど、ようやくたどり着いた記憶屋が望む本当にささやかな願いがまた切なかったです。現在3巻まで刊行。

33.山内くんの呪禁の夏。 (角川ホラー文庫)

山内くんの呪禁の夏。 (角川ホラー文庫)

山内くんの呪禁の夏。 (角川ホラー文庫)

 

生まれもっての災難体質を持つ小学六年生の山内くん。彼の住むアパートが火事で焼け父の実家に戻ったことで、昔彼にお守りをくれた不思議な子・紺と再会する物語。紺によってこの世ならぬものが見える目にされてしまった山内くん。久しぶりに訪れた父の実家がある田舎の特殊な雰囲気と、未解決なままの連続神隠し事件。そして紺や仲間たちと一緒に次々奇妙な事件に遭遇する中で、徐々に明らかになる山内くんを取り巻く因縁。彼らの友情なのか淡い恋心なのかまだ判別がつかない想いと複雑に絡んだ因縁に注目の作品ですね。
【続刊】山内くんの呪禁の夏。 夏の夕べに約束を (角川ホラー文庫)

34.侵蝕 壊される家族の記録 (角川ホラー文庫)

侵蝕 壊される家族の記録 (角川ホラー文庫)

侵蝕 壊される家族の記録 (角川ホラー文庫)

 

事故で亡くした息子と同じ名前の少年・朋巳。彼を家に入れた結果、その母親や弟まで寄生を始め徐々に家を侵食されていく物語。父親があまり寄り付かない家庭の隙間に入り込んで洗脳してゆく過程があまりにも巧妙で、狡猾に煽って分断されたことでお互い対立して孤立し変わり果ててしまう母親や姉妹たちの変貌ぶり。家族内で微妙な扱いであったがゆえに、ただ一人危機感を失わなかった美海という皮肉な展開。そんなどうにも救いようがない感じに追い詰められていくのに、エピローグでは穏やかな雰囲気になってしまっているのがまた恐ろしかったです。

35.きみといたい、朽ち果てるまで (角川ホラー文庫)

きみといたい、朽ち果てるまで (角川ホラー文庫)

きみといたい、朽ち果てるまで (角川ホラー文庫)

 

世界から見捨てられた人々が集まる混沌の街・イタギリ。そこで生まれ育ち明日の見えない生活を続ける少年・晴史が、道端でスケッチをする儚げな少女・シズクに淡い想いを抱く物語。ふとしたきっかけから言葉を交わし、共に過ごす時間を持つ日々を楽しみに思うようになってゆく二人。イタギリで続く殺人事件の真相と、目をそらしたいのに明らかになってしまう真実。惹かれている相手に嫌な部分は見せたくないと願う二人にとってはあまりにも過酷な結末でしたけど、それでも最後まで寄り添いたいと願う二人の気持ちは純粋で美しいものだと思えました。

36.怪談撲滅委員会 (角川ホラー文庫) 

怪談撲滅委員会 幽霊の正体見たり枯尾花 (角川ホラー文庫)

怪談撲滅委員会 幽霊の正体見たり枯尾花 (角川ホラー文庫)

 

幼少期のトラウマのため、超ド級の怖がりで友達も作らずに怪談を避ける日々を過ごしている女子高生・大神澪が、「怪談撲滅委員会」に所属する雲英に巻き込まれて「学校の怪談」殲滅に挑んでいくお話。こわがりな澪と強引な雲英はとても対照的なコンビでしたが、雲英が怪談を完膚なまでに撲滅するために、怪談を怪談でない喜劇的なものや、全く違うものに変えようとする手法はなかなか斬新でしたね(苦笑)実際にいろいろ付き合わされる澪は大変だったでしょうけど、なかなか愉快なお話でした。「怪談推進委員会」もあるみたいで注目です。
【続刊】怪談撲滅委員会 死人に口無し (角川ホラー文庫)

37.黄泉がえりの町で、君と (角川ホラー文庫)

黄泉がえりの町で、君と (角川ホラー文庫)

黄泉がえりの町で、君と (角川ホラー文庫)

 

寂れてゆく一方の田舎町。父が死んで受け継いだ葬儀社で死者が甦る事件が続き、若社長遼一が風評被害を振り払うため調査を始める青春ホラー。高校時代の親友の自殺を引きずったまま、父の死により望まぬ形で葬儀社を継いだ遼一。霊が見える秘密を抱え、そんな兄を厭うようになっていた佐紀が出会った少年・颯太。最初何事にも腰が引けていた遼一が黄泉がえりを巡る町の過去や自らの想いに向き合い、佐紀もまた颯太との出会いかららしさを取り戻してゆくことで、様々な停滞が打破されて動き出す予感と爽やかな読後感に繋がってゆく素敵な物語でした。

 

以上です。気になる本があったら是非読んでみて下さい。