読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

※弊サイト上の商品紹介にはプロモーションが使用されています。

2016年11月に読んだ新作おすすめ本

11月もいろいろ興味深い新作がありました。今回案内するのはライトノベル4点、その他文庫11点、単行本3点の計18点です。気になる本があったら是非手にとってみてください。

 イベントでコスプレイヤー乃木乃ノ香(14歳)と知り合い、ファンだった彼女に家に手伝いに来てもらうようになったプロ絵師・京橋悠斗と、曲者揃いの仲間たちとのドタバタな日常。作中では絵師さんの描くことは楽しくても大変なことも多いその生活や、なるほどなと思うリアルな事情などもいろいろ語られていて、懇意にする個性的な濃い仲間との繋がりや彼らのために奔走する姿にはいいやつだなあと思いましたけど、そんなつもりはなくても14歳との日常は傍から見たら通報待ったなしですね(苦笑)話としてもなかなか面白くなりそうで続巻に期待。

ディエゴの巨神 (電撃文庫)

ディエゴの巨神 (電撃文庫)

 

 新大陸発見に沸き立つ変革の時代。密かに陰陽術の研究に励む海洋国家スピネイア王国の青年ディエゴが、腐れ縁の友人アルバロと共に新大陸遠征軍の船に乗り込む物語。遠征軍を撃退する森を守る巨神の存在と欺かれた原住民たちの不信、そしてディエゴの悔恨と彼を取り巻く複雑な因縁。理想を持つがゆえに現実に思い至らない面もあったディエゴでしたけど、レラやローゼンといった原住民たちと交流するうちに自分のなすべきことを見出してゆく展開は、新大陸と旧大陸の間で新たに時代を切り開こうとする熱い想いがぶつかりあってとても面白かったです。

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

 

 超大国アルキランに突如侵攻されたイアンマッド王国。和議と引き替えに人質として赴くことになった国王の長男王子ルスタットと、残されて次々と危機に見舞われる弟王子レオームの二人の王子の物語。神話的な超越した力と、人が技術を覚え始めた端境期の世界観で、周囲で引き起こされる危機的状況に否応もなく巻き込まれてゆく弟レオームと、アルキランの先進的技術に触れつつ伝説の存在となってゆく兄ルスタットの数奇な運命はとても興味深いですが、それぞれの道を歩み始めた二人がどのような形で再会することになるのか今後がとても楽しみですね。

<Infinite Dendrogram>-インフィニット・デンドログラム- 1.可能性の始まり (HJ文庫)

-インフィニット・デンドログラム- 1.可能性の始まり (HJ文庫)

 

 画期的で一大ムーブメントとなったダイブ型VRMMO。大学受験で周回遅れになってしまったものの、兄に誘われて大学生・玲二がゲームに参加する物語。プレイスタイルによって独自に進化する<エンブリオ>を相棒に戦う世界。様々な思惑で事態が再び動き始めた状況で参加した玲二が、癖のある能力の活かし方を試行錯誤しつつ、面白い仲間も加えていく展開はテンポも良くてキャラもよく動き、クマキグルミ姿の兄が解説・サポート役として配置される安心設計。1巻目としては十分な可能性を提示してくれましたし、ここからどう動かすのか次巻に期待。

幸せ二世帯同居計画 ~妖精さんのお話~ (電撃文庫)

幸せ二世帯同居計画 ~妖精さんのお話~ (電撃文庫)

 

 とある事情により家を失い公園でサバイバル生活を送っていた瀬尾兄妹が近所で発見した空き家にこっそり移住。でも実はそこには同級生の莉緒がたった一人で生活していることが判明する物語。未成年だけで一緒に借家で生活する設定がちょっとだけ気になりましたが、過去の出来事から人を信じられなくなっていた莉緒に「妖精さん」として出会い、一緒に住むことで発生する数々のエピソードを通してお互いを理解するようになり、少しずつ「家族」としての絆を育んでゆく展開は、相手を大切に想う気持ちが感じられてとても温かい気持ちで満たされました。

 

 高校1年生の望月譲はいつの間にか自分が入学式の日に戻っていることに気がつく。同じ境遇の生徒会長から学校の一定人数がループしていることを知らされた譲が、図書室で出会った少女・桜庭のことを気になり始める物語。出ていく方法は、ループの中で誰かと恋人になること。読書家の譲に書いている小説の感想を聞きにきた桜庭と、ループに加わってきた片想いの相手・三瀬。二人の間で揺れて自分の想いがどこにあるのか分からなくなり戸惑う譲でしたけど、臆病で不器用なだけの彼女の想いにきちんと気づいてあげられて良かったです。次回作にも期待。

ミュース 翡翠の竜使い (メディアワークス文庫)
 

 竜と絆を結ぶ竜使いの故郷・翡翠の里が一夜にして滅びた。ただ一人生き残った少女ミュースは、里を滅ぼした者たちへの復讐を誓い、黒竜のシャグランの封印を解き放って旅に出るファンタジー。里の王であった父や姉を殺した仇としてユージーンを追うミュースと、彼によって解き放たれ美しい青年の姿で現れたシャグラン、長らく彼を封印していた白蛇による旅。姉の婚約者との対決では辛い現実に動揺しましたが、それを乗り越えて見事打ち勝ってみせた彼女には応援したくなるものがありますね。なかなか業の深い因縁を抱えている物語ですが今後に期待。

浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。 (富士見L文庫)

浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。 (富士見L文庫)

 

 浅草に住み地元グルメをこよなく愛する訳あり女子高生・茨木真紀。人間なのに日々あやかし関連の厄介ごとに首を突っ込み、前世で夫だった天酒馨たちを振り回すほのぼのあやかしラブコメディ。前世が茨木童子だった真紀と前世で夫の酒天童子だった馨。生まれ変わって幸運にもまた巡り会えた二人が繰り出す以心伝心の夫婦漫才と、巻き込まれるあやかし絡みの騒動で構成されるストーリーで、姐さん気質の心優しい真紀と何だかんだ言いながら彼女のために奔走する馨が安心安定の夫婦っぷりでした(まだ夫婦じゃないけどw)続刊期待の新シリーズですね。

 複雑な家庭事情のために孤独な生活を送る女子大生・千歳。彼女が二十歳の誕生日に神社の鳥居を越え「千国」という異界に迷い込み、仙人薬師・零に拾われ彼の弟子として働くことになる物語。日本人が初代国王となって建国したどこか日本に似たところがある国「千国」。優しい人たちにも恵まれて新天地で生きてゆくことを決心した千歳が、王国の後継者争いに巻き込まれながらも自分らしさを取り戻し見出してゆく物語は、いかにも著者さんらしい美味しいご飯描写もあったりで、既存作とうまく差別化してシリーズ化してもらえたら嬉しいなと思いました。

 古都にある玉繭神社の分社で布を織りつつ、大学の非常勤講師として機織りを教える絹子。そんな彼女が教え子たちとの交流から事件に巻き込まれゆく謎解き噺。田舎の辺鄙な村から出てきて社務所を管理する大家や美味しい料理を作ってくれるクロやシロと住んでいる、特殊体質でやたらと食いしん坊な絹子。彼女の周囲で連鎖的に発生するホラーめいた事件や、徐々に明らかになってゆく田舎での彼女の過去には強いインパクトがあって、複雑な因縁を背景に抱えている大家と絹子の関係も今後が気になるところですね。続編あるようならまた読んでみたいです。

天使は奇跡を希う (文春文庫)
 

 今治の高校に通う良史のクラスに転校してきた本物の天使・優花。彼女の正体を知った良史が再び天国に帰れるよう協力することになり、幼馴染の成美と健吾も加わって絆を深めていく物語。一緒に行動してゆく過程で天使に良史が惹かれてゆくお話なのかと思いながら読んでいましたが、中盤で物語が反転したことで明らかになっていく一つの嘘と、知られざる悲壮な決意が秘められたもう一つのストーリー。再び辿ってゆく行動の一つ一つが持っていた意味に切なくなりましたが、それを最後の最後で悲劇で終わらせなかった仲間の絆には救われる思いでした。

 人知れず秘密を抱える成績優秀で家族思いの高校生・瑛人。密かに埋めていたくまのぬいぐるみを掘り出しにいった瑛人が、土の中に埋まった謎の女性を発見する物語。彼が拾ってきたアイスをあっさり受け入れてゆく家族にも驚きましたが、どこか歪んでいる状況がそのままであるはずもなくて、二転三転して何もかも一度はぶち壊されてゆく、勢いある怒涛の展開には著者さんらしさがありました。悩めるアイスもようやく吹っ切れて、瑛人も自分がどうしたかったのか気づけて良かったですけど、一人で拗らせてしまうとどうしていいか分からなくなりますね。

路地裏のほたる食堂 (講談社タイガ)

路地裏のほたる食堂 (講談社タイガ)

 

 各地を訪れる風変わりな屋台料理店「ほたる食堂」。子供原則無料の条件は「誰も知らない自身の秘密を教えること」で店主を相手に語られる物語。今回は地元でとりあえず教育実習に参加することになった亘と同じく教育実習生の幼馴染・結衣が遭遇した「猫缶事件」。亘や結衣が抱える過去やいわくありげな美形の炊飯器王子たちも絡めた事件は、導入部がやや分かりづらかったものの、過去と現在をうまく対比させつつ、抱えていたそのわだかまりを解消して乗り越える物語として面白かったです。もしシリーズ化されるようなまた続巻を読んでみたいですね。

青い月の夜、もう一度彼女に恋をする (双葉文庫)

青い月の夜、もう一度彼女に恋をする (双葉文庫)

 

 ひとつきに二度、満月が見られるブルームーンの8月。17歳の圭一が京都嵐山にある祖母の家に帰省して、満月の夜に森の中で傘で泉の水をすくう少女・沙紀と出会う物語。印象的な出会いを果たしてから、夜に泉の近くで一緒に過ごすうちに自分の想いを自覚する圭一と、その泉でとある人を待ち続けていた沙紀。全体としてはあっさりとしていて読みやすかったですが、楽しい時間を積み重ねる二人の複雑な想いと、ところどころで圭一が感じた違和感が意外な形で繋がって、少しばかり遠回りしたもののすれ違いの悲しい結末で終わらなくてホッとしました。

小説 この世界の片隅に (双葉文庫)

小説 この世界の片隅に (双葉文庫)

 

 広島の江波で生まれ昭和19年、18歳で呉に嫁いだ絵が得意な少女・すず。戦時下の広島・呉を生きるすずの日常と軌跡を描く数々の漫画賞を受賞した原作コミック、待望の劇場アニメ化のノベライズ版。彼女を見初めた夫となる周作に請われて、終戦直前の空襲が日常茶飯事であった呉に嫁いできたすず。娘を連れて義姉が出戻ってきたり、周作の気になる過去があったり、いくつもの辛い出来事に見舞われたりで、すずもいろいろ大変だったろうなあとも感じましたけど、それでも終戦を迎えて前も向いて生きようとするすずたちを応援したくなる物語でした。

ボクの妻と結婚してください。 (講談社文庫)

ボクの妻と結婚してください。 (講談社文庫)

 

 ガンで余命6ヵ月を宣告された放送作家の三村修治。20年間夢中でバラエティ番組を作ってきた彼が、残される妻と息子にもずっと笑顔でいてほしいと思い、妻に最高の結婚相手を遺そうと奔走する物語。最初は余命幾ばくもない状況でのその選択にあまり共感できなったですけれど、夫や父としては役目を果たしていないように思えた修治が、彼なりのやり方で妻や息子ときちんと絆を築いていて、妻や息子もそれにきちんと応える泣き笑いのドッキリ劇は優しい気持ちに溢れていて、これを映画で見たらきっと泣いてしまうだろうなと思えるものがありました。

 

木もれ日を縫う

木もれ日を縫う

 

 田舎の生活を厭い東京に出てきてから故郷とは疎遠だったOLの小峰紬。そんな彼女の前に突然一年半前に失踪していた母親を名乗る女性が現れ戸惑いを覚える物語。顔も似ていて過去も知っているのにどうしても母とは思えない紬。母を連れてきた民俗学者柳川や疎遠だった二人の姉たちとのやりとりが地方出身者にはザクザク刺さる内容でしたが(苦笑)、深い思いを抱えつつも山姥になったと語る母の働きかけによって、三姉妹が過去のわだかまりや今の困難な状況を乗り越えて前に進むきっかけを得てゆく、感じるところの多かった優しく切ない物語でした。

あなたのいない記憶

あなたのいない記憶

 

 絵画教室をやめて以来、大学で約十年ぶりに再会した優希と淳之介。旧交を温める二人が講師の息子だった「タケシ」という人物について、それぞれ記憶が書き換わっていることに気づくミステリ。タケシを絵本に登場する架空の人物だと思っていた優希と、有名スポーツ選手だと勘違いしていた淳之介。虚偽記憶の謎を解明するためにタケシのことを二人が調査する過程で明らかになってゆくその真相は、大切な人には幸せになって欲しいと強く願う優しさから生まれたもので、辛くて切ない決断をあえて貫き通そうとするその決意には強く心を揺さぶられました。

こちら文学少女になります

こちら文学少女になります

 

 文芸担当を希望する入社一年目のマンガを読まないザ・文学少女山田友梨が配属されたのはなんと青年漫画誌。そんな彼女の言動が次々と大きな騒動を呼び起こすお仕事小説。大物作家を激怒させて長寿連載がまさかの終了、童貞が主人公のエッチ漫画の人気は急降下、雑誌を牽引する大ヒット作の作家とはなかなか会えない状況。山田も最初は口ばかり達者で杓子定規な上に、少しばかり配慮が足りない面もありましたが、見方を変えればこれまで分からなかった様々な事情も見えてきたりで、悪戦苦闘しながら乗り越えて成長してゆく姿はなかなか良かったです。