読書する日々と備忘録

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2019年上半期注目のオススメ新作一般文庫20選

2019年上半期注目のオススメ新作企画、「ラノベファンタジー」「ライトノベル恋愛・青春小説」に続く第三弾ということで「一般文庫」レーベル編です。ラノベの新刊以外は後追いがもはや常態化していて、ライト文芸レーベルや単行本もどこまで入れるのかという状況になりつつありますが、現在の積読の状況を鑑みてとりあえず一般文庫レーベルのおすすめ作品を先にリリースします。

 

一般文庫レーベルもライト文芸レーベルとの境界線が曖昧になってきていて久しいですが、刊行点数に比例して読みたい本も増えていく中、気になる本はできるだけカバーしたいと思っていますが、なかなかそれを全ては難しいですね(苦笑)取捨選択やりくりしながら読んだ本の中から今回20作品をセレクトしています。

 

1.わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

わたし、定時で帰ります。 (新潮文庫)

 

 苦い過去の経験から定時で帰ることをモットーにウェブ会社で働く東山結衣。ブラック上司に曲者揃いの同僚相手に定時で帰る?仕事する気あるの?という空気の中奮闘するお仕事小説。働き方も婚約者もやや極端から極端に走りがちな感もあった結衣でしたが、無理を精神論で通そうとする天敵の勘違い上司や、同僚や取引先に振り回され続ける展開には共感めいたものを覚えてしまいますね(苦笑)それでも何とかしてみせた結衣の奮闘っぷりは流石で、婚約者は正直どっちもどっちだけれど、とりあえず巧は止めておいて正解だった気がしました(苦笑)
2.明るい夜に出かけて (新潮文庫)

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

明るい夜に出かけて (新潮文庫)

 

あるトラブルがきっかけで大学を休学し、実家を離れて期間限定の自立を始めた富山。人に言えない葛藤や臆病な自分に自信喪失気味だった彼が、バイトするコンビニで印象的な人たちと出会う青春小説。バイトリーダーの鹿沢や同級生の氷川、同じラジオ番組のヘビーリスナーの女子高生・佐古田たちと出会い、繋がっていくことで少しずつ変わってゆくその心境。誰しも不器用な一面があって、上手くいくことばかりでもなくて、けれどそんな彼らとの関わりから生まれる様々な出来事が、前へ進むきっかけに繋がってゆく展開にはぐっと来るものがありました。
3.農ガール、農ライフ (祥伝社文庫)

農ガール、農ライフ (祥伝社文庫)

農ガール、農ライフ (祥伝社文庫)

 

派遣切りに遭い、同棲相手からも突然別れを告げられ失意のどん底の水沢久美子、三十二歳の春。TV番組の「農業女子特集」を見て運命を感じ、一念発起田舎に引っ越し農業大学へ入学することを決意する物語。頼れる実家もない状況で同棲相手と別れると、こんな不安定な境遇になってしまうのかと痛感させられる展開でしたが、やはり地縁のないところで女ひとり就農するのも言うほど簡単ではないですよね…。知り合った友人たちのしたたかな行動力が印象的でしたけど、周囲の助けもあって久美子にもどうにか希望が見えてくる展開に救われる思いでした。
4.小説王 (小学館文庫)

小説王 (小学館文庫)

小説王 (小学館文庫)

 

華々しいデビューを飾ったものの鳴かず飛ばずの作家・豊隆と、彼の作品がきっかけで文芸編集者になった俊太郎。経営状態から俊太郎の所属する文芸誌存続が危ぶまれる状況で、あえて勝負に出る二人の物語。「いつか一緒に仕事を」と思いながらも、具体化しないまま迎えてしまった苦境。出版業界の苦境を生々しく描く一方で、それでもどうにかできないか諦めずに活路を見出そうとし、それぞれの立場から何度もぶつかり合い、もがき苦しみながらも目をそらさずに真っ向から向き合って、いい作品を作り上げていく熱い思いは心に響くものがありました。
5.虹を待つ彼女 (角川文庫)

虹を待つ彼女 (角川文庫)

虹を待つ彼女 (角川文庫)

 

優秀で予想できてしまう限界に虚しさを覚えていた研究者・工藤が、死者を人工知能化するプロジェクトに参加して、衝撃的な自殺でカルト的な人気のゲームクリエイター・水科晴を知る物語。過去の事件や水科晴のことを調べてゆくうちに、彼女に共鳴し惹かれてゆく工藤。重要なキーパーソン「雨」の存在と調査中止を警告する謎の脅迫。我が身が危険に晒されながらも諦めず、晴を人工知能で再現することに妄執する工藤の姿には鬼気迫るものがありましたが、真相を知った彼のほろ苦くも粋な決断は少なからず心に響くものがありました。
6.高校事変 (角川文庫)

高校事変 (角川文庫)

高校事変 (角川文庫)

 

平成最大のテロ事件を起こし死刑になった男の次女・優莉結衣。彼女が転入した武蔵小杉高校を総理大臣が極秘訪問することになり、学校が突如武装勢力に占拠に巻き込まれてしまうエンタメ小説。こういう状況に遭遇するのは偶然でも、なにかあるたびにその関与を疑われてしまう境遇というのはなかなか厳しい…とはいえ武装勢力を相手に先生や他の生徒たちがパニックに陥る中、冷静に状況を見極めて判断し活路を見出してゆく結衣の行動力は際立っていました。そんな結衣がこれからも普通の女子高生でいられるのか、続巻が気になるところではあります。
7.ただいま、ふたりの宝石箱 (角川文庫)

ただいま、ふたりの宝石箱 (角川文庫)

ただいま、ふたりの宝石箱 (角川文庫)

 

仮面を被った仕事ぶりに限界が来て退職し、譲り受けた古民家で趣味のアクセサリーづくりをして暮らす涼子。そんな家に店子として宝飾職人「希美」さん住むことになるあたたかな再生の物語。趣味も合い配慮が行き届いていて、欲しい時に欲しい言葉をくれる希美に惹かれていく涼子。一方で未だに引きずる複雑な過去の想いや、容易に解けない呪いから素直に心を開けない状況にもどかしくもなりましたが、そんな彼女を尊重しつつ粘り強く向き合って、様々な過去のわだかまりを解きほぐすのを手伝ってくれた彼に出会えてほんとに良かったなと思えました。
8.ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲 (角川文庫)

ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲 (角川文庫)

ネガレアリテの悪魔 贋者たちの輪舞曲 (角川文庫)

 

19世紀末、ロンドンの画廊で展示されたルーベンス未発表の真作。その絵に目を奪われたエディスが「贋作」と断言する美貌の青年・サミュエルと運命の出会いを果たすファンタジー。訳ありな貴族の娘・エディスと、絵より現れた異形の怪物から彼女を救ったサミュエル。ジョン・ラスキンヴィクトリア女王など実在の人物も絡めつつ、サミュエルと宿敵・ブラウンの贋作に宿る怪物を巡る戦いを描く展開でしたけど、虚構も織り交ぜながら展開されるストーリーはなかなか面白かったですね。未だ謎多きサミュエルとエディスの物語をまた読んでみたいです。
8.黄昏出張所 歴史修復官は時を駆ける (角川文庫)

黄昏出張所 歴史修復官は時を駆ける (角川文庫)

黄昏出張所 歴史修復官は時を駆ける (角川文庫)

 

ある日の黄昏時。不遇の青年・遠野ハジメの目の前に、時の蟲から歴史を守る蟲番だと名乗る眼鏡をかけた不思議な男が現れ、一攫千金を夢見てハジメが奮闘するダークファンタジー。主君に逆らい切腹待ちの武士、男と心中を遂げる予定の遊女、関東大震災での父の死の回避。蟲によって意識を喰われた歴史上の人物の行動を修復してゆく中で、葛藤しながらも自分のことより周りの大切な人たちのために奔走してしまうのがハジメで、小さな幸せを掴みかけていた彼の願った報酬はとてもらしくて切なくもなりましたけど、そんな物語の結末がまた印象的でした。
9.猟犬の國 (角川文庫)

猟犬の國 (角川文庫)

猟犬の國 (角川文庫)

 

便宜上「イトウ家」と呼ばれる日本の誇る情報機関。日本人でもないのに不本意ながら猟犬になった男が、情報と軽武装を頼りに、国内外の邪魔者を排除するスパイ小説。あの「イトウさん」は組織名だったの?とか思わなくもなかったですが、スパイとしての大阪での日常を過ごす偽日系人の経歴を持つ男が、警察庁から出向してきた新人・幸恵に情け容赦のない環境を「アウトロー!」とか散々に罵られながら、コンビを組んでスパイとして新人教育していくゆるい展開がなかなか面白かったです。現在2巻まで刊行。
10.ヘタレな僕はノーと言えない (幻冬舎文庫)

ヘタレな僕はノーと言えない (幻冬舎文庫)

ヘタレな僕はノーと言えない (幻冬舎文庫)

 

前任者の指示で県内に住む凄腕の女職人・彬のもとへ向かった県庁職員・浩己。納品する代わりにあらゆる雑用を命じられ、いじられるのに彼女が気になってゆく年上美女×年下ヘタレの不器用な恋と仕事の物語。真面目で融通が効かず垢抜けない浩己と、彼をいじることが楽しそうな彬の面倒くさい距離感が絶妙で、強烈なインパクトがあった浩己の忘れられない過去や、彬にもいろいろ複雑そうな事情もあったりで、読んでいる方がもどかしくなる展開でしたけど、だからこそ遠回りしながらもいろいろなものが繋がった結末がかけがえのないものに思えました。
11.言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

 

全土は砂漠化し、人々は神である「言鯨」の遺骸周辺に鯨骨街を造って暮らす世界。街々を渡る骨摘みとして働く旗魚は、旅の途中で裏の運び屋・鯱と憧れの歴史学者浅蜊に出会い物語が動き出すファンタジー。内密に十五番鯨骨街へ奇病の調査に行った浅蜊が引き起こした言鯨の覚醒と仲間の消失。もたらされた旗魚の劇的な変化と、鯱や蟲使いの珊瑚との逃亡劇、そして言鯨と世界の核心に迫ってゆく展開で、明らかになってゆくこの世界の哀しい真実と登場人物たちそれぞれの熱い想い、そしてそれらに向き合ってゆく旗魚の姿がとても印象的な物語でした。
12.本屋のワラシさま (ハヤカワ文庫JA)

本屋のワラシさま (ハヤカワ文庫JA)

本屋のワラシさま (ハヤカワ文庫JA)

 

過去のある事件がきっかけで本が読めなくなってしまった元書店員の啓。入院した伯父の代わりに書店で働くことになった彼が、店内で動き出す座敷童子人形に遭遇するマチナカ書店物語。突然動き出して書店繁盛の教育的指導を繰り返すワラシに振り回されたり、お花屋ののばらさんが気になりながら、伯父を慕って訪れるお客さんの本を巡る悩みをワラシと一緒に解き明かしてゆく展開で、不器用なりに取り組むその積み重ねが頑なだった啓の心境を少しずつ変えていって、苦い過去にも向き合って新たな一歩へと繋がってゆくとても優しくて素敵な物語でした。
13.機械式時計王子の休日 (ハルキ文庫)

機械式時計王子の休日 千駄木お忍びライフ (ハルキ文庫)

機械式時計王子の休日 千駄木お忍びライフ (ハルキ文庫)

 

千駄木すずらん通りで四代続くトトキ時計店。三つ子を抱える妹・桜子を手伝う母に代わり店番をすることになった十刻藤子が、スイスから来た兄弟と出会う下町ミステリ。亡き父との苦い思い出に囚われて前に進めないでいた藤子と、上の階に入居した訳ありのジャンとアキオ。時計バカな二人と屋上の時計塔を二十年ぶりに動かそうと試みたり、身の回りの出来事を時計を絡めて解決したり、気のいい彼らとのやりとりを積み重ねてゆくことで、少しずつその過去も解きほぐされ変わっていった彼女のリスタートと彼らとのほどよい距離感がとても好みでした。
14.人生写真館の奇跡 (宝島社文庫)

人生写真館の奇跡 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

人生写真館の奇跡 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

天国までの道の途中に佇む人生写真館。人生を振り返りながら、自分が生きた年数だけの写真を選び、自らの手で走馬燈を作る死者たちとその儀式を手伝う青年・平坂の奇跡の物語。九十二歳の老婆が選んだバスの写真、四十七歳のヤクザが選んだクリスマス・イブの写真、そして七歳の子どもと笑顔を浮かべる青年の写真。平坂と寄り添うように振り返ってゆく人生と、今までで最も印象的な場面を撮り直す思い出の写真にはぐっと来るものがあって、抗えぬはずの運命に立ち向かった平坂がいて、それらが全て繋がってゆくエピローグがとても素敵な物語でした。
15.菜の花工房の書籍修復家 (宝島社文庫)

菜の花工房の書籍修復家 大切な本と想い出、修復します (宝島社文庫)

菜の花工房の書籍修復家 大切な本と想い出、修復します (宝島社文庫)

 

進路に悩む高校3年生・三峰菜月は、子供の頃に自分の大切な絵本を直してくれた書籍修復家・豊崎俊彦と再会。一念発起弟子入りを目指し奮闘するお仕事小説。親に言われるままに大学進学でいいのか疑問に思っていた菜月の運命の出会い。彼女の修行を通じて描かれる和書の修復がどのように行われるのか、その描写や解説はなかなか興味深かったですが、食べていくのが難しい仕事だからこそ、書籍修復の仕事にどう真摯に向き合うのかをしっかり考えるのは大切なことですよね。周囲の人に支えられながら成長してゆく菜月の今後を応援したくなりました。
16.叡智の図書館と十の謎 (中公文庫)

叡智の図書館と十の謎 (中公文庫)

叡智の図書館と十の謎 (中公文庫)

 

時間にも空間にも支配されない無限に等しい書架を持つ「叡智の図書館」を探す旅人と、そこを守り訪れた相手に対して謎掛けをする守人の物語。謎の魔法の石板が旅人に提示する十の物語。女王の恋人と女戦士の物語や、貿易商人の使用人を刺した無実の罪に問われた少年といった中世風の話もあれば、映画スターとなった女優の波乱万丈の人生と故郷の物語、日本の吉備家の長年に渡る妖狐との戦いの顛末といったテーマや舞台も多岐に渡っていて、そんな物語の謎からもたらされた回答が、旅人の正体や結末へと繋がってゆくラストはなかなか良かったですね。
17.ダーティキャッツ・イン・ザ・シティ (中公文庫)

大都市の夜にコミュニティーを形成し人に紛れている吸血鬼たち。怠惰な吸血鬼・十二が久しぶりに目覚めると、池袋のまとめ役・白猫が失踪しており、関係者の少女・遠夜が十二の下に転がり込でくる物語。白猫不在の状況で秩序の一角が失われ、六本木の三長老や新宿の女王などもその動静を探る中、遠夜を巡る抗争の激化に巻き込まれてゆく十二。ハードボイルドでアウトローな雰囲気のある世界観は著者さんらしくて、個性的なキャラたちもなかなか印象的でしたが、真相は明らかになったものの結末はやや消化不良な感も…続巻あるなら読んでみたいです。
18.僕と君の365日 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ゆ]1-1)僕と君の365日 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ゆ]1-1)僕と君の365日 (ポプラ文庫ピュアフル)

 

色彩が失われて1年で死に至る無彩病だと知らされ、自暴自棄になりかけた高校生・新藤蒼也。そんな彼が進学クラスから自ら希望して落ちてきた美少女・立波緋奈と契約のような365日間の恋を始める物語。周囲に知らせず最後まで普通の日常を送りたいと願う蒼也と、その秘密を唯一知る緋奈の少しずつ変わってゆく関係と、幼馴染たちを絡めたかけがえのない日々。大切な存在だと思うようになればなるほど、失う辛さを感じさせて切なかったですが、最後まで精一杯向き合い続けた二人の想いと、エピローグで明らかになるもう一つの真実が印象的でした。
19.ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

([あ]8-2)ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

([あ]8-2)ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

 

就職先が決まらないまま大学を卒業してしまった羽山健太が、「よろず美術探偵」という風変わりな看板を掲げた店と店主・南雲に出会い働き始めるミステリ。健太は就活上手くいかないのも仕方ないと思うような空気読めない/活字読めないタイプで、そんな彼に美術館に勤める貴和子さんの絵を探す依頼を店主が丸投げした時にはびっくりしましたが、最初やらかしまくっていた健太にもそうなるだけの理由があったんですね…彼の成長とシリアスになってゆく展開の中で話をうまくまとめ上げていくところは流石で、読み応えがある話に仕上がっていました。 
20.さとり世代の魔法使い (双葉文庫)

さとり世代の魔法使い (双葉文庫)

さとり世代の魔法使い (双葉文庫)

 

魔女が隔世で生まれる家系の女子大生・北条雫、19歳。さとり世代のすっかり醒めた平成最後の魔女の前に、10年前いなくなった幼馴染の爽太が現れる物語。魔女だったおばあちゃんを巡る悔恨と姿を消していた爽太。再会した彼と一緒に果たしていく、好きな人に告白したい同級生の手伝い、素直になれない女の子と家族の仲直り、そして未来からやってきた孫娘との邂逅。素直になれないけれど雫は人のために頑張ろうとするいい子で、その過程でかけがえのないものを得ていった先の結末は切なくもありましたけど、未来に繋がるとても素敵な物語でした。

 

以上です。気になる本があったら是非手にとって読んでみて下さい。 「ライト文芸編」「単行本編」もそう遠くないうちに更新できるよう、もう少し積読の消化を頑張りたいと思います(苦笑)