読書する日々と備忘録

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作家の新たな魅力を引き出す講談社タイガ33選

 オレンジ文庫角川文庫宝島社文庫に続くレーベル企画第四弾として、今回は講談社タイガを紹介したいと思います。2015年にレーベルとして創刊して以来、2019年2月までに149点を刊行していますが、自分の読んだ本を数えてみたらそのうち73タイトル読んでいました。刊行点数の半分に届いていないですが、メジャーな作家さんは何となくスルーしてしまう方なのでそれもあるんだと思います(苦笑)

 

講談社タイガの特徴は他のレーベルとはまた一味違った著者さんの新たな魅力を引き出していることですね。レーベルとして意識しているのだろうとは思いますが、知っている作家さんでも読んでみると意外な一面を発見できるかもしれません。自分は青春小説や怪奇譚的な作品を中心に読んでいますが、今回33点を紹介しています。ちょっと多いな...とも思いましたが、それだけ印象的な作品が多いレーベルです。気になる本があったら是非手にとって読んでみて下さい。

 

1.小説の神様

小説の神様 (講談社タイガ)

小説の神様 (講談社タイガ)

 

 作家としてデビューするも酷評されて書く自信を失っていた高校生・一也が人気作家の転校生・小余綾詩凪と出会い、彼女との小説合作を提案される青春小説。重い病気の妹のためにと思いながら、厳しい評価にネガティブになりがちな一也と、小説の力を信じていて彼に辛辣な詩凪。書く楽しさを思い出してゆく一也に突きつけられた残酷な現実はとても苦しかったですが、そんな彼が完璧に見えていた詩凪の苦しみに気づき、再び向きあおうと決意する姿は応援したくなります。作品を書くことに対するとても繊細で、強い想いを感じられる素晴らしい作品です。現在三巻まで刊行。

2.世界で一番かわいそうな私たち

世界で一番かわいそうな私たち 第一幕 (講談社タイガ)

世界で一番かわいそうな私たち 第一幕 (講談社タイガ)

 

戦後最大の未解決事件「瀬戸内バスジャック事件」に巻き込まれたあの夏から声を失った三好詠葉。舞原杏が教壇に立つフリースクールで学ぶ彼女が教師・佐伯道成と出会う物語。事件に振り回され、居場所と声を失ってしまった詠葉が巡り合った一冊の小説とフリースクール。そこで教師として働くことになった佐伯。不器用で不確かな詠葉の想いと、生徒と真摯に向き合って何とかしようと奔走する佐伯。正解なんてない生徒と向き合うことの難しさを痛感する展開でしたけど、最後の急展開からどんな物語が紡がれてゆくのか、続巻に期待の新シリーズですね。3月に2巻目が刊行。

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3.君と時計と嘘の塔

君と時計と嘘の塔 第一幕 (講談社タイガ)

君と時計と嘘の塔 第一幕 (講談社タイガ)

 

幼いころに自分のつまらない意地で孤独に追いやった幼馴染・芹愛をいつまでも忘れられない綜士が、唯一の親友の消失した理由を探すうちに、自分が芹愛の死をきっかけにタイムリープしていたことに気づく物語。高校に留年し続ける千歳、自らも同様のタイムリープを繰り返していた雛美と共に芹愛を救うべく行動する展開は、改めて芹愛と自分の現在地を直視させるものでもあって、それぞれの思惑も絡む状況の中で遭遇したショッキングな結末と、突きつけられたもう取り戻せない厳しい現実があって、それにどう向き合うかが問われてゆくシリーズです。全四巻。

4.ミウ -skeleton in the closet-

ミウ -skeleton in the closet- (講談社タイガ)

ミウ -skeleton in the closet- (講談社タイガ)

 

就職を前にした何も変わらない灰色の日々。実家に戻り中学時代の卒業文集を開いた池境千弦が気になる作文を発見し、元同級生のその後を追い始めた数日後、接触してきた別の元同級生が謎の死を遂げるミステリ。元同級生・田中美奈子の自殺の真相を探るうちに起きた転落死事件と、縁が繋がって再会したかつての同級生で作家のミユ。千弦だけが分かるように発信されていたミユからのメッセージ。新米編集者と作家による探偵役コンビが真相に迫るたびに意味合いが変わる構図の変化は鮮烈で、秘密を積み重ねてゆく二人が迎えた結末はとても印象的でした。

5.雨の日も神様と相撲を

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

雨の日も神様と相撲を (講談社タイガ)

 

子供の頃から相撲漬けの生活を送ってきた文季が、両親の交通事故死で引き取られた先は相撲好きのカエルの神様が崇められている村で、知恵と知識を見込まれ外来種との相撲勝負を手助けすることになる物語。村を治める一族の娘・真夏と出会い、思いとは裏腹に相撲や村の事情にがっつり関わってゆく文季の洞察力や覚悟には年相応に思えないものもありましたけど、一方でそんな彼の自分に向けられる評価や想いには鈍感だったりするギャップや、相撲勝負にも意外な背景があったことに納得したりで、爽やかな読後感を堪能できる素晴らしい青春小説でした。

6.カタナなでしこ

カタナなでしこ (講談社タイガ)

カタナなでしこ (講談社タイガ)

 

女子高生の千鶴が駆りだされた祖父の形見分けの蔵整理で、夢に見た一振りの刀身だけの日本刀と出会い、同級生たちと無くなった「刀の拵え」作りに挑戦する物語。4人の女子高生がそれぞれクオーターな外見で日本人であることだったり、しっくりしない家族関係や将来のこと、地味であることなどの悩みを抱えながらも、挑戦を通じて様々な人と出会ったり経験を重ねて、これまで気づいていなかったことに気づいたり、自分らしさを見出したり、複雑な想いを乗り越えて試行錯誤する姿はとても心に響きました。読みやすく読後感も爽やかな青春小説でした。

7.ことのはロジック

ことのはロジック (講談社タイガ)

ことのはロジック (講談社タイガ)

 

書くべき言葉を見失った元天才書道少年の墨森肇。金髪碧眼の転校生・アキに一目惚れした彼が、彼女とともに校内で発生する言葉にまつわる事件を解決してゆくミステリ。好奇心旺盛なアキや仲間たちと一緒に挑む回し手紙の伝言ゲーム、存在しない幽霊文字、同人誌の不可解な改変、そしてアキに対する違和感。探し続ける「月が綺麗ですね」を超える告白の言葉。彼らの心境の変化に繋がってゆくひとつひとつのエピソードがまた絶妙で、明らかになった真実にしっかりと向き合い、想いを込めた回答を提示してみせた結末にはぐっと来るものがありました。

8.やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女

やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女 (講談社タイガ)

やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女 (講談社タイガ)

 

危篤に陥ったおじいちゃんが肌身離さず持っていた写真の謎。雨女の五雨がその謎を解くために、雨の日にだけ登校する不思議な雨月先輩に相談を持ちかける雨の物語。おじいちゃんの写真や七夕の催涙雨といった雨に関する謎を、どこか複雑な気持ちで雨月先輩の下に持ち込む五雨。雨に関する無駄に詳しい知識を活かして優しい解決に導いてゆく雨月先輩の謎は深まるばかりで、五雨がその謎を追うことでたどり着いた真相は切なくもありましたが、それでも相変わらずなように見えて何かが変わったようにも思える二人の今後をまた読んでみたいと思いました。

9.今夜、君に殺されたとしても

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

 

連続殺人の現場には謎の紐と鏡。逃亡中の容疑者は橘終の双子の妹・乙黒アザミ。大切な彼女を密かに匿いつつ、常識では測れない彼女の想いを理解するため、他の異常犯罪を調べ始めるミステリ。近くで立て続けに起こる連続殺人・吸血事件・児童誘拐といった異常犯罪に巻き込まれてゆく終と、信じたいと思いながらも拭えないアザミへの疑惑。ホラーテイストのぞわりと来るような雰囲気の物語で、「向こう側」の人たちを引き寄せずにはいられない二人を取り巻く特異性と、最初は対極に思えた終とアザミに共通するどこか歪んだ愛情がとても印象的でした。現在二巻まで刊行。

10.終わらない夏のハローグッバイ

終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)

終わらない夏のハローグッバイ (講談社タイガ)

 

あらゆる感覚を五感に再現する端末・サードアイを手に入れたことで装いを変えた世界。そのきっかけとなりながらも二年前から眠り続ける幼馴染・結日を救うため、日々原周が仲間とともに立ち上がるひと夏の物語。サードアイの開発者で鍵を握る結日の姉・沙月の存在と、計画に手を貸す同級生・先崎との邂逅。打開する方法を模索するうちに見出したひとつの真相。立ち位置が変わっても何かを引き起こす彼女と、そんな彼女のために奔走する周という二人の関係は変わらなくて、可能性を信じて諦めず何度でもチャレンジし続ける周を応援したくなりました。

11.七日目は夏への扉

七日目は夏への扉 (講談社タイガ)

七日目は夏への扉 (講談社タイガ)

 

妙にリアルな死亡事故現場を夢だと思っていた朱音の元にもたらされた、学生時代の恋人・森野の訃報。その死の真相を探るうちに一週間の時系列がどんどん崩れてゆく物語。朱音が何かに直面するたび意識が途切れ、気づくと曜日が前後する一週間。欠けたピースが次第に埋まってゆく展開で突きつけられる理不尽な呪い。一見サバサバしている朱音は、一方で大切な人たちのためならいくらでも頑張れる人で、繰り返さないために強引に運命を変えてしまうパワーには苦笑い。それで全てが解決するわけではないですが、生きているって大事なことなんですよね。

12.そして僕らはいなくなる

そして僕らはいなくなる (講談社タイガ)

そして僕らはいなくなる (講談社タイガ)

 

優等生の「着ぐるみ」をかぶって生活する高校生・宗也。帰宅の遅い幼馴染を捜しに出かけ事故に遭った宗也は断片的な幻覚に襲われるようになり、クラスで孤立する志緒と謎を追う青春ミステリ。不可思議な幻覚を共有した志緒と関わり、事件の真相を追ううちに少しずつ変わってゆく宗也の日常や心境。誰もが複雑な思いを抱える登場人物たちの心理描写は繊細で、幻覚を頼りに迫った事件の意外な真相は明示されないまま推測するに留まりましたが、それでもぐいぐい読ませる緊張感のある展開と、彼らが迎えた悪くない結末には充実した読後感がありました。

13.緋紗子さんには、9つの秘密がある

緋紗子さんには、9つの秘密がある (講談社タイガ)

緋紗子さんには、9つの秘密がある (講談社タイガ)

 

自分を出せない性格に悩む学級委員長・由宇と「誰も仲良くしないでください」と衝撃的な挨拶をした転校生・緋紗子さんの出会い。偶然、緋紗子さんの身体の重大な秘密を知ったことで二人の関係が変わってゆく青春小説。学級委員長を押し付けられ両親が離婚の危機、幼馴染への恋心も封印していた由宇。秘密を抱えるがゆえに孤高を貫いていた緋紗子さんとの不器用な交流は微笑ましくて、だからこそままならないすれ違いがもどかしくもなりましたが、二人の出会いと育んだ友情がそれぞれにもたらした確実な変化の兆しは、とても素敵なものに思えました。

 

14.先生、大事なものが盗まれました

先生、大事なものが盗まれました (講談社タイガ)

先生、大事なものが盗まれました (講談社タイガ)

 

灯台守高校に入学した雪子が、探偵高校と怪盗高校に入学した幼馴染とともに凪島のアートギャラリーに犯行後カードを残した伝説の怪盗・フェレスの調査に乗り出すミステリ。島の中にある3つの高校が影響の影響力が大きい世界観で、残された犯行カードを元に盗まれたものを探していくストーリーでしたが、盗まれたものが思いもよらないものだったりでちょっと斬新でしたね(苦笑)雪子や彼女を取り巻くキャラクターも魅力的でよく動いていましたし、雪子を陰ながらサポートしたフェレスの過去も謎のままで、その辺りは続編に期待したいところですね。

15.校舎五階の天才たち

校舎五階の天才たち (講談社タイガ)

校舎五階の天才たち (講談社タイガ)

 

 「東高三人の天才」の一人篠崎から来光福音のもとへ届いた、僕を殺した犯人を見つけてほしいという手紙。福音は同じく手紙が届いた天才の一人加藤沙耶夏と事件を調べる学園ミステリ。遺書を残し電車に飛び込み自殺をした篠崎は誰かに本当に殺されたのか。天才であるということはどういうことか。傍若無人な加藤に振り回されつつ関係者たちから明かされる篠崎像から真相も掘り下げられてゆきましたが、深い苦悩を抱えていた彼のささやかな願いが、天才に憧れていた福音に伝わったのがこの物語の救いでしたかね。デビュー作ということで今後に期待。

 

 

16.閻魔堂沙羅の推理奇譚

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

 

現世に未練を残した人間の前に現われる閻魔大王の娘・沙羅。彼女がそんな彼らに願いに応じてある持ちかける生と死を賭けた霊界推理ゲーム。登場人物たちが直面する突然の暗転と、沙羅によって提示される究極の選択。読みやすいテンポよく進む展開の中にヒントを織り交ぜつつ提示されてゆく謎解き。被害者たちに容赦のない現実を突きつけながら解決する可能性も提示して、彼らにしっかり考えさせてそれぞれのエピソードを良かったなと思える結末に導いてゆく沙羅の不思議な魅力が効いていました。現在四巻まで刊行。

17.探偵が早すぎる

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

 
探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (下) (講談社タイガ)

 

 父の死により莫大な遺産を相続した女子高生の一華。遺産を狙って親族たちが彼女を事故に見せかけ殺害しようとするのに対抗して、一華が唯一信頼する使用人の橋田がある探偵を雇う物語。遺産目当てとは言えここまで露骨に命を狙いに来る親族たちも相当アレですが、それ以上に事件が起こる前にトリックを看破して犯罪を止めて「トリック返し」までしてしまう究極の探偵とか新しいですね(苦笑)そこまでするか感もあった殺害計画の連続と、依頼人にそれと気づかれぬままそれをテンポよくそれを阻止してゆく千曲川の活躍が小気味よかったです

18.臨床真実士ユイカの論理

臨床真実士ユイカの論理 文渡家の一族 (講談社タイガ)

臨床真実士ユイカの論理 文渡家の一族 (講談社タイガ)

 

言葉の真偽・虚実を瞬時に判別できてしまう本多唯花。大学で心理学を学ぶ彼女のもとに旧家の跡取り息子、文渡英佐から依頼が持ち込まれる物語。特異な障害に起因する唯花の卓越した「嘘」を見抜く論理的鑑定とそれをサポートする晴彦。閉じられた文渡村で起こった殺人事件と文渡一族の複雑な関係。謎解きのアプローチはやや難解な感がありましたが、ストーリー自体はわりとあっさりめで、研究分野以外はあまり興味なさ気な唯花が意外な部分に反応したり、意外な方向に収束してゆく展開は面白かったです。現在二巻まで刊行。

19.おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱

おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱 (講談社タイガ)

おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱 (講談社タイガ)

 

山中にある屋敷の座敷牢で出会った少女ツナ。怖い話を聞かせることを条件に週一回会うことを許されたミミズクが十年目に転機を迎える物語。育ての親や友人にもツナのことを隠し続けてきたミミズクこと瑞樹。かつて投稿した怪談記事が縁で多津音一と出会ったことにより徐々に明かされてゆくツナを巡るからくり。丁寧で繊細なことばによって恐怖が描かれる一方で、瑞樹がきちんと向き合ったことで明らかになった真実は思わぬ奇跡にも繋がっていて、どうにか折り合いをつけて迎えたその結末は、これまでの想いが報われたとても素敵なものに思えました。

 

20.異セカイ系

異セカイ系 (講談社タイガ)

異セカイ系 (講談社タイガ)

 

小説投稿サイトでトップ10にランクインし、「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた名倉編。自分が作った世界を守るため、投稿作家たちと試行錯誤してゆく物語。小説の中の世界とあちらの世界を行き来しながら、現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探そうとする編。作中の登場人物に対する愛があって、自らの意思を表明するようになってゆく作中人物もそんな作家に対する愛が溢れていて。だんだん訳がわからなくなりながらも、みんなで幸せになろうとする展開は予定調和でしたけどなかなか面白かったです。

21.バビロン

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

バビロン 1 ―女― (講談社タイガ)

 

製薬会社と大学が関与する臨床研究不正事件を追っていた東京地検特捜部検事正崎善が、捜査資料の中にあった謎の血痕や毛髪混じりの書面を発見し、相棒の事務官文緒とともにそれを探るうちに大型選挙の裏に潜む陰謀に巻き込まれていく物語。最初は奇異な事件こそあるものの、全体としては正崎が感じた違和感をきっかけにターゲットを絞り込んでいく、わりとオーソドックなストーリーだと思っていたのですが、後半の怒涛の急展開は予想の斜め上でしたね。一人の女により大きく動かされ、二転三転してゆく物語の行方が気になりますね。現在三巻まで刊行。

22.アンデッドガール・マーダーファルス

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

 

異形が蠢く十九世紀末ヨーロッパ。怪異絡みの凄惨な事件解決のために呼ばれた怪物事件専門の探偵輪堂鴉夜と鳥籠を持つ男・真打津軽が、残された手がかりや怪物故の特性から推理を導き出すミステリ。シリアスな状況下でも変わらない、どこか道化めいた津軽と誰もが驚く見た目の鴉夜の軽妙なトークのギャップと、事件に繋がってゆく二人の因縁や怪異同士の迫力のあるバトル。ダークというだけでは言い表せないこの作品独特の世界観はとても興味深かったですね。著者さんの作風からやや意外な感もありましたが、これはこれで面白かったです。現在二巻まで刊行。

23.大正箱娘 見習い記者と謎解き姫

大正箱娘 見習い記者と謎解き姫 (講談社タイガ)

大正箱娘 見習い記者と謎解き姫 (講談社タイガ)

 

新米新聞記者の英田紺が旧家の蔵で見つかった呪いの箱を始末してほしいという依頼を受け、呪いの解明のため神楽坂の箱屋敷に住む箱娘・うららを訪れる物語。大正という世の中が少しずつ変わりつつある時代を舞台に、自らの経験もあって窮屈な生き方をせねばならない女性たちのために奮闘する紺と、自らもワケありの縛られた境遇にありながらも紺を助ける謎の多い箱娘・うららの関係や、登場した女性たちもまた矜持を持って生きる姿が印象的でした。まだうららの境遇含めて謎も多いですし、姿を変えて奮闘する紺の行く末も気になりますね。現在二巻まで刊行。

24.殺人鬼探偵の捏造美学

殺人鬼探偵の捏造美学 (講談社タイガ)

殺人鬼探偵の捏造美学 (講談社タイガ)

 

新米刑事・百合が殺人鬼マスカレードに殺されたと思われる怪死体に遭遇し、先輩刑事に捜査協力者として精神科医・氷鉋を紹介されて共に事件解決に挑む物語。妹をマスカレードに殺され家庭崩壊し復讐を誓う百合。調べれば調べるほどいくつもの顔が見えてくる謎めいた被害者・妙高麗奈、証言が食い違う父親、婚約者、恋人。二転三転する展開とそれを独特な視点から解き明かしてみせる氷鉋、そして最後に明かされた真相はこれはこれでわりと楽しめました。邂逅した宿敵とも言える二人が今後どんな結末を見せてくれるのか、続巻に期待したいと思います。

25.サイメシスの迷宮

サイメシスの迷宮 完璧な死体 (講談社タイガ)

サイメシスの迷宮 完璧な死体 (講談社タイガ)

 

警視庁特異犯罪分析班に異動した神尾文孝が、協調性ゼロだが優秀なプロファイラー羽吹允とコンビを組み、連続猟奇殺人の謎に挑む警察ミステリ。マイペースな言動で神尾を振り回す羽吹が抱える過去と、経験したもの全てを忘れることができない超記憶症候群。銀色の繭に包まれた美しいともいえる異常な死体を残す連続殺人事件。その記憶を活かして事件に繋がる鍵を探す過程で、噛み合わなかった二人が徐々にコンビになってゆくのがいい感じで、まだまだ終わらないことを予感させる結末に続巻をまた読みたくなりました。現在二巻まで刊行。

26.ジンカン 宮内庁神祇鑑定人・九鬼隗一郎

ジンカン 宮内庁神祇鑑定人・九鬼隗一郎 (講談社タイガ)

ジンカン 宮内庁神祇鑑定人・九鬼隗一郎 (講談社タイガ)

 

就職活動に失敗した夏芽勇作が出会った呪いを招く特殊文化財を専門とする、神祇鑑定人・九鬼隗一郎。相棒となった二人が奇怪な謎を解いてゆく物語。魔術に傾倒した詩人・イェイツの日本刀、キプロスの死の女神像、豊臣秀吉が愛した月の小面。多くを語らない謎めいた九鬼によって明かされてゆく勇作が隠していた秘密と、勇作の力を上手く使って問題を解決してゆく九鬼。魔術や曰くある骨董品を絡めたオカルティックな内容で、登場人物たちもまたミステリアスで存在感がありましたし、彼らの関係がどう変わってゆくのか、続巻に期待のシリーズですね。

27.蓮見律子の推理交響楽 比翼のバルカローレ

蓮見律子の推理交響楽 比翼のバルカローレ (講談社タイガ)

蓮見律子の推理交響楽 比翼のバルカローレ (講談社タイガ)

 

大学を留年しネット小銭を稼ぐ生活を送る葉山理久央が、新曲の作詞を依頼してきた破天荒な天才作曲家・蓮見律子と出会い、いろいろと巻き込まれてゆく音楽ミステリ。気まぐれな律子に振り回される葉山が大学の授業で出会った美沙、そして弟で若き音楽家本城湊人との邂逅。複雑な関係の姉弟との交流からの予想もしなかった急展開は物語の雰囲気をガラリと変えて、探偵役として律子が葉山と解き明かしてみせた謎と事件の真相、ほろ苦く切ないだけでは終わらない結末には著者さんらしさがよく出ていると思いました。シリーズ化を是非期待したいですね。

28.永劫回帰ステルス 九十九号室にワトスンはいるのか?

永劫回帰ステルス 九十九号室にワトスンはいるのか? (講談社タイガ)

永劫回帰ステルス 九十九号室にワトスンはいるのか? (講談社タイガ)

 

大学に入学した新入生・秋太郎が選んだサークルは、人嫌いの来見行が専有する謎の仮面応用研究会。入部を願い出るも断固拒否された秋太郎が、直後にサークル棟で墜落死体を発見する物語。お互いが深刻な事情を抱える秋太郎とコウの邂逅。やや過剰に心配症で正義感が強い秋太郎に寄り添う彼女・ハゴロモ。そして謎めいたコウの兄・ショウの存在。オカルトめいた事件に心理学や哲学を絡めたストーリー、登場人物たちのテンポのよいやりとりは久しぶりに著者らしさを楽しめました。謎を提示するショウが今後もポイントになりそうですね。続巻も期待。

 

 

29.路地裏のほたる食堂

路地裏のほたる食堂 (講談社タイガ)

路地裏のほたる食堂 (講談社タイガ)

 

 各地を訪れる風変わりな屋台料理店「ほたる食堂」。子供原則無料の条件は「誰も知らない自身の秘密を教えること」で店主を相手に語られる物語。今回は地元でとりあえず教育実習に参加することになった亘と同じく教育実習生の幼馴染・結衣が遭遇した「猫缶事件」。亘や結衣が抱える過去やいわくありげな美形の炊飯器王子たちも絡めた事件は、導入部がやや分かりづらかったものの、過去と現在をうまく対比させつつ、抱えていたそのわだかまりを解消して乗り越える物語として面白かったです。現在二巻まで刊行。

30.神様のスイッチ

神様のスイッチ (講談社タイガ)

神様のスイッチ (講談社タイガ)

 

同棲相手との未来に迷うフリーター、街を警らする女性警察官、親友の彼女に横恋慕する大学生小説家、駆け出しやくざ、八方美人の会社員。神様が押した偶然という名の奇跡のスイッチによって繋がってゆく一夜限りの物語。年齢も生い立ちも違う五人それぞれの視点から始まるストーリーで、最初は頻繁に視点が切り替わる展開に困惑しましたが、話が進んでゆくごとに明らかになってゆく登場人物たちの意外な接点があって、それらが交差するたびに起きる変化を巧みに活かしつつ、それぞれのエピソードにもたらされた結末には心地よい読後感がありました。

31.今からあなたを脅迫します

今からあなたを脅迫します (講談社タイガ)

今からあなたを脅迫します (講談社タイガ)

 

 恋人なんていたことないのに、元カレを人質に取ったから命が惜しければ身代金を払えと脅迫された大学生の澪。それをきっかけに彼女が脅迫屋の仕事に関わってゆく物語。依頼を受けて名誉回復や身の安全を守るため、あるいは犯罪や暴走を止めるために、チームで動かぬ証拠を掴んで対象人物を脅迫する脅迫屋。一見バラバラに起こっているように見えた事件はひとつの流れに繋がっていて、明らかになってゆく自身の複雑な生い立ちもあり、脅迫屋の仕事が正しいことなのか苦悩していた澪がひとつの答えを出す結末には、彼女の確かな成長が感じられました。現在四巻まで刊行。

32.毎年、記憶を失う彼女の救いかた

毎年、記憶を失う彼女の救いかた (講談社タイガ)

毎年、記憶を失う彼女の救いかた (講談社タイガ)

 

両親が事故死したショックで、毎年その日近くになると記憶が事故直後に戻ってしまう尾崎千鳥。空白の3年間を抱えた千鳥の元に小説家・天津真人が現れ、ある賭けを持ちかけられる物語。デートするたびに千鳥の心を揺さぶる真人。少しずつ確実に惹かれていくのを自覚しながらも、だからこそ彼を信じていいのか戸惑う臆病な千鳥の想い。そんな中で明らかになってゆく二人の関係、そしてそれ以上に困難にも諦めずに特別で大切な千鳥に向き合い続ける真人の決意には心打たれるものがあって、そんな二人が紡いでいく真摯な想いがとても素敵な物語でした。

33.顔の見えない僕と嘘つきな君の恋

顔の見えない僕と嘘つきな君の恋 (講談社タイガ)

顔の見えない僕と嘘つきな君の恋 (講談社タイガ)

 

事故のために人の顔を識別できなくなった夏目達也。占い師に「君は運命の女性と出会う。ただし四回」と言われ、半信半疑だった彼がたびたび運命的な恋に巡り合う物語。人には言えない特殊な体質と家族を持ち人生を諦めかけていた達也が、閉塞感のある状況で運命的な出会いを果たした鈴木和花との出会いと別れ。そこから最悪な状況から逃れるため、葉子のために懸命にあがく達也が巡り合う運命の恋は思わぬところで繋がっていて、そこからさらに踏み込んでくる展開は大切な人を想う真摯な想いに溢れていて、とても著者さんらしい作品だと思いました。

 

以上です。

また別レーベルについても企画を立てていきたいと思います。