読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

印象に残る作品が多い宝島社文庫25選

オレンジ文庫角川文庫に続くレーベル企画第三弾ということで今回は宝島社文庫を紹介します。宝島社文庫というと岡崎琢磨さんの「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズ、武田綾乃さんの「響け! ユーフォニアム」シリーズ、友井羊さんの「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」、蝉川夏哉さんの「異世界居酒屋「のぶ」」、七月隆文さんの「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」「君にさよならを言わない」などの人気作、あるいは毎年恒例のこのミス大賞シリーズなどの印象的な作品が多いですが、それ以外にも興味深い作品がたくさんあります。

 

そこで今回上記以外で自分の読んだ本の中からオススメの本を選んで紹介します。選んでみたら意外に多かったので、そこからさらに厳選して25作品をセレクトしました(厳選というには多いような気がするのはたぶん気のせい)。宝島社文庫電子書籍化をしておらず、また既刊もどれくらい入手できるのかという点で懸念もなくはないのですが、宝島社の公式サイトで大部分は買えるようです。運良く巡り会えたらぜひ手に取って読んでみてください。

 

1.君に恋をするなんて、ありえないはずだった/そして卒業

勉強合宿の夜に困っていた同級生の北岡恵麻を助けた地味で冴えない飯島靖貴。それをきっかけに密かな交流が生まれてゆく地味系眼鏡男子と人気者ギャルのすれ違いラブストーリー。入学直後の出来事で恵麻に苦手意識を持っていた靖貴と、助けてくれた靖貴が気になってゆく恵麻。学校では知らんぷりだけれど予備校帰りのわずかな時間で育まれてゆく二人の交流。少しずつ想いが積み重なってゆくのに、繊細で不器用な二人が距離を詰め切れないうちに起きる様々なすれ違いがとても切なかったです。だからこそギリギリでの巡り合わせの妙がうまいなと思わされました。
2.君に恋をしただけじゃ、何も変わらないはずだった

 異様に運の悪い大学生・柏原玲二が元カノの部屋へ大切な物を取りに行き、そこに住む見知らぬ女子・磯貝久美子に不審者扱いされる最悪の出会いを果たすもう一つの物語。玲二の後輩・奈央矢と幼馴染で偶然の出会いを果たした久美子。期せずして久美子を取り巻く恋愛模様に巻き込まれてゆく玲二。誤解から始まって結果的に他人の恋の邪魔をしてしまう間の悪さが、巡り巡って容易には変わらないはずの気持ちを少しずつ動かしてゆく展開が面白いですね。久美子が自分らしさを出せる相手は誰なのか、前作とも繋がるもう一つの物語を十分に堪能できました。
3.静かの海 その切ない恋心を、月だけが見ていた 上・下

 内定を取り消され将来の不安に苛まれる大学生・行成と、引っ越してきたばかりで周りに馴染めずにいる小学生・マサキ。それぞれ悩みを抱える二人が歳の離れた友人として徐々に親交を深めてゆく物語。行成が「可愛らしい男の子」だとばかり思い込んでいた真咲。誤解が解く機会がないまま共に過ごし積み重ねてゆく二人の思い出と、それを転機に新たに築かれてゆくそれぞれの人間関係。マサキが女の子だと微塵も気づかない行成と、自らの想いを自覚してゆく真咲という危うくて繊細な距離感がそのままでいられるはずもなくて、それでも二人のためにかすかな希望をきちんと提示してくれるあたりに、著者さんの優しさを感じたりしました。

4.筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。

筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 (宝島社文庫)

筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。 (宝島社文庫)

 

祖父が残した謎を解き明かすため、大学生の美咲が著名な書道家で端正な顔立ちながら毒舌家の同級生・東雲清一郎を訪ねる連作短編ミステリ。清一郎が書に対する知識を披露しつつ筆跡を分析して様々な事件を解決していくストーリーで、始めは美咲を邪険に扱っていた清一郎も、真っ直ぐな彼女と接するうち意外な優しさを見せたり、美咲のために事件解決に奔走したりと徐々に感化されてゆく過程がなかなか良かったですね。そんな二人の関係が変わってゆく様子がとても楽しみなシリーズです。現在4巻まで刊行。
5.京都伏見のあやかし甘味帖

京都伏見のあやかし甘味帖 おねだり狐との町屋暮らし (宝島社文庫)

京都伏見のあやかし甘味帖 おねだり狐との町屋暮らし (宝島社文庫)

 

働いていた商社を自主退職せざるをえなくなり、帰宅したら結婚予定の彼氏と見知らぬ女に遭遇したれんげ29歳。憤怒しつつも傷心のれんげが未踏の地・京都へ旅立ち、そこでおっとり系大学生とおしゃべりな黒狐と出会う物語。少し気が強くて不器用だけれど根は優しいれんげ、密かに和菓子大好きな虎太郎、ちゃっかりれんげと契約する伏見稲荷の神使・クロの軽妙な掛け合いと、時折衝突しながら少しずつ打ち解けて絆めいたものを育んでいく展開や、章の合間に挿入されている虎太郎の京都甘味レポもなかなか良かったですね。現在3巻まで刊行。
6.妻を殺してもバレない確率

妻を殺してもバレない確率 (宝島社文庫)

妻を殺してもバレない確率 (宝島社文庫)

 

未来に起こる確率を調べる技術が確立した世界。自らが抱える苦しい思いをどうにかしたくて、確率をつい確認し続けてしまう人たちの物語を描く連作短編集。政略結婚や大怪我、路面電車での出会い、届かぬ思いや父と娘の関係、忘れられない運命の出会いなど、停滞する状況を抱える登場人物たち。それでも人との関わりの積み重ねから事態や心境も少しずつ変化して、それに向き合ったり素直になったり次に向けた一歩を踏み出してゆく7つのエピソードは、表題作でもあるタイトルイメージをいい意味で裏切る思いのほか爽やかな読後感の素敵な物語でした。
7.ニセモノだけど恋だった

ニセモノだけど恋だった (宝島社文庫)

ニセモノだけど恋だった (宝島社文庫)

 

俳優だった夢を諦めてレンタル彼氏として働いているカオル。そんな彼が高額な料金にもかかわらず職業を偽って予約を入れ続けるエイコと出会う物語。エイコが職業を偽ってお金を払いデートをする理由。偶然エイコの似たような境遇を知り複雑な想いを抱くカオル。夢を追いかけ続けるべきか現実を思い求めるか、分岐点で心揺れる二人が疑似恋愛のデートを重ねるからこそ育まれ、複雑になってゆくそれぞれの想いにはもどかしくなりましたが、不器用な二人が出会ったことで切り開かれた未来に明るい予感をつい期待したくなる不毛で素敵な恋の物語でした。
8.長崎・オランダ坂の洋館カフェ シュガーロードと秘密の本

長崎・オランダ坂の洋館カフェ シュガーロードと秘密の本 (宝島社文庫)

長崎・オランダ坂の洋館カフェ シュガーロードと秘密の本 (宝島社文庫)

 

長崎の女子大学に入学した東京出身の日高乙女。バイトで不採用続きの乙女がオランダ坂の外れに不思議な洋館カフェを見つけ、そこで不機嫌顔のオーナーと一緒にバイトとして働くようになる物語。東京っぽさがないとある作家の熱烈大ファンな天然の乙女と、本業が不明で雨降る夜にしか開店しない無愛想で謎めいたカフェ・オーナーの向井。長崎の美味しいものがたくさん紹介されつつ、それと少しずつ増えてゆくお客さんとのエピソードや積み重なってゆく向井への想いがとてもいい感じに組み合わさって、不器用な二人を見守りたくなる素敵な物語でした。
9.八月のリピート 僕は何度でもあの曲を弾く

八月のリピート 僕は何度でもあの曲を弾く (宝島社文庫)

八月のリピート 僕は何度でもあの曲を弾く (宝島社文庫)

 

「最後のチャンス」と位置づけたピアノコンクール予選で落選した高校三年生の北沢鳴海。諦められない彼が時間を巻き戻すため、トリガーとなる音楽の神に愛された少女・神崎杏子と久しぶりに再会する青春小説。かつて才能の差を見せつけられたのに彼女にときめいてしまう鳴海が、そのたびに何度もやり直して距離を置いた過去と、再びピアノと彼女への想いに葛藤し続けたリピートの思わぬ結末。そして明かされてゆくもう一つの物語。託された真実を知った鳴海が大切な人のために、そして自らの想いや夢を取り戻すべく奔走するとても素敵な物語でした。
10.僕たちの小指は数式でつながっている

僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

僕たちの小指は数式でつながっている (宝島社文庫)

 

友達を作らないと決めていた僕に唐突に話しかけてきた、数学が好きで天才で孤独な少女・秋山明日菜。不本意ながら始まった彼女との交流が僕を変えてゆく青春小説。心臓移植の影響で前向性健忘症となり一ヶ月しか記憶を保てない明日菜。彼女の日記を頼りに二人の思い出を積み重ねてゆく僕と、少しずつ変わってゆく明日菜との関係。そして僕の暗い過去と意外な形で繋がる彼女の秘密。あれほど望んでいたはずの治癒がもたらした皮肉な転機でしたが、ゼロではない可能性を信じ続けた二人の真摯な想いが引き寄せた結末にはぐっと来るものがありました。
11.君の思い出が消えたとしても

君の思い出が消えたとしても (宝島社文庫)

君の思い出が消えたとしても (宝島社文庫)

 

理解されづらい持病を抱え、仕事もうまく行かず自暴自棄になりかけていた遠藤が出会う思い出コーディネーターの月尾。彼女と過ごす一ヶ月間が描かれる物語。月尾から指摘されるあと一ヶ月の寿命と、思い出を寿命に変えられるという話。そんな遠藤が彼女と共に過去の思い出の悔いを解消していったり、楽しい日々を過ごしていゆくなかでの心境の変化。だからこそ分かりやすい存在に思わせて、意外と謎めいた部分も多い彼女の正体や、抱える秘密が焦点になってゆく展開でしたが、思わぬ真実にもあくまで可能性を信じた二人が迎えた結末は印象的でした。
12.春、ひとり暮らし。隣に住むのはお姉さん。

春、ひとり暮らし。隣に住むのはお姉さん。 (宝島社文庫)

春、ひとり暮らし。隣に住むのはお姉さん。 (宝島社文庫)

 

急な両親の海外赴任で高三の春から一人暮らしを始めた黒塚誠一郎。マンションの同じフロアに住む女子大生の神田すず・野花茜と出会う青春小説。タイプの違う二人のお姉さんと手料理をおすそ分けしたり、家で一緒にご飯を食べたりと友人たちに羨ましがられる日々。かわいい系男子として扱われがちでどこか自信がない誠一郎と、彼を気に掛けるようになっていったすずの距離感がもどかしかったですが、そんな二人にもお互いを意識し始める転機があって、そんな積み重ねから想いが育まれてかけがえのない存在となってゆく展開はなかなか良かったですね。

13.科警研のホームズ

科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

科警研のホームズ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

それぞれ思うところがあって科学警察研究所・本郷分室にやってきた、北上・伊達・岡安の三人の研修生たち。科警研の仕事に興味を示さない室長・土屋に困惑しつつ、事件解決に挑む警察ミステリ。容疑者が黙秘を続ける理由、司法解剖でも特定できなかった死因、監視カメラに映った双生児、連続辻切り事件の犯人。三人の研修生がそれぞれ持ち味を生かして試行錯誤しながらアプローチしていくあたりには成長が感じられましたけど、それでもここぞという時に冴える土屋の視点は流石でしたね。研修期間が延長された彼らのその後の捜査も読んでみたいです。
14.推理は空から舞い降りる

 優秀な管制官だった叔母の真紀子に憧れ、日夜奮闘する新米航空管制官の藤宮つばさ。同期の情報官・戸神大地とともに、空港で発生する様々なトラブルや謎を解決していくお仕事ミステリ。鳥が原因のエンジントラブルや、不定期に鳴り響く発信源不明の遭難信号、外国要人専用機の離陸失敗事故など、トラブルに巻き込まれるつばさを少し変わった同期の大地や職場の同僚・上司の協力で解決してゆく展開で、お仕事小説としてもなかなか興味深かったですが、探していた叔母の「管制官に一番必要なもの」を見出してゆく結末にもぐっと来るものがありました。

15.女流棋士は三度殺される

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

 

自分の目の前で幼馴染・歩巳が暴漢に襲われ姿を消した事件をきっかけに、棋士を諦めたかつての天才少年棋士・香丞。高校で美貌の女流棋士として再会した彼女が再び何者かに襲われ、その事件の真相を追う将棋ミステリ。コンピューター将棋が棋士に勝つのが当たり前になった近未来が舞台。謎解きのアプローチにいくつか後出し設定もあったのは少し気になりましたが、棋士を目指すもう一人の幼馴染・桂花も交えた三角関係の機微や、コンピューター将棋の考察も絡めながらたどり着いた結末の意味にはなるほどと納得してしまいました。面白かったです。
16.谷中レトロカメラ店の謎日和

谷中レトロカメラ店の謎日和 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

谷中レトロカメラ店の謎日和 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

思い入れのあった故人のカメラ売却をきっかけに下町谷中のレトロカメラ店でバイトすることになった山之内来夏が、三代目店主の今宮とともに客が持ち込む謎を解決する連作ミステリ。中古クラシックカメラを専門に扱う落ち着いた雰囲気のお店を舞台に、優れたカメラ修理技術や知識、そして卓越した観察眼を持つ今宮と写真に関連する謎を解いたり、様々なやりとりを重ねていく中、徐々に変わってゆく来夏さんの気持ち。繊細な描写を積み重ねた末に明らかにされた事実はやや意外なものでしたが、それを乗り越えようとする二人の今後に期待のシリーズです。現在2巻まで刊行。
17.人生写真館の奇跡

人生写真館の奇跡 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

人生写真館の奇跡 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

 天国までの道の途中に佇む人生写真館。人生を振り返りながら、自分が生きた年数だけの写真を選び、自らの手で走馬燈を作る死者たちとその儀式を手伝う青年・平坂の奇跡の物語。九十二歳の老婆が選んだバスの写真、四十七歳のヤクザが選んだクリスマス・イブの写真、そして七歳の子どもと笑顔を浮かべる青年の写真。平坂と寄り添うように振り返ってゆく人生と、今までで最も印象的な場面を撮り直す思い出の写真にはぐっと来るものがあって、抗えぬはずの運命に立ち向かった平坂がいて、それらが全て繋がってゆくエピローグがとても素敵な物語でした。

18.いなくなった私へ

いなくなった私へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

いなくなった私へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

ある朝、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ました人気シンガーソングライターの上条梨乃。誰にも彼女が上条梨乃だと気づかれず、さらに自身の自殺報道を知った彼女が、ふとしたきっかけで出会った優斗、樹と共に奇妙な現象の原因を追う物語。彼女はどうして自殺したことになっているのか、偽名を使い所属していた芸能事務所にバイトで入りつつ、二人と事態の真相を探る展開。彼女たちのありようや今後どうしていくのかといったディテールはやや気になりましたが、それでも後半の怒涛の展開やほろっとするラストはページ数も気にならない面白さを感じました。

19.天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和

天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和 (宝島社文庫)

天才詐欺師・夏目恭輔の善行日和 (宝島社文庫)

 

かつて天才詐欺師として名を馳せた夏目。突然目の前に現れた自分の娘だという小春から依頼を受け、仲間とともに依頼者たちを救う父と娘の連作短編ミステリ。小春が生まれ育った修道院の危機、YouTuberと大人気ゲーム機の不正抽選の謎、結婚詐欺師へ仕掛けるペテンや老人を狙った霊感詐欺と、辛い思いをした依頼人たちのため仲間と仕掛ける夏目の用意周到な解決策は、相手を心理的に追い詰めていく過程が秀逸でその結末も効いていました。小春との親子関係の今後や因縁の橋爪との決着も残っていますし、続巻あったらまた読んでみたいですね。
20.塩見﨑理人の謎解き定理 丸い三角について考える仕事をしています

大学生の凜香が蔵書整理アルバイトをする研究室に所属している変人揃いの哲学科でも有名な若き准教授・塩見﨑。常識外れで機械音痴、知を愛する若き哲学者が言葉を疑い真理を読み解く哲学ミステリ。消えたレポートに芸ができなくなってしまった大学に住む猫、不可解な怪文書、凜香が喧嘩別れしていた友人との過去。哲学の命題を使って事件を解決してゆく塩見﨑には凜香や周囲も振り回され気味で、どこをどう見ても残念な変人の類なんですが、それでも彼が導き出してゆく解決にはどこか優しさが感じられて、もし続巻があるならまた読んでみたいです。
21.三度目の少女

三度目の少女 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

三度目の少女 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

 

原因不明のトラウマによって他者を否定できない大学生・関口藍が、ゼミの担当教授に前世の記憶を持つ中学一年生の伊藤杏寿を紹介され、彼女の記憶を巡る謎を追うミステリ。前世・前々世の記憶を持つ杏寿が、教授の紹介で藍と前世の木綿子の生家を訪れて直面した当主・昌一の毒殺事件。運命に導かれるように出会った彼らが疑問を解消しつつ真相に迫る展開は、昔殺された木綿子の事件の真相も追う関係上消去法寄りのアプローチになりましたが、意外な急展開によって過去から解き放たれて、事件を解き明かしてゆく杏寿らの推理はなかなか良かったです。
22.四月一日(わたぬき)さんは代筆屋

四月一日(わたぬき)さんは代筆屋 (宝島社文庫)

四月一日(わたぬき)さんは代筆屋 (宝島社文庫)

 

『筆の都』と呼ばれるところにある代筆屋。四月一日(わたぬき)さんというふくよかで可愛らしい男性の元を訪れる様々な人たちの物語。結婚を前にわだかまりを残した両親への手紙や、すれ違ってしまった年上の幼馴染に対する変わらぬ想い、孫にあてた入学祝いの手紙や就職活動の履歴書など、それぞれのエピソードには意外な事情もあって、個別の話かと思ったら思わぬ形で繋がりも見えてきたりで、代筆するだけでなくさりげなく軌道修正しながら最善へと導いてゆく訳ありな四月一日さんの仕事ぶりと、後日談的なエピソードがとても素敵な物語でした。

23.サブマリンによろしく

サブマリンによろしく (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

サブマリンによろしく (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 

 28年前に八百長疑惑で自殺した伝説のサブマリン投手K・M。行方不明だった1500奪三振の記念ボールが発見されたのをきっかけに再評価する動きが起き、野球嫌いの駆け出しの作家が謎に迫っていくミステリ。誤審、乱闘、転向、落球、そして八百長疑惑…彼にまつわるエピソードの謎を追うために取材した関係者を通じて浮き彫りになってゆくK・Mの人柄と明らかになってゆく真実。視点がイマイチ分かりづらい点にもまた意図的なものだったようで、読み進めてゆくごとに悪くない結末が積み重ねられてゆくその結末はとても印象的でした。

24.小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録

 母を癌で亡くした大学生の白木恭介は、遺言に従い母が30年前に佐伯義春という友人から貰った宝石を返すため北海道を訪れ、集落の因縁に巻き込まれてゆくひと夏の物語。秘境駅羽帯を訪れた恭介が知る三十年前に東羽帯の集落で起こった凄惨な事件。同時期に訪れた鉄道マニア吉井が知る根室本線に眠る裏金の噂。調べてゆくうちにふとした縁で出会った二人が集落の過去を知って因縁に巻き込まてゆく展開でしたが、情緒溢れる秘境駅近辺の描写を交えながら過去が丁寧に語られ、精算されてゆく結末は読み終わってみるとなかなか趣深いものがありました。

25.皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王

皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王 (宝島社文庫)

皇華走狗伝 星無き少年と宿命の覇王 (宝島社文庫)

 

 中華平原に名を馳せる強国・禍国。十八年前、「覇王」の宿星を持って生まれた皇子・戰と、人扱いされず書庫に引き篭もる少年・真が出会ったことで運命が変わってゆく中華ファンタジー。兵部尚書である父の側室腹として生まれたがゆえに戸籍を持たなかった真が、皇子・戰と出会ったことで得た転機。生い立ちが影響してか多くを望まず怠惰になりがちな真が、それでも戰のため、訳ありの幼き妻・薔姫のために智謀を活かして自らの奔走し窮地を打開していく展開は、登場人物たちもよく動いてテンポも良くなかなか面白かったです。続巻も期待しています。

 

以上です。ちなみに紹介した作品の中で個人的に好みどストライクなのは「筆跡鑑定人・東雲清一郎は、書を書かない。」「妻を殺してもバレない確率」「女流棋士は三度殺される」「谷中レトロカメラ店の謎日和」あたりですね。ほんとはもっと紹介したかったのですが、これ以上増やすと間延びしそうだったので今回ここまでにしました。すいません。