読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2019年2月に読んだ新作おすすめ本

 2月はシリーズ続刊の刊行が多すぎて、それをひたすら消化してたら新作はラノベが少し読めたくらいでライト文芸はあまり手を出せなかったですね(追いかけるのもあるかもしれませんが)。一般文庫はなかなか面白い作品に巡り会えました。話題だった「トラペジウム」は後追いで読んでみましたが、あれはあれでなかなか面白く読めるんじゃないかと自分は感じた一冊です。

 

注目はライトノベルだと電撃文庫から荒削りな感でしたけど熱量が好みだった「つるぎのかなた」、涼暮さんの対になる作品「滅びゆく世界と、間違えた彼女の救いかた」「死にゆく騎士と、ただしい世界の壊しかた」、ライト文芸から武田綾乃さんの「君と漕ぐ: ながとろ高校カヌー部」、一般文庫からはあさばみゆきさんの「ただいま、ふたりの宝石箱」、九岡望さんの「言鯨【イサナ】16号」、筏田かつらさんの「ヘタレな僕はノーと言えない」、単行本からは武田綾乃さん二冊目ですが「その日、朱音は空を飛んだ」を挙げておきます。武田綾乃さんは面白い本いろいろ出してますね。注目している作家さんの一人です。

つるぎのかなた (電撃文庫)

つるぎのかなた (電撃文庫)

 

高二の春に藤宮高校に転校してきた水上悠。そんな彼が負けず嫌いな新入生・深瀬史織と出会い、一緒に剣道部に入部する青春小説。昔、剣道で最強と呼ばれながら一度はその座を降りた悠を少しずつ変えていった剣道部の仲間たちとの出会い、剣姫と呼ばれる吹雪との運命的な邂逅と、かつての約束に妄執する吹雪の兄で高校剣道界最強の男・快晴。複雑に絡み合う因縁と剣道に賭ける想いをぶつけ合う熱い戦いがあって、不器用なヒロインたちも自分の想いにまっすぐで、荒削りなところも散見されましたが、それでも十分に魅力的な物語に仕上がっていました。

鏡のむこうの最果て図書館 光の勇者と偽りの魔王 (電撃文庫)

鏡のむこうの最果て図書館 光の勇者と偽りの魔王 (電撃文庫)

 

空間が意思と魔力を持ち、様々な魔物が息づく世界・パライナ。その北端に誰も訪れない「最果て図書館」の記憶のない館長ウォレスが、鏡越しに《はじまりの町》の少女・ルチアと出会うファンタジー。勇者様の魔王討伐を手伝いたいというルチアと、魔王討伐はどこか他人事のウォレス。けれどそんなウォルスも積み重ねてゆくルチアとのかげがえのないやりとりやメイド・リィリの変化、勇者一行らとの出会いを通じて少しずつ心境の変化があって、封じられていた過去の因縁にも向き合いつつ、しっかりと決着をつけてみせた結末はなかなか良かったですね。

リベリオ・マキナ ―《白檀式》水無月の再起動― (電撃文庫)

リベリオ・マキナ ―《白檀式》水無月の再起動― (電撃文庫)

 

吸血鬼と戦う中で戦闘用絡繰騎士《白檀式》が暴走し、結果的に人間と吸血鬼が平等に暮らす共和国へと変貌を遂げたヘルヴァイツ公国。そこに十年ぶりに白檀式の失敗作・水無月が目覚めるバトルファンジー。亡き博士の娘でマスターのカノンとの不本意な関係と、偏見を持たない吸血鬼王女・リタとの出会い。世間知らずな自覚がない水無月とヒロインたちのズレた会話のやりとりは微笑ましくて、一方で巻き込まれてゆく争いの中で過去の真実と向き合うことにもなって、葛藤しながらも自分のありようを見出していく王道展開はなかなか良かったですね。 

滅びゆく世界と、間違えた彼女の救いかた (Novel 0)

滅びゆく世界と、間違えた彼女の救いかた (Novel 0)

 

歴代の神子にのみ完遂することが出来ると言われる救星のための試練「十の天命」。幼馴染みの騎士ラミと神子エイネが滅びゆく世界を救うための旅に出る物語。神子として選ばれたエイネと彼女に並び立つために十三騎士まで登りつめたラミ。数百年かけて未だ六つしか達成されていない十の天命を残り全て二人で成し遂げるため、二人はお互いさえいれば何もいらなくて、一緒にいれば運命に抗えると信じていて。けれどそれは神子の命を犠牲にすることでしかなくて、突きつけられる残酷な事実に精一杯立ち向かった二人の結末には切ない気持ちになりました。

死にゆく騎士と、ただしい世界の壊しかた (Novel 0)

死にゆく騎士と、ただしい世界の壊しかた (Novel 0)

 

最愛の女性を目の前で喪い、彼女の命と引き替えに生き延びて「しまった」救世の騎士ラミ。エイネと同じ「神子」の資格を持つキトリーと出会った彼が、師匠として再び彼女と旅に出るもうひとつの物語。常に明るく世界を救うことを信じて疑わない天真爛漫なキトリーと、時には優しく厳しく先輩として導くラミ。短い間にも育まれてゆく彼らの絆があって、救星の真実を知ってしまったがゆえにどうするべきか葛藤し続けるラミがいて。だからこそ希望を信じ続けるキトリーや彼らに向き合ってくれる存在と、彼らが迎えた結末には救いがあったと思いました。

ワールドエンドクロニクル 君がセカイを裏切る前に (GA文庫)

ワールドエンドクロニクル 君がセカイを裏切る前に (GA文庫)

 

王国の姫君・リィンの裏切りによって魔族の手に堕ちた世界。王国騎士にして不世出の魔術師・クロウが時を超え十年前に遡り、最悪の未来を避けるため、彼女を暗殺する使命を本人から託されるヒロイック・ファンタジー。遡った世界で再会するクロウの裏切りを阻止するためもうひとつの十年後からやってきたリィン。裏切り者としてお互い疑いつつも、かつて恋人だった相手を信じたい複雑な想いもあって、何者かの企みによって心揺れる二人の絆が試される展開にはぐっと来るものがありましたね。空気だった幼馴染も今後キーマンになりそうで続巻に期待。

義妹から日々結婚を迫られていた藍原優斗が咄嗟に彼女がいると嘘をついてしまい、三人の女の子に偽恋人関係を頼み込んだらみんな偽彼女になってしまう間違いだらけのラブコメ。幼馴染の蛍、リア充の桜井、完璧主義な千本木と利害関係が一致しての三股関係。優斗のターニングポイントにおける行きあたりばったりな対応のまずさが、ことごとく裏目に出てドツボにはまっていくのに、なぜか男らしさを見せて彼女たちの好感度を上げてしまう泥沼っぷりで、幼馴染一択で良かったんじゃ…と思わなくもないですが、ここからどうまとめあげるのか続巻に期待。

 

君と漕ぐ: ながとろ高校カヌー部 (新潮文庫)

君と漕ぐ: ながとろ高校カヌー部 (新潮文庫)

 

両親の離婚で引っ越してきた高校一年生の舞奈。地元の川でカヌーを操る少女・恵梨香に出会った彼女が、一緒にながとろ高校カヌー部に入部する青春部活小説。長年コンビを組むも少しずつ想いがすれ違ってきた先輩の希衣と千帆。実力者恵梨香の出現による希衣の決意。初心者の舞奈は今後に期待ですけど、過去に執着していたり今の自分を見て欲しいと願う、それぞれの繊細で複雑な心情を巧みに描きつつ、ずっともやもやしていた思いをぶつけ合って、前に進む力に昇華させてゆく展開にはぐっと来るものがありますね。これは続巻に期待の新シリーズです。

同棲相手に浮気されて飛び出したあやめが向かったのは館山。そこで紅茶専門の喫茶店『Tea Room 渚』を営む秀二と出会い、偽装夫婦として助け合いながら店を営むことになる紅茶と家族の物語。途方に暮れていたあやめを拾った秀二と、クールなのに残念な部分も多い秀二を放っておけないお節介なあやめが始めた共同生活。補いあえる関係でも不安定な距離感の二人が、訪れた客との関係から時には揺らぎならも自らの家族関係にも向き合い、お互いの存在を必要と自覚するようになってゆく家族をテーマとしたエピソードはなかなか良かったですね。

 

 

ただいま、ふたりの宝石箱 (角川文庫)

ただいま、ふたりの宝石箱 (角川文庫)

 

 仮面を被った仕事ぶりに限界が来て退職し、譲り受けた古民家で趣味のアクセサリーづくりをして暮らす涼子。そんな家に店子として宝飾職人「希美」さん住むことになるあたたかな再生の物語。趣味も合い配慮が行き届いていて、欲しい時に欲しい言葉をくれる希美に惹かれていく涼子。一方で未だに引きずる複雑な過去の想いや、容易に解けない呪いから素直に心を開けない状況にもどかしくもなりましたが、そんな彼女を尊重しつつ粘り強く向き合って、様々な過去のわだかまりを解きほぐすのを手伝ってくれた彼に出会えてほんとに良かったなと思えました。

言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

言鯨【イサナ】16号 (ハヤカワ文庫JA)

 

全土は砂漠化し、人々は神である「言鯨」の遺骸周辺に鯨骨街を造って暮らす世界。街々を渡る骨摘みとして働く旗魚は、旅の途中で裏の運び屋・鯱と憧れの歴史学者浅蜊に出会い物語が動き出すファンタジー。内密に十五番鯨骨街へ奇病の調査に行った浅蜊が引き起こした言鯨の覚醒と仲間の消失。もたらされた旗魚の劇的な変化と、鯱や蟲使いの珊瑚との逃亡劇、そして言鯨と世界の核心に迫ってゆく展開で、明らかになってゆくこの世界の哀しい真実と登場人物たちそれぞれの熱い想い、そしてそれらに向き合ってゆく旗魚の姿がとても印象的な物語でした。

ゲームでNPCの中の人やってます! (ハヤカワ文庫JA)

ゲームでNPCの中の人やってます! (ハヤカワ文庫JA)

 

就職に失敗しフリーター生活を続けていた森野一樹(28歳)が、VRMMOを手がける大手ゲーム会社の緊急オファーで正社員として採用されゲームの中でNPCを演じる物語。NPCを演じながらゲームの不具合や問題を解決するお仕事で正社員になれるのか(先行きが不安…)とも思いましたが、重要キャラな位置づけのマッチョなエルフ「オリジン・エルフ」やギルマスなどを演じ分けつつ、ブラコン気味の妹やその友人と出会ったりしながら(業務時間はわりとブラック)お仕事してる感じは何だかんだで楽しそうで、続巻出るならまた読んでみたいです。

ヘタレな僕はノーと言えない (幻冬舎文庫)

ヘタレな僕はノーと言えない (幻冬舎文庫)

 

前任者の指示で県内に住む凄腕の女職人・彬のもとへ向かった県庁職員・浩己。納品する代わりにあらゆる雑用を命じられ、いじられるのに彼女が気になってゆく年上美女×年下ヘタレの不器用な恋と仕事の物語。真面目で融通が効かず垢抜けない浩己と、彼をいじることが楽しそうな彬の面倒くさい距離感が絶妙で、強烈なインパクトがあった浩己の忘れられない過去や、彬にもいろいろ複雑そうな事情もあったりで、読んでいる方がもどかしくなる展開でしたけど、だからこそ遠回りしながらもいろいろなものが繋がった結末がかけがえのないものに思えました。

春、ひとり暮らし。隣に住むのはお姉さん。 (宝島社文庫)

春、ひとり暮らし。隣に住むのはお姉さん。 (宝島社文庫)

 

急な両親の海外赴任で高三の春から一人暮らしを始めた黒塚誠一郎。マンションの同じフロアに住む女子大生の神田すず・野花茜と出会う青春小説。タイプの違う二人のお姉さんと手料理をおすそ分けしたり、家で一緒にご飯を食べたりと友人たちに羨ましがられる日々。かわいい系男子として扱われがちでどこか自信がない誠一郎と、彼を気に掛けるようになっていったすずの距離感がもどかしかったですが、そんな二人にもお互いを意識し始める転機があって、そんな積み重ねから想いが育まれてかけがえのない存在となってゆく展開はなかなか良かったですね。

札幌にあるホームズ超常科学研究所長の河邊鐡臣の助手となったアフリカ帰りの医師・和戸一郎。ある事故をきっかけに16歳の可憐な少女の魂が乗り移っていた河邊はホームズを名乗り、二人で北海道の怪事件に挑むミステリ。オカルト好きな見た目青年の少女・ホームズとワトソンが羊の吸血事件、花婿の失踪、議員の醜聞といった風変わりな事件を解決していく展開で、何とも形容するのが難しい奇妙な二人の関係と、ほろ苦くもそれだけで終わらない事件の結末はなかなか良かったですね。ホームズは元の身体に戻れるのか続巻に期待したい新シリーズです。

([あ]8-2)ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

([あ]8-2)ショパンの心臓 (ポプラ文庫)

 

就職先が決まらないまま大学を卒業してしまった羽山健太が、「よろず美術探偵」という風変わりな看板を掲げた店と店主・南雲に出会い働き始めるミステリ。健太は就活上手くいかないのも仕方ないと思うような空気読めない/活字読めないタイプで、そんな彼に美術館に勤める貴和子さんの絵を探す依頼を店主が丸投げした時にはびっくりしましたが、最初やらかしまくっていた健太にもそうなるだけの理由があったんですね…彼の成長とシリアスになってゆく展開の中で話をうまくまとめ上げていくところは流石で、読み応えがある話に仕上がっていました。 

世界が記憶であふれる前に (小学館文庫)

世界が記憶であふれる前に (小学館文庫)

 

超記憶を持ち壮絶な半生を送ってきた少女ナノ。一人でひっそりと生きていくためのどんでもない計画を実行した彼女が、宅配ドライバーのソライと運命の出会いを果たす物語。自身の寿命が長くないと悟った彼女が実行する普通なら考えもつかない二億円強奪計画。巻き込まれて口座の金を奪われたソライが偶然発見したナノ、お金を取り戻すために彼女と一緒に向かう香港。そこからのトラブル続きの状況を二人で乗り越えるうちに育まれた想いがあって、なのに相手を思う気持ちがなかなか上手く噛み合わない不器用な二人が迎えた結末はとても印象的でした。

 

その日、朱音は空を飛んだ

その日、朱音は空を飛んだ

 

学校の屋上から飛び降りた川崎朱音。自殺現場の動画がネットに流れ、明らかになってゆく自殺の原因。クラスメイトに配られたアンケートから見え隠れする歪められた青春ミステリ。動画撮影者、地味なクラスメイト、対立者、学年一位、恋人、幼馴染、そして本人の視点から浮き彫りになってゆく自殺に至るまでの構図。視点が変わるたびに見えてくるものも変わって、愚直なまでの想いがすれ違いからどんどん歪んでいって、それがどうにもならないところまで行き着いた先にあった真相と、最後に提示されたもうひとつの目次や結末はなかなか衝撃的でした。

そして旅にいる

そして旅にいる

 

小さい頃から親友と約束していたハワイ旅行、長い片想い相手との冬の千葉の動物園、失恋を慰めてくれた香港の喧噪と担担麺、婚約破棄の姉との奇妙な里帰り、密かな思いを打ち明けると決めていた伊豆への旅、密かな想いを長らく抱えたまま向かったニュージーランドなど、旅をテーマに主人公たちの揺れ動く繊細な気持ちが描かれた8つの連作短編集で、悩める主人公たちの憂いは容易には晴れませんが、大切な人と作るかけがえのない旅の思い出がひとつの転機となって、彼女たちにとって忘れられない特別な旅となってゆくそれぞれの結末は印象的でした。

神のダイスを見上げて

神のダイスを見上げて

 

巨大小惑星ダイスが接近し人類があと5日で終わりを迎える『裁きの刻』。最愛の姉・圭子を殺された高校生の漆原亮が、自分の手で復讐すべく犯人を調べ始まる青春タイムリミットミステリ。唯一の家族だった圭子の衝撃的な死。ダイス接近により国内が大混乱に陥る中、恋人がいたらしい圭子の背後関係を調べていくうちに判明するダイスを崇拝するオカルト集団「賽の目」の存在。一連の事件を引き起こした妄執の結末を思うと何とも複雑な気持ちになりましたが、残された彼らが『裁きの刻』が迎える時、寄り添える理解者が傍にいてくれて良かったです。

トラペジウム

トラペジウム

 

「絶対にアイドルになる」ため己に4箇条を課して高校生活を送る高校1年生の東ゆうが、東西南北の仲間を集めて高校生活をかけて追いかけた夢を描く青春小説。「SNSはやらない」「彼氏は作らない」「学校では目立たない」「東西南北の美少女を仲間にする」を信条に掲げて、他校の個性的な女の子を仲間にしながら地道に積み上げていったアイドルへの道。したたかにひたすら自らの夢を叶えるため邁進するがゆえに、仲間に助けられることもあればすれ違うこともあって、挫折しながらも夢を諦めなかったゆうが迎えた結末はなかなか悪くなかったです。 

千年図書館 (講談社ノベルス)

千年図書館 (講談社ノベルス)

 

見返り谷に心を囚われた少女の物語、村で凶兆があるたび若者が捧げられる千年図書館の秘密、地球侵略中の異星人に遭遇した大学生、墓として大きく塔を村のあちこちに建てる男爵の謎、大きく奇怪な墓を村のあちこちに建てる男爵の謎、呪われた曲を奏でた傷心の高校生におこる不可思議。不可思議な出来事をテーマに、何の気なしに読んでいくと最後の最後で物語の見え方がガラリと変わってしまうやられたと思った5つの連作短編集でした。個人的には「見返り谷から呼ぶ声」「千年図書館」「さかさま少女のためのピアノソナタ」あたりが良かったですね。