読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2018年7月に読んだ新作おすすめ本

 というわけで7月に読んだ新作おすすめ本です。例によってラノベ以外は周回遅れが常態化していますが、今回29点を紹介します。注目としてはガガガ文庫「空飛ぶ卵の右舷砲」メディアワークス文庫の「逆転ホームランの数式」、光文社文庫「帝国の女」、似鳥鶏さんの「名探偵誕生」あたりですかね。今回単行本はわりといい感じのが多かったです。好みもあると思いますし、気になる本があったら是非手にとって読んでみて下さい。

空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫)

空飛ぶ卵の右舷砲 (ガガガ文庫)

 

 人造豊穣神の大崩壊で跋扈するようになった異形の怪物により人類が地上から追放された世界。小型ヘリ<静かなる女王号>を操り樹竜を狩るモズと相棒ヤブサメが、その腕を買われ旧都市新宿での大規模探索作戦に参加する近未来ファンタジー。豪快なモズと彼女に振り回されながちなヤブサメのコンビを中心に、立場の違う空団の面々と時にはいがみ合いながらも、強大な敵を相手にギリギリの戦いを繰り広げてゆく中で認め合うようになってゆく熱い展開に、その物語を締めくくる意外なオチもまた効いていました。続編あるようならまた読んでみたいですね。

 来るべき世界危機を救うため真なるアーサー王を決める「アーサー王継承戦」完璧チート高校生・真神凜太朗が、暇つぶしのためあえて最弱と呼ばれる残念少女・瑠奈に協力する現代異能ファンタジー。金のために聖剣を売り払ってしまったり、召喚した「騎士」ケイ卿にコスプレさせて利用する瑠奈。あざとい生徒会長選の票稼ぎやデートさせられたり彼女のわがままに振り回されつつも、垣間見えるその真っ直ぐな想いに王の資質を見出して、曲者ぞろいの強敵を相手に共に戦い絆を育んでいく王道展開は面白かったです。これは今後に期待の新シリーズですね。

 最前線での戦いについていけなくなり、仲間の賢者により勇者のパーティーから追い出されたレッド。心機一転、辺境の地で薬草屋を開業しようとした彼のもとに、突如かつての仲間だった王女・リットが転がり込む辺境スローライフ。元ツンデレで不器用だったリットとはお互いがいい感じに補い合える存在で、そんな二人が初々しくも甘い関係を築いていく展開はなかなか良かったです。しかし調整役を放逐した勇者パーティーは案の定破綻していて、兄成分必須な妹勇者の状況も考えると、再び彼が必要とされそうな今後の展開も気になるところではあります。

陰キャラな俺とイチャつきたいってマジかよ…… (ファンタジア文庫)

陰キャラな俺とイチャつきたいってマジかよ…… (ファンタジア文庫)

 

 特別進路相談部「特進部」に強引に加入させられた典型的陰キャラ九条静紀。学校一の陽キャラ春日陽奈が告白され、丁重に断った静紀が食い下がる彼女に根負けして陰キャ生活を教える青春小説。夢のために邁進する他の部員や図書館で交流を育んできた咲夜の背景に比べると、陽奈が好きになった理由がやや弱いと感じてしまいましたが、ぐいぐい攻めてくる懲りない陽奈に、いちいち違いを言及していたはずの静紀も徐々に感化され、お互いの立ち位置の違いを痛感しながらも、それを乗り越えて二人でバカップルと化してゆく展開はなかなか面白かったです。

隠れオタな彼女と、史上最高のラブコメをさがしませんか? (ファミ通文庫)

隠れオタな彼女と、史上最高のラブコメをさがしませんか? (ファミ通文庫)

 

 燻ったままの過去を解消するため『ゲーム制作部』を立ち上げた結城雪崇。そこに頭脳明晰な生徒会長・倉嶋千愛、綺麗なイラストを描くフェリス、感受性豊かな小説を書く遥が入部し一緒にノベルゲー制作に取り組む青春ラブコメ。才能豊かで魅力的なヒロインたちに振り回されつつ協力して制作を進めたり絆を深める展開で、ままならないお嬢様・千愛の家庭事情に巻き込まれてゆくストーリーはベタではありましたが、千愛のゲーム制作に賭ける思いと仲間たちが持てるものを駆使して彼女のために奔走する姿にはぐっと来るものがありました。続巻も期待。 

クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間 First Step (ファミ通文庫)

クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間 First Step (ファミ通文庫)

 

 無気力な日々を送るフリーター克樹が出会った、首から「拾ってください」と書かれた札を提げ佇む家出少女・麻友。犯罪を危惧した克樹が一週間限定で自宅アパートでの寝泊まりを許可する同棲ラブコメ。家出の経緯を語らない麻友と、面倒だと感じつつも同居をいつの間にか受け入れていく克樹。動き出してから関係が変わるまでの転げ落ちるような展開の早さには驚きましたが、むしろそこからの不器用な克樹の葛藤がポイントで、明らかになってゆく麻友の家庭事情を踏まえどうあるべきか、素直になれない二人の繊細な距離感が良かったです。続巻も期待。

インスタント・メサイアI (オーバーラップノベルス)

インスタント・メサイアI (オーバーラップノベルス)

 

 愛する家族や隣人を魔族に殺されたナイン。村が全滅する中で一人生き延びた彼が、十年の時を経て家族の仇であるはずの魔族の王に配下たることを跪いて乞い願い、密かに復讐の機会を伺うダークファンタジー。歪な笑顔で一部には危険視されながらも、因縁ある魔王クリステラやその妹、そして警戒する配下たちの関心を引きながら少しずつ籠絡し取り込んでいく展開は、一見卑屈で人として無害な存在と思わせつつ、実はかなり壊れていて狂気の愛に溢れるナインの存在感が光っていました。この先にあるのは愛か破滅か、続巻に期待したいシリーズですね。

 

 仕事にのめり込んで家族に愛想を尽かされた元エリート社員の八雲。野球少年の息子と元妻に再び認めてもらうため、野球経験なしの身から初戦敗退の秋上高校野球部の監督に就任し、転落の元エリートと弱小野球部が奇跡を起こす物語。最初は気持ちも分からず最悪だった部員たちとの出会い。そこから彼らと向き合いながら進めていった、データに基づく合理的な練習と意識改革。興味深い練習に八雲や部員たちの葛藤やそれぞれの想いもあったりで、八雲の息子もいる横道学院との練習試合で果たしたひとつの決着にはなかなかぐっと来るものがありました。 

放課後、君は優しい嘘をつく。 (メディアワークス文庫)

放課後、君は優しい嘘をつく。 (メディアワークス文庫)

 

 3年前の飛行機事故により両親を亡くし、足も不自由になったことで引きこもりになった少年・古賀春一。彼を連れ出すべくクラス委員を名乗る同級生の彩楓が通い、彼を支える二人と交流を深めてゆく青春小説。春一を引っ張り出すために週2日は古賀家を訪れ、ツルさん・藤野さんとも馴染んでお茶会をするようになった彩楓と彼女を拒む春一。それでも粘り強く通いながら春一の意識を少しずつ変えていった彼女が抱える秘密。春一が知った事故での真実は彼女との運命を感じさせて、きちんと向き合えた二人を祝福したくなる微笑ましくも素敵な物語でした。

 上京しながらも仕事に挫折して、生まれ育ってきた長崎へ戻ってきた結真。身も心もまだ疲れたままの彼女を心配した母が、『古か物にまつわる問題ば解決してくれる』骨董店・一古堂を紹介し、店主の司と出会う物語。叔母の形見・顔のないマリア観音の問題を解決してくれたことをきっかけに一古堂で働くようになった結真。長崎らしさを随所に描きつついろいろ事件に巻き込まれたりもしましたが、司と協力して解決したりもして、自分を認めてくれる仲間がいて、きちんと居場所があるというのはやはり大きいですよね。続巻あるならまた読んでみたいです。

折紙堂来客帖 折り紙の思ひ出、紐解きます。 (富士見L文庫)

折紙堂来客帖 折り紙の思ひ出、紐解きます。 (富士見L文庫)

 

 祖父と2人暮らしの高校生・漱也はあやかしの世との狭間「茜辺原」に迷い込んで青い瞳の少女・蒼生と出会い、彼女が店主としてあやかしと人の問題を解決する「折紙堂」で働き始める現代和風ファンタジー。先生が恩を感じる女性、入院していた少女に折紙を教えてくれた女性、おばあちゃんが持っていた鍵、そして迎えに来た漱也の母親の想い。お人好しな漱也が知人のために蒼生の力も借りて、折紙絡みの謎を解いていく展開はなかなか良かったですね。少しずつ漱也の過去も明らかになりましたが、蒼生はまだ謎も多くて続巻あるなら読んでみたいです。 

死神医師 (講談社タイガ)

死神医師 (講談社タイガ)

 

 一年前に恋人の成海麻里を謎の自殺で失い、死神に魂を売ってしまった「神の手」を持つ心臓外科医の桐尾。安楽死を秘密裏に扱う医師の存在が噂されて、警視庁捜査一課の刑事で麻里の妹・沙耶は「死神医師」の正体が桐尾ではないかと不審を抱きはじめる医療ミステリ。麻里の死の原因となった仕組まれた事件の関係者に近づき次々と追い詰めてゆく桐尾と、その過程で明らかになってゆく事件の真相とひとつの決着。物語の構図としては分かりやすかったですが、少しばかり展開が拙速でしたかね。黒幕がこれからどうするのか、ちょっと気になる結末でした。

猫河原家の人びと: 一家全員、名探偵 (新潮文庫nex)

猫河原家の人びと: 一家全員、名探偵 (新潮文庫nex)

 

 家族全員、殺人事件をめぐって夕食前に迷推理を披露する謎と事件好きの猫河原家。「推理せざる者、食うべからず」の家訓にげんなりで末っ子・友紀が事件を解決するミステリ。事件に遭遇すると嬉々として迷推理を始める両親兄弟たち。そんな家を出るべくバイトを始める友紀。けれど彼女がいつの間にか事件に巻き込まれるのは相変わらずで、まともな推理が出てくるのは家族の中で友紀だけとかなったら、それはもう逃れられないのも仕方ないですよね。嫌な家族だけど愛されてるのは分かるだけに、まあ大変だけど頑張ってねと思ってしまいました(苦笑)

死神憑きの浮世堂 (小学館文庫キャラブン!)

死神憑きの浮世堂 (小学館文庫キャラブン!)

 

 死神に殺された幼い弟を忘れられずにいる人形修理工房「浮世堂」を営む城戸利市。ある日、死神が顔見知りの少女を襲う現場に遭遇したことで、再び運命が動き出す物語。周囲が理不尽に死んだ弟の存在を忘れてゆく中でただ一人覚えていた利市。彼が運命に導かれたように大正時代に殺人を犯した華族のお嬢様や、死後に望まぬ形で生き返った死神の一族の少女との出会い。彼女たちが抱える過去も明らかになっていって、複雑な絡み合う状況にどう決着をつけるべきか、最後まで葛藤し続けた利市が迎えたいかにも彼らしい結末には救われるものがありました。

海と月の喫茶店 (小学館文庫キャラブン!)

海と月の喫茶店 (小学館文庫キャラブン!)

 

 祖母の死を機に田舎から街に引っ越して、父親と弟との三人暮らしを始めた女子高生の香月。しかし学校でも家でもうまく行かず居場所を見つけられない彼女が、偶然隣の席の男の子・立海がケーキ好きなことを知り、ケーキ作りを教えてもらう青春小説。不器用だけど周囲に頼りたくない。そんな頑固な香月が祖母のデザートに挑戦するも挫折する日々。上手くいかない状況続きで、手を差し伸べてくれる周囲を拒絶する彼女の頑なさにはやや頑固過ぎるかなあと苦笑いでしたけど、少しずつでも変わっていける兆しが見えてきた結末にはちょっとほっとしました。

 

帝国の女 (光文社文庫 み 35-3)

帝国の女 (光文社文庫 み 35-3)

 

 世間の認識とは裏腹に華やかさから程遠い、帝国テレビジョンで働く女たちの日々。好きな仕事だけれどままならないことばかりの五人の女性たちが描かれる連作短編集。過労寸前まで奮闘する宣伝部・松国、仕事以外はまるでダメなプロデューサー・脇坂、年下の夫との倦怠に沈む脚本家・大島、訳ありマネージャー・片倉、憧れの人と出会う日を夢見るテレビ誌記者・山浦。それぞれの仕事に取り組む真摯な姿と、一方でプライベートは思うようにいかない苦悩はとても印象的で、ページ数以上に濃密なストーリーと彼女たちの切なる叫びが心に響く物語でした。

 ミドリムシの変異体・エルグレナが生態環境を支配し、海面上昇により地表の大半を水に覆われた25世紀の地球。その調査に宇宙コロニーからやってきた研究者ケンガセンが、島嶼部で暮らす巫女ヨルと出逢う近未来SF。彼女と出会い数奇な運命に巻き込まれてゆくケンガセン。SF的な設定や立ち位置でガラリと変わる倫理観や考え方なども興味深かったですが、研究バカだった彼が価値観の違いに戸惑いながら交渉したり政治に振り回されたりしながら、人類が迎える新たな局面と、そんな中で育まれてきた二人の絆を感じる結末はなかなか良かったですね。

 優秀な管制官だった叔母の真紀子に憧れ、日夜奮闘する新米航空管制官の藤宮つばさ。同期の情報官・戸神大地とともに、空港で発生する様々なトラブルや謎を解決していくお仕事ミステリ。鳥が原因のエンジントラブルや、不定期に鳴り響く発信源不明の遭難信号、外国要人専用機の離陸失敗事故など、トラブルに巻き込まれるつばさを少し変わった同期の大地や職場の同僚・上司の協力で解決してゆく展開で、お仕事小説としてもなかなか興味深かったですが、探していた叔母の「管制官に一番必要なもの」を見出してゆく結末にもぐっと来るものがありました。

時間遡行で学生時代に戻った僕は、妻の恋を成就させたい (宝島社文庫)

時間遡行で学生時代に戻った僕は、妻の恋を成就させたい (宝島社文庫)

 

 複雑な事情で上手くいかなくなった妻から離婚を提示された綾人。放心状態で交通事故に遭った彼が、突然10年前の大学時代からやり直す機会を得る青春小説。妻・帆乃里の幸せを願う綾人が親友・駿稀との恋を成就させるべく奔走し、複雑な想いを知って協力する彼女の友人・美妃。不器用で真摯な綾人がやり直す過程で改めて気づいたことの積み重ねが、以前は思いもよらなかったもう一つの構図を徐々に浮かび上がらせていって、始まりからすれば何とも皮肉な結末でしたけど、やり直した末の結果として考えるとこれは必然だったのかもしれないですね。 

綺羅の皇女(1) (講談社文庫)

綺羅の皇女(1) (講談社文庫)

 

 真秀皇国の皇帝・凰輝の従姉ながら両親の愛を知らずに修道尼院で育った皇女・咲耶。密かに皇帝しか見るはずのない予知夢を見る彼女が、隣国に嫁ぐため渡海する和風ファンタジー。距離を感じる両親に複雑な立ち位置の境遇で決まった隣国への結婚。嫁いだ先でも複雑な境遇の中で予知夢として見る故国の危機。和風っぽいテイストの中でいくつかやや違和感を感じる部分もありましたが、何とか故国の危機を回避すべく奔走する想いは真摯で、複雑な立ち位置の理由が明らかになったことでこれからどう生きていくのか、読ませるものはあるだけに今後に期待。

 

名探偵誕生

名探偵誕生

 

 小学生の頃から様々な冒険をしていたみーくんに不穏の影が差した時、いつも助けてくれた名探偵のお姉ちゃん。そんな千歳お姉ちゃんとの初恋とみーくんの成長を描くミステリ青春小説。ずっとみーくんに寄り添い見守ってくれていた千歳お姉ちゃんへの想いは募ってゆくのに、なかなか姉妹のような関係から抜け出せないもどかしさについ共感してしまいましたが、次々と事件を解決してきた生粋の探偵である彼女を救うため、ほろ苦い複雑な想いを乗り越えて自ら立ち上がるみーくんがとても格好良かったです。どこでまた彼らのその後を読めるといいですね。

「はじめまして」を3000回

「はじめまして」を3000回

 

 プログラミングに没頭する高校生・北原恭介。夢に見た予知が外れると不幸が訪れるという人気者の同級生・佑那から告白をされ、そんな彼女に振り回されるようになってゆく青春小説。印象的な出会いから「私と付き合わないとずばり死んじゃう」と告げて、予知夢だという内容を恭介と二人で再現してゆく佑那。最初懐疑だった恭介の想いが徐々に変化する中で直面する急展開と、明かされてゆく彼女の秘密と覚悟は切なくて、彼女の想いを噛みしめるようなタイトルでしたが、諦めなかった恭介がもたらした一つの結末に著者さんらしさがよく出ていました。 

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

 

 九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が発生し、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びつつ事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いましたね。そんな彼らの今後をまた読んでみたいです。

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

 

 「演劇を扱った中編。登場人物は三、四人程度」「回想、場面変更、一行アキ一切なしのワンシチュエーション・ミステリ。登場人物は三人で」「会話文のみで書かれた作品」「三人の女性たちによる独白リレー」など編集者の繰り出す無茶ぶりに著者が苦しみながら書き上げた連作短編集。わりと難しい設定で果たしてどうなのかと思いましたけど、それでもシチュエーションの遵守だけで終わらずに、きちんとそれぞれに捻りが効いた工夫が盛り込まれていてなかなか楽しめました。巻末のあとがきにあった楽しそうな編集者と挑んだ作者の本音も良かったです。

星空の16進数

星空の16進数

 

 高校を中退しウェブデザイナーとして働く17歳の藍葉。ある日、謝罪の100万円を渡すよう依頼された私立探偵・みどりが現れ、心当たりが6歳の頃の誘拐事件しかない藍葉がみどりに当時の誘拐犯・朱里の捜索を依頼する青春ミステリ。仕事で燻っていた状況からの転機に直面する藍葉、そしてみどりが追う朱里の行方とその過去。みどりにはみどりの事情があって、過去を追う過程で明らかになる事件の真相には複雑な気持ちでしたが、一方でもたらされた変化は今の藍葉に繋がっていて、色を通じて語られる繊細な藍葉の心境の変化がとても印象的でした。

鵜頭川村事件

鵜頭川村事件

 

 一九七九年夏。亡き妻・節子の田舎である鵜頭川村へ、三年ぶりに墓参りにやってきた岩森明と娘の愛子。突如、山間の村は豪雨に見舞われ閉じ込められる中で一人の若者の死体が発見され、閉塞した状況で蓄積していた鬱屈が狂気に繋がってゆく物語。村の有力者・矢萩家への鬱屈した想いと、外部と遮断された状況でうやむやにされた犯人探し。大人たちに不信を隠せない若者たちに対する扇動が暴走に繋がってゆくまでの描写には、追い詰められた人の危うさが生々しく描かれていて、ギリギリの状況で何とか娘を守ろうと奔走する岩森がとても印象的でした。

17×63 鷹代航は覚えている

17×63 鷹代航は覚えている

 

 反目しあっているごく平凡な高校生・鷹代航と、運悪く会社をリストラされた祖父の章吾。ある夜、自転車置き場で倒れている章吾を偶然航が発見し、大きな衝撃を受けた航と章吾の身体が入れ替わってしまう物語。俗に言う入れ替わりモノで、おせっかいな気質で航の身体でぐいぐい行く章吾の言動がついつい気になってしまう、祖父の身体でままならない航。世代のギャップに戸惑いつつ学校絡みの謎解きや犯人探しに挑んでいく展開で、ままならないドタバタぶりや痛い本音に直面したり、そんな経験を経た二人のその後がとてもいい感じに思えた物語でした。

愛と勇気を、分けてくれないか

愛と勇気を、分けてくれないか

 

 80年代後半、広島市民球場やデビューしたばかりのユニコーンが確かに息づいていたあの日。親が転勤族で広島にやってきた転校生・桃郎が美少女・小麦に一目惚れし、その憧れの人・由木野と出会う青春小説。地元愛に溢れる小麦に振り回されるようになってゆく桃郎が直面する、ままならならない片想いや、愛する街に対する熱くて複雑な想い、そして突然の暗転と思ってもみなかった終焉。今とはまた違う当時の雰囲気がよく出ていて、そんな切ない思い出が紆余曲折を経て今に繋がっているその結末には、いろいろ思い出したり感じるところがありました。

司書のお仕事―お探しの本は何ですか? (ライブラリーぶっくす)

司書のお仕事―お探しの本は何ですか? (ライブラリーぶっくす)

 

 味岡市立図書館に新人司書として採用された稲嶺双葉を主人公に、蔵書目録の作成や本の受け入れ作業、イベント企画と言った司書の仕事とその成長を描くお仕事小説。認定司書さんを監修に正職員と委託職員との関係や、ネット全盛時代の変わりつつあるレファンレンスだったり、イベントの企画立案や高校の学校図書館との現実的な連携だったり、今の司書さんの仕事が昔と比べてどのように変わってきているのか、またどんなことに意識を向けているのか、主人公の立ち位置をうまく使って分かりやすく小説仕立てで説明してくれていると感じた一冊でした。