読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2018年上半期注目のオススメ新作単行本23選

 上半期注目のオススメ新作企画の最後は単行本編です。今回は23点をチョイスしました。単行本はなかなか厳しい状況が続いているとは聞きますが、そんな単行本にも印象的な本は数多く出ています。自分が読めるもの、紹介できるものはそんな中のごく一部ですが、気になる本があったらぜひ手にとって見てください。

君を描けば嘘になる

君を描けば嘘になる

 

 寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。

名探偵誕生

名探偵誕生

 

 小学生の頃から様々な冒険をしていたみーくんに不穏の影が差した時、いつも助けてくれた名探偵のお姉ちゃん。そんな千歳お姉ちゃんとの初恋とみーくんの成長を描くミステリ青春小説。ずっとみーくんに寄り添い見守ってくれていた千歳お姉ちゃんへの想いは募ってゆくのに、なかなか姉妹のような関係から抜け出せないもどかしさについ共感してしまいましたが、次々と事件を解決してきた生粋の探偵である彼女を救うため、ほろ苦い複雑な想いを乗り越えて自ら立ち上がるみーくんがとても格好良かったです。どこでまた彼らのその後を読めるといいですね。

祈りのカルテ

祈りのカルテ

 

 初期臨床研修で様々な科を回る研修医・諏訪野良太が、行く先々で持ち前の観察力で患者たちが抱える秘密に迫り、その解き明かしてゆく医療ミステリ。大量服薬を繰り返し装う女性、自らの身体にメスを入れさせた老人、自ら火傷を負う女性、薬を棄てていた少女、そして世間を欺いて多くの患者を救おうとした女性。奇異な行動をする患者たちにはそうするだけ理由があって、思い悩む彼らの真意に気づいて寄り添いながらその最適解を提示する一方、思い悩んでいた自らの進路にも答えを出してゆく主人公のありようがとても良かったですね。シリーズ化期待。

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

ぼくときみの半径にだけ届く魔法

 

 売れない若手カメラマンの仁が偶然撮影した窓辺に立つ美しい少女・陽。難病で家から出られない彼女との出会いが二人の人生を奇跡のように変えてゆく物語。同級生の活躍に屈折した想いを抱いてしまっていた仁が、偶然出会った陽の依頼で様々な景色を撮って届けることになる運命の転機。それをきっかけに仁が活躍の場を広げてゆく一方で、難しい病に絶望を感じていた陽の逡巡にきちんと向き合おうとする育んできた二人の想いがあって。大変だった彼女の家族を思うとやや複雑な心情も残りますが、二人の出会いがもたらした奇跡には救われる思いでした。

僕と彼女の左手 (単行本)

僕と彼女の左手 (単行本)

 

 幼い頃遭遇した事故のトラウマで、医者になる夢を前に壁にぶつかった医学生の習。そんな彼が左手一本でピアノを引く不思議な女性・さやこに出会い、共に時間を過ごすようになってゆくミステリ。教師を目指すさやこのために家庭教師として共に過ごすようになる二人。彼女にどんどん惹かれてゆき付き合うことになった習が、勉強よりもピアノに意識が向きがちな彼女のありように少しずつ感じるようになってゆく違和感。積み重ねられてゆく不安の先にあった真実は真摯な想いと共にあって、二人が出会えて本当に良かったと思えるとても素敵な物語でした。

春待ち雑貨店 ぷらんたん

春待ち雑貨店 ぷらんたん

 

 京都のハンドメイドアクセサリーショップ『ぷらんたん』。悩みを抱えたお店を訪れる客の悩みに店主の北川巴瑠が一つ一つ寄り添い、優しく解きほぐしていく連作ミステリ。自身も密かに生まれながらの深刻な悩みを抱えつつも、恋人との関係の変化やお店を訪れるお客が抱える悩み、立て続けに起きるトラブルを一緒に解決していく展開で、簡単ではない問いに迷いながらも真摯に向き合う誠実で一本芯が通っている巴瑠のありようや、そんな彼女の影響を受けて大切な人といい関係を築こうと努力するようになっていく登場人物たちの姿がとても印象的でした。

額を紡ぐひと

額を紡ぐひと

 

事故で婚約者を喪った額装師・奥野夏樹。少し変わった依頼でも真摯に向き合う夏樹が、彼女の作品の持つ雰囲気に惹かれた表具額縁店の次男坊・久遠純と出会う物語。時には依頼人の想いを暴いてしまう一方で、婚約者との過去にどう向き合うべきか悩む不器用な夏樹と、掴みどころのない純との微妙な距離感。そして二人の重要な過去に繋がる池端の存在。明らかになっていったそれぞれの過去に向き合うことにはほろ苦さも伴いましたけど、そんな自分に寄り添ってくれる存在がいて、新たな一歩を踏み出す姿が描かれる結末にはぐっと来るものがありました。

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

タイトルはそこにある (ミステリ・フロンティア)

 

 「演劇を扱った中編。登場人物は三、四人程度」「回想、場面変更、一行アキ一切なしのワンシチュエーション・ミステリ。登場人物は三人で」「会話文のみで書かれた作品」「三人の女性たちによる独白リレー」など編集者の繰り出す無茶ぶりに著者が苦しみながら書き上げた連作短編集。わりと難しい設定で果たしてどうなのかと思いましたけど、それでもシチュエーションの遵守だけで終わらずに、きちんとそれぞれに捻りが効いた工夫が盛り込まれていてなかなか楽しめました。巻末のあとがきにあった楽しそうな編集者と挑んだ作者の本音も良かったです。

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

世界の終わりと始まりの不完全な処遇

 

 九年前一度会ったきりの美しい少女を想い続ける大学生の花村遠野。大学にほど近い住宅街で吸血種の仕業とも噂される惨殺事件が発生し、サークル仲間と現場を訪れた遠野が記憶の中の美しい少女にそっくりな姉妹と出会う物語。運命的な再会を果たした少女と繋がりを持ち続けるため、警戒されない言葉や距離感を慎重に選びつつ事件解決に協力を持ちかける遠野。思わぬ方向に向かう事件にもブレない彼には感心しましたが、迎えた皮肉な結末は…本人的に結果オーライとはいえなかなか重いものを背負いましたね。そんな彼らの今後をまた読んでみたいです。

完パケ!

完パケ!

 

 経営難で閉校が噂される武蔵映像大学。卒業制作のドラマ映画を撮れるのはたった一人。コンペでガチンコ勝負した親友で監督志望の安原と北川が監督とプロデューサーとして映画製作に挑む青春小説。自らの抱える事情に苦しみながらも妥協しない不器用な監督・安原と、そのフォローをそつなくこなす一方で自分にないものに葛藤する北川の複雑な関係。そして映画に関わる制作側・役者たちにもそれぞれの葛藤があって、ぶつかりあいながら少しずつお互いを理解していって、完パケに向けてひとつにまとまってゆく熱い展開にはぐっと来るものがありました。

映画化決定

映画化決定

 

 過去に描いたマンガ『春に君を想う』を超えられず苦悩していた高二男子のナオトに、学生向けの映画で受賞している天才監督・ハルからの『春に君を想う』映画化オファー。最初は乗り気でなかった彼が少しずつ映画製作にのめり込んでいく青春小説。映画製作の過程でぶつかりあいながらも絆を深めてゆく二人。病をひた隠しにするハルと、映画制作を通じて『春に君を想う』の本質に向き合うことになってゆくナオト。葛藤と情熱が入り交じる形で進行していく物語の構図はわかりやすくて、だからこそ意外に思えたその結末には上手いなあと思わされました。

青春のジョーカー

青春のジョーカー

 

 スクールカースト最底辺に所属し、上位女子グループの咲が気になっていた中三の基哉。閉塞感の漂う毎日を送っていた彼が、兄を通じて知り合った年上の二葉との出会いからジョーカーを得て少しずつ変わってゆく青春小説。いじられる存在で好きな子との会話すらままならない基哉の窮屈な生活と、ちょっとしたことで景色が全く違って見えたり、些細な噂で置かれる状況が一変することへの戸惑い。狭い世界の中での優越感やつまらない意地で失って大切な存在を自覚したり、甘酸っぱくほろ苦い青春と不器用な彼らの成長にはぐっと来るものがありました。

青くて痛くて脆い

青くて痛くて脆い

 

 大学1年の春に秋好寿乃に出会い、二人で秘密結社「モアイ」を結成した楓。将来の夢を語り合った秋好はいなくなり、すっかり変わってしまったモアイを取り戻すべく楓が動き出す青春小説。周囲から浮いていて誰よりも純粋だった秋吉と、彼女の理想と情熱に感化されつつ徐々にすれ違うようになった楓。明らかになってゆく楓のモアイへの複雑な思いと不穏な構図、そしてやりきれない結末には流石に頭を抱えたくなりました。どこかで軌道修正できなかったのかいろいろ考えてしまいましたが、こういう自己陶酔的な青臭さや痛さもまた青春なんですよね…。

いまは、空しか見えない

いまは、空しか見えない

 

 抑圧する父親に反発して日帰り旅行を決行したホラー映画好きの優等生・智佳。偶然長距離バスで乗り合わせた同級生のギャル・優亜と出会い、人生が変わってゆく連作短編集。父親に縛られていた智佳、祖母の呪縛を看取った母、辛い過去に苦しめられる優亜、そして彼女の背中を押してくれた翔馬との出会い。外の世界を知って飛び出してもそうそう現実は甘くなくて、それでも多くの人と出会い、過去は断ち切れなくてもきちんと向き合えるようになってゆく結末には心に響くものがありましたね。デビュー作ということで次回作にも期待したい作家さんです。

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

ペンギンは空を見上げる (ミステリ・フロンティア)

 

 将来NASAのエンジニアを目指し風船宇宙撮影に取り組む小学六年生の佐倉ハル。意地っ張りでクラスでは孤立し、家に帰っても両親とぎくしゃくする彼が、金髪の転校生の女の子・イリスと出会い少しずつ変わってゆく青春小説。夢を追い真剣に取り組むハルの姿に共感し、自らは宇宙飛行士を目指そうとするイリス。そんな彼女の想いを突っぱねてしまうハルは複雑な事情を抱えていて、終盤明かされるひとつの真実には驚かされましたが、すれ違ったままで終わらせないために葛藤を乗り越えて頑張った二人のこれからを応援したくなる素敵な物語でした。

青の誓約 市条高校サッカー部

青の誓約 市条高校サッカー部

 

 稀代の名将と、絶対的エースの貴希に導かれ、全国の舞台に青の軌跡を描いた青森市高校サッカー部。当時の部員たちそれぞれのその後を絡めて描かれる青春群像劇。冒頭でいきなり異世界転生モノ展開になったのには驚きましたが、全体としては貴重な体験を共有した部員たちの複雑で繊細な心境が描かれてゆく連作短編集で、誰とも真摯に向き合って皆に好かれているのに、報われない片想いを続けていた真樹那に希望が見えた結末には救われた気分になりました。それにしても聖夏の話はその後がありそうな雰囲気で、機会があるならまた読んでみたいです。

放課後ひとり同盟

放課後ひとり同盟

 

 不幸だらけの状況に空から降ってくる不幸を蹴り続ける少女、気になる人を意識する高校生のままならない思い、再婚して違和感だらけになった家族と新たに加わった飼い犬、ストーカー気味な片想いの真実、少年が気づいた救ってくれた友人の真相。ままならない少年少女の不雑な心情を描いた青春連作短編集。登場人物たちはそれぞれゆるく繋がっている関係で、自分の努力では容易に解決しない問題を抱えていて、それゆえに辛い出来事にも遭遇しますが、ふとした転機からだいぶ救われた心境になってゆく、少しほろ苦いけれど悪くない読後感の物語でした。

愛と勇気を、分けてくれないか

愛と勇気を、分けてくれないか

 

 80年代後半、広島市民球場やデビューしたばかりのユニコーンが確かに息づいていたあの日。親が転勤族で広島にやってきた転校生・桃郎が美少女・小麦に一目惚れし、その憧れの人・由木野と出会う青春小説。地元愛に溢れる小麦に振り回されるようになってゆく桃郎が直面する、ままならならない片想いや、愛する街に対する熱くて複雑な想い、そして突然の暗転と思ってもみなかった終焉。今とはまた違う当時の雰囲気がよく出ていて、そんな切ない思い出が紆余曲折を経て今に繋がっているその結末には、いろいろ思い出したり感じるところがありました。

駒子さんは出世なんてしたくなかった

駒子さんは出世なんてしたくなかった

 

 公平な姿勢が評価され出版社の管理課課長を何とかこなす水上駒子に突然降って湧いた新規事業部署での次長昇進辞令。激変した環境に戸惑う駒子に家庭トラブルまで起きるお仕事小説。平穏な毎日を望んでいたはずなのに、セクハラの尻拭いや次長昇進から発生した問題の数々に加えて、家庭でも生じる専業主夫として支えてくれていた夫の仕事復帰や、息子の不登校問題。何を大切にすべきなのか優先すべきなのか、ままならない悩ましい状況が生々しく描かれていましたが、それでも試行錯誤して前向きに取り組む駒子が迎えた結末には救われる思いでした。

仕事は2番

仕事は2番

 

 吉丸事務機を舞台に、仕事や職場の人間関係、家庭に悩みを抱える登場人物たちが、悩みながらも次への一歩を踏み出すお仕事連作短編集。総務課の人間関係に向き合い奔走する優紀、職場でも家庭でも居場所がない中年課長・内野、仕事では優秀だが家庭は崩壊した岸、周囲の仕事のやり方に納得いかない沙也、小さい頃から輪になじめず仕事も休職したかおり、引きこもりだった栄太と向き合う幸雄。頑張っているのに上手くいかない彼らの姿にはどこか共感するものがあって、相手を理解しようとした彼らに光明がもたらされる結末はなかなか良かったですね。

若旦那のひざまくら

若旦那のひざまくら

 

 百貨店で働くアラフォーバリバリキャリアウーマン・長谷川芹が、一回り近く歳下の西陣の老舗織物屋の若旦那・充と出会い結婚を意識するも、京都での考え方の違いや反対する両親、美しい充の幼馴染など次々と障害が立ちはだかる物語。仕事を辞めて京都に乗り込んだ芹が選んだ問題解決方法が、西陣界隈の業界立て直しだったりするあたりがらしいなと苦笑いでしたけど、苦難にもめげず奔走する姿だったり、そんな彼女を支えてくれる存在もいたりで、きちんと向き合って状況をいい方向に変えようとする物語が迎えた結末にはぐっと来るものがありました。

みとりし

みとりし

 

 派遣切りで職を失った薫が、幼い頃に一緒に事故に遭った陽太と偶然再会し、彼が社長を務めるペットの看取りをするペットシッターに再就職する物語。幼くして両親を失い伯母夫婦に育てられ、いい子を演じ続けるうちに自分が分からなくなってしまっていた薫。なかなか難しい人生を送ってきたことで、なかなか自分からアクションを起こせない不器用な彼女が、仕事を通じて飼い主やペット、そして関係者と関わっていくうちに様々な思いに触れ、陽太たちにも支えられながらきっかけを積み重ね、少しずつ変わってゆく展開はなかなか良かったと思いました。

さよなら、わるい夢たち

さよなら、わるい夢たち

 

学生時代の友人・麻衣亜の夫のSNSによって彼女が幼い息子を連れて失踪したことを知ったジャーナリストの長月菜摘が、行方不明の麻衣亜の行方と失踪に駆り立てた要因を探るミステリ。彼女が失踪した理由を知らないという夫や両親・同僚たちの話から徐々に明らかになっていく、追い詰められていった麻衣亜の悲惨な境遇。悪い夢を見ているような状況を突きつけられた彼女の絶望を思うと暗澹たる気持ちになりましたが、腹を括った麻衣亜の覚悟と周到に準備され暴かれてゆく事実によって、これまでの構図が激変してゆく意外な結末には驚かされました。