読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

2018年上半期注目のオススメ新作ライト文芸29選

というわけで上半期注目のオススメ新作企画第三弾ライト文芸編です。最近はライト文芸レーベルでもいろいろ話題作が出てきて、けれど刊行点数もわりと多かったりする状況で、自分もどれを読むべきなのか悩むことがよくありますが、そんな自分がおすすめする上半期新作29点を紹介します。参考にしていただければ幸いです。

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

 

 後宮奥深くにいる夜伽をしない不思議な力を持つ特別な妃「烏妃」。翡翠の耳飾りに取り憑いた女の幽霊の正体を探るべく訪れた皇帝・高峻が、その不思議な力を目の当たりにする中華風ファンタジー。辛い過去を抱え烏妃として孤独に生きようとする寿雪と、少年時代に生母を皇太后に殺され辛酸を舐めた高峻。後宮で起きる幽鬼絡みの事件を解き明かす過程で二人が関わる機会は増えていって、不器用な彼らの距離感や周囲との関係の変化はとても微笑ましくて、秘密を共有した二人がこれからどう変わってゆくのか、この続きを是非読んでみたいと思いました。

鍵屋の隣の和菓子屋さん つつじ和菓子本舗のつれづれ (集英社オレンジ文庫)

鍵屋の隣の和菓子屋さん つつじ和菓子本舗のつれづれ (集英社オレンジ文庫)

 

 高校を卒業し「つつじ和菓子本舗」へ住み込み、専門学校へ通いつつ和菓子職人の修業をスタートさせた淀川多喜次。恋する男子の和菓子な日々が描かれる『鍵屋甘味処改』スピンオフ小説。看板娘・祐雨子にプロポーズするも保留され、修行でも和菓子作りに携われない多喜次のもどかしい日々。お隣のその後の様子も垣間見えたり、一歩先ゆく同年代・柴倉の出現に危機感を募らせながら、周囲で起きる和菓子絡みの事件に体当たりで挑む多喜次の頑張りを祐雨子さんも見てくれていますね。柴倉もいいライバル関係になりそうで、この続きをまた読みたいです

マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年 (集英社オレンジ文庫)

マグナ・キヴィタス 人形博士と機械少年 (集英社オレンジ文庫)

 

 人工海上都市『キヴィタス』のアンドロイド管理局に勤める若きエリート技師エルが、仕事からの帰り道で登録情報のない野良アンドロイドの少年・ワンと出会い不思議な共同生活を始める物語。アンドロイドが貴重な労働力になっている世界で、不器用だけれどアンドロイドには真摯に向き合うエルに、訳ありなアンドロイドのワンは何だかんだ言いながらも振り回されっぱなしで、エルの事情も明らかになってゆく中、二人の関係性がワンの過去を巡る騒動と絡めつつとてもいい感じに描かれていたと思いました。もし続巻あるようならまた読んでみたいですね。

雪があたたかいなんていままで知らなかった (オレンジ文庫)

雪があたたかいなんていままで知らなかった (オレンジ文庫)

 

 地元の名士の生まれながら、幽霊が見えることで周囲から孤立する澤村千尋の前に現れた赤いマフラーの幽霊少女。協力してくれたクラスメイトの岩木君やリンたちと共に、記憶を失っている彼女の過去を探し始める青春ミステリー。過去のトラウマから逡巡しながらも始まった身元捜索。それぞれ苦い過去が明らかになってゆく岩木とリン、そして本家の魔王的存在・従兄の義孝。その過程で少しずつ広がって変わってゆく周囲との関係と、いろいろ過去や事実が少しずつ繋がってゆく構成はとても上手くて、切ないけれどぐっと来るものがある素敵な物語でした。

あなたの人生、交換します The Life Trade (集英社オレンジ文庫)

あなたの人生、交換します The Life Trade (集英社オレンジ文庫)

 

 自分の人生を交換するパーティーの招待状。その招待状を受け取った就職活動や婚活に失敗し続け、病気の母に苦労する山田尚子が、憧れていた国際的美人ピアニスト・桜庭響と人生を交換する物語。今の人生を生きる自分が不幸だと感じていた二人が、お試し期間の二週間付きの入れ替わりができると知って決断し、それぞれ経験してゆくもうひとつの人生。これまでと正反対の新鮮な生き方に刺激を受けたからこそ、見切りをつけようとしていたこれまでの人生で本当に大切だと感じていたことを自覚し、向き合っていこうとする展開はなかなか良かったですね。

今夜、2つのテレフォンの前。 (集英社オレンジ文庫)

今夜、2つのテレフォンの前。 (集英社オレンジ文庫)

 

 幼馴染・想史に思いを寄せる女子高校生・志奈子と、初恋の女性の結婚が決まったと聞き動揺する高校教師の直江。不思議な縁で電話をするようになった二人が毎晩相談の電話を積み重ねてゆく物語。いつの間にか上手く行かなかった自分と幼馴染の関係を重ね合わせて、別の高校に通うようになって口を聞いてくれない想史と志奈子の恋を応援する直江。そんな繋がりをもたらしたきっかけには苦笑いでしたけど、きちんと向き合った志奈子だけでなく、自身もまた想いを燻らせていた直江が大切な人に想いを伝えようと奔走する姿には心に響くものがありました。

君が死ぬ未来がくるなら、何度でも (集英社オレンジ文庫)

君が死ぬ未来がくるなら、何度でも (集英社オレンジ文庫)

 

 とある日の朝、幼馴染の高遠原櫂から急に呼び出され、おメダイを渡された時計紡。櫂の妹で親友でもある暖の死を目の当たりにした紡が、その死を回避すべく運命の朝を繰り返してゆく物語。繰り返し条件を変えていってもなかなか回避できない友人たちの死。回避の鍵を握る幼馴染の櫂と暖を巡る複雑な三角関係と、運命線を分岐させる死亡フラグと恋愛フラグの存在。大切な人たちを誰も失いたくない一心で葛藤し続けた紡の悲壮な決意には切なくなりましたが、遠回りこそしたものの彼らがたどり着いたその結末には、本当に良かったと胸が熱くなりました。

 何か縁を切りたいものがあることが入居条件のシェアハウスえのき荘。その管理人に雇われた芽衣が、訳ありなシェアメイトと交友を深めてその卒業を見届ける物語。過剰なダイエットをするOLの理由、アニオタを隠すホスト、医者家系の期待を背負った4浪中の浪人生、そして口は悪いけれど優しい二代目大家。住人たちのエピソードから掘り下げられてゆくそれぞれの事情と大家とともに見届ける結末、そして管理人である彼女自身もまた実家の悪縁に縛られていて、彼らの心地よい距離感と優しさが心に沁みる物語でした。続刊あるならまた読みたいですね。

きみを忘れないための5つの思い出 (集英社オレンジ文庫)

きみを忘れないための5つの思い出 (集英社オレンジ文庫)

 

 他人の記憶に極端に残りにくい体質の少女、自分に恋する人の視力が下がってしまう少女、教室から出られなくなってしまった少女、事故で意識不明の恋人とメールでやり取りできるようになった少女と、少し変わった性質を持った少女たちと彼女に恋した少年たちの物語を描いた連作短編集。人と違う自分を意識することで周囲と距離を置いていた少女たち。そんな頑なになっていた彼女たちが築いた壁に挑む男の子たち、乗り越えようとしたヒロインには苦難や葛藤が伴いましたけど、それでも諦めずに乗り越え人生が変わってゆく展開はなかなか良かったです。

あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)

あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)

 

 バイオリニストの夢破れ、楽器販売店での仕事もクビになった惠理が、衝動のまま夜行バスで向かった先の仙台で「あやしバイオリン工房」の店主・大地と伝説のバイオリンの精・弦城に出会う物語。自信を喪失したまま店で働き始めた惠理と、誰が弾いても音が出ないぶっきらぼうなバイオリンの精・弦城。最初はぎこちない距離感だった二人でお店を訪れる客からもたらされるバイオリンを巡る不思議な謎を解いていく展開でしたが、迷える惠理の想いと複雑な弦城の過去がひとつに繋がっていって、一緒に乗り越えてゆく結末はなかなか良かったと思いました。

魔女の魔法雑貨店 黒猫屋 猫が導く迷い客の一週間 (集英社オレンジ文庫)

魔女の魔法雑貨店 黒猫屋 猫が導く迷い客の一週間 (集英社オレンジ文庫)

 

 困りごと、迷い客の目の前にふと現れる「魔女の魔法雑貨店 黒猫屋」街で噂の魔女で黒猫屋の店主でもある淑子さんが迷い込んできたお客にささやかな奇跡を起こす連作短編集。おばあちゃんが庭で育てていた命の花の正体、コスメカウンターの新米魔女が悩んでいた勘違い、花屋の後輩に贈られた花の本当の意味、亡くなった兄から家族へのメッセージ。常連たちと不定期に魔女のお茶会を開く淑子さんが、最初は魔女の魔法に懐疑的だった彼女たちの誤解を解きほぐしつつ、肩の荷をそっと下ろしてあげる優しさがじんわり温かく感じられた素敵な物語でした。

恋するアクアリウム。 (富士見L文庫)

恋するアクアリウム。 (富士見L文庫)

 

 会社にも地元にも居場所がなくなり上京した浅見桐子。しかし落ち着き先を火事で失い、仕方なく歳下の幼馴染・佐倉井真也の元に転がり込んで同居生活が始まる「おいしいベランダ。」のスピンオフ小説。魚マニアだった弟分を甲斐甲斐しく世話したり振り回したりで、その日常を確実に塗り替えてゆく桐姉の存在感。なのに転職先が決まってあっさり終わった同居生活と、思わぬところから明らかになる彼女の上京理由。お人好しで面倒見の良いところが裏目に出ていた桐姉でしたけど、彼女をよく知る真也の真摯な想いが心にじんわりと来る素敵な物語でした。

完璧主義男に迫られています (富士見L文庫)

完璧主義男に迫られています (富士見L文庫)

 

 イベント会社でバリバリ働く卯月陽菜に告白したのは、営業の堅物なイケメン完璧主義男・長谷川薫。キッパリ断った陽菜が、諦めない長谷川の誠実かつ隙のないアプローチに迫られてゆくラブコメディ。好きになったものの、理想からかけ離れている陽菜を自分好みの女性にしようとする長谷川。小言は多いけれどぞっこんで誠実な長谷川の積極性に、いろいろトラブルもフォローしてくて、きちんと向き合うようになってゆく陽菜の関係がいいですね。長谷川の独占欲も可愛くて、いつの間にか甘々なカップルになっていてごちそうさまという感じでした(苦笑)

木崎夫婦ものがたり 旦那さんのつくる毎日ご飯とお祝いのご馳走 (富士見L文庫)
 

 著名な作家を父に持つ文筆家の島田ゆすらと、偶然出会った木崎修吾の電撃結婚。父の残した家で共同生活を始めた新米夫婦の日々が綴られてゆく物語。不安定だったゆすらと優しい木崎の美味しいものを食べたり、のんびりと寄り添うような夫婦生活。一方で作家としての自分のありように苦悩するゆすらのこと、作家だった父やふらりと家を出た弟の存在だったり、複雑な想いを抱く幼馴染・崇の存在もあったり、もしかしたらの可能性に切なくなりつつも、夫婦として作家として生きてゆくことにきちんと前向きになれた結末にはぐっとくるものがありました。 

西陣あんてぃく着物取引帖 (富士見L文庫)

西陣あんてぃく着物取引帖 (富士見L文庫)

 

 母親の羽織を持って京都・西陣のアンティークショップを訪れた薬剤師の純花が、金髪碧眼の店主・アレックスと出会い、因縁の羽織の真相究明のため二人で出処を調べることになる物語。アレックスの祖母と同じ柄の着物、そして男を作って家を出た純花の母を巡る因縁。紳士的で着物に対する造詣が深いアレックスと会い様々なことを知るうちに、少しずつ変わってゆく純花の心境。着物に関する興味深いエピソードや意外な繋がりもあったりで、今回の謎は明らかになりましたけど、アレックスたちとの今後も気になるのでもう少し続きを読んでみたいですね。

八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく (富士見L文庫)

八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく (富士見L文庫)

 

 対立を続けてきた公家との和睦を目指すため、武士最強の娘・雲雀に持ち上がった縁談。しかしそれは時間稼ぎでしかなくて、父に騙されて十も年下の一年限りのお飾り東宮・鈴鳴に嫁がされてしまう物語。このままでは終われない彼女が鈴鳴と組んで逆転を目指す展開で、そんな彼女たちの前に立ちはだかる親王・暮明と妻・鎬雨、そして暗躍する陰陽師・雅親。だいぶ分の悪い状況からのスタートでしたが、暮明に引け目を感じながらも姉さん女房・雲雀の期待に応えるべく鈴鳴がかなり頑張ったりで、ここからどう逆転していくのか面白くなっていきそうです。

契約結婚ってありですか 利害一致から始まる恋? (富士見L文庫)

契約結婚ってありですか 利害一致から始まる恋? (富士見L文庫)

 

 美容師を辞めて福岡に戻ってこいという両親を振り切るため、結婚相談所に駆け込んだ西依咲。切実な状況を訴えた目の前の相談員・成嶋玲司から利害一致の契約結婚を提案される新婚生活物語。良くも悪くもざっくばらんで素直な性格の咲と、人の機微に疎く神経質だという自覚はある玲司がルールを決めながら、職場の人招待だったり、義妹や幼馴染・両親の突然の襲来だったり、二人で生活していく中で一緒にいろんなことをこなしていくうちに、それぞれ心境だったり距離感も変わってゆく展開は良かったですね。続きがあるようならまた読んでみたいです。

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

文豪Aの時代錯誤な推理 (富士見L文庫)

 

 自死を遂げたはずの芥川龍之介羅生門の下で見せられたのは、未来の地獄絵の如き事件とある女性の死。「羅生門現象」と呼ばれる事件を食い止めるため、時代錯誤な文豪探偵・龍之介が現代の東京に蘇る物語。いきなり現代に転生してそのギャップに戸惑いながらも、芥川オタクで教師を辞めた弥生を家政婦として雇いつつ、彼女を救うべく問題解決の方法を模索する時代錯誤な龍之介。正直事件の解決そのものよりも、平野レミ先生の番組で料理を習ったり現代文明に感化されてゆく姿や、何だかんだで惹かれ合う弥生との不器用なやりとりが楽しかったです。

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 (講談社タイガ)

 

 現世に未練を残した人間の前に現われる閻魔大王の娘・沙羅。彼女がそんな彼らに願いに応じてある持ちかける生と死を賭けた霊界推理ゲーム。登場人物たちが直面する突然の暗転と、沙羅によって提示される究極の選択。読みやすいテンポよく進む展開の中にヒントを織り交ぜつつ提示されてゆく謎解き。被害者たちに容赦のない現実を突きつけながら解決する可能性も提示して、彼らにしっかり考えさせてそれぞれのエピソードを良かったなと思える結末に導いてゆく沙羅の不思議な魅力が効いていましたね。続刊も決まっているようなので楽しみにしています。現在二巻まで刊行。

そして僕らはいなくなる (講談社タイガ)

そして僕らはいなくなる (講談社タイガ)

 

 優等生の「着ぐるみ」をかぶって生活する高校生・宗也。帰宅の遅い幼馴染を捜しに出かけ事故に遭った宗也は断片的な幻覚に襲われるようになり、クラスで孤立する志緒と謎を追う青春ミステリ。不可思議な幻覚を共有した志緒と関わり、事件の真相を追ううちに少しずつ変わってゆく宗也の日常や心境。誰もが複雑な思いを抱える登場人物たちの心理描写は繊細で、幻覚を頼りに迫った事件の意外な真相は明示されないまま推測するに留まりましたが、それでもぐいぐい読ませる緊張感のある展開と、彼らが迎えた悪くない結末には充実した読後感がありました。

 就職活動に失敗した夏芽勇作が出会った呪いを招く特殊文化財を専門とする、神祇鑑定人・九鬼隗一郎。相棒となった二人が奇怪な謎を解いてゆく物語。魔術に傾倒した詩人・イェイツの日本刀、キプロスの死の女神像、豊臣秀吉が愛した月の小面。多くを語らない謎めいた九鬼によって明かされてゆく勇作が隠していた秘密と、勇作の力を上手く使って問題を解決してゆく九鬼。魔術や曰くある骨董品を絡めたオカルティックな内容で、登場人物たちもまたミステリアスで存在感がありましたし、彼らの関係がどう変わってゆくのか、続巻に期待のシリーズですね。

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

 

 連続殺人の現場には謎の紐と鏡。逃亡中の容疑者は橘終の双子の妹・乙黒アザミ。大切な彼女を密かに匿いつつ、常識では測れない彼女の想いを理解するため、他の異常犯罪を調べ始めるミステリ。近くで立て続けに起こる連続殺人・吸血事件・児童誘拐といった異常犯罪に巻き込まれてゆく終と、信じたいと思いながらも拭えないアザミへの疑惑。ホラーテイストのぞわりと来るような雰囲気の物語で、「向こう側」の人たちを引き寄せずにはいられない二人を取り巻く特異性と、最初は対極に思えた終とアザミに共通するどこか歪んだ愛情がとても印象的でした。

七月のテロメアが尽きるまで (メディアワークス文庫)

七月のテロメアが尽きるまで (メディアワークス文庫)

 

 人付き合いを避け生きてきた高校生の内村秀。ある日クラスメイト飯山直佳が落としたUSBメモリを拾い、中身の遺書を見てしまったことから奇妙な交流が始まる青春小説。彼女が進行性の記憶障害を患って自殺したがっていると知り、関わりたくなかったのに気になって仕方ないと自覚した秀が交わしたひとつの約束。秘密と約束を共有するようになった二人に訪れた転機と、やがて明らかになってゆく秀の苦い過去があって、その全てが繋がってゆく急展開には驚かされもしましたが、決着をつけた二人のその後のありようにはしっくり来るものがありました。

 疲れ果てたアラサーOL香実の会社にやってきた新人は、彼女の初恋の相手で当時のまま姿が変わらない不思議な青年・樹々。十三年ぶりに訪れた奇跡の再会から彼女が転機を迎えてゆく物語。唯一の肉親・祖母が亡くなった上に会社も業績不振で、尊敬する先輩が去り自身も契約社員に降格されたりと散々な状況で再会した樹々。その存在に癒やされ惹かれてゆく一方で、突きつけられる樹々が何者なのかという疑問。それでもかけがえのない存在だからこそ向き合い、真実を知っても自分なりのやり方を模索し共にあろうとする姿は心に響くものがありました。

笑う書店員の多忙な日々 (メディアワークス文庫)

笑う書店員の多忙な日々 (メディアワークス文庫)

 

 東京の小さな書店で新人バイトの紗和が直面する現実。そんな彼女に仕事を教える文庫文芸担当の楠奈津が、某出版社から持ち込まれた新人デビュー作のゲラに衝撃を受けて全店フェアを提案するお仕事小説。都内の書店でもこれくらい過酷な職場環境なのかと感じつつ読みましたが、書店が大好きで仕事に取り組む書店員たちがいきいきと描かれていて、初心者の紗和と経験を積んだ奈津の両視点から書店を描こうとして視点の切り替わりが多かったのはやや気になったものの、周囲も巻き込んで一丸となって本を売りに行く展開にはぐっと来るものがありました。

浅草和裁工房 花色衣: 着物の問題承ります (小学館文庫キャラブン!)

浅草和裁工房 花色衣: 着物の問題承ります (小学館文庫キャラブン!)

 

 ファッション雑誌から着物専門誌の編集部へ突然異動になった体力だけが自慢の新米編集者・陽菜子が、さっそく取材を任されて向かった浅草で美形の和裁士・八月一日桐彦に出会う浅草着物ミステリー。飄々とした態度で陽菜子をからかってくる八月一日と、そんな彼に素直になれない陽菜子という組み合わせでしたけど、仕事には真摯に取り組む陽菜子の姿勢だったり、友人の結婚相手の問題や陽菜子の祖母と母の着物を巡る長年の確執をうまくフォローしてくれる八月一日に、不器用なりに少しずつ惹かれていく様子がとても可愛くてなかなか良かったですね。

さくら花店: 毒物図鑑 (小学館文庫 み 7-1 キャラブン!)

さくら花店: 毒物図鑑 (小学館文庫 み 7-1 キャラブン!)

 

 植物の声を聞くことができる雪乃が店主の「さくら花店」を訪れるのは心に深い悩みを抱える客ばかり。そんな彼女を支える樹木医の夫・将吾郎との夫婦の日々と植物にまつわる事件を描く物語。不穏な雰囲気の男と不思議な色をつける紫陽花、雪乃と同じ植物の声が聞こえる少年・ヒロ、一見仲よさげな母娘が抱える苦悩。歪んだ家族の切ないエピソードは必ずしも残念な結末ばかりでもなくて、雪乃と将吾郎の率直で不器用なお互いの存在が不可欠に思える夫婦関係と、そこに居場所を見出したヒロたちが今後どうなってゆくのかまた読んでみたいと思いました。

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

 

密室で謎の死を遂げた人工知能研究者の父。その死に疑問を持った高校生の息子・輔が、探偵AI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人AI・以相を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知るミステリ。対となる存在の探偵と犯人という双子AI。明らかになる人工知能による世界統治を目指すオタクコアの存在。分かりやすい解説を加えながら語られる発展途上の存在から深層学習で成長する人工知能たちを軸とする展開は、やや強引かなと感じられる部分もありましたがなかなか興味深くて楽しめました。シリーズ化に期待ですね。

時は止まったふりをして(新潮文庫)

時は止まったふりをして(新潮文庫)

 

※書籍版がうまく表示できないためKindle版を選択しています。 

小牧が高校時代に付き合っていた凌馬。同窓会で再会した彼のもとに十二年の歳月を経て届くはずのないフイルムが届いて、そこから忘れていた過去と感情が蘇ってゆく青春恋愛ミステリ。十年前友人だった小牧や知葉たちの視点で描かれる甘酸っぱくてほろ苦い青春の日々と、三十路を前にした社会人としてのそれぞれの現在地。当時は明かされなかった密かないくつもの想いがあって、一方で今大切にしたいと思っている関係があって。清算されてゆく心残りだった過去が現在に繋がって、迷える背中をそっと押してくれる展開にはぐっとくるものがありました。