読書する日々と備忘録

主に読んだ本の紹介や出版関係のことなどについて書いています

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2018年2月に読んだ新作おすすめ本

 

 改めて眺めてみると新刊追いついているのはラノベだけで、それ以外は遅れ気味になっているのがよくわかるラインナップですが、今回もまた印象的な新作がいろいろありました。個人的な注目としては「優雅な歌声が最高の復讐である」(電撃文庫)、「最後にして最初のアイドル」(ハヤカワ文庫JA)、「室町繚乱」(集英社文庫)、「雪には雪のなりたい白さがある」(創元推理文庫)、「君を描けば嘘になる」(KADOKAWA)、「僕と彼女の左手」(中央公論新社)あたりですかね。気になる本があったら是非読んでみて下さい。

 

滅びの季節に《花》と《獣》は  〈上〉 (電撃文庫)

滅びの季節に《花》と《獣》は 〈上〉 (電撃文庫)

 

 滅びの危機に瀕する花の街スラガヤ。奇蹟の操り手「大獣」に仕えることが定められた奴隷の一人・クロアと、郊外の廃墟に居を構える美しき大獣「貪食の君」が一つ屋根の下でぎこちない愛を育んでいく物語。奴隷市場で売れ残ったクロアと、彼女の成長を人の姿で見守ってきた「貪食の君」。慕われていた人の姿を隠したまま同居を始めた二人の何とも不器用な距離感や大切な人たちとの関係がもどかしくもぐっと来る感じで、今に幸せを感じながらも街を守るため立ち上がるクロアたちの奮闘の結末がどんな展開に繋がるのか、下巻が早く読みたくなりました。

優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)

優雅な歌声が最高の復讐である (電撃文庫)

 

 怪我でサッカーを辞めて灰色の高校生活を送る隼人と、歌姫として学校で注目される瑠子。近寄り難い存在だったはずなのに、ふとした繋がりからお互い意識するようになってゆくボーイミーツガール。周囲に上手く溶け込めない瑠子をさりげなくフォローする隼人と、そんな彼への評価が変わってゆく瑠子。お互い消化しきれない葛藤を抱えていて、強気なのに不器用で繊細な瑠子との出会いから隼人も少しずつ変化して、もがきながらも一緒に乗り越えようとする二人の関係と、強く心に訴えかけてくる熱い想いはとても真っ直ぐでぐっと来るものがありました。

廻る学園と、先輩と僕 Simple Life (ファミ通文庫)

廻る学園と、先輩と僕 Simple Life (ファミ通文庫)

 

 学園一の美少女と噂される片瀬先輩。そんな彼女をとある事件から救った歳下の千秋那智が急接近してゆく学園ラブコメディ。真っ直ぐで可愛くて女の子たちから人気があるのに自覚がない年下の那智と、そんな彼の言動が気になって何とも複雑な気持ちになってゆく人気者・片瀬先輩の繊細でもどかしい距離感。彼らを取り巻くキャラたちもよく動いて二人にちょっかいを出したり応援しながら、少しずつ二人が自分の気持ちを自覚して向き合うようになってゆく展開で、先輩はちょっと気が早いかなとも感じましたけど(苦笑)、とても素敵な結末に思えました。

可愛い女の子に攻略されるのは好きですか? (GA文庫)

可愛い女の子に攻略されるのは好きですか? (GA文庫)

 

 日本の裏社会を牛耳る南条家の娘・姫沙の罠に嵌り、弱みを握られた日本の将来を担う政治家の卵・北御門帝が、姫沙から相手を好きになったと認めたら負けの「惚れさせゲーム」を提案される恋愛ゲームラブコメ。お互いの将来を賭けたゲームで、ポンコツツンデレな姫沙の策略に振り回され続ける帝。内心デレデレな姫沙の無茶なアプローチに理性崩壊寸前の帝という分かりやすい構図には苦笑いでしたけど、帝が気になる姫沙妹や親が決めた帝の婚約者も絡めた展開は安心して読めました。諦めの悪いライバルたちがどんな手を打ってくるのか、続巻に期待。

如月さんカミングアウト【電子特別版】 (角川スニーカー文庫)
 

 「絶対零度の女帝」として君臨する生徒会長・如月キサキ。偶然彼女が隠れオタクだったことを知った日向和也が副会長として生徒会に引き込まれ、秘密のオタ友として一緒にオタク生活を満喫する青春小説。厳しい家の事情で放課後をオタクライフに費やす意外と積極的なキサキとの楽しい日々。訳あって集まった曲者揃いな生徒会メンバーの思惑は、なぜか(?)ことごとくキサキとの甘いハプニングに繋がっていて、つまるところ何もかもがキサキと和也のラブコメへ集約されてゆく展開にあまり意外性はなかったですが、これはこれで楽しめた一冊でした。 

裏方キャラの青木くんがラブコメを制すまで。 (角川スニーカー文庫)
 

 担当がついたもののなかなかデビューできない高校生作家の青木。そんな彼を恋愛マスターと勘違いした演劇部所属の憧れの綾瀬マイから、劇の脚本執筆を依頼される青春ラブコメディ。魅力的な彼女にどんどん惹かれてゆくのに、自信がなくて一歩を踏み出せずドツボにハマってゆくジレンマ。理解者の親友や彼女にお似合いのイケメン主人公キャラ、二人を振り回す女友達を配する王道な展開でしたけど、行き詰まっていた状況を打破する疾走感には勢いがあって、なのに何となく締まらない残念な結末に主人公らしさを感じてしまうなかなか面白い一冊でした。

 

 

この空の上で、いつまでも君を待っている (メディアワークス文庫)

この空の上で、いつまでも君を待っている (メディアワークス文庫)

 

 現実を生きる女子高生・美鈴がある夏の日に出会った、叶うはずのない夢を追い続ける少年・東屋智弘。自分とは正反対に夢へ向かって一心不乱な彼に、呆れながらも惹かれていく青春小説。ゴミ山から部品を探し一人宇宙船を作る東屋の行動に呆れつつも、徐々に変わってゆくその心境。思わぬ形での終焉に心を痛め、みんなを巻き込んで東屋の夢を叶えようと動き出す美鈴。力を合わせて生み出されたひとつの成果があって、美鈴と喜ぶ東屋には抱える秘密とひとつの約束があって、強い想いが奇跡に繋がってゆく結末はなかなか爽やかで良かったと思いました。

あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)

あやしバイオリン工房へようこそ (集英社オレンジ文庫)

 

 バイオリニストの夢破れ、楽器販売店での仕事もクビになった惠理が、衝動のまま夜行バスで向かった先の仙台で「あやしバイオリン工房」の店主・大地と伝説のバイオリンの精・弦城に出会う物語。自信を喪失したまま店で働き始めた惠理と、誰が弾いても音が出ないぶっきらぼうなバイオリンの精・弦城。最初はぎこちない距離感だった二人でお店を訪れる客からもたらされるバイオリンを巡る不思議な謎を解いていく展開でしたが、迷える惠理の想いと複雑な弦城の過去がひとつに繋がっていって、一緒に乗り越えてゆく結末はなかなか良かったと思いました。

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

今夜、君に殺されたとしても (講談社タイガ)

 

 連続殺人の現場には謎の紐と鏡。逃亡中の容疑者は橘終の双子の妹・乙黒アザミ。大切な彼女を密かに匿いつつ、常識では測れない彼女の想いを理解するため、他の異常犯罪を調べ始めるミステリ。近くで立て続けに起こる連続殺人・吸血事件・児童誘拐といった異常犯罪に巻き込まれてゆく終と、信じたいと思いながらも拭えないアザミへの疑惑。ホラーテイストのぞわりと来るような雰囲気の物語で、「向こう側」の人たちを引き寄せずにはいられない二人を取り巻く特異性と、最初は対極に思えた終とアザミに共通するどこか歪んだ愛情がとても印象的でした。

ポスドク! (新潮文庫)

ポスドク! (新潮文庫)

 

 指導教官の不祥事で出世の道を閉ざされ、姉が育児放棄した甥・誉を養ってもいる月収10万円の私大非常勤講師・瓶子貴宣。正規雇用を諦めない貴宣の前に千載一遇のチャンスが現れる物語。他人の出世を羨み、極貧にあえぐ貴宣に権力者から提示されたリスクの高い尻拭い。負け戦を必死に戦い抜くその奮闘ぶりや、周囲との何とも複雑な心情が入り交じるやりとりは尻上がりに面白くなっていって、誉を取り戻すために乗り込んでいく貴宣はカッコ良かったですね。ただ愚直なだけでなく、したたかに逆襲の方法を考えるその性格の悪さも良かったです(苦笑)

 

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

最後にして最初のアイドル (ハヤカワ文庫JA)

 

 会いに来る新世代のアイドルを描いた「最後にして最初のアイドル」ガチャに取り憑かれたフレンズたちが宇宙創世の真理へ驀進する「エヴォリューションがーるず」異能の声優たちが銀河を大暴れする「暗黒声優」の三編が収録された作品集。何か凄いらしい…とは聞いてましたが、オタクの心を掴むキーワードのはずが全く別の何かに成り果てていて、一方でSFとしては壮大なスケールの物語だったりで、そんなギャップがこの本を読む前提としてあるために、その強烈なインパクトをどう評価すればいいのかちょっとよく分からなくなった一冊でした(苦笑)

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)

 

 南北朝時代南朝帝の妹宮・透子が北朝に帰順した楠木正儀を連れ戻すべく、乳母と二人きり吉野から京へと乗り込む過程で、若き日の宿敵・足利義満観阿弥世阿弥親子と出会う時代小説。跳ねっ返りだった世間知らずな透子の無謀な行動の顛末と意外な出会い。周囲の言うことを鵜呑みにしていた透子が様々な人と出会い、真摯に語らうことで知ってゆく複雑な世界のありよう。自らの無力を痛感しつつも、無用な争いを回避するために奔走する彼女の成長があって、魅力的に描かれた実在の登場人物たちを絡めたテンポの良い展開はなかなか良かったですね。

 公園を舞台にした五つの転機が綴られる連作短編集。港が見える丘公園でのおじいさんとの出会い、ムーミンをきっかけに出会った二人の別離とそれぞれの再出発、石神井公園を舞台にした憧れの人との再会、航空公園を舞台とした中学三年生の冬に別れた同級生の恋人を忘れられずにいた瑞希の決意と、文庫収録の彼の視点短編。いずれも自分が行ったことがある公園で、うまくいかない状況を抱えた登場人物たちが、そこでの出会いをきっかけに新たな一歩を踏み出す展開には心に響くものがある素敵な物語でした。最後の話の後どうなったのか気になりますね。

魔女 (創元推理文庫)

魔女 (創元推理文庫)

 

 なりたいものもなく大学卒業後、知人の手伝いをする日々を送る広也。報道記者の姉の依頼で元カノの焼死事件を探ることになり、事件や周辺を調べることになるミステリ。職場の友人、大学時代の友人、不倫相手、祖母、そして異父妹と取材を進める度に変わってゆく元カノ・千秋の印象。破滅した不倫相手の溺死と、気づいてしまった千秋の悲しい過去、一度は決着したかに見えた事件の真相。淡々としていて気持ちが見えなかった広也が事件を解決して、大切に思えるものがあることが示唆される結末までぐいぐい読ませてくれる、なかなか面白い作品でした。

京洛の森のアリス (文春文庫)

京洛の森のアリス (文春文庫)

 

 幼い頃に両親を亡くし、引き取られた叔母の家でも身の置きどころのなかった少女・ありすが、遠く離れた京都で舞妓修業を決意し、老紳士に連れられて不思議な京洛の森に迷い込む物語。彼女に寄り添うカエルのハチスやウサギのナツメと共に京洛の森で生きていくことを決意したありすと、彼女が幼い頃に交わした少年・蓮との約束。物語の構図としてはとても分かりやすくて、それでいて散りばめられていた伏線が後々効いてくる展開で、おとぎ話風の雰囲気の中にも著者さんらしさがよく出ていた素敵な物語でした。その後のお話にも是非期待したいですね。

君にささやかな奇蹟を (角川文庫)

君にささやかな奇蹟を (角川文庫)

 

 子供の頃からの絵本作家の夢を諦めて百貨店のおもちゃ売り場で働く阿部伊吹。突然上司からサンタクロースの嫁になることを提案され、最悪の出会いからお互い変わってゆく恋の物語。実在したサンタクロース家にまつわる事情と、伊吹に一目惚れした引きこもりで世間知らずなサンタクロース・聖也。彼女が探していた大切なものを見つけようとする聖也が迎えた転機と、再び夢に向き合うことを決意した伊吹。人生をこじらせていた者同士の出会いというベタな展開でしたけど、新たな一歩を踏み出した二人が再び出会う結末はなかなか良かったと思いました。

死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

 

 特殊清掃員として働くうちに死者の放つ香りを他の匂いに変換する特殊体質になってしまった桜庭潤平。そんな彼が分析フェチの准教授・風間の助手にスカウトされ、死の香りで殺人事件を解決するミステリ。美少女と見紛うような主人公の風貌とイケメン准教授という組み合わせや特異体質をうまく利用される関係と、わりとキャラクターを前面に押し出した雰囲気もあって、匂いで事件解決に繋げてゆく展開はミステリとして見るとやや弱い感もありましたけど、読みやすくなかなか面白かったとは思いました。シリーズ化したら大変そうな体質ですね(苦笑) 

ふたり姉妹 (祥伝社文庫)

ふたり姉妹 (祥伝社文庫)

 

 突然田舎に帰ってきた東京で働く姉の聡美。実家暮らしで血痕を間近に控えた妹の愛美はこの機会に都会暮らしをしようと、しばらく聡美の部屋を借りて過ごすことになる物語。昔から負けず嫌いの成績優秀で東京でバリバリ働いていたはずなのになぜかうまくいかなくなった姉の聡美と、田舎でのんびりと生活し幼馴染との結婚を視野にいれていた妹の愛美。ないものねだりで相手に複雑な想いを抱くのは分かるなあと共感しつつ、二人には意外と似たもの同士な部分もあるんだなと思える前向きな結末は、二人の恋人もそれぞれお似合いでとても良かったですね。

ぱらっぱフーガ (双葉文庫)

ぱらっぱフーガ (双葉文庫)

 

 中学の吹奏楽部でアルトサックスを吹く恋人同士だった有人と風香。名門・旺華高校を揃って受験も有人がまさかの不合格、吹奏楽部がない羽修館学園に進学する羽目に陥る青春小説。名門の洗礼を入学早々に浴びながらもメキメキと力をつけていく風香と、ゼロから吹奏楽同好会を立ち上げるべく奮闘する有人。何が大切なことなのか、環境の違いから立ち位置も向き合い方も変わってゆくそれぞれの奮闘とやりとりには、時折葛藤や意識のズレも生まれましたけど、それでもきちんと相手に向き合い、乗り越えてゆく二人の姿にはぐっと来るものがありました。 

 

君を描けば嘘になる

君を描けば嘘になる

 

 寝食も忘れてアトリエで感情の赴くまま創作に打ち込む毎日だった瀧本灯子が出会った、自分にはない技術を持つ南條遥都という少年の存在。お互いに認め合う二人の若き天才の喜びと絶望の物語。絵を描くこと以外の才能が壊滅的だった灯子と、そんな彼女の指針となったもう一人の天才・遥都。そんな二人のありようを影響を受けた周囲の視点からも浮き彫りにしつつ、良くも悪くも直情的な灯子に対して、断片的にしか描かれない不器用な遥都の積み重ねてきた想いが垣間見える結末は、ほんと素直じゃないなあと苦笑いしつつもとても良かったと思いました。

僕と彼女の左手 (単行本)

僕と彼女の左手 (単行本)

 

 幼い頃遭遇した事故のトラウマで、医者になる夢を前に壁にぶつかった医学生の習。そんな彼が左手一本でピアノを引く不思議な女性・さやこに出会い、共に時間を過ごすようになってゆくミステリ。教師を目指すさやこのために家庭教師として共に過ごすようになる二人。彼女にどんどん惹かれてゆき付き合うことになった習が、勉強よりもピアノに意識が向きがちな彼女のありように少しずつ感じるようになってゆく違和感。積み重ねられてゆく不安の先にあった真実は真摯な想いと共にあって、二人が出会えて本当に良かったと思えるとても素敵な物語でした。

映画化決定

映画化決定

 

 過去に描いたマンガ『春に君を想う』を超えられず苦悩していた高二男子のナオトに、学生向けの映画で受賞している天才監督・ハルからの『春に君を想う』映画化オファー。最初は乗り気でなかった彼が少しずつ映画製作にのめり込んでいく青春小説。映画製作の過程でぶつかりあいながらも絆を深めてゆく二人。病をひた隠しにするハルと、映画制作を通じて『春に君を想う』の本質に向き合うことになってゆくナオト。葛藤と情熱が入り交じる形で進行していく物語の構図はわかりやすくて、だからこそ意外に思えたその結末には上手いなあと思わされました。

春待ち雑貨店 ぷらんたん

春待ち雑貨店 ぷらんたん

 

 京都のハンドメイドアクセサリーショップ『ぷらんたん』。悩みを抱えたお店を訪れる客の悩みに店主の北川巴瑠が一つ一つ寄り添い、優しく解きほぐしていく連作ミステリ。自身も密かに生まれながらの深刻な悩みを抱えつつも、恋人との関係の変化やお店を訪れるお客が抱える悩み、立て続けに起きるトラブルを一緒に解決していく展開で、簡単ではない問いに迷いながらも真摯に向き合う誠実で一本芯が通っている巴瑠のありようや、そんな彼女の影響を受けて大切な人といい関係を築こうと努力するようになっていく登場人物たちの姿がとても印象的でした。